トリオ・ザ・パンチ


NEVER FORGET ME...

1990年にDECO(デコ)ことデータイーストがリリースしたアーケード用2D横スクロールアクションゲーム。
兎に角変なゲームを出す事で知られたデコのゲームの中で、一際異彩を放つ「問題作」。
カルノフ』&『チェルノブ』と合わせて「デコ三大奇ゲー」と呼ばれているが、
「奇」という一点においては同列に並べられている前者二作品ですら及びもつかないと言える。

ゲーム内容は普通の横スクロールアクションなのだが、ストーリーや設定らしきものは一切無い。
使えるキャラクターも「剣士(ローズサブ)」「忍者(かまくらくん)」「タフガイ(サントス)」というむさ苦しい三人の男で、
統一感が無い上にその風貌も一般的に想像し得る造形とは離れてしまっていたりとカオス度も半端無い。
三人にはそれぞれ固有のBGMがあり、ゲーム開始から終了まで一瞬も途切れずに流れ続ける
どんなステージでも、ステージクリアから次のステージに移る間も、ゲームオーバーのコンティニュー待ちカウントダウンの間も、
それぞれのBGMがひっきり無しに鳴り続けるのである。*1
特に使用率の高い忍者かまくらくんのBGMは非常に洗脳性が高く、気が付くとエンドレスで頭に響いているほど。

ステージや敵の内容も形容しがたいものばかりで、巨大な拳がボスの「にょき」を筆頭に、
序盤の雑魚全員がカルノフだったり(大量に沸いてくる。攻撃方法は結構多彩)*2
和風の城で忍者と戦いながら天守閣に登り、城主らしい敵を倒すと本当のボスは飛行するシャチホコだったり、
現代日本風の場面で出てくる雑魚が世紀末風のチンピラ達に混ざってやたらグロいゾンビがいたり、
中ボスで何の脈絡もなくチェルノブが巨大ハンマーを得物に襲いかかってきたり、
「浦島太郎か」とタイトルが出るステージではカルノフが亀をいじめており、そのカルノフを倒して亀を救出……と思ったら、
いつまで経っても何も起こらず、仕方が無いので亀を攻撃すると、
甲羅の中から「よくぞ見破った」とルーレット画面で出てくる老人(チンさん)が襲いかかってきて
勝つと「強くなったな」負けると「甘いな」と言ってきたり、結構先のステージに進んだら「修行ぢゃ」と懲りずに襲いかかってきたり、
「月は友達」と出るステージでここ一番!を使うと背景の月がバウンドしながら襲い掛かってきたり、
「だるまさんが転んだ」をやらされて、味方ばかりか敵まで行動停止するため何の意味も無かったり、
とあるステージのボスが某ファストフード店のお爺さんの像で、破壊すると鳥がフライドチキンを放ってきたり、
ステージボスの羊を倒すと「呪ってやる」と告げられ、次のステージを羊の姿で進む羽目に陥ったり(後述)、
終盤では硬くて手強いスライムと戦わされるだけのステージがうんざりするほど繰り返されたり、
コンティニュー待ち受け画面に何の脈絡も無くミケランジェロの奴隷像が表示され、
コンティニューすると像の顔がやけに前衛的な絵柄に変わったりラスボス本気で意味不明だったり、
兎に角ありとあらゆる観点から「破綻」しまくっている世界観である。
一応、「古代:剣士(ローズサブ)、江戸時代:忍者(かまくらくん)、現代:タフガイ(サントス)」と、
三人のキャラクターに対応していると思しきステージの作りになっているが、
どのキャラクターも全てのステージを攻略するため、必ず存在自体が不自然な場面を突破する事になる。
あと存在自体が不自然な敵が頻発するので、プレイヤーが場面に合っていたとしても違和感が無くなる訳ではない。

……と、ここまで強烈な部分が列挙されているが、実はこれでも全体像の一部に過ぎない。
このゲームの異様な部分を全部挙げていたらゲーム開始前のタイトル画面からエンディングまで、
ゲーム全ての紹介になってしまう

まさにサブタイトルの「NEVER FORGET ME」が示す通り、忘れたくても忘れられない逸品だろう。

元々このゲームの企画発端は「アーケードでプレイできるすごろくゲーム」だったそうなのだが、
二転三転してこのような形になってしまったのだという。
ステージクリア後にあるパワーアップルーレットが、その唯一の名残という。
ただし、ルーレットでありながら名前は「クリアーたからくじ」。どこが宝くじなのかは不明
プレイヤーはこのルーレットでライフを回復したり、武器を強くしたり弱くしたりできる
(ただし、クリアルーレット自体は(弱くなるのも含め)ナムコの『バラデューク』で既に存在していた)。
なお、ボタンを押して止めるのだがランダムに止まるわけではなく目押しで止められるので、
止まる位置さえ覚えてしまえば任意にパワーアップを選ぶ事ができる。
ここから先は噂でしか無い話だが、デコに勤めていた人が「会社を辞めさせてください」と申し出た所、
「じゃあ、ゲームを一本作ってから辞めろ」と返されて作られたのがこのゲームだと言われている。

