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---- *第4章 「戸惑いの中で」  小波は気が付くと、何も無い真っ白な空間に立っていた。 そこには壁も地面も天井も窓も扉もない。 まるで雲の上を歩いているような気分だ。 ここは、天国なのだろうか。しかし天国にしてはあまりにも殺風景 すぎる。 小波は恐る恐る一歩、足を踏み出した。 まわりにはなにも動くものは無い。 小波以外には。 そして永遠に続きそうな静寂が漂っていた。 小波はその静寂を破った。 「誰か・・・いませんか···?」 すると、きぃぃぃぃっっとなにかが開く音がした。 そして、一筋の光が見えた。 佐波は不思議な感触がする地面を蹴ってその光を追いかけた。 その先にあったものは---- 大きな、扉があった。 とてつもなく大きな純白の扉で、扉のまわりにはぐるっとそびえたつ高い塀があった。 小波はその巨大な扉に圧倒されて、しばらくそこに突っ立っていた。 その小波の体を一筋の光がてらす。 その一筋の光は、ほんの少しの扉の隙間からこぼれ出ていた。しかしその光はとても眩しかった。 (母さんたちはこの中にいるの···?) 小波は目をつぶって扉の中に入った。 (天国ってどんな所なのだろう…) 小波は歩きながら考えた。 (夢のようなファンタジックな感じじゃなくて案外殺風景かも…) 小波は目を開けた。 そこに広がっていたのは果てしない草原だった。 「綺麗…まるでグリム童話の世界だ…」 遠くの方にぼやっと一つのとんがった塔がみえた。 足に感じる草の感触が気持ちがいい。 小波は不意に駆け出した。 しゅうううぅぅ 小波の足元で何かが溶ける音がした。 足の裏が熱い。 小波はばっと後ろを振り向いた。 あんなに輝きながら生き生きと風にゆられていた花々が茶色いただの物体に変わっていた。 しかも、小波が歩いている所だけ。 ついさっきまで風に揺られてぴんぴんしていた草が ただの気持ち悪い物体にどんどん変化してゆく。 小波は必至に走った。 走って 走って たどり着いたそこはあのとんがった塔だった。 ---- 小波は黙ってぶきみな塔を見つめた。想像していたよりもとてもずっと高い。その間に猛者波が通ってきた草の上はどんどん枯れはててゆく。燃え移り行く火の粉のように周りの草も茶色くなってゆく。  ゴソゴソッと塔のてっぺんで音がした。見上げてみるときらきらと輝く地面に着くほどの金色の長い髪が垂れ下がっているのを見つけた。小波はふいにランプッチェルの名場面を思い出した。  とりあえず、声をかけてみるか。いつまでもこんなドロドロした所にいたくは無い。 「あのーすいませーん・・・」 「うぅ?」 その金髪の持ち主はひょこっと小さい頭を肘に乗せながらこっちを見つめた。かなりの美貌の持ち主だ。しかし少しミステリアスな感じがする。それもそうだろう。こんな偏屈な所にいるだけで十分変だと思う。  その美女は小波を見て一瞬驚きの表情を浮かべてからニヤリ、と笑った。かなり邪悪な笑みだ。 「悪魔の子か・・・」  美女の口から漏れたその言葉を聞いて小波は眉をひそめた。その言葉はどこかで聞いたような気がする。  美女の浮かべた恍惚の表情は一瞬のうちに消え、人のよさそうな笑みに変わった。どこか企んでいるような笑みだ。 「こんにちは。生長小波さん。」 「こここんにちは!!」  佐波は美女の豹変ぶりに驚きながらもなぜ名前を知っているのか疑問に思った。 「私は・・・っと、ここで話すのもなんだわねぇ。まあ上ってきなさいよ。」 「上るって・・・」  登るってどこを登るんだ!?髪の毛を登れってことなのだろうか? そりゃぁ確かにグリム童話ではそういうあらすじだけどここはグリム童話の世界ではあるまいし・・・小波が一分ほど戸惑ってうろうろしていると美女はくすりと笑っておかしそうに言った。 「裏手に階段があるわよ。」  小波は慌てて赤くなった顔を隠し、塔の裏側に回った。そこには確かに螺旋階段があった。  ぺたぺたぺた・・・という足音が聞こえ始めてから十分後。 