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*&color(red){追い詰められる、心 ◆YYVYMNVZTk} 「――おい、起きてるか?」 洞穴の中で男の声が響く。 「食えるかどうかは知らないが、腹に何か詰めておけよ。  腹が減って力が入らず殺されました――最高につまらない、冗談にもならない話だ」 言葉を投げかけられたのは力無く横たわる少年だ。 だが、その瞳には怒りに支えられた殺意が宿っている。 その眼光を男に向けながら、少年は答える。 「あんたは――どうするんだ」 「お前が食おうが食わまいが関係ないさ。俺は食うぜ。  飯のときに襲ってきても、俺は全然構わないんでね」 少年の考えなど全て分かっていると言わんばかりに、挑発的に笑う男。 男の名はガウルン。少年の名は統夜。 この二人の奇妙な関係は――些か理解し難い。 二人は協力関係にある。 最後の一人になるまで殺し合いを続けるバトルロワイアルにおいて、ある程度数が減るまで協力し合う、という選択は、中途で裏切られるリスクというものを差し引いても、大変合理的なものだ。 それだけならば何の問題もない。 だが、この二人の関係の異常性は、また別のところにある。 ガウルンは提案した。 統夜が自分を殺すつもりならば――それでも構わないと。関係を解消するまで、自分からは統夜に手を出すつもりはないと。 その譲歩が二人が関係を結ぶに至った決定打なのだから、これはもう異常と――最初から破綻した同盟であるとも言えよう。 勿論、ガウルンだって、何の考えもなしにその条件を申し出たわけではない。 統夜が秘め持つ資質に気づいたからこその提案だ。 機体に恵まれたとはいえ、統夜は幾度かの戦闘を生き延びている。 その戦闘で、統夜が勝ったのか負けたのか、それは大して興味がない。 ただ注目したのは、統夜が生きている、という事実だ。 生き残ることが最上の目的であるこの場所において、生きる、ということは、何よりも難しい。 放送で呼ばれた名前の数がその証拠だ。 統夜は生き残る力を持っている。操縦技術、経験、運……それら総てをひっくるめて。 生き残るのなら――統夜は、まだまだ強くなる。 生きるために死に物狂いになることで、感覚は研ぎ澄まされ、訓練では得られない経験を重ね、劇的に成長できる。 死の恐怖を統夜が乗り越えたとき――それはそれは美味しい獲物になるだろう。 その時のことを夢想し、ガウルンは笑みをこぼす。 「……何がおかしいんだっ!」 「いやいや、ちょいと考え事をしてただけさ。……ああ、そうか。食べようにもその腕じゃあ食べられないか」 と、統夜の右肩を眺め、呟く。 「もう一度聞こう。飯は食うかい? 食うんだったらその右肩、はめてやるよ」 「食うさ、食えばいいんだろ! ……覚えてろ、あんたは絶対この俺が……!」 「殺してやる、って? その調子だ。精精頑張ってくれよ。……ほら動くな」 ガウルンは統夜のすぐ隣まで無造作に近づくと、右腕を掴み、統夜の耳元で囁いた。 「ところで……いいのか? そんな簡単に俺を信用して。お前の選択が間違いだったら……今度は肩を外されるだけじゃすまないぜ?」 統夜がガウルンを睨み返そうとしたその瞬間、ガウルンは、ぐい、と統夜の腕を肩へと捻じ込んだ。 痺れる様な痛みが一瞬の波となって襲い掛かるが、それが退いたときには、既に統夜の射程距離からガウルンは出てしまっている。 「くそっ……! 馬鹿にしやがって!」 「素直じゃないねぇ。肩をはめてやると言ったときのお前は、まるで人懐こい捨て犬みたいだったんだがなぁ」 ククク、と笑いを隠そうともしないガウルン。 その様子を見て、これ以上相手をしても体力と時間の無駄だと気づいた統夜は、支給された味気ないパンをコーヒーで流し込み始めた。  ◇ 「で、だ……今後どう動くのか、まずそれを決めようじゃないか。なんせ俺たちはパートナーなんだからな」 食事の後ガウルンからもちかけられた相談とは、今後の身の振り方についてだった。 