*&color(red){Advanced 3rd ◆VvWRRU0SzU } ワインレッドのカラーリングも眩しいF91がJアークの甲板に降り立った。 まるでストライクとその兄弟機、ストライクルージュのようだとキラは思った。 「シャギアさん、来てくれたんですね!」 「別にお前達を助けに来た訳ではない。私は私で、奴らに借りを返さねばならないだけだ」 油断なくゼストとダイゼンガーを見据え、シャギアは戦況を確認する。 ロジャーとアイビスは統夜とテニアに抑えられている。こちらの増援には来れそうにない。 アイビスはともかく、ロジャーの方は劣勢に見える。 同じ陸戦機ではあるが、騎士凰牙とヴァイサーガでは機動性に差があるためかロジャーは統夜を捉え切れてはおらず、細かな損傷が増えていくばかりだ。 なんとか持ち堪えているのは鞭の持つ固有能力らしい幻影、そしてロジャーの腕のおかげだろう。 そして仇たるテニアは、アイビスが技量的に上回っているためかこちらは優勢だ。 しかし時間稼ぎを目的とするテニアと仲間の救援を焦るアイビスでは精神面で前者が勝っている。 どちらも決め手に欠けているというところだ。 次に、眼前のゼストとダイゼンガーを観察。 いくらシャギアが新たな力に目覚めたとはいえ、この二機を同時に相手にするのはきつい。 Jアークの援護があるとはいえ、もう一機は欲しいところだ。 と、遠方で戦っていたサイバスターがこちらへと接近してくる。アキトを撃破したのだろう。 カミーユがここに加わればユーゼス・ガウルンの撃破も可能かもしれない。 だが、先のキョウスケとの戦いでそうだったように、カミーユとシャギアの全力は消耗が大きい。 ユーゼスの機体がキョウスケ並の力を持っているのなら、身動きが取れなくなったところをガウルンに狙われるかもしれない。 やるのなら一撃必殺。ユーゼスとガウルン、もろともに一撃で葬り去るしかない。 Jアークに保管されている反応弾。あれなら可能なプランだが、当然の帰結として爆心地にいるシャギア達も吹き飛ぶことになる。 条件はユーゼス達の機体を破壊するだけの力を持ち、攻撃範囲を任意で指定でき、その上こちらの消耗が少ない――そんな攻撃。 (早速、『アレ』が役立ちそうだな……!) 味方の機体にのみ通じる回線を開く。 ここから先は連携で勝負だ。 「こちらはシャギア、作戦を伝える。 カミーユ、下の統夜とテニアを抑えろ。ロジャー達では分が悪い。 ロジャー、お前は私と共にユーゼスとガウルンを抑える。 キラ、引き続き後方から援護。ただしエネルギーを消費する兵装は使わず言って一定量を確保しておけ。 そしてアイビス、君は一時後退、指定するポイントへ向かえ」 矢継ぎ早に指示を下す。アイビスの機体に座標を転送。 どう言うつもりだ、という声も上がらない。それなりには信頼されていると考えていいだろう。 サイバスターが進路を変更し、凰牙と渡り合っていたヴァイサーガへと斬り込む。 追従していたフラッシュシステム――ファミリア、がテニアを牽制し、その隙にロジャーとアイビスが離脱。 Jアークが後退し、空いた位置をF91が埋めその下方に凰牙が滑り込む。そしてブレンが虚空に消えた。 「おいおい、あんた何でそこにいるんだ? 俺はてっきり、弟を生き返らせようとしてるんだと思ってたんだがな。 それとも死んだ奴の事なんてどうでもいいってか? 薄情な兄貴だねぇ」 「貴様に私達兄弟の何がわかる。たとえ貴様がどう思おうと私の意志は変わらん。それにオルバの事ならお前が心配する必要はないさ。 ――そう、貴様らをオルバと同じ所に……いいや、欠片一つ残さずその存在を消し去ってやるのだからな!」 F91が両手に抜き放ったビームソードとサーベルが唸りを上げる。 過剰なエネルギーを供給され、そのサイズは三倍近くにまで膨れ上がった。 Jアークがゼストへと艦砲射撃を開始し、地を疾駆する凰牙が鞭とハンマーで注意を引く。 フリーになったF91は同じく孤立したダイゼンガーへ。 「動きが鈍い……そこだッ!」 ダイゼンガーはF91の三倍近いサイズ。機動性では遥かにF91が勝る。 一気に懐へ飛び込まれたガウルンは、舌打ちしながらナイフ型へ変形させた斬艦刀で迎撃を図った。 液体金属の剣と荷電粒子の刃がぶつかり合い――拮抗する。 