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*&color(red){謀 ―tabakari― ◆7vhi1CrLM6}  獣が低く唸るような空気の震える音を耳にして、ゆっくりと起き上がる。  瞼が泥のように重い。だが、そのまま無視して寝続けるというわけにもいかない。  袖をまくって時計の銀盤を確かめる。  何の変哲もないただの安時計。しかし、軍人にとっての必需品であり、唯一ここに持ち込めた所持品だった。  目を細めて眺めた針は、深夜0時をわずかに越えたところを指していた。  ――少し遅れたか。  立ち上がり、ジャンパーを羽織って、格納庫を出る。  空気が冷たい。それは体の芯に染みこんで来て、寝起きの頭を起こすには都合が良かった。  遠いところで火が灯っている。基地を囲むように広がっている森林が燃えているのだ。  最初は西の方が燃えていたが、今は消えている。そのかわりに南北の森林が火事になっていた。  おそらくはこの数時間をかけて火の手が回りこんできたのだろう。そして、やがては東の森に火が灯る。  そういった明かりに晒された夜空は、やけに明るかった。  そこに三つのシルエットが浮かんでいる。  ローズセラヴィーの大きい影とメリクリウスの小さい影、それに航空機が一つ。  アルトの姿が見えないのが気になったが、一先ずは格納庫に引き返して、ファルケンを起動させた。  これでレーダーに反応があるはずだ。居所を示したつもりだった。  格納庫の一角に間借りしている事務所のような建物に入った。奥にデスク。手前には小さなテーブルとその両側にソファ。  右手前にユーゼス、その奥にキョウスケ。その向かいに自分。三人が次々と腰掛けていく。  部屋の中は真っ暗で埃っぽい。電気が点かないのだ。  スイッチをパチパチと切り替えていたベガが諦めて、隣に座った。  『電力が通っていないようだ』とキョウスケが軽く説明を添える。  そして、沈黙。空気が重い。押しつぶされるように頭が下がっていき、顔が俯く。  誰も彼もが気づいている。頭数が二つ足りない。そのことが指し示す意味を――  嫌な予感は基地を見たときからしていた。荒れ果てた状態、散乱する瓦礫の山、機体の破片。  それでもメディウス・ロクスの残骸は見当たらなかった。だから大丈夫だと必死に振り払ってきた考え。  どこで間違ったのだろう? ゼクスたちと二手に分かれ、マサキを探した――それが間違いだったのだろうか? 「では、話してもらおうか。ここで何があったのかをな」  ユーゼスの声にハッとして顔を上げる。  相変わらず感情の篭らない冷たい声。  それは感情を押し殺しているからなのだろうか? それとも感情というものを持ち合わせていないのだろうか?  どちらとも判別はつかなかった。 「いいだろう。基地に着いたところから話を始める」  そして、話し始めた男。その男の声もまた感情の在り所の分かりにくい声だった。 「殺しただと!!」  キョウスケの話が終盤に差し掛かり、ゼクス=マーキスとカズイ=バスカーク、二人の死に触れたとき、カミーユは立ち上がり叫んだ。  顔面は蒼白。しかし、視線は強く、責め立てるように目の前の男を睨みつけている。  視線を受けつつも、キョウスケは短く淡々と肯定の意を示した。 「そうだ」 「ゼクスさんとカズイをか!?」 「そうだ、俺が殺した」 「何故だ!!」  キョウスケの胸倉に掴み、今にも噛み付かんばかりの勢いでカミーユは叫ぶ。  その様子からは、ぶつけずにはいられない激情が渦巻いているのが見て取れる程である。 「基地を確保しなければならなかった。損傷の少ない状態でそれを実行するためには仕方がなかった。  奴もそれを望んでいた」 「嘘だ!! そうやって汚い大人は自分の都合のいいように解釈しようとする。  分からないのか? あんたにとっては仕方のないことでも、殺された側からしたらそれで終わりなんだぞ!!」 「言い訳をするつもりはない。俺を罵って気が済むのならそうしろ。だが――」  カミーユの腕を振り払い。逆に下からキョウスケが睨み返す。声には険しさが込められていた。  その威嚇と警戒の入り混じった態度は、狼が毛並みを逆立て低く唸っている様子に似ている。 「これだけは言っておく。奴は先を見極め、自らの命と基地を天秤にかけた上で、死を選んだ。  お前の言うように死んだらそれで終わりだろうと、死を怖れる奴ではなかった」 「そうやってすぐに自分の行いを正当化しようとする。便利ですよね、死人は決して喋らないのですから」 「何を言おうと事実は変わらん」 「でもあなたはその事実を変えようともしなかった。違いますか?」 「好きに受け取れ」  睨み合い。互いの視線が鋭くぶつかる。  その様子からはカミーユのみならず、キョウスケからも苛立ちが見て取れた。 「やめなさいっ!!!」  突然の怒声が割って入った。大人が子供叱るようなそんな大声だった。 「ここでいがみ合ったところで、死んだ人たちが生き返るわけでもない。何も変わらないわ。  カミーユ、ここであなたたちがいがみ合うことをゼクス達が喜ぶと思う? あなたが行動を共にした彼はそういう人だった?」 「それは……」  カミーユが言いよどみ、下を俯く。 「キョウスケ中尉、彼があなたを残したのはここで無駄に時間を潰すためではないでしょう」 「……その通りだ」  一度鋭く睨み返した後、ふっと体の力を抜いて、キョウスケは返事を返した。 