当て身投げ

"Too easy!!"

「コマンドを入力すると構えを取り、その状態で打撃技を受けると相手を捕らえて投げる」という必殺技
格闘ゲームではギース・ハワードが初めて実装した。
設定的な話をすれば、ブルー・マリーの祖父である周防辰己から盗んだ技。後付だけど。
「当身投げ」と書かれる事もあるが、意味は変わらないので特に問題は無いだろう。
ただし受身は完全に誤り。

当て身、即ち打撃技を捕らえて投げるから「当て身投げ」。自分が打撃する投げ技は打撃投げ
当て身とは本来は急所撃ちを指す言葉とも言われており、漫画等だと鳩尾や首筋に一発いれて気絶させる技が当身と言われている
(上手く鳩尾に入れば横隔膜を圧迫させ一時的な呼吸困難により気を失い、首筋に上手く入れば頚動脈を圧迫させ脳に向かう血液を食い止めて気絶させる…
 らしいのだが、どこまで本当なのかは不明。少なくとも素人が真似するのは危険なのは確かだろう)。

よって当て身投げを略して「当て身」と呼ぶのは、飛び道具反射技を「飛び道具」と略して呼ぶようなもので、
意味合いを考えると誤り、ないし非常に不適切だと言える。
これは当時ほぼ唯一のアーケードゲーム情報誌だった「ゲーメスト」の記事において、
当て身投げや同系統の打撃を「当て身」と省略して書く事が多かったために広まったと言われている。
恐らくライターも読者も当て身などという古風な言葉に馴染みが無かったのだろう。
字面からも「自分のにわざと攻撃を当てさせて反撃する技」等といった誤解釈が起きてしまっていたと思われる。
その後『バーチャファイター』『鉄拳』等の3D格闘界隈の方では「返し技」という呼称も登場したのだが、
後発である事や、「カウンター」「飛び道具反射技」等と紛らわしい事もあって2Dの方へまで伝播してはいないようだ。
それどころか逆にこちらの通称が3D側へ流れる有様
心ある人はせめて「投げ」か「打ち」を付けて呼んだり「当て身返し」等で呼んでいただけたらと思います。

+ 余談だが…
実は他にも少々の誤解というか、あまり知られていない事実が存在する。
初代『餓狼』のギースは、全身無敵かつ立ちモーションと同じモーションで構え、
相手が間合い内に入ると地上空中を問わず掴めるという驚異的な性能のコマンド投げと、
一定の間合い内の相手の攻撃行動の前後にその技を合わせてくる、という行動ルーチンを併せ持っていたのである。
ヒットストップっぽく一瞬静止する演出と相まって、当て身投げと一見区別が付かないのだが、
そのつもりでよく見ていれば飛び道具の発射モーションや昇り蹴りのフォロースルーなど、
明らかに攻撃判定が無い時でも投げられてしまっている事が確認できる*1

ヴォルフガング・クラウザー獅子王藤堂香澄など、やはりSNK系のキャラが多く所持しているが、
他のゲームにおいてもこの手の技を持っているキャラは多く、広く浸透していると言える。

元々、格闘漫画等で強敵が主人公の攻撃を片手で受け止めて「遅すぎる」「この程度か」と嘲笑いながら投げ飛ばす、という演出は珍しくなかった。
ギースの「Too easy!!」(容易い)「Predictable!!」(見え見えだ)と言ったセリフも恐らくこの流れ。
ただし、漫画では構えを取らない状態から出すのが基本であるため、
上記の似非当て身投げである「超反応投げ」、言い換えると「小足見てから昇竜余裕でした」の方が漫画に近いと言える。
+ 時代を先取りしていた?
実はベガも初代『ストII』の企画段階では上記のような技を習得させる予定があったが、
技術的に表現が難しい事、強すぎるとして見送ったとの逸話がある(ゲーメスト増刊「ストリートファイターII」より)。
その名残がデッドリースルー(通常投げ)である。
ちなみにもう一つ、格闘漫画等であった演出で、
  1. 主人公が攻撃するも強敵の姿を見失う「ど、何処だ」
  2. 何時の間にやら攻撃した腕や刀の上に立っている(刀でも切っ先は宙にあり地面に踏み付けているわけではない)「う、動けん」
  3. そのまま顔面を蹴り飛ばされる
    (達人なら水面の木の葉の上に立つ事も可能なので体重を感じさせずに刀に乗る事ぐらい余裕。何で動けなくなるかは知らん
と言う一連の流れを再現しようとした名残がヘッドプレスである。こちらは当て身投げというよりはブロッキング無想転生)に近い。
ひょっとしたら当て身投げとブロッキングの元祖はベガだったかもしれないのだ……。

