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仮面の奥で静かに嗤う」(2009/02/22 (日) 01:20:33) の最新版変更点

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*&color(red){仮面の奥で静かに嗤う ◆VvWRRU0SzU} 「フ、フフ……フハハハハハハハハハハハハッ!」 ブラックゲッターのコックピットに、通信機から漏れた哄笑が響き渡る。 敵を前にして頭がイカれたのか……アキトがそう思うのも無理はないほどの大笑だった。 泥の中でもがくような時間が過ぎ、ようやっと本調子に――アキトに取っては、だが――戻り、移動を再開しようとしたところで、いきなりこの機体は現れた。 白銀の光沢、力強さを感じさせる翼。空を斬り裂いて舞い降りたのは機械仕掛けの大鳥―――魔装機神サイバスター。 本調子ではないとはいえ、アキトに油断していたつもりはなかった。 だがこの機体は、レーダーが捕らえたと思えばまさしく瞬きする間に目視できる距離に到達してきた。 凄まじいスピード。アキトが迎撃の姿勢を取ろうとした瞬間、だがそいつは前方で停止し、一瞬にして人型……戦闘用と思しき形態に変形した。 戦えない「ゼスト」とやらが足手まとい。切り捨てる? 薬は欲しい、だが自分が墜ちては意味がない。 ユーゼスを囮にしてやつを破壊する。ビームが使えない現状、有効な手段は――― そこで、アキトの思考を遮るようにユーゼスの笑い声が聞こえた。 「ハハハハッ! よもや、こんなところで……! こうも容易く現れるとはな、サイバスター!」 「知っている機体か?」 「ああ、あれはいいものだ……。テンカワ、ここは私に任せてもらおう。手を出すなよ」 ユーゼスはアキトにそう言い置き、通信を切る。といっても、落とされたのは映像回線のみで音声は聞こえていたが。 アキトが目覚めたことにより、ブラックゲッターの操縦権もアキトへと戻っている。何か細工をされたかと警戒したが、変化と言えばエネルギーが補給されていたことくらいだ。 とはいえ炉心が破損している以上、完全に補給されたというわけでもなかった。動作に支障はないものの、あと数回でエネルギーは枯渇する、それは確実。 手札が限定されている以上、先に手を見せるのは好ましくない。 ここはユーゼスの言うとおり、まず様子を見ることに決めたアキト。 どうやらサイバスターなる機体もこちらとの交渉を望んでいたらしく、攻撃するそぶりは見せなかった。 「こちらはゼスト、ユーゼス・ゴッツォと、ブラックゲッター、テンカワ・アキト。サイバスターの操者よ、応答を願う。我々に戦闘の意志はない」 「……こちらはサイバスター、レオナルド・メディチ・ブンドル。私も争いを求めて来たのではない。対話を求める、ユーゼス殿」 アキトには聞こえてきた声に覚えはない。だが、どこか研ぎ澄まされた刃を連想させる鋭い声だった。 油断ならない相手だと認識し、手は出さずともいつでも行動に移れるようにサイバスターの挙動を注視する。 回線を繋げ双方が軽く自己紹介を行う。その際、アキトは負傷していて声が出し辛いという説明も交えて。 目がいくつもある怪しさ満点の仮面を被った男など問答無用で射殺されても不思議ではないとアキトは思ったが、このブンドルという男は特に何とも思わなかったようだ。 「そういう美しさもあるな」という一言で、こいつもどこかおかしいのか……と軽い疲労を感じた。 「まず……そうだな、何故この機体を知っているのか。そこから話していただきたいな。会ったことはないはずだが」 「何、『私の世界』で見たことがあるからだよ。といっても、遠くから眺めた程度のものだがね。その機体は単なる兵器の枠に収まらない優美さがある。一度見れば忘れんよ」 「ふむ……然り。サイバスターにはおよそ兵器とは思えぬ美がある。『私の世界』にはこうも心を震わせる兵器などなかった。  一度設計者ともお会いしたいものだ。さぞかし美の女神に愛されたお方なのだろう」 どうやらユーゼスの掴みは上手くいったようだ。固かった声がいくぶん和らいだ。 「うむ、私も同感だ……が、サイバスターの真価はそこではない。そうだろう?」 「ラプラスコンピューターのこともお見通しか。そう、確かにこの機体にはある。最新のスーパーコンピューターなど比べ物にならないほどの演算装置が。  それを持って私はサイバスターこそこの戦いを終息させる鍵と考えている」 「ラプラスコンピューターを完全に操れるなら、因果を操り未来を知ることもできる……なるほど、確かに鍵と言えるな。  どうかね、ブンドル―――と、呼ばせてもらうが、サイバスターを私に預けてはくれないかね?」 「あなたに?」 「失礼ながら君には念……魔力的な素養は感じられない。私なら君よりある程度は上手くラプラスコンピューターを操れるだろう」 「魅力的な話だが……今は否、と言わねばならん。私にもこのサイバスターが必要だ。当面、ラプラスコンピューターの解析よりも優先してやることがあるのでな」 「ほう。それは?」 「基地を確保することだ。殺戮者たちへの備えとして、生存者の集結地として。そして」 コンコン、と軽い音。おそらくは首輪だろう。 「なるほど、我々と同じ……か。だが、一足遅かったようだ、ブンドル」 「どういう意味だ?」 「戦いに乗った者に攻撃を受け、基地は壊滅した。我々の仲間が足止めを行っていたが、先程一際大きな爆発があった。おそらくは……」 ユーゼスは悲しみのあまり消沈したように言う。演技とは知っていても、その仲間を売っておいてよく言えたものだとアキトは失笑した。 