ゲームバランスや単調な内容で人気は無かったが、そのあまりにも形容し難い作りで、中毒的なファンは今でも多い。
そのためか本作のパロディも割と見受けられ、『魔導物語』シリーズに「トリオ・ザ・バンシー」なるトリオがいたり、
雲居一輪&雲山にょきの拳の動きを模した「入道にょき」という技を使ったりする。
ルーレットやイベント成否のランダム性を楽しむ一風変わったシステムのエロRPG『ランス5D』にも、
冒険ルーレット時に物語とは全く無関係の宇宙の果ての星「クルピストン星」での出来事が挿入されるマスがあり、
そこに止まると『トリオ・ザ・パンチ』の主人公達と同名のクルピストン星人三人組のゆるい日常風景を楽しめる。
デメリットのあるマスばかりになった時などに当たると心が和む上に仕切り直し出来て大変助かるが、
続きが気になるからと何度も止まってクルピストン星の話を進めすぎると……。

家庭用移植の話題では、2006年の携帯アプリ(ガラケー版)での配信が初となる。
ステージセレクト、BGM(ボス戦、ステージクリア)追加による洗脳からの解放という独自要素が存在するものの、
版権上やばいネタの差し替え、一部ステージの削除もあって純粋なアーケード版+αとしては遊べない。
ただ、本当にうんざりさせられるスライムステージを全面削除したのは英断かもしれない
翌年の2007年にはPS2で『オレたちゲーセン族』というアーケード復刻シリーズの1本としてリリースされていたが、
エミュレーターの精度が低いため、完全な移植とは言えなかった。
そして2022年、Nintendo Switch/プレイステーション4用『アーケードアーカイブス』で配信。
PS2版から数えて15年振りにあの狂気が帰ってきた。
ガラケー版と同じく版権に関わる箇所が修正されている以外はアーケード版そのままで、
加えて「こだわり設定」により、スコアとステージ数を表示させる事も可能。


原作における性能

主人公は三人。顔を隠しているのが忍者、野球帽がタフガイ、剣を持っているのが剣士
この誰得かつ意味不明な連中の中から一人を選択する。したくなくても選択する。

+ ちなみにこのキャラセレ画面
ちなみにこのキャラセレ画面、香港のB級映画『ブルース・リー』のパロディだったりする。なんだこりゃ。

忍者

本名「かまくらくん」。デスタリアンから逃亡中のチェルノブが変装しているとの未確認情報あり。じゃあ敵として出てくるのは偽者?
地上の攻撃はリーチの短い刀だが、空中での攻撃が手裏剣。
クリアーたからくじでパワーアップすると手裏剣がパワーアップしていく。
初期状態で飛び道具を使える事に加えて移動スピードが速いので使用するプレイヤーが多く、
最も洗脳性の高いBGMが一番よく聞かれるという事態を引き起こした。
またこのキャラの特徴の一つにあるのが移動モーション。
漫画的な前傾姿勢なのだが移動速度は他の二名(歩き)より気持ち速いぐらい。
どっかのげんじんしんを先取りしている(ただしかまくらくんは前傾姿勢なだけで足の動きは速くない)。

タフガイ

本名「サントス」。同社のアクションゲーム『ドラゴンニンジャ』の主人公という未確認情報あり。
サントスを使っていた者は通例として、ゲームをクリアした後にレバーを左右に振る作業が待っている。
これで何が起きるかというと顔がでかくなる。それだけ。
このゲームの紹介画像を出される時は十中八九これ。
異様に濃いツラで「」をかましているゲーム画面を見た事がある人も多いだろう。

初期状態は素手だが、パワーアップ二段階目の「砂袋」が判定が広くて使いやすく、
以降のパワーアップを回避して砂袋のまま進めるのが定石。
飛び道具は無いが、近接攻撃では一番使いやすいキャラになっている。
ゲーム中でも貴重な上方への攻撃判定を持つ武器だが、サンドバッグを担ぎ上げながらステージを闊歩し
どう見ても武器ではない物体を得物にわけの分からん敵を殴り倒す様は異様にシュール。
プレイ人口でのメインキャラはかまくらくんだが、『トリオ・ザ・パンチ』を一目で体現するキャラとしてはサントスが一番であろう。
ここ一番(メガクラッシュ)は有名な「かつ」。ステージに一度だけ使える画面全体攻撃
なお、パワーアップの最高ランクで突進ストレート「風拳」なる技を習得するが、
「カプコンが『ファイターズヒストリー』訴訟の腹いせに、
 『ストリートファイター』シリーズ最強の技を『トリオ・ザ・パンチ』からパクった」
…とかいう経緯があるはずも無く、名前が似ているのは全くの偶然であろう。
特に対空版風拳は真・昇龍拳そっくりだが関連性などあるはずもない。
単なるダッシュストレートとジャンピングアッパーである。そもそも本作は『RYU FINAL』どころか『ストII』より古い。
技自体は強いが、最悪地形にハマって詰み状態になるという欠点がある(地形無視攻撃が出来る敵が居ないとタイムアップするまで死ぬ事さえ出来ない)。
選択画面の顔が某芸人にそっくりなのもやはり偶然であろう
BGMは熱い。文句なく名曲と言える。他二人に比べて戦闘能力に欠けるサントス使用時の大きな魅力である。

