lostmemory
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ja
2007-10-02T23:36:30+09:00
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第11話
https://w.atwiki.jp/lostmemory/pages/24.html
男の名はスタン。
レクトムという町から来たらしい。
その町の警備隊に所属し、同じ所属の仲間5名と共に魔獣退治の任務に当たっていたらしい。
「オレは隊に入ったばかりの落ちこぼれで、これまでも皆には迷惑かけてきたけど、今回のは最悪だな・・・。」
スタンは声のトーンを落とした。
仲間とはぐれた事を相当気にしているようだ。
初対面のルースはどう声をかけたらいいのか悩んだ。
結局、話しを逸らす事にした。
「魔獣とは何なんだ?・・・・あ、そうだった。オレの名はルース。記憶を無くして気が付いたらここにいた。」
細かい説明は面倒だったのでただの記憶喪失ということにした。
見たところスタンは自分のことで一杯で、他人の細かいことを詮索する余裕はなさそうだった。
「ルースか。宜しく。あんたも大変みたいだな。」
やはり自分の事で精一杯のようだ。
魔獣については後でまた聞くことにする。
「スタン。厳しいようだけど後悔ばかりしていても仕方が無い。これからどうするか考えよう。」
面倒だが、彼には早く立ち直ってもらい町まで案内してもらわなければならない。一人旅もよいが折角出会ったのだから利用しない手はない。
ルースはそう考えた。
見たところ仲間の所在について手がかりはなさそうだ。合流はあきらめた方がいい。
現在地と町との位置関係を解っていればよいのだが。
今は休息をとって落ち着かせよう。久しぶりに人に会って緊張の糸が切れたのだろう。酷くツラそうだ。
「ひとまず休もう。話しは夜が明けてからしよう。当面はオレが見張りをするから先に休んでくれ。」
ルースは自分で提案しておいて、内心今出会ったばかりの人間を信用してゆっくり休めるはずはないと思った。
少なくともルースには無理だった。
だがスタンは違った。
「ああ、すまない。甘えさせてもらうよ。どうにもクタクタだ。夜半頃に起こしてくれ。交代するよ。」
そう言って横になった。
余程人に会えて安心したのか、あまりにあっさり人を信用しすぎだ。
肝が据わっているのか馬鹿なのか、いずれにしろこれから彼に振り回されることになるだろうとルースは直感した。
ルースはいつのまにか油断させられてリラックスしている自分に気づいた。
スタンの特性だろう。
これが確信犯
2007-10-02T23:36:30+09:00
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2007-08-31T16:36:26+09:00
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第10話
https://w.atwiki.jp/lostmemory/pages/22.html
日が傾き、すっかり視界が悪くなっていた。
「そろそろ切り上げるか。」
足元はもう殆ど見えなくなっていた。
ほんの数時間だが力を調整し、全力ではないものの剣を担いで走れるようになっていた。
案外魔術師の素質あるんじゃないかとルースは思った。
魔力の扱いは筋力のそれと違い、力の流れをイメージして感じることなので、無用な力みは返って魔力の正確な伝達を妨げるのだと解った。
ただ、はっきりとイメージできる様になるまでまだ時間がかかりそうだった。
「なに、時間はたっぷりある。それに力を使えるようになるのが今は面白くて仕方がない。当分は鍛錬を怠らないだろう。」
他人事のように自己分析しながら鞄を置いてある方へ歩いていた。
なにげに森の方へ目をやる。
なにかの影が動いたような気がした。
全身に緊張が走る。
足を止め森の方をじっと見つめる。
なにも動きがない。
(気のせいなのか?)