「ならば話を続けろ、キョウスケ=ナンブ」 「……いいだろう」 「カミーユも座りなさい」  拗ねた様子を見せながらカミーユも再び席に着く。  ――くだらんな。  話を再開したキョウスケを脇目にユーゼスは思う、この一連の流れは実にくだらないと。  しかしながら、キョウスケ=ナンブの観察という点においては大いに役に立った。  最初に「俺が殺した」と言い放った淡々とした口調。その後のカミーユとのやり取りでみせた苛立った様子。  表面上は冷静さを失わずに保っているように見えても、その実、心の中では自分の行いに納得し切れていない。  だからこそ、カミーユの指摘に苛立ちを隠しきれなかったのだ、とユーゼスは判断する。  つまりは――  ――こいつも所詮、感情を制御しきれない人間か。  とは言え、表面上冷静を装えるだけ、カミーユよりマシな類ではある。方向性は違えどベガに近いのかもしれない。  キョウスケの話が終わる。思考を練りながらであっても、その話の内容は十分に頭に入っていた。  重要なのは基地に動力が通っていないことと周辺に無数の機体が朽ち果てていることぐらいだ。  それらを念頭に今度はユーゼスが口を開く。 「では次の動きだが、中尉はG-6の補給ポイントに向かってもらう。  ベガは中尉の誘導と護衛。補給ポイントは把握しているな?」  そこで一度言葉を区切り、テーブルに紙を広げて『首輪』という文字を綴った。 「補給後は北部にある二機のチェック。使えると思ったものは残骸でも構わん。持って来い。  南部の四機は私が行う。カミーユ、VF-22を借りるぞ。  カミーユはエネルギーをメリクリウスから基地に供給できるようにしておいてくれ。大規模なものは必要ない。  基地の一部機能の電力を賄える。それくらいのものでいい。それくらい出来るな?」  カミーユが頷くのを確認する。 「では一時間後に再集合だ。解散」  立ち上がり、各自がばらばらに事務所から出て行く。そのとき、後ろから声をかけられた。 「何の用かな、中尉」 「ユーゼス、一つ聞かせろ。アルトはどうした?」  仮面の奥底の目を細め、クッと喉元で笑いを噛み殺す。そして、あえて厭味に返事を返す。 「ああ、あれなら代わりを見つけたので棄ててきた。ゴミのように朽ち果てた屑鉄など、何の役にも立たないからな」  一瞬、目の前の男を取巻く空気がざわめく。その反応を愉しみつつ、言葉を投げかける。 「どうかしたのかね?」 「いや……なんでもない」  平静を装ってはいるが苦味を含んだ声。  ――決まりだな。  感情を内に込め、本心を語りたがらないタイプ。そう見て、ほぼ間違いはないだろう。  手駒としてはカミーユよりいくらか使いやすい。 「では中尉、一時間後にな」  そう言い残すと、ユーゼスは背中を向けて歩き出した。  一時間後、再び顔を揃えた四者は同じ格納庫の隅の事務所で顔を会わせた。  座る位置は前回と異なりユーゼスの正面にキョウスケ。その隣にベガ。そして、ベガ正面にカミーユとなっている。 「――の内、メディウスと虫型の機体は大破。原型を留めている二機も、一機はコックピットを潰され、もう一機は動力をやられている。  生存者は全機体ともなしだ」  ユーゼスが自身が見て来た内容を告げ、続けてカミーユがメリクリウスの動力で基地の一部を復旧したことを伝えた。  そして、最後にキョウスケとベガが補給ポイントが破壊されていたことと北部の機体の状態を説明する。 「つまりは目立った収穫はなしか……。他に何か言っておくべきことは?」  ゆっくりと満座を見渡す。反応は何もない。 「ならば私の話を聞いてもらおうか……」  悠然とした態度で言い、テーブルの上に二つの物を投げ出した。  それはガラスの表面をくるくると回転しながら滑り、中央でその動きを止めた。  キョウスケ、カミーユ、ベガ、三者の視線がそこに注がれる。その様を満足気に眺め、指先で自らの首輪を指し示しながらユーゼスは口を開く。 「こいつとその残骸と思われるものだ」 「どこでこれを?」 「完全な形で残っているほうに関してはここまでの道中で手に入れた。これはベガとカミーユも知っている。  安心しろ。人を殺して手に入れたものではない」  一瞬、カミーユの表情が曇るのが見えた。だがそのことを気にも留めずにユーゼスは続ける。 「こっちの残骸は虫型の機体の残骸から回収してきた。中尉、君が仕留めたという機体だな。  ここで一つ聞いておきたいことがある。中尉、他でもない君にだ」  キョウスケが視線を上げる。視線が合う。真っ直ぐにこちらを見据えた目。良い目だ。  視線をテーブルに落とす。つられてキョウスケの視線も下がるのが分かった。 「これと――」  指先で山火事の中回収した首輪を指し示す。 「これと――」  今しがた回収したばかりの残骸を指差す。 「――それ」  指先をゆっくりと持ち上げていき、向かいに座るキョウスケの喉元に突きつけた。 「全て形状が異なる。これとその他が異なるのはまだ理解できる。  だが、拾ってきた二つの形状が違う理由がいまいち分からない。何か思い当たる節はないか?」  しばしの沈黙。三者の視線が痛いほどキョウスケに集中する。  肌に浮いた汗が玉となって頬を伝わり、顎から滴り落ちる頃になったとき、キョウスケは重々しく、そして苦々しく口を開いた。 