また、カルノフとチェルノブ同様、後の作品『ザ・グレイトラグタイムショー』にタフガイ(の巨大な顔)が彫像としてゲスト出演している。

剣士

本名「ローズサブ」。勿論、ローズさぶとは無関係。
おそらくはゲイ雑誌薔薇族『さぶ』が由来。危険すぎる。
彼のみ同社の作品からの出演という噂が無いが、別会社のアクションゲーム『ラスタンサーガ』シリーズの主役・ラスタンに異様に似ている。
剣の構え方なんてもう疑いようも無くラスタン。だが初期装備はたいまつ。何故だ。
古典TRPG『D&D』の開始時点の最強武器が「火が付いたたいまつ」というのをもじったネタだろうか?
パワーアップすると「ショートソード」「ロングソード」「モーニングスター」と強くなり、
最強段階では「スーパーたいまつ」と再びネタ装備に戻るが飛び道具を発射する事ができるようになる。やっぱりラスタンである
地上で飛び道具による攻撃が可能な唯一のキャラクターとして「育てるのが大変だが最終的には最強になる」という位置付け。
剣士なのに剣以外の武器の方が多いようだが、気にしてはいけない。

ここ一番は「じしん」。地震なのに何故か空中の敵にも命中する。
パワーアップしていくと、四方向へ弾を飛ばす「スーパーじしん」を経由し、八方向に進化した「ブラボー」となる。何故ブラボー
使用率の高いかまくらくん、ゲームのでかい顔として有名なサントスと比べていまいち知名度に欠け、
ついでに専用BGMまで評価が芳しくない傾向にあるが、彼のBGMもまた名曲。
エンドレスで流すだけの魅力は十分にあると言っていいだろう。

+ 呪ってやる
   勝ち

呪ってやる

ステージ5「羊の呪い」に登場する敵ボスで2本足で立つ毛が紫色な羊。子羊を放って攻撃する。
これに勝っても負けても「呪ってやる」と告げられ、次のステージを羊の姿で進む羽目に陥ってしまう。
しかし、羊の姿の時は飛び道具である子羊を連射できる(手裏剣やスーパーたいまつの数倍の連射速度)ため攻撃能力が極めて高い。
更にはしゃがむだけで無敵状態が永続するという無茶苦茶な性能であり「羊のまま最後までプレイさせてくれ」という冗談混じりの要望も続出した。
終盤のステージは中々きついので(特に前述した通り固いスライムが大量に登場するので)「羊だったら楽に勝てるのに……」と思う事も一因である。

ただし、チートで無理やり羊化すると何故か無敵時間が一切無くなるという罠が待っている。
それ以前に、子羊は頭上から投げ出した後に弾みながら前進すると言う弾道な事から、小型の敵(ミニ・カルノフ)に密着されると当たらない
(普通のカルノフならしゃがみ撃ちが当たる。なお対羊戦でも段差のおかげで密着してしゃがむだけで安置になる)。
更には足が非常に遅い等のデメリットもあり、しゃがみ無敵も空中で使えないのは当然として、
プレイヤーを追いかけるタイプの敵はこちらが無敵になってる間はずっとプレイヤーに重なって右往左往するので、
無敵を解除した瞬間に確実にダメージを受けてしまう等、羊なら簡単にクリアできるというわけではない。
特にステージ11のタロスの足は、羊の移動の遅さや、足の裏の攻撃判定で子羊が相殺される事による攻撃の当て辛さ等、
上述の無敵消失も相まって通常の三人で戦うよりも非常に難易度が高くなってしまう。

この羊の呪いは『水滸演武』における溝口誠の超必殺技としても採用されている。
MUGENでも、とけい氏製の溝口で再現されており、アフロン氏の裏骸の羊の演出の元ネタもコレ。
また『KOF MIA』でも没ボイスで「呪ったれや」なる台詞が存在していたりする。採用する気だったのだろうか?