そしてそこに続くブンドルの声は今度こそ本物の落胆を滲ませていた。 「なんということだ……。事態は私の予想をはるかに超えていたということか」 「生存者は、いない。基地に向かうのは諦めた方がいい。奴が生きているかはわからんが、もし健在なら我々が束になっても一蹴されるだろう。それほどに強力な敵だ」 「また、無辜の命が散ったというのか……私が、もっと早く―――」 「酷なことを言うが、君一人いても状況はさして変わらなかったろう。君さえいればなんとかなったなどと言うのは、死力を尽くして敵に抗った私の仲間に対する侮辱だ」 「……そうだな、あなたの言う通りだ。後悔している暇などない……進まねばならん」 「うむ……我々はナデシコなる艦との接触を目指している。どうかね、我々とともに行かないか?」 「ナデシコ? あの艦か。ふむ……いや、済まないがそれならそれで私は北で仲間との合流を目指す。  基地での合流を約束したのでな、もしそんな危険な敵がいるのなら捕捉される前に私がピックアップする」 「そうか……残念だ」 どうやらブンドルなる男は仲間と合流するつもりらしい。集団を形成されては面倒だ。ユーゼスの思惑がどうであれ、こいつはここで――― アキトが殺意を解き放とうとした瞬間。 「お―――いブンドルさ――――――ん! もういいだろ―――!?」 大音量の声が響いた。 新たに接近する機影、1。映像―――雷を思わせる黄色のボディ。 「待ってろって言われたけどよ、そう長々と話してるってことは敵じゃないんだろ? だったら俺も混ぜてくれよ!」 聞こえてきたのは、活力溢れる少年の声。 「甲児君……待っていろと言ったろう」 「だってよ、俺だけのけものなんてひどいじゃねえかよ。仲間なんだからブンドルさんだけに危ない橋渡らせることはできねえしさ」 やがて、黄色の機体―――ストレーガというらしい―――が合流し、改めての会談となった。 どうやら向こうに先に捕捉されたらしく、万が一の事態に備えて機動力に優れるサイバスターが斥候役を務めることになったということだった。 「フ……その用心深さは頼もしいな。ユーゼス・ゴッツォだ。よろしく頼む、甲児君」 「甲児でいいぜ、おっさ……ユーゼスさん。それで、そっちが……ってあれ? その顔、ゲッターロボじゃねえか! ん、でも黒いしなんかずんぐりしてるな。どういうこった?」 「……この機体はブラックゲッター、俺はテンカワ・アキトだ。こいつはお前の知ってる機体とは多分別物だ」 喋る必要があったわけではないが、一々追及されるの面倒だと思ったアキトは甲児の疑問に答えた。 それきりまた口をつぐみ、二機の隙を探る作業へと没頭する。 甲児はしきりにブラックゲッターの周囲を旋回し、観察している。トマホークを叩きこまんとする手を抑えるのに苦労した。 「ブラックゲッター……へへ、俺の知ってるゲッターとは違うけど中々カッコイイじゃん。ま、俺のマジンガーには負けるけどよ!」 「マジンガー? それも詳しく聞きたいものだな」 「いや、先にこちらの話を進めさせてくれ。我々は仲間と合流する、君たちはナデシコと合流する。  では首尾よく双方が仲間と合流できたのなら、そのとき改めて手を取り合おう」 「異論はない。だが、我々はナデシコの航路を知らないのだ、合流できるという保証はない。君たちはナデシコがどこに行ったか知らないか?」 「……いや、何処に行ったかまでは知らないな。私も先程すれ違ったくらいで―――」 「何言ってんだよブンドルさん。シャギアさんたちならガロードの機体を探した後北東4ブロックを回るって言ってたじゃねえか」 何故か急に言い渋ったブンドルに甲児の声が被さった。 「……そうだったかな? 済まない、なにせ君に撃たれた衝撃が強かったもので少し気が緩んでいたようだ」 「むぐっ……そ、それは言いっこなしだぜブンドルさん!」 「北東4ブロック、か。ふむ、礼を言う。おかげでこのフィールド中を飛び回らずに済んだよ」 「へへっ、いいってことよ! ああそうだ、シャギアさんたちに会っても、その、アンタ達人相っていうか仮面相……とかが悪いからさ。  俺が紹介したって言いなよ。卵焼き、って言えば俺と会ったってわかるはずだから」 まっすぐ過ぎる少年は仮面に対しても忌憚のない意見を述べてくれた。 ユーゼスはともかく俺は好きで被ってるんじゃない、と胸の内で反論するアキト。 「……了解した。では、合流地点はE-1の水上都市はどうかね? 君らは北に行く、我々は南下して光の壁を通過して北東へ向かう。中間地点としてE-1が適任だと考えるが」 「了解だ」 ブンドルの言葉を区切りとして、手短かに情報を交換していく。 それが一段落したところで、ユーゼスは甲児にゲッターロボ、マジンガーZなる機体の話を求めた。 甲児も愛機の蘊蓄を語れるのがうれしいのか、上機嫌で説明している。 二人は機体を降り、地上で生身を晒している。今なら殲滅は容易い――― しかし、優勝を考えると無闇に消耗するのはまずい。今はまだ機ではない、と判断したアキトにこちらは機体から降りなかったブンドルが話しかけてきた。 「テンカワ・アキト。どうやら向こうの話は邪魔してはいけないようだ、君と話そう。戦いに乗った危険人物のことだ」 「……俺に、話すことはない」 いずれ誰も彼も殺すのだから、と胸中で呟く。そんな相手のことなど知りたくないし、話していたくもなかった。 だが。 「私の話を聞いてくれるだけでいい。ガウルンという男のことだ」 瞬間、息が止まった。 ガウルン。 奴の名を、ここで、聞いた? 「奴とは二度交戦したが、決着は付けられなかった。品性は最悪だが、強い。まさに戦争を体現したような男だ」 ブンドルの言葉など頭に入らない。奴はまだ生きている。生きていてくれた。