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*&color(red){二つの依頼 ◆7vhi1CrLM6} 空が白みを帯びていく中、少女は一人こっそりと草原の中に穿たれたクレーターの穴へと近づいていった。 その中心で少年は固く膝を抱え、顔の下半分をうずめて、身じろぎもせずにじっとしていた。 瞬きもせずに光らせている目は少女を見ようともしない。 人が近づいてきたということに気づいてもいないのかもしれなかった。 やがて虚空を見つめていた瞳だけを動かし、呻くように言葉が漏れる。 「慰めごとはいらない。もう少し一人にしてくれないかな」 「そんなんじゃないわよ」 少女は動かず、じっと少年を見つめている。 どんな説得も、慰めの言葉も、今の少年には無意味なように思えた。 無力感とやりきれなさが混在しているのだろう、疲れて息を吐くように少年は言ったものだ。 「ソシエも僕に死んだ人の遺志を汲みとれって言うんだろ?」 自嘲と皮肉の響きが込められた口調だ。 「心配しなくてもいいよ。今だけだから……もう少ししたら今までと同じように頑張れる。そうしなきゃ誰も助けられないんだ」 無気力な響きだった。好きでするわけではない、仕方がないから嫌々やるのだという風にさえ聞こえてくる。 その様子にわずかに眉を顰めた少女は少年に近づき、並んで座り込んだ。 「キラはどうしたいのよ? ラクスさんの遺志を継ぎたいの? それとも何もかもここで投げ出してしまいたいの?」 「両方だよ」 投げやりに少年は答えた。 「ラクスは平和な世界を望んでいた。だから、この殺し合いを良く思わなかっただろうし、生きていれば止めるために力も尽くしたと思う。  その遺志は汲みとってあげたいと思う。添ってあげたい。だけど……ラクスがいない。いないんだ」 低く呻く。 「君の言うとおりだ。もう……何もかもがどうでもいい」 少年から視線を動かし、空を見上げた。重症だ。 身近な者を失ったときの絶望の深さを、少女はよく知っている。それだけに言葉が見つからない。 『皆様、おはようございますですの』 不意に幼い少女の声が響き渡り始めた。 それはこの世界中のどこにでも響き渡る声のはずなのに、ただ一つ目の前の少年の心には響いてこない声のように感じられる。 事実少年はこの放送が耳に入ってないかのように無関心な態度をとり続けていた。 だが、一度二度その腕に力が篭るのを少女は見ていた。 放送が過ぎ去って、どうすべきか迷った末に少女が口を開く。 「アスランって知ってる人? それとカズイって人も……」 少年の体が大きく震える。それを返事と少女は受け取った。 「そっか……」 再びの沈黙。ややあって少年がその重い口を開いた。 「もういい。もう十分だ。そう思ったはずなのに……」 「ここに集められる少し前、お父さまがお亡くなりになられたんだ」 割ってはいる形で発せられた少女の言葉に、少年の表情が動いた。 「ビシニティの成人の日に突然ね。月から降りてきた連中と戦争になったのよ……それに巻き込まれて……。  私もしばらくベットに潜り込んで泣いていることしかできなかったわ。私がどれほどムーンレィスを呪ったかあなたにわかる?  そしたらメシェーがやって来て、あのロランが戦っている教えてくれたわ。お布団にもぐりっぱなしの私に向かって言ったのよ。  『ソシエが寝込んでたら、お父さんなんて言うかね? ハイム家を継いでくれなんて絶対に言ってくれないよ』って。  『手伝わない? お父さんの仇を取りたくない?』って。私は仇が討てるんだって思ったわ」 少年はしばらく黙っていた。真顔で少女を見つめている。 「復讐はいけないことだとは言わないんだ」 「そんなこと言えるわけないじゃない」 いかにもそれが当然と言わんばかりに胸を張って、少女はあっさりと言い放つ。 身近な者を失った直後に襲ってくる身が竦むほどの深い絶望。それ知っている少女にとって、それは自然な言葉だった。 とは言え、内心はそれほど簡単な話でもない。 少女は知っている。いつの間にか姉と入れ替わっていた月の女王さまと月と地球の間で板ばさみになった身近な少年二人の苦悩を、みんな知っているのだ。 「キラはどう思うのよ?」 「分からないよ。殺されたから殺して、殺したから殺されて……それが正しいとは思えない……それは分かるけど」 歯切れの悪い少年の言葉に、少女は言い含めるようにして話し出す。 「そんな奇麗事はある日突然理不尽に親を失ったこともなければ、へんてこな殺し合いに呼ばれて友達や恋人を失ったことのない人達に言わせておけばいいのよ。  いい? 他の誰も言わないのなら、私が言ってあげるわ。  あなたには仇を討つ権利がある。無念を晴らす義務も。虚しい事だったなんていうのは、やってみてそう感じたときに言えばいいのよ」 無論、少女もその言葉の全てが正しいこととは思っていない。だが、自分はそうやって立ち直っていったのだ。 生きる気力を根こそぎ奪っていくほどの絶望から今ここで立ち直らせる方法を、他には知らないのだ。 時間が全てを解決してくれる。それが頭にないわけではない。それも正しいのだろう。 だが今ここではその時間が圧倒的に足りないのだ。気がすむまで悲しみ泣き暮れるための時間がここでは許されないのだ。 だから少女は仇を討てと憤然と言い放ち、復讐を肯定した。それが少年の為になると信じて。 黒い深い瞳にゆっくりと強い光が戻っていくさまを、少女は僅かな罪悪感と共に見ていた。 「ありがとう」 「何がよ?」 「ムサシさんが死んだとき、君が止めてくれていなかったら僕は取り返しのつかないことをしていたと思う」 後頭部をさすりながら言う少年に、少女は急にしどろもどろになってバツの悪そうな顔を向けた。 