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心、千々に乱れて」(2008/03/24 (月) 21:06:23) の最新版変更点

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*&color(red){心、千々に乱れて ◆7vhi1CrLM6}  あくびをし、寝ぼけ眼を擦りながらカテジナー=ルースは起き上がった。  暗い闇の中手探りで灯りをつけるとレーダーを覗き込む。  何かが近づいてくる。そういう気がしたのだ。  根拠は何もない。ただ感じただけ、そういう気がしただけ、それでもそれは確信に近いものだった。  レーダーに映し出された二つの光点によって、程なくそれが正しいものだったと証明される。  レーダー類の不調のせいで距離はそう遠くない。  最初はかなり速い速度で接近してきていたのが、暫くして静止した。  おそらくはこちらの姿が見えない為警戒をしているのだろう。あるいは迷っているのかもしれない。  彼女は今湖の底に隠れていた。 「迂回をしてくれるようなら楽なのだけれどね」  あくびを一つ噛み殺してぼやく。  疲れが抜け切っていないのか、どうにも眠たかった。  接触を図るよりも今はまだもう少し寝ていたい。それが本心だ。  しかし、そんな思いを裏切るかのように光点がすっと接近を始める。 「やっぱりほうっておいてはくれないわよね」  女の見栄というか、習性のようなもので身支度を整えながら、思案を練り始める。  今の動きで分かったことがある。  まずは二人組という点でおそらくは好戦的な相手ではないということ。  そして、二対一という局面において一度動きを止めたということは、用心深い性質の持ち主がいるのか、あるいは戦力に不安が残るということ。  にも関わらず接近していたということは、捻じ伏せるか、逃げ切るか、どちらかの自信があるという現われ。  それを念頭において逃げるべきか、接触すべきかを考える。  逃げようと思えば逃げることは可能だった。  なにしろまだ互いに姿を見せてない上に、こちらは視界の悪い水中だ。  一度レーダーのレンジ外に抜けてから物陰に身を潜めれば、相手を撒くことは難しくない。 「だけど……接触すべきでしょうね」  いかにも乗り気でないといった態度。緩慢な動作でシートに腰を掛けなおす。  何かを潰したような感触があった。驚いて腰をずらしてみると、三種の樹脂マスクが出てきた。  あの核ミサイルに乗った男から得たボイスチェンジャー付きのそれは、正体を隠しつつ交渉するという点において、これほど都合の良いものはない。  だが、それを何の躊躇もなしにぽいっとコックピットの後方へ投げ捨てる。  理由は特にない。強いて言えば似合わないからである。  そういえばこのマスクを持っていたのも二人組だった。  核ミサイルなどというふざけたものを乗り回し、追い回してくれたことは、今思い出しても頭にくる。  だが、その二人はもういない。  カテジナ=ルース、彼女自身が手を下し核の炎で葬った。  理由は単純。必要ない、利用する価値もない存在だと判断したから。  その点、最初に出会った二人は違った。  ギャリソン時田とユウキ=コスモ。この二人は外れ機体引いた自分の盾になってくれたという面で非常に役に立った。  そして、熱気バサラと彼を知る一人の少年。彼らもまたラーゼフォンを運んできてくれたという点と、その性能を試させてくれたという点において役に立っている。  ならば、と彼女は思う。  ならば今度の二人組は何をもたらしてくれるのか、それを思うと気持ちが僅かに上向きに修正された。  既に距離はかなり近い。  いきなり攻撃を仕掛けられてもつまらない、と思い、ラーゼフォンをゆっくりと上昇させる。  湖面を抜け開けた視界に二機の人型機動兵器の姿が飛び込んできた。 「こんばんは。こんな夜更けに若い女の子に会いに来るものではないわよ」  眉間に皺を寄せて不機嫌を装い、口を尖らせる。  それで相手が機嫌を取ろうとすれば御の字。主導権を握ることができる。  だから殊更に嫌悪感を露にして言葉を続けた。 「もっとも、夜這いにでも来たって言うのならば話は別でしょうけどね」  むっとした様子を年若い方が顔に出すのが見えた。対して年嵩の男のほうの顔色は変わらず判断が難しい。  機体間の距離は遠くはない。しかし、不意をつけるほど近くもない。  そして、左右に分かれている。それもごく自然な動作でその配置についていた。  場慣れしているといっていい。 「何か不機嫌を買うようなことをしたのなら謝ろう。キョウスケ=ナンブという」 「カミーユ=ビダンです」 「カテジナ=ルースよ。何の用かしら?」 「単刀直入に聞く。敵か? 味方か?」 「敵よ。生き残れるのはただ一人なのだから、この世界にいるのは全員敵。  でも今のところ交戦の意志はないわ。あなたたちの出方によるけど……」  言い切り、動きを伺う。  嘘は言っていない。考え方にも不自然なところはないはずだ。  そのうえでどう出てくるのか、それに少し興味があった。最悪戦闘になる覚悟は出来ている。 「こちらにも交戦の意思はない。情報の交換を行いたいのだが構わないな?」 「構わないわよ」  そうして暫く情報の交換が行われる。  