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命の残り火」(2008/12/14 (日) 20:39:03) の最新版変更点

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*&color(red){命の残り火 ◆7vhi1CrLM6} 静寂の朝もやを排気音が掻き消した。 まだ低い朝陽に照らし出された街並みを巨大な影で塗りつぶしながら進む戦艦ナデシコ。 その指揮所にシャギアは駆け込んだ。オペレーター席で振り向いた比瑪と目が合い、一拍遅れて甲児も駆け込んでくる。 弾む息を押し殺し極めて冷静に声を出した。 「状況は?」 「八時の方角に何かを捉えたわ。加工拡大したものがこれ」 答えつつ比瑪がパネルを叩くとモニターに閃光が映し出される。 小指の先ほどにしか見えないそれが拡大されはっきりとした輪郭を伴っていく。 「機体だな。それにしてもこの速度は……」 「シャギアさん、こっちにもう一機いるぜ」 甲児が指差すそこに目を向ける。確かにそこにもう一機いた。白銀の機体。 高速で駆け抜ける機体とその先にいる機体。それが意味する状況は―― 「詳細は分からないが戦闘だな……待てッ!! 甲児くん!!!」 「わりぃ、シャギアさん。ナデシコはそのまま決めたとこまで行ってくれ!」 言うが早いか飛び出していく甲児。そのまま振り返ることなく指揮所を後にする。 だが、ナデシコは積極的な接触は避けると決めたばかりなのだ。頭が痛い。 「どちらが敵かも分かっていないと言うのに……」 いや、それどころか両方ともこの殺し合いに興じる人間という可能性すらある。 どうする? ここで甲児を見捨てていくのは容易い。だが、それをすれば……。 悩むシャギアの視界を甲板から発進した緑のモビルスーツが横切っていく。 「でも、追いかけるんでしょ?」 振り向いた比瑪と目が合い、その顔がにっと笑う。 頭を抱えつつも溜息と共に返事を吐き出した。 「もちろんだ」 ここで甲児を見捨てれば宇都宮比瑪の信頼を失うだろう。下手すれば手駒が一つもなくなるということだ。 それは早い。 オルバとテニアがいれば任せるところだが、今この場に二人はいない。 戦力の消耗は避けたいとはいえ、余計な諍いを避けようと思えば答えは決まっているのだ。 「私も出る。ヴァイクランで先行させて貰おう。ナデシコは微速前進」 ボソンジャンプについては説明おばさんが懇切丁寧に教えてくれた。 脱出の鍵となるのは、A級ジャンパーとチューリップクリスタル、そしてディストーションフィールド。 その一つを万が一にも失うわけにはいかない。 首を傾げた比瑪に「少々考えがある」と言い残して指揮所を後にした。 そして、歩を早める。戦闘への介入を決めた以上、それは実りあるものにしなければならないのだ。 どれだけ被害なく場を収めるか、それがこのときシャギアに課せられた課題だった。  ◆ 明けの空、誰もいない空虚の街で追いかけっこは続いていた。 本来ならば車が行き交うであろう大通りを白銀の巨体が駆け抜け、一拍遅れて紺碧の騎士が後を追う。 距離が縮まらない。いや、それどころか離されて行く。 真ゲッター2とヴァイサーガ。大型機ながらも奇しくも共にその早さこそを最強の武器とする機体。 だが、真ゲッター2のほうが早い。追いつけない。 それに耳鳴りが止まない。何でだろうか? 頭がくらくらする。 どうする? このままでは埒があかない。逃げられる。 一度退いて体勢を立て直すべきか? いや、それでは仕掛けた意味がない。 追いつけるか、と問われればその答えはYESだった。 ヴァイサーガ最大の攻撃『光刃閃』、その本質は居合いではない。 『光刃閃』のコード入力と同時にリミッターを解除される要素。すなわち風を超え光とも比肩しうるその速力こそが『光刃閃』の本質。 それを使えば追いつき一撃を加えることは難しくはない。 いや、使いこなせさえすれば一撃といわず、乱撃を加えることすら可能であろう。 だが、それには問題がある。 そもそも何故リミッター等と言う物がかけられているのか? 答えは単純だ。乗り手の体がついていかないのだ。 ヴァイサーガーの最高速から生み出される強大なG。それに並の人間の体はついていかない。 まず間違いなくブラックアウトする。 本来の乗り手であるアクセル=アルマーとラミア=ラヴレス、その二人ですら一定の経験を得るまで光刃閃が封印されていた。 そのことを鑑みれば、ここまで三度の光刃閃に耐えて見せている紫雲統夜の資質は高いのだろう。 いや、間違いなく高いといえる。 だが、彼は戦場に出て間もない。訓練を受けた普通のパイロットですらないただの一般人。 つまり、統夜ほどの資質をもってしても体がもたないということになる。 追いかけている敵が白くなる。視界が狭まる。頭がぼっとして思考が白に塗りつぶされていく。 ふとした瞬間に意識が跳びかけ、頭を振って叩き起こした。 長くは戦えない。それを感じ取った。頭に伸ばした腕が髪をくしゃりと掴む。 「何をやってんだ、俺はッ!! 戦うと決めて、でも決心がつかなくて、やることなすことあべこべで。  でも、それでも何を犠牲にしてでも生き残るって決心を固めたばかりじゃないかッ!  なのに……今度は、今度は体が俺を裏切るのかよッ!! こんなので……こんなことで生き残れるはずないじゃないか……」 情けなかった。決意も、やけばちで身に着けてきた技術も、体も何もかもが中途半端。 自分に嫌気がさす。情けなさ過ぎる。 でもだからこそ、だ。だからこそ、ここは引き下がれない。 ここで引き下がれば自分は本当に中途半端になってしまう。そして、中途半端なまま死んでいく。そんな気がしていた。 ――だって、このままでは不甲斐なさ過ぎるじゃないかッ!! 引き出していたテンキーを叩く。体に無理が着始めている。 そんなことは百も承知。 多少の無理がなんだ。 男の子だ。男なのだ。自分が弱いとは思いたくない。認めたくない。 自分はやれば出来るのだと信じたい。 コードの入力が完了する。深呼吸を大きく小さく、そして大きく。鼻腔に嫌な臭いが突き抜けた。 それを無視して、ジリジリと引き離していく敵機を睨みつける。 視界に映るのは白銀に光る大型機。そして、それが駆け抜けた衝撃で砕け、光を反射しながら雪のように舞い散るガラスの欠片たち。 その中をヴァイサーガは一筋の閃光のように駆け抜けた。  ◇ 「ジョナサン」 「わかっている」 通信が一つ。画面越しのクインシィが何か言いたそうな顔をしていた。それを制す。 そう。わかっている。追いかけてくる敵機の挙動が妙だった。 しつこく追い回しているにしては、距離は開き続けている。詰まる様子は今の所ない。 かと言って遠距離攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、ただ追い回しているのだ。 追いつけない。それはもう分かったはずだ。なら無駄な労力を払う前に引き下がるのが普通だ。 だが、その気配は見られない。ということは、だ。 「こちらの油断を誘っている、ということか……」 「あるいはこの先に罠をはっているということもありうる」 「距離はいつでも潰せると見ておいたほうがいいな。最初の一撃か?」 「ああ、どちらにせよそろそろ仕掛けてくる頃合だ」 矢継ぎ早に繰り返される会話。それが現状を分析し、丸裸にしていく。 二人の思考と結論はほぼ一致していた。ゆえに、話が早い。 会話を続けながら注意深く背後を探っていたクインシィ。その口が開く。 「来る。迅いぞッ!!」 「避けてみせよやッ!!」 確かに迅い。意表を衝かれれば無事にはすまないだろう。 だが、若いな。そう思い笑った。 最高の武器が最適な武器とは限らない。それを知らない若さだ。唯一つの武器を盲信している。 見せすぎだ。その攻撃は二度目。これで二度目なのだ。そして、意表は衝かれていない。 だから簡単にかわせる。 「オープンゲットッッ!!」 タイミングを見計らいジョナサンは叫びレバーを入れる。 真ゲッターが赤・白・黄、三色のゲットマシンに分かれ、空いた空間に閃光が飛び込んだ。 その挙動を鼻で笑う。後は再び合体し、別の方向に逃げるだけだ。 0.01秒にも満たない一瞬の逡巡。しかしそれを怖気が遮る。 まずい。直感的にそれを感じ取った。 見せすぎだ。オープンゲットは三度目。これで三度目なのだ。そして、それは敵機の想定内。 だから簡単に捉えられる。 次の瞬間、一機のゲットマシンを五大剣の刃が襲い、貫いた。  ◇ 剣先に戦闘機を串刺しにしたまま、勢いを殺しきれなかったヴァイサーガはビルを二つ貫いてようやくその動きを止めた。 息が荒かった。視界が白黒している。 機体を起き上がるように操作して、その動きに酔いが回った。口元を両手で押さえて吐き気を抑える。 読みは当たった。余裕のない状態での回避にはあの分離機構を使う、それは正解だった。 暴れる機体を押さえ込み急制動をかけて戦闘機を一機串刺しにしたのだ。 確率は三分の一。上々だ。 だが、その動きは光刃閃のリミッターを解除したままで行なわれていた。体の無理は加速度的に上昇している。 呼吸を落ち着かせ、汚れた口元を拭う。拭った手の甲が真っ赤に染まった。 「……鼻血?」 どろりと粘性を帯びた血が鼻から垂れ下がっていた。どこかの血管がやられたらしい。 大丈夫なのか? そんな疑問を挟みながら鼻に詰め物をする。 上を向いて深呼吸を一回。気持ちを切り替えると、串刺しの戦闘機を足蹴にして剣から手を離した。 クナイ状の小さな刃――烈火刃を二本取り出す。 見上げる上空には旋回を続ける戦闘機が二機。ダイヤルを回しオープンチャンネルを開ける。 「二人……いたのか」 男の名前を呼ぶ女の声が聞こえてきた。 足元の戦闘機にジョナサンとかいう男が乗っていた、そういうことだろう。 そして、まだ敵は残っているということだ。上空の二機は無人ではないということだ。 狙いをつけ、烈火刃を投げる。 「あっちか」 一本はひらりとかわされ、一本は命中。その挙動で乗り手のいる戦闘機に当たりをつけた。 避けたのは赤い戦闘機。そこに敵はいる。 足元の白い戦闘機から剣を引き抜き構える。 光刃閃は、今は使いたくなかった。戦闘機相手に必要とも思えない。 柄を握る手に力を込め、ヴァイサーガは赤い戦闘機に止めを刺すべく空に駆け上がった。 そして、その眼前に何かが放り出される。 ――……? 箱?? まずいッッ!!! 距離が近い。