アキトに、殺されるために。 「奴は今も戦いを巻き起こそうと暗躍しているだろう。だが次こそは逃さん。必ずや奴を討ち取って―――」 「俺だッ!」 アキトの喉から怒声が迸る。 「誰にも渡さない……奴は、ガウルンは、俺が殺す! 俺がこの手で、必ず……!」 「……君も、以前に奴と?」 「奴は俺が殺す。邪魔をするなら誰であろうと容赦はしない」 それは通告。ガウルンを殺すのは自分であり、ガウルンに手を出す者は等しく殺すという殺意の言葉。 無差別に襲いかかってくる狂人に、それを狩ろうとする男。介入すればどちらからも狙われる――― 「無茶を言う。襲われても抵抗するなということか?」 「俺の知ったことじゃない」 「……ふぅ。わかった、もし遭遇してもなるべく撤退するようにしよう。できれば、の話ではあるが」 返事をする余裕などなく、胸の内の殺意を押さえつける。これはここで放つものではない。 溜めて、溜めて……あの男に叩きつけるその時まで、どこまでも純度を高めていく。そこへ、 「あの男の機体はガンダムというらしい。私の―――認めるのはいささか抵抗があるが―――仲間が乗っていた機体と同タイプのようだ。  接近戦を主眼に開発され、小型とはいえ驚異的な格闘能力を有する。操縦方法が独特のもので、操縦者の体技をそのまま反映できるらしい。  あの男は軍人上がりのようだが、腕は相当のものだ。機体とパイロットの相性が良すぎる」 冷めた声が投げかけられる。ガウルンの機体の情報だ。 意図が掴めず答えないアキトに構わず、ブンドルの声は続く。 「更に、私との戦いでは見せなかったが、もう一つ二つは切り札があるようだ。掌部にエネルギーを纏わせる技と、機体の出力が一気に高まる機能。  ギンガナム……私の仲間が後者を発動させたときは君の機体とほぼ同サイズの強力な機体を片腕で圧倒した。この二点に特に留意したまえ」 「……どういうつもりだ」 「君が奴を排除してくれるならそれに越したことはない……それだけだ。何かを奪われたのなら、報復するのは当然の権利だと私は思う」 大事なのはガウルンと戦うことではなく、ガウルンを殺すこと。アキトにとってこの情報は―――有益だった。 「……礼を言う」 「不要だ」 一瞬だけ―――昔、仲間と共にいた頃の記憶を思い出し、気がつけば礼の言葉を口にしていた。 いずれ殺すのに……矛盾しているとは思ったが、それでもアキトにはもうここで戦う気は失せていた。 ガウルンの情報を手に入れただけでアキトとしては上々だ。こいつらのことは次に会ったときに考えればいい――― それからしばらくして。 「待たせたな、テンカワ。出発するぞ」 「すまねぇな、ブンドルさん。待たせちまって」 ようやく話を終えた二人が戻ってきた。甲児はもちろん、ユーゼスも心なしか満足げだ。 「いやあ、見た目と違っておっさ……ユーゼスさんって話せるなぁ! やっぱ男はスーパーロボットだぜ!」 「うむ。合体変形、厚い装甲、全身に装備された兵器、そしてロボットなのに必殺技……科学者が一度は夢見る王道だ。これを好かずして何が男か」 すっかり意気投合したらしい二人をやや引き気味の目で見ていたブンドルが、出発を告げる。 「では、いずれまた会おう。さらばだ」 「じゃあまた後でな、ユーゼスさんにアキトさん! 死ぬんじゃねえぞ!」 サイバスターとストレーガが北へ飛び去っていく。 対して自分達は真逆、南へと針路を向ける。 未だ再生しきらぬゼストを抱えてブラックゲッターが飛んで行く。 「よく自制したものだな。別れ際に仕掛けるのではないかと私は内心穏やかではなかったよ」 「……いずれまた会う。そのとき殺せば結果は同じだ。貴様こそ、見逃していいのか? あの機体が必要なのだろう」 「サイバスターか。確かに本音を言えば確保しておきたいが……今の状況では破壊はともかく捕獲は困難だ。万一ラプラスコンピューターが破損しては目も当てられん。  何、保険はかけておいた。サイバスターは私のもとへ来る、必ずな。早いか遅いかの違いだよ。  あのブンドルという男、中々に切れる。すでに我々が違う世界から集められたということも理解していたしな。我々の重要性はしっかりと認識しているだろうさ」 上機嫌なユーゼスの声。アキトもこの接触は価値のあるものだと認めざるを得なかった。 ナデシコの行き先がわかり、市街地を探し回らずに済んだ。これは薬を飲まねばろくに動けないアキトには好都合だ。 そして何より、ガウルン。 ブンドルの話では、奴は相当の手練と戦って深手を負ったらしいが、生きていることには変わりない。 そして今も積極的に行動しているらしい。このまま当て所なく彷徨うよりも、人の集まるところ、獲物の多い場所に奴は現れるだろう。 ナデシコは集団を纏める旗と成り得る。奴が来る確率は決して低くはない。 もうすぐ、もうすぐ会える。ユリカを殺したあの男に――― キョウスケ・ナンブのことも、共に進む信用ならないユーゼスのことも、今この瞬間はどうでもいい。 ブラックゲッター。復讐を体現する機体の中で、まるで恋焦がれるように―――アキトは宿敵との邂逅を願い続けた。 【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター  パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭、疲労状態  機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可)  現在位置:E-7 北東部  第一行動方針:ナデシコの捜索(南の光壁を抜けて北東4ブロックへ)  第二行動方針:ガウルンの首を取る  第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す  最終行動方針:ユリカを生き返らせる  備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。  