バールのような物で力一杯強打したのだ。返す言葉があるはずもなかった。  ◆ 放送が流れてからしばらくの間、ロジャー=スミスは天を仰いでいた。 21人。前回の放送と合わせて生存者は半分以下になったという事実。犠牲の多さが胸を刺す。 ――私は何をしていた? そうやって押し寄せて来る後悔の念を振り切って、男は現実に目を向けることを選択する。 今は後悔している時間すらも惜しい。 「トモロ、ガイという男が前回の戦闘でどうなったか知らないか?」 「ガイ? あの戦場にいたのか?」 「わからない。だが、いれば濃紺の戦闘機に乗っていたはずだ」 男が目覚めたとき、既に戦場は終焉へと向かっていた。 ムサシは既に死に、黒い小型機は姿をくらませ、Jアークが離脱を開始したところだったのだ。 ゆえにガイの戦闘機を男はあの場で確認できてはいない。 付け加えればガイというのが本名かどうかも妖しかった。彼はユリカ嬢に素性を隠していた節がある。 「この戦闘機か? これは墜落している」 「あー、その戦闘機!」 そう言ってモニターに映像が投影されるのと、背後からソシエの声が飛んできたのは同時だった。 相変わらず元気のいいお嬢さんだ。そう思いながら振り返る。 「何かしっているのかね?」 「ううん。何も知らないわよ」 少女は泰然と答えてずかずかと足を踏み入れてくる。だが、そんな少女よりもロジャーの目をひいたものがあった。 入り口付近に少年がきまりの悪そうな顔で立っている。説教を受けた直後の態度として実に年相応な態度だ。 少し煙たがられたかなと思いつつ声をかけた。 「どうした? 入ってきたまえ」 それでようやく足が進み、中でモニターに映った戦闘機を見て余計に気まずい顔になった。 それはロジャーの仲間であり、少年が仕掛けた攻撃を防いだ戦闘機である。無理もない。 しかしそれに気を使っている暇はない。気まずかろうとなんだろうと、ガイの生死は大切な話だ。 「トモロ、墜落と言ったな。詳しい話を聞かせてくれ」 「いえ、僕から話させてください」 そうして一歩を踏み出したキラが「詳しいことはわからない」と前置きを置いて一連の流れを話した。 曰く。あの機体はこちらの放ったESミサイルを撃ち抜き防いでみせたが、ダイの艦橋が黒い小型機に切り刻まれたときにそこに飛び込んで、墜落したという。 戦艦の搭乗者を助けようと無茶をして破片に当たり、墜落したのだろう、というのがキラとトモロの共通した見解だった。 生死は不明という。 ロジャーは呻きを漏らした。搭乗者を助けようと瓦礫の中に飛び込んだというのなら、その助けようとした相手はユリカ嬢しかありえない。 ガイだったのは間違いないだろう。しかし、彼女は死んだ。そして、ガイの生死は不明。 つまり生きている可能性があるということだ。 ならば探さねばなるまい。そうロジャーは結論付ける。 ロジャー=スミスはあの男に頭を下げねばならない。ユリカ嬢を守れず、不甲斐なくも気を失っていたそのことを、だ。 それがけじめ。それをせずにのうのうと生きていられるほど、ロジャーの心は強くない。 「やはり、ガイを探さねばなるまい。いや、それだけではない。  レオナルド=メディチ=ブンドル・カミーユ=ビダン・ジョナサン=グレーン、この三名もだ」 それは仲間だった者の名前。仲間の仲間だった者達の名前。つまりはあの化け物に叛旗を翻す志を持っている可能性を持つ者の名前である。 当然のようにキラとソシエは頷いた。 「ロジャーさん、あの白いJアークよりも大きい戦艦とテニアも探してはもらえませんか?」 不意にキラから発せられた言葉に少なからぬ驚きを覚える。触れられたくない問題だと思っていたのだ。 それを押し隠し、射抜くような眼光で問い返す。どのような心積もりで言ったのか、それが問題だった。 「何のために?」 「一言で言うならば、復讐の為です。僕にはまだ何故マサキやムサシさんが死ななければならなかったのか、その納得がいっていません」 ロジャーの瞳に警戒の色が奔った。私怨でのみ動くつもりなら、それを押さえ込むのが分別のある大人の役割である。 例え協力関係を築くことは出来なくとも、あの集団を襲わせるわけにはいかなかった。 だが、ロジャーが思うほど、少年は短絡な思考の持ち主ではなかった。予想に反する言葉を少年は続ける。 「勘違いしないでください。あの戦艦と戦おうという気はありません。マサキもアスランもカズイも……ラクスも、誰に殺されたのかはわかりません。  でもムサシさんも含めてあの化け物の都合で殺されたということはわかります。だから皆の仇を討つということは、あの化け物を倒すということだと思います。  その為にも彼らと会って話がしたい……テニアも何か仕方ない事情があったのかもしれない」 そこで少年は言葉を区切った。字面だけ見るとまるで聖人君子かと思うような言葉だったが、響きはそうではない。 言葉の端々に苦渋が滲み出ている。だがそれはいずれ乗り越えていかねばならない道だ。 意を決したように少年の目がロジャーを見据える。 「ロジャー=スミス、あなたに依頼をお願いします。僕達とあの戦艦の仲を取り持ってもらいたい。  その為にあの戦艦を見つけ話し合いの場を設けていただくことを依頼します」 澱みのないいい目だった。 『男子三日会わざれば』と言うが、自分は今一人の少年の成長を見ているのだと思った。 僅かに笑い。殊更に芝居がかった態度をとる。その姿勢はクライアントと目の前にしたときそのものだ。 「いいでしょう。あなたの依頼をお受けします。  ならば、効率よく接触を取る為にも私は単独行動をとらせていただこう。  