「やっと着いた・・・」  三百段以上登りやっと頂上に着いた小波は膝に手をついて大きく嘆息した。何でこんな所に住んでいるんだろう。こんな所に住んでいるのではだれもこないんじゃないか。まあともかく着いた事に喜びを感じながら小波は目の前のドアをノックした。 「いらっしゃ~い」 のんきな声がドアの奥から聞こえた。入ってもいいのだろうか。 と、いきなりドアがギーッと開いた。小波は足を踏み入れた。  入ったそこは、とても不思議な空間だった。室内だと言うのにとても太い植物の根や蔓が四方八方にのた打ち回っている。根と根の間のドーム状になっている天井はとても神秘的に感じる。その下のロッキングチェアに美女は腰掛けていた。なぜか唖然として目をキョロキョロさせて自分の部屋を見渡している。そしてやっと小波に気づいたというように小波をじっと見つめてから「すごいわねぇ。貴方。」と呟いた。 「え?何がですか?」と、小波が問いかけると美女は小波を上から下まで見渡して「黒髪・・・翡翠色の瞳・・・」とわけの分からないことをブツブツ呟き、部屋の中をぐるぐると回り始めた。考え事をしているらしい。やがて何を思い出したのか深刻そうな顔をして部屋の隅にあった本棚を引っ掻きまわし始めた。 「あったーーーー!!!」  突然美女が大声を出した。見つけた黄ばんだ資料を見ている目はらんらんと輝いている。小波はびっくりしてずさささっと部屋の隅へ飛びさった。 「この子がねぇ・・・クックックック」  美しい顔をゆがませて笑うその美女はさっき感じた温和なイメージとはずいぶんとかけ離れていた。この美女はいったい何者なのだろうか。小波の背にぞくりと悪寒が走る。  部屋の隅に縮こまって震えている小波を見て美女は慌てて取り繕ったような笑みを浮かべた。 「こちらに座りなさい。」椅子を勧められ小波はびくびくと椅子に座った。向かい側に座った美女は柔らかな笑みを浮かべて言った。 「何か飲み物でも飲む?」 「紅茶でお願いします。」  言ってから小波はしまった、と思った。こんな所に紅茶はあるのだろうか。というより前に丁重に断るのが礼儀ではなかったのか。  小波がそんなことを考えていると美女がパチン、指を鳴らした。その音にびくりと肩を震わせた小波と美女の目の前に紅茶のカップが現れた。おずおずと手に取り匂いをかいでみると中身は紅茶だった。突然起こった出来事に唖然として美女を見つめると、美女は笑いながら「ミルクはいる?」と聞いてきた。 「いりません!」と今度こそキッパリ断ると、美女はあっさり「そうなの。私はいつもいれるのよ。」と言い、さらに指をパチンパチンと二回鳴らした。すると目の前にミルクの入った小さいポットと山盛りにお菓子の入ったバスケットが現れた。 「あの・・・」小波が分けが分からずにぽかんとしていると、美女は話をし始めた。 「まだ自己紹介が済んでいなかったわね。私の名はシクレット。職業は見たとおりの魔女よ。ここで色々な生体や零体の勉強をしているのよ。」 「私は・・・」自己紹介をしようとした小波を手で静止させ、シクレットはあとを続けた。 「名前は生長小波。形状は人間。つい最近両親を無くし、迷っているうちに此処、精霊の土地へ来た。」 「ちょっと待ってください!」小波はシクレットのはなしをさえぎり、つい先ほどから疑問に思っていた言葉を口にした。 「ここは天国じゃないんですか?」  しばらく黙っていたシクレットはぶっとふき出した。
---- *第4章 「戸惑いの中で」  小波は気が付くと、何も無い真っ白な空間に立っていた。 そこには壁も地面も天井も窓も扉もない。 まるで雲の上を歩いているような気分だ。 ここは、天国なのだろうか。しかし天国にしてはあまりにも殺風景 すぎる。 小波は恐る恐る一歩、足を踏み出した。 まわりにはなにも動くものは無い。 小波以外には。 そして永遠に続きそうな静寂が漂っていた。 小波はその静寂を破った。 「誰か・・・いませんか···?」 すると、きぃぃぃぃっっとなにかが開く音がした。 そして、一筋の光が見えた。 