受け取った情報は、補給ポイントとG-6基地で交戦したという複数の機体、それに獅子を模した胸部装甲の機体について。  対して提供した情報は、ギャリソン・コスモ・バサラ、そして最初に交戦した黒いガンダムについて。  もちろん、情報に手は加えてある。  コスモ・バサラという味方を装った二人組に騙されて襲われ、同行していたギャリソンさんは死亡。自分も命からがら逃げ出した、といった塩梅にだ。  そうすることで二人と距離を置いている理由が説明できる。同時に争いの扇動にもなる。  見たところこの二人は戦闘慣れしている。そんな人間を二人も相手取るよりも、どこかであの二人と潰しあってくれたほうが得という算段だった。 「カテジナさんも一緒に来ませんか?」 「えっ?」  突然、予想外の言葉をかけられてはっと顔をあげる。  その言葉は青い髪の少年――カミーユ=ビダンのものだった。 「まだG-6基地には二人の仲間がいます。  そこのほうが一人より安全だし、上手くいけば殺し合いをしなくてすむかもしれない」  言葉を探す。  答えは決まっていた。しかし、頭の中に言葉が浮かんでこない。  何故――迷っているとでもいうのか?  ちらりとキョウスケという男の顔を盗み見る。  相変わらずの能面面。人工的な笑みの一つくらい浮かべてみせても損はないだろうにと思う。  だが、黙っているということは、黙認するということだろう。  基地に仲間がいるというのは、この男があえて伏せていたはずの情報だ。  それを口走っても止めない程度の信用は築けたということか。十分だ。これ以上の深入りは望むものではない。 「一緒に行きましょう、カテジナさん。あなたは殺し合いなんかしちゃいけない人なんだ」  何を根拠にそんなことを、と思う。  そう思った後で、ウッソに似てるなとふと感じた。  何処がではない。このカミーユと名乗る少年の容姿・性格はウッソのそれとは大きく異なっている。  纏っている空気も雰囲気も違う。  それでもこの少年から受けるプレッシャーは何処となくウッソに似ていた。  となると迷っている心はウーイッグに対する里心。未練か?  ――馬鹿らしい。  それで合っているのかは分からなかったが、ようやく胸の内に言葉が浮かんできた。 「無理だよ。少なくとも私はあなたたちを完全には信用できはしない。  そんな相手と一緒にいれるはずがないだろう?」 「何故ですか?」  そう。目の前の少年が放つ気はウッソのそれに似ており、私を惑わせ、苛立たせる。  この少年と同行するのは危険だ、と直感が告げている。 「甘い言葉を使って騙してくる者もいる。ここでは自分以外を信用できるはずがない。  お別れだよ、坊や。次は敵同士だ」  そう言い残し、逃げ出すようにラーゼフォンはその場から飛び去る。北に向かってただ一直線に、ただひたすらに。  煩わしい、と思う。何故私が逃げなければならないのか、とも思う。  だが、あの場から逃げ出したかったのは事実なのだ。  ――この私がいたたまれなくなったとでもいうのか? 馬鹿らしい。  情報は得た。  奴らはG-6の基地を本拠に行動している。ならばやることは決まっている。  これから出会う参加者全てに情報を吹き込み、送り込めばいい。善良そうな奴には危険人物が潜んでいると、危険な奴には参加者がいるとただ吹き込む。  それだけで奴らは勝手に潰しあい、やがて全滅するだろう。  そんなことを考えつつ十数分ほども飛んだときだろうか、唐突に一つの考えが頭を過ぎった。 「地球クリーン作戦やギロチンと同じ?」  腐らすものは腐らせ、焼くものは焼く。汚い大人たちは潰して地球の肥やしにしてしまう地球クリーン作戦。  そして、リガ・ミリティアのような反目するものを黙らせるためのギロチン。  この二つはザンスカール帝国が掲げるマリア主義の為の必要悪。  ならばこの殺し合いも危険因子を摘み、黙らせ、古いものを次代の肥やしにする必要悪? だったら何故―― 「何故、私が巻き込まれている?」  分からない。分からない。分からない。  頭の中が混乱し、思考にノイズがかかる。不愉快極まりない。  そして、ドンッと何か重くて巨大な塊に体当たりされたかのような衝撃が奔った。  ◆  そこは真っ白くてなにもない空間だった。  何故ここにいるのか?  ここは何処なのか?  不思議に思い、あたりを見回しているうちにテーブルが現れ、椅子が現れ、そして日常の風景が姿を現した。  黒髪の少女が金髪の少女を叱っている。  またコックピットにチョコでも持ち込んだのかと思わず苦笑いが漏れた。  やがて黒髪の少女を諌めるように軽い感じで赤毛の少女が割って入り、涙目になっていた金髪の少女がほっとした表情を見せる。  そんな日常の風景。  三人の少女が文字通り空から降ってきてここに飛ばされるまでの僅かな間に、幾度となく繰り返され、すっかり馴染んでしまった光景。  それが眩しくて思わず立ちすくむ。  不意に声をかけられた気がして振り向くと、二人の女性がそこに立っていた。  二人はただ笑い。ただ立っていた。  いや、よく見るとその口元は動いている。  だけど言葉は届かない。何故だか分からないが声は届いてこなかった。  でも、と統夜は思う。  そんな顔で俺を見ないでくれ、と。  俺はカティアもメルアも救えなかった。助けられなかった。  いや、助けようとすら思わなかったんだ。  そりゃ、気にはなったさ。  だけど、自分のことで頭が一杯で!  