その為にも会談の場所と時刻を決めておこうか。場所も時刻も分かりやすいほうがいい。  さしあたってここらと次の放送時刻でいかがかな?」 そう言って拡げた地図上でE-5に架かる橋・H-8の小島等とひどく分かりやすい場所を選んで指し示していく。 それに対して遠慮がちに少年が異義を唱えた。 「ここ……では駄目ですか?」 「構わないが……何故ここなのだ?」 「大した理由じゃないんです。ただ、平和を願ったラクスが眠るここで話をしたいと思っただけで。  それに僕はここを戦場にはしたくないんです。それが向こうと戦う意志がないことの証明になるとは思いませんが……」 「いいでしょう。時刻は午後6時、場所はE-3このラクス嬢が眠るクレーターの中心で。  他に何か質問は?」 「はい!」 それまで黙って話の成り行きを見守っていた少女が勢い良く手を上げた。 ずっと口を挟みたくてウズウズしていた、そんな感じの勢いだった。目を輝かせて少女は言う。 「人を集めるんならあの戦艦だけにこだわらなくてもいいんじゃないかしら?  どうせだったら会う人会う人に声をかけるべきよ」 出来る限り多くの同じ志を持つ者を集めようというのだ。 その方法まで含めて実に単純で分かりやすい話だった。何よりも理にかなっている。 それを自然と意識することなく言ってくるのだから大したものである。 「その通りだな。そうしよう。他にも何か言いたそうな顔をしているが、まだ何かあるのかね?」 笑みを絶やさずに言った言葉だったが、後にロジャーはこのことを後悔する羽目となった。 待っていたかのようにソシエが口火を切る。 「ロジャー、あなた最初の放送の前にもD-7の市街地にいたと言ったわね」 合流するまでの簡単な流れは互いに交換済みである。 そして、確かに放送前ロジャーはそこにいた。忘れもしない自身の依頼主を攫われたあの戦いのときのことである。 苦い思いが脳裏を横切ったが、そのことを億尾にも出さずロジャーは問い返した。 「いたが、それがどうかしたのか?」 「どうかしたわよ! あなたはそのときからお口の機械人形に乗っていたのでしょ?」 憤然と少女は言い放つ。 お口の機械人形とは凰牙のことだろうと当りをつけつつも少女が腹を立てている理由がどうにも掴めない。 黙って頷いた。 「あのときあなたは何の為にあの争いに割り込んだのよ!!」 「何のためにと言われても戦いを止める為としか……」 「他っ!!」 「たしか……手足を?ぎ取られた機体を助けに……」 「で、その機体はどうなったの?」 言われて絶句した。今の今まで忘れていたのだ。目の前の少女は壮絶な笑みを浮かべている。 もっともロジャーにも仕方のない理由はあった。目の前で危険人物に依頼主を攫われて、あのときはそれどころではなかったのである。 だが、ほったらかしにされた当事者にとっては堪ったものではなく、事情も知らない。おまけにロジャーにそのことを言い訳に使う気はなかった。 どう考えても分が悪い。 平謝りに謝ったのだが、半日前の鬱憤がとめどなく噴出し溢れ出した少女は止まらない。 よりにもよって凰牙をよこせと言い募り、約三十分の口論の末にギアコマンダー一つと何かあった場合には凰牙を譲り渡すという誓約書にサインを書かされて、一応の終わりを得た。 おまけに担保として腕時計を持っていかれる徹底ぶりである。頭が痛かった。 「使い方はこの紙に記しておいた。だが、私が元気なうちは渡すつもりはない。この時計も全てが終わったときには返してもらう」 渋々と白のギアコマンダーと腕時計を差し出したロジャーは、どこかやつれた風であった。 所持しているギアコマンダーは青・白・黒。一つ渡したところで大した影響はない。 そうして話し合いを終えた彼らは別々の道を歩むこととなる。 甲板を離れた凰牙は一先ずガイと白く巨大な戦艦の後を追うためE-7の市街地を目的地と定め、Jアークもまた別の方向に動き出した。 凰牙の中疲れた顔でコックピットシートに身を埋めたロジャーは思案する。 放送を聴いたときから考えていることがあった。 リリーナ嬢の依頼である平和的な解決のために最も有効な方法はこの殺し合いの意味を無くすことだ。 むしろそれでしか果たせないと言える。 そして、その具体的な手段は二つある。あの化け物を駆逐するか、話し合うか、だ。 より平和的な解決を望むのなら、それは話し合いによるものとなる。それは分の悪い賭けといえた。 対して駆逐する手段を選ぶのなら、分が悪い事実は変わらずともその悪さは幾分マシになる。 だが、その前提条件のハードルは高い。首輪の解除・戦力の充溢・化け物住処までの移動手段。 それに比べて話し合いの前提となる最低条件は驚くほど低い。移動手段それのみである。 それも最悪この身一つが通れるだけの手段でいいのだ。凰牙が話し合いに必ず要るというわけではない。 そしてこの殺し合いの現状は、時を掛ければ掛けるほど悪化の一路を辿る。 もし、もしもだ。 もしもあの化け物の元へ辿り付く手段が見つかったとして、そのときこの首にまだ首輪が巻かれていたとして、そのときに私はどうすればいいのだろうか? 彼女なら一体どうしたであろうか? その問いを一笑にふした。決まっている。彼女なら何の迷いもなくそこに飛び込んだだろう。 それがどれほど危険で困難な道でも、どれほど絶望的な状況でも、だ。ならば私は―― 「やっと繋がった。ロジャー、もう少し分かりやすく説明は書きなさい。この時計の使い方分かりにくいわよ」 突然、コックピットに響き渡る声。それに驚いて思考が中断させられた。 間違いなくそれはソシエ=ハイムの声である。既にJアークは遠い、通信可能な距離ではなくありえない出来事であった。 