「俺は科学者ではない。専門的なことは何も分からん。が、こういう出来事なら以前にあった」  そうして語り始めた彼の話は、シャトル事故から始まり、見せしめとなったエクセレンという女性の説明を経て、彼女がアインストに憑かれた事件へと向かう。  そして、話は彼女を取り戻す為に異形のヴァイスリッターに付けられた赤い宝玉を砕いたことに触れた。同時に砕いた瞬間、ヴァイスの姿が元に戻ったことにも。 「つまりはその赤い宝玉が何らかの作用を施し、通常の機体を変異させていたということか?」 「細かい話は分からん。俺に言えるのはヴァイスの額の赤い玉を砕いたら元に戻ったということだけだ。ただ……」 「ただ?」 「ただ同じ部隊の奴が念のようなものがそこに集まっていると言っていた」 「受信機のようなものというわけか……可能性はあるな」  そう可能性はある。この首輪にも赤い宝玉は埋め込まれている。  しかしだ。残骸の方の宝玉こそ壊れているものの、この拾った首輪には宝玉は付いたままだ。  つまりは砕かれていないにもかかわらず形状が異なっているということだ。この違いは何だ?  ――悩んだところで始まらんか……。  あくまで現状では可能性の一つが示されたというに過ぎない。キョウスケ=ナンブはアドバイザーとしての価値を十分に見せた。  後は自分が調べ、判断をすれば良い。そのためには首輪のサンプルが足りない。一つしかないサンプルを砕くのは、リスクが大きすぎる。  一つ大きな溜息。思考をまとめる。  現状で優先すべき事項は二つ。手に入れた首輪の解析と新たなサンプルの入手。  その為に必要なのは、基地の見積もりと必要な設備の復旧。それに疲弊したファルケンの補給といったところか。 「……ふむ。こうして考え込んでいても仕方があるまい。  まずは動くことだ。中尉、G-8の補給ポイントに急行して補給を行ってくれ。護衛はカミーユ」 「ユーゼス!!」  ハッと顔を上げたベガが制止をかけて来る。それを無視して言葉を続ける。 「私は基地内の設備を見繕う。ベガ、君は基地の警護だ」 「ユーゼス、何故カミーユを。私が変わります」  しかし、ベガが食下がる。  おそらくは、一時間前のキョウスケとカミーユの状態から気を使ってのことなのだろう。  これはそういう女だ。  だからこそ押さえとして必要なのだが、ここでの口出しは論外だ。 「ファルケンは足の早い機体だ。カミーユのVF-22以外では迅速性を損ない、返って中尉を危険に晒すことになる」 「でしたら、私がVF-22かファルケンで」 「可変機に最も慣れているのはカミーユだ。ファルケンも馬鹿げた設定のお陰で中尉以外の者では満足に扱うことはできん。  それとも――」  ここでユーゼスは矛先をベガからカミーユに変える。  この場合、このままベガを諭し続けるよりは、カミーユのプライドを刺激するほうが効果的だった。  だからこそ、皮肉を込めてユーゼスはカミーユに問いかける。 「君が保護者に守られていなければ何もできない、というのなら話は別だがね、カミーユ。  なに、君もまだ両親が恋しい年頃だ。もしそうなら気兼ねなく言ってくれたまえ」 「結構ですよ。中尉の護衛くらい僕一人で十分です」 「ならば何も問題はない。本人が出来ると言っているのだ。違うか、ベガ」  グッとベガが押し黙る。  当然だ。キョウスケとカミーユ、二人の関係を危惧して言っているなどと、本人達を目の前にして言える女ではない。  だから、これで十分だった。 「中尉、一つ聞かせていただこう。先の話の彼女に植え付けられたアインスト細胞とか言うものは、死体にもなんらかの影響を及ぼすものか?」 「いや……わからないが、エクセレンは死ぬ寸前に助けられた。だが、まだ死んではいなかったはずだが……どうした?」 「いや、なんでもない。では解散だ……そうそう、中尉。道中にこれも取ってきて貰おうか」  そう言って、ユーゼスは自らの首輪を指し示し、笑う。 「できれば新鮮なやつが良い」 【ベガ 搭乗機体:月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー)  パイロット状態:良好(ユーゼスを信頼)  機体状態:良好  現在位置:G-6基地  第一行動方針:G-6基地の警護  第二行動方針:首輪の解析  第三行動方針:マサキの捜索  第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒  最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出  備考:月の子は必要に迫られるまで使用しません  備考:アインストに関する情報を手に入れました】 【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルⅡ(マクロス7)  パイロット状況:良好、マサキを心配  機体状況:良好、反応弾残弾なし  現在位置:G-6基地  第一行動方針:キョウスケの護衛でG-8補給ポイントへ向かう  第二行動方針:マサキの捜索  第三行動方針:味方を集める  第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒  最終行動方針:ゲームからの脱出またはゲームの破壊  備考:ベガに対してはある程度心を開きかけています】 