ライン移動

本来は縦方向(ジャンプ)と横方向にしか動けない2D格闘ゲームにおいて、奥行きのある戦いを表現するために
本来のライン(メインライン)とは別のラインを用意し、複数のラインを行き来しながら戦うというシステム。二次元にもZ軸はあったんだ!
特に『餓狼伝説』シリーズの代名詞であり、ベルトスクロールアクションの流れを汲む1991年発売の『初代』の時点で、
既に作品の肝として2ラインによる奥行きの概念が表現されている。
いわゆる「避け」系の動作に影響を与えた面はあるものの、非常に独創性が強いシステムなためあまり普及はしなかったが、
特に多人数同時対戦の存在する作品でよく見かけられる。


格闘ゲームにおけるライン移動

ラインシステムが採用されている2D格闘ゲームは以下の通り。
2D格ゲー以外では『ガーディアンヒーローズ』(セガサターン版は最大6人同時対戦。XBLA版は最大12人同時対戦)や、
『シンフォニア』以降の『テイルズオブ』シリーズが同様のシステムを採用している事がある。
また、あくまで2D格ゲーで奥行きを表現したシステムなため、
3D格闘ゲームの場合や『痛快GANGAN行進曲』のようなベルトスクロールアクション風の作品は「ライン移動(ラインシステム)」とは言わない。
また上記の『ナックルヘッズ』は一応は3ライン制だが、
特別な行動を取らずともライン間を移動できるため厳密には「ライン移動」と言うよりは『GANGAN行進曲』に近い。

原則としてそれぞれのラインは独立しており、通常の攻撃ではラインをまたいだ相手に直接干渉することはできない。
簡単に言うと、2Dのフィールドが手前や奥に複数存在しているという形になる。
別ラインにいる相手に干渉するには、自分が相手のいるラインに移動する、もしくは相手が自分のいるラインに来ることで
両者が同じフィールドに立つか、ラインを超えた攻撃が可能な特殊動作を行う必要がある。

ちなみに『KOF』シリーズではライン移動は実装されていないが、疾風の(空中)飛鳥蹴り、
香緋のMAX2・転身斬崩牙など、元ゲームのライン移動を再現した技も存在する。
特に香緋のものは「ライン移動中は完全無敵」と性能的にもきっちりと再現している。

『餓狼伝説』シリーズのラインシステム

手前と奥の「2ライン制」で、ラウンド開始時は手前ラインで始まるが奥ラインでも戦うことが出来る。
初代の時点ではプレイヤーは自分から能動的にラインを超えることはできず、CPU戦で向こうがラインを超えた時、
もしくは相手の攻撃によって別ラインに飛ばされた時のみジャンプ攻撃による移動(ライン移動攻撃)が可能であった。
またこの頃から別ラインに障害物があり、飛ばされるとダメージを受け戻ってくる1ラインステージは既に存在していた。
続編の『餓狼伝説2』では自ら別ラインに移動することが可能になり、低い高度のライン移動攻撃や素早い前転移動、
相手を別ラインに吹っ飛ばす「ライン飛ばし攻撃」等が追加され、より大きく展開に影響するようになった。
と言うか、ライン移動攻撃の攻撃判定が弱いキャラは一度リードされると相手側がひたすらライン移動を繰り返す「逃げ戦法」に対処できず
大幅にダイヤグラムを落とすことに
(ライン移動で追いかけてもライン飛ばし攻撃で元のラインに戻される
 (普通の無敵対空技とかならダメージは受けても同じラインになる)。
 ライン飛ばし攻撃が当たらない間合いでライン移動したところで相手はさらにライン移動をして逃げるだけ)。
このシステム体系は大ヒットした『餓狼伝説SPECIAL』にもそのまま受け継がれたが、
使用可能になったクラウザーどのライン移動攻撃もしゃがんだ相手に当たらないという致命的な欠陥を抱え
一気に最弱争いに巻き込まれることになった。
現役の『餓狼SP』プレイヤー達はこうしたライン移動で逃げ回るスタイルを嫌い、真正面から勝負するためクラウザーのダイヤグラムは上位に食い込んでいる。
自分から1ライン状態にしてカイザーウェーブどうするの?という問題はバックステップで避けるという技術で克服している。
恐るべきはプレイヤー陣の努力である。