今後、どうするのか――統夜も考えていたことではある。 二人になったことで、単純な戦力は倍増した。今はまだ知り合ったばかりなために無理だろうが、共闘を重ねることによって連携にも似た効率的な戦闘も出来るだろう。 とはいえ、会うもの全てに戦闘を仕掛ける――というのは利口なやり方ではない。 一応はガウルンとも協力できているわけだ。他の、優勝を目指す「乗った」人間と潰し合うのは望むところではない。 非戦闘の取り決めでもして、お互いに頭数を減らす邪魔をしないようにするのが、効率的なやり方だ。 問題はあの戦艦のようにこのバトルロワイアルそのものに反逆する者たちだ。 あの化け物に歯向かうだなんて、そんな無謀なことを考えている連中だ。 だが、今まで遭遇してきた面々を考えると、そんな人間は思っていたよりも多いらしい。 厄介なのは、彼らが次々と徒党を組んでいく――という事実だった。 時間が経てば経つほど、殺し合いに乗った自分たちは傷ついていく。 逆に、彼らはより多くの同士と結託していく――まったく分が悪い。 重要なのは戦い方だと思った。 正面から当たれば、負けはせずとも多大な被害を被ることになるだろう。 それでは最後まで生き残ることは出来ないのだ。 「なら……まずは、今までどこで何をしてきたのか……情報交換から始めないか?  あんたが会った人間と、俺が会った人間と、全体の流れを少しでも掴みたい」 重要なのは情報。それが生き残ることに繋がる。統夜はそう考えた。 「説明はあまり好きではないんでね……重要なところだけ話して、不要そうなところはどんどん省かせてもらうぜ。  まず、最初の放送の前に俺が会ったのは四人だ。そのうち三人は既に死んだのを確認した。カテジナ、コスモ、ギャリソン……と言ってたかな?  まぁ、そのうち一人は俺が殺したんだけどよ」 「俺は……放送までに、赤い鬼のような機体と、白い……あんたが乗ってるようなタイプの機体に会った。  後は……ジョシュアとアイビスって名前のやつがいた。生き物みたいな変なマシンに乗ったやつだ。放送の後にも、ジョシュアの知り合いらしいグラキエースってやつがいた。  ……ギンガナムも、ジョシュアも、グラキエースも死んだみたいだけどさ。  そのあとは、しばらく誰にも会わなくて……次に会った女を、俺は殺した。  殺した後はただ気持ち悪くてさ……笑うなよ? でも、それでようやく吹っ切れた。  そしたら青い機体に会った。そのパイロットはゲームに乗っていた。  戦ったけど、勝負はつかなくて……それっきりだ。  あんたと会う直前に戦ったのは、最初に会った赤い機体と、また別の黄色い機体。それと白い戦艦に白銀の機体と緑の機体。  自分でもよく生き延びれたと思ったよ。で、あんたと出会った」 半ば自嘲気味に話す統夜を、ガウルンは面白そうに眺めていた。 ――やっぱりこいつは、センスがある。 統夜の話す戦艦と白銀の機体とは、ガウルンも交戦したあの集団に違いない。 ガウルンが戦ったときは、もう一機と共に格別なコンビネーションを見せてくれた。 統夜の口ぶりでは、片方は戦闘には出てこなかったようだが……それを差し引いても、あの機体の戦闘力は十分なものがある。 それプラス、ガウルンの知らぬ二機。プラス戦艦だ。 そんな勝ち目のない戦いでも、統夜は死ぬことがなかった。 「その戦艦たちとなら、俺も戦わせてもらったぜ。なるほど……あいつらを相手に生き残ったんなら、上出来だ。  俺の話が途中だったな。放送の後……俺は、ある集団を追いかけた。気になる奴がいたんでね。  すると……だ! また別の集団が近づいてきてね。どうせだからと、利用させてもらった。  俺はただ一発撃っただけだったんだけどな――クク、奴らは潰しあいを始めやがった。  混乱に乗じて、俺のほうも楽しませてもらったけどな――ああ、楽しかった」 戦闘の興奮を思い出し――ガウルンは身を震わす。 その様子を見て、統夜は、ガウルンは真の変態だと、そう思った。 だがただの変態ではない。