私の学校生活は、とても平凡でつまらないものだと思う。
もちろん友達はいるけど、私は中学校で学んだことを忘れたりはしない。
自分で言うのはなんだけど、私は結構慕われている方だ。まぁ俗に言う八方美人みたいなものだと思うけれど。
それでも自分が一人だって事は変わらない。
些細なことで喜んで、些細なことでずどんと落ち込む。
そんなことを何べんも繰り返してきたのだ。
「完璧」に。
「完璧」になるためにはどうすればいいのか。
私はそれを自分を客観的にみて、今自分が何を思っているかを言葉に変換する。
それが言葉遊びみたいでとっても楽しい。
もやもやとした感情は、言葉に変換すると、それはもう過去のものに代わる。自分のものになる。
過去を愛する私は、過去に生きる。
あの頃に、約束したミズキに会うために。
もうすべてがどうでも良かった。
存在価値のない自分なんてもうどうでも良かった。
静かに消えてしまいたかった。
表向きはとてもやさしかった祖母の片鱗をみて、私はどんなに大人の世界が恐ろしいものだと知った。
もう生きていたくなかった。
もう『居場所』がない『私』はどこに行けばいいの?
どこにいればいいの?
降りしきるどしゃぶりの雨の中で、私は大声で泣いた。
大声で神を呪った。大声で神を冒涜した。
その叫びが聞こえたのかどうかは分からない。
でも、もしかしたらあの偶然の出会いは神が謀ってくれたのかもしれない。
「だいじょうぶ?」
背後から声がした。
そのときは雨に打たれて全身が冷え切っていて、おまけに裸足だったため、一瞬空耳かと思った。そのくらい、その声は慈愛に満ちていた。
私は後ろを振り向けなかった。そんな声をかけてくれる身内なんている訳がないことぐらい分かっていた。
「だいじょうぶ?」
その子はもう一度聞いた。空耳なんかじゃなかった。その子は黙って私の前に回りこむと冷え切った手を握ってくれた。ちいさいけれど、とても暖かい手だった。
その子は黙って私の手を引いて、あの洋館に入っていった。
洋館の中は暖かかった。その子の暖かさが部屋に満ちていた。
その子は私と同い年ぐらいの可愛い子だった。目は子どもらしくきらきらと輝いていて、そばにいるだけで私の心に暖かさが伝わった。
「名前は?」
その子はタオルを持ってきて私の身体を包んでくれた。ふわっと心地よい香りが立ち上る。
「・・・みずき」
たどたどしく私が答えると、その子は目を真ん丸くし、「私もミズキだよ」といった。
「おんなじ名前だね。なんだか神様が出会わせてくれたみたいだね。」
「かみさまを信じてるの?」
「うん。だって神様がミズキ達をつくってくれたんだもん。」
私は急にその子が憎たらしくなった。何でこの子はこんなにかみさまに愛されているのに私はこんなに不幸なんだろう。
「かみさまなんて嫌いだ!だってかみさまがママをころしたんだから!」
「おかあさんしんじゃったの?」
「・・・うん」
私は今までの事をいつの間にか話していた。母親が死んだこと、祖母に引き取られたこと、そして・・・祖母に見捨てられたことを。
「・・・大変だったね」
「あなたも私をあわれむの?」
もうあわれまれるのはこりごりだった。
「ちがうよ」
「ちがうってなにが?」
ミズキは黙ったままだった。そしてふいににっこりと笑った。
「ミズキも神にみはなされたんだ」
「ほんと?」
「でもいまちがうってわかった・・・だって」
そして不意に私の手をにぎった。
「ともだちをくれたんだもん」
「ともだち?」
「なまえもいっしょの。」
しかし私はぶんぶんと首を横に振った。
このこは、幸せの塊のような存在のようだった。
キラキラと輝く目、はきはきとしゃべる声、ほんのり赤く染まる可愛らしいほっぺた。
すべて、私が持っていないものだった。
「ミズキも、ひとりになるこわさをしってるんだよ」
「だから、みずきに居場所をあたえてあげる」
私は疲れていたのかもしれない。朦朧とした意識の中で、ただ、ミズキの可愛らしい声が耳の中に浸透していく。
「これからみずきはミズキになるの。ミズキもみずきになるの」
「みずきとミズキはいつもいっしょ。はなれててもこころはいつもいっしょ」
「ずっといっしょ」
私の家での居場所がなくなったその日、私は新しい居場所を得た。
『ミズキの隣』という居場所を。
それから私はいつもあの思い出の洋館に行った。洋館には生活に必要な物はほとんどそろっていたので泊まることもあった。祖母は最初のうちはいやそうな顔をしていたが、そのうちほって置かれた。そのような存在だっただから当たり前だ。
私はそこで、犬が縄張りを守るようにずっと見張っていた。
ミズキとの思い出をだれにも邪魔されない様に。
私の居場所を、奪われないように。
to be contunued..
.
最終更新:2008年01月28日 00:03