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薄暗い部屋のなかで、少女はうっすらと目を覚ました。
「ここは・・・どこ?」
ぼんやりした脳で必死に思考回路をめぐらせた結果、どうやらここは病室だと分かった。
しかしなぜここにいるのかは、まだ分からなかった。
今日は何日なのだろう・・・
少女はがばっと起き上がると病室においてある棚の上にあった卓上カレンダーを見た。
「今日は4月5日か・・・」
そう。あの悪夢から1日経っていたのだ。
「昨日はなにをしたっけ・・・」
少女の頭の中がはっきりし始めると、昨日のことがだんだん映像化し始めた。
(たしか私は、血にまみれた部屋の上に立っていて・・・そして・・・)
あの悪夢が彼女の頭の中にフラッシュバックする。
どんどんあの家で感じたあの恐怖が脳裏によみがえってくる。
それを思い出した瞬間、少女は突然孤独に襲われた。
そしていっきに絶望の淵へたたき落とされた。
「ああぁぁ・・・」
堰を切った様に大声で
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」
と絶望の叫び声をあげた。
少女の頭には、絶望と恐怖しかなかった。
その声を聞いて、慌てて担当の医師が少女の元へ飛んで来た。
「どこか痛いところは無いか?」ときかれたが、
少女は聞かれても何も反応しない。
試しに医師がその華奢な体を揺さぶってみても、虚ろな目でこちらを見つめ返してくるだけだ。
その瞬間、医師は背中にぞわっと寒気が走った。
慌てて少女の肩をつかんでいた手を離す。
その手も至るところに鳥肌が立っていた。
 怖い
感じたのは純粋な恐怖。
この子は本当に人間なのだろうか。
一瞬、少女の眼の瞳孔が大きく開いた気がした。
この気持ちをなんと例えれば良いのだろう。
この恐ろしく人間とは思えない子を。
「悪魔の子・・・」
そう、悪魔の子供だ。
この子の体のどこかには絶対とても深い闇がある。
「お嬢ちゃん、聞いてるかな~?」
もちろん返事はなし。
「今おじさん医者さん呼んでくるからね~。だからおとなしく待っててね~」
そして医者は大きく首をブルンブルンと振ると精神科医を探しに行った。
その背後で少女はまたぱたんとベットに倒れた。

少女は無の世界にいた。頭の中がぐるぐるする。
遠い彼方のほうで知らない男の声がする。
まだだ。まだ現実に戻りたくない。
この何も考えなくていい場所にずっといたい。
そう思い、少女はまた静かに目を閉じた。
少女がぼんやりと目を開けると視界にはたくさんの人々の姿が映った。
この人達は誰?私を殺しにきたのだろうか・・・
そう考えた後で少女はふっと頬を緩ませた。
それでもいい。この悪夢を取り除いてくれるのならどうでもでもいい・・・
「~さーん、聞こえますか?」
イキナリ話しかけられた。
「聞こえたら返事をしてくださいねぇ~」
返事?
返事とは何?
どうやってするのだろうか。
知らない甘ったるい声の女は心配そうな顔をしてこっちを見つめている。
しかしその見方は動物を見るような目だった。
どうせその顔だって作り顔に決まっている。
ここの大人は絶対私の事を分かってくれない。
死にたい。。。
死んで父さんと母さんの所に行きたい。
少女が考えたのはそれだけだった。
少女はよろよろと起き上がった。
医師たちの顔に安堵の笑みが浮かぶ。
それもそうだろう。
少女はこの2日間、人間らしい動作はまったく何もしていなかった。
久しぶりに起き上がってみて、足ががくがくする。
少女はがらっと窓を開けた。
春らしい心地よい風が少女の髪をなびかせる。
「病室は暑い?」
あの甘ったるい声の女が作り笑いを浮かべて聞いてくる。
せめて最後ぐらいは笑っといてやるか・・・
少女は病院で初めて笑顔を見せた。
つられて医師たちも笑う。
少女は笑っている顔をいきなりもとの顔に戻し、医師たちに叫んだ。
「この偽善者!」
笑っていた医師たちの顔が凍りつく。
そして少女は窓のふちに足をかけ、空に向かって飛んだ。
(気持ちいい・・・)
少女は空を飛びながら、心からそう思った。
飛んでいる最中に、自分が飛び降りた12階の窓から悲鳴やら叫び声やらが聞こえる。
(何でこんなにすがすがしいんだろう・・・)
少女は昔母に自殺は絶対してはいけない事だ、と言われていた。
そのときは少女も死ぬことは恐ろしいことだと考えていたので震えながらその説教を聞いていたのであった。
でも今は違う。心から今この瞬間が幸せだと少女は感じた。
地面がどんどん近づいてくる。
「さよなら、千夏・・・」
最期になって親友の名前を呟き、そして
「バイバイ、生長小波。」と
自分の名前を呟いた。