例えそれがロジャーが外部から持ち込んだあの腕時計であろうともだ。ゆえにロジャーは困惑した。 それに対して少女は茶目っ気たっぷりに言い放つ。 「ついてきちゃった」 「ついてきちゃったではない。Jアークに一度戻る」 「大丈夫よ。書置き残してきたんですもの」 「書置きだと?」 「そうよ」 そのころJアークでは―― 「トモロ、こんな書置きがッ!!」 「落ち着け」 『旅に出ます。探さないで下さい』と書かれた紙を片手にキラが慌てふためいていた。 再び凰牙。 ロジャーは思わず頭を抱えてキラに同情していた。だが、それを気にする様子は少女にはなく、むしろ畳み掛けてくる。 「『実家に帰らせていただきます』のほうが良かったかしら」 「戻る」 「無理よ。Jアークはとっくにレーダーの圏外でしょ? どうやって探すつもりなの?」 「計算づくと言うわけか……ならばもういいだろう? 一体何処に隠れているのだ。出てきたまえ」 額に青筋を浮かべつつロジャーは言った。コックピットには見当たらないのだ。 対して少女は何処までもあっけらかんとしている。そして恍けた様に返した。 「さてどこでしょう? ヒントは色んな瓦礫が入り込んでいるところ。中には青い鉱石みたいなのもあるわ」 「瓦礫は生き埋めにあったときに入り込んだのだろう。何処か分からん。いいからさっさと出てきたまえ」 「出て行くのは無理よ。そこと繋がってないんですからね」 「ならばせめてそこが何処か教えてはくれないか?」 よっぽど怒鳴ろうかと思ったそのとき―― 「そんなこと言わせる気? セクハラよ」 「なっ!!」 手痛い反撃が返ってきた。全く持って意味が分からない。何故居場所を聞いただけでセクハラになるのか、さっぱりだった。 実は凰牙の両足の付け根を結んだ部分の装甲の下には空間が存在する。 同じGEARに分類される電童にも存在するその空間は、かつて螺旋城に囚われたベガが脱出するときに地球まで使われていた。 そこにソシエは身を潜めていたのだが、ロジャーはそんなこと知る由もない。 そうして意固地になって場所を聞き出そうするロジャーと暴言を浴びせるソシエを乗せて、凰牙は早朝の空を飛んでいた。 「変態! このカラス野郎!!」 「いい加減にしたまえ!!」 ……飛んでいた。 【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)  パイロット状態:脱力、ジョナサンへの不信  機体状態:ジェイダーへの変形は可能?、各部に損傷多数、EN・弾薬共に100%         反応弾を所持。  現在位置:E-2南部  第一行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める  第二行動方針:ナデシコ組と和解する  最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】  備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復。】 【ソシエ・ハイム 搭乗機体:無し  パイロット状況:右足を骨折  機体状況:無し  現在位置:E-4北部  第一行動方針:ロジャーに同行する  第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める  第三行動方針:新しい機体が欲しい  最終行動方針:主催者を倒す  備考1:右足は応急手当済み  備考2:ギアコマンダー(白)とワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】 【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)  パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数   機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)        側面モニターにヒビ、EN70%  現在位置:E-4 北部  第一行動方針:一先ずE-7市街地に赴きガイとナデシコの足取りを調べる(出来ればリリーナの首輪も回収する)  第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める  第三行動方針:首輪解除に対して動き始める  第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める  最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)  備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能  備考2:念のためハイパーデンドー電池四本(補給二回分)携帯】 【二日目6:55】 ---- |BACK||NEXT| |[[疾風、そして白き流星のごとく]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[選択のない選択肢>選択のない選択肢 SIDE:A]]| |[[悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[命の残り火]]| |BACK||NEXT| |[[張り詰めすぎた少年]]|キラ|| |[[張り詰めすぎた少年]]|ソシエ|[[争いをこえて]]| |[[張り詰めすぎた少年]]|ロジャー|[[争いをこえて]]| ----