『餓狼伝説3』では中央(メイン)・手前・奥の「3ライン制」が導入。
基本的な戦闘は中央のみで、それ以外のラインは攻撃を避けるのに特化した(技も出せず防御もできない)「スウェーライン」となった。
その他スウェーラインを移動しながら攻撃する技や対ライン攻撃判定を持つ技の追加など、様々なシステムが導入されている。
しかし操作が複雑で解りにくく(ラインによってAB・BC同時押しを使い分ける必要があり、対ライン攻撃もそれに準ずる)なり、
更に同作はライン関連以外のシステムも複雑化を極めてしまった事もあり、不評を買ってしまう結果になった。
続編の『REALBOUT餓狼伝説』では操作関連が一新され、Dボタンがライン関連専用ボタンとなり簡略化が行われた。
また対ライン攻撃判定や相手をスウェーラインに送る技が増え、3の頃ではそれほど見られなかった
「コンボで相手を(防御できない)スウェーラインに送り、攻撃してダメージを増やす」という戦法が確立された。

『REALBOUT餓狼伝説スペシャル』では2ライン制に戻り、手前・奥どちらのラインでも戦えたり
対ライン攻撃もガード可能になるなど『餓狼SP』と『RB餓狼』を合わせたようなシステムとなった。
これにより前作のような「相手を別ラインに飛ばして対ライン攻撃→メインラインに引き戻すコンボ」に加え、
「相手を別ラインに飛ばして自分が追いかけるコンボ」という種類の連続技も可能になった。
『REALBOUT餓狼伝説2』ではさらに簡略化され、通常と奥の2ライン制で奥ラインは完全なスウェーラインとなった。
対メインライン攻撃が中段・下段など種類別になったものの、ラインを巡る攻防は徐々にそれほど重要視されなくなり、
『餓狼 MARK OF THE WOLVES』では代名詞と言われたラインシステムそのものが廃止された。
作品ごとのシステムの更に詳しい仕様・変遷は餓狼伝説の項を参照。

『風雲黙示録』のラインシステム

基本的には『餓狼SP』のように手前と奥の2ライン制だが、奥ラインが普通のフィールドではなく
天井のパイプにぶら下がったり途中で床に穴が空いたりと非常にギミックに凝った作りになっている。
また違うラインに向かって飛び道具が撃てたり、ライン移動攻撃も全部で4種類もあるなどライン間の攻防が非常に多彩になっており、
餓狼SPまでのラインシステムを3以降とはまた違った形で発展させたものになっていると言えるだろう。
続編の『風雲SUPER TAG BATTLE』では1ラインになったが、奥ラインがパートナー待機場所になっており、
戦闘中にリアルタイムで生交代ができて奥ラインからパートナーが飛んでくる(場合によっては直接攻撃できる)ので、
ラインシステムの要素を少しだけ含んでいると言えなくもない。
更に詳しい仕様は風雲黙示録の項を参照。

『ギルティギアイスカ』のラインシステム

最高4人のバトルロイヤル形式と言う、『ギルティギア』シリーズどころかアーケード格闘ゲーム作品の中でも異色の戦闘形式を取っている。
手前と奥の「2ライン制」。通常技のひとつとして、振り向きボタン+HS(大斬り)ボタンを同時押しすることで、地上でのみライン移動が可能。
「ライン移動攻撃」や「ライン飛ばし攻撃」なども搭載されている。
…のだが、元々システムや操作系がやや複雑(年が経つほどに複雑さが強化)である『GG』シリーズに
「バトルロイヤル形式+ラインシステム+振り向きが自動発生しないため、振り向き専用ボタンを追加」したために、
システムが余計に混沌となって、操作性はお世辞にも良いとは言えない代物になってしまった。
他所で成功したシステムが、別のゲームでも成功するとは限らないのだ。

『ドラゴンボールZ 超武闘伝』シリーズのラインシステム

ラインが手前・奥ではなく、原作漫画の舞空術による空中戦再現のため上下方向にあるという少々変わった設定。
…と、いっても別段複雑なシステムではなく、このゲームは相手との距離が1画面以上離れると画面が左右で分割されるのだが、
「分割中にXボタンを押すと反対側のライン(地上なら空中、空中なら地上)に移る」という分かりやすい方法でライン移動を行う
(ただのジャンプや対空技では地上ラインから空中ラインに届くことはないので、ステージが広いだけとは異なる)。
異なるラインにいる場合は飛び道具しか届かないが、前述のように接近していて画面が分割されていないとライン移動が不可能なので、
「ライン移動で逃げられまくって肉弾戦にならない」というような不毛な戦いにはならないので安心。
なお、同じドラゴンボールZのゲームでも『HYPER DIMENSION』ではラインが餓狼伝説などのように手前・奥にあるが、
こちらは緊急回避的な仕様で基本的に1ラインで戦うゲームである。