気のせいなのか調べる方法は森に近づき、何も居ないのを確認する他ない。
だが、何かが居るとしたらそれはとても危険な行為だ。
(どうする?このままじゃ休息もとれな。行くしかないか)
意を決して、ゆっくりと森の方へ向かう。
恐らく役には立たないが一応剣を構える。
(魔力で目や耳を強化出来たらなぁ)
すぐ逃げれる様に足を意識しつつ、耳を澄ませる。
もう殆ど目は役に立たない。
闇雲に森に飛び込むのはあまり利口な行為じゃない。
どんな結果でもいいから早くこの緊張から開放されたい衝動を抑えつつ、森のすぐ手前まで来た。
「だ、誰かいるのか!」
言葉が通じる相手かどうかも判らないが、一応声を掛けてみた。
何かが飛び出してもいいように剣を横に構える。
左手5メートル程の所から何かが飛び出した。
咄嗟に向き直って剣を構える。
「まってくれ!戦う気はねぇ。」
暗くて影しか見えないが、どうやら男のようだ。
ルースは緊張のあまり声が出なかった。
「信じてくれ。武器はここに置く。」
男はそう言って何かを地面に置いた。そしてゆっくりと川の方へ移動する。
どうやら硬直して動けないルースを隙のない戦士とでも勘違いしたのだろう。
川の近くは僅かに夕暮れの光を留めていた。
徐々に男の姿
2007-10-02T23:33:33+09:00
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第9話
https://w.atwiki.jp/lostmemory/pages/21.html
鞄の中にはウズヌルが持たせてくれた食料が入っていた。
木の実や果実、干し柿のように保存が利く果実等も入っていた。
が、肉はなかった。
「・・・菜食主義者め。」
保存の利かない新鮮な果実から食べようと鞄をまさぐる。
ふと、シムルグがくれたお守りの木の実が出てきた。
「これの事をすっかり忘れてたなあ。本当に効力あるのか?」
クルミ大のその実を手にとってじっくり観察してみる。
目を凝らして見ていると腕を通じて白っぽいモヤッとしたモノが木の実に向かって流れていくのが見えた。
「なんだこれ。もしかして溢れた魔力が吸われているのか?」
もし体外に溢れ出た魔力のみを吸収しているのなら当面の課題を一つクリアしたことになる。
ルースはシムルグの気遣いに感謝した。
「言っといてくれたら尚いいんだけどな。ま、オレが課題にしてた問題など先刻承知だった訳だ。あなどれんな。」
果実を頬張りながら、次の課題について考えていた。
魔力を集中させ、腕力を上げたように早く走ることは恐らく可能だろう。
問題は重たい荷物を持つための腕力、又はその他の事に魔力を分散させた状態での稼動を可能にすることだ。
集中力にあまり自信のないルースは、この魔力の複数並行使用を可能にするのにかなりの時間と精神力の向上が必要なことに愕然とした。
「ここでは基礎的な操作方法だけ練習して、使いこなす為の鍛錬はこれから先すっと意識し続けるしかないな。メンドクサイな。コイツが仕事ならすぐ辞めるとこだ。」
コツコツ積み上げていくタイプの仕事は恐らく避けてきたのだろう。したい事をしたい様に生きてきたツケが回ってきたといったところだ。
自分の生き方を少し反省しつつ、目の前に叩きつけられている現実にため息をついた。
「結局、自分がどんな仕事をしていたか具体的に思い出せない訳だし、もしかすると地道に頑張る努力家だったかもしれない。・・・・・・それはないか。」
例の如く一人でブツブツ言いながら食事を済ませた。
「さて、修行の方法を考えなくては。」
同時に魔力を2種類以上の事に使用するという事は、単純に複数の思考を同時に行なうのと似ている。
常に意識して複数の事を同時に考えるのは大変な上、それが必要な場面とは切迫した状態なので尚のこ
2007-08-21T22:58:08+09:00
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第8話
https://w.atwiki.jp/lostmemory/pages/20.html
なんとか迷わずに最初の川まで出ることが出来た。
改めて見ると流れは穏やかで、川に沿ってずっと川原が続いている。
当分は川沿いに歩いて行けそうだ。
足場は悪いが視界が広く、なにより迷わない。
半日ほど歩いただろうか。突然違和感を感じた。
痛みでも、不安でもない。なにか縛られていたのが開放された感じだ。
「なんだ?この感じは。」
足を止め、少し考えてから来た方へ戻ってみた。
今度は何かに圧迫される感じがした。
「そうか、結界が張られてたのか。たぶんシムルグのだな。」
いよいよここからはシムルグの手の及ばない、本当の一人旅の始まりだ。
ふと、疑問がよぎった。