【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ビルトファルケン(L) (スーパーロボット大戦 OG2)  パイロット状況:頭部に軽い裂傷、左肩に軽い打撲  機体状況:胸部装甲に大きなヒビ、機体全体に無数の傷(戦闘に異常なし)       背面ブースター軽微の損傷(戦闘に異常なし)、背面右上右下の翼に大きな歪み       EN60%、スプリットミサイル残弾ゼロ、オクスタンライフル残弾B2発W1発  現在位置:G-6基地  第一行動方針:G-8で補給を行う  第二行動方針:首輪の入手  第三行動方針:ネゴシエイターと接触する  第四行動方針:信頼できる仲間を集める  最終行動方針:主催者打倒、エクセレンを迎えに行く(自殺?)  備考:アルトがリーゼじゃないことに少しの違和感を感じています】  暗い階段を仮面の男が一人下っていく。その隠された表情は笑っていた。  最後に彼がキョウスケ=ナンブにかけた言葉。そこには一つの含みを持たせていた。  仲違いを見せたカミーユを同行させたのもその為だ。  持たせた含みの意味は――カミーユを殺せ。  だが、これは別に成っても成らなくても構わない。  成ればサンプルが一つ手に入るし、成らなかったところで現状が変わるわけではない。  焦点はこの僅かな含みにキョウスケ=ナンブが気づくのかどうか。  そして、気づいたならどう動くか。従うのか、気づかぬ振りを振舞うのか、それとも逃がすのか。  ――全ては余興だ。  クッと篭った笑い声が響く。  意外にも、この殺し合いを楽しみ始めている自分にユーゼスは気づいた。  他者を盤上の駒のように操る。その行為は理屈ぬきに面白い。  唯一つ気に入らないのは、自身も盤上の駒の一つにされているということだけ。  ――まぁ、いい。  階段を下りきったところで、左に曲がり通路を進んだ。  格納庫の端末から引き出した見取り図によればこの先にあるのは基地の発電施設。  その扉を開けつつユーゼスは呟く。 「まぁ、いい。私も新たな手駒を手にした。  私が駒ではなく指し手だと知ることになるのもそう遠くないだろう」  一度解散して再び集合するまでの一時間の間に、ユーゼスが新たに手に入れた手札は三つ。  一つは既にキョウスケらに見せた首輪の残骸。残骸とはいえ、六割がたが残っているそれは内部構造把握に大いに役立つ。  そして、二つ目は――  眼前の発電施設を抱き込むかのように横たわる一体の大型機を見上げる。  今は休止状態にあるメディウス・ロクス――その特徴をユーゼスは把握するのは簡単だった。操縦席に座る。ただそれだけの行為で情報が伝わってくるのだから。  そしてそれはメディウス・ロクスに限ったことではない。ブラックゲッターからも情報を既に引き出している。  進化を促すゲッター線、そして学習した情報を元に進化するAI1。  ――このAI1に私が分析したあの異能の化け物の情報を流し、取り込めば、その先は。 「ククク……ハハハハハハハハハハ!!!!!」  込み上げて来る愉悦を押さえきれずに笑う。ただひたすらに大声で。  後ろで何かが動いたような音がした。 「ここは……?」 「クク……ようやくのお目覚めかな」  そこには手にした三枚目のカード――バーナード=ワイズマンの姿があった。  支給品の入っていた袋の紐で、後ろ手に柱に縛り付けられたこの青年の価値はまだわからない。  役に立つようであれば使えば良い。何の役にも立たない屑カードなら、首輪に変わる。ただそれだけの存在だった。 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メリクリウス(新機動戦記ガンダムW)  パイロット状態:良好  機体状態:良好  現在位置:G-6基地地下発電所  第一行動方針:バーナード=ワイズマンの見極め  第二行動方針:AI1の育成  第三行動方針:首輪の解析・解除  第四行動方針:サイバスターとの接触  第五行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒  最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る  備考1:アインストに関する情報を手に入れました  備考2:首輪を手に入れました(DG細胞感染済み)  備考3:首輪の残骸を手に入れました(六割程度)】 【バーナード・ワイズマン(機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争)  搭乗機体:なし  パイロット状況:頭部に軽い傷(応急処置済み)、後ろ手で柱に縛りつけられている   現在位置:G-6基地地下発電所  機体状態:  第一行動方針:???  最終行動方針:優勝する】 【二日目1:20】 ----