備考2:謎の薬を3錠所持  備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可  備考4:ゲッタートマホークを所持】 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス  パイロット状態:若干の疲れ  機体状態:全身の装甲に損傷、両腕・両脚部欠落、EN残量20%、自己再生中(コックピットの完全修復まで残り数十分程度)  現在位置:E-7 北東部  第一行動方針:ナデシコの捜索、AI1のデータ解析を基に首輪を解除  第二行動方針:他参加者の機体からエネルギーを回収する  第三行動方針:サイバスターとの接触  第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒  第五行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい?  最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る  備考1:アインストに関する情報を手に入れました  備考2:首輪の残骸を所持(六割程度)  備考3:DG細胞のサンプルを所持  備考4:機体の制御はAI1が行っているので、コックピットが完全に再生するまで戦闘不能】           □ 「俺達にナデシコにブンドルさんの仲間にユーゼスのおっさんとアキトさん。へへっ、なんかイケるんじゃないかって気がしてきたぜ!」 ユーゼス達と別れた後、基地から北部の市街地へと針路を変えて進む二人。 甲児は純粋に仲間が増えたことを喜んでいるようだ。しかしブンドルは彼とは逆に、喉元に棘が刺さったような気分だった。 「……甲児君。彼らのことをどう思う?」 「どうって……頼もしいじゃねえか。見た目はともかくユーゼスさんはすげえ頭がいいぜ。光子力の理論をちょっと話したらスイスイ理解してた。  ゲッターロボのエネルギー……ゲッター線とかってのも、ここに来てからの調査だけでだいぶ深く理解してたみたいだしよ。  アキトさんはなんか殺し屋みたいで……ま、まあ頼りになりそうだよな。ブラックゲッターっつーあの機体だって、俺が見たゲッターは強かったぜ。  一人乗りってことは変形とかはできないんだろうけど、どう見ても戦闘用だったしな。あの化け物を倒すのに大きな力になるぜ、きっと!」 甲児は微塵も彼らを疑っていない。その純粋さが彼の美点でもあるのだが、ブンドルはそう甘く考えることはできなかった。 基地の情報や首輪を解除しようとしていること、何より自分たちをあっさり見逃したことから、たしかに戦いに乗ってはいないのだろう。 だがどうにも―――信用しきれない。 これはドクーガ情報局局長として裏の世界を嫌というほど見てきたからこその勘なのだ、甲児に理解できるはずもないが。 表面的には友好的なユーゼス。寡黙だが内にガウルンへの激烈な殺意を抱えたアキト。 アキトはまだいい。大事な誰かを殺されて、復讐に走る。理解できないことではない。 ギンガナムのように、暴力に訴えるタイプなら制御するのは容易い。だからこそガウルンの情報を与え、矛先が万一にもこちらへ向かないように仕向けた。 だがユーゼスは違う。 言葉は穏やかながらも、仮面の奥にある瞳は冷徹にこちらを観察していた気がする。 人を見る目ではなく、フラスコの中の液体を、檻の中を走り回るネズミを、それらが起こす変化を機械的に観察している……そんな印象を受けた。 何より、サイバスターだ。 彼がサイバスターを自身に預けないか、と言ったとき。この機体―――機体に宿る精霊―――は、拒絶の意をブンドルに送ってきた。 こいつにサイバスターを委ねてはいけない。漠然と思っていただけのブンドルを、その意志は強く後押しした。 ユーゼス・ゴッツォは、今はまだ信頼すべきではない。ブンドルはそう決めた。 だからこそ同行の申し出を断り、ナデシコの行方もぼかしたままにしようと思ったのだが。 そこで甲児が介入してきたのは計算外だった。共に過ごした時間は長くないものの、多少なりとも理解できた彼の性格を考えれば予測できたことではあったが――― (私は、手を指し損ねたのかもしれん) その思いを抑えられなかった。もし彼らが戦いに乗っていて、自分達から情報を引き出すために友好的に接したのだとしたら……ナデシコが危うい。 急ぐ必要がある。この位置からなら彼らがナデシコと合流するより、自分達がアムロと―――願わくばアイビスとも―――合流する方が早いはずだ。 こちらが大きな集団となり、彼らより先にナデシコと接触する。 勘という曖昧な理由しか示せない自分よりも、人の意志を感じ取るニュータイプたるアムロならユーゼスの真意を看破できるかもしれない。 (どのみち、もう一度彼らと接触する必要があるか。こんなものを見せられては、な) モニターに表示されるデータを見て嘆息する。 首輪を解析した結果だ。ユーゼスがあの基地で解析したものらしい。 脱出の際のどさくさで一部が破損したらしく、そのデータは不完全なものらしい。復旧に全力を挙げているとのことだったが、信用できたものではない。 なんとなれば自分に都合のいいように改竄したものかもしれないのだから。 しかし首輪の解除が脱出の絶対条件なのだ、不完全とはいえこのデータを導き出したユーゼスは不可欠な人材ということになる。 