パワーで勝るダイゼンガーは片腕で斬艦刀を振るっているのに対し、F91は両腕でなんとか抑え込んでいる状態。 ガウルンは残る左腕を握り込み、鋭いフックを放つ。 F91は急上昇し避けるが、そこはダイゼンガーの肩にマウントされた熱線砲・ゼネラルブラスターの射線内。 「喰らいなッ!」 「貴様がだッ!」 シャギアの仕込んだ一つ目の『切り札』、発動。 F91の腰部にマウントされた、六基の円盤状フィールドジェネレータ――プラネイトディフェンサー。 それが一気に弾け、F91の前面へと展開。 円盤は互いに位置を調節し、電磁領域を発生させる。 そこにF91のサイコフレームの共振――人の心の光が加わり、莫大な量のエネルギーが流れ込む。 F91がビームシールドを展開し、その周りを周回するディフェンサーが加速、やがて一つの障壁となる。 自身の全長を超える障壁を盾に、ゼネラルブラスターの只中へ突っ込んでいくF91。 ガウルンからは見えなかっただろう。 インベーダーの群れを百単位で消し飛ばす熱線砲の中を、黄金に輝く盾を構え正面から抜けて来るF91の姿など。 「何ィッ!?」 そして、唐突にダイゼンガーの眼前に現れたF91の両手にはヴェスバーの砲門が。 高速で連射されるビームがダイゼンガーの全身に着弾し、フィードバックする痛みがガウルンを灼いていく。 「が……ああああッ!」 「ここまでだ……消えろ、ガウルンッ!」 動きの鈍くなった――その厚い装甲から考えれば、不自然なほど――ダイゼンガーへ、再度抜いたビームの刃を振り下ろす。 「まだ……だぜッ!」 間一髪、その太刀筋の上に斬艦刀が滑り込みF91の刃が押し留められた。 ぎりぎりと、サイズの小さなF91が押し込むという奇妙な形の鍔迫り合いになる。 「クククッ……いいねぇ、ゾクゾクする。あんた、俺の想像とは違うが随分やるようになったじゃねえか」 「褒め言葉だと受け取っておこう。そういう貴様は、機体が変わった割に使いこなせてはいないようだな?」 攻撃を受けた直後や行動に移る瞬間、一呼吸停滞する機動についての事だ。 機体の問題ではないだろう。あの動き、どうもパイロットがまるで自分の身体を操る事に違和感を感じているように見える。 「まあ、ちょいと事情があってな。このまま殺り合ってもいいんだが……残念な事に俺のお目当てはお前じゃないんだな、これが」 「ふん……逃がすと思うのか?」 「最初に会った時なら無理だったろうがな、今のお前ならこうすれば――」 ナイフが大剣へと変化した。 来るか、と思って身構えると、 「――何ッ!?」 大剣が、槍のように『発射された』。 一直線に迫る剣を横に回避。当然、加速のついた剣は彼方へと吹き飛んで行く。 何のつもりだと訝しむ。唯一の武装をこうも簡単に手放す、その訳を。 ビットのように遠隔操縦できるのかとも思ったがそうではない。あれはただ、本当に投げただけだ。 一度発射すれば、突き進んで何かに当たることしかできないはず。 (待て……私の後ろにはッ!?) 振り返る――その先にはJアーク。ユーゼスとの戦いに集中し、迫る大剣に気付かない。 あれ自体は熱を発していないのだからレーダーにも反応しないのだろう。 舌打ちし、F91に後を追わせる。まずいことに剣先はまっすぐブリッジを狙っている。 後方のダイゼンガーを警戒しディフェンサーを配置したが、攻撃は来ない。 (何を考えている……? チッ、しかし今は!) 意識を集中し、ヴェスバーを高速モードに設定。 剣の進路を予測し、ブリッジの20m手前という位置で―― 「間に合えッ!」 発射。 矢のようにJアークを狙った斬艦刀の進路に、それ以上のスピードでビームが割り込む。 一発目。微動だにしない。 二発目。剣先が揺らぐ。 三発目。震動が刀身に伝わった。 そして四発目、ようやく芯を捉えた砲撃は剣に推進力とは異なるベクトルを与えその進路を乱す。 斬艦刀は半端な角度でJアークに衝突し、その船体に喰い込むことなく落下した。 息を吐く間もなく振り返る。だが、同時に違和感も感じていた。 ガウルンがこれだけの隙を見逃すほど間抜けだとは思えない。 なのにシャギアはまだ生きている。追撃らしい追撃もなく、どころか振り返った先にはそもそもガウルンの機体がない。 