*&color(red){謀 ―tabakari― ◆7vhi1CrLM6}  獣が低く唸るような空気の震える音を耳にして、ゆっくりと起き上がる。  瞼が泥のように重い。だが、そのまま無視して寝続けるというわけにもいかない。  袖をまくって時計の銀盤を確かめる。  何の変哲もないただの安時計。しかし、軍人にとっての必需品であり、唯一ここに持ち込めた所持品だった。  目を細めて眺めた針は、深夜0時をわずかに越えたところを指していた。  ――少し遅れたか。  立ち上がり、ジャンパーを羽織って、格納庫を出る。  空気が冷たい。それは体の芯に染みこんで来て、寝起きの頭を起こすには都合が良かった。  遠いところで火が灯っている。基地を囲むように広がっている森林が燃えているのだ。  最初は西の方が燃えていたが、今は消えている。そのかわりに南北の森林が火事になっていた。  おそらくはこの数時間をかけて火の手が回りこんできたのだろう。そして、やがては東の森に火が灯る。  そういった明かりに晒された夜空は、やけに明るかった。  そこに三つのシルエットが浮かんでいる。  ローズセラヴィーの大きい影とメリクリウスの小さい影、それに航空機が一つ。  アルトの姿が見えないのが気になったが、一先ずは格納庫に引き返して、ファルケンを起動させた。  これでレーダーに反応があるはずだ。居所を示したつもりだった。  格納庫の一角に間借りしている事務所のような建物に入った。奥にデスク。手前には小さなテーブルとその両側にソファ。  右手前にユーゼス、その奥にキョウスケ。その向かいに自分。三人が次々と腰掛けていく。  部屋の中は真っ暗で埃っぽい。電気が点かないのだ。  スイッチをパチパチと切り替えていたベガが諦めて、隣に座った。  『電力が通っていないようだ』とキョウスケが軽く説明を添える。  そして、沈黙。空気が重い。押しつぶされるように頭が下がっていき、顔が俯く。  誰も彼もが気づいている。頭数が二つ足りない。そのことが指し示す意味を――  嫌な予感は基地を見たときからしていた。荒れ果てた状態、散乱する瓦礫の山、機体の破片。  それでもメディウス・ロクスの残骸は見当たらなかった。だから大丈夫だと必死に振り払ってきた考え。  どこで間違ったのだろう? ゼクスたちと二手に分かれ、マサキを探した――それが間違いだったのだろうか? 「では、話してもらおうか。ここで何があったのかをな」  ユーゼスの声にハッとして顔を上げる。  相変わらず感情の篭らない冷たい声。  それは感情を押し殺しているからなのだろうか? それとも感情というものを持ち合わせていないのだろうか?  どちらとも判別はつかなかった。 「いいだろう。基地に着いたところから話を始める」  そして、話し始めた男。その男の声もまた感情の在り所の分かりにくい声だった。 「殺しただと!!」  キョウスケの話が終盤に差し掛かり、ゼクス=マーキスとカズイ=バスカーク、二人の死に触れたとき、カミーユは立ち上がり叫んだ。  顔面は蒼白。しかし、視線は強く、責め立てるように目の前の男を睨みつけている。  視線を受けつつも、キョウスケは短く淡々と肯定の意を示した。 「そうだ」 「ゼクスさんとカズイをか!?」 「そうだ、俺が殺した」 「何故だ!!」  キョウスケの胸倉に掴み、今にも噛み付かんばかりの勢いでカミーユは叫ぶ。  その様子からは、ぶつけずにはいられない激情が渦巻いているのが見て取れる程である。 「基地を確保しなければならなかった。損傷の少ない状態でそれを実行するためには仕方がなかった。  奴もそれを望んでいた」 「嘘だ!! そうやって汚い大人は自分の都合のいいように解釈しようとする。  分からないのか? あんたにとっては仕方のないことでも、殺された側からしたらそれで終わりなんだぞ!!」 「言い訳をするつもりはない。俺を罵って気が済むのならそうしろ。だが――」  カミーユの腕を振り払い。逆に下からキョウスケが睨み返す。声には険しさが込められていた。  その威嚇と警戒の入り混じった態度は、狼が毛並みを逆立て低く唸っている様子に似ている。 「これだけは言っておく。奴は先を見極め、自らの命と基地を天秤にかけた上で、死を選んだ。  お前の言うように死んだらそれで終わりだろうと、死を怖れる奴ではなかった」 「そうやってすぐに自分の行いを正当化しようとする。便利ですよね、死人は決して喋らないのですから」 「何を言おうと事実は変わらん」 「でもあなたはその事実を変えようともしなかった。違いますか?」 「好きに受け取れ」  睨み合い。互いの視線が鋭くぶつかる。  その様子からはカミーユのみならず、キョウスケからも苛立ちが見て取れた。 「やめなさいっ!!!」  突然の怒声が割って入った。大人が子供叱るようなそんな大声だった。 「ここでいがみ合ったところで、死んだ人たちが生き返るわけでもない。何も変わらないわ。  カミーユ、ここであなたたちがいがみ合うことをゼクス達が喜ぶと思う? あなたが行動を共にした彼はそういう人だった?」 「それは……」  カミーユが言いよどみ、下を俯く。 「キョウスケ中尉、彼があなたを残したのはここで無駄に時間を潰すためではないでしょう」 「……その通りだ」  一度鋭く睨み返した後、ふっと体の力を抜いて、キョウスケは返事を返した。 「ならば話を続けろ、キョウスケ=ナンブ」 「……いいだろう」 「カミーユも座りなさい」  拗ねた様子を見せながらカミーユも再び席に着く。  ――くだらんな。  話を再開したキョウスケを脇目にユーゼスは思う、この一連の流れは実にくだらないと。  しかしながら、キョウスケ=ナンブの観察という点においては大いに役に立った。  最初に「俺が殺した」と言い放った淡々とした口調。