完全にかわしきる事は不可能。それでも統夜の直感に従いヴァイサーガは回避を試みる。 箱のような立方体。その表面でプラズマが奔ったかと思った瞬間、爆ぜた。 閃光と雷光が入り乱れ、雷鳴が鳴り響く。 視界が白に塗りつぶされる。ヴァイサーガの回路がショートし、機能が麻痺していく。 そして光が収まったとき、ぐらりと揺れたヴァイサーガは自由落下を始めた。 空が遠ざかる。落ちる。落ちていく。 それが本能的な恐怖を与え、統夜は叫んだ。 「動け! 動くんだ!! 動けっていてるだろッッ!!!」 コックピット内部の端末をしっちゃかめっちゃかに弄り回し、声の限り叫ぶ。 しかし、ヴァイサーガは動かない。 機体的な損傷は殆んどない。だからこの程度の問題からはすぐに回復できる。 だが、それでも回復よりも落下のほうが早い。ヴァイサーガは瓦礫の街並みに落ち、アスファルトの道路に激突した。  ◇ 何が起こったのか分からなかった。 敵機がこちらに狙いを定め、突撃してきた。そこまでは分かる。 迎え撃つ。そういう気概で身構えたときに、箱のようなものが割り込んできた。 それが閃光を撒き散らしながら爆ぜ、気づくと敵機は落下していたのだ。 あの箱は一体なんだ? 「お姉さん、ごめん。遅くなった!」 「ガロードか」 思考を遮る通信が一つ。声を聞いた途端に返していた。 南の空に朝焼けの色をした機体が浮かんでいる。通信はそれからだった。 機体が変わっている。それが気になったがそれより―― 「お前は今までどこをほっつき歩いていた! 私はずっとお前を探していたのだぞ!!」 思わず叱り付けていた。次から次へと愚痴が込み上げてくる。 それにガロードは「ごめん。ごめん。お姉さん、ごめんって」と防戦一方だ。 雷が頭上を通り過ぎるのを待つ算段なのだろう。小賢しい。子供っぽい小賢しさだ。 不意に視界の隅で何かが動いた気がした。 次の瞬間、黒騎士をクインシィの眼前を音もなくすり抜け、ガロードに切りかかる。 「ガロード!!」 クインシィの叫び声と剣が振り下ろされたのはほぼ同時だった。 しかし、ガロードは予想外にも鋭敏な反応をみせ、敵機の腕を受け止めることで攻撃を防いでいる。 「大丈夫だって。お姉さんはジョナサンを。ここは俺が引き受ける」 「しかし、私はまだ戦える。イーグル号も頑張ればなんとかなる子だ」 「そりゃお姉さんが使えばなんとかなるのかもしれないけど、ここは任せろって」 「ガロード!」 「お姉さん!! 大丈夫。大丈夫だって、ちょっとは俺を信用しなよ……」 視線が絡み合った。そして、僅かに気圧された。それを押し返そうとして辞めた。 強い光を放っていたガロードの目が一瞬情けなさそうに揺れたのだ。 「……信用」 ぽつりと呟く。一拍おいて唇を食いしばり、クインシィは決めた。 「本当に大丈夫なのだな?」 「心配性だな、お姉さんは。大丈夫」 「ガロード、任せた」 イーグル号が高度を落とし、ジャガー号の元へと向かう。 ガロードが返した「了解、と」という声を背中越しに聞こえてきた。  ◇ クインシィがジョナサンの元へ向かうのを確認して、ガロードはほっと息をついた。 その瞬間、五分に組み合っていたストレーガが蹴り飛ばされ距離が開く。その距離を利用して黒い大型機が踏み込んでくる。 「うわッ! ちょ、ちょっと、タンマ!! タンマ!!!」 剣戟を受け止めながら叫んだ。が、当然それで攻撃がやむことはない。 乱れ飛ぶ刃がストレーガの装甲を削っていく。だがしかし、厚い。乱撃で断ち割られるほど柔ではない。 「待ってくれって頼んでるのに……鬼か、あんたはッ!!」 だからその乱撃を物ともせずに前に出る。 距離が詰まり懐へ。 そこは剣の距離ではない。拳の、殴り合いの距離。敵機の半分程度の大きさしかないストレーガの距離だ。 そして、渾身の力で殴り飛ばした。 濁音の混ざった金属音。剣で受けた敵が踏みとどまりきれずに30mほど押しやられる。 南極で発見された謎の遺跡に関わる研究者リ・テクノロジストの一人クリフォード=ガイギャックス。通称ドクトル・クリフ。 彼が遺跡の技術を参考にしたものを積み込み作成した四機の機体の中で、この『魔女』の名を関する機体の出力は一際大きい。 それはガナドゥールと同じく始めから戦闘用に作られたがゆえであるが、その特性は違っていた。 ガナドゥールはその突撃力と自律兵器による対応力に長けている。 それに対してストレーガが長けているのは、装甲の厚さと単純な機体自体の攻撃力。 突進力も突破力もない鈍重な機体だが、足を止めての殴り合いではその強固さと出力ゆえに無類の強さを発揮する。 だから、そのストレーガの渾身の一撃はただの拳であったにも関わらず流れを断ち切るには十分だった。 30mの距離が40、50と開いていき、対峙の状態を保ったまま膠着を起こす。 「なんだよ……なんなんだよ、お前らは」 苛立ちが通信に乗って飛んできた。 若い男の声。年は自分よりも少し上といったところだろうか。 「それはこっちが聞きたいね。何だって俺達を襲うんだい?」 無言が衝立になって返ってくる。空気がまるで油のような粘性を持ったかのように重い。 そのまま五秒十秒とときが流れ、ようやく重い口が開く。 「……生き残るために仕方がないんだ。一人しか生き残れないんだ。  お前を見てるといらつく。無駄だろ? 仲間なんて庇ってもどうせ死ぬんだ。  いずれ殺さなきゃいけないんだ。無駄だってなんで分からない……」 その響きはどこか自分に言い聞かせているような音色を含んでいた。 対してガロードの声はどこか陽気だ。 「そんなの分からないじゃないか。あの化け物を倒せば皆で生きて出られるかもしれないんだ」 「分かるよ。そんなのは無理だ。都合のいい言い訳さ。お前は楽なほうに逃げてるだけなんだよ。  自分の為に人を殺すのが嫌だから、他人を守るために人を殺そうとしてる。そのほうが気が楽なんだろ?」 「何でそんな考え方しか出来ないのさッ! みんなで頑張ればどうにかなる。どうしてそう思えないんだよ」 「思えるわけがないだろ! たった一日で半数以上が死んでるんだぞ!! 出来るなら俺もそうしたいさッ!!!  でも、誰があんな化け物に勝てる! 一人しか生き残れないここで誰を信じることが出来る!!  お前の言っていることは夢見る子供の理想論なんだよ!!!」 「そんなのわかんないよ……わかんないよ、あんたの言っていることは!」 不意に敵機が動いた。その動きはストレーガよりも遥かに素早い。 右回りに回りこむ軌道を取りながらクナイのようなものを投げ出される。装甲に突き刺さった。 だが浅い。気にかける攻撃ではない。そう思ったときにそれが発火し、爆発した。瞬間的に炎と爆煙がカメラを潰す。 だがそれを気にかけている暇はなかった。 「この分からず屋がッ!!!」 痛烈な剣戟が叩き込まれる。それを両手の甲で受け止めるストレーガ。 一拍後には前進を行い距離を潰そうと試みる。その瞬間に圧力は消え、胴を薙ぎ払いながらのステップバック。 装甲と刃の間で火花が散る。が、しかし浅い。だから詰め寄り、拳に力を込めた。 「そっちだろ! 分からず屋はッ!!!」  ◇ 俺は何をやっている? 心底そう思った。 決めたはずだ。 敵が複数なら一体を仕留めた後即離脱と。 姿を見られても構わないと。 生き残るのが一番だと。 機体が復旧したら最初にするべきことは斬りかかることじゃないだろ? 一機はもう仕留めた。だったらここは離脱だろッ!!! そう思いつつも足は動かず、乱入してきた橙色の機体と戦闘を続けている。 何だか知らないが、気持ちがささくれ立っていた。 オープンチャンネルを通じて伝わってきた言葉が、仲間の身を案じる言葉が、気に入らない。 身を挺して仲間を庇うその姿が気に入らない。 「クソッ! クソッ! クソッ! クソッ! なんなんだよ、お前はッ!!」 剣を振り下ろす。拳で受け止められ、真っ向から押し合う。 力勝負。 だが押された。全長40mを越えるヴァイサーガが僅か20mそこそこの敵機に力負けしていた。 それでも押し返そうと力を込めた瞬間、空いている拳で腹を殴り飛ばされてヴァイサーガが後退していく。 腕が一本足りない。まだ完全には復旧を遂げていないのか、動きもやや鈍い。 唇を噛み締める。 悩んで、苦しんで、でも一人でも生き抜こうと決めて、それでも割り切れずに苦しむ自分。 そんな自分がまるで悪役みたいじゃないか。これじゃ道化じゃないか。 納得がいかない。不公平だ。 俺はこんなに苦しいのに……お前はそんなに楽しそうで。 俺を殺してでも生き残ろうとしてるくせに仲間を守ろうとして。 楽をして、思い悩むこともなく、奇麗事ばかり口にして、それでいて何もかもを得ようとしている。 許せない。 許せるものか。 そんな我侭、許せるものか。 歯茎に血が滲むほど歯を食いしばり、殺意が牙を剥く。 迫る橙色の拳を弾き上げ、一旦距離を置いたヴァイサーガが空高く舞い上がる。 「死ねよ。死んじゃえよ……お前なんか、死んじゃえよッッ!!」 悪意を乗せた刃が空気を掻き乱す。その乱れ飛ぶ刃は風を呼び、竜巻を生じさせた。 そして、その渦の中心を刃を突き出し一陣の風となったヴァイサーガが吹き抜ける。 鮮やかだ。 瞳の中、大きくなっていく敵の姿。 その装甲の橙色が鮮やかだった。 刃が突き立つ。 衝撃で大地が陥没し、クレーターのような跡が発生する。 少し外したか? 肩を貫いた剣を見てそう思った。 だが、問題ない。 衝撃で気を失ったのか、敵機に動きは見られないのだ。 後はコックピットを貫きなおしてやればいい。 ゆっくりと。 じっくりと。 正確に。 笑いが込み上げる。 見ろよ。 正しいのは俺だ。 お前じゃない。 死ぬんだ。 死ぬんだよ。 皆、死んじゃうんだよ。 そうさ。仲間なんて気にかけてたら―― 「……生き残れないんだよ。俺も、お前も」 何故か落胆している自分がいる。そんな気がした。 溜息を一つ。気を取りなおして敵機を足蹴にして剣を引き抜こうとしたその瞬間―― 「なッ!!」 ――風がやんだ。 周囲で吹き荒み渦を為していた風が跡形もなく消え去っている。 今の状態は凪。すなわち無風。 信じられずに周囲を見回す。その上空で白銀の物体が煌めいた。 咄嗟に飛び退く。瞬間、飛び退いたその場が削られ穴が空いた。 さっきまで自分のいた場所。そこで白い巨体がゆらりと起き上がる。片手の大きなドリルが特徴的な機体。 見えなかった。突撃してきたその機体の姿が全く見えなかった。それほどの早さだった。 逃げるべきだ。そう思った。 危険な香りがする。ここは逃げて体勢を立て直すべきだ。 