いや、遠目に後退していく鎧武者が見えた。その方向には統夜もテニアもいないはずだが。 「撤退した、のか? 奴が退く理由などないはずだが」 「シャギアさん、特機が急速に離脱していくのを確認しました。撃破したんですか?」 「いや、押してはいたがそこまでの損傷を与えていないはずだ。何か策があって退いたと見るべきだろう」 「そうですね……でも、とりあえずあの機体は無視していいと思います。こちらの戦闘に加わってもらえますか?」 「了解した」 常になく大人しいガウルンに言い知れない不気味さは感じるものの、あれだけ離れれば致命的な行動はとれないはずだ。 核や長距離砲撃ができる機体ならまだしも、Jアークの甲板に転がっている剣を見るにあの機体は剣戟戦用の機体のはず。 キラの言うとおり、今はより具体的な脅威であるユーゼスを排除する時。 話している間もJアークからは絶えず砲撃が行われているが、ゼストに目立った損傷はない。 それはこちらも同様なのだが、ユーゼスはガウルンにそれなりの期待をしていたのだろう。だから積極的に攻めてこなかった。 しかしそのガウルンがいなくなったとなれば本気で来るはずだ。 ロジャーに無茶を強いた分、ここからシャギアが巻き返さねばならない。 凰牙が飛ばしたハンマーを掴み、ゼストが逆に引っ張り返すのが見えた。 パワーで劣る凰牙はまるで畑の野菜のように引き抜かれ宙に舞う。 腹の砲塔から放たれるダークマター――おそらくはシャギアが乗っていたヴァイクランのべリア・レディファー――を、伸ばした鞭をゼストに巻きつかせ強引に軌道を変えて避ける凰牙。 だがその際ハンマーが巻き込まれ、一瞬で灰燼に帰す。 見て取ったシャギアは咄嗟に斬艦刀を拾い上げ、F91の全身を回して遠心力で持ち上げる。 重さが圧し掛かってくる前に加速。甲板から飛び出すぎりぎりの位置まで加速し、 「受け取れネゴシエイター!」 放り投げた。 大車輪のように回転する大剣がゼストの表面装甲へと突き立った。 そこへ凰牙がゼスト自身の身体を滑り落ちてきて、明らかに自身の全長を超えるサイズの剣へと『着地する』。 落下の勢いを活かし、刀身を蹴り付けた凰牙。 刀身それ自体の切れ味に加え重量400tを超える荷重が高速で圧し掛かり、強固なゼストの装甲をバターのように斬り裂いていく。 「き、貴様らぁっ!」 「どれほど強力な機体に乗っていようと、肝心の中身がお前ごときではな。手を抜いたままで我らを踏み潰せると思ったのか?」 「力に溺れる者はより強い力にて打ち滅ぼされ、呑み込まれる。あなたのことだ、ユーゼス・ゴッツォ」 着地し、斬艦刀を担ぎなおす凰牙。不思議とその姿は様になっているように見えた。 Jアーク、F91、凰牙の三機と相対し、ゼストは確実に疲弊している。 もちろんこちらの消耗も少なくないものの、アキトが敗れガウルンが撤退した今、流れは確実にシャギア達の側にある。 一気に決着をつけようと、無言の内にロジャーとキラがシャギアとタイミングを合わせ動く。 Jアークの反中間子砲が、ミサイルが。 F91のハイパービームソードが、ヴェスバーが。 凰牙のバイパーウィップが、斬艦刀が。 嵐のような攻撃がゼストの全身を少しずつ、だが確実に削り取る。 その渦中――ゼストの中心部で、ユーゼスは、 「……クク、クハハハハッ! いいだろう、認めようではないか。確かに私が甘かった、君達の機体を破壊しない程度に手を緩めようなどと。 これほどの傲慢、私も少々奢っていたのかも知れぬ。まだまだ甘い、目の前のご馳走に我慢できないようではな」 「……降伏する、という事ですか? 協力してくれるというなら、僕達もこれ以上は」 「降伏? フフフ……有り得んな。断じて、否ッ! この私の往く道に後退などないッ! 取り込めんと言うなら仕方ない、全て消し飛ばすまでッ! これだけは使いたくはなかったのだがな……貴様らがそうさせたのだ! 後悔する時間も与えん! 塵一つ残さず――砕け散るがいいッ!」 ゼストが、両腕の爪を伸ばし突き立てる――自身の胴体に。 鋭い刃が装甲を割り、吹き出る体液。否、流体状のラズムナニウム。 巨獣が苦痛の咆哮を上げる。それはまるで、この痛みすらも怒りに変えてお前達に叩き込むという決意の表れのようにも見えた。 「なんだ……何をしているのだ!?」 