その後のカミーユとのやり取りでみせた苛立った様子。  表面上は冷静さを失わずに保っているように見えても、その実、心の中では自分の行いに納得し切れていない。  だからこそ、カミーユの指摘に苛立ちを隠しきれなかったのだ、とユーゼスは判断する。  つまりは――  ――こいつも所詮、感情を制御しきれない人間か。  とは言え、表面上冷静を装えるだけ、カミーユよりマシな類ではある。方向性は違えどベガに近いのかもしれない。  キョウスケの話が終わる。思考を練りながらであっても、その話の内容は十分に頭に入っていた。  重要なのは基地に動力が通っていないことと周辺に無数の機体が朽ち果てていることぐらいだ。  それらを念頭に今度はユーゼスが口を開く。 「では次の動きだが、中尉はG-6の補給ポイントに向かってもらう。  ベガは中尉の誘導と護衛。補給ポイントは把握しているな?」  そこで一度言葉を区切り、テーブルに紙を広げて『首輪』という文字を綴った。 「補給後は北部にある二機のチェック。使えると思ったものは残骸でも構わん。持って来い。  南部の四機は私が行う。カミーユ、VF-22を借りるぞ。  カミーユはエネルギーをメリクリウスから基地に供給できるようにしておいてくれ。大規模なものは必要ない。  基地の一部機能の電力を賄える。それくらいのものでいい。それくらい出来るな?」  カミーユが頷くのを確認する。 「では一時間後に再集合だ。解散」  立ち上がり、各自がばらばらに事務所から出て行く。そのとき、後ろから声をかけられた。 「何の用かな、中尉」 「ユーゼス、一つ聞かせろ。アルトはどうした?」  仮面の奥底の目を細め、クッと喉元で笑いを噛み殺す。そして、あえて厭味に返事を返す。 「ああ、あれなら代わりを見つけたので棄ててきた。ゴミのように朽ち果てた屑鉄など、何の役にも立たないからな」  一瞬、目の前の男を取巻く空気がざわめく。その反応を愉しみつつ、言葉を投げかける。 「どうかしたのかね?」 「いや……なんでもない」  平静を装ってはいるが苦味を含んだ声。  ――決まりだな。  感情を内に込め、本心を語りたがらないタイプ。そう見て、ほぼ間違いはないだろう。  手駒としてはカミーユよりいくらか使いやすい。 「では中尉、一時間後にな」  そう言い残すと、ユーゼスは背中を向けて歩き出した。  一時間後、再び顔を揃えた四者は同じ格納庫の隅の事務所で顔を会わせた。  座る位置は前回と異なりユーゼスの正面にキョウスケ。その隣にベガ。そして、ベガ正面にカミーユとなっている。 「――の内、メディウスと虫型の機体は大破。原型を留めている二機も、一機はコックピットを潰され、もう一機は動力をやられている。  生存者は全機体ともなしだ」  ユーゼスが自身が見て来た内容を告げ、続けてカミーユがメリクリウスの動力で基地の一部を復旧したことを伝えた。  そして、最後にキョウスケとベガが補給ポイントが破壊されていたことと北部の機体の状態を説明する。 「つまりは目立った収穫はなしか……。他に何か言っておくべきことは?」  ゆっくりと満座を見渡す。反応は何もない。 「ならば私の話を聞いてもらおうか……」  悠然とした態度で言い、テーブルの上に二つの物を投げ出した。  それはガラスの表面をくるくると回転しながら滑り、中央でその動きを止めた。  キョウスケ、カミーユ、ベガ、三者の視線がそこに注がれる。その様を満足気に眺め、指先で自らの首輪を指し示しながらユーゼスは口を開く。 「こいつとその残骸と思われるものだ」 「どこでこれを?」 「完全な形で残っているほうに関してはここまでの道中で手に入れた。これはベガとカミーユも知っている。  安心しろ。人を殺して手に入れたものではない」  一瞬、カミーユの表情が曇るのが見えた。だがそのことを気にも留めずにユーゼスは続ける。 「こっちの残骸は虫型の機体の残骸から回収してきた。中尉、君が仕留めたという機体だな。  ここで一つ聞いておきたいことがある。中尉、他でもない君にだ」  キョウスケが視線を上げる。視線が合う。真っ直ぐにこちらを見据えた目。良い目だ。  視線をテーブルに落とす。つられてキョウスケの視線も下がるのが分かった。 「これと――」  指先で山火事の中回収した首輪を指し示す。 「これと――」  今しがた回収したばかりの残骸を指差す。 「――それ」  指先をゆっくりと持ち上げていき、向かいに座るキョウスケの喉元に突きつけた。 「全て形状が異なる。これとその他が異なるのはまだ理解できる。  だが、拾ってきた二つの形状が違う理由がいまいち分からない。何か思い当たる節はないか?」  しばしの沈黙。三者の視線が痛いほどキョウスケに集中する。  肌に浮いた汗が玉となって頬を伝わり、顎から滴り落ちる頃になったとき、キョウスケは重々しく、そして苦々しく口を開いた。 「俺は科学者ではない。専門的なことは何も分からん。が、こういう出来事なら以前にあった」  そうして語り始めた彼の話は、シャトル事故から始まり、見せしめとなったエクセレンという女性の説明を経て、彼女がアインストに憑かれた事件へと向かう。  そして、話は彼女を取り戻す為に異形のヴァイスリッターに付けられた赤い宝玉を砕いたことに触れた。同時に砕いた瞬間、ヴァイスの姿が元に戻ったことにも。 「つまりはその赤い宝玉が何らかの作用を施し、通常の機体を変異させていたということか?」 