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「第2話」(2007/07/09 (月) 05:17:12) の最新版変更点
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地響きがする。
”それ”は木々の枝をへし折りながら姿を現した。
身の丈は4mを超え、その身体は筋肉というよりは岩の塊のように思えた。
下アゴは突き出し、そこから天に向かって二本の牙が生えている。
男は後ずさりながら、その巨体の肩に見覚えのある鳥を見つけた。
巨人は男の目の前まで来ると崩れるように音を立てて座った。
あぐらをかいた巨人の膝の上に鳥が降りてくる。
「すまん、驚かせてしまったかな。”これ”はワシの手下の人食い鬼じゃ。」
「ヒ・・・ヒトクイオニ?・・・」
男はその場に腰を抜かして崩れた。
「安心せい。コヤツは菜食主義者じゃ。肉には興味ない。」
心なしか鳥が意地悪く笑っているように見えた。
「さて、自己紹介をせんとな。コヤツはウズヌル。数少ない人食い鬼の生き残りじゃ。んで、ワシの名はシムルグ。この辺りを仕切っておる。」
男はなんとか落ち着きを取り戻し、座りなおした。
目の前で次々起こる事態に正気を失わない辺り、この男の環境適応能力を物語っている。
「オレの名は・・・・・・思い出せない。」
「うむ、名まで忘れたか。」
男と鳥は考え込んだ。
「思い出すまで仮の名が必要じゃな。どじゃ、ワシに名付けさせてくれんかの。」
「ああ、頼む。」
男はあっさり任せた。
とりあえず名がないとなにかと不便だろうし、他人に付けて貰った方が受け入れやすいと感じたようだ。
「ルース・ファ・ムルグってのはどじゃ?」
(なげぇなぁ。ま、いっか。)
「ああ、有り難く使わせてもらうよ。ルース・ファ・・・なんだっけ・・・」
「ムルグじゃ。ワシの名からもじっとる。」
「あ、なるほどね。」
「ルース!ようこそ、この世界へ!」
巨人が初めて声を発した。
野太い、腹に響く声だ。
「よ、よろしく・・・ウズヌル・・・・・・だっけ?」
顔を引きつらせながら、見た目とは違う滑らかで知的な喋り方をする巨人に驚いた。
巨人は頷きながら立ち上がった。
「もうすぐ日が暮れる。続きは家で話しましょう。」
そう言うと巨人は林の中へ分け入った。
シムルグがルースの肩に飛んできて、ウズヌルの後を追うよう言った。
言われるがままルースは駆け足でウズヌルを追いかけた。
(・・・歩くの速ぇ~!)
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その鳥は男のすぐ前にいた。
男はなにげなく鳥に声をかけた。
「お前が口を利けるなら、いろいろ聞きたいんだがな。」
とりあえず言葉まで忘れていないことに安堵しつつ、次に何をすべきか考えていた。何故ここに居るのか、どうすれば記憶が戻るのかなどは後で考えることにした。明日のことは今目の前にある問題をクリアしてからだ、と刷り込まれているようだ。
「ワシが知っていることなら、答えてやらんでもないぞ!」
ふいに鳥が喋りだした。
男は驚きのあまり硬直して声が出ない。
見知らぬ世界、己の常識で考えてはいけない。解っていても混乱せずにはいられなかった。今更ながら、平静を保っていた自分が壊れていくのをどうすることも出来なかった。
「ワシが人間の姿にでもなれたなら、そこまで混乱させずにすんだんじゃが。すまんのぉ。」
鳥は申し訳なさそうに言った。
暫くして、落ち着きを取り戻した男は改めて鳥の方を向いた。
「先ほどは失礼しました。私は一切の記憶をなくし、ここで目が覚めたのです。」
「知っておる。ずっとここでお前をみていたからのぉ。」
男は鳥が喋るという事実をなんとか受け入れ冷静に話したが、そっけない鳥の返答に肩透かしを喰らった。
「ならば先ず、オレが何者か教えてくれ。それとあんたのことも。」
男は希望に満ちた眼差しで鳥に詰め寄った。
「すまんが、お前のことは何も知らん。それと、急に態度が変わってないか?・・・お前」
鳥は羽をバタバタさせながら言った。
「うむ・・・恐らく興奮して素の自分が出たんだろう。驚かせてスマン。」
「ま、まあいい。で、ワシの事じゃが・・・」
改めて体制を整えた鳥はゆっくりと深呼吸をして話し始めた。
「ワシはこの辺りを縄張りにしている鳥にすぎん。お前がワシの縄張りに現れた故、ワシがここに飛んできたと云う訳じゃ。」
男はふと頭に浮かび上がった疑問を投げかけた。
「何者か解らないオレに不用意に近づいて、襲われるかもしれないとは思わなかったのか?」
「こう見えてワシは逃げ足には自信がある。それにお前は気づいてない様じゃが、ワシの手下どもが見張っておるでの。ワシが捕まるか飛び上がれば襲うよう言ってある。」
(・・・鳥の手下か。なめられているのか?)
男はこのときの先入観をすぐ後悔することになる。
「もういいだろう。手下を紹介してやる。」
鳥はそういうと歩いて林の方へ向かった。
(そうか、飛ぶと襲う合図になってたんだよな。)
男は鳥を無言で見送りながら、その後姿に愛嬌を感じていた。
次の瞬間、男は青ざめた。
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