大魔神


大映(現:角川映画)が1966年に劇場公開した、特撮時代劇シリーズ『大魔神』3部作に登場する魔神。
劇中ではほぼ魔神様としか呼ばれないが、佐々木横浜守主浩*1阿羅羯磨(あらかつま)というとしての正式な名がある。

普段は起伏が少ない埴輪のような顔に静かな表情を浮かべた石像でしかないが
(顔以外の全身も埴輪っぽいが、「埴」は粘土の意味なので埴輪そのものではない)、
一度怒ると肌は青銅のような色になり、生物感の増した憤怒の形相(上の画像参照)で暴れ出す。
この変身の際、力強く拳を握り自らの顔を払うように片腕を、あるいクロスさせる形で両腕を下から上へ上げていく。
このシーンは観客達に大受けし、子供達は盛んに真似をした。
「大魔神の物まね」と言ったらほぼこのモーション(腕で自らの顔を払い怒り顔に変える)の事である。

領主や巫女の話では武神像は魔神封じの神で魔人をその足で踏み固めているということだが、
映像では武人像そのものが魔神であるとしか思えない表現になっている。

単に体が大きいだけではなく、1作目では自分を囲む炎を身震いする程度の動きでかき消し、
第2作の『大魔神怒る』ではモーゼの如く湖を割って登場する(これまた上の画像参照)という神通力を見せている。
なお身長・重量の詳細に関しては諸説あり、一定していない。
どれくらい一定してないのかというと、『空想科学読本3』では考察のため身長・体重がいくつかと筆者の柳田理科雄が怪獣図鑑4冊を読んだ所、
下記のようにバラバラで同一出版社の本でさえ共通してないので困ったほどである。
   資料名   出版社   身長   体重
『ガメラ画報』  竹書房  およそ15尺
(約4.5m)
(未記載)
『世界怪獣大全集』 朝日ソノラマ   6m     250t
『世界の怪獣百科』 ケイブンシャ   5m     6t
『怪獣怪人大図鑑』 ケイブンシャ  15m   50t
(『空想科学読本3(新装版)』ISBN 978-4840115674、P191表より引用。)

そして2010年、『仮面ライダークウガ』『仮面ライダー響鬼』を手がけた高寺重徳プロデューサーにより、
テレビドラマとして『大魔神カノン』が放送された。
こちらは映画とは違い現代が舞台であり、「オンバケ」「イパダタ」「祈り歌」など映画には無い要素も多い。
現在はニコニコ動画でも有料配信中。
+ アレな話
この『大魔神カノン』だが、恐ろしく評判が悪い事で有名である。
実際、前述のニコニコ動画の配信では無料配信期間があったにも拘らず、話が進むにつれ再生数は右肩下がりになり、
最終話では1000にすら届かない、という公式配信動画の中でもぶっちぎりに低い再生数を記録してしまっている。
不評の理由としては、「主人公が陰気すぎる」「特撮でありながら特撮シーンが非常に少ない」
「物語が間延びしている」「全体的に説教臭い作風」などが挙げられている。
また、これらの作風は高寺Pが手がけた他の作品、特に『響鬼』前期に酷似しているとの声が強い。

ただし高寺Pが過去に手がけた作品は制作上の制約として、戦闘シーンなど番宣要素が必要不可欠だったため、
賛否がありながらも見所も多い作品ともなっていた。
これらの事から現在では「高寺Pは暴れ馬だから上手く手綱を引く必要がある」と言われてしまっている。

1作目では、侍達が無礼にも神である自分の像にタガネを打ち込み壊そうとしたことに激怒し勝手に暴れだしただけで、
タガネの件の張本人である悪い殿様を殺しても怒りが鎮まらなかった大魔神は、
何の罪もない無関係な里人にまで怒りの矛先を向け、実際に一人殺してしまっている。
そもそも荒ぶる神とは、自然環境のような人間の太刀打ちできない力の象徴であり、
人間の都合など知ったこっちゃないのでしょうがない
あくまで結果的に民衆を助ける形になったのであり、最後に若い娘の命がけの願いによってようやく怒りを解いている。
この「怒り狂って暴れ回る人物(?)が美女の願いによって元に戻る」というテンプレは
以降様々な作品で取り入れられたりパロディになっており、「美人に弱い」とネタにもされている。