「細かい話は分からん。俺に言えるのはヴァイスの額の赤い玉を砕いたら元に戻ったということだけだ。ただ……」 「ただ?」 「ただ同じ部隊の奴が念のようなものがそこに集まっていると言っていた」 「受信機のようなものというわけか……可能性はあるな」  そう可能性はある。この首輪にも赤い宝玉は埋め込まれている。  しかしだ。残骸の方の宝玉こそ壊れているものの、この拾った首輪には宝玉は付いたままだ。  つまりは砕かれていないにもかかわらず形状が異なっているということだ。この違いは何だ?  ――悩んだところで始まらんか……。  あくまで現状では可能性の一つが示されたというに過ぎない。キョウスケ=ナンブはアドバイザーとしての価値を十分に見せた。  後は自分が調べ、判断をすれば良い。そのためには首輪のサンプルが足りない。一つしかないサンプルを砕くのは、リスクが大きすぎる。  一つ大きな溜息。思考をまとめる。  現状で優先すべき事項は二つ。手に入れた首輪の解析と新たなサンプルの入手。  その為に必要なのは、基地の見積もりと必要な設備の復旧。それに疲弊したファルケンの補給といったところか。 「……ふむ。こうして考え込んでいても仕方があるまい。  まずは動くことだ。中尉、G-8の補給ポイントに急行して補給を行ってくれ。護衛はカミーユ」 「ユーゼス!!」  ハッと顔を上げたベガが制止をかけて来る。それを無視して言葉を続ける。 「私は基地内の設備を見繕う。ベガ、君は基地の警護だ」 「ユーゼス、何故カミーユを。私が変わります」  しかし、ベガが食下がる。  おそらくは、一時間前のキョウスケとカミーユの状態から気を使ってのことなのだろう。  これはそういう女だ。  だからこそ押さえとして必要なのだが、ここでの口出しは論外だ。 「ファルケンは足の早い機体だ。カミーユのVF-22以外では迅速性を損ない、返って中尉を危険に晒すことになる」 「でしたら、私がVF-22かファルケンで」 「可変機に最も慣れているのはカミーユだ。ファルケンも馬鹿げた設定のお陰で中尉以外の者では満足に扱うことはできん。  それとも――」  ここでユーゼスは矛先をベガからカミーユに変える。  この場合、このままベガを諭し続けるよりは、カミーユのプライドを刺激するほうが効果的だった。  だからこそ、皮肉を込めてユーゼスはカミーユに問いかける。 「君が保護者に守られていなければ何もできない、というのなら話は別だがね、カミーユ。  なに、君もまだ両親が恋しい年頃だ。もしそうなら気兼ねなく言ってくれたまえ」 「結構ですよ。中尉の護衛くらい僕一人で十分です」 「ならば何も問題はない。本人が出来ると言っているのだ。違うか、ベガ」  グッとベガが押し黙る。  当然だ。キョウスケとカミーユ、二人の関係を危惧して言っているなどと、本人達を目の前にして言える女ではない。  だから、これで十分だった。 「中尉、一つ聞かせていただこう。先の話の彼女に植え付けられたアインスト細胞とか言うものは、死体にもなんらかの影響を及ぼすものか?」 「いや……わからないが、エクセレンは死ぬ寸前に助けられた。だが、まだ死んではいなかったはずだが……どうした?」 「いや、なんでもない。では解散だ……そうそう、中尉。道中にこれも取ってきて貰おうか」  そう言って、ユーゼスは自らの首輪を指し示し、笑う。 「できれば新鮮なやつが良い」 【ベガ 搭乗機体:月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー)  パイロット状態:良好(ユーゼスを信頼)  機体状態:良好  現在位置:G-6基地  第一行動方針:G-6基地の警護  第二行動方針:首輪の解析  第三行動方針:マサキの捜索  第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒  最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出  備考:月の子は必要に迫られるまで使用しません  備考:アインストに関する情報を手に入れました】 【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルⅡ(マクロス7)  パイロット状況:良好、マサキを心配  機体状況:良好、反応弾残弾なし  現在位置:G-6基地  第一行動方針:キョウスケの護衛でG-8補給ポイントへ向かう  第二行動方針:マサキの捜索  第三行動方針:味方を集める  第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒  最終行動方針:ゲームからの脱出またはゲームの破壊  備考:ベガに対してはある程度心を開きかけています】 【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ビルトファルケン(L) (スーパーロボット大戦 OG2)  パイロット状況:頭部に軽い裂傷、左肩に軽い打撲  機体状況:胸部装甲に大きなヒビ、機体全体に無数の傷(戦闘に異常なし)       背面ブースター軽微の損傷(戦闘に異常なし)、背面右上右下の翼に大きな歪み       EN60%、スプリットミサイル残弾ゼロ、オクスタンライフル残弾B2発W1発  現在位置:G-6基地  第一行動方針:G-8で補給を行う  第二行動方針:首輪の入手  第三行動方針:ネゴシエイターと接触する  第四行動方針:信頼できる仲間を集める  最終行動方針:主催者打倒、エクセレンを迎えに行く(自殺?)  