だが、それよりも倒したはずの機体が動いている。殺したはずの敵機が生きている。 そのことが勘に障り、神経を逆なでにする。 気に入らない。気に入らない。気に入らない。 そうやって仲間を庇うお前らも、殺し合いを強要するこの世界も、何もかもが気に入らない。 今、生きているお前もだ。 「駄目だろ……お前は死んでなきゃ」 逃げるべきときを見失い統夜が呟く。ヴァイサーガが悪意を乗せて構える。 泥沼に足を踏み込み始めているその身を、彼はまだ自覚していなかった。  ◆ 遠目からはそれは巨大な手鞠のように見えた。 何かが高速で駆け抜ける様が、まるで白い帯のように目には映っている。 一瞬後には消え去る残像に過ぎないそれが幾重にも重なり合って球を為し、柄を為す。 どれほどの速度で駆け抜ければそのような現象が起こるのか。シャギアは思わず息を呑んだ。 だが、それは手鞠などという典雅なモノではない。 そこは暴風圏。言うなれば玉の嵐。足を踏み入れるものを削り取り無に帰す空間。 仕掛けている側も既に敵味方を識別できる状況ではないのだろう。ビルが、道路が、街が、そこに触れたもの全てが削り取られていっている。 たいしたものだ。そう思った。 その暴風圏の中、玉の嵐の中にいてただ一つ抗い、存在し続ける機体が見える。 弾かれ、翻弄されてお手玉のように宙を舞いながらも辛うじてその手に持つ剣で防ぎ、致命傷を避け続けている。 それだけでパイロットの資質の高さが窺えた。 恐らくは見えているのだろう。目がいい。勘も悪くない。だが、時間の問題だ。 守っている方も、攻めている方もだ。 そう結論付けると、シャギアは視線を動かし別の機体をその視野に納めた。 今、向かっているのは玉の嵐にではない。 そこで争う二機の状況は掴めても、どちらが敵で味方なのか、あるいは両方敵なのかは掴めない。 だから、地に落ち倒れている橙色の機体へとシャギアは通信を繋げた。 「そこの機体、聞こえているか? こちらは……」 「その声!」 「なんと、ガロード=ランか」 「何をしに来た? まさか、助けに来た、とかいうんじゃないだろうな」 驚きを禁じえなかった。把握していない生き残りにまさかこの少年がいようとは思っていなかったのだ。 動揺を押し隠す為に間をとる。そして、その間を使って観察の目をガロードの機体へと走らせた。 右肩が貫かれているのが見える。だが、それ以外に目立った損傷はなし。 こちらを私だと確認してなお構えすら取らないのは一時的に機能障害を起こしていると見るべきか。 「そのまさかだな。ガロード、お前の仲間は白と黒どちらだ?」 「……信用してもいいのか?」 「好きに受け取ればいい。だが、勘違いするな。ガロード=ラン、ティファ=アディール。  貴様らを殺すのは私達でなくてはならんのでな」 モニター越しに視線がぶつかり合う。いくらかの逡巡を得たのだろう。 ややあって「白いほうだ」と言葉が返ってきた。 交戦を続ける二機に視線を向ける。先ほどと変わらぬ攻防がそこでは続いていた。 ヴァイクランの性能を持ってすれば、あの速度に割って入ることはまるっきりの不可能ではない。 だが、覚悟はいる。自らが痛手を負うだけの覚悟が、だ。 そして、その覚悟はシャギアにはない。あの中に割って入ろうなどという考えはシャギアには皆無だった。 とはいえ、モノはやりようだな。 通信を兜甲児へ。 玉の嵐へ近づきながらもあまりの速度差に手を出しかねている緑の機体――旧ザク。それがこちらを振り返った。 「甲児くん、ペガスを使いたい。そのためにナデシコまで一時後退を頼む」 「シャギアさん、どういうことなんだい?」 「私に考えがある。任せてもらえないか? プランは今送る」 「わかった」 僅かな逡巡も得ずに実にあっさりと甲児が了承の返事を送ってきた。 信頼もあるのだろうが、この思い切りのよさがこの男の武器なのかもしれない。 そう思った。 僅かに微笑んだのも一瞬、すぐに引き締まったシャギアの顔が上空を見上げる。 手は打った。 だが、無茶な動きだ。あれほどの高速。中のパイロットもただではすまないだろう。 だから、こちらの準備が完了するのが早いか、パイロットが潰れるのが早いか、それは賭けだった。  ◇ 通信機の向うでクインシィが喚いている。 何を言っているのかは聞き取れなかった。もう耳が遠い。視界もぼやけている。 時間が余りない。それが嫌でも自覚できた。 頭の中が白い。余り深いことは考えられないようになってきている。 その代わりなのだろうか。やけに昔のことばかりが頭に蘇ってきていた。 そうだな……そうだ。あのときもママンはこなかった。 8歳と9歳と10歳の時と、12歳と13歳の時もだ。僕はずっと待ってたのに。 ……俺はあの女のようにはならない。 男と女の愛情なんかより、遺伝子の方を信じてたあんたのようになどなるものか。 俺はクインシィ=イッサーをものにして、オルファンの頂に立ってみせる。 その為にもクインシィにはオルファンの玉座にいてもらわねば困るのだ。 他の何を犠牲にしようとも俺はクインシィをオルファンの元へ返す。 一度までなら俺の命すら捧げてやる。事が済んだ後、生き返られればそれでいい。 だがその為には、自分に代わってクインシィを守り抜く存在が必要不可欠だった。 ガロード=ラン、貴様を信用してやる。 この少年に託さねばならないのは癪だった。気に入らない。気に食わない。 だが、それでも託さねばならない。 通信を繋げ、言葉を発しようとして妙な音が鳴り、咽返った。喘ぐ。 血と痰の入り混じったものが、口から垂れて落ちた。 息をするたびに、空気を吸い込むたびに、針でも吸い込んだのかってくらい胸が痛かった。 棘が肺に突き刺さる。 「ガロード=ラン」 返事のあるか無しかはどうでも良かった。どうせもう自分の耳には届かない。 ただ一言、聞いてくれていればそれでよかった。 長い言葉を伝える余力はない。例え短くても多くを伝えられる言葉――それを探した。 「頼む」 出たのは陳腐な言葉。だが、これしかないと思った。 何を頼まれたのかは勝手に奴が思い悩めばいい。その中にクインシィのことも含まれるはずだ。 身を粉にしてクインシィの為に尽くし、最後には死んでゆけ。 傷が深い。 ジャガー号を貫いた剣こそその身を避けていたもののコックピットは半壊していた。 その影響で内部に張り出してきたフレームが胸板を貫いている。 何故これで生きていられる、とは思わなかった。思った瞬間に死ぬような気がしていた。 いや、とっくに死んでいるのだろう。 命の火種はもう尽きている。 燃え尽きたはずの命、その残り火だけで今は動いている。そんな気がした。 血に濡れた口元が笑う。そして、叫んだ。 上げた雄叫びは音にもならず空気を揺らさない。しかし、そのとき確かに雄叫びは上がったのだ。 徐々に狭まっていた視界が戻る。やけに鮮明だった。 視界の隅が敵を捉える。 静かに睨みつけ、ジョナサンは最後の突撃を始めた。 真ゲッター2のノズルが火を吹き、巨大な光をその背に背負う。 鈍間だな。 なんて鈍さだ。 敵の動きは止まって見えた。 何故この程度の敵にこうまで手こずったのか。 まぁ、それももういい。 ここでお前の命は貰っていく。 今ある脅威、それは取り除かねばならない。 嫌だな。ジョナサンは思った。 嫌だ嫌だ。ああ、嫌だ。 あんな小僧を生かすために頑張るなんて柄じゃない。冗談じゃない。 やるべきことはまだ多く残っている。 自分の仕事はまだ終わりではないのだ。 気に入らない。気に食わない。 だが、それでも自分の後を任せられるのは、今奴しかいない。 クインシィを守るという一点に関しては、信用できた。 腕が消えた気がした。足もだ。 体が消えていく。 視界が狭い。 待ってくれ、もう少しだ。そう思った。 もう少しで、目の前の脅威を取り除くことが出来る。 既に手を伸ばせば届くほどに敵は近い。 敵は鈍間だ。 一撃で片がつく。 後一秒。いや半秒でいい。俺に時間をくれ。 このままでは女王のバロンとして示しがつかないではないか。 ジョナサンは思った。 ああ、嫌だ嫌だ。嫌だなぁ。  ◇ 何が起こったのか皆目検討がつかなかった。 敵影が消えたと思う間もなかった。 油断しているつもりは微塵もなかった。一瞬でも気を抜けば落とされるという状況で神経を張り詰めていたのだ。 だが、気づいたときには既に機体は重い衝撃に揺れ、跳ね飛ばされていた。 世界が回っている。堕ちているのではない。 錐揉み回転をしながらヴァイサーガが中空を滑る。そう空気圧の上で滑るほどの勢いで吹き飛んだのだ。 程なくビルに叩きつけられ、ヴァイサーガの動きは止まった。 跳びそうになる意識を繋ぎとめ、呼び戻す。視界が開けた瞬間、白い影が直ぐ脇を掠めて落下した。 それは数棟のビルを巻き込み、突き破り、瓦解させて大地に突っ込んだ。 白いトンガリ帽子に右手のドリル。間違いなく先ほどまで交戦を続けていた敵機だった。 何が起こったのかは分からない。 だが、これはチャンスだった。この場から離脱するチャンスだ。 機体を起こす。逃げようと跳び上がり、背筋が凍りつくような悪寒に襲われた。 咄嗟にその場から飛び退く。 ほぼ同時に暗い何かが眼前を駆け抜け、前面の装甲が軋みを上げた。 巨大な重力波がその場を駆け抜けたのだ。 思わず振り返り、射撃地点を探す。 だが、その方角にそれを打ち込んだはずの者は映らなかった。変わりに視界を覆い潰したのは―― 「……嘘だろ」 ――幾百にも折り重なる火気の群。彼方から飛来し、暁の空を覆い尽くすミサイルの雨。 その狐につままれたような光景に一度思考が停止し、統夜は恐怖した。 「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!」 五大剣を鞘に収め、退く。 退きながら、烈火刃を取り出しては片っ端から投げ、撃ち落す。しかし、丸で足りない。 烈火刃の残されていたストックは五十本を越えている。だが、その全てを投げ終えてもなお百を下らない数。 気休めにもならなかった。そんな半端な数ではないのだ。 安全圏など何処にもなかった。遮蔽物を利用するとかそういうレベルでは既にないのだ。 この規模のミサイルを完全に避けようと思えばそれは、地下やシャルター以外に選択肢はない。 だが、ヴァイサーガがそれらに入れるはずもない。 「畜生! 畜生!! 畜生!!! そうやって寄ってたかって俺一人いじめて、楽しいのかよ!!  お前らはそれで満足なのかよッッ!!!!」 こうなれば多少の被弾は覚悟の上でミサイルの雨の中、駆け抜ける他はない。 