これを見せることで、ある程度ブンドルの行動を誘導する。上手いな、と思った。 アムロならこのデータからでも首輪解除の糸口を掴むだろうか? パイロットとしてではなく技術者としての彼に期待することにしたブンドル。 「甲児君、少し急ごう。我々も予定を早めなければならん」 「え? ああ、まあいいけど。……あ、だったらストレーガをサイバスターにのっけてくれよ。その方が速く移動できるはずだぜ」 「却下だ。もし敵に奇襲を受けたとき共倒れになっては目も当てられん。何よりこのサイバスターの上に乗るなど美しくない」 「ちぇっ。ストレーガじゃサイバスターについてくのだって一苦労なのによ……」 愚痴る甲児に微笑を返し、ブンドルも気を引き締める。 既に30人以上の命が失われ、基地でもまた幾人かがその命を散らしたという。他にもこの広大な世界で理不尽な死を迎えた者がいるだろう。 ガウルン、基地を壊滅させたという殺戮者。いずれ討伐に赴かねばならない。 ここから先は一手の打ち損じも命取りになる。ギンガナムの時のように、目前でむざむざと仲間を失うことはもう二度と許さない。 「サイバスター、我々を導いてくれ……この世界を壊し、あの醜悪な主催者を断罪するために」 サイバスターの応えはない、だが構わない。仮初とはいえ、今だけはブンドルがこの美しき白鳥の操者なのだから。 蒼穹を風と雷が駆け抜ける。その行く先に待つのは、果たして――― 【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)  パイロット状態:良好(主催者に対する怒りは沈静、精神面の疲労も持ち直している)  機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊 ビームナイフ所持  現在位置:E-6  第一行動方針:他の参加者との接触  第二行動方針:中央の市街地へ向かいアムロと合流、その後E-1へ。可能ならナデシコと合流  第三行動方針:サイバスターが認め、かつ主催者に抗う者にサイバスターを譲り渡す  第四行動方針:閉鎖空間の綻びを破壊  最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ  備考1:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能  備考2:空間の綻びを認識  備考3:ガウルンを危険人物として認識  備考4:操者候補の一人としてカミーユに興味  備考5:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】 【兜甲児 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)  パイロット状態:良好  機体状態:右肩に刺し傷、各部にダメージ(戦闘に支障無し)  現在位置:E-6  第一行動方針:ブンドルに同行  第二行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める  最終行動方針:アインストたちを倒す 】 【二日目 11:00】 ---- |BACK||NEXT| |[[最後まで掴みたいもの]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[揺れる心の錬金術師]]| |[[交錯線>交錯線(1)]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[遺されたもの]]| |BACK||NEXT| |[[最後まで掴みたいもの]]|ユーゼス|[[天使再臨]]| |[[最後まで掴みたいもの]]|アキト|[[天使再臨]]| |[[風と雷]]|ブンドル|| |[[風と雷]]|甲児|| ----
*&color(red){仮面の奥で静かに嗤う ◆VvWRRU0SzU} 「フ、フフ……フハハハハハハハハハハハハッ!」 ブラックゲッターのコックピットに、通信機から漏れた哄笑が響き渡る。 敵を前にして頭がイカれたのか……アキトがそう思うのも無理はないほどの大笑だった。 泥の中でもがくような時間が過ぎ、ようやっと本調子に――アキトに取っては、だが――戻り、移動を再開しようとしたところで、いきなりこの機体は現れた。 白銀の光沢、力強さを感じさせる翼。空を斬り裂いて舞い降りたのは機械仕掛けの大鳥―――魔装機神サイバスター。 本調子ではないとはいえ、アキトに油断していたつもりはなかった。 だがこの機体は、レーダーが捕らえたと思えばまさしく瞬きする間に目視できる距離に到達してきた。 凄まじいスピード。アキトが迎撃の姿勢を取ろうとした瞬間、だがそいつは前方で停止し、一瞬にして人型……戦闘用と思しき形態に変形した。 戦えない「ゼスト」とやらが足手まとい。切り捨てる? 薬は欲しい、だが自分が墜ちては意味がない。 ユーゼスを囮にしてやつを破壊する。ビームが使えない現状、有効な手段は――― そこで、アキトの思考を遮るようにユーゼスの笑い声が聞こえた。 「ハハハハッ! よもや、こんなところで……! こうも容易く現れるとはな、サイバスター!」 「知っている機体か?」 「ああ、あれはいいものだ……。テンカワ、ここは私に任せてもらおう。手を出すなよ」 ユーゼスはアキトにそう言い置き、通信を切る。といっても、落とされたのは映像回線のみで音声は聞こえていたが。 アキトが目覚めたことにより、ブラックゲッターの操縦権もアキトへと戻っている。何か細工をされたかと警戒したが、変化と言えばエネルギーが補給されていたことくらいだ。 