*&color(red){二つの依頼 ◆7vhi1CrLM6} 空が白みを帯びていく中、少女は一人こっそりと草原の中に穿たれたクレーターの穴へと近づいていった。 その中心で少年は固く膝を抱え、顔の下半分をうずめて、身じろぎもせずにじっとしていた。 瞬きもせずに光らせている目は少女を見ようともしない。 人が近づいてきたということに気づいてもいないのかもしれなかった。 やがて虚空を見つめていた瞳だけを動かし、呻くように言葉が漏れる。 「慰めごとはいらない。もう少し一人にしてくれないかな」 「そんなんじゃないわよ」 少女は動かず、じっと少年を見つめている。 どんな説得も、慰めの言葉も、今の少年には無意味なように思えた。 無力感とやりきれなさが混在しているのだろう、疲れて息を吐くように少年は言ったものだ。 「ソシエも僕に死んだ人の遺志を汲みとれって言うんだろ?」 自嘲と皮肉の響きが込められた口調だ。 「心配しなくてもいいよ。今だけだから……もう少ししたら今までと同じように頑張れる。そうしなきゃ誰も助けられないんだ」 無気力な響きだった。好きでするわけではない、仕方がないから嫌々やるのだという風にさえ聞こえてくる。 その様子にわずかに眉を顰めた少女は少年に近づき、並んで座り込んだ。 「キラはどうしたいのよ? ラクスさんの遺志を継ぎたいの? それとも何もかもここで投げ出してしまいたいの?」 「両方だよ」 投げやりに少年は答えた。 「ラクスは平和な世界を望んでいた。だから、この殺し合いを良く思わなかっただろうし、生きていれば止めるために力も尽くしたと思う。  その遺志は汲みとってあげたいと思う。添ってあげたい。だけど……ラクスがいない。いないんだ」 低く呻く。 「君の言うとおりだ。もう……何もかもがどうでもいい」 少年から視線を動かし、空を見上げた。重症だ。 身近な者を失ったときの絶望の深さを、少女はよく知っている。それだけに言葉が見つからない。 『皆様、おはようございますですの』 不意に幼い少女の声が響き渡り始めた。 それはこの世界中のどこにでも響き渡る声のはずなのに、ただ一つ目の前の少年の心には響いてこない声のように感じられる。 事実少年はこの放送が耳に入ってないかのように無関心な態度をとり続けていた。 だが、一度二度その腕に力が篭るのを少女は見ていた。 放送が過ぎ去って、どうすべきか迷った末に少女が口を開く。 「アスランって知ってる人? それとカズイって人も……」 少年の体が大きく震える。それを返事と少女は受け取った。 「そっか……」 再びの沈黙。ややあって少年がその重い口を開いた。 「もういい。もう十分だ。そう思ったはずなのに……」 「ここに集められる少し前、お父さまがお亡くなりになられたんだ」 割ってはいる形で発せられた少女の言葉に、少年の表情が動いた。 「ビシニティの成人の日に突然ね。月から降りてきた連中と戦争になったのよ……それに巻き込まれて……。  私もしばらくベットに潜り込んで泣いていることしかできなかったわ。私がどれほどムーンレィスを呪ったかあなたにわかる?  そしたらメシェーがやって来て、あのロランが戦っている教えてくれたわ。お布団にもぐりっぱなしの私に向かって言ったのよ。  『ソシエが寝込んでたら、お父さんなんて言うかね? ハイム家を継いでくれなんて絶対に言ってくれないよ』って。  『手伝わない? お父さんの仇を取りたくない?』って。私は仇が討てるんだって思ったわ」 少年はしばらく黙っていた。真顔で少女を見つめている。 「復讐はいけないことだとは言わないんだ」 「そんなこと言えるわけないじゃない」 いかにもそれが当然と言わんばかりに胸を張って、少女はあっさりと言い放つ。 身近な者を失った直後に襲ってくる身が竦むほどの深い絶望。それ知っている少女にとって、それは自然な言葉だった。 とは言え、内心はそれほど簡単な話でもない。 少女は知っている。いつの間にか姉と入れ替わっていた月の女王さまと月と地球の間で板ばさみになった身近な少年二人の苦悩を、みんな知っているのだ。 「キラはどう思うのよ?」 「分からないよ。殺されたから殺して、殺したから殺されて……それが正しいとは思えない……それは分かるけど」 歯切れの悪い少年の言葉に、少女は言い含めるようにして話し出す。 「そんな奇麗事はある日突然理不尽に親を失ったこともなければ、へんてこな殺し合いに呼ばれて友達や恋人を失ったことのない人達に言わせておけばいいのよ。  いい? 他の誰も言わないのなら、私が言ってあげるわ。  あなたには仇を討つ権利がある。無念を晴らす義務も。虚しい事だったなんていうのは、やってみてそう感じたときに言えばいいのよ」 無論、少女もその言葉の全てが正しいこととは思っていない。だが、自分はそうやって立ち直っていったのだ。 生きる気力を根こそぎ奪っていくほどの絶望から今ここで立ち直らせる方法を、他には知らないのだ。 時間が全てを解決してくれる。それが頭にないわけではない。それも正しいのだろう。 だが今ここではその時間が圧倒的に足りないのだ。気がすむまで悲しみ泣き暮れるための時間がここでは許されないのだ。 だから少女は仇を討てと憤然と言い放ち、復讐を肯定した。それが少年の為になると信じて。 黒い深い瞳にゆっくりと強い光が戻っていくさまを、少女は僅かな罪悪感と共に見ていた。 「ありがとう」 「何がよ?」 「ムサシさんが死んだとき、君が止めてくれていなかったら僕は取り返しのつかないことをしていたと思う」 後頭部をさすりながら言う少年に、少女は急にしどろもどろになってバツの悪そうな顔を向けた。 バールのような物で力一杯強打したのだ。