その場合、ミサイル一発一発の重みが問題だったが、もうどうにでもなれという心境だった。 どうせ悩んだってどうにもならないのだ。 そして、ヴァイサーガが鞘を払ったのとそこら一帯にミサイルが降り注ぎ始めたのは、ほぼ同時のことだった。  ◇ ミサイル降り注ぐ爆撃地帯から少し離れた上空にシャギアは位置していた。 そこで戦況を見守りつつ通信機に声を吹き込む。 「ミサイル21基。目標座標X3.78-3.88 Y0.77-0.83」 それは通信圏ギリギリに位置する甲児とペガスの二機を経由して目視圏外に位置するナデシコへと伝わる。 一拍遅れて21基のミサイルが指示した地点を襲う。 遠距離攻撃の手段が尽きていることは確認済み。だから、初撃ほど大量の火器は必要ない。 そして、ガロードの退避も既に済んでいる。巻き込む心配は既になかった。 「やったのか?」 「いや、まだだな。チェックメイトにはまだ早い」 爆撃区域を切り抜けた敵機を確認して、甲児の質問に軽く答える。 そう、チェックメイト。すなわちチェスである。シャギアにとってもはや戦況はチェスに等しい。 あの高速戦闘を見たときからそこに割り込む気など皆無だったのだ。 例え勝てるとしても、相手の得意な土俵で戦うことほど愚かなことはない。だから自分の土俵に引きずり込んだ。 速度で勝る相手は手数で圧倒してやればいいのだ。 そして、それはナデシコという強襲戦艦があれば可能だった。 唯一の懸念はこちらの準備が整うまでに白い機体が落とされないかということだった。だが、それはギリギリで間に合ったといえる。 恐らく突撃の際、強烈なGに耐えかねて気絶でもしたのだろう。 バランスを崩し、黒い機体にぶつかって落下したが、その程度で乗り手が死んだとは思えない。 レーダーが敵機を確認する。優越感に浸ったシャギアは笑いが込み上げてくるのを感じた。 「誤差修正+0.082 -0.034」 降り注ぐミサイルの雨を切り払い、被弾しながらも敵は逃げ場を探して駆けている。 さすがにその動きは素早い。だが、予想外の速度ではない。 「X3.68 Y0.69。続けてX3.68 Y0.74。ミサイル各5基」 矢継ぎ早に指示を出していく。南北をミサイルに阻まれた敵機はもはや東に駆け抜けるしか道はない。 その尻を追うように後方に次々と着弾させていく。 自らの手の平の上で逃げ惑うその様は健気で、憐れで、滑稽だった。だが、それももう終わる。 「目標座標X3.88 Y0.71。グラビティーブラスト発射用意」 既にこれまでの流れで敵機の足は掴んだ。後はそれを考慮してそこに最大の一撃を打ち込めば―― 「――詰みだ。グラビティーブラスト発射」 巨大な破壊の力を携え、重力の荒波が撃ち出される。それは阻むもの全てを呑み込み、目標地点も、その延長線上も全てを抉り飛ばして無に返した。 だが、そのとき黒い機体はそこにはいなかった。 誘導されつつあることを薄々感づいていたのだろう。 ナデシコがグラビティーブラストを放つ直前の溜め。ミサイルによる爆撃が止むその一瞬に、向きを変え離脱していたのだ。 だが、それすらもシャギアの読みの上である。黒い機体を二つのガン・スレイブが囲い込む。 そしてその真ん中、黒い機体が足を止めたその場所に―― 「数価変換、ゲマトリア修正……残念だったな、少年。  チェックメイト。さよならだ。ベリア・レディファー」 ――赤黒い火球が打ち込まれ、呑み込み、内包した全てを消失させ、そして爆発。 だがしかし、その爆発後には何もなかった。あるのは一つの巨大な穴のみであり、その下にはまた別の空間が見て取れた。 覗き込む。道は幾筋かに分かれており、その太さはバラバラだった。小さいものは20mほどだが、大きいものは100m近くもある。 追いかけるのは少々骨が折れそうだった。それをする暇もない。 「まさか地下空間が存在するとは……してやられたな」 興醒めといった感じでシャギアは振り返る。そこには兜甲児とガロード=ラン、二人の姿。 補給は必須だろうが戦力を損耗することもなかった。まずまずの戦果と言っていい。 後はガロード=ラン。奴との交渉を穏便済ませればことはうまく進む。それが終わればこんどこそ首輪の解析に打ち込もう。 そう、シャギアは決めて、この空域に侵入してくる巨大な戦艦を見上げた。 【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)  パイロット状態:良好、テニアを警戒  機体状態:EN55%、各部に損傷  現在位置:C-8市街地  第一行動方針:ガロードと話をする  第二行動方針:人気がなく見晴らしのいい場所へ移動  第三行動方針:首輪の解析を試みる  第四行動方針:比瑪と甲児を利用し、使える人材を集める  第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除  最終行動方針:オルバと共に生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)  備考1:ガドル・ヴァイクランに合体可能(かなりノリノリ)、自分たちの交信能力は隠している。  備考2:首輪を所持】 【兜甲児 搭乗機体:旧ザク(機動戦士ガンダム)  パイロット状態:良好  機体状態:良好  現在位置:C-8市街地  第一行動方針:ガロードと話をする  第二行動方針:ヒメ・フロスト兄弟と同行  第三行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める  最終行動方針:アインストたちを倒す 】 【宇都宮比瑪 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)  パイロット状態:良好、ナデシコの通信士  機体状態:EN60%、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル90%消耗  現在位置:C-8市街地北東(ナデシコブリッジ)  第一行動方針:甲児・フロスト兄弟に同行  第二行動方針:依々子(クインシィ)を探す  最終行動方針:主催者と話し合う  備考:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガスを収容】 【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)  パイロット状況:神経圧迫により発声不可、気絶中、顔に落書き(油性マジック)  機体状況:MS形態       落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障  現在位置:C-8市街地(ナデシコ医務室)  第一行動方針:新たなライブの開催地を探す  最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる  備考:自分の声が出なくなったことにまだ気付いていません】 【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)  パイロット状態:疲労大、苛立ち、マーダー化  機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数       EN1/4、烈火刃残弾ゼロ  現在位置:C-8地下通路(実は偶然落下しました)  第一行動方針:この場からの離脱。  最終行動方針:優勝と生還】 【ガロード・ラン 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)  パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。  機体状況:右肩に刺し傷、各部にダメージ(戦闘に支障無し)  現在位置:C-8  第一行動方針:シャギアと話をする  第二行動方針:アムロと合流する  第三行動方針:勇、及びその手がかりの捜索  最終行動方針:ティファの元に生還】 【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日)  パイロット状態:気絶中  機体状態: ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)、ジャガー号のコックピット破損※共に再生中  現在位置:C-8  第一行動方針:勇の捜索と撃破  第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す  最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】 &color(red){【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日)} &color(red){ パイロット状態:死亡} &color(red){ 機体状態:ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)、ジャガー号のコックピット破損※共に再生中】} 【パイロットなし 搭乗機体:ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)  パイロット状態:パイロットなし  機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に帰還中  現在位置:C-8市街地】 &color(red){【残り23人】} 【二日目7:15】 ---- |BACK||NEXT| |[[朝ごはんは一日の活力です!!]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[leaving me blue]]| |[[二つの依頼]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[計算と感情の間で]]| |BACK||NEXT| |[[朝ごはんは一日の活力です!!]]|シャギア|| |[[朝ごはんは一日の活力です!!]]|甲児|| |[[朝ごはんは一日の活力です!!]]|比瑪|| |[[朝ごはんは一日の活力です!!]]|バサラ|| |[[戦いの矢>戦いの矢(1)]]|統夜|[[疾風、そして白き流星のごとく]]| |[[戦いの矢>戦いの矢(1)]]|ガロード|| |[[戦いの矢>戦いの矢(1)]]|クインシィ|| |[[戦いの矢>戦いの矢(1)]]|&color(red){ジョナサン}|| ----
