「うっ・・・ふぇっ・・・」
そいつは、めそめそと泣き続けていた。
ドア越しにでもわかる泣き声は、鬱陶しくてしょうがない。
「男なのに・・・」
私は思わず呟く。
私の好きなもの
・・・平穏
嫌いなもの
・・・それをかき乱す輩
「『男なのに・・・』なんてひどいでしょーオトコだって泣きたくなるときはあるんだってー」
・・・能天気な馬鹿
「あれ、何ため息なんかついちゃってんのさ」
無意識にため息をついていたらしい。
・・・この地獄耳め。
何でドア越しにでも呼吸音がわかるんだ?
「まぁいいからこの子の悩み聞いてやってよー幽霊さん」
・・・いつのまにか、私の居場所・・・この屋根裏部屋が、お悩み相談所になっていた。
「あれ、え、ちょっと応答ねがいまーす」
「えぐっ・・・うえぇぇーーーん!!」
・・・この男のせいで。。
そもそもは私のせいなのかもしれない。
自らをトレジャーハンターなどといって茶化すこの男は、毎日のようにこの屋根裏部屋にやってきた。最初のうちはひたすら無視していたのだが、こいつはしぶとくアラームのように話しかけてくるため、いやいや会話せざるをえなくなってしまった。
そんな、私にとってある非日常的な時間。。
「だからさーやっぱりコッチにいるって事はやっぱり思い残したことがあるんだろ?言ってみなよーいっちゃいなよーほらー」
「・・・うるさい」
今思った。こいつは無茶苦茶指示語が多い。会話が成り立っているのが奇跡だ。
「じゃあなんで死んじゃったわけ?」
そんなこと死んでいない私に答えられるものか。
・・・じゃぁなんで私は生きているんだ?
ふと、そんな疑問が頭に浮かぶ。
別に今すぐに死んだって、思いのこしなど・・・ない。
私が此処に在る理由は無い。
「生きることに・・・未練がない・・・」
これが私の答えなのだろう。
生きる、ということに必要性を感じない。
今すぐに死んでも良い。そういうぬるい覚悟。
ゴクリ、とつばを飲み込む音が聞こえ、長い嘆息のあと、
「そっか・・・」
そいつは、嘆息の延長上でそっか、と繰り返し呟いていた。
次の日。
「ねぇねぇ幽霊さんきいてよーー超すごいんだよーー!!」
いつにもましてハイテンションなソイツ。そして主語が無い。
「・・・・」
「じゃじゃーん!サプライズゲストぉ!!」
「え、臼井君、楽して死ねる所って此処?薄汚れたただの家じゃないか・・・あ、首吊りは痛いからやだよ僕。」
もう一人のキンキンした声の持ち主がしゃべる。
・・・嗚呼、こんなに私は短気だっただろうか。
親愛なる冒険者様は、哀れな自殺者(と思われている)私の前に、
「やっぱ今流行りの硫化水素がいいのかなぁ・・・」
新しき自殺者を連れて来なさった。。
「こんなに馬鹿だとは思わなかった・・・」
これはもう手遅れだと感じた、私の最後の言葉である。