2作目以降では「苦しめられた民衆(中でも特に乙女や少年)の願いに呼応して現れ、侍や悪代官にだけ天誅を下し去っていく」
といういかにも勧善懲悪のキャラクターになっている。
最初は暴れ回るただの怪獣だったのが、いつのまにか正義の味方になっていたゴジラと同じ流れである。
『大魔神カノン』の公式サイトではこの2作目以降の性格だけが紹介されている。

そして2021年、三池崇史監督の妖怪ファンタジー映画『妖怪大戦争ガーディアンズ』に登場し、実に55年ぶりの映画出演を果たした。
今作では妖怪獣に勝利するための妖怪達の切り札として扱われており、デザインも現代風にリメイクされている。
終盤で主人公ケイ(上記画像左の少年)の弟のダイ(画像右の少年)によって復活させられ、
妖怪獣をいとも簡単に真っ二つにするなど相変わらずの大活躍を見せた。
その一方で倒したはずの妖怪獣が巨大な龍の姿になって復活した際は凄まじい顔芸形相で驚愕する一面も。
+ あっと驚く大魔神

最終的に妖怪獣はケイと妖怪たちが鎮め歌を歌ったことで浄化されて消滅。
全てが終わったかに見えたが、今度は大魔神自身が暴走し見境なく破壊の限りを尽くす(天狗曰く一度怒ると手を付けられない諸刃の剣)。
しかし、ケイ達の必死の悲願によって、ようやく怒りが収まり塵と化して跡形もなく消滅した。

映像作品以外では2015年に奈良県で寺社の重要文化財・国宝指定の仏像などに油が塗られる事件が起きた際、
奈良県の文化財防犯ポスターに大魔神が起用されたのだが、
そのポスターの内容が「地域で守ろう文化財」というまともな文章と、怒り顔の大魔神が見下ろす写真の組み合わせになっていた。
大魔神は映画内で像がそれ以上の災難に何度も見舞われてた(それで激怒展開につながる)のを意識したのだろうか…。

ちなみに撮影に使用した大魔神像(無論、怖い顔の方)の等身大プロップは現在、
フィギュアメーカー・海洋堂(「チョコエッグ」のオマケ部分や「リボルテック」の会社)に引き取られている。
撮影からちょうど20年経過した時期に引き取られたためかなり状態が悪かったらしく、
海洋堂側で修理&状態保存のためシリコン樹脂コーティングを施されてお色直しを行い、
その後は海洋堂本社の玄関前で余生を過ごしている(「カノン」では使われなかった)。
修理の甲斐あって、当時の怖いながらも威厳ある佇まいが再現されているので、機会があれば見学に行くのもいいかもしれない。
ちなみにこの大魔神像、「1t以上あるはずでそうそう動くわけないのに、当時置いた場所から微妙にずれている気がする」
「1991年頃、本社内で何か重たそうな足音がした」などの怪現象が海洋堂社員から報告されている。
前述のように、修理された事で当時そのままの雄姿を取り戻したため、
ひょっとすると鶴の恩返しならぬ大魔神の恩返しとして、ガードマンを買って出たのかもしれない。


MUGENにおける大魔神

サンダーマスクダース・ベイダー等の製作者であるgoogoo64氏製作の物が存在している他、
アレンジキャラである「デビル大魔神」も同氏によって製作・公開されている。
共に強いAIは搭載されていない為、活躍の場は少ない。

出場大会



*1
当時を知る方には説明不要だろうが、 佐々木主浩とはかつてベイスターズに在籍した投手。
速球とフォークを武器に1998年のベイスターズ日本一に貢献。メジャーリーグでも暴れ回った。

そしてこの男、驚くほど大魔神そっくりな顔つきであり、ファンからは「ハマの大魔神」の名で親しまれた。
また、本稿の大魔神とはパチンコ「CR大魔神」で実際にコラボしており、こちらでは佐々木氏が大魔神に変身するという衝撃的な演出が為された。


最終更新:2023年08月13日 19:38