地響きがする。

”それ”は木々の枝をへし折りながら姿を現した。
身の丈は4mを超え、その身体は筋肉というよりは岩の塊のように思えた。
下アゴは突き出し、そこから天に向かって二本の牙が生えている。

男は後ずさりながら、その巨体の肩に見覚えのある鳥を見つけた。

巨人は男の目の前まで来ると崩れるように音を立てて座った。
あぐらをかいた巨人の膝の上に鳥が降りてくる。

「すまん、驚かせてしまったかな。”これ”はワシの手下の人食い鬼じゃ。」

「ヒ・・・ヒトクイオニ?・・・」

男はその場に腰を抜かして崩れた。

「安心せい。コヤツは菜食主義者じゃ。肉には興味ない。」

心なしか鳥が意地悪く笑っているように見えた。

「さて、自己紹介をせんとな。コヤツはウズヌル。数少ない人食い鬼の生き残りじゃ。んで、ワシの名はシムルグ。この辺りを仕切っておる。」

男はなんとか落ち着きを取り戻し、座りなおした。
目の前で次々起こる事態に正気を失わない辺り、この男の環境適応能力を物語っている。

「オレの名は・・・・・・思い出せない。」

「うむ、名まで忘れたか。」

男と鳥は考え込んだ。

「思い出すまで仮の名が必要じゃな。どじゃ、ワシに名付けさせてくれんかの。」

「ああ、頼む。」

男はあっさり任せた。
とりあえず名がないとなにかと不便だろうし、他人に付けて貰った方が受け入れやすいと感じたようだ。

「ルース・ファ・ムルグってのはどじゃ?」

(なげぇなぁ。ま、いっか。)
「ああ、有り難く使わせてもらうよ。ルース・ファ・・・なんだっけ・・・」

「ムルグじゃ。ワシの名からもじっとる。」

「あ、なるほどね。」

「ルース!ようこそ、この世界へ!」

巨人が初めて声を発した。
野太い、腹に響く声だ。

「よ、よろしく・・・ウズヌル・・・・・・だっけ?」

顔を引きつらせながら、見た目とは違う滑らかで知的な喋り方をする巨人に驚いた。
巨人は頷きながら立ち上がった。

「もうすぐ日が暮れる。続きは家で話しましょう。」

そう言うと巨人は林の中へ分け入った。
シムルグがルースの肩に飛んできて、ウズヌルの後を追うよう言った。
言われるがままルースは駆け足でウズヌルを追いかけた。


(・・・歩くの速ぇ~!)


最終更新:2007年07月09日 05:15