「夙忍法 飯綱落とし。
だれも破ることはできぬものを……」
投げ技の一種。
格闘ゲームにおいては、相手を掴んで跳び上がり、きりもみ回転しながら頭から落とすのが主流。
なお、本来は漢字(飯=いい、綱=つな)からして「いづなおとし」と読むのだが、簡単さから「いずなおとし」と書かれる事が多々ある。
由来
元ネタは白土三平氏の代表作『カムイ外伝』の主人公・カムイの使うオリジナル忍法である。
*1
「夙」はカムイの生まれた部落の名で流派があるわけではなく、カムイ以外に使い手はいない。
忍者漫画の大家として知られる白土氏だが、この技は実在する格闘技としての「忍術」ではなく、
プロレスから着想したのであろう、とファンからは推測されている。
名前の由来は、修行中に新忍法の開発を試みていたカムイが、
飯綱(
イタチ)の観察から産み出した事による。
『カムイ伝』の描写では、
- イタチ、地上で山鳥に襲いかかる。
- 山鳥、苦し紛れに空中へ飛び立つ。
- 山鳥、空中で力尽き落下。
- イタチ、山鳥をクッションにして墜落時の衝撃を免れノーダメージで着地、狩り成功。
このため、本来は相手が空中にいる状況を作り出してから決める所謂「空中投げ」であり、
カムイは格闘ゲーム的飯綱落としみたいに敵を抱えてジャンプするような事はやっていない。
ついでにきりもみ回転もしない。
ここを考慮すると、格ゲー界で最も原点に近い飯綱落としは、
並み居る忍者達を差し置いて『
龍虎の拳2』の
ユリ・サカザキのものとなる。
後に『
KOF』シリーズで技をパクリまくる彼女であるが、参戦時から既にその才能を萌芽させていたようだ。
抜かりは無いッチ!
1969年放送のアニメ『忍風カムイ外伝』OPより。飯綱落しは0:38~。敵忍者チビ過ぎね?とか言わない。
ちなみに、このアニメの後番組として始まったのが『
サザエさん』。
なお原作漫画では「落とし」表記だが、アニメ版では「落し」表記で、送り仮名の「と」はいらない。
一応漫画版でも台詞中でたまに「落し」になる事はあるが。
術の性質上、身体が密着してしまうため、自爆覚悟の敵には弱い。
わざとカムイに背後を取らせ、刀で自分ごと刺し貫く「飯綱返し」なる技を使ったくのいちがその一例だが、
カムイが予め刃物を通さない鎖帷子を着込んでいたため無効化された。
これについてカムイは、
「術者はおのれの秘術をあみだした時 その術を破る方法も考えるものだ。」
とコメントしている。
しかし切られて絶命寸前の名も無き忍者が、傷口に火薬を隠して飯綱落としを誘い自爆した時は、
さしものカムイも火薬の臭いに気付くのが遅れたため逃げ損ね、一時的に失明状態となりピンチを招いている。
『カムイ伝』に登場する兄弟子「風のトエラ」に至っては、火薬をちらつかせるだけでカムイに自ら技を解かせている。
その他「他心通(読心術)」でカムイの技を察知し変わり身の術で回避した黒雲斎なんて奴もいるのだが、
流石に
「エスパーに弱い」は弱点とは言えないだろう。
ポケモンじゃあるまいし
また、後述される「仲間に見せた際」には着物の襟元につっかえ棒を入れて置く事でダメージを防いでいたが、
カムイが信頼を得るために手加減をしていたであろう事は明白なので、弱点とは言えない。
空中戦用の技なので地上では使えないだろう、と開けた場所で戦おうとする相手には地上版の飯綱落としが炸裂する。
跳躍して相手の頭上を越えてから、
- そのまま胴に腕を回し半回転、ランニングパワーボムの要領で立ち木などに叩き付ける
- 空中で旋回してから背後を取り、地に足を付けずにジャーマンスープレックスの要領で地面に叩き付ける
の2パターンが存在する。
格ゲーでは前者を
ガイの「武神イズナ落とし」が、後者を
バルログの「イズナドロップ」が模倣している。
特にバルログの重力を無視したかのような不自然な投げ様は、漫画版の描写を極めて忠実に
原作再現したものである。
流石スペイン忍者という他ない。
地上版はオリジナルと違ってまだ手加減が効くため、殺す気の無い場合や、わざと技を披露する場合にもよく使用される。
*2
このため、飯綱落としを見た者は死あるのみとか言ったり言われたりする割に、見たどころか食らった上で生きている者も割といる。
*3
有名な作品だけにパロディや類似技も多く作られており、
島本和彦の『炎の転校生』では、裏の教育委員会の幹部・伊吹園次郎が、主人公の父親との対決中に校舎の3階?から共に転落。
偶然自分は当たり所が良かったため勝ちを拾ったものの、目撃した主人公に「まぐれで勝った」と思われるのを恐れ、
思わず適当な技名を叫んでしまった事で誕生した
「必殺暗黒流れ星」が存在する。