返す言葉があるはずもなかった。  ◆ 放送が流れてからしばらくの間、ロジャー=スミスは天を仰いでいた。 21人。前回の放送と合わせて生存者は半分以下になったという事実。犠牲の多さが胸を刺す。 ――私は何をしていた? そうやって押し寄せて来る後悔の念を振り切って、男は現実に目を向けることを選択する。 今は後悔している時間すらも惜しい。 「トモロ、ガイという男が前回の戦闘でどうなったか知らないか?」 「ガイ? あの戦場にいたのか?」 「わからない。だが、いれば濃紺の戦闘機に乗っていたはずだ」 男が目覚めたとき、既に戦場は終焉へと向かっていた。 ムサシは既に死に、黒い小型機は姿をくらませ、Jアークが離脱を開始したところだったのだ。 ゆえにガイの戦闘機を男はあの場で確認できてはいない。 付け加えればガイというのが本名かどうかも妖しかった。彼はユリカ嬢に素性を隠していた節がある。 「この戦闘機か? これは墜落している」 「あー、その戦闘機!」 そう言ってモニターに映像が投影されるのと、背後からソシエの声が飛んできたのは同時だった。 相変わらず元気のいいお嬢さんだ。そう思いながら振り返る。 「何かしっているのかね?」 「ううん。何も知らないわよ」 少女は泰然と答えてずかずかと足を踏み入れてくる。だが、そんな少女よりもロジャーの目をひいたものがあった。 入り口付近に少年がきまりの悪そうな顔で立っている。説教を受けた直後の態度として実に年相応な態度だ。 少し煙たがられたかなと思いつつ声をかけた。 「どうした? 入ってきたまえ」 それでようやく足が進み、中でモニターに映った戦闘機を見て余計に気まずい顔になった。 それはロジャーの仲間であり、少年が仕掛けた攻撃を防いだ戦闘機である。無理もない。 しかしそれに気を使っている暇はない。気まずかろうとなんだろうと、ガイの生死は大切な話だ。 「トモロ、墜落と言ったな。詳しい話を聞かせてくれ」 「いえ、僕から話させてください」 そうして一歩を踏み出したキラが「詳しいことはわからない」と前置きを置いて一連の流れを話した。 曰く。あの機体はこちらの放ったESミサイルを撃ち抜き防いでみせたが、ダイの艦橋が黒い小型機に切り刻まれたときにそこに飛び込んで、墜落したという。 戦艦の搭乗者を助けようと無茶をして破片に当たり、墜落したのだろう、というのがキラとトモロの共通した見解だった。 生死は不明という。 ロジャーは呻きを漏らした。搭乗者を助けようと瓦礫の中に飛び込んだというのなら、その助けようとした相手はユリカ嬢しかありえない。 ガイだったのは間違いないだろう。しかし、彼女は死んだ。そして、ガイの生死は不明。 つまり生きている可能性があるということだ。 ならば探さねばなるまい。そうロジャーは結論付ける。 ロジャー=スミスはあの男に頭を下げねばならない。ユリカ嬢を守れず、不甲斐なくも気を失っていたそのことを、だ。 それがけじめ。それをせずにのうのうと生きていられるほど、ロジャーの心は強くない。 「やはり、ガイを探さねばなるまい。いや、それだけではない。  レオナルド=メディチ=ブンドル・カミーユ=ビダン・ジョナサン=グレーン、この三名もだ」 それは仲間だった者の名前。仲間の仲間だった者達の名前。つまりはあの化け物に叛旗を翻す志を持っている可能性を持つ者の名前である。 当然のようにキラとソシエは頷いた。 「ロジャーさん、あの白いJアークよりも大きい戦艦とテニアも探してはもらえませんか?」 不意にキラから発せられた言葉に少なからぬ驚きを覚える。触れられたくない問題だと思っていたのだ。 それを押し隠し、射抜くような眼光で問い返す。どのような心積もりで言ったのか、それが問題だった。 「何のために?」 「一言で言うならば、復讐の為です。僕にはまだ何故マサキやムサシさんが死ななければならなかったのか、その納得がいっていません」 ロジャーの瞳に警戒の色が奔った。私怨でのみ動くつもりなら、それを押さえ込むのが分別のある大人の役割である。 例え協力関係を築くことは出来なくとも、あの集団を襲わせるわけにはいかなかった。 だが、ロジャーが思うほど、少年は短絡な思考の持ち主ではなかった。予想に反する言葉を少年は続ける。 「勘違いしないでください。あの戦艦と戦おうという気はありません。マサキもアスランもカズイも……ラクスも、誰に殺されたのかはわかりません。  でもムサシさんも含めてあの化け物の都合で殺されたということはわかります。だから皆の仇を討つということは、あの化け物を倒すということだと思います。  その為にも彼らと会って話がしたい……テニアも何か仕方ない事情があったのかもしれない」 そこで少年は言葉を区切った。字面だけ見るとまるで聖人君子かと思うような言葉だったが、響きはそうではない。 言葉の端々に苦渋が滲み出ている。だがそれはいずれ乗り越えていかねばならない道だ。 意を決したように少年の目がロジャーを見据える。 「ロジャー=スミス、あなたに依頼をお願いします。僕達とあの戦艦の仲を取り持ってもらいたい。  その為にあの戦艦を見つけ話し合いの場を設けていただくことを依頼します」 澱みのないいい目だった。 『男子三日会わざれば』と言うが、自分は今一人の少年の成長を見ているのだと思った。 僅かに笑い。殊更に芝居がかった態度をとる。その姿勢はクライアントと目の前にしたときそのものだ。 「いいでしょう。あなたの依頼をお受けします。  ならば、効率よく接触を取る為にも私は単独行動をとらせていただこう。  その為にも会談の場所と時刻を決めておこうか。場所も時刻も分かりやすいほうがいい。  さしあたってここらと次の放送時刻でいかがかな?」 