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男の名はスタン。
レクトムという町から来たらしい。
その町の警備隊に所属し、同じ所属の仲間5名と共に魔獣退治の任務に当たっていたらしい。

「オレは隊に入ったばかりの落ちこぼれで、これまでも皆には迷惑かけてきたけど、今回のは最悪だな・・・。」

スタンは声のトーンを落とした。
仲間とはぐれた事を相当気にしているようだ。

初対面のルースはどう声をかけたらいいのか悩んだ。
結局、話しを逸らす事にした。

「魔獣とは何なんだ?・・・・あ、そうだった。オレの名はルース。記憶を無くして気が付いたらここにいた。」

細かい説明は面倒だったのでただの記憶喪失ということにした。
見たところスタンは自分のことで一杯で、他人の細かいことを詮索する余裕はなさそうだった。

「ルースか。宜しく。あんたも大変みたいだな。」

やはり自分の事で精一杯のようだ。
魔獣については後でまた聞くことにする。

「スタン。厳しいようだけど後悔ばかりしていても仕方が無い。これからどうするか考えよう。」

面倒だが、彼には早く立ち直ってもらい町まで案内してもらわなければならない。一人旅もよいが折角出会ったのだから利用しない手はない。
ルースはそう考えた。
見たところ仲間の所在について手がかりはなさそうだ。合流はあきらめた方がいい。
現在地と町との位置関係を解っていればよいのだが。
今は休息をとって落ち着かせよう。久しぶりに人に会って緊張の糸が切れたのだろう。酷くツラそうだ。

「ひとまず休もう。話しは夜が明けてからしよう。当面はオレが見張りをするから先に休んでくれ。」

ルースは自分で提案しておいて、内心今出会ったばかりの人間を信用してゆっくり休めるはずはないと思った。
少なくともルースには無理だった。
だがスタンは違った。

「ああ、すまない。甘えさせてもらうよ。どうにもクタクタだ。夜半頃に起こしてくれ。交代するよ。」

そう言って横になった。
余程人に会えて安心したのか、あまりにあっさり人を信用しすぎだ。
肝が据わっているのか馬鹿なのか、いずれにしろこれから彼に振り回されることになるだろうとルースは直感した。

ルースはいつのまにか油断させられてリラックスしている自分に気づいた。
スタンの特性だろう。
これが確信犯なら油断ならないヤツだが、天然なら悪いやつではなさそうだ。
少なくとも御し易いのは確かだ。こちらが冷静で居続けられれば、の話だが。


結局、辛うじて荷物を担いでそこそこ速く走れるようになっただけだった。
明日からはスタンがいるので思うように修行は出来ないだろう。
小柄で痩せているルースが分厚い剣を握っていた事に何の疑いも抱いてなかったようだが、魔力や魔術といった異質な力がこの世界でどのくらい一般的なのかまだわからない。
ルースは今後自分の力を隠し通すことに決めた。

揺らめく炎を凝視しながら、他人に悟られないように修行する方法を考え始めた。


良い方法が浮かばないまま何時間が経ったのだろう。
薪の燃える音と、スタンの寝息以外何も聞こえない静かな夜だった。
妙に心が落ち着いている自分を不思議に思った。
自分という人間がだんだん解ってきたような気がする。
嫌に冷めていて冷静だが、胆力は無く争い事には不向きなタイプらしい。
分析は好きだが、瞬時の状況判断は苦手なようだ。

(これでは役所の窓際族ではないか・・・)

自分の分析にツッコミを入れながら、見えてきた自分に素直に喜んだ。

(町に着いたらそういう就職先でも探すかな)

この世界での社会がどんなものなのか全く解っていないにも関わらず、楽観的に考えられるのは彼の性格の成せる所だろう。
それとも、これまでもそういったぶっつけ本番で知らない環境に適応してきたのかもしれない。その経験がある種の自信に繋がっているのかもしれない。
自分の意志で飛び込む肝はないだろうから、成り行きでそういう人生を送ってきたのならあまり幸福な人生を送ってきたとは言えない。
だが、そのお陰でこの世界で生き延びる可能性は大きく上がったと言える。
それが幸か不幸かは後々解る事だ。


これだけ色々と考えを巡らしているにも拘らず、この世界に来た理由、この力の事、元居た世界とこの世界との関係などについて何も考えていないのは如何なものだろう。
いや、今考えても答えが出ないことに固執しない方がこういう状況では良いのかもしれない。
もしルースがそれを理解して考えないのなら、サバイバルで生き残る術を先天的に持ち合わせているのかもしれない。
今必要な事にだけ考えを集中する。
出来そうでなかなか出来ない事ではないだろうか。


暫くしてスタンが起きた。

「すまない。交代しよう。休んでくれ。」

そう言ってルースに休むよう促した。
ルースも素直に横になった。
ルースの場合、失うものも無く不意に襲われて勝つ自信も無かったので、ある種の開き直りで休む事が出来た。

疲れていたのだろう。直ぐに深い眠りに落ちた。
気が付けば辺りは既に明るかった。