あんた達のことまで気が回らず!!  ただ……自分が生き延びることしか……選ばなかった。  仕方ないだろう。  一人しか、一人しか生き残れないんだ。  だから……  だから……  頼むから、そんな優しい顔でうれしそうにこっちを見ないでくれ。  そんな顔される資格なんて俺には……ないのだから……。  目の前の黒髪の少女は少し驚いたような表情を浮かべて、何かを口走り、そして深々と頭を下げた。  だけれども、言葉はやはり泡となって大気にとけ、届いてくることはなかった。  ◇  目を開けると目の前にぼやけた壁があった。  右手は毛布を掴み、体は猫のように丸まっている。  寝てたのかと思い、体を起こすと頬を伝って涙が零れ落ちた。  それを見て、我ながら女々しいと思う。  何故こんな夢を見たのか。  おそらくは覚悟が足りないのだろう。  一人生き残ることを誓いつつも、誰一人殺せず。未だに迷ってあんな夢を見る。  覚悟が足りない証拠だ。  お前は生き残りたいのだろう? 生き残ると決めたのだろう?  違うか?  大きく長く息を吐く。顔を上げ宙空の一点をぼんやりと見つめる。 「違わないさ……」  ポツリと呟いた。  ――そうだ。何も違わない。  周囲を埋め尽くしている水の振動が伝わり、機体が震える。  レーダーが接近してくる何かを捕らえた。  ――ならば、どうする?  上空にゆっくりと何かが接近してくる。  ――決まっている。 「斬ろう……敵も……迷いも……」  気取られぬようゆっくりと機体を起こすと体勢を整え、しっかりとした足場を探す。  慎重に、慎重にだ。  足場が整うと今度はオープンチャンネルのスイッチを入れた。  通信する気はない。だから身は潜め、呼吸の音にすらも気を使う。  やがて独り言を漏らす女の声がコックピットに響いた。ほっと一息。  テニアではない。声が違った。  懸念が晴れる。同時に、またどうにもならない事に拘っている、と自分を叱り付ける。  だが、後はやることをやるだけ。目の前のことに集中するだけだ。  敵機が直上に迫る。  頼む。気づかないでくれ、と念じている自分に気づいた。  同時に大丈夫だと理性が囁く。  夜の湖底。月明かりも届かぬそこは決して湖上から見えないはず。  仮に見えたとしても、微動だにしないヴァイサーガは暗礁のようにしか映らないはずだ。  そして、レーダー。恐らくは敵のレーダーもこちらを捉えているだろう。  だが、オープンチャンネルで漏れてくる言葉を聞く限りは、こちらに気づいたそぶりはない。  何に気を取られているのかは知らないが、運はこちらに傾いている。  大丈夫。この奇襲は成功する。そう念じて心を落ち着かせる。  やがて、敵機はゆっくりと上空を通過する。不審なところは何もない。  落ち着け。落ち着けと自分に言い聞かせて、逸る心を抑えた。  パネルを引き出しゆっくりとコードを入力する。  一撃でかたをつける。そのために入力したコードは―― ――『光刃閃』――  掌に刃の重さを感じ、足場を踏みしめ、ヴァイサーガは音を超え、一筋の閃光となって突撃した。  瞬く間に水中を抜け、闇夜に飛び出る。  風を斬り、鞘から解き放たれた居合いの一撃は深々とラーゼフォンに食い込んだ。  背後のからの虚を突いた不意打ち。防ぐ術はない。  轟音が遅れてやってくる。同時に硬く重い衝撃が伝わる。  咄嗟に感じ取る、このままでは刃が止まると。  いかにヴァイサーガ最大の攻撃である光刃閃といえど、50m級の機体を一刀の元に両断するのは容易なことではない。  深々と食い込みはすれど、その屈強で頑丈な装甲が刃を止める。  それを力ずくで抜くには、片手の居合いでは腕力が足りなかった。  ――重い。凄く重い。これが断ち切ろうとしているものの重み。  鞘に添えていた手を離す。  刀の勢いが完全に止まってしまう前に柄へと手を伸ばす。  ――これをここで断ち切る!!  片手から諸手へ。両の手に力がこもり、男は獣のような咆哮を挙げる。  そして、一刀の元にラーゼフォンは両断され、刃が抜けた。  止まらぬ勢いのまま上空に投げ出された無防備なヴァイサーガの中、統夜はラーゼフォンを睨む。  ラーゼフォンの傷口は狙った正中線を逸れ、右腰から入り上へ。そして、右肩殆ど首の付け根といってもいいあたりから抜けていた。  ショートした回線が火花を散らし、潤滑油にでも引火したのか、濛々と黒煙が噴き上げている。  その様を見て統夜は小さくガッツポーズをした。全身にじっとりと汗をかいている自分に気づく。  緊張が解けて、ぐったりとシートに沈み込む。そして、何かが聞こえた。  思わず顔をあげて周囲を見回す。  不審なものはないもない。あるのは夜空に浮かぶ月と黒煙を上げて燃え盛る大型機。  ――今の声は一体どこから?  そう思ったとき、統夜は思い出した。通信回線を開いたままにしていたということを。  ということは――。  全身を怖気が襲った。通信から漏れてくるのは生きながらに焼かれる人の声。  大きく損傷した機体のせいか、よくは聞き取れない。  だがしかし、これは悲鳴だ。人の叫び声だ。  それが『熱い』と言っている。『助けて』と言っている。  咄嗟に耳を両の手でふさぐ。それでも脳髄に叩き込まれた声は消えない。  通信を切ろう。そう思い、手を伸ばした。  だが、まるで真冬の悴んだ手のように震え、言うことを聞かない。