とはいえ炉心が破損している以上、完全に補給されたというわけでもなかった。動作に支障はないものの、あと数回でエネルギーは枯渇する、それは確実。 手札が限定されている以上、先に手を見せるのは好ましくない。 ここはユーゼスの言うとおり、まず様子を見ることに決めたアキト。 どうやらサイバスターなる機体もこちらとの交渉を望んでいたらしく、攻撃するそぶりは見せなかった。 「こちらはゼスト、ユーゼス・ゴッツォと、ブラックゲッター、テンカワ・アキト。サイバスターの操者よ、応答を願う。我々に戦闘の意志はない」 「……こちらはサイバスター、レオナルド・メディチ・ブンドル。私も争いを求めて来たのではない。対話を求める、ユーゼス殿」 アキトには聞こえてきた声に覚えはない。だが、どこか研ぎ澄まされた刃を連想させる鋭い声だった。 油断ならない相手だと認識し、手は出さずともいつでも行動に移れるようにサイバスターの挙動を注視する。 回線を繋げ双方が軽く自己紹介を行う。その際、アキトは負傷していて声が出し辛いという説明も交えて。 目がいくつもある怪しさ満点の仮面を被った男など問答無用で射殺されても不思議ではないとアキトは思ったが、このブンドルという男は特に何とも思わなかったようだ。 「そういう美しさもあるな」という一言で、こいつもどこかおかしいのか……と軽い疲労を感じた。 「まず……そうだな、何故この機体を知っているのか。そこから話していただきたいな。会ったことはないはずだが」 「何、『私の世界』で見たことがあるからだよ。といっても、遠くから眺めた程度のものだがね。その機体は単なる兵器の枠に収まらない優美さがある。一度見れば忘れんよ」 「ふむ……然り。サイバスターにはおよそ兵器とは思えぬ美がある。『私の世界』にはこうも心を震わせる兵器などなかった。  一度設計者ともお会いしたいものだ。さぞかし美の女神に愛されたお方なのだろう」 どうやらユーゼスの掴みは上手くいったようだ。固かった声がいくぶん和らいだ。 「うむ、私も同感だ……が、サイバスターの真価はそこではない。そうだろう?」 「ラプラスコンピューターのこともお見通しか。そう、確かにこの機体にはある。最新のスーパーコンピューターなど比べ物にならないほどの演算装置が。  それを持って私はサイバスターこそこの戦いを終息させる鍵と考えている」 「ラプラスコンピューターを完全に操れるなら、因果を操り未来を知ることもできる……なるほど、確かに鍵と言えるな。  どうかね、ブンドル―――と、呼ばせてもらうが、サイバスターを私に預けてはくれないかね?」 「あなたに?」 「失礼ながら君には念……魔力的な素養は感じられない。私なら君よりある程度は上手くラプラスコンピューターを操れるだろう」 「魅力的な話だが……今は否、と言わねばならん。私にもこのサイバスターが必要だ。当面、ラプラスコンピューターの解析よりも優先してやることがあるのでな」 「ほう。それは?」 「基地を確保することだ。殺戮者たちへの備えとして、生存者の集結地として。そして」 コンコン、と軽い音。おそらくは首輪だろう。 「なるほど、我々と同じ……か。だが、一足遅かったようだ、ブンドル」 「どういう意味だ?」 「戦いに乗った者に攻撃を受け、基地は壊滅した。我々の仲間が足止めを行っていたが、先程一際大きな爆発があった。おそらくは……」 ユーゼスは悲しみのあまり消沈したように言う。演技とは知っていても、その仲間を売っておいてよく言えたものだとアキトは失笑した。 そしてそこに続くブンドルの声は今度こそ本物の落胆を滲ませていた。 「なんということだ……。事態は私の予想をはるかに超えていたということか」 「生存者は、いない。基地に向かうのは諦めた方がいい。奴が生きているかはわからんが、もし健在なら我々が束になっても一蹴されるだろう。それほどに強力な敵だ」 「また、無辜の命が散ったというのか……私が、もっと早く―――」 「酷なことを言うが、君一人いても状況はさして変わらなかったろう。君さえいればなんとかなったなどと言うのは、死力を尽くして敵に抗った私の仲間に対する侮辱だ」 「……そうだな、あなたの言う通りだ。後悔している暇などない……進まねばならん」 「うむ……我々はナデシコなる艦との接触を目指している。どうかね、我々とともに行かないか?」 「ナデシコ? あの艦か。ふむ……いや、済まないがそれならそれで私は北で仲間との合流を目指す。  基地での合流を約束したのでな、もしそんな危険な敵がいるのなら捕捉される前に私がピックアップする」 「そうか……残念だ」 どうやらブンドルなる男は仲間と合流するつもりらしい。集団を形成されては面倒だ。ユーゼスの思惑がどうであれ、こいつはここで――― アキトが殺意を解き放とうとした瞬間。 「お―――いブンドルさ――――――ん! もういいだろ―――!?」 大音量の声が響いた。 新たに接近する機影、1。映像―――雷を思わせる黄色のボディ。 「待ってろって言われたけどよ、そう長々と話してるってことは敵じゃないんだろ? だったら俺も混ぜてくれよ!」 聞こえてきたのは、活力溢れる少年の声。 「甲児君……待っていろと言ったろう」 「だってよ、俺だけのけものなんてひどいじゃねえかよ。仲間なんだからブンドルさんだけに危ない橋渡らせることはできねえしさ」 やがて、黄色の機体―――ストレーガというらしい―――が合流し、改めての会談となった。 どうやら向こうに先に捕捉されたらしく、万が一の事態に備えて機動力に優れるサイバスターが斥候役を務めることになったということだった。 「フ……その用心深さは頼もしいな。ユーゼス・ゴッツォだ。よろしく頼む、甲児君」 「甲児でいいぜ、おっさ……ユーゼスさん。