*&color(red){命の残り火 ◆7vhi1CrLM6} 静寂の朝もやを排気音が掻き消した。 まだ低い朝陽に照らし出された街並みを巨大な影で塗りつぶしながら進む戦艦ナデシコ。 その指揮所にシャギアは駆け込んだ。オペレーター席で振り向いた比瑪と目が合い、一拍遅れて甲児も駆け込んでくる。 弾む息を押し殺し極めて冷静に声を出した。 「状況は?」 「八時の方角に何かを捉えたわ。加工拡大したものがこれ」 答えつつ比瑪がパネルを叩くとモニターに閃光が映し出される。 小指の先ほどにしか見えないそれが拡大されはっきりとした輪郭を伴っていく。 「機体だな。それにしてもこの速度は……」 「シャギアさん、こっちにもう一機いるぜ」 甲児が指差すそこに目を向ける。確かにそこにもう一機いた。白銀の機体。 高速で駆け抜ける機体とその先にいる機体。それが意味する状況は―― 「詳細は分からないが戦闘だな……待てッ!! 甲児くん!!!」 「わりぃ、シャギアさん。ナデシコはそのまま決めたとこまで行ってくれ!」 言うが早いか飛び出していく甲児。そのまま振り返ることなく指揮所を後にする。 だが、ナデシコは積極的な接触は避けると決めたばかりなのだ。頭が痛い。 「どちらが敵かも分かっていないと言うのに……」 いや、それどころか両方ともこの殺し合いに興じる人間という可能性すらある。 どうする? ここで甲児を見捨てていくのは容易い。だが、それをすれば……。 悩むシャギアの視界を甲板から発進した緑のモビルスーツが横切っていく。 「でも、追いかけるんでしょ?」 振り向いた比瑪と目が合い、その顔がにっと笑う。 頭を抱えつつも溜息と共に返事を吐き出した。 「もちろんだ」 ここで甲児を見捨てれば宇都宮比瑪の信頼を失うだろう。下手すれば手駒が一つもなくなるということだ。 それは早い。 オルバとテニアがいれば任せるところだが、今この場に二人はいない。 戦力の消耗は避けたいとはいえ、余計な諍いを避けようと思えば答えは決まっているのだ。 「私も出る。ヴァイクランで先行させて貰おう。ナデシコは微速前進」 ボソンジャンプについては説明おばさんが懇切丁寧に教えてくれた。 脱出の鍵となるのは、A級ジャンパーとチューリップクリスタル、そしてディストーションフィールド。 その一つを万が一にも失うわけにはいかない。 首を傾げた比瑪に「少々考えがある」と言い残して指揮所を後にした。 そして、歩を早める。戦闘への介入を決めた以上、それは実りあるものにしなければならないのだ。 どれだけ被害なく場を収めるか、それがこのときシャギアに課せられた課題だった。  ◆ 明けの空、誰もいない空虚の街で追いかけっこは続いていた。 本来ならば車が行き交うであろう大通りを白銀の巨体が駆け抜け、一拍遅れて紺碧の騎士が後を追う。 距離が縮まらない。いや、それどころか離されて行く。 真ゲッター2とヴァイサーガ。大型機ながらも奇しくも共にその早さこそを最強の武器とする機体。 だが、真ゲッター2のほうが早い。追いつけない。 それに耳鳴りが止まない。何でだろうか? 頭がくらくらする。 どうする? このままでは埒があかない。逃げられる。 一度退いて体勢を立て直すべきか? いや、それでは仕掛けた意味がない。 追いつけるか、と問われればその答えはYESだった。 ヴァイサーガ最大の攻撃『光刃閃』、その本質は居合いではない。 『光刃閃』のコード入力と同時にリミッターを解除される要素。すなわち風を超え光とも比肩しうるその速力こそが『光刃閃』の本質。 それを使えば追いつき一撃を加えることは難しくはない。 いや、使いこなせさえすれば一撃といわず、乱撃を加えることすら可能であろう。 だが、それには問題がある。 そもそも何故リミッター等と言う物がかけられているのか? 答えは単純だ。乗り手の体がついていかないのだ。 ヴァイサーガーの最高速から生み出される強大なG。それに並の人間の体はついていかない。 まず間違いなくブラックアウトする。 本来の乗り手であるアクセル=アルマーとラミア=ラヴレス、その二人ですら一定の経験を得るまで光刃閃が封印されていた。 そのことを鑑みれば、ここまで三度の光刃閃に耐えて見せている紫雲統夜の資質は高いのだろう。 いや、間違いなく高いといえる。 だが、彼は戦場に出て間もない。訓練を受けた普通のパイロットですらないただの一般人。 つまり、統夜ほどの資質をもってしても体がもたないということになる。 追いかけている敵が白くなる。視界が狭まる。頭がぼっとして思考が白に塗りつぶされていく。 ふとした瞬間に意識が跳びかけ、頭を振って叩き起こした。 長くは戦えない。それを感じ取った。頭に伸ばした腕が髪をくしゃりと掴む。 「何をやってんだ、俺はッ!! 戦うと決めて、でも決心がつかなくて、やることなすことあべこべで。  でも、それでも何を犠牲にしてでも生き残るって決心を固めたばかりじゃないかッ!  なのに……今度は、今度は体が俺を裏切るのかよッ!! こんなので……こんなことで生き残れるはずないじゃないか……」 情けなかった。決意も、やけばちで身に着けてきた技術も、体も何もかもが中途半端。 自分に嫌気がさす。情けなさ過ぎる。 でもだからこそ、だ。だからこそ、ここは引き下がれない。 ここで引き下がれば自分は本当に中途半端になってしまう。そして、中途半端なまま死んでいく。そんな気がしていた。 ――だって、このままでは不甲斐なさ過ぎるじゃないかッ!! 引き出していたテンキーを叩く。体に無理が着始めている。 そんなことは百も承知。 多少の無理がなんだ。 男の子だ。男なのだ。自分が弱いとは思いたくない。認めたくない。 自分はやれば出来るのだと信じたい。 コードの入力が完了する。深呼吸を大きく小さく、そして大きく。鼻腔に嫌な臭いが突き抜けた。 それを無視して、ジリジリと引き離していく敵機を睨みつける。 視界に映るのは白銀に光る大型機。そして、それが駆け抜けた衝撃で砕け、光を反射しながら雪のように舞い散るガラスの欠片たち。 その中をヴァイサーガは一筋の閃光のように駆け抜けた。  ◇ 「ジョナサン」 「わかっている」 通信が一つ。画面越しのクインシィが何か言いたそうな顔をしていた。それを制す。 そう。わかっている。追いかけてくる敵機の挙動が妙だった。 しつこく追い回しているにしては、距離は開き続けている。詰まる様子は今の所ない。 かと言って遠距離攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、ただ追い回しているのだ。 追いつけない。それはもう分かったはずだ。なら無駄な労力を払う前に引き下がるのが普通だ。 だが、その気配は見られない。ということは、だ。 「こちらの油断を誘っている、ということか……」 「あるいはこの先に罠をはっているということもありうる」 「距離はいつでも潰せると見ておいたほうがいいな。最初の一撃か?」 「ああ、どちらにせよそろそろ仕掛けてくる頃合だ」 矢継ぎ早に繰り返される会話。それが現状を分析し、丸裸にしていく。 二人の思考と結論はほぼ一致していた。ゆえに、話が早い。 会話を続けながら注意深く背後を探っていたクインシィ。その口が開く。 「来る。迅いぞッ!!」 「避けてみせよやッ!!」 確かに迅い。意表を衝かれれば無事にはすまないだろう。 だが、若いな。そう思い笑った。 最高の武器が最適な武器とは限らない。それを知らない若さだ。唯一つの武器を盲信している。 見せすぎだ。その攻撃は二度目。これで二度目なのだ。そして、意表は衝かれていない。 だから簡単にかわせる。 「オープンゲットッッ!!」 タイミングを見計らいジョナサンは叫びレバーを入れる。 真ゲッターが赤・白・黄、三色のゲットマシンに分かれ、空いた空間に閃光が飛び込んだ。 その挙動を鼻で笑う。後は再び合体し、別の方向に逃げるだけだ。 0.01秒にも満たない一瞬の逡巡。しかしそれを怖気が遮る。 まずい。直感的にそれを感じ取った。 見せすぎだ。オープンゲットは三度目。これで三度目なのだ。そして、それは敵機の想定内。 だから簡単に捉えられる。 次の瞬間、一機のゲットマシンを五大剣の刃が襲い、貫いた。  ◇ 剣先に戦闘機を串刺しにしたまま、勢いを殺しきれなかったヴァイサーガはビルを二つ貫いてようやくその動きを止めた。 息が荒かった。視界が白黒している。 機体を起き上がるように操作して、その動きに酔いが回った。口元を両手で押さえて吐き気を抑える。 読みは当たった。余裕のない状態での回避にはあの分離機構を使う、それは正解だった。 暴れる機体を押さえ込み急制動をかけて戦闘機を一機串刺しにしたのだ。 確率は三分の一。上々だ。 だが、その動きは光刃閃のリミッターを解除したままで行なわれていた。体の無理は加速度的に上昇している。 呼吸を落ち着かせ、汚れた口元を拭う。拭った手の甲が真っ赤に染まった。 「……鼻血?」 どろりと粘性を帯びた血が鼻から垂れ下がっていた。どこかの血管がやられたらしい。 大丈夫なのか? そんな疑問を挟みながら鼻に詰め物をする。 上を向いて深呼吸を一回。気持ちを切り替えると、串刺しの戦闘機を足蹴にして剣から手を離した。 クナイ状の小さな刃――烈火刃を二本取り出す。 見上げる上空には旋回を続ける戦闘機が二機。ダイヤルを回しオープンチャンネルを開ける。 「二人……いたのか」 男の名前を呼ぶ女の声が聞こえてきた。 足元の戦闘機にジョナサンとかいう男が乗っていた、そういうことだろう。 そして、まだ敵は残っているということだ。上空の二機は無人ではないということだ。 狙いをつけ、烈火刃を投げる。 「あっちか」 一本はひらりとかわされ、一本は命中。その挙動で乗り手のいる戦闘機に当たりをつけた。 避けたのは赤い戦闘機。そこに敵はいる。 足元の白い戦闘機から剣を引き抜き構える。 光刃閃は、今は使いたくなかった。戦闘機相手に必要とも思えない。 柄を握る手に力を込め、ヴァイサーガは赤い戦闘機に止めを刺すべく空に駆け上がった。 そして、その眼前に何かが放り出される。 ――……? 箱?? まずいッッ!!! 距離が近い。完全にかわしきる事は不可能。それでも統夜の直感に従いヴァイサーガは回避を試みる。 