「オレは何故あそこに留まらなかったんだ?オレらしくもなく無計画に見知らぬ土地で一人旅などありえない!」
今更何故そんな疑問が浮かんだのかさえ解らなかった。
都合よく魔術のせいにしてしまえば、シムルグに自分の思考をコントロールされていたと結論付けることができる。
しかしルースは粛然としなかった。
ただ、今更戻ったところで同じ手口で追い出されるのは明白だった。
「前に進むしかないか・・・。冒険とか挑戦とか、疲れることは好きじゃないんだけどなぁ。」
ブツブツと独り言を言いながら再び歩き始めた。
「せめてこの魔力ってヤツのことくらい教えてくれてもよさそうなものなのに。独学で修行するしかないか。」
恐らく本か何かで多少の知識は得ていたであろう気孔の要領で、単純にイメージしてうまく出来たのでなんとかなると思った。
だが、実際はそう簡単ではない。なにせ知識が乏しすぎるのだ。
だからと言って未熟なまま魔力を垂れ流している訳にもいかない。他者に気付かれれば無用なトラブルを招きかねない。
得てして敏感なヤツに親切で友好的な者などいない。
戦うはめにでもなれば最悪だ。何故ならルースは争い事が嫌いで、暴力で人を傷つけたこともなかった。
勿論武術、剣術等の経験もなかった。いくら魔力で馬鹿力が出せても、それだけで素人が戦いに勝てるはずもない。
ましてや相手が同じく魔力を所持している場合は手も足も出ない。
「せめて今出来る限りの鍛錬をしておこう。さて何が出来る?格闘や武器の扱いは一人ではほぼ無理だ。具体的な魔力の発動も知識がなさ過ぎる。イメージし
2007-08-18T22:07:53+09:00
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第7話
https://w.atwiki.jp/lostmemory/pages/19.html
「そうか、今日出るか。」
シムルグはルースが今日出て行くと決めた事に驚くことはなかった。
たまたまここにルースが現れただけで、元々人に関わりたくなかったのだろう。そうでなければこんな山奥に閉じ篭っている必要はないからだ。
あるいはなんらかの迫害を受けたのかもしれない。どちらにしろルースをここに置いて助けてやる気はないようだ。
「一つ言って置かなければならん事がある。」
シムルグが勿体つけて話し始めた。
あえて伝えなければならない事ということは、余程重大な内容だろうとルースは緊張した。
「なんだ、畏まって・・・。」
「うむ、お前には力がある。力と言っても所謂魔力じゃ。」
「オレに魔力?」
全く自覚がなかっただけに驚きを隠せない。
「じゃが、それがどんなものか、どれほど強力なものなのかは解らん。それを知り得るのはお前だけじゃ。それを見出すのも今後のお前の目的じゃな。じゃが発動させずともある程度身体に影響させることが可能じゃ。もっともこれは聞いた話で使い方までは知らんがな。」
「どうしてオレにそんな力が備わってると?」
「転移してくる者は皆、何らかの力が備わって来ると聞いただけじゃよ。」
時空を越える際に何かの影響を受けてそうなってしまうのか、それとも元々持っていたがこちらの世界でしか現れない力なのか、どの道この世界では特殊な存在に違いはない。
「まあ、力が使いこなせなくとも道中死ぬことはないじゃろう。それほど力を持つものは強い。」
(使えなかったらただの人じゃないのか!襲われたら死ぬって。)
心に思ったことをあえて口には出さなかった。危険に遭遇するまでに生き残れるだけの力を使えるようになるしかない。むしろ危機的状況の方が覚醒は早いかもしれない。
食事が終わり、ウズヌルが奥からなにやらボロ布に包まれた物を持って来た。
布を捲ると分厚い剣が出てきた。
「これをお前にやる。」
ウズヌルが素っ気無く言った。
「あ、ありがとう。でも、こんな大剣使えるかなあ。」
巨人からみればサバイバルナイフ程の大きさの剣だが、ルースが両手を広げた位の大きさだった。
幅広で厚みも異常にある片刃のその剣は鍔もなく持ち手も野太い。
口下手なウズヌルに代わってシムルグが口を開
2007-08-06T06:07:57+09:00
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第6話
https://w.atwiki.jp/lostmemory/pages/18.html
この世界には魔力が存在する。
いや、魔法のような力であらゆる法則が捻じ曲げられている。
その力がどうゆう原理、法則で働いているのか未だ解明されていない。
その力の影響が顕著に見られるのは生物である。
異常に巨大化した陸上生物。重力を無視して飛ぶ生物。生命なき生物等。
