ニャルラトホテプ


小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品を始めとする、クトゥルフ神話などに登場する邪神。
日本語では他にナイアーラソテップ、ナイアルラトホテップ、ニャルラトテップ、ナイアーラトテップなどとも表記される。
この項目ではできる限り「ナイアルラトホテップ」と表記することにする。
這い寄る混沌での名前の元ネタともなっている、クトゥルフ神話(「クトゥルー神話」「ク・リトル・リトル神話」とも)に登場する。
外なる神(オーガスト・ダーレス*1の分類による)の一柱。人間には及びもつかない高次元の何か。所謂邪神。
TRPGなどでは後述するアザトースの眷属で我々とは異なる次元に存在するという意味で「外なる神々」、つまり「蕃神」として扱われている。
クトゥルフ神話における旧支配者とは人類誕生以前より地球を支配していた邪神的存在の事。

クトゥルフ神話の原作者たる「御大」ことハワード・フィリップス・ラヴクラフトの短編『ナイアルラトホテップ』で初登場する。
英語の綴りは「Nyarlathotep」。その名前の内、「ナイア(Nya)」は西アフリカの部族の間で使用される神の接頭語、
「ル(R)」は古代エジプト語で「呪文」、「アト(at)」は「瞬間」という意味であり、
「ホテップ(hotep)」は「満足する」という意味だという。
その為人間に名前を呼ばれるようになったのは古代エジプトからだと言われている。
「ホテプ」がそもそもエジプトの、神や王、高級神官などの神聖とされる立場の者の名前によく使われる言葉である。
実際「顔のない黒いスフィンクス」と言う異名もある。
最も有名だと思われるピラミッドの近くにある巨大なスフィンクスは顔が破壊された跡があり、
いつ、誰が、なぜ破壊したのか諸説あるのだが、クトゥルフ神話では「元々顔がなかった」とされている。
エジプトで神として崇められていたナイアルラトホテプの偶像として立てられたのがスフィンクスということになっている。
「ナイアルラトホテップ」という名前自体も人間がつけたに過ぎず、本質を言い表しているとは言いがたい。ただし人間と言葉を交わす貌はこの名前を名乗ることがあるので、少なくとも人間にこの名前で呼ばれることに異論はないらしい。
そもそもクトゥルフ神話の怪物の名前は人外の言葉を強引に人間の文字にしたと言う設定なので
正しい発音というものがなく(人間では正しく発音できない)、元ネタの名前が統一されていないのもその為。
加えて日本語訳版では訳者や時代の違いによるカタカナ音訳の揺れもあるため、余計に種類が増えてしまっている。
(正しく発音するために「唸るように吠えるように、あるいは咳をするように」というような想像するのも困難な発音方法が書かれている)

モデルはラヴクラフトが夢で見たと言う、エジプトから現れたナイアルラトホテップと言う人物で、
作品では「暗黒の男」として登場している。
ナイアルラトホテップは様々な文明の地を訪れて、不思議な器械を組み立て、電気学や心理学を中心として
科学について多くを語り、各地で公演を行なった。
だが、その者が訪れる先では平安は消え去り、人々は凄絶な悪夢に苛まれるようになった。
その夢があまりにも恐ろしかった事から、最後ら辺をちょっとずつ手直しして、
かなり救いの無い結末を書き加えた短編『ナイアルラトホテップ』を発表したと言う。

わかっている性質は混沌そのものであり、存在自体に多くの矛盾を孕んでいる。その出自はアザトースの息子であったり、
アザトースの知性の具現であったり描く作家によっても、記述や伝承によってもまちまちで、
場合によっては意図的に因果関係や互いの事実が完全に矛盾していたりするが、おそらくすべて同時に真実なのである。
その在り方を正しく理解することは我々人間では不可能だろう。
一応主従関係として全能であり宇宙創造の力を持ちながら盲目白痴でもある「アザトース」に仕えている。
(そもそもこの世はアザトースの見ている夢に過ぎないと言われている)
場合によってはアザトースの子とも言われており、同じくアザトースから生まれた「シュブ=ニグラス」や
「ヨグ=ソトース」とは兄弟であるとされる事もある。
他にも「イホウンデー」を妻とし、従姉妹に「マイノグーラ」と言う存在がいたりと、中々関係が広い。
アザトースには仕えてると言うよりは赤ん坊に対するようにあやしているとされる。名もない眷属の吹くフルートに慰められながら眠る主人の面倒を見る筆頭らしい。だが、この主人には支配されることによる憎悪があるだとか、見下して嘲笑しているとされることも多い。また、人間はもとより他の旧支配者達をも嘲笑い続けている。
それもあって、他の旧支配者が再び地球を支配しようとしたりする中、こいつの目的とは殆ど世界の混沌が目的のようである。