そしてその手は統夜の望むことと反対のことをした。  映像通信のスイッチが入り、通信が繋がる。  そして、目に飛び込んできたのは、焼け爛れ、熱に溶けた皮膚がビニールか何かのように両の腕から垂れ下がり、黒く燃え、火に包まれた何か。  だがそれでもそれは生きている。のたうち、転げ周りながらも苦しさを訴え、助けを求めている。  ――助けよう。  ここに来て始めてその言葉が脳裏に浮かんだ。  目の前で苦しんでいる人がいる。助けを請う人がいる。  惨状を目の前に、そ知らぬ顔で見ないふりが出来るような神経を紫雲統夜は持ち合わせてはいなかった。 「待ってろ! 今、助けてやる!!」  声をかけ励ます。ヴァイサーガをラーゼフォンに寄せると切り口の断面から装甲に手をかけた。  コックピットの位置は分からない。  だが、火の手が回っていることから、切り口に近い場所に位置していることは予想が付く。  だから、断面から指を食い込ませ、コックピットを探して力ずくで装甲を剥がす。  これ以外に方法が思いつかなかった。  モニターをチェック。動きが先ほどよりも弱い。  だが、声は聞こえる。  急がなければと焦りが体を支配する。  声をかけ続け、励まし続ける。  装甲を掴む。掴む。掴む。  強引に剥がす。剥がす。剥がす。  何度それを繰り返しただろう。既に装甲というより内部を掻き分けている状態に近い。  モニターの向うの動きはもうほとんど見えなくなった。  だが、たまに掠れた様な声が聞こえる。  それを希望に作業を続ける。焦りはますます体を支配していた。  そして、モニターに巨大な指のようなものが映り、鮮血が飛び散った。  一瞬の出来事に思わず呆然とする。  暫くは焦点が噛合わず、ようやく合ったときには、モニターに飛び散り、乾き焼け焦げた黒い血痕だけがそこに残っていた。 「あ……あぁ……」  声をかけようとして言葉は出ず。奥歯がカタカタと震える。  支えていたヴァイサーガーの腕が離れ、焼け焦げたラーゼフォンが水面に落下して大きな水柱を上げた。 「ちが……違う。俺は悪くない! 殺そうとしたんじゃない!  助けようとしたんだ!! 助けたかったんだ!! なのに!! なのに!!!」  涙を浮かべ、だらしなく鼻水を垂らし、誰に言うでもなく言い訳をただひたすらに繰り返す。  しかし、それを聞くべき人間はもうこの世に存在しない。  そのことに少年が気がついたとき、持って行き場のない感情は悲痛な叫びとなって、闇夜に呑まれて消えた。 「うあ……ああ……あぁぁぁぁぁぁぁぁああああっっっっっっ!!!!!」 【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)  パイロット状態:精神不安定  機体状態:無傷、若干のEN消費  現在位置:G-8  第一行動方針:逃げ出したい  第二行動方針:他人との戦闘、接触を朝まで避ける  第三行動方針:戦闘が始まり、逃げられなかった場合は殺す  第四行動方針:なんとなくテニアを探してみる(見付けたとしてどうするかは不明)  最終行動方針:優勝と生還】 &color(red){【カテジナ・ルース 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)}  &color(red){パイロット状況:死亡}  &color(red){機体状況:大破】} 【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルⅡ(マクロス7)  パイロット状況:良好、マサキを心配  機体状況:良好、反応弾残弾なし  現在位置:G-8補給ポイント  第一行動方針:キョウスケの護衛でG-8補給ポイントへ向かう  第二行動方針:マサキの捜索  第三行動方針:味方を集める  第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒  最終行動方針:ゲームからの脱出またはゲームの破壊  備考:ベガに対してはある程度心を開きかけています】 【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ビルトファルケン(L) (スーパーロボット大戦 OG2)  パイロット状況:頭部に軽い裂傷、左肩に軽い打撲  機体状況:胸部装甲に大きなヒビ、機体全体に無数の傷(戦闘に異常なし)         背面ブースター軽微の損傷(戦闘に異常なし)、背面右上右下の翼に大きな歪み         EN60%、スプリットミサイル残弾ゼロ、オクスタンライフル残弾B2発W1発  現在位置:G-8補給ポイント  第一行動方針:G-8で補給を完了する  第二行動方針:首輪の入手  第三行動方針:ネゴシエイターと接触する  第四行動方針:信頼できる仲間を集める  最終行動方針:主催者打倒、エクセレンを迎えに行く(自殺?)  備考:アルトがリーゼじゃないことに少しの違和感を感じています】 &color(red){【残り27人】} 【二日目2:50】 ----