こと戦闘に限れば――他の追随を許さない、そんな変態だ。 「で、その途中で――お前も戦った戦艦一同が混じりこんできた、というわけだ。  ちょっと聞くが――その戦艦、他に機体は乗ってなかったのか?」 ガウルン自体、あの戦場に最後までいたわけではない。ある程度の目的が果たされた時点で離脱をした。 だが、あの女――フェステニアと言ったか――の言を信じるのならば、今頃フェステニアは戦艦と行動しているはずだ。 放送で名前が呼ばれていないということは、すぐに下手を打ったわけではなさそうだが……白い機体の片割れも出撃していない、という事実も引っかかる。 フェステニアと片割れが戦艦と別行動を取っているということだろうか? だが、フェステニアの狙いを考えれば、危険性が増す戦力の分散――それも、戦艦側ではない――を選ぶとは思えない。 「分からない……実際のところ、あれは戦いじゃなかった。俺がようやく戦えたのは赤い機体と黄色い機体だけ。  戦艦たちには、一方的に嬲られたようなものだったし……もしかしたら、わざわざ出なくてもいい、と考えたのかもしれない」 「ふぅん……まぁいいさ。話の続きだ。  放送の前後で――俺は、ブンドルと、アムロという男と戦った。奴らもこの祭りには乗らない――そう言っていたな。  ま、結局は取り逃がしちまって――そのあと、お前と会った。これで満足かい、統夜?」 ガウルンと自分の話を総合し――統夜は考える。 この殺し合い――乗っている人間は、思っていたよりも少ない? 思い返してみると確かに、統夜を殺しにきた人間はギンガナムと青い機体に乗った人物と、二人だけだ。 それ以外は、あくまで自己防衛の範疇――赤鬼という、過剰防衛に近いものもありはするが、こんな状況ならば当たり前であるとも言える。 勝ち残りは……予想以上に難しいのかもしれない。 「……どうも。それじゃまず、俺のほうから提案させてもらう」 そう言いながら、統夜はアスファルトの上に簡易的な地図を描き始めた。 まずここ、と、統夜は南の市街地を指さす。 「ここはあの戦艦が根城にしてる――赤い機体と黄色い機体も、ここにいる可能性が高い。  いくらあんたに自信があろうと、俺はもうここへは行きたくない。わざわざ殺されに行くなんて――冗談にもならない、最高につまらない話だ。そうだろう?  それと、これはあんたみたいなプロにとっちゃ当り前のことなんだろうけど……開けた土地にも出たくない。  さっきの戦闘で戦艦に馬鹿みたいに撃たれた。地下の空洞のおかげで助かったけど……もしあれが、遮るものが何もない平地だったとしたら、地下空洞に逃げ込む暇もなく御陀仏だったって自信がある。  あんたの話によれば、戦艦級の機体はもう一つあるらしいし、戦いやすいところを陣取る……ってのは必要だと思う。で、それならやっぱり……」 今度は地図の南東を指さし、 「ここを目指したい。ここほど地の利を感じられる場所もないと思う。  高台にあって、設備も十分整ってる……行くなら基地だ」 ふむ、とガウルンは口元に手をやりながら統夜の顔を見る。 悪くない考えだった。理に適っている。 ガウルン自身、良い考えがあったわけではない。 「ならそれでいくか。……ああ、言い忘れてたことがあったな」 「なんだ?」 「今から挙げる奴らは俺の獲物だ。手を出すのは結構だが……最後は、俺がいただく」 「……分かった」 「物わかりがいいのは良いことだ。俺の獲物の名前……それは」 ガウルンが呼んだ名前を、統夜は聞いたことがあった。 最初は、聞き間違いかとも思った。だから聞き返してみた。もう一度、名前を言ってくれと。 ガウルンは怪訝そうな顔をしたが、統夜の表情を見て、にやりと大きく笑うと、もう一度名前を呼んだ。 ――フェステニア=ミューズ。 頭の中が、一瞬真っ白になった。そのあと、更に聞いた。何故、その女を狙うのかと。 そして――彼女が何をしたのか、その顛末を聞いた。 全身の力が抜けた。はははと、意味もなく乾いた笑いが湧き出てきた。 ――どうして俺は、戦いに巻き込まれたんだっけ? 怒りよりも先に呆れの感情が湧いて。 最初の放送で呼ばれた、カティアとメルアのことを思い出して。 無性に悲しくなってきて。 テニアと交わした数少ない言葉を思い出して。 自分の愚かさにようやく気付いて。 すべてが馬鹿馬鹿しくなって。 「……ガウルン。基地へ向かおう」 「あ? なんでお前そんなに急ぎ出して……」 返事を聞く前にヴァイサーガに乗り込んだ。 ガウルンは気づいただろうか。気づいたなら笑うだろうか。 コクピットに座る前に零れ落ちた。しょっぱい水分。 今まで溜まっていた、抑えていた感情が溢れ出す。 ああ、なんて格好悪いんだろう。でも……これが普通の反応なんだとも思う。 最初から……そう、グラウンドに、あいつらが落ちてきた時から、俺は自分が特別な存在なんだと、心のどこかでそう思ってた。 ――馬鹿みたいだ。何かに期待して、縋って、非日常を生きるだなんて、俺は物語か何かの主人公になったつもりでいた。 でもその前に、俺はただの高校生だったんだ。本当は、もっといっぱいやりたいことだってあったんだ。 目頭が、ツンと熱くなる。またポロリと、大粒の雫が垂れた。 裏切り……いや、違う。仕方ないんだ。俺だって同じことをやろうとしている。 でも……でも! やっぱり俺は、大きな勘違いをしていたみたいだ。世界はそんなに甘くなかった。 「……ガウルン。頼みが……ある」 「今の俺には――お前の考えが手に取るように分かるぜ統夜。――言ってみな」 「テニアは……フェステニア=ミューズは……! 俺にやらせてくれ! ……頼む!」 ――元々俺は、彼女たち三人が自分たちのために繕った、偽物の主人公だったのさ。 ――だったら、彼女たちがいなくなれば……俺は、どうなる? ――俺は……抜け出したい。俺を縛る色んなモノたちから。 【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)  パイロット状態:疲労中、マーダー化  機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数       EN1/4、烈火刃残弾ゼロ  現在位置:C-8地下通路  第一行動方針:基地へ移動  第二行動方針:テニアの殺害  最終行動方針:優勝と生還】 まったく……ここは、面白い奴らばかりだねぇ……ククク…… 【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)  パイロット状況:疲労大、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染  機体状況:全身に弾痕多数、頭部・胸部装甲破損、左腕消失、マント消失       DG細胞感染、損傷自動修復中、ヒートアックスを装備       右拳部損傷大、全身の装甲に深刻なダメージ EN20%  現在位置:C-8 地下通路  第一行動方針:統夜に興味。育てばいずれは……?  第二行動方針:アキト、ブンドルを殺す  第三行動方針:皆殺し  最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す  備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】 【二日目9:00】 ---- |BACK||NEXT| |[[古よりの監査者]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[争いをこえて]]| |[[最後まで掴みたいもの]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[黄金の精神]]| |BACK||NEXT| |[[選択のない選択肢 SIDE:A]]|統夜|| |[[選択のない選択肢 SIDE:B]]|ガウルン|| ----