備考:アルトがリーゼじゃないことに少しの違和感を感じています】  暗い階段を仮面の男が一人下っていく。その隠された表情は笑っていた。  最後に彼がキョウスケ=ナンブにかけた言葉。そこには一つの含みを持たせていた。  仲違いを見せたカミーユを同行させたのもその為だ。  持たせた含みの意味は――カミーユを殺せ。  だが、これは別に成っても成らなくても構わない。  成ればサンプルが一つ手に入るし、成らなかったところで現状が変わるわけではない。  焦点はこの僅かな含みにキョウスケ=ナンブが気づくのかどうか。  そして、気づいたならどう動くか。従うのか、気づかぬ振りを振舞うのか、それとも逃がすのか。  ――全ては余興だ。  クッと篭った笑い声が響く。  意外にも、この殺し合いを楽しみ始めている自分にユーゼスは気づいた。  他者を盤上の駒のように操る。その行為は理屈ぬきに面白い。  唯一つ気に入らないのは、自身も盤上の駒の一つにされているということだけ。  ――まぁ、いい。  階段を下りきったところで、左に曲がり通路を進んだ。  格納庫の端末から引き出した見取り図によればこの先にあるのは基地の発電施設。  その扉を開けつつユーゼスは呟く。 「まぁ、いい。私も新たな手駒を手にした。  私が駒ではなく指し手だと知ることになるのもそう遠くないだろう」  一度解散して再び集合するまでの一時間の間に、ユーゼスが新たに手に入れた手札は三つ。  一つは既にキョウスケらに見せた首輪の残骸。残骸とはいえ、六割がたが残っているそれは内部構造把握に大いに役立つ。  そして、二つ目は――  眼前の発電施設を抱き込むかのように横たわる一体の大型機を見上げる。  今は休止状態にあるメディウス・ロクス――その特徴をユーゼスは把握するのは簡単だった。操縦席に座る。ただそれだけの行為で情報が伝わってくるのだから。  そしてそれはメディウス・ロクスに限ったことではない。ブラックゲッターからも情報を既に引き出している。  進化を促すゲッター線、そして学習した情報を元に進化するAI1。  ――このAI1に私が分析したあの異能の化け物の情報を流し、取り込めば、その先は。 「ククク……ハハハハハハハハハハ!!!!!」  込み上げて来る愉悦を押さえきれずに笑う。ただひたすらに大声で。  後ろで何かが動いたような音がした。 「ここは……?」 「クク……ようやくのお目覚めかな」  そこには手にした三枚目のカード――バーナード=ワイズマンの姿があった。  支給品の入っていた袋の紐で、後ろ手に柱に縛り付けられたこの青年の価値はまだわからない。  役に立つようであれば使えば良い。何の役にも立たない屑カードなら、首輪に変わる。ただそれだけの存在だった。 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メリクリウス(新機動戦記ガンダムW)  パイロット状態:良好  機体状態:良好  現在位置:G-6基地地下発電所  第一行動方針:バーナード=ワイズマンの見極め  第二行動方針:AI1の育成  第三行動方針:首輪の解析・解除  第四行動方針:サイバスターとの接触  第五行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒  最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る  備考1:アインストに関する情報を手に入れました  備考2:首輪を手に入れました(DG細胞感染済み)  備考3:首輪の残骸を手に入れました(六割程度)】 【バーナード・ワイズマン(機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争)  搭乗機体:なし  パイロット状況:頭部に軽い傷(応急処置済み)、後ろ手で柱に縛りつけられている   現在位置:G-6基地地下発電所  機体状態:  第一行動方針:???  最終行動方針:優勝する】 【二日目1:20】 ---- |BACK||NEXT| |[[Unlucky Color]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[・――言葉には力を与える能がある>・――言葉には力を与える能がある(1)]]| |[[私は人ではない]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[愛を取り戻せ]]| |BACK||NEXT| |[[未知との遭遇]]|ベガ|[[『未知』と『道』]]| |[[未知との遭遇]]|カミーユ|[[心、千々に乱れて]]| |[[火消しと狼]]|キョウスケ|[[心、千々に乱れて]]| |[[未知との遭遇]]|ユーゼス|[[『未知』と『道』]]| |[[獅子身中の虫]]|バーニィ|[[『未知』と『道』]]| ----

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