佐波は不思議な感触がする地面を蹴ってその光を追いかけた。 その先にあったものは---- 大きな、扉があった。 とてつもなく大きな純白の扉で、扉のまわりにはぐるっとそびえたつ高い塀があった。 小波はその巨大な扉に圧倒されて、しばらくそこに突っ立っていた。 その小波の体を一筋の光がてらす。 その一筋の光は、ほんの少しの扉の隙間からこぼれ出ていた。しかしその光はとても眩しかった。 (母さんたちはこの中にいるの···?) 小波は目をつぶって扉の中に入った。 (天国ってどんな所なのだろう…) 小波は歩きながら考えた。 (夢のようなファンタジックな感じじゃなくて案外殺風景かも…) 小波は目を開けた。 そこに広がっていたのは果てしない草原だった。 「綺麗…まるでグリム童話の世界だ…」 遠くの方にぼやっと一つのとんがった塔がみえた。 足に感じる草の感触が気持ちがいい。 小波は不意に駆け出した。 しゅうううぅぅ 小波の足元で何かが溶ける音がした。 足の裏が熱い。 小波はばっと後ろを振り向いた。 あんなに輝きながら生き生きと風にゆられていた花々が茶色いただの物体に変わっていた。 しかも、小波が歩いている所だけ。 ついさっきまで風に揺られてぴんぴんしていた草が ただの気持ち悪い物体にどんどん変化してゆく。 小波は必至に走った。 走って 走って たどり着いたそこはあのとんがった塔だった。 ---- 小波は黙ってぶきみな塔を見つめた。想像していたよりもとてもずっと高い。その間に猛者波が通ってきた草の上はどんどん枯れはててゆく。燃え移り行く火の粉のように周りの草も茶色くなってゆく。  ゴソゴソッと塔のてっぺんで音がした。見上げてみるときらきらと輝く地面に着くほどの金色の長い髪が垂れ下がっているのを見つけた。小波はふいにランプッチェルの名場面を思い出した。  とりあえず、声をかけてみるか。いつまでもこんなドロドロした所にいたくは無い。 「あのーすいませーん・・・」 「うぅ?」 その金髪の持ち主はひょこっと小さい頭を肘に乗せながらこっちを見つめた。かなりの美貌の持ち主だ。しかし少しミステリアスな感じがする。それもそうだろう。こんな偏屈な所にいるだけで十分変だと思う。  その美女は小波を見て一瞬驚きの表情を浮かべてからニヤリ、と笑った。かなり邪悪な笑みだ。 「悪魔の子か・・・」  美女の口から漏れたその言葉を聞いて小波は眉をひそめた。その言葉はどこかで聞いたような気がする。  美女の浮かべた恍惚の表情は一瞬のうちに消え、人のよさそうな笑みに変わった。どこか企んでいるような笑みだ。 「こんにちは。生長小波さん。」 「こここんにちは!!」  佐波は美女の豹変ぶりに驚きながらもなぜ名前を知っているのか疑問に思った。 「私は・・・っと、ここで話すのもなんだわねぇ。まあ上ってきなさいよ。」 「上るって・・・」  登るってどこを登るんだ!?髪の毛を登れってことなのだろうか? そりゃぁ確かにグリム童話ではそういうあらすじだけどここはグリム童話の世界ではあるまいし・・・小波が一分ほど戸惑ってうろうろしていると美女はくすりと笑っておかしそうに言った。 「裏手に階段があるわよ。」  小波は慌てて赤くなった顔を隠し、塔の裏側に回った。そこには確かに螺旋階段があった。  ぺたぺたぺた・・・という足音が聞こえ始めてから十分後。 「やっと着いた・・・」  三百段以上登りやっと頂上に着いた小波は膝に手をついて大きく嘆息した。何でこんな所に住んでいるんだろう。こんな所に住んでいるのではだれもこないんじゃないか。まあともかく着いた事に喜びを感じながら小波は目の前のドアをノックした。 「いらっしゃ~い」 のんきな声がドアの奥から聞こえた。入ってもいいのだろうか。 と、いきなりドアがギーッと開いた。小波は足を踏み入れた。  入ったそこは、とても不思議な空間だった。室内だと言うのにとても太い植物の根や蔓が四方八方にのた打ち回っている。根と根の間のドーム状になっている天井はとても神秘的に感じる。その下のロッキングチェアに美女は腰掛けていた。