*&color(red){追い詰められる、心 ◆YYVYMNVZTk} 「――おい、起きてるか?」 洞穴の中で男の声が響く。 「食えるかどうかは知らないが、腹に何か詰めておけよ。  腹が減って力が入らず殺されました――最高につまらない、冗談にもならない話だ」 言葉を投げかけられたのは力無く横たわる少年だ。 だが、その瞳には怒りに支えられた殺意が宿っている。 その眼光を男に向けながら、少年は答える。 「あんたは――どうするんだ」 「お前が食おうが食わまいが関係ないさ。俺は食うぜ。  飯のときに襲ってきても、俺は全然構わないんでね」 少年の考えなど全て分かっていると言わんばかりに、挑発的に笑う男。 男の名はガウルン。少年の名は統夜。 この二人の奇妙な関係は――些か理解し難い。 二人は協力関係にある。 最後の一人になるまで殺し合いを続けるバトルロワイアルにおいて、ある程度数が減るまで協力し合う、という選択は、中途で裏切られるリスクというものを差し引いても、大変合理的なものだ。 それだけならば何の問題もない。 だが、この二人の関係の異常性は、また別のところにある。 ガウルンは提案した。 統夜が自分を殺すつもりならば――それでも構わないと。関係を解消するまで、自分からは統夜に手を出すつもりはないと。 その譲歩が二人が関係を結ぶに至った決定打なのだから、これはもう異常と――最初から破綻した同盟であるとも言えよう。 勿論、ガウルンだって、何の考えもなしにその条件を申し出たわけではない。 統夜が秘め持つ資質に気づいたからこその提案だ。 機体に恵まれたとはいえ、統夜は幾度かの戦闘を生き延びている。 その戦闘で、統夜が勝ったのか負けたのか、それは大して興味がない。 ただ注目したのは、統夜が生きている、という事実だ。 生き残ることが最上の目的であるこの場所において、生きる、ということは、何よりも難しい。 放送で呼ばれた名前の数がその証拠だ。 統夜は生き残る力を持っている。操縦技術、経験、運……それら総てをひっくるめて。 生き残るのなら――統夜は、まだまだ強くなる。 生きるために死に物狂いになることで、感覚は研ぎ澄まされ、訓練では得られない経験を重ね、劇的に成長できる。 死の恐怖を統夜が乗り越えたとき――それはそれは美味しい獲物になるだろう。 その時のことを夢想し、ガウルンは笑みをこぼす。 「……何がおかしいんだっ!」 「いやいや、ちょいと考え事をしてただけさ。……ああ、そうか。食べようにもその腕じゃあ食べられないか」 と、統夜の右肩を眺め、呟く。 「もう一度聞こう。飯は食うかい? 食うんだったらその右肩、はめてやるよ」 「食うさ、食えばいいんだろ! ……覚えてろ、あんたは絶対この俺が……!」 「殺してやる、って? その調子だ。精精頑張ってくれよ。……ほら動くな」 ガウルンは統夜のすぐ隣まで無造作に近づくと、右腕を掴み、統夜の耳元で囁いた。 「ところで……いいのか? そんな簡単に俺を信用して。お前の選択が間違いだったら……今度は肩を外されるだけじゃすまないぜ?」 統夜がガウルンを睨み返そうとしたその瞬間、ガウルンは、ぐい、と統夜の腕を肩へと捻じ込んだ。 痺れる様な痛みが一瞬の波となって襲い掛かるが、それが退いたときには、既に統夜の射程距離からガウルンは出てしまっている。 「くそっ……! 馬鹿にしやがって!」 「素直じゃないねぇ。肩をはめてやると言ったときのお前は、まるで人懐こい捨て犬みたいだったんだがなぁ」 ククク、と笑いを隠そうともしないガウルン。 その様子を見て、これ以上相手をしても体力と時間の無駄だと気づいた統夜は、支給された味気ないパンをコーヒーで流し込み始めた。  ◇ 「で、だ……今後どう動くのか、まずそれを決めようじゃないか。なんせ俺たちはパートナーなんだからな」 食事の後ガウルンからもちかけられた相談とは、今後の身の振り方についてだった。 今後、どうするのか――統夜も考えていたことではある。 二人になったことで、単純な戦力は倍増した。