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「そうか、今日出るか。」

シムルグはルースが今日出て行くと決めた事に驚くことはなかった。
たまたまここにルースが現れただけで、元々人に関わりたくなかったのだろう。そうでなければこんな山奥に閉じ篭っている必要はないからだ。
あるいはなんらかの迫害を受けたのかもしれない。どちらにしろルースをここに置いて助けてやる気はないようだ。

「一つ言って置かなければならん事がある。」

シムルグが勿体つけて話し始めた。
あえて伝えなければならない事ということは、余程重大な内容だろうとルースは緊張した。

「なんだ、畏まって・・・。」

「うむ、お前には力がある。力と言っても所謂魔力じゃ。」

「オレに魔力?」

全く自覚がなかっただけに驚きを隠せない。

「じゃが、それがどんなものか、どれほど強力なものなのかは解らん。それを知り得るのはお前だけじゃ。それを見出すのも今後のお前の目的じゃな。じゃが発動させずともある程度身体に影響させることが可能じゃ。もっともこれは聞いた話で使い方までは知らんがな。」

「どうしてオレにそんな力が備わってると?」

「転移してくる者は皆、何らかの力が備わって来ると聞いただけじゃよ。」

時空を越える際に何かの影響を受けてそうなってしまうのか、それとも元々持っていたがこちらの世界でしか現れない力なのか、どの道この世界では特殊な存在に違いはない。

「まあ、力が使いこなせなくとも道中死ぬことはないじゃろう。それほど力を持つものは強い。」

(使えなかったらただの人じゃないのか!襲われたら死ぬって。)

心に思ったことをあえて口には出さなかった。危険に遭遇するまでに生き残れるだけの力を使えるようになるしかない。むしろ危機的状況の方が覚醒は早いかもしれない。


食事が終わり、ウズヌルが奥からなにやらボロ布に包まれた物を持って来た。
布を捲ると分厚い剣が出てきた。

「これをお前にやる。」

ウズヌルが素っ気無く言った。

「あ、ありがとう。でも、こんな大剣使えるかなあ。」

巨人からみればサバイバルナイフ程の大きさの剣だが、ルースが両手を広げた位の大きさだった。
幅広で厚みも異常にある片刃のその剣は鍔もなく持ち手も野太い。
口下手なウズヌルに代わってシムルグが口を開いた。

「手に魔力を意識して持ってみろ。」

「魔力を意識しろって・・・。」

(気孔みたいにやればいいのか?ってか気孔も出来ないのだが・・・)

手に気を集めるイメージをして、徐に柄に手を掛けた。
なんの苦もなく剣が持ち上がる。

「おっ!持てた。全然重くないぞ。」

「集中を切らすな。素では到底お前が持てる重さではないぞ。」

「ああ!ありがとうウズヌル。大事にするよ。」

この世界で一般的な布の服と外套、それと保存の利く食料もウズヌルが用意してくれた。

「通りすがりのオレに何から何まですまない。」

「ワシからはこれをやろう。」

シムルグはどこからか咥えてきた木の実をルースに渡した。

「これはこの付近にしかない木の実でな、ワシ意外取ることを許していない物じゃ。持っていればこの森では獣に襲われることはないじゃろう。」

「ありがとう。身に付けてるだけでいいんだな。」

「その実の匂いでこの森に住む動物は理解するじゃろう。お前が無事この世界で生き抜き、この世界ですべき事に目覚めることが出来たなら再びここを訪れるがよい。それまでワシにしてやれることは何もない。」

「先ずは生き残る力を身に付けろってことだな。かなり厳しい世界だな。」

苦笑いしながら木の実を仕舞い込んだ。
内心不安で一杯なのを押さえ込んでいるせいか、他に聞くべきことが何も思い浮かばなかった。



季節は春だろうか。丁度良い暖かさの中、一人と一羽に見送られながらルースは小屋を後にした。

(多分、たった一人で旅をするのも、生きるのも初めてだろう。オレに出来るだろうか・・・)