なぜか唖然として金色の目をキョロキョロさせて自分の部屋を見渡している。そしてやっと小波に気づいたというように小波をじっと見つめてから「すごいわねぇ。貴方。」と呟いた。 「え?何がですか?」と、小波が問いかけると美女は小波を上から下まで見渡して「黒髪・・・翡翠色の瞳・・・」とわけの分からないことをブツブツ呟き、部屋の中をぐるぐると回り始めた。考え事をしているらしい。やがて何を思い出したのか深刻そうな顔をして部屋の隅にあった本棚を引っ掻きまわし始めた。 「あったーーーー!!!」  突然美女が大声を出した。見つけた黄ばんだ資料を見ている目はらんらんと輝いている。小波はびっくりしてずさささっと部屋の隅へ飛びさった。 「この子がねぇ・・・クックックック」  美しい顔をゆがませて笑うその美女はさっき感じた温和なイメージとはずいぶんとかけ離れていた。この美女はいったい何者なのだろうか。小波の背にぞくりと悪寒が走る。  部屋の隅に縮こまって震えている小波を見て美女は慌てて取り繕ったような笑みを浮かべた。 「こちらに座りなさい。」椅子を勧められ小波はびくびくと椅子に座った。向かい側に座った美女は柔らかな笑みを浮かべて言った。 「何か飲み物でも飲む?」 「紅茶でお願いします。」  言ってから小波はしまった、と思った。こんな所に紅茶はあるのだろうか。というより前に丁重に断るのが礼儀ではなかったのか。  小波がそんなことを考えていると美女がパチン、指を鳴らした。その音にびくりと肩を震わせた小波と美女の目の前に紅茶のカップが現れた。おずおずと手に取り匂いをかいでみると中身は紅茶だった。突然起こった出来事に唖然として美女を見つめると、美女は笑いながら「ミルクはいる?」と聞いてきた。 「いりません!」と今度こそキッパリ断ると、美女はあっさり「そうなの。私はいつもいれるのよ。」と言い、さらに指をパチンパチンと二回鳴らした。すると目の前にミルクの入った小さいポットと山盛りにお菓子の入ったバスケットが現れた。 「あの・・・」小波が分けが分からずにぽかんとしていると、美女は話をし始めた。 「まだ自己紹介が済んでいなかったわね。私の名はシクレット。職業は見たとおりの魔女よ。ここで色々な生体や零体の勉強をしているのよ。」 「私は・・・」自己紹介をしようとした小波を手で静止させ、シクレットはあとを続けた。 「名前は生長小波。生長とかいて『おなが』とよむ。形状は人型だが人間ではない。つい最近両親を無くし、迷っているうちに此処、精霊の土地へ来た。」 「ちょっと待ってください!」小波はシクレットのはなしをさえぎり、つい先ほどから疑問に思っていた言葉を口にした。 「ここは天国じゃないんですか?」  しばらく黙っていたシクレットはいきなり肩を震わせはじめた。「シクレットさん!?」小波が驚いて椅子から立ち上がり駆け寄ってみると、その顔はおかしそうに笑っていた。どうやら必死に笑いをこらえているらしい。そこまで笑うことなのか。  しばらくしてやっと落ちつきを取り戻したシンクレットは再び話し始めた。 「ごめんなさいねぇ。確かに此処に初めてきた人はそう思うのかもしれないわね。でもまさか天国目当てに来るとは思ってなかったから。」再び笑いのツボに入りそうになったシクレットを押しとどめるように小波はまた質問した。 「じゃあ何で私はここに来ちゃったんでしょうか。私は病院の窓から飛び降り自殺したはずなのに・・・」  母と父のところに行くはずだったのに。 「そんなの答えは簡単。死んでないからに決まっているじゃない。」  小波はそれを聞いて頭の中が真っ白になった。 「でも私は絶対死ぬようなところから飛び降りたんです。下はコンクリートだったし。自分の首が折れる瞬間の痛さだって覚えてるんですよ!?」 「だ~か~ら奇跡的に死ななかったんじゃないのぉ?」  会話に飽きてきたのかシクレットの口調がなげやりになる。 「ねぇ、現世にもどりたい?」

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