今はまだ知り合ったばかりなために無理だろうが、共闘を重ねることによって連携にも似た効率的な戦闘も出来るだろう。 とはいえ、会うもの全てに戦闘を仕掛ける――というのは利口なやり方ではない。 一応はガウルンとも協力できているわけだ。他の、優勝を目指す「乗った」人間と潰し合うのは望むところではない。 非戦闘の取り決めでもして、お互いに頭数を減らす邪魔をしないようにするのが、効率的なやり方だ。 問題はあの戦艦のようにこのバトルロワイアルそのものに反逆する者たちだ。 あの化け物に歯向かうだなんて、そんな無謀なことを考えている連中だ。 だが、今まで遭遇してきた面々を考えると、そんな人間は思っていたよりも多いらしい。 厄介なのは、彼らが次々と徒党を組んでいく――という事実だった。 時間が経てば経つほど、殺し合いに乗った自分たちは傷ついていく。 逆に、彼らはより多くの同士と結託していく――まったく分が悪い。 重要なのは戦い方だと思った。 正面から当たれば、負けはせずとも多大な被害を被ることになるだろう。 それでは最後まで生き残ることは出来ないのだ。 「なら……まずは、今までどこで何をしてきたのか……情報交換から始めないか?  あんたが会った人間と、俺が会った人間と、全体の流れを少しでも掴みたい」 重要なのは情報。それが生き残ることに繋がる。統夜はそう考えた。 「説明はあまり好きではないんでね……重要なところだけ話して、不要そうなところはどんどん省かせてもらうぜ。  まず、最初の放送の前に俺が会ったのは四人だ。そのうち三人は既に死んだのを確認した。カテジナ、コスモ、ギャリソン……と言ってたかな?  まぁ、そのうち一人は俺が殺したんだけどよ」 「俺は……放送までに、赤い鬼のような機体と、白い……あんたが乗ってるようなタイプの機体に会った。  後は……ジョシュアとアイビスって名前のやつがいた。生き物みたいな変なマシンに乗ったやつだ。放送の後にも、ジョシュアの知り合いらしいグラキエースってやつがいた。  ……ギンガナムも、ジョシュアも、グラキエースも死んだみたいだけどさ。  そのあとは、しばらく誰にも会わなくて……次に会った女を、俺は殺した。  殺した後はただ気持ち悪くてさ……笑うなよ? でも、それでようやく吹っ切れた。  そしたら青い機体に会った。そのパイロットはゲームに乗っていた。  戦ったけど、勝負はつかなくて……それっきりだ。  あんたと会う直前に戦ったのは、最初に会った赤い機体と、また別の黄色い機体。それと白い戦艦に白銀の機体と緑の機体。  自分でもよく生き延びれたと思ったよ。で、あんたと出会った」 半ば自嘲気味に話す統夜を、ガウルンは面白そうに眺めていた。 ――やっぱりこいつは、センスがある。 統夜の話す戦艦と白銀の機体とは、ガウルンも交戦したあの集団に違いない。 ガウルンが戦ったときは、もう一機と共に格別なコンビネーションを見せてくれた。 統夜の口ぶりでは、片方は戦闘には出てこなかったようだが……それを差し引いても、あの機体の戦闘力は十分なものがある。 それプラス、ガウルンの知らぬ二機。プラス戦艦だ。 そんな勝ち目のない戦いでも、統夜は死ぬことがなかった。 「その戦艦たちとなら、俺も戦わせてもらったぜ。なるほど……あいつらを相手に生き残ったんなら、上出来だ。  俺の話が途中だったな。放送の後……俺は、ある集団を追いかけた。気になる奴がいたんでね。  すると……だ! また別の集団が近づいてきてね。どうせだからと、利用させてもらった。  俺はただ一発撃っただけだったんだけどな――クク、奴らは潰しあいを始めやがった。  混乱に乗じて、俺のほうも楽しませてもらったけどな――ああ、楽しかった」 戦闘の興奮を思い出し――ガウルンは身を震わす。 その様子を見て、統夜は、ガウルンは真の変態だと、そう思った。 だがただの変態ではない。こと戦闘に限れば――他の追随を許さない、そんな変態だ。 「で、その途中で――お前も戦った戦艦一同が混じりこんできた、というわけだ。  