「キラ、敵機に強力なエネルギー反応を確認した。六つ……、六つのエネルギー源が露出するぞ」 トモロの言葉通り、ゼスト自身の詰めにより強引に割り開かれた胸部から六つの輝きが見えた。 一つ一つが戦艦を動かすに足るエネルギーを発している、円柱形の物体。 それはJアークのデータに残っていた『あるもの』と一致する。 そう、ネルガル重工が建造したオーバーテクノロジーの塊、地球と火星を股に掛けその名を馳せた名艦。 ――ナデシコ級一番艦『ナデシコ』。その心臓部、相転移エンジンと核パルスエンジン。 「テトラクテュス・グラマトン……!」 蒼い輝きが二つ、紅い輝きが四つ。 内部に埋め込まれていたそれらが強引に引っ張り出され、轟音を鳴らしながらその位置をずらしていく。 一つ目の蒼を上に、右下と左下に紅が二つ。 二つ目の蒼を下に、右上と左上に紅が二つ。 互いに繋がる輝きが形成するはヘキサグラム――六芒星。 「空間そのものに干渉する相転移砲の力を以ってすれば、貴様らなど木端も同然! 消し飛ぶがいい!」 ゼストが発するプレッシャーが爆発的に増加する。 その力――Jアークと、サイバスターと、F91と、あるいは先のキョウスケ・ナンブの機体が巨大化したものと。それらを足し合わせたとて届かない――! 「何だ、あの力は……!?」 「エネルギー反応、更に増大。あれが解き放たれれば、このエリア一帯は軽く吹き飛ぶぞ」 「こんな力があるなら……あのゲートだって破壊できるはずなのに! どうしてあなたは!」 「言ったはずだ……これだけは使いたくなかったと。ナデシコから奪った動力炉をフルに使い、それでも一発しか放てない。 一度撃てば蓄えたエネルギーは枯渇し、この形態を維持する力すらなくなる。それだけのエネルギーを喰うのだ。 撃った後に倒される可能性があるから使えなかった――逆に言えば、この一撃で全て消し飛ばせばいいだけの事……ッ!」 「ここにはあなたの仲間が、統夜やテニアだっているんだぞ! それなのに!」 「統夜、テニア、ガウルン、アキト……ふん、所詮は捨て駒だ。私に並ぶ者など――『あの男』を置いて、他にはいないのだッ!」 「貴様一人であの主催者を倒せるとでも思っているのか!?」 「フフフ……その事も考えているさ、ちゃんとな。ネゴシエイター、貴様の持つデータウェポン。その本質は電子生命だ。 たとえ貴様の機体が砕け散ったとしても、物質に干渉する攻撃ではデータウェポンは傷つかない。 貴様という契約者がいなくなればデータウェポンは解放される。どこにいるか知らぬがもう一人の契約者の娘も探し出し、始末すれば……! 銀河を支配する力を持つデータウェポンは全て私の物となる! その力があればゼストは必ず超神へと進化する――絶対の存在となるのだ!」 六芒星が放つ光はいよいよ強まって、今にも溢れ出しそうになる。 止めようとした気配を察したユーゼスは、 「フハハ……無駄だ! これだけのエネルギーが収束しているのだ、貴様らの貧弱な武装では貫けはせん!、」 「キラ、奴の言う通りだ。あのエネルギーは物理的な攻撃をも遮る障壁だ。生半可な攻撃では突破できん。 最低でもサイバスターのコスモノヴァ並の火力が必要だ」 「凰牙のファイナルアタックでは無理なのか!?」 「ダメだ。突破できなければそのエネルギーすら滞留し、奴の力となる。一撃で破壊しなければ」 「じゃあ、カミーユを呼ばないと!」 「待て、あの力は多大な消耗を強いる。今彼に抜けられる訳にはいかん」 カミーユへと連絡しようとしたキラを、一人冷静なシャギアが制止する。 カミーユは今も統夜と剣を交えている。 一体この短時間に何があったのか、蒼い騎士は風の魔装機神と互角にやり合うほどに鋭い動きを見せていた。 剣を交わしたと思えばその姿は陽炎のように揺らめき、サイバスターの背後に。 カミーユのセンスと抜群の機動性を持つサイバスターだからこそその加速についていく事ができる。 地上の、しかも接近戦に置いてはヴァイサーガは今やサイバスターと肩を並べている。 新たに発現したらしいビットは、テニアとそのスレイヴが抑えている。 数にして三対六。個々の力は上回っていても、それを操るカミーユが統夜との戦いに気を取られているためか集中し切れておらず、動きに精彩がない。 