使用するキャラクターや技にもよるが、一般的に当て身が成立する条件は大きく分けて二つある。
  1. キャラクターの一部に当て身判定を定義し、それに相手の攻撃判定が接触した場合
  2. キャラクターの全身に当て身判定を定義し、それに対応した判定の攻撃が接触した場合

前者の場合は当て身判定を上半身に纏う上段、下半身に纏う下段の二つを1セットとして実装されている場合が多い。
この場合、比較的成立させやすいため、ダウンさせるのみ等リターンが低めに設定される事が一般的。

後者の場合は、
  1. 上段当て身投げ:空中判定の殆どの攻撃(+地上空中双方の必殺技とする場合も)
  2. 中段当て身投げ:上段及び中段判定の地上通常攻撃
  3. 下段当て身投げ:下段判定の攻撃
と言った風に、相手の攻撃の種類によって上・中・下段を使い分けて対応しなければならない場合が多いため、
人操作で使用する場合はある程度の先読みと反応の早さが要求される。
ただし成立させるのが若干難しい分、安めの追撃が可能など前者に比べリターンは若干高い傾向にある。

また、両者を複合させたものの場合は成立させる難易度が高い分、発生や隙、リターンの面で優秀な技である事が多い。

これから発展してコマンド入力した後一定時間内に相手の攻撃を受けたら発動する投げ技の事を、
「当て身投げ」と総称するようになった。
さらに、投げに限らず受け止めた後のカウンター動作が様々な技がどんどん登場していった結果、
一概に「当て身投げ」という用語だけでは収めきれず、これらの系統の技を表すため「投げ」が取れてしまったものと思われる。
この辺の事情も、「当て身」「当て身技」といった略称の方が定着した一因かもしれない。

カウンター動作が打撃技(当て身打ち)の場合は無敵時間が設定されている事が多いが、
これが短いと技が発動しはしたものの潰された、などという事もある。
さらに打撃攻撃だけではなく飛び道具に反応するものや投げに反応するものなど、
そもそも打撃技(本来の当て身の定義)以外に反応するものすら存在する。

ちなみに前述のギースのような「相手の攻撃時の隙を突いてマジで投げ技を使用」形式のものはほとんど存在しないが
(ほぼCPUによる超反応でしか実行できず、人による再現性が低く、無敵技には無意味等の理由による)、
比較的近いケースとして、『大乱闘スマッシュブラザーズ』ではガードからワンボタンですぐに投げが出せる事を利用し、
ジャストシールドで相手の攻撃を受け止め、直後に投げを繰り出す」というテクニックが存在する。

実際の格ゲーでこれらの当て身技がどのように使われているかというと、
  1. 割り込み手段として使用する
  2. 博打として使う
の二つである事が多い。
前者は無敵技を持たないなど、防戦に向かないように調整されている事が多いため、リスクに対するリターンの比が小さい事が多い。
比較的よく使われるケースでは、ブロッキング・弾き・攻性防御のように、低威力だが相手に隙を作らせる類の技を全員共通で持っている事が多い。
後者の用途が前提となる場合、リスクもリターンも大きく設定される事になる。
総じて、リスクに対するリターンの比が同程度であれば性能が良い方であるが、大半はリスクの方が高く(例:攻撃力が通常技並みなのに隙ははるかに大きい)、
仕方なく使う、もしくは使われないけど脅しにはなるというのが現状である。
特に超必殺技の当て身投げは、
  • 外れたらゲージ丸損というさらなるリスク
  • 暗転見てからスルー余裕でした
とさらに発動が難しいので、リターンや性能が良くてもほとんど使われない。
中には当て身で取ってから暗転したり、発動しなかった場合別の攻撃を発生させたりするケースもあるが…。

ただし、CPUは超反応な上にコマンド入力も要らないので
「小足見てから当て身投げ余裕でした」昇竜見てから当て身投げ余裕でした」とばかりにガンガン使ってくる場合も多い。
ボスキャラが持っていると大抵難易度が上がる原因になり、中にはラスボスの主力技が当て身というケースも存在する。