ちょっと聞くが――その戦艦、他に機体は乗ってなかったのか?」 ガウルン自体、あの戦場に最後までいたわけではない。ある程度の目的が果たされた時点で離脱をした。 だが、あの女――フェステニアと言ったか――の言を信じるのならば、今頃フェステニアは戦艦と行動しているはずだ。 放送で名前が呼ばれていないということは、すぐに下手を打ったわけではなさそうだが……白い機体の片割れも出撃していない、という事実も引っかかる。 フェステニアと片割れが戦艦と別行動を取っているということだろうか? だが、フェステニアの狙いを考えれば、危険性が増す戦力の分散――それも、戦艦側ではない――を選ぶとは思えない。 「分からない……実際のところ、あれは戦いじゃなかった。俺がようやく戦えたのは赤い機体と黄色い機体だけ。  戦艦たちには、一方的に嬲られたようなものだったし……もしかしたら、わざわざ出なくてもいい、と考えたのかもしれない」 「ふぅん……まぁいいさ。話の続きだ。  放送の前後で――俺は、ブンドルと、アムロという男と戦った。奴らもこの祭りには乗らない――そう言っていたな。  ま、結局は取り逃がしちまって――そのあと、お前と会った。これで満足かい、統夜?」 ガウルンと自分の話を総合し――統夜は考える。 この殺し合い――乗っている人間は、思っていたよりも少ない? 思い返してみると確かに、統夜を殺しにきた人間はギンガナムと青い機体に乗った人物と、二人だけだ。 それ以外は、あくまで自己防衛の範疇――赤鬼という、過剰防衛に近いものもありはするが、こんな状況ならば当たり前であるとも言える。 勝ち残りは……予想以上に難しいのかもしれない。 「……どうも。それじゃまず、俺のほうから提案させてもらう」 そう言いながら、統夜はアスファルトの上に簡易的な地図を描き始めた。 まずここ、と、統夜は南の市街地を指さす。 「ここはあの戦艦が根城にしてる――赤い機体と黄色い機体も、ここにいる可能性が高い。  いくらあんたに自信があろうと、俺はもうここへは行きたくない。わざわざ殺されに行くなんて――冗談にもならない、最高につまらない話だ。そうだろう?  それと、これはあんたみたいなプロにとっちゃ当り前のことなんだろうけど……開けた土地にも出たくない。  さっきの戦闘で戦艦に馬鹿みたいに撃たれた。地下の空洞のおかげで助かったけど……もしあれが、遮るものが何もない平地だったとしたら、地下空洞に逃げ込む暇もなく御陀仏だったって自信がある。  あんたの話によれば、戦艦級の機体はもう一つあるらしいし、戦いやすいところを陣取る……ってのは必要だと思う。で、それならやっぱり……」 今度は地図の南東を指さし、 「ここを目指したい。ここほど地の利を感じられる場所もないと思う。  高台にあって、設備も十分整ってる……行くなら基地だ」 ふむ、とガウルンは口元に手をやりながら統夜の顔を見る。 悪くない考えだった。理に適っている。 ガウルン自身、良い考えがあったわけではない。 「ならそれでいくか。……ああ、言い忘れてたことがあったな」 「なんだ?」 「今から挙げる奴らは俺の獲物だ。手を出すのは結構だが……最後は、俺がいただく」 「……分かった」 「物わかりがいいのは良いことだ。俺の獲物の名前……それは」 ガウルンが呼んだ名前を、統夜は聞いたことがあった。 最初は、聞き間違いかとも思った。だから聞き返してみた。もう一度、名前を言ってくれと。 ガウルンは怪訝そうな顔をしたが、統夜の表情を見て、にやりと大きく笑うと、もう一度名前を呼んだ。 ――フェステニア=ミューズ。 頭の中が、一瞬真っ白になった。そのあと、更に聞いた。何故、その女を狙うのかと。 そして――彼女が何をしたのか、その顛末を聞いた。 全身の力が抜けた。はははと、意味もなく乾いた笑いが湧き出てきた。 ――どうして俺は、戦いに巻き込まれたんだっけ? 怒りよりも先に呆れの感情が湧いて。 最初の放送で呼ばれた、カティアとメルアのことを思い出して。 