その後、ちゃんと特訓でブラッシュアップして本当に持ち技として完成させてしまうあたりが実に島本作品である。
あくまでも高所から敵を道連れにして落ちる技なので地上版は存在しないし、
自分も凄く痛い。
『聖闘士星矢』の主人公・
天馬星座の星矢が使った大技「ペガサスローリングクラッシュ」は、
敵を抱えて(後ろから羽交い絞めにして)
自力で跳躍するので後述する格ゲー版飯綱落としの元祖と言えるかもしれない。
(ただし「少年ジャンプ」的に元ネタは
キン肉ドライバーの可能性もある。
なお頭が下になるのは「車田落ち」で知られる作者的に平常運転である)。
同作品の
龍星座の紫龍が使う「廬山亢龍覇」は、敵を羽交い絞めにして跳躍する所までは同じだが、
上昇時の大気との摩擦熱で敵諸共燃え尽きる技なので、
成功すると跳んだまま落ちて来ない同作品どころか格ゲーでも類を見ない捨て身技である
『
ドラゴンボール』では
ザーボン(変身後)が
ベジータを似た技で倒している。
上空から真っ逆さまに叩き落したベジータに背後から組み付いて太い腕で首を締め付けつつ急加速し、途中で放して勢いそのままに地面に叩きつけている。
格闘ゲームにおける飯綱落とし
『
ストリートファイターII』(1991年)のバルログによる地上版の模倣が最初期のものだが、
CPU専用キャラだったためか、元ネタが古かったためか、あまり認知度は高くない。
『II'』でプレイアブル化した際も、同状況で使う「フライングバルセロナアタック」に隠れた印象である。
格ゲー界でその名を上げたのは、『
餓狼伝説2』(1992年)の
山田十平衛の
必殺技「大いずな落とし」及び
超必殺技の「ダイナマイトいずな落とし」だろう。
元ネタを「地上で相手を掴んで飛び上がり、落とす」という認識に変化させたのも十平衛だという事になる
(前述の「ローリングクラッシュ」は「イヅナ」ではなく「ペガサス」を名乗っていたため)。
翌年『
サムライスピリッツ』(1993年)で忍者の
服部半蔵が「モズ落とし」を使い始めたが、当時はこちらが十平衛の真似という印象すらあった。
なお十平衛は、原作そのままの空対空投げとしての「いずな落とし」も使用可能。
*4
……が、半蔵はシリーズ常連になったのに対し、十平衛は
チビなエロジジイ故に人気が無かったから『3』以降リストラされてしまったため、
今日ではその功績を忘れ去られつつある。
十平衛ェ……。
なお半蔵の技の名前は「イヅナ(イタチ)」ではなく「モズ(百舌鳥)」となっているが、
これはモズに「捕らえた獲物を木の枝や棘に
串刺しにする」「百舌の早贄」と言う習性があり、
これにちなんだ「忍法百舌」と言う技が実在した(と子供向けの忍者本に描かれていた)のが元ネタと思われる。
内容的には、相手に組み付き、そのまま
寄り切って(折れる等しててささくれた)木の枝に押し付けて
串刺しにする技。
なので上げて落とす飯綱落としと言うよりは、
有刺鉄線爆破デスマッチ壁に押し付ける
運送技の部類である。
そんなこんなで格闘ゲーム界においては、
「地上で相手を掴み、空中に運び上げて逆落としにする忍者のコマンド投げ」
が「いづな落とし」であるものと定着している次第。
忍者はもちろん、見た目の格好良さから忍者以外にも使用者は多い。
+
|
使用キャラ一覧 |
忍者
忍者以外
- カービィ
- 『SDX』のコピー能力「ニンジャ」の技「イズナおとし」。
『スマブラ』シリーズでも投げ技の1つとして使用(同シリーズではメタナイトも似た技を使える)
- キャプテンアメリカ
- グリフォンマスク
- 「ジャスティスハリケーン」(必殺技)、「イカロスクラッシュ」(空中投げ必殺技)、「ビッグフォールグリフォン」(超必殺技)
- 豪鬼
- 名称不明(『X-MEN』での空中投げ。非常にマイナーな技)、
「百鬼豪砕」(『ZERO』シリーズでの百鬼襲からの派生投げ。ガイの武神イズナ落とし同様に肩を掴んで1回転して叩き付ける)、 「百鬼豪墜」(『ZERO』シリーズでの百鬼襲からの派生投げ。相手を掴んで錐揉み回転しつつ頭から落とす)
- デミトリ・マキシモフ
- 「バットダイブ」(Pボタン版通常投げ)、「デモンフライ」(空中投げ)、「ネガティブストーレン」(必殺技)
- 戸川めぐみ
- モリガン・アーンスランド
- 山田十平衛
- 「いずな落とし」(空中投げ)、「大いずな落とし」(必殺技)、「ダイナマイトいずな落とし」(超必殺技)
- ユリ・サカザキ
- 「いづな落とし」(『龍虎』と『CVS』での空中投げ。『KOF』では「燕落とし」になるが、モーションはほぼ同じ)
その他
- 藤林すず