*&color(red){心、千々に乱れて ◆7vhi1CrLM6}  あくびをし、寝ぼけ眼を擦りながらカテジナー=ルースは起き上がった。  暗い闇の中手探りで灯りをつけるとレーダーを覗き込む。  何かが近づいてくる。そういう気がしたのだ。  根拠は何もない。ただ感じただけ、そういう気がしただけ、それでもそれは確信に近いものだった。  レーダーに映し出された二つの光点によって、程なくそれが正しいものだったと証明される。  レーダー類の不調のせいで距離はそう遠くない。  最初はかなり速い速度で接近してきていたのが、暫くして静止した。  おそらくはこちらの姿が見えない為警戒をしているのだろう。あるいは迷っているのかもしれない。  彼女は今湖の底に隠れていた。 「迂回をしてくれるようなら楽なのだけれどね」  あくびを一つ噛み殺してぼやく。  疲れが抜け切っていないのか、どうにも眠たかった。  接触を図るよりも今はまだもう少し寝ていたい。それが本心だ。  しかし、そんな思いを裏切るかのように光点がすっと接近を始める。 「やっぱりほうっておいてはくれないわよね」  女の見栄というか、習性のようなもので身支度を整えながら、思案を練り始める。  今の動きで分かったことがある。  まずは二人組という点でおそらくは好戦的な相手ではないということ。  そして、二対一という局面において一度動きを止めたということは、用心深い性質の持ち主がいるのか、あるいは戦力に不安が残るということ。  にも関わらず接近していたということは、捻じ伏せるか、逃げ切るか、どちらかの自信があるという現われ。  それを念頭において逃げるべきか、接触すべきかを考える。  逃げようと思えば逃げることは可能だった。  なにしろまだ互いに姿を見せてない上に、こちらは視界の悪い水中だ。  一度レーダーのレンジ外に抜けてから物陰に身を潜めれば、相手を撒くことは難しくない。 「だけど……接触すべきでしょうね」  いかにも乗り気でないといった態度。緩慢な動作でシートに腰を掛けなおす。  何かを潰したような感触があった。驚いて腰をずらしてみると、三種の樹脂マスクが出てきた。  あの核ミサイルに乗った男から得たボイスチェンジャー付きのそれは、正体を隠しつつ交渉するという点において、これほど都合の良いものはない。  だが、それを何の躊躇もなしにぽいっとコックピットの後方へ投げ捨てる。  理由は特にない。強いて言えば似合わないからである。  そういえばこのマスクを持っていたのも二人組だった。  核ミサイルなどというふざけたものを乗り回し、追い回してくれたことは、今思い出しても頭にくる。  だが、その二人はもういない。  カテジナ=ルース、彼女自身が手を下し核の炎で葬った。  理由は単純。必要ない、利用する価値もない存在だと判断したから。  その点、最初に出会った二人は違った。  ギャリソン時田とユウキ=コスモ。この二人は外れ機体引いた自分の盾になってくれたという面で非常に役に立った。  そして、熱気バサラと彼を知る一人の少年。彼らもまたラーゼフォンを運んできてくれたという点と、その性能を試させてくれたという点において役に立っている。  ならば、と彼女は思う。  ならば今度の二人組は何をもたらしてくれるのか、それを思うと気持ちが僅かに上向きに修正された。  既に距離はかなり近い。  いきなり攻撃を仕掛けられてもつまらない、と思い、ラーゼフォンをゆっくりと上昇させる。  湖面を抜け開けた視界に二機の人型機動兵器の姿が飛び込んできた。 「こんばんは。こんな夜更けに若い女の子に会いに来るものではないわよ」  眉間に皺を寄せて不機嫌を装い、口を尖らせる。  それで相手が機嫌を取ろうとすれば御の字。主導権を握ることができる。  だから殊更に嫌悪感を露にして言葉を続けた。 「もっとも、夜這いにでも来たって言うのならば話は別でしょうけどね」  むっとした様子を年若い方が顔に出すのが見えた。対して年嵩の男のほうの顔色は変わらず判断が難しい。  機体間の距離は遠くはない。しかし、不意をつけるほど近くもない。  そして、左右に分かれている。それもごく自然な動作でその配置についていた。  場慣れしているといっていい。 「何か不機嫌を買うようなことをしたのなら謝ろう。キョウスケ=ナンブという」 「カミーユ=ビダンです」 「カテジナ=ルースよ。何の用かしら?」 「単刀直入に聞く。敵か? 味方か?」 「敵よ。生き残れるのはただ一人なのだから、この世界にいるのは全員敵。  でも今のところ交戦の意志はないわ。あなたたちの出方によるけど……」  言い切り、動きを伺う。  嘘は言っていない。考え方にも不自然なところはないはずだ。  そのうえでどう出てくるのか、それに少し興味があった。最悪戦闘になる覚悟は出来ている。 「こちらにも交戦の意思はない。情報の交換を行いたいのだが構わないな?」 「構わないわよ」  そうして暫く情報の交換が行われる。  受け取った情報は、補給ポイントとG-6基地で交戦したという複数の機体、それに獅子を模した胸部装甲の機体について。  対して提供した情報は、ギャリソン・コスモ・バサラ、そして最初に交戦した黒いガンダムについて。  もちろん、情報に手は加えてある。  コスモ・バサラという味方を装った二人組に騙されて襲われ、同行していたギャリソンさんは死亡。自分も命からがら逃げ出した、といった塩梅にだ。  そうすることで二人と距離を置いている理由が説明できる。同時に争いの扇動にもなる。  見たところこの二人は戦闘慣れしている。そんな人間を二人も相手取るよりも、どこかであの二人と潰しあってくれたほうが得という算段だった。 