その力を研究し自在に操ろうとする者もいる。だが、一般的には不思議な力のまま進歩はない。むしろ深く考えず受け入れることを常識としていた。
シムルグの存在も魔力によるところが大きく、それだけにその力の謎を究明したく研究し続けているらしい。
ルースは昨晩の話を振り返りながらゆっくりと頭の整理をしていた。
気付けば外は明るくなっていた。
(今日、ここを出よう。)
最終的にそう決断した。
いろいろ考えすぎて、結果とまどいや不安に駆られ、タイミングを失うことを酷く嫌う自分に気付いたのだ。
(どうにもならない時は行動あるのみ。閉じこもって怯えていてもなにも変えられない。結果がどうなろうが、それを受け入れるだけさ。)
ルースが自己分析するに、恐らく元々は事前にいろいろ考えすぎて無用に心配し、行動力や判断力を鈍らす性格だったのではないか。結果、機を逸して不本意な結果になる。
事前に組んだ計画通りに事が進まなければそれだけで挫折する。
それを克服する為に考えを煮詰めてしまう前に、とりあえず目先の行動予定を組んだ時点で行動を開始するよう務めてきたのではないだろうか。
心の底に巨大な不安があるにもかかわらず、動かなければならないという強迫観念の方が強く働いている自分から、失われている過去の自分を想像した。
同時に、これまで生きた中で学習したことは忘れたわけではなく、ただ表面的に思い出せないだけなのも解った。
本当は相当臆病で小心者。それを克服したい、又は他人に悟られたくない為に、浅はかで愚かな結果に嘲笑されても行動することを重んじたのだろう。
それを長い間繰り返してきたのだろう。相当刷り込まれているようだ。
(危なく、自分は物事に動じない腹の据わった人間だと勘違いするところだった。これから暫くは自分探しの旅になりそうだな)
自分の弱い所、苦手とする所は結構簡単に見つけられるだろう。だが、長所や得意とする分野は自分を正確に評価できないと見つけら
2007-07-09T05:12:50+09:00
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第5話
https://w.atwiki.jp/lostmemory/pages/17.html
昔、この世界は巨人が支配していた。
人は食料若しくは奴隷として巨人に飼われていた。
あるとき、一人の英雄が現れた。
彼は人々を率い、巨人達に戦いを挑んだ。
力で圧倒的に勝る巨人を高度な戦術で次々と倒していった。
やがて世界のほとんどの巨人が人によって駆逐された。
それから人は文化を持ち、社会を構成した。
数百年後、人は大陸全土に散らばりそれぞれ独自の文化を発展させていた。
何故、如何にしてたった一人の英雄の出現のみで巨人に打ち勝つことができたかは、一切伝えられていない。ただ、巨人に勝った事実のみ伝えられた。
この大陸は北部に険しい山脈が有り、その北側は未だ未開の地だった。
今彼らが居るのはこの山脈の東の麓、人里離れた森の奥だった。
「ここから川沿いに2~3日下ると村がある。一番近い都市はそこから南に一月ほど行ったところにある。まず、村まで行って暫く滞在しこの世界の人に慣れ、文化や風習を学ぶと良い。」
シムルグは大雑把にこの世界について話すと、あとは自分で調べろと言わんばかりに今後の予定を決め始めた。
「まあ、服と最低限の旅支度は整えてやろう。あとは自らの力で道を切り開くがよい。」
「ちょっと待ってくれ。途中で獣に襲われたらそれまでなのか?こんな鬱蒼としたところだ、獣くらいいるだろう?」
「獣に襲われたらそれまでじゃ。と、言いたいところじゃが、さすがにそれは酷じゃのお。後で特製のお守りをやろう。」
「お守り?神頼みの運次第って訳か・・・。」
(死ぬな・・・オレ)
「安心せい!ここでのワシは神じゃ。事故にでも遭わん限り殺されはせん。」
(神ねぇ。ま、今は信じるしかないか。)
シムルグしか頼るもののない今、例え騙されているとしても従っておくしかない。少なくともここで一人で生きていく自信がないルースだった。
先ほどからウズヌルが大鍋で作っていた〝何か〟から美味しそうな匂いが漂ってきた。山菜と木の実で作ったスープだった。
ルースは遠慮なくご馳走になりながら、思いつく限りのことを聞いた。
外はいつのまにか夜の帳が降りていた。
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2007-07-09T05:13:47+09:00
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第4話
https://w.atwiki.jp/lostmemory/pages/16.html
鬱蒼とした林を歩いているハズだった。
周りは確かに鬱蒼とし、鉈かなにかで掻き分けないと歩けそうにない。