そう言って拡げた地図上でE-5に架かる橋・H-8の小島等とひどく分かりやすい場所を選んで指し示していく。 それに対して遠慮がちに少年が異義を唱えた。 「ここ……では駄目ですか?」 「構わないが……何故ここなのだ?」 「大した理由じゃないんです。ただ、平和を願ったラクスが眠るここで話をしたいと思っただけで。  それに僕はここを戦場にはしたくないんです。それが向こうと戦う意志がないことの証明になるとは思いませんが……」 「いいでしょう。時刻は午後6時、場所はE-3このラクス嬢が眠るクレーターの中心で。  他に何か質問は?」 「はい!」 それまで黙って話の成り行きを見守っていた少女が勢い良く手を上げた。 ずっと口を挟みたくてウズウズしていた、そんな感じの勢いだった。目を輝かせて少女は言う。 「人を集めるんならあの戦艦だけにこだわらなくてもいいんじゃないかしら?  どうせだったら会う人会う人に声をかけるべきよ」 出来る限り多くの同じ志を持つ者を集めようというのだ。 その方法まで含めて実に単純で分かりやすい話だった。何よりも理にかなっている。 それを自然と意識することなく言ってくるのだから大したものである。 「その通りだな。そうしよう。他にも何か言いたそうな顔をしているが、まだ何かあるのかね?」 笑みを絶やさずに言った言葉だったが、後にロジャーはこのことを後悔する羽目となった。 待っていたかのようにソシエが口火を切る。 「ロジャー、あなた最初の放送の前にもD-7の市街地にいたと言ったわね」 合流するまでの簡単な流れは互いに交換済みである。 そして、確かに放送前ロジャーはそこにいた。忘れもしない自身の依頼主を攫われたあの戦いのときのことである。 苦い思いが脳裏を横切ったが、そのことを億尾にも出さずロジャーは問い返した。 「いたが、それがどうかしたのか?」 「どうかしたわよ! あなたはそのときからお口の機械人形に乗っていたのでしょ?」 憤然と少女は言い放つ。 お口の機械人形とは凰牙のことだろうと当りをつけつつも少女が腹を立てている理由がどうにも掴めない。 黙って頷いた。 「あのときあなたは何の為にあの争いに割り込んだのよ!!」 「何のためにと言われても戦いを止める為としか……」 「他っ!!」 「たしか……手足を?ぎ取られた機体を助けに……」 「で、その機体はどうなったの?」 言われて絶句した。今の今まで忘れていたのだ。目の前の少女は壮絶な笑みを浮かべている。 もっともロジャーにも仕方のない理由はあった。目の前で危険人物に依頼主を攫われて、あのときはそれどころではなかったのである。 だが、ほったらかしにされた当事者にとっては堪ったものではなく、事情も知らない。おまけにロジャーにそのことを言い訳に使う気はなかった。 どう考えても分が悪い。 平謝りに謝ったのだが、半日前の鬱憤がとめどなく噴出し溢れ出した少女は止まらない。 よりにもよって凰牙をよこせと言い募り、約三十分の口論の末にギアコマンダー一つと何かあった場合には凰牙を譲り渡すという誓約書にサインを書かされて、一応の終わりを得た。 おまけに担保として腕時計を持っていかれる徹底ぶりである。頭が痛かった。 「使い方はこの紙に記しておいた。だが、私が元気なうちは渡すつもりはない。この時計も全てが終わったときには返してもらう」 渋々と白のギアコマンダーと腕時計を差し出したロジャーは、どこかやつれた風であった。 所持しているギアコマンダーは青・白・黒。一つ渡したところで大した影響はない。 そうして話し合いを終えた彼らは別々の道を歩むこととなる。 甲板を離れた凰牙は一先ずガイと白く巨大な戦艦の後を追うためE-7の市街地を目的地と定め、Jアークもまた別の方向に動き出した。 凰牙の中疲れた顔でコックピットシートに身を埋めたロジャーは思案する。 放送を聴いたときから考えていることがあった。 リリーナ嬢の依頼である平和的な解決のために最も有効な方法はこの殺し合いの意味を無くすことだ。 むしろそれでしか果たせないと言える。 そして、その具体的な手段は二つある。あの化け物を駆逐するか、話し合うか、だ。 より平和的な解決を望むのなら、それは話し合いによるものとなる。それは分の悪い賭けといえた。 対して駆逐する手段を選ぶのなら、分が悪い事実は変わらずともその悪さは幾分マシになる。 だが、その前提条件のハードルは高い。首輪の解除・戦力の充溢・化け物住処までの移動手段。 それに比べて話し合いの前提となる最低条件は驚くほど低い。移動手段それのみである。 それも最悪この身一つが通れるだけの手段でいいのだ。凰牙が話し合いに必ず要るというわけではない。 そしてこの殺し合いの現状は、時を掛ければ掛けるほど悪化の一路を辿る。 もし、もしもだ。 もしもあの化け物の元へ辿り付く手段が見つかったとして、そのときこの首にまだ首輪が巻かれていたとして、そのときに私はどうすればいいのだろうか? 彼女なら一体どうしたであろうか? その問いを一笑にふした。決まっている。彼女なら何の迷いもなくそこに飛び込んだだろう。 それがどれほど危険で困難な道でも、どれほど絶望的な状況でも、だ。ならば私は―― 「やっと繋がった。ロジャー、もう少し分かりやすく説明は書きなさい。この時計の使い方分かりにくいわよ」 突然、コックピットに響き渡る声。それに驚いて思考が中断させられた。 間違いなくそれはソシエ=ハイムの声である。既にJアークは遠い、通信可能な距離ではなくありえない出来事であった。 例えそれがロジャーが外部から持ち込んだあの腕時計であろうともだ。ゆえにロジャーは困惑した。 それに対して少女は茶目っ気たっぷりに言い放つ。 