後にクトゥルフ神話がラヴクラフトの友人であったダーレスによって体系づけられた後は
“地”の属性を持ち、火の精と対立する事になった。
特に火属性に設定された旧支配者「クトゥグア」は天敵とされている。
基本的にニャルラトホテプはクトゥルフ神話中でも最強に近いとされる神性なのだが、無限の熱量を持つとされるクトゥグアは苦手らしく、
追い詰めようとしていた人間がクトゥグアを召喚することに成功した際は、人間を取り逃がしたうえ棲み処を完全に焼き払われている。

ダーレスの見解によれば、他の旧支配者が封印されてたりして身軽に動けない中にあって、
何故か唯一拘束されている描写が無い存在でもあり、他の旧支配者の場合が、人間の方から首を突っ込む事で
存在を確認出来る場合に対し、殊更自分から人間に関わる事が多い。
後にロバート・ブロック(『サイコ』の原作者。ラヴクラフトのファンであり、生前の御大と交友を持っていた)の
長編『アーカム計画』では舌まで真っ黒な黒人のナイ神父の姿を取ったり、科学者として核兵器開発に携わったりしたと言う。
勿論人間同士の諍いを煽る為であり、世界の各地でこんなことを繰り返しているのだろう。
宇宙規模で暗躍しているはずなので、他の星の知的生命体の文化にもちょっかいをかけていると思われる。
こいつを始めとした旧支配者達を核ごときで倒せると思ってはいけない。TRPGでは倒せなくもないが「その場限りに過ぎない」とある。
尤も原作(ラヴクラフト版)の『クトゥルフの呼び声』でのクトゥルフは、蒸気船の体当たりで引き裂かれてしまったが。
(ただし死んではおらず、数秒後には自己修復を開始している。『アーカム計画』では核で死滅してたが、気にするな!
まあ、死んだだけで「もうやつはいなくなった。やった!」と考える人間の尺度が矮小な訳で、
超常の存在にとって「死=滅び」という図式は往々にして当てはまらない。「死せるクトゥルー」は復活の時を待っているのである。

クトゥルフ神話に登場する他の存在が
  • 「目で見ただけで正気を失う。深海に”死んでいる”上で”封印された”そいつが放つ”海水によって
       その殆どが遮断された毒電波”によって感受性の高い人間たちは今でもよく発狂してる。
       復活して地上に姿を現したら世界が終わる」
  • 「その形を理解する途中で脳の容量が足りなくなって死ぬ」
  • 「その存在を”一目見る”ということが、この世に存在するあらゆる苦痛の全てを足したものより遙かに大きな地獄」
  • 並の星よりでかいので視界に収めることができない
というような出落ちじみた連中がごろごろ居る中で、
殆ど唯一 「人間と同じ価値観、言語を解し、少なくとも言葉による意思の疎通が出来る」 と言う非常に希有な存在であり、
その人気はクトゥルフ神話の中でも類を見ない程高い。
作家にとっても便利でありがたい存在だからか、後述にある作品でも様々な姿を取りながら登場している。

ラヴクラフトは中国文明に敬意を持ち、俳句を高く評価していたなど、アジア文化に興味を抱いていたと言われるが、
その俳句の故郷で、恐怖の体現のような存在がかような姿をするとは、恐らく想像だにしなかったろう。
ニコニコ動画内にも「ラヴクラフト最大の誤算」なるタグも大百科に存在するし、日本人の妄想想像力と言うのは凄い物である。
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とは言え人と同じ姿をしてるからと言って理解し合える存在とか思ったりしてはいけない。
本質は 人間の理解の届かない超常的存在 である事を忘れてはいけない。
無数の姿がある中でたまたまそういった性質を持った貌があるにすぎないということであり、
その中のニャルラトホテプの方に、自身と比べればあまりにも下等な人類に 合わせてやる 酔狂があるだけ。
直接手を下すより自滅させて嘲笑うのが好きなため、態々対話して交流を持つという回りくどい事をしている。