箱のような立方体。その表面でプラズマが奔ったかと思った瞬間、爆ぜた。 閃光と雷光が入り乱れ、雷鳴が鳴り響く。 視界が白に塗りつぶされる。ヴァイサーガの回路がショートし、機能が麻痺していく。 そして光が収まったとき、ぐらりと揺れたヴァイサーガは自由落下を始めた。 空が遠ざかる。落ちる。落ちていく。 それが本能的な恐怖を与え、統夜は叫んだ。 「動け! 動くんだ!! 動けっていてるだろッッ!!!」 コックピット内部の端末をしっちゃかめっちゃかに弄り回し、声の限り叫ぶ。 しかし、ヴァイサーガは動かない。 機体的な損傷は殆んどない。だからこの程度の問題からはすぐに回復できる。 だが、それでも回復よりも落下のほうが早い。ヴァイサーガは瓦礫の街並みに落ち、アスファルトの道路に激突した。  ◇ 何が起こったのか分からなかった。 敵機がこちらに狙いを定め、突撃してきた。そこまでは分かる。 迎え撃つ。そういう気概で身構えたときに、箱のようなものが割り込んできた。 それが閃光を撒き散らしながら爆ぜ、気づくと敵機は落下していたのだ。 あの箱は一体なんだ? 「お姉さん、ごめん。遅くなった!」 「ガロードか」 思考を遮る通信が一つ。声を聞いた途端に返していた。 南の空に朝焼けの色をした機体が浮かんでいる。通信はそれからだった。 機体が変わっている。それが気になったがそれより―― 「お前は今までどこをほっつき歩いていた! 私はずっとお前を探していたのだぞ!!」 思わず叱り付けていた。次から次へと愚痴が込み上げてくる。 それにガロードは「ごめん。ごめん。お姉さん、ごめんって」と防戦一方だ。 雷が頭上を通り過ぎるのを待つ算段なのだろう。小賢しい。子供っぽい小賢しさだ。 不意に視界の隅で何かが動いた気がした。 次の瞬間、黒騎士をクインシィの眼前を音もなくすり抜け、ガロードに切りかかる。 「ガロード!!」 クインシィの叫び声と剣が振り下ろされたのはほぼ同時だった。 しかし、ガロードは予想外にも鋭敏な反応をみせ、敵機の腕を受け止めることで攻撃を防いでいる。 「大丈夫だって。お姉さんはジョナサンを。ここは俺が引き受ける」 「しかし、私はまだ戦える。イーグル号も頑張ればなんとかなる子だ」 「そりゃお姉さんが使えばなんとかなるのかもしれないけど、ここは任せろって」 「ガロード!」 「お姉さん!! 大丈夫。大丈夫だって、ちょっとは俺を信用しなよ……」 視線が絡み合った。そして、僅かに気圧された。それを押し返そうとして辞めた。 強い光を放っていたガロードの目が一瞬情けなさそうに揺れたのだ。 「……信用」 ぽつりと呟く。一拍おいて唇を食いしばり、クインシィは決めた。 「本当に大丈夫なのだな?」 「心配性だな、お姉さんは。大丈夫」 「ガロード、任せた」 イーグル号が高度を落とし、ジャガー号の元へと向かう。 ガロードが返した「了解、と」という声を背中越しに聞こえてきた。  ◇ クインシィがジョナサンの元へ向かうのを確認して、ガロードはほっと息をついた。 その瞬間、五分に組み合っていたストレーガが蹴り飛ばされ距離が開く。その距離を利用して黒い大型機が踏み込んでくる。 「うわッ! ちょ、ちょっと、タンマ!! タンマ!!!」 剣戟を受け止めながら叫んだ。が、当然それで攻撃がやむことはない。 乱れ飛ぶ刃がストレーガの装甲を削っていく。だがしかし、厚い。乱撃で断ち割られるほど柔ではない。 「待ってくれって頼んでるのに……鬼か、あんたはッ!!」 だからその乱撃を物ともせずに前に出る。 距離が詰まり懐へ。 そこは剣の距離ではない。拳の、殴り合いの距離。敵機の半分程度の大きさしかないストレーガの距離だ。 そして、渾身の力で殴り飛ばした。 濁音の混ざった金属音。剣で受けた敵が踏みとどまりきれずに30mほど押しやられる。 南極で発見された謎の遺跡に関わる研究者リ・テクノロジストの一人クリフォード=ガイギャックス。通称ドクトル・クリフ。 彼が遺跡の技術を参考にしたものを積み込み作成した四機の機体の中で、この『魔女』の名を関する機体の出力は一際大きい。 それはガナドゥールと同じく始めから戦闘用に作られたがゆえであるが、その特性は違っていた。 ガナドゥールはその突撃力と自律兵器による対応力に長けている。 それに対してストレーガが長けているのは、装甲の厚さと単純な機体自体の攻撃力。 突進力も突破力もない鈍重な機体だが、足を止めての殴り合いではその強固さと出力ゆえに無類の強さを発揮する。 だから、そのストレーガの渾身の一撃はただの拳であったにも関わらず流れを断ち切るには十分だった。 30mの距離が40、50と開いていき、対峙の状態を保ったまま膠着を起こす。 「なんだよ……なんなんだよ、お前らは」 苛立ちが通信に乗って飛んできた。 若い男の声。年は自分よりも少し上といったところだろうか。 「それはこっちが聞きたいね。何だって俺達を襲うんだい?」 無言が衝立になって返ってくる。空気がまるで油のような粘性を持ったかのように重い。 そのまま五秒十秒とときが流れ、ようやく重い口が開く。 「……生き残るために仕方がないんだ。一人しか生き残れないんだ。  お前を見てるといらつく。無駄だろ? 仲間なんて庇ってもどうせ死ぬんだ。  いずれ殺さなきゃいけないんだ。無駄だってなんで分からない……」 その響きはどこか自分に言い聞かせているような音色を含んでいた。 対してガロードの声はどこか陽気だ。 「そんなの分からないじゃないか。あの化け物を倒せば皆で生きて出られるかもしれないんだ」 「分かるよ。そんなのは無理だ。都合のいい言い訳さ。お前は楽なほうに逃げてるだけなんだよ。  自分の為に人を殺すのが嫌だから、他人を守るために人を殺そうとしてる。そのほうが気が楽なんだろ?」 「何でそんな考え方しか出来ないのさッ! みんなで頑張ればどうにかなる。どうしてそう思えないんだよ」 「思えるわけがないだろ! たった一日で半数以上が死んでるんだぞ!! 出来るなら俺もそうしたいさッ!!!  でも、誰があんな化け物に勝てる! 一人しか生き残れないここで誰を信じることが出来る!!  お前の言っていることは夢見る子供の理想論なんだよ!!!」 「そんなのわかんないよ……わかんないよ、あんたの言っていることは!」 不意に敵機が動いた。その動きはストレーガよりも遥かに素早い。 右回りに回りこむ軌道を取りながらクナイのようなものを投げ出される。装甲に突き刺さった。 だが浅い。気にかける攻撃ではない。そう思ったときにそれが発火し、爆発した。瞬間的に炎と爆煙がカメラを潰す。 だがそれを気にかけている暇はなかった。 「この分からず屋がッ!!!」 痛烈な剣戟が叩き込まれる。それを両手の甲で受け止めるストレーガ。 一拍後には前進を行い距離を潰そうと試みる。その瞬間に圧力は消え、胴を薙ぎ払いながらのステップバック。 装甲と刃の間で火花が散る。が、しかし浅い。だから詰め寄り、拳に力を込めた。 「そっちだろ! 分からず屋はッ!!!」  ◇ 俺は何をやっている? 心底そう思った。 決めたはずだ。 敵が複数なら一体を仕留めた後即離脱と。 姿を見られても構わないと。 生き残るのが一番だと。 機体が復旧したら最初にするべきことは斬りかかることじゃないだろ? 一機はもう仕留めた。だったらここは離脱だろッ!!! そう思いつつも足は動かず、乱入してきた橙色の機体と戦闘を続けている。 何だか知らないが、気持ちがささくれ立っていた。 オープンチャンネルを通じて伝わってきた言葉が、仲間の身を案じる言葉が、気に入らない。 身を挺して仲間を庇うその姿が気に入らない。 「クソッ! クソッ! クソッ! クソッ! なんなんだよ、お前はッ!!」 剣を振り下ろす。拳で受け止められ、真っ向から押し合う。 力勝負。 だが押された。全長40mを越えるヴァイサーガが僅か20mそこそこの敵機に力負けしていた。 それでも押し返そうと力を込めた瞬間、空いている拳で腹を殴り飛ばされてヴァイサーガが後退していく。 腕が一本足りない。まだ完全には復旧を遂げていないのか、動きもやや鈍い。 唇を噛み締める。 悩んで、苦しんで、でも一人でも生き抜こうと決めて、それでも割り切れずに苦しむ自分。 そんな自分がまるで悪役みたいじゃないか。これじゃ道化じゃないか。 納得がいかない。不公平だ。 俺はこんなに苦しいのに……お前はそんなに楽しそうで。 俺を殺してでも生き残ろうとしてるくせに仲間を守ろうとして。 楽をして、思い悩むこともなく、奇麗事ばかり口にして、それでいて何もかもを得ようとしている。 許せない。 許せるものか。 そんな我侭、許せるものか。 歯茎に血が滲むほど歯を食いしばり、殺意が牙を剥く。 迫る橙色の拳を弾き上げ、一旦距離を置いたヴァイサーガが空高く舞い上がる。 「死ねよ。死んじゃえよ……お前なんか、死んじゃえよッッ!!」 悪意を乗せた刃が空気を掻き乱す。その乱れ飛ぶ刃は風を呼び、竜巻を生じさせた。 そして、その渦の中心を刃を突き出し一陣の風となったヴァイサーガが吹き抜ける。 鮮やかだ。 瞳の中、大きくなっていく敵の姿。 その装甲の橙色が鮮やかだった。 刃が突き立つ。 衝撃で大地が陥没し、クレーターのような跡が発生する。 少し外したか? 肩を貫いた剣を見てそう思った。 だが、問題ない。 衝撃で気を失ったのか、敵機に動きは見られないのだ。 後はコックピットを貫きなおしてやればいい。 ゆっくりと。 じっくりと。 正確に。 笑いが込み上げる。 見ろよ。 正しいのは俺だ。 お前じゃない。 死ぬんだ。 死ぬんだよ。 皆、死んじゃうんだよ。 そうさ。仲間なんて気にかけてたら―― 「……生き残れないんだよ。俺も、お前も」 何故か落胆している自分がいる。そんな気がした。 溜息を一つ。気を取りなおして敵機を足蹴にして剣を引き抜こうとしたその瞬間―― 「なッ!!」 ――風がやんだ。 周囲で吹き荒み渦を為していた風が跡形もなく消え去っている。 今の状態は凪。すなわち無風。 信じられずに周囲を見回す。その上空で白銀の物体が煌めいた。 咄嗟に飛び退く。瞬間、飛び退いたその場が削られ穴が空いた。 さっきまで自分のいた場所。そこで白い巨体がゆらりと起き上がる。片手の大きなドリルが特徴的な機体。 見えなかった。突撃してきたその機体の姿が全く見えなかった。それほどの早さだった。 逃げるべきだ。そう思った。 危険な香りがする。ここは逃げて体勢を立て直すべきだ。 だが、それよりも倒したはずの機体が動いている。