「カテジナさんも一緒に来ませんか?」 「えっ?」  突然、予想外の言葉をかけられてはっと顔をあげる。  その言葉は青い髪の少年――カミーユ=ビダンのものだった。 「まだG-6基地には二人の仲間がいます。  そこのほうが一人より安全だし、上手くいけば殺し合いをしなくてすむかもしれない」  言葉を探す。  答えは決まっていた。しかし、頭の中に言葉が浮かんでこない。  何故――迷っているとでもいうのか?  ちらりとキョウスケという男の顔を盗み見る。  相変わらずの能面面。人工的な笑みの一つくらい浮かべてみせても損はないだろうにと思う。  だが、黙っているということは、黙認するということだろう。  基地に仲間がいるというのは、この男があえて伏せていたはずの情報だ。  それを口走っても止めない程度の信用は築けたということか。十分だ。これ以上の深入りは望むものではない。 「一緒に行きましょう、カテジナさん。あなたは殺し合いなんかしちゃいけない人なんだ」  何を根拠にそんなことを、と思う。  そう思った後で、ウッソに似てるなとふと感じた。  何処がではない。このカミーユと名乗る少年の容姿・性格はウッソのそれとは大きく異なっている。  纏っている空気も雰囲気も違う。  それでもこの少年から受けるプレッシャーは何処となくウッソに似ていた。  となると迷っている心はウーイッグに対する里心。未練か?  ――馬鹿らしい。  それで合っているのかは分からなかったが、ようやく胸の内に言葉が浮かんできた。 「無理だよ。少なくとも私はあなたたちを完全には信用できはしない。  そんな相手と一緒にいれるはずがないだろう?」 「何故ですか?」  そう。目の前の少年が放つ気はウッソのそれに似ており、私を惑わせ、苛立たせる。  この少年と同行するのは危険だ、と直感が告げている。 「甘い言葉を使って騙してくる者もいる。ここでは自分以外を信用できるはずがない。  お別れだよ、坊や。次は敵同士だ」  そう言い残し、逃げ出すようにラーゼフォンはその場から飛び去る。北に向かってただ一直線に、ただひたすらに。  煩わしい、と思う。何故私が逃げなければならないのか、とも思う。  だが、あの場から逃げ出したかったのは事実なのだ。  ――この私がいたたまれなくなったとでもいうのか? 馬鹿らしい。  情報は得た。  奴らはG-6の基地を本拠に行動している。ならばやることは決まっている。  これから出会う参加者全てに情報を吹き込み、送り込めばいい。善良そうな奴には危険人物が潜んでいると、危険な奴には参加者がいるとただ吹き込む。  それだけで奴らは勝手に潰しあい、やがて全滅するだろう。  そんなことを考えつつ十数分ほども飛んだときだろうか、唐突に一つの考えが頭を過ぎった。 「地球クリーン作戦やギロチンと同じ?」  腐らすものは腐らせ、焼くものは焼く。汚い大人たちは潰して地球の肥やしにしてしまう地球クリーン作戦。  そして、リガ・ミリティアのような反目するものを黙らせるためのギロチン。  この二つはザンスカール帝国が掲げるマリア主義の為の必要悪。  ならばこの殺し合いも危険因子を摘み、黙らせ、古いものを次代の肥やしにする必要悪? だったら何故―― 「何故、私が巻き込まれている?」  分からない。分からない。分からない。  頭の中が混乱し、思考にノイズがかかる。不愉快極まりない。  そして、ドンッと何か重くて巨大な塊に体当たりされたかのような衝撃が奔った。  ◆  そこは真っ白くてなにもない空間だった。  何故ここにいるのか?  ここは何処なのか?  不思議に思い、あたりを見回しているうちにテーブルが現れ、椅子が現れ、そして日常の風景が姿を現した。  黒髪の少女が金髪の少女を叱っている。  またコックピットにチョコでも持ち込んだのかと思わず苦笑いが漏れた。  やがて黒髪の少女を諌めるように軽い感じで赤毛の少女が割って入り、涙目になっていた金髪の少女がほっとした表情を見せる。  そんな日常の風景。  三人の少女が文字通り空から降ってきてここに飛ばされるまでの僅かな間に、幾度となく繰り返され、すっかり馴染んでしまった光景。  それが眩しくて思わず立ちすくむ。  不意に声をかけられた気がして振り向くと、二人の女性がそこに立っていた。  二人はただ笑い。ただ立っていた。  いや、よく見るとその口元は動いている。  だけど言葉は届かない。何故だか分からないが声は届いてこなかった。  でも、と統夜は思う。  そんな顔で俺を見ないでくれ、と。  俺はカティアもメルアも救えなかった。助けられなかった。  いや、助けようとすら思わなかったんだ。  そりゃ、気にはなったさ。  だけど、自分のことで頭が一杯で!  あんた達のことまで気が回らず!!  ただ……自分が生き延びることしか……選ばなかった。  仕方ないだろう。  一人しか、一人しか生き残れないんだ。  だから……  だから……  頼むから、そんな優しい顔でうれしそうにこっちを見ないでくれ。  そんな顔される資格なんて俺には……ないのだから……。  目の前の黒髪の少女は少し驚いたような表情を浮かべて、何かを口走り、そして深々と頭を下げた。  だけれども、言葉はやはり泡となって大気にとけ、届いてくることはなかった。  ◇  目を開けると目の前にぼやけた壁があった。  