MUGENにおける当て身投げ

MUGENでは自分の攻撃判定と相手の攻撃判定が重なった場合に発動するという、
どう考えても当て身投げを再現するためと思われるステコン、「ReversalDef」が存在する。
しかしこのReversalDef、MUGENの開発時期的に飛び道具(Projectile)が対象外なのは仕方がないとしても、
成立させるための属性をAttrに記すとReversalDefの判定自体が敵のReversalDefの対象になり
Reversが成立してしまうが、逆に記さないとHitOverrideを使用している相手でも投げてしまうなど、
いささか仕様に洗練の足らない部分があったりする。
一応これらは、
  • 飛び道具に対する当て身(恐怖の片鱗など)はHitOverrideを利用する(移行先のステートのmovetypeはH以外にしておく)
  • ReversalDefのトリガーに!EnemyNear,HitDefAttr=(成立させたい属性以外の属性)を入れる
などでの対処法で意図した性能に近付けられる(ただし、やはりReversalDefとの差は完全には無くならない)。

ReversalDefは相手hitdefのguardflagではなくattrを参照して作動するので、
設定によっては「下段当て身では取れないが上中段当て身では取れる下段攻撃」や、
「上中段当て身では取れないが下段当て身では取れる中段攻撃」という不自然な事になってしまう。
こうならないためには攻撃時のstatetypeを問わず(つまり立ち下段やしゃがみ中段でも)、
attrのarg1を下段攻撃の場合はC、中段攻撃の場合はSにしておく必要がある。

ちなみにReversalDefはパラメーターのP2StateNoを設定する事で相手からステートを奪う事が可能だが、
HitOverrideはあくまでも自分自身のステートを移行させるだけのステコンなので、
ステートを奪いたい場合は別途攻撃などをヒットさせなければならない。

また、helperのhitdefに対して作動してしまうと非常にバグを起こしやすい。詳しくは分身の項目にて。
対処方法もそちらに記載されているので、当て身技を自分のキャラに搭載しようと考えている人や、
helperのステートでhitdef(特に打撃属性のhitdef)を実行しようと考えている場合には、是非参照しておいて欲しい。

AIとの兼ね合いになるが、当て身の発生を1Fに(time=0、animelem=1などでreversaldefを実行)した場合のみ、
発生1Fの攻撃を除くhitdefとairファイル上での当たり判定が同時に実行された攻撃(ほとんどのhitdefはこの方法で実行されている)に対し、
enemy,hitdefattr=(当て身が成立する属性)をトリガーにして当て身を実行しても当て身が間に合う。
ただし、hitdefを参照しての当て身は他にenemy,timeトリガーなどを使わないと紛れもない超反応になり、
わざと空振るように技を振られると大きな隙を晒す事になるので、
用法用量を正しく守ってご利用ください。

使い方次第では非常に凶悪なトリガーであり、かの有名な「トムキラー」や「永続ターゲット」もこのトリガーを駆使した技となっており、
神キャラにはもはや必須の技術となっている。
これらはMUGEN1.0やMUGEN1.1でも今なお健在である。

派生技「当て身避け」

コマンド入力の後一定の間攻撃を受け付けるのは同じだが、
攻撃を無効にするだけの技。また、
  • ブロッキングのようにコマンド入力可能な時間ができる
  • ワープしてコンボを回避する
  • 成功により超必殺技に繋げる
などの効果がある。

ニコニコではDIOやその系統の恐怖の片鱗を最もよく見る。
阿部さんの当て身避け、スパイダーマン2.0の超必殺技、必殺技なども該当。
北斗の拳』の無想転生は、発動後にブロッキングする事で一定距離進む(結果として裏に回り込む)技になっている。


*1
これはネオジオ版の話で、ギースを操作できるSFC・MDの移植版では少々仕様が異なり、コマンド投げ仕様オンリーとなっていて、
相手が攻撃してこなくても至近距離(空中でもよい)にさえいれば投げ飛ばす事が可能となっている。
ただし、SFC版の「波動+斜め上」の入力はともかく、MD版当て身投げはタメ技になっており、おまけにタメ方向が前代未聞のニュートラルなので、
結局必然的に「その場で静止してタメを行い、相手が攻撃してきたと同時に残りを入力して攻撃を潰す」という受身的な戦術を要求される。
慣れれば上下段の使い分けもいらないこっちの方が遥かに楽なのだが……。


"Predictable!!"


最終更新:2023年04月15日 15:29