殺したはずの敵機が生きている。 そのことが勘に障り、神経を逆なでにする。 気に入らない。気に入らない。気に入らない。 そうやって仲間を庇うお前らも、殺し合いを強要するこの世界も、何もかもが気に入らない。 今、生きているお前もだ。 「駄目だろ……お前は死んでなきゃ」 逃げるべきときを見失い統夜が呟く。ヴァイサーガが悪意を乗せて構える。 泥沼に足を踏み込み始めているその身を、彼はまだ自覚していなかった。  ◆ 遠目からはそれは巨大な手鞠のように見えた。 何かが高速で駆け抜ける様が、まるで白い帯のように目には映っている。 一瞬後には消え去る残像に過ぎないそれが幾重にも重なり合って球を為し、柄を為す。 どれほどの速度で駆け抜ければそのような現象が起こるのか。シャギアは思わず息を呑んだ。 だが、それは手鞠などという典雅なモノではない。 そこは暴風圏。言うなれば玉の嵐。足を踏み入れるものを削り取り無に帰す空間。 仕掛けている側も既に敵味方を識別できる状況ではないのだろう。ビルが、道路が、街が、そこに触れたもの全てが削り取られていっている。 たいしたものだ。そう思った。 その暴風圏の中、玉の嵐の中にいてただ一つ抗い、存在し続ける機体が見える。 弾かれ、翻弄されてお手玉のように宙を舞いながらも辛うじてその手に持つ剣で防ぎ、致命傷を避け続けている。 それだけでパイロットの資質の高さが窺えた。 恐らくは見えているのだろう。目がいい。勘も悪くない。だが、時間の問題だ。 守っている方も、攻めている方もだ。 そう結論付けると、シャギアは視線を動かし別の機体をその視野に納めた。 今、向かっているのは玉の嵐にではない。 そこで争う二機の状況は掴めても、どちらが敵で味方なのか、あるいは両方敵なのかは掴めない。 だから、地に落ち倒れている橙色の機体へとシャギアは通信を繋げた。 「そこの機体、聞こえているか? こちらは……」 「その声!」 「なんと、ガロード=ランか」 「何をしに来た? まさか、助けに来た、とかいうんじゃないだろうな」 驚きを禁じえなかった。把握していない生き残りにまさかこの少年がいようとは思っていなかったのだ。 動揺を押し隠す為に間をとる。そして、その間を使って観察の目をガロードの機体へと走らせた。 右肩が貫かれているのが見える。だが、それ以外に目立った損傷はなし。 こちらを私だと確認してなお構えすら取らないのは一時的に機能障害を起こしていると見るべきか。 「そのまさかだな。ガロード、お前の仲間は白と黒どちらだ?」 「……信用してもいいのか?」 「好きに受け取ればいい。だが、勘違いするな。ガロード=ラン、ティファ=アディール。  貴様らを殺すのは私達でなくてはならんのでな」 モニター越しに視線がぶつかり合う。いくらかの逡巡を得たのだろう。 ややあって「白いほうだ」と言葉が返ってきた。 交戦を続ける二機に視線を向ける。先ほどと変わらぬ攻防がそこでは続いていた。 ヴァイクランの性能を持ってすれば、あの速度に割って入ることはまるっきりの不可能ではない。 だが、覚悟はいる。自らが痛手を負うだけの覚悟が、だ。 そして、その覚悟はシャギアにはない。あの中に割って入ろうなどという考えはシャギアには皆無だった。 とはいえ、モノはやりようだな。 通信を兜甲児へ。 玉の嵐へ近づきながらもあまりの速度差に手を出しかねている緑の機体――旧ザク。それがこちらを振り返った。 「甲児くん、ペガスを使いたい。そのためにナデシコまで一時後退を頼む」 「シャギアさん、どういうことなんだい?」 「私に考えがある。任せてもらえないか? プランは今送る」 「わかった」 僅かな逡巡も得ずに実にあっさりと甲児が了承の返事を送ってきた。 信頼もあるのだろうが、この思い切りのよさがこの男の武器なのかもしれない。 そう思った。 僅かに微笑んだのも一瞬、すぐに引き締まったシャギアの顔が上空を見上げる。 手は打った。 だが、無茶な動きだ。あれほどの高速。中のパイロットもただではすまないだろう。 だから、こちらの準備が完了するのが早いか、パイロットが潰れるのが早いか、それは賭けだった。  ◇ 通信機の向うでクインシィが喚いている。 何を言っているのかは聞き取れなかった。もう耳が遠い。視界もぼやけている。 時間が余りない。それが嫌でも自覚できた。 頭の中が白い。余り深いことは考えられないようになってきている。 その代わりなのだろうか。やけに昔のことばかりが頭に蘇ってきていた。 そうだな……そうだ。あのときもママンはこなかった。 8歳と9歳と10歳の時と、12歳と13歳の時もだ。僕はずっと待ってたのに。 ……俺はあの女のようにはならない。 男と女の愛情なんかより、遺伝子の方を信じてたあんたのようになどなるものか。 俺はクインシィ=イッサーをものにして、オルファンの頂に立ってみせる。 その為にもクインシィにはオルファンの玉座にいてもらわねば困るのだ。 他の何を犠牲にしようとも俺はクインシィをオルファンの元へ返す。 一度までなら俺の命すら捧げてやる。事が済んだ後、生き返られればそれでいい。 だがその為には、自分に代わってクインシィを守り抜く存在が必要不可欠だった。 ガロード=ラン、貴様を信用してやる。 この少年に託さねばならないのは癪だった。気に入らない。気に食わない。 だが、それでも託さねばならない。 通信を繋げ、言葉を発しようとして妙な音が鳴り、咽返った。喘ぐ。 血と痰の入り混じったものが、口から垂れて落ちた。 息をするたびに、空気を吸い込むたびに、針でも吸い込んだのかってくらい胸が痛かった。 棘が肺に突き刺さる。 「ガロード=ラン」 返事のあるか無しかはどうでも良かった。どうせもう自分の耳には届かない。 ただ一言、聞いてくれていればそれでよかった。 長い言葉を伝える余力はない。例え短くても多くを伝えられる言葉――それを探した。 「頼む」 出たのは陳腐な言葉。だが、これしかないと思った。 何を頼まれたのかは勝手に奴が思い悩めばいい。その中にクインシィのことも含まれるはずだ。 身を粉にしてクインシィの為に尽くし、最後には死んでゆけ。 傷が深い。 ジャガー号を貫いた剣こそその身を避けていたもののコックピットは半壊していた。 その影響で内部に張り出してきたフレームが胸板を貫いている。 何故これで生きていられる、とは思わなかった。思った瞬間に死ぬような気がしていた。 いや、とっくに死んでいるのだろう。 命の火種はもう尽きている。 燃え尽きたはずの命、その残り火だけで今は動いている。そんな気がした。 血に濡れた口元が笑う。そして、叫んだ。 上げた雄叫びは音にもならず空気を揺らさない。しかし、そのとき確かに雄叫びは上がったのだ。 徐々に狭まっていた視界が戻る。やけに鮮明だった。 視界の隅が敵を捉える。 静かに睨みつけ、ジョナサンは最後の突撃を始めた。 真ゲッター2のノズルが火を吹き、巨大な光をその背に背負う。 鈍間だな。 なんて鈍さだ。 敵の動きは止まって見えた。 何故この程度の敵にこうまで手こずったのか。 まぁ、それももういい。 ここでお前の命は貰っていく。 今ある脅威、それは取り除かねばならない。 嫌だな。ジョナサンは思った。 嫌だ嫌だ。ああ、嫌だ。 あんな小僧を生かすために頑張るなんて柄じゃない。冗談じゃない。 やるべきことはまだ多く残っている。 自分の仕事はまだ終わりではないのだ。 気に入らない。気に食わない。 だが、それでも自分の後を任せられるのは、今奴しかいない。 クインシィを守るという一点に関しては、信用できた。 腕が消えた気がした。足もだ。 体が消えていく。 視界が狭い。 待ってくれ、もう少しだ。そう思った。 もう少しで、目の前の脅威を取り除くことが出来る。 既に手を伸ばせば届くほどに敵は近い。 敵は鈍間だ。 一撃で片がつく。 後一秒。いや半秒でいい。俺に時間をくれ。 このままでは女王のバロンとして示しがつかないではないか。 ジョナサンは思った。 ああ、嫌だ嫌だ。嫌だなぁ。  ◇ 何が起こったのか皆目検討がつかなかった。 敵影が消えたと思う間もなかった。 油断しているつもりは微塵もなかった。一瞬でも気を抜けば落とされるという状況で神経を張り詰めていたのだ。 だが、気づいたときには既に機体は重い衝撃に揺れ、跳ね飛ばされていた。 世界が回っている。堕ちているのではない。 錐揉み回転をしながらヴァイサーガが中空を滑る。そう空気圧の上で滑るほどの勢いで吹き飛んだのだ。 程なくビルに叩きつけられ、ヴァイサーガの動きは止まった。 跳びそうになる意識を繋ぎとめ、呼び戻す。視界が開けた瞬間、白い影が直ぐ脇を掠めて落下した。 それは数棟のビルを巻き込み、突き破り、瓦解させて大地に突っ込んだ。 白いトンガリ帽子に右手のドリル。間違いなく先ほどまで交戦を続けていた敵機だった。 何が起こったのかは分からない。 だが、これはチャンスだった。この場から離脱するチャンスだ。 機体を起こす。逃げようと跳び上がり、背筋が凍りつくような悪寒に襲われた。 咄嗟にその場から飛び退く。 ほぼ同時に暗い何かが眼前を駆け抜け、前面の装甲が軋みを上げた。 巨大な重力波がその場を駆け抜けたのだ。 思わず振り返り、射撃地点を探す。 だが、その方角にそれを打ち込んだはずの者は映らなかった。変わりに視界を覆い潰したのは―― 「……嘘だろ」 ――幾百にも折り重なる火気の群。彼方から飛来し、暁の空を覆い尽くすミサイルの雨。 その狐につままれたような光景に一度思考が停止し、統夜は恐怖した。 「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!」 五大剣を鞘に収め、退く。 退きながら、烈火刃を取り出しては片っ端から投げ、撃ち落す。しかし、丸で足りない。 烈火刃の残されていたストックは五十本を越えている。だが、その全てを投げ終えてもなお百を下らない数。 気休めにもならなかった。そんな半端な数ではないのだ。 安全圏など何処にもなかった。遮蔽物を利用するとかそういうレベルでは既にないのだ。 この規模のミサイルを完全に避けようと思えばそれは、地下やシャルター以外に選択肢はない。 だが、ヴァイサーガがそれらに入れるはずもない。 「畜生! 畜生!! 畜生!!! そうやって寄ってたかって俺一人いじめて、楽しいのかよ!!  お前らはそれで満足なのかよッッ!!!!」 こうなれば多少の被弾は覚悟の上でミサイルの雨の中、駆け抜ける他はない。 その場合、ミサイル一発一発の重みが問題だったが、もうどうにでもなれという心境だった。 