右手は毛布を掴み、体は猫のように丸まっている。  寝てたのかと思い、体を起こすと頬を伝って涙が零れ落ちた。  それを見て、我ながら女々しいと思う。  何故こんな夢を見たのか。  おそらくは覚悟が足りないのだろう。  一人生き残ることを誓いつつも、誰一人殺せず。未だに迷ってあんな夢を見る。  覚悟が足りない証拠だ。  お前は生き残りたいのだろう? 生き残ると決めたのだろう?  違うか?  大きく長く息を吐く。顔を上げ宙空の一点をぼんやりと見つめる。 「違わないさ……」  ポツリと呟いた。  ――そうだ。何も違わない。  周囲を埋め尽くしている水の振動が伝わり、機体が震える。  レーダーが接近してくる何かを捕らえた。  ――ならば、どうする?  上空にゆっくりと何かが接近してくる。  ――決まっている。 「斬ろう……敵も……迷いも……」  気取られぬようゆっくりと機体を起こすと体勢を整え、しっかりとした足場を探す。  慎重に、慎重にだ。  足場が整うと今度はオープンチャンネルのスイッチを入れた。  通信する気はない。だから身は潜め、呼吸の音にすらも気を使う。  やがて独り言を漏らす女の声がコックピットに響いた。ほっと一息。  テニアではない。声が違った。  懸念が晴れる。同時に、またどうにもならない事に拘っている、と自分を叱り付ける。  だが、後はやることをやるだけ。目の前のことに集中するだけだ。  敵機が直上に迫る。  頼む。気づかないでくれ、と念じている自分に気づいた。  同時に大丈夫だと理性が囁く。  夜の湖底。月明かりも届かぬそこは決して湖上から見えないはず。  仮に見えたとしても、微動だにしないヴァイサーガは暗礁のようにしか映らないはずだ。  そして、レーダー。恐らくは敵のレーダーもこちらを捉えているだろう。  だが、オープンチャンネルで漏れてくる言葉を聞く限りは、こちらに気づいたそぶりはない。  何に気を取られているのかは知らないが、運はこちらに傾いている。  大丈夫。この奇襲は成功する。そう念じて心を落ち着かせる。  やがて、敵機はゆっくりと上空を通過する。不審なところは何もない。  落ち着け。落ち着けと自分に言い聞かせて、逸る心を抑えた。  パネルを引き出しゆっくりとコードを入力する。  一撃でかたをつける。そのために入力したコードは―― ――『光刃閃』――  掌に刃の重さを感じ、足場を踏みしめ、ヴァイサーガは音を超え、一筋の閃光となって突撃した。  瞬く間に水中を抜け、闇夜に飛び出る。  風を斬り、鞘から解き放たれた居合いの一撃は深々とラーゼフォンに食い込んだ。  背後のからの虚を突いた不意打ち。防ぐ術はない。  轟音が遅れてやってくる。同時に硬く重い衝撃が伝わる。  咄嗟に感じ取る、このままでは刃が止まると。  いかにヴァイサーガ最大の攻撃である光刃閃といえど、50m級の機体を一刀の元に両断するのは容易なことではない。  深々と食い込みはすれど、その屈強で頑丈な装甲が刃を止める。  それを力ずくで抜くには、片手の居合いでは腕力が足りなかった。  ――重い。凄く重い。これが断ち切ろうとしているものの重み。  鞘に添えていた手を離す。  刀の勢いが完全に止まってしまう前に柄へと手を伸ばす。  ――これをここで断ち切る!!  片手から諸手へ。両の手に力がこもり、男は獣のような咆哮を挙げる。  そして、一刀の元にラーゼフォンは両断され、刃が抜けた。  止まらぬ勢いのまま上空に投げ出された無防備なヴァイサーガの中、統夜はラーゼフォンを睨む。  ラーゼフォンの傷口は狙った正中線を逸れ、右腰から入り上へ。そして、右肩殆ど首の付け根といってもいいあたりから抜けていた。  ショートした回線が火花を散らし、潤滑油にでも引火したのか、濛々と黒煙が噴き上げている。  その様を見て統夜は小さくガッツポーズをした。全身にじっとりと汗をかいている自分に気づく。  緊張が解けて、ぐったりとシートに沈み込む。そして、何かが聞こえた。  思わず顔をあげて周囲を見回す。  不審なものはないもない。あるのは夜空に浮かぶ月と黒煙を上げて燃え盛る大型機。  ――今の声は一体どこから?  そう思ったとき、統夜は思い出した。通信回線を開いたままにしていたということを。  ということは――。  全身を怖気が襲った。通信から漏れてくるのは生きながらに焼かれる人の声。  大きく損傷した機体のせいか、よくは聞き取れない。  だがしかし、これは悲鳴だ。人の叫び声だ。  それが『熱い』と言っている。『助けて』と言っている。  咄嗟に耳を両の手でふさぐ。それでも脳髄に叩き込まれた声は消えない。  通信を切ろう。そう思い、手を伸ばした。  だが、まるで真冬の悴んだ手のように震え、言うことを聞かない。そしてその手は統夜の望むことと反対のことをした。  映像通信のスイッチが入り、通信が繋がる。  そして、目に飛び込んできたのは、焼け爛れ、熱に溶けた皮膚がビニールか何かのように両の腕から垂れ下がり、黒く燃え、火に包まれた何か。  だがそれでもそれは生きている。のたうち、転げ周りながらも苦しさを訴え、助けを求めている。  ――助けよう。  ここに来て始めてその言葉が脳裏に浮かんだ。  目の前で苦しんでいる人がいる。助けを請う人がいる。  惨状を目の前に、そ知らぬ顔で見ないふりが出来るような神経を紫雲統夜は持ち合わせてはいなかった。 「待ってろ! 