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その鳥は男のすぐ前にいた。
男はなにげなく鳥に声をかけた。

「お前が口を利けるなら、いろいろ聞きたいんだがな。」

とりあえず言葉まで忘れていないことに安堵しつつ、次に何をすべきか考えていた。何故ここに居るのか、どうすれば記憶が戻るのかなどは後で考えることにした。明日のことは今目の前にある問題をクリアしてからだ、と刷り込まれているようだ。

「ワシが知っていることなら、答えてやらんでもないぞ!」

ふいに鳥が喋りだした。
男は驚きのあまり硬直して声が出ない。
見知らぬ世界、己の常識で考えてはいけない。解っていても混乱せずにはいられなかった。今更ながら、平静を保っていた自分が壊れていくのをどうすることも出来なかった。

「ワシが人間の姿にでもなれたなら、そこまで混乱させずにすんだんじゃが。すまんのぉ。」

鳥は申し訳なさそうに言った。

暫くして、落ち着きを取り戻した男は改めて鳥の方を向いた。

「先ほどは失礼しました。私は一切の記憶をなくし、ここで目が覚めたのです。」

「知っておる。ずっとここでお前をみていたからのぉ。」

男は鳥が喋るという事実をなんとか受け入れ冷静に話したが、そっけない鳥の返答に肩透かしを喰らった。

「ならば先ず、オレが何者か教えてくれ。それとあんたのことも。」

男は希望に満ちた眼差しで鳥に詰め寄った。

「すまんが、お前のことは何も知らん。それと、急に態度が変わってないか?・・・お前」

鳥は羽をバタバタさせながら言った。

「うむ・・・恐らく興奮して素の自分が出たんだろう。驚かせてスマン。」

「ま、まあいい。で、ワシの事じゃが・・・」

改めて体制を整えた鳥はゆっくりと深呼吸をして話し始めた。

「ワシはこの辺りを縄張りにしている鳥にすぎん。お前がワシの縄張りに現れた故、ワシがここに飛んできたと云う訳じゃ。」

男はふと頭に浮かび上がった疑問を投げかけた。

「何者か解らないオレに不用意に近づいて、襲われるかもしれないとは思わなかったのか?」

「こう見えてワシは逃げ足には自信がある。それにお前は気づいてない様じゃが、ワシの手下どもが見張っておるでの。ワシが捕まるか飛び上がれば襲うよう言ってある。」

(・・・鳥の手下か。なめられているのか?)
男はこのときの先入観をすぐ後悔することになる。

「もういいだろう。手下を紹介してやる。」

鳥はそういうと歩いて林の方へ向かった。

(そうか、飛ぶと襲う合図になってたんだよな。)

男は鳥を無言で見送りながら、その後姿に愛嬌を感じていた。

次の瞬間、男は青ざめた。