それで、そっちが……ってあれ? その顔、ゲッターロボじゃねえか! ん、でも黒いしなんかずんぐりしてるな。どういうこった?」 「……この機体はブラックゲッター、俺はテンカワ・アキトだ。こいつはお前の知ってる機体とは多分別物だ」 喋る必要があったわけではないが、一々追及されるの面倒だと思ったアキトは甲児の疑問に答えた。 それきりまた口をつぐみ、二機の隙を探る作業へと没頭する。 甲児はしきりにブラックゲッターの周囲を旋回し、観察している。トマホークを叩きこまんとする手を抑えるのに苦労した。 「ブラックゲッター……へへ、俺の知ってるゲッターとは違うけど中々カッコイイじゃん。ま、俺のマジンガーには負けるけどよ!」 「マジンガー? それも詳しく聞きたいものだな」 「いや、先にこちらの話を進めさせてくれ。我々は仲間と合流する、君たちはナデシコと合流する。  では首尾よく双方が仲間と合流できたのなら、そのとき改めて手を取り合おう」 「異論はない。だが、我々はナデシコの航路を知らないのだ、合流できるという保証はない。君たちはナデシコがどこに行ったか知らないか?」 「……いや、何処に行ったかまでは知らないな。私も先程すれ違ったくらいで―――」 「何言ってんだよブンドルさん。シャギアさんたちならガロードの機体を探した後北東4ブロックを回るって言ってたじゃねえか」 何故か急に言い渋ったブンドルに甲児の声が被さった。 「……そうだったかな? 済まない、なにせ君に撃たれた衝撃が強かったもので少し気が緩んでいたようだ」 「むぐっ……そ、それは言いっこなしだぜブンドルさん!」 「北東4ブロック、か。ふむ、礼を言う。おかげでこのフィールド中を飛び回らずに済んだよ」 「へへっ、いいってことよ! ああそうだ、シャギアさんたちに会っても、その、アンタ達人相っていうか仮面相……とかが悪いからさ。  俺が紹介したって言いなよ。卵焼き、って言えば俺と会ったってわかるはずだから」 まっすぐ過ぎる少年は仮面に対しても忌憚のない意見を述べてくれた。 ユーゼスはともかく俺は好きで被ってるんじゃない、と胸の内で反論するアキト。 「……了解した。では、合流地点はE-1の水上都市はどうかね? 君らは北に行く、我々は南下して光の壁を通過して北東へ向かう。中間地点としてE-1が適任だと考えるが」 「了解だ」 ブンドルの言葉を区切りとして、手短かに情報を交換していく。 それが一段落したところで、ユーゼスは甲児にゲッターロボ、マジンガーZなる機体の話を求めた。 甲児も愛機の蘊蓄を語れるのがうれしいのか、上機嫌で説明している。 二人は機体を降り、地上で生身を晒している。今なら殲滅は容易い――― しかし、優勝を考えると無闇に消耗するのはまずい。今はまだ機ではない、と判断したアキトにこちらは機体から降りなかったブンドルが話しかけてきた。 「テンカワ・アキト。どうやら向こうの話は邪魔してはいけないようだ、君と話そう。戦いに乗った危険人物のことだ」 「……俺に、話すことはない」 いずれ誰も彼も殺すのだから、と胸中で呟く。そんな相手のことなど知りたくないし、話していたくもなかった。 だが。 「私の話を聞いてくれるだけでいい。ガウルンという男のことだ」 瞬間、息が止まった。 ガウルン。 奴の名を、ここで、聞いた? 「奴とは二度交戦したが、決着は付けられなかった。品性は最悪だが、強い。まさに戦争を体現したような男だ」 ブンドルの言葉など頭に入らない。奴はまだ生きている。生きていてくれた。アキトに、殺されるために。 「奴は今も戦いを巻き起こそうと暗躍しているだろう。だが次こそは逃さん。必ずや奴を討ち取って―――」 「俺だッ!」 アキトの喉から怒声が迸る。 「誰にも渡さない……奴は、ガウルンは、俺が殺す! 俺がこの手で、必ず……!」 「……君も、以前に奴と?」 「奴は俺が殺す。邪魔をするなら誰であろうと容赦はしない」 それは通告。ガウルンを殺すのは自分であり、ガウルンに手を出す者は等しく殺すという殺意の言葉。 無差別に襲いかかってくる狂人に、それを狩ろうとする男。介入すればどちらからも狙われる――― 「無茶を言う。襲われても抵抗するなということか?」 「俺の知ったことじゃない」 「……ふぅ。わかった、もし遭遇してもなるべく撤退するようにしよう。できれば、の話ではあるが」 返事をする余裕などなく、胸の内の殺意を押さえつける。これはここで放つものではない。 溜めて、溜めて……あの男に叩きつけるその時まで、どこまでも純度を高めていく。そこへ、 「あの男の機体はガンダムというらしい。私の―――認めるのはいささか抵抗があるが―――仲間が乗っていた機体と同タイプのようだ。  接近戦を主眼に開発され、小型とはいえ驚異的な格闘能力を有する。操縦方法が独特のもので、操縦者の体技をそのまま反映できるらしい。  あの男は軍人上がりのようだが、腕は相当のものだ。機体とパイロットの相性が良すぎる」 冷めた声が投げかけられる。ガウルンの機体の情報だ。 意図が掴めず答えないアキトに構わず、ブンドルの声は続く。 「更に、私との戦いでは見せなかったが、もう一つ二つは切り札があるようだ。掌部にエネルギーを纏わせる技と、機体の出力が一気に高まる機能。  ギンガナム……私の仲間が後者を発動させたときは君の機体とほぼ同サイズの強力な機体を片腕で圧倒した。この二点に特に留意したまえ」 「……どういうつもりだ」 「君が奴を排除してくれるならそれに越したことはない……それだけだ。何かを奪われたのなら、報復するのは当然の権利だと私は思う」 大事なのはガウルンと戦うことではなく、ガウルンを殺すこと。