今、助けてやる!!」  声をかけ励ます。ヴァイサーガをラーゼフォンに寄せると切り口の断面から装甲に手をかけた。  コックピットの位置は分からない。  だが、火の手が回っていることから、切り口に近い場所に位置していることは予想が付く。  だから、断面から指を食い込ませ、コックピットを探して力ずくで装甲を剥がす。  これ以外に方法が思いつかなかった。  モニターをチェック。動きが先ほどよりも弱い。  だが、声は聞こえる。  急がなければと焦りが体を支配する。  声をかけ続け、励まし続ける。  装甲を掴む。掴む。掴む。  強引に剥がす。剥がす。剥がす。  何度それを繰り返しただろう。既に装甲というより内部を掻き分けている状態に近い。  モニターの向うの動きはもうほとんど見えなくなった。  だが、たまに掠れた様な声が聞こえる。  それを希望に作業を続ける。焦りはますます体を支配していた。  そして、モニターに巨大な指のようなものが映り、鮮血が飛び散った。  一瞬の出来事に思わず呆然とする。  暫くは焦点が噛合わず、ようやく合ったときには、モニターに飛び散り、乾き焼け焦げた黒い血痕だけがそこに残っていた。 「あ……あぁ……」  声をかけようとして言葉は出ず。奥歯がカタカタと震える。  支えていたヴァイサーガーの腕が離れ、焼け焦げたラーゼフォンが水面に落下して大きな水柱を上げた。 「ちが……違う。俺は悪くない! 殺そうとしたんじゃない!  助けようとしたんだ!! 助けたかったんだ!! なのに!! なのに!!!」  涙を浮かべ、だらしなく鼻水を垂らし、誰に言うでもなく言い訳をただひたすらに繰り返す。  しかし、それを聞くべき人間はもうこの世に存在しない。  そのことに少年が気がついたとき、持って行き場のない感情は悲痛な叫びとなって、闇夜に呑まれて消えた。 「うあ……ああ……あぁぁぁぁぁぁぁぁああああっっっっっっ!!!!!」 【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)  パイロット状態:精神不安定  機体状態:無傷、若干のEN消費  現在位置:G-8  第一行動方針:逃げ出したい  第二行動方針:他人との戦闘、接触を朝まで避ける  第三行動方針:戦闘が始まり、逃げられなかった場合は殺す  第四行動方針:なんとなくテニアを探してみる(見付けたとしてどうするかは不明)  最終行動方針:優勝と生還】 &color(red){【カテジナ・ルース 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)}  &color(red){パイロット状況:死亡}  &color(red){機体状況:大破】} 【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルⅡ(マクロス7)  パイロット状況:良好、マサキを心配  機体状況:良好、反応弾残弾なし  現在位置:G-8補給ポイント  第一行動方針:キョウスケの護衛でG-8補給ポイントへ向かう  第二行動方針:マサキの捜索  第三行動方針:味方を集める  第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒  最終行動方針:ゲームからの脱出またはゲームの破壊  備考:ベガに対してはある程度心を開きかけています】 【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ビルトファルケン(L) (スーパーロボット大戦 OG2)  パイロット状況:頭部に軽い裂傷、左肩に軽い打撲  機体状況:胸部装甲に大きなヒビ、機体全体に無数の傷(戦闘に異常なし)         背面ブースター軽微の損傷(戦闘に異常なし)、背面右上右下の翼に大きな歪み         EN60%、スプリットミサイル残弾ゼロ、オクスタンライフル残弾B2発W1発  現在位置:G-8補給ポイント  第一行動方針:G-8で補給を完了する  第二行動方針:首輪の入手  第三行動方針:ネゴシエイターと接触する  第四行動方針:信頼できる仲間を集める  最終行動方針:主催者打倒、エクセレンを迎えに行く(自殺?)  備考:アルトがリーゼじゃないことに少しの違和感を感じています】 &color(red){【残り27人】} 【二日目2:50】 ---- |BACK||NEXT| |[[吼えろ拳/燃えよ剣]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[これから]]| |[[・――言葉には力を与える能がある>・――言葉には力を与える能がある(1)]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[吼えろ拳/燃えよ剣]]| |BACK||NEXT| |[[暗い水の底で]]|統夜|[[決意と殺意]]| |[[星落ちて石となり]]|&color(red){カテジナ}|| |[[謀 ―tabakari―]]|カミーユ|[[これから]]| |[[謀 ―tabakari―]]|キョウスケ|[[これから]]| ----

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