+ 参考動画集
プレイ動画(かまくらくん)
プレイ動画(サントス)
プレイ動画(ローズサブ)


MUGENにおけるトリオ・ザ・パンチ

mass氏がプレイアブルキャラクター3人と「羊の呪い」で変身させられた羊状態をセットで公開。
上方向でなくボタンでジャンプする、敵を踏んで跳ねる事ができる、
ガードできないが被ダメ無敵がある(投げやワイヤーダメージロック系必殺技は食らう)など、
原作のアクションゲーム仕様を忠実に再現している。

羊以外は原作BGMが鳴りっぱなしになる洗脳仕様だが、オプション設定で解除可能なので安心。
また、効果音という形で演奏しているため、MUGENの仕様上ラウンドをまたいで演奏し続ける事ができず、
後述の忍者の岩がハイパーアーマーの相手に当たるなどして大量の効果音が同時に鳴ると、
チャンネル数不足でBGMが途切れてしまう事も。

  • x/aで「ビシバシ攻撃」(通常攻撃 タフガイのみ8+x/aでアッパーが出せる)
  • y/bで「パッとジャンプ」(ジャンプ)
  • z/cで「ここ一番!」(メガクラッシュ 1ラウンド中1回のみ)
を繰り出す。

パワーアップシステムは無く、初期状態のままで戦う。
そのため「砂袋」が主力のタフガイ、「スーパーたいまつ」が頼りの剣士は貧弱なまま戦わなければならない。
忍者も手裏剣は単発のままで、MUGENではジャンプしながら戦う事が可能な相手ばかりでないので、
格ゲーしてる相手(特に単発火力の高いレトロ勢など)に勝ち抜くのは中々難しいかもしれない。
一方自分達と同じアクションゲーム勢に対しては、通常技の威力が100(忍者と羊の飛び道具は50)と高く、
食らい無敵で多段攻撃を無効化できる事もあってゴリ押しが可能。
また、原作で食らい無敵の無いボスに猛威を振るった忍者の「いわおとし」は原作通りアーマー殺し技となっている。

羊はパワーアップしなくても放物線で飛んでいく弾を連射でき、これだけで永久ができるのに加え、
原作通りにしゃがむだけで無敵なので別次元の強さを持つ。

4キャラともAIはデフォルトで未搭載済み。
また、今は亡きMUGENファイルアップローダにて製作者不明の外部AIが公開されていた。
サントスとローズサブは攻撃を食らった時にしばらく無敵になるのを活かして突っ込んできて殴るだけ、
かまくらくんはひたすら後ろにジャンプしながら手裏剣を投げまくるだけの単純な動きだが(他にやれる事も無いし)、
食らい中無敵なのでコンボ拒否、行動中無敵なので立ち回り拒否、無敵時間中に殴ってくるからどんな技でもお構いなく潰す、
レトロゲームならではの単発高火力とコンボ無効能力でダメージ差による勝ちをもぎ取ってくる。
普通の格ゲーキャラと戦わせるといい勝負になりにくいので、凶あたりのランクに出すのがいいかもしれない(狂には勝てなさそう)。

羊はしゃがみ中無敵を生かしてくる上に物凄い速度で弾を連射し永久も狙ってくるため、やはり別次元の強さを持つ。
しかし、余りにも飛び道具やストライカーなどの攻撃頻度が高いキャラだと、しゃがみ続けてタイムアップまで粘ってしまうので注意が必要。

他にも、かまくらくんのみのAIがIX氏によって公開されている。
挑発レベルを0~5、AIレベルを1~5に設定できる。

また、『トリオ・ザ・パンチ』からはステージ2「にょき」と最終ステージ「最後の最後」がボーナスステージとして製作されている。

出場大会

【サントス】
【かまくらくん】
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【ローズサブ】
  • 「[大会] [ローズサブ]」をタグに含むページは1つもありません。
【羊】
  • 「[大会] [羊]」をタグに含むページは1つもありません。


*1
クリアーたからくじでキャラクターチェンジが選ばれた時のみ、キャラクターセレクト時のBGMが再生される。
しかし、このキャラクターチェンジというのはランダムで選ぶ訳でもなく、
これまで使っていたキャラ以外から選べという制約も無いので、
大抵はさっきまで使っていたキャラがもう一度選ばれ、再び同じBGMが流れ始める事になる。
一応普通に他のキャラを選ぶ事もできるが…。

*2
このゲームでは出てこないが、溝口誠もDECOの別ゲーム『JOE&MACリターンズ』の雑魚敵として登場している。
一画面の敵全てが溝口という状況に『トリオ・ザ・パンチ』の状況を思い出したプレイヤーも多いだろう。
また、同ゲームでは敵全員カルノフというステージも存在する(ちなみにチェルノブはアイテム扱い)。


最終更新:2023年07月17日 00:51