「ついてきちゃった」 「ついてきちゃったではない。Jアークに一度戻る」 「大丈夫よ。書置き残してきたんですもの」 「書置きだと?」 「そうよ」 そのころJアークでは―― 「トモロ、こんな書置きがッ!!」 「落ち着け」 『旅に出ます。探さないで下さい』と書かれた紙を片手にキラが慌てふためいていた。 再び凰牙。 ロジャーは思わず頭を抱えてキラに同情していた。だが、それを気にする様子は少女にはなく、むしろ畳み掛けてくる。 「『実家に帰らせていただきます』のほうが良かったかしら」 「戻る」 「無理よ。Jアークはとっくにレーダーの圏外でしょ? どうやって探すつもりなの?」 「計算づくと言うわけか……ならばもういいだろう? 一体何処に隠れているのだ。出てきたまえ」 額に青筋を浮かべつつロジャーは言った。コックピットには見当たらないのだ。 対して少女は何処までもあっけらかんとしている。そして恍けた様に返した。 「さてどこでしょう? ヒントは色んな瓦礫が入り込んでいるところ。中には青い鉱石みたいなのもあるわ」 「瓦礫は生き埋めにあったときに入り込んだのだろう。何処か分からん。いいからさっさと出てきたまえ」 「出て行くのは無理よ。そこと繋がってないんですからね」 「ならばせめてそこが何処か教えてはくれないか?」 よっぽど怒鳴ろうかと思ったそのとき―― 「そんなこと言わせる気? セクハラよ」 「なっ!!」 手痛い反撃が返ってきた。全く持って意味が分からない。何故居場所を聞いただけでセクハラになるのか、さっぱりだった。 実は凰牙の両足の付け根を結んだ部分の装甲の下には空間が存在する。 同じGEARに分類される電童にも存在するその空間は、かつて螺旋城に囚われたベガが脱出するときに地球まで使われていた。 そこにソシエは身を潜めていたのだが、ロジャーはそんなこと知る由もない。 そうして意固地になって場所を聞き出そうするロジャーと暴言を浴びせるソシエを乗せて、凰牙は早朝の空を飛んでいた。 「変態! このカラス野郎!!」 「いい加減にしたまえ!!」 ……飛んでいた。 【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)  パイロット状態:脱力、ジョナサンへの不信  機体状態:ジェイダーへの変形は可能?、各部に損傷多数、EN・弾薬共に100%         反応弾を所持。  現在位置:E-2南部  第一行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める  第二行動方針:ナデシコ組と和解する  最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】  備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復。】 【ソシエ・ハイム 搭乗機体:無し  パイロット状況:右足を骨折  機体状況:無し  現在位置:E-4北部  第一行動方針:ロジャーに同行する  第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める  第三行動方針:新しい機体が欲しい  最終行動方針:主催者を倒す  備考1:右足は応急手当済み  備考2:ギアコマンダー(白)とワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】 【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)  パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数   機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)        側面モニターにヒビ、EN70%  現在位置:E-4 北部  第一行動方針:一先ずE-7市街地に赴きガイとナデシコの足取りを調べる(出来ればリリーナの首輪も回収する)  第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める  第三行動方針:首輪解除に対して動き始める  第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める  最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)  備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能  備考2:念のためハイパーデンドー電池四本(補給二回分)携帯】 【二日目6:55】 ---- |BACK||NEXT| |[[疾風、そして白き流星のごとく]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[選択のない選択肢>選択のない選択肢 SIDE:A]]| |[[悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[命の残り火]]| |BACK||NEXT| |[[張り詰めすぎた少年]]|キラ|[[黄金の精神]]| |[[張り詰めすぎた少年]]|ソシエ|[[争いをこえて]]| |[[張り詰めすぎた少年]]|ロジャー|[[争いをこえて]]| ----

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