無性に悲しくなってきて。 テニアと交わした数少ない言葉を思い出して。 自分の愚かさにようやく気付いて。 すべてが馬鹿馬鹿しくなって。 「……ガウルン。基地へ向かおう」 「あ? なんでお前そんなに急ぎ出して……」 返事を聞く前にヴァイサーガに乗り込んだ。 ガウルンは気づいただろうか。気づいたなら笑うだろうか。 コクピットに座る前に零れ落ちた。しょっぱい水分。 今まで溜まっていた、抑えていた感情が溢れ出す。 ああ、なんて格好悪いんだろう。でも……これが普通の反応なんだとも思う。 最初から……そう、グラウンドに、あいつらが落ちてきた時から、俺は自分が特別な存在なんだと、心のどこかでそう思ってた。 ――馬鹿みたいだ。何かに期待して、縋って、非日常を生きるだなんて、俺は物語か何かの主人公になったつもりでいた。 でもその前に、俺はただの高校生だったんだ。本当は、もっといっぱいやりたいことだってあったんだ。 目頭が、ツンと熱くなる。またポロリと、大粒の雫が垂れた。 裏切り……いや、違う。仕方ないんだ。俺だって同じことをやろうとしている。 でも……でも! やっぱり俺は、大きな勘違いをしていたみたいだ。世界はそんなに甘くなかった。 「……ガウルン。頼みが……ある」 「今の俺には――お前の考えが手に取るように分かるぜ統夜。――言ってみな」 「テニアは……フェステニア=ミューズは……! 俺にやらせてくれ! ……頼む!」 ――元々俺は、彼女たち三人が自分たちのために繕った、偽物の主人公だったのさ。 ――だったら、彼女たちがいなくなれば……俺は、どうなる? ――俺は……抜け出したい。俺を縛る色んなモノたちから。 【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)  パイロット状態:疲労中、マーダー化  機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数       EN1/4、烈火刃残弾ゼロ  現在位置:C-8地下通路  第一行動方針:基地へ移動  第二行動方針:テニアの殺害  最終行動方針:優勝と生還】 まったく……ここは、面白い奴らばかりだねぇ……ククク…… 【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)  パイロット状況:疲労大、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染  機体状況:全身に弾痕多数、頭部・胸部装甲破損、左腕消失、マント消失       DG細胞感染、損傷自動修復中、ヒートアックスを装備       右拳部損傷大、全身の装甲に深刻なダメージ EN20%  現在位置:C-8 地下通路  第一行動方針:統夜に興味。育てばいずれは……?  第二行動方針:アキト、ブンドルを殺す  第三行動方針:皆殺し  最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す  備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】 【二日目9:00】 ---- |BACK||NEXT| |[[古よりの監査者]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[争いをこえて]]| |[[最後まで掴みたいもの]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[黄金の精神]]| |BACK||NEXT| |[[選択のない選択肢 SIDE:A]]|統夜|[[交錯線>交錯線(1)]]| |[[選択のない選択肢 SIDE:B]]|ガウルン|[[交錯線>交錯線(1)]]| ----

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