だが、この巨人の行く先には妨げる何者もなかった。
どうやら、頻繁に使っている道なのだろう。
どれくらい歩いただろう・・・
そろそろ一息入れたいと感じてきた頃だった。
目に前に少し開けた場所が現れた。
大きな岩を背に小さな小屋が建っている。
どうやらそれが目的地のようだ。
ふと、妙な違和感に包まれた。
小屋に近づいているのに辿り着かず、どんどん小屋が巨大化していた。
(そうか、巨人の家なんだよな・・・。)
漸く小屋に辿り着いた。
ドアの取っ手にすら手が届かない程の大きさに呆れながら、促されるがまま中へ入った。
小屋にはイスやテーブルはなく、真ん中に火を熾した後がありその周りに獣の皮を折り重ねた敷物が敷き詰められている。
何もない部屋に多彩な柄の敷物がハデに映る。
適当なところに腰をおろし、差し出されたコップの水を一気に飲み干した。
「あれ?大きくない。」
あらゆる物が巨人サイズのなか、何故人間サイズの食器があるのか疑問に思った。
「ここへは時折人間の客が来る。それは来客用じゃ。」
無口な巨人の代わりにお喋りな鳥が説明する。
「人食い鬼に人間の客?よほど彼は有名なんだな。」
ウズヌルが菜食主義者であることを知らなければ、客としてここを人間が訪れることはあり得ないとルースは考えた。
「ヤツはこの世界では有名じゃよ。じゃがヤツが菜食主義者であることは誰もしらん。ここに来る人間は一人だけじゃ。」
「一人・・・何者なんだ!その人間は。」
人食い鬼を恐れるなら近寄らないだろうし、出会っても戦うか逃げるかで一緒に小屋でくつろぐことには普通ならないだろう。
いくら人を食わないと言われても、それを信用する根拠がない。近づいた途端に食われるかもしれないと考えればやはり近寄らないだろう。
ルースが自分なりの結論を導き出すのとほぼ同時にシムルグが話し始めた。
「その人間はお前と同じ境遇の者じゃ。ただ、その者はワシの後ろにウズヌルが控えているのを見ただけで自分に敵意が無い事を悟りよった。故にその者は未だウズヌルが菜食主義者であることを知らない。いや、知る必要がな
2007-07-09T05:14:35+09:00
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第3話
https://w.atwiki.jp/lostmemory/pages/15.html
地響きがする。
”それ”は木々の枝をへし折りながら姿を現した。
身の丈は4mを超え、その身体は筋肉というよりは岩の塊のように思えた。
下アゴは突き出し、そこから天に向かって二本の牙が生えている。
男は後ずさりながら、その巨体の肩に見覚えのある鳥を見つけた。
巨人は男の目の前まで来ると崩れるように音を立てて座った。
あぐらをかいた巨人の膝の上に鳥が降りてくる。
「すまん、驚かせてしまったかな。”これ”はワシの手下の人食い鬼じゃ。」
「ヒ・・・ヒトクイオニ?・・・」
男はその場に腰を抜かして崩れた。
「安心せい。コヤツは菜食主義者じゃ。肉には興味ない。」
心なしか鳥が意地悪く笑っているように見えた。
「さて、自己紹介をせんとな。コヤツはウズヌル。数少ない人食い鬼の生き残りじゃ。んで、ワシの名はシムルグ。この辺りを仕切っておる。」
男はなんとか落ち着きを取り戻し、座りなおした。
目の前で次々起こる事態に正気を失わない辺り、この男の環境適応能力を物語っている。
「オレの名は・・・・・・思い出せない。」
「うむ、名まで忘れたか。」
男と鳥は考え込んだ。
「思い出すまで仮の名が必要じゃな。どじゃ、ワシに名付けさせてくれんかの。」
「ああ、頼む。」
男はあっさり任せた。
とりあえず名がないとなにかと不便だろうし、他人に付けて貰った方が受け入れやすいと感じたようだ。
「ルース・ファ・ムルグってのはどじゃ?」
(なげぇなぁ。ま、いっか。)
「ああ、有り難く使わせてもらうよ。ルース・ファ・・・なんだっけ・・・」
「ムルグじゃ。ワシの名からもじっとる。」
「あ、なるほどね。」
「ルース!ようこそ、この世界へ!」
巨人が初めて声を発した。
野太い、腹に響く声だ。
「よ、よろしく・・・ウズヌル・・・・・・だっけ?」
顔を引きつらせながら、見た目とは違う滑らかで知的な喋り方をする巨人に驚いた。
巨人は頷きながら立ち上がった。
「もうすぐ日が暮れる。続きは家で話しましょう。」
そう言うと巨人は林の中へ分け入った。
シムルグがルースの肩に飛んできて、ウズヌルの後を追うよう言った。
言われるがままルースは駆け足でウズヌルを追い
2007-07-09T05:15:43+09:00
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