MUGENにおけるZ軸

MUGENには通常奥行やZ軸というものは無く、ラインも存在しない。
そのため虻蜂氏のクラウザーのように「見た目はライン移動しているように見える無敵移動」
といった形で原作を擬似的に再現しているキャラが多い。
なお、この方法で奥行きを表現する手法は『餓狼伝説』以前に『ストリートファイターII』でバルログの金網張りつきとして使われており、
むしろこっちの方が歴史ある手法だったりする(ただし本家では動きの関係か、ライン移動できるのはスペインステージ限定)。
厚い弾幕などを悠々と回避するその様は、しばしば「軸のアルカナ」などと呼ばれる。
また逆に、ライン移動やクイックアプローチで避けるのを想定された他の作品よりも巨大な飛び道具が猛威を振るう、といったこともある。
正直「ずるい!」という声も聞こえてきそうではあるが、原作再現だからしょうがない
マイク・ハガーのような、元ゲーに格ゲーのようなガードが存在しないベルトスクロールアクション系ゲーム出身者が
なんとか相手の攻撃をそのまま受けない為の苦肉の策の場合もある。

実はMUGENでもZ軸を扱う構想自体はあったらしい。
が、経緯は定かでないが結論から言えばその方向性は廃止される事となったようで、
ある程度の”名残り”のような機能が存在するというレベルに留まる。
付属のドキュメントやカンフーマンのCNSなどでもZ軸には殆ど触れられておらず、
僅かに存在した記述でも詳しい説明はせず「Not currently used.」(現在不使用)とだけ書かれている程度だった。
ただ、ステージ用のdefファイルの中には p1startz と p2startz という、
名前だけで明らかにZ軸の初期位置の事だと分かる項目や、z-movement などという記述があっため、
ステージに詳しい人ならZ軸の気配くらいは感じていただろう。
なお、これはWin版までの話で、エレクバイトとしては今は本格的にZ軸のことは切り捨てているのか、
現在のMUGEN1.00では付属ドキュメントからもステージ用defからもZ軸関連の記述は削除されている。

これらの事情から、不具合が無くどんなステージでも使える前述の擬似ライン移動処理が現在の主流となっているが、
コンプゲーや特別な大会、ストーリー動画の演出ならこのZ軸の機能も活用できるかもしれない。
ただし、一つの知識としてここで紹介はしているが、
開発者があえて没にしドキュメントにも載せなかったような機能をおおっぴらに使用するのは、
本来あまり推奨できた行為ではないので注意すること。

これまでに発見されていることのまとめ

  • ステージのtopboundで奥方向、botboundで手前方向の移動可能な範囲を設定できる。
    この値が0だといくらキャラがZ軸の移動をしようとしても、画面端に向かって歩くのと同じことなので無意味である。
    奥行にはマイナス値を使う。
    topscaleとbotscaleでズームを調整できる。topz/botzで指定した位置でtopscale/botscaleの縮尺になる。
  • キャラのZ軸を移動させるにはstatedefのvelsetを使う。velsetでは通常「,」を用いX軸とY軸の速度を設定するが、
    Y軸速度の後にさらに「,」を打ち数字を入れると、それがZ軸の移動幅になる。
    Z軸移動用のステートコントローラーは存在しない模様。しかしZ軸位置情報を取得できるトリガーはある。
  • hitdefにattack.widthというパラメーターを指定する事で攻撃にZ軸の幅をつけられる。
    オミットした状態では8になっている模様。
    なお、軸が違う状態の相手にHitDefが当たると、どうしてもその相手を自分と同じ軸に引き込んでしまうようだ。
    引き込まずに攻撃したい場合はProjectileかHelperを使うくらいの方法しか見つかっていない。
これらの特徴からするに、仮にZ軸機能が実装されていた場合、『餓狼』シリーズのようなラインバトルと言うより、
ベルトスクロールタイプのゲームのような「設定された範囲で無段階に動き回れる」スタイルになっていたようだ。
参考動画

また、AIにもライン移動を使わせることで、本格的に2ライン仕様で戦う大会が開催された。


関連項目



最終更新:2023年04月28日 04:46
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