どうせ悩んだってどうにもならないのだ。 そして、ヴァイサーガが鞘を払ったのとそこら一帯にミサイルが降り注ぎ始めたのは、ほぼ同時のことだった。  ◇ ミサイル降り注ぐ爆撃地帯から少し離れた上空にシャギアは位置していた。 そこで戦況を見守りつつ通信機に声を吹き込む。 「ミサイル21基。目標座標X3.78-3.88 Y0.77-0.83」 それは通信圏ギリギリに位置する甲児とペガスの二機を経由して目視圏外に位置するナデシコへと伝わる。 一拍遅れて21基のミサイルが指示した地点を襲う。 遠距離攻撃の手段が尽きていることは確認済み。だから、初撃ほど大量の火器は必要ない。 そして、ガロードの退避も既に済んでいる。巻き込む心配は既になかった。 「やったのか?」 「いや、まだだな。チェックメイトにはまだ早い」 爆撃区域を切り抜けた敵機を確認して、甲児の質問に軽く答える。 そう、チェックメイト。すなわちチェスである。シャギアにとってもはや戦況はチェスに等しい。 あの高速戦闘を見たときからそこに割り込む気など皆無だったのだ。 例え勝てるとしても、相手の得意な土俵で戦うことほど愚かなことはない。だから自分の土俵に引きずり込んだ。 速度で勝る相手は手数で圧倒してやればいいのだ。 そして、それはナデシコという強襲戦艦があれば可能だった。 唯一の懸念はこちらの準備が整うまでに白い機体が落とされないかということだった。だが、それはギリギリで間に合ったといえる。 恐らく突撃の際、強烈なGに耐えかねて気絶でもしたのだろう。 バランスを崩し、黒い機体にぶつかって落下したが、その程度で乗り手が死んだとは思えない。 レーダーが敵機を確認する。優越感に浸ったシャギアは笑いが込み上げてくるのを感じた。 「誤差修正+0.082 -0.034」 降り注ぐミサイルの雨を切り払い、被弾しながらも敵は逃げ場を探して駆けている。 さすがにその動きは素早い。だが、予想外の速度ではない。 「X3.68 Y0.69。続けてX3.68 Y0.74。ミサイル各5基」 矢継ぎ早に指示を出していく。南北をミサイルに阻まれた敵機はもはや東に駆け抜けるしか道はない。 その尻を追うように後方に次々と着弾させていく。 自らの手の平の上で逃げ惑うその様は健気で、憐れで、滑稽だった。だが、それももう終わる。 「目標座標X3.88 Y0.71。グラビティーブラスト発射用意」 既にこれまでの流れで敵機の足は掴んだ。後はそれを考慮してそこに最大の一撃を打ち込めば―― 「――詰みだ。グラビティーブラスト発射」 巨大な破壊の力を携え、重力の荒波が撃ち出される。それは阻むもの全てを呑み込み、目標地点も、その延長線上も全てを抉り飛ばして無に返した。 だが、そのとき黒い機体はそこにはいなかった。 誘導されつつあることを薄々感づいていたのだろう。 ナデシコがグラビティーブラストを放つ直前の溜め。ミサイルによる爆撃が止むその一瞬に、向きを変え離脱していたのだ。 だが、それすらもシャギアの読みの上である。黒い機体を二つのガン・スレイブが囲い込む。 そしてその真ん中、黒い機体が足を止めたその場所に―― 「数価変換、ゲマトリア修正……残念だったな、少年。  チェックメイト。さよならだ。ベリア・レディファー」 ――赤黒い火球が打ち込まれ、呑み込み、内包した全てを消失させ、そして爆発。 だがしかし、その爆発後には何もなかった。あるのは一つの巨大な穴のみであり、その下にはまた別の空間が見て取れた。 覗き込む。道は幾筋かに分かれており、その太さはバラバラだった。小さいものは20mほどだが、大きいものは100m近くもある。 追いかけるのは少々骨が折れそうだった。それをする暇もない。 「まさか地下空間が存在するとは……してやられたな」 興醒めといった感じでシャギアは振り返る。そこには兜甲児とガロード=ラン、二人の姿。 補給は必須だろうが戦力を損耗することもなかった。まずまずの戦果と言っていい。 後はガロード=ラン。奴との交渉を穏便済ませればことはうまく進む。それが終わればこんどこそ首輪の解析に打ち込もう。 そう、シャギアは決めて、この空域に侵入してくる巨大な戦艦を見上げた。 【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)  パイロット状態:良好、テニアを警戒  機体状態:EN55%、各部に損傷  現在位置:C-8市街地  第一行動方針:ガロードと話をする  第二行動方針:人気がなく見晴らしのいい場所へ移動  第三行動方針:首輪の解析を試みる  第四行動方針:比瑪と甲児を利用し、使える人材を集める  第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除  最終行動方針:オルバと共に生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)  備考1:ガドル・ヴァイクランに合体可能(かなりノリノリ)、自分たちの交信能力は隠している。  備考2:首輪を所持】 【兜甲児 搭乗機体:旧ザク(機動戦士ガンダム)  パイロット状態:良好  機体状態:良好  現在位置:C-8市街地  第一行動方針:ガロードと話をする  第二行動方針:ヒメ・フロスト兄弟と同行  第三行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める  最終行動方針:アインストたちを倒す 】 【宇都宮比瑪 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)  パイロット状態:良好、ナデシコの通信士  機体状態:EN60%、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル90%消耗  現在位置:C-8市街地北東(ナデシコブリッジ)  第一行動方針:甲児・フロスト兄弟に同行  第二行動方針:依々子(クインシィ)を探す  最終行動方針:主催者と話し合う  備考:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガスを収容】 【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)  パイロット状況:神経圧迫により発声不可、気絶中、顔に落書き(油性マジック)  機体状況:MS形態       落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障  現在位置:C-8市街地(ナデシコ医務室)  第一行動方針:新たなライブの開催地を探す  最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる  備考:自分の声が出なくなったことにまだ気付いていません】 【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)  パイロット状態:疲労大、苛立ち、マーダー化  機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数       EN1/4、烈火刃残弾ゼロ  現在位置:C-8地下通路(実は偶然落下しました)  第一行動方針:この場からの離脱。  最終行動方針:優勝と生還】 【ガロード・ラン 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)  パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。  機体状況:右肩に刺し傷、各部にダメージ(戦闘に支障無し)  現在位置:C-8  第一行動方針:シャギアと話をする  第二行動方針:アムロと合流する  第三行動方針:勇、及びその手がかりの捜索  最終行動方針:ティファの元に生還】 【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日)  パイロット状態:気絶中  機体状態: ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)、ジャガー号のコックピット破損※共に再生中  現在位置:C-8  第一行動方針:勇の捜索と撃破  第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す  最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】 &color(red){【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日)} &color(red){ パイロット状態:死亡} &color(red){ 機体状態:ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)、ジャガー号のコックピット破損※共に再生中】} 【パイロットなし 搭乗機体:ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)  パイロット状態:パイロットなし  機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に帰還中  現在位置:C-8市街地】 &color(red){【残り23人】} 【二日目7:15】 ---- |BACK||NEXT| |[[朝ごはんは一日の活力です!!]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[leaving me blue]]| |[[二つの依頼]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[計算と感情の間で]]| |BACK||NEXT| |[[朝ごはんは一日の活力です!!]]|シャギア|[[適材適所]]| |[[朝ごはんは一日の活力です!!]]|甲児|[[適材適所]]| |[[朝ごはんは一日の活力です!!]]|比瑪|[[適材適所]]| 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