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窓が無い監禁部屋に小波が入れられてからおよそ三十日間。あの日から食べ物も水も口にしていないというのに小波はピンピンしていた。といっても時計も窓もないので何日経ったかなんて分かるはずがない。
 あれからとんと小波のところに来訪者はいない。監視カメラの元での生活も慣れてしまった。それにしても・・・
「なんなんだろう、この体・・・」
 小波は体のあちこちをさする。まるで自分の体じゃないみたいだ。
 なぜ食べずとも飲まずとも生きているのか。だいたい人間が三十日間も誰とも会わずに生きていけるのだろうか。発狂するか廃人になるしかない。
「もう私は人間じゃないってことか。」
 押し寄せる孤独はじわじわと小波の体をむしばんでいく。
コツ コツ コツ
 かなり遠くの方から、ハイヒールの地を打つ音が聞こえる。またしても鋭い聴覚に頭がついていけない。 
 やがて、鉄製のドアがばんっと開いて、厳つい形相の男と、すらりと長身の美しい女が立っていた。
「どなたでしょうか・・・」
 小波はさっそく聞く。男の方は、小波がぴんぴんしているのに驚いているらしい。よく見たら緒方警部だった。
 小波はその目を覗き込む。
 入った、と思った瞬間にあふれんばかりの映像が頭になだれ込んできた。


「あの子が・・・まだあの子が生きていますっ・・・!!」
 そう研修医が叫んだとき、私は安堵と一緒に恐怖を覚えた。
「だから言ったでしょう緒方警部。」
 凛とした声とともに美女が緊迫した空気の部屋へと入ってきた。今いる部屋はモニター室。ここであの子の様子を見ているのだが・・・
 美女はモニターに一瞥くれるとふんっと勝ち誇ったような顔をしていった。
「賭けはわたくしの勝ちですわね。」
「それでもこんな虐待が許されると思ってるのか!!」 
「あら、どこが虐待だと言うんですの?あの子は見ての通り元気じゃない。」
「くっ・・・」
 私は押し黙った。言い返すことがない。
「だから言ったでしょう。警察はもう何もすることはないわよ。さっさとこれで手を引いた方が自分の身の為にもいいと思うわよ。」
 そういってばんっと札束の入ったスーツケースを机の上に置く。他の医師たちが目の色を変えるのが分かった。
「こんなの人身売買ではないか!!」
 そう怒鳴ると美女は唇を唇をゆがませてこう答えた。
「でも賭けを承諾したのはあなた自身でしょう。私は前に言ったわよねぇ。あの子が30日間耐えられたら私はあの子を引き取り、子どもとして育ててあげる。その代わりに病院側の多額の借金をわたくしが背負ってあげると。警部さん、貴方ももう帰った方がいいわよ。上層部からも手を引けって命令でてるでしょ?」
「そりゃそうだが・・・」
 管轄にされた仕事をいきなり解決したと言われて疑わない人がいる訳がない。この事件には何か裏がある。そう思ってきてみたら謎の美女がこの賭けを病院側に持ち出していたのだ。
「はやく手を引かないと警察、クビになっちゃうわよ?」
 そういってきゅっと自らの首を絞めるまねをする。これは脅しではない。上層部と何かしら繋がりがあるのは明らかだ。
「感謝しなさいよ。身寄りのいない可哀想な子を引き取ってあげるのだから。」美女が高らかな笑いを残して去ろうとする。
「ま、まってくれ!」
 私はとっさに叫んでいた。
「貴方の・・・名前はなんだ・・・?」
 会ってから一回も自己紹介などされなかったのだ。せめて名前だけでも小さな手ががりになるかもしれない。
 美女は一瞬驚いたような顔をした後に、自分の名を告げた。
「私の名はアノニマス。<名無し>よ。」