「じゃあどうしろって言うんです! 他に方法が……!」 「落ち付け、キラ・ヤマト。戦いとは一手二手先を読んで手を打つものだ。そら――来たぞ。私のもう一つの奥の手だ」 シャギアが指し示す先に現れたのは――バイタルジャンプしてきたネリーブレン。一人後退していたアイビスだ。 ただし、そのブレンが抱えているのはキラとロジャーは初めて見るものだった。 ブレンが背負う、ブレン自身より大きな荷物――ユーゼスが目を剥いた。 「Jカイザーだとッ!?」 「ほう、知っていたか。だとしたら貴様はやはり甘い――こんな大物を、破壊も利用もせずに放りだして行くのだからな!」 「それは奴に……バーニィに破壊されたはずだ!」 「機体の事なら確かに木端微塵だったさ。しかしどういう訳か、この大砲だけは機体が庇うようにして守っていた。 案外、そのバーニィとか言う奴が残したのかも知れないぞ? お前がやってきた事のツケを払わせるためにな!」 Jアークの甲板へF91が着地し、ブレンが運んで来た砲台をその目前に下ろす、というか落とす。 F91が紫電を纏う両腕を振りかぶり、 「カイザァァァァコネクトォッ!」 Jカイザーへと叩き付ける。 カミーユの持つオクスタンライフルと同様、所有機が破壊されたこのJカイザーもまた誰しもが使える武装として開放されたのだ。 だがもちろん、F91単体では莫大なエネルギーを必要とするJカイザーを撃てるはずがない。 シャギアの脳裏に『月の子』と文字が踊る。 この武装はそうやってエネルギーを調達していた。なら話は簡単だ。 月、と言うのも縁起が良い。何故ならそれはシャギア自身にとっても馴染みが深いものだから。 「キラ・ヤマト! JアークのエネルギーをF91へ回せ!」 「えっ……はい、わかりました!」 月の子に匹敵するだけの力は爆発的なエネルギーはここにある。 三重連太陽系・赤の星の遺産。 所有者の命の鼓動――勇気に呼応し、莫大な力を発生させる無限情報サーキット、Gストーン。 そのGストーンをより実戦向きに改良し、破格の高出力を叩きだす規格外のジェネレータ――Jジュエルが。 シャギアの言葉通り温存され、蓄積されていたJアークのエネルギー。甲板に立つF91へと光のラインが走り、流れ込んでいく。 エネルギーを供給され、F91の全身を再び深紅の輝きが包み込む。 翼を広げ、予想される反動に耐える姿勢を取る。 展開された六基のウイング、構えられた巨大な砲身――まるで『あのガンダム』のようだとシャギアは笑う。 ゼストの蓄えるエネルギーからすればごく小さい、しかし一点を突破するには十分すぎる力がJカイザーへと収束する。 ゼストの方はエネルギーがまだ収束しきっていない。 しかし回避するにも機体を動かすだけの力がない。 一撃で葬らんと機体に回すエネルギーを全て攻撃に叩き込んだゆえだ。 「ユーゼス・ゴッツォ……これは貴様の過去だ。貴様が利用し、踏み付け、ボロ屑のように捨てた者達が、貴様を粉砕するッ!」 「馬鹿な……馬鹿な! 今この時になって私を阻むのか、ベガ! バーニィ! 貴様ら如き愚昧が、この私を――ッ!」 泡を喰ったようなユーゼスの声。 ベガ、そしてバーニィという名をシャギアは知らない。 だがわかる事が二つ。 一つは放送で呼ばれた名前である事、もう一つはおそらくユーゼスに利用されたのだという事。 面識もない、さして興味もない。 だが今この瞬間だけはこう思ってやってもいい、とシャギアは思う。 ――お前達の無念、私が晴らそう! この一撃で奴を終わらせる! Jアークからエネルギーを供給される。 騎士凰牙が膝立ちになってF91を後ろから支える。 ネリーブレンがF91の手に自らの手を重ね、少しなりともエネルギーを上乗せする。 キラの、 ロジャーの、 アイビスの、 そして見も知らぬ仮面をつけた女、純朴そうな青年の顔がシャギアの意識を通り過ぎ、 ――マイクロウェーブ、来るッ!―― ――あなたに、力を―― ――月は出ているか―― 「――――〈J〉ジュエルカイザーエクステンションサテライトキャノンッッ!」 フッ、と笑みが零れた。 今だけは、私もお前達に倣おう――! 「発射ァァァァ―――――――――――――――――――――――――――――――――――ァッ!」 →[[Advanced 3rd(2)]]