それは私の部屋の前で立ち止まった。
疲れたんだろうか。息が荒い。
息遣いが、ドア越しにでも聞こえる。
もっとも私の方が荒いかもしれない。
緊張と、恐怖で声が出ない。
それはドアノブをいじくるが、私が鍵をかけたせいで開くはずも無かった。
それは今までと同じようにドアを強引に開けようとしたんだろう。
どしん
床にまで通じる振動。
ミシミシとドアが悲鳴を上げる。
入られる。ついに侵入されてしまう。
ミズキと私とのたった二人だけの場所に・・・
「やめ、て・・・・」
私の役立たずな喉は、掠れた音しか出さない。
私の居場所を壊さないで。
此処が無くなったら私は・・・
どしん
二度目の体当たりの音。
ポロリと、元々必要なかったかのように、鍵がふっとんだ。
鍵があったはずの場所から覗くのは
くっきりと淡く光る
薄茶色の目
は い ら れ た
「やめてっ・・・・・・・・・・・・!
やめてやめてやめてやめてやめてやめて・・・・!」
私はドアのそばに座り込んで泣き叫んだ。
私の居場所を、壊さないで。
私を、壊さないで。
「うひゃっ!」
向こう側の人間は本当に驚いたのか素っ頓狂な声を出してドアから飛びのいた。
「やめてやめて、お願いですやめて下さいやめてやめてやめてよ・!」
私は叫び続ける。かすれてしゃがれ声になってきた。
「わ、わかった、な、何もしない。ホントに何にもしないからお願いだから黙ってくれ」
「でてって!はやくでてってよぉ・・・!」
もう自分が何を言っているのか分からない。
早く此処から追い出さないと
居場所をとられてしまう
私がなくなってしまう
「そんなこと言われたって・・・、」
「やだ・・・!やだやだいやだ・・・」
一時間もたっただろうか。
気づいたら私はドアに寄りかかっていた。
寝ていたのかもしれない。
「おちついた?」
ドア越しの衣擦れの音に気づいたのか、ドアの向こうから話しかけてくる。心地よい声は、すんなりと私の胸に収まった。
「具合はどう?・・・って聞いてももう死んでるんだから意味無いか。いやそもそも君は幽霊なのか?」
「えっ・・・と」
いきなりの筋道の無い話に混乱してしまう。
「俺はれっきとした人間だが。なぁ幽霊さんよぉ。」
「あなた・・・だれ」
いつの間にか幽霊にされている。
声が枯れたのか、かすれ声しか出ない。それが幽霊らしさを引き立てているのかもしれない。
「うーんお前が幽霊なんだったら、探検家ってとこかな」
「探検家が人様の家に不法侵入ですか」
「いやもうあんた人じゃないんだろ」
「・・・」
段々コントみたいになってきた。
しかし不思議とさっきまでの不快感は感じられなかった。
ドア越しに聞こえる声が心地よいからだろうか。
「では探検家さん、なんでこんな所に迷い込んだのですか。宝探しでも?」
「ああ、幽霊ってどんなモンかなと思って見に来た」
「・・・はぁ!?」
「ここ、幽霊屋敷って呼ばれてるの知ってた?」
「はい」
確かにこんなおんぼろ屋敷があるのなら幽霊の一人や二人いたっておかしくは無いだろう。そんな噂が立つのも仕方のないことかもしれない。
むしろその噂のおかげで人が寄り付かなくなるのなら大歓迎だ。
「俺一回人外のものに会ってみたくってさぁ。ちょっと入れるか試してみたわけよ」
「それで不法侵入に横暴な家宅捜索ですか」
「聞こえが悪いなぁ。探検家らしく敵のアジトへ侵入とか言えよ」
「それは想像上のヒーローの話です」
「・・・・まぁいいとするか。で?幽霊だからにはこっちに留まっている理由があるんだろ?なんかあるのか?望みを叶えて欲しいものとか」
「かえってください」
「はぁ!?此処まで来てそれは無いだろそれは」
「かえってください。お引取り願います」
「おい、ふざけるなよ」
そうして私たちを仕切っているドアをコンコンと叩いた。
「触らないで!でてって!」
途端に私は豹変し、大声を上げてしまった。
やっぱりこっちに入られるのはこわい。
「分かったよ。今日のところは帰る」
私の変貌振りにびっくりしたのかやや声がびびっている。
「またくるからな!」
その言葉に、私は恐怖を感じ
そして不覚にも嬉しさを感じてしまった。
to be contunued...