- 同じ名前の技を使うが投げ技ではない。敵の上から落下しつつ縦回転斬りで攻撃。
- 天馬星座の星矢
- 「ペガサスローリングクラッシュ」(原作漫画やアニメなら服部半蔵どころかバルログよりも古い)
- アマテラス
- 原作では神器・鏡を裏装備にすると裏攻撃がガードになるのだが、これをタイミング良く出すと投げ技へ派生する。
MUGENにおいてもリアス式海岸氏製の擬人化アマテラスに、当て身技「天落とし」として搭載されている
- リザードン
- 「ちきゅうなげ」
(『大乱闘スマッシュブラザーズfor3DS/WiiU』以降の上投げで、モーションがいずな落としを連想させるものになっている。 MUGENにおいてもGladiacloud氏製のリザードンに搭載されている)
- ジュカイン
- 「リーフストーム」(『ポッ拳』での挙動が飯綱落とし風の対空投げ。原作では尖った葉を嵐のように吹き付ける技)
|
関連項目
*1
カムイは『カムイ伝』の主人公でもあるのだが、差別の打破や階級闘争が作品のテーマとして打ち出された事で、
やはり主人公の一人である農民の正助が物語の主軸となり、立場上カムイは傍観者でしかなくなってしまう。
終盤だと正直カムイに出番が無い事すら忘れるほど存在感が無い
そもそも『カムイ伝』の「カムイ」は忍者カムイの個人名ではなく、
自然や人間の美しさ・強さへの賛美を表す言葉としての「カムイ」であるため、これはこれで間違いではない。
しかし忍者漫画の大家たる白土氏の創造した魅力ある忍者キャラを活躍させないのはあまりに惜しいという事で、
別の出版社にて、カムイを主人公に据え本編に入れられない忍術合戦が描かれたのが『カムイ外伝』である。
*2
例えば抜け忍仲間の信用を得るため、互いに自分の得意技を見せ合う場合など。
だがしかし、二人組の姉弟忍者が仕掛けてきた際、弟に地上版をかけ、隠れている姉に力の差を見せ付け追撃を諦めさせようとしたら、
加減を間違って弟がぱっぱらぱーになってしまい、かえって姉が復讐に燃えてしまった、なんて事もある。
ちなみにアニメ版では、弟の面倒を看るためカムイを諦めようとした姉に、
忍小頭が「奴(弟)は一人で生きていく。キチガイはキチガイなりに生きていくものだ」と暴言を吐いて追撃を強要、
姉はカムイに飯綱返しを無効化され死ぬが、馬鹿になった弟は死体を姉と気付かず「おまえ誰?」と関心を示さない…
という原作を凌ぐ血も涙も無いエピソードになり、当然ながらあんまりすぎて現在では放送出来なくなっている。
*3
余談ながらこの飯綱落とし、『カムイ伝』ではいまいち扱いがよろしくない。
そのうち飯綱落としの開発秘話描くよ、と予告されてから実際に描かれるまで空白期間が約2年、
その本編初お披露目も風のトエラによっていきなり破られてしまう。
しかもカムイ自身、トエラには効かないんだろうなあ → やっぱり効かなかったな、とまるで期待していない。
その他には強敵・搦の手風にも通用せず、名のある相手に決めたのは、忍者ではない松林蝙也斎に対する地上版くらい。
これも手加減していたので蝙也斎はその後も生存しており、あれ?飯綱落としで死んだ奴なんていたっけ?状態。
まあ格ゲーの必殺技だって必ず殺すわけでもないし、
『カムイ伝』では飯綱落とし以前にカムイの扱いが扱いなので、些細と言えば些細な事であるが。
*4
空中で位置を固定したままぐるぐる回ってから真下に落下するという、重力も慣性の法則も無視したトンデモ技なので、
動きそのものは『カムイ伝』そのままではない。
こういった柔道の投げの無茶苦茶な動きの元ネタは、飯綱落としや『カムイ伝』などの忍者ものとはまた違って、
『柔道一直線』などの柔道物のスポ根漫画に端を発する(
ケンの使う「地獄車」も『柔道一直線』が元ネタでもある)。
この手の柔道漫画では「背中から落ちなければ一本をとられない(技有り(2回で一本)にはなる)」と言うルールを拡大解釈して
「相手に投げられたとしても空中で姿勢を立て直して足から着地すれば技有りにさえならない」という事になっており
(特に有名なのが『いなかっぺ大将』の「キャット空中三回転」。
宙返りを三回も出来るほど高く投げるのが間違いな気がするが…)、
それに対して「絶対に受け身を取れないような凄まじい投げ」で対抗し、
それを攻略されてはまた新必殺技を編み出し……という格闘ものの王道を作り上げた。
この「投げられたら空中で体勢を立て直す受け身」というイメージが、
通常投げに対する「投げ受け身」、「投げ受け身を取れない必殺投げ」などの格ゲーのシステムに繋がるルーツと言うべきか。
最終更新:2024年01月17日 16:07