クリーチャーとしてのイメージでナイアルラトホテップを描写するときによく描かれる化身、
「月に吠えるもの」は円錐型の三本足に頭部から『血塗られた舌』と呼ばれる長い触手状の物体を生やしている。
誤解する人がいるが、これがナイアルラトホテップの本体という訳ではない。

その多くの化身が人間の姿を取る事も出来、創作では褐色の肌をもつ知的でスマートな美男子になる事が多い。
人間の姿をした化身には「暗黒の男」「白い男」「赤の女王」「教皇」などがいる。
正体を隠す気があるのか不明なあからさまなアナグラムの偽名を使用したり、
舌まで真っ黒で、褐色どころか漆黒の肌を持つ人間の姿で現れることもあるため『黒い人』とも呼ばれている。
ナイアルラトホテップを信仰する者は『星の智恵派』と呼ばれる宗教団体が特に有名である。
古代においては暗黒のファラオと呼ばれあまりに忌まわしいが為に
後世の記録から存在が抹消されたネフレン=カが特に熱心に信仰していた。
ネフレン=カが生きたまま閉じ込められたピラミッドの中には彼が死ぬまで書き続けた
過去から遥かな未来に至るまでの歴史が書き記されている。この歴史を見通す力はナイアルラトホテップに与えられたものである。

ナイアルラトホテップの化身とは単純に単一の「ナイアルラトホテップ」という何者かが化けているのではない。
それぞれの化身はあらゆる次元、空間に同時に存在することが可能で、意識が統一されているということもなく、
ある化身が別の化身に殺されてしまったという例もある。
化身ごとに知性も大きく差がある。辺境部族に言い伝えられるだけの蝙蝠のような姿をした弱い邪神の化身は、明らかに知性より獣の本能の方が強い。
見るものが耐えられないほどの美貌を持った女性、高名な魔術師、科学者の化身も確認されている。
「輝くトラペゾヘドロン」で呼び出される「闇をさまようもの」の姿では黒い翼と三つに分かれた燃え上がる目を備える、
巨大な滲みか煙のように見え、その光景が作中の召喚者の最期に見た物であったり、米国ウィスコンシン州中北部、
リック湖の周りに広がる「ンガイの森」にて登場した「夜(月)に吠ゆるもの」の姿は絶えず流動状態にある、
黒い無定形の原形質状の巨大な塊で、膨れ上がったり縮んだりする本体からは自在に鉤爪、手、触腕が伸び縮みしており、
顔のない円錐形の頭部と絶えず、半分獣じみた低い吠え声を発しているというかなりおぞましい姿を曝け出したり、
果てはコンゴ川上流に現れた「アフトゥ」は、生物でも物体でもなく、様々なものに働きかけてそれを己が肉体と化し、
最終的には地球そのものと同化、さらに他の天体へと広がってゆく“混沌”を、非常に明瞭に体現した存在として描かれた。
この他にも『自由に姿を変えることができる』化身もあるほか、邪教の儀式でただ焼き払われるだけの人形、
機械、方程式などの無生物の貌や『ただの人間』の貌も(無自覚な者も含めて)おそらく無数に存在している。
混沌もここに極まれりと言った所か。
ちなみに「千の貌」とはそのままぴったり貌が千個あるということではなく、”百足”とか”八百万の神”のような
とにかくたくさんあるという意味である。

なお、有名どころの貌はそれぞれが人間の姿をとることが可能なようである。
また、ナイアルラトホテプに信仰と贄を捧げ無数の貌の一つになった魔術師もいるとか。
ナイアルラトホテップは貌を持たないが千の貌を持ち、唯一無二の存在だが無数に存在し、
正体や本質といったものを化身ごとに備えている。こういった自己矛盾を混沌と共に内包しているのである。
繰り返すが、この存在を説明していけばいくほど矛盾して当然で、我々人間ごときには正しく理解ができないのである。
ちなみに儀式用の呪文はこちら。
(前述の通り人間の文字で書かれたこの呪文は正確ではないのだが、面白半分に唱えて
 偶々正しい発音をしてしまったとしても責任は持ちません)
 にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!
ナイアルラトホテップを称える言葉。無貌の神信仰に興味を持ったあなたに。
暗黒のファラオ万歳 ニャルラトテップ万歳
くとぅるふ・ふたぐん にゃるらとてっぷ・つがー
しゃめっしゅ しゃめっしゅ
にゃるらとてっぷ・つがー くとぅるふ・ふたぐん

もっと詳しく知りたい人はラヴクラフトの作品なら『ナイアルラトホテップ』『未知なるカダスを夢に求めて』
『魔女の家の夢』『闇をさまようもの』。ダーレスの作品『闇に棲みつくもの』。
R・ブロックの作品『無貌の神』『闇の魔神』『暗黒のファラオの神殿』『尖塔の影』『アーカム計画』を
読んでみてはいかがだろうか。

+ 他の世界のニャルラトホテプ(ネタバレ注意)


MUGENにおけるニャルラトホテプ

幽霊荘氏によって作成されたニャルラトホテプが存在する(最新版は2014年1月27日更新。axfcで公開されていたが、現在はファイルが消えている)。
製作動画も消されているため、目にする機会は乏しい。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm19818547

無貌の神だけあって様々な形態に変身できる。フォームチェンジとタイプチェンジがある。
フォームチェンジは武器が変わるが体格はノーマルフォームと変わらない。
+ 各フォーム解説
また、同氏のクトゥルフACTにも別仕様のニャルラトホテプが登場する。

出場大会

  • 「[大会] [ニャルラトホテプ]」をタグに含むページは1つもありません。


*1
なおこのダーレス、クトゥルフ神話をヒット作にのし上げた実績はあるものの、
「一般受けするようにと安っぽく改変した」とラヴクラフト原理主義者な一部ファンからの批判を受けている人物でもある。
……というのが割りと一般的な認識だが、事実は違う
ダーレスはラヴクラフトの友人であり、ラヴクラフト自身も様々な設定やシェアードワールドを公認していた。
そもそもからしてラヴクラフト自身、『ダニッチの怪』などで「科学の力で邪神に立ち向かう人々」を描いており、
ダーレスはクトゥルフ神話の認知を高めるため「オカルトアクション」の側面の強い作品を多く執筆した、というだけである。
作家の山本弘氏も、TRPG関連の著書にて上述の誤解を前提に氏をボロクソに言うという有様であった。
近年ではダーレスの象徴として語られがちな旧神の設定も、ラヴクラフト自身一枚噛んでいた事が判明している。

またラヴクラフトが開放したクトゥルー神話の著作権について、それらの管理者として振る舞い
使用に制限を設けようとしたなんて誤解もされる事もあるのだが実際にはぜんぜん違う。
むしろダーレスはクトゥルー神話に関する著作ならばそれがどんな内容であれ、積極的に支援していた。
それこそ、自分の作風を真っ向から否定する作品や批評だろうと受け入れていたのである。
彼がクトゥルー神話を盛り上げる為に設立した出版社「アーカムハウス」では、後進の育成にも積極的で、
ここで修行を積んで後に大成した作家もいる。
使用に制限を設けていたという誤解は、C・ホール・トンプソンという作家がアーカムハウスに無断でクトゥルー作品を書いた時
「クトゥルー作品を書くのならアーカムハウスに話を通してくれ」と手紙で頼んだぐらいであり
しかも、一作目に関しては「一度ぐらいなら」と何も言わなかった。
こうしたダーレスやその仲間達の努力により、アーカムハウスからは邪神を女体化した作品や、
人間が変身ヒーローとして邪神達と戦うなど、単なるホラーに捕らわれない様々な作風が生み出されて来た。
なんにせよ現代では用語を流用しても著作権問題になる事はなく、上の欄で挙げた様に多数の作品に這い寄る混沌が登場している。

また魔導書『ネクロノミコン』があちこち作品に登場した事で「世界一有名な 架空の 魔導書」と言う肩書きが付いてたりもする。
(「実在する魔導書」なら『死海文書』とかアレイスター・クロウリーの著書とかが有名)
そしてそこからクトゥルフ神話に興味を持つ人間が出てくると言う話になる。ぶっちゃけコミケが黙認されているのと似た様な話。

なおTRPG版では、四属性は「宇宙的恐怖にふさわしくない」(地水火風なんて地球レベル)として不採用になっている。
海の底に眠る 水属性の邪神 であるクトゥルフの毒電波が 海水に阻まれている お陰で人類が無事とかの話もあるし。
逆にこっちとかでは大方採用している。まぁ上述の通り「好きにしてね」が基本だし。
この属性も司っているということではなく、地球上でのあり方を元に設定されている(海底に封印されたことを逆手に取り、水棲生物から進化した種族を眷属として地球を侵略しようとしているから〝水の精〟)。設定したダーレス自身が作中でこの四属性を否定するようなことを書いていたりもする。


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