アキトにとってこの情報は―――有益だった。 「……礼を言う」 「不要だ」 一瞬だけ―――昔、仲間と共にいた頃の記憶を思い出し、気がつけば礼の言葉を口にしていた。 いずれ殺すのに……矛盾しているとは思ったが、それでもアキトにはもうここで戦う気は失せていた。 ガウルンの情報を手に入れただけでアキトとしては上々だ。こいつらのことは次に会ったときに考えればいい――― それからしばらくして。 「待たせたな、テンカワ。出発するぞ」 「すまねぇな、ブンドルさん。待たせちまって」 ようやく話を終えた二人が戻ってきた。甲児はもちろん、ユーゼスも心なしか満足げだ。 「いやあ、見た目と違っておっさ……ユーゼスさんって話せるなぁ! やっぱ男はスーパーロボットだぜ!」 「うむ。合体変形、厚い装甲、全身に装備された兵器、そしてロボットなのに必殺技……科学者が一度は夢見る王道だ。これを好かずして何が男か」 すっかり意気投合したらしい二人をやや引き気味の目で見ていたブンドルが、出発を告げる。 「では、いずれまた会おう。さらばだ」 「じゃあまた後でな、ユーゼスさんにアキトさん! 死ぬんじゃねえぞ!」 サイバスターとストレーガが北へ飛び去っていく。 対して自分達は真逆、南へと針路を向ける。 未だ再生しきらぬゼストを抱えてブラックゲッターが飛んで行く。 「よく自制したものだな。別れ際に仕掛けるのではないかと私は内心穏やかではなかったよ」 「……いずれまた会う。そのとき殺せば結果は同じだ。貴様こそ、見逃していいのか? あの機体が必要なのだろう」 「サイバスターか。確かに本音を言えば確保しておきたいが……今の状況では破壊はともかく捕獲は困難だ。万一ラプラスコンピューターが破損しては目も当てられん。  何、保険はかけておいた。サイバスターは私のもとへ来る、必ずな。早いか遅いかの違いだよ。  あのブンドルという男、中々に切れる。すでに我々が違う世界から集められたということも理解していたしな。我々の重要性はしっかりと認識しているだろうさ」 上機嫌なユーゼスの声。アキトもこの接触は価値のあるものだと認めざるを得なかった。 ナデシコの行き先がわかり、市街地を探し回らずに済んだ。これは薬を飲まねばろくに動けないアキトには好都合だ。 そして何より、ガウルン。 ブンドルの話では、奴は相当の手練と戦って深手を負ったらしいが、生きていることには変わりない。 そして今も積極的に行動しているらしい。このまま当て所なく彷徨うよりも、人の集まるところ、獲物の多い場所に奴は現れるだろう。 ナデシコは集団を纏める旗と成り得る。奴が来る確率は決して低くはない。 もうすぐ、もうすぐ会える。ユリカを殺したあの男に――― キョウスケ・ナンブのことも、共に進む信用ならないユーゼスのことも、今この瞬間はどうでもいい。 ブラックゲッター。復讐を体現する機体の中で、まるで恋焦がれるように―――アキトは宿敵との邂逅を願い続けた。 【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター  パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭、疲労状態  機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可)  現在位置:E-7 北東部  第一行動方針:ナデシコの捜索(南の光壁を抜けて北東4ブロックへ)  第二行動方針:ガウルンの首を取る  第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す  最終行動方針:ユリカを生き返らせる  備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。  備考2:謎の薬を3錠所持  備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可  備考4:ゲッタートマホークを所持】 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス  パイロット状態:若干の疲れ  機体状態:全身の装甲に損傷、両腕・両脚部欠落、EN残量20%、自己再生中(コックピットの完全修復まで残り数十分程度)  現在位置:E-7 北東部  第一行動方針:ナデシコの捜索、AI1のデータ解析を基に首輪を解除  第二行動方針:他参加者の機体からエネルギーを回収する  第三行動方針:サイバスターとの接触  第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒  第五行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい?  最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る  備考1:アインストに関する情報を手に入れました  備考2:首輪の残骸を所持(六割程度)  備考3:DG細胞のサンプルを所持  備考4:機体の制御はAI1が行っているので、コックピットが完全に再生するまで戦闘不能】           □ 「俺達にナデシコにブンドルさんの仲間にユーゼスのおっさんとアキトさん。へへっ、なんかイケるんじゃないかって気がしてきたぜ!」 ユーゼス達と別れた後、基地から北部の市街地へと針路を変えて進む二人。 甲児は純粋に仲間が増えたことを喜んでいるようだ。しかしブンドルは彼とは逆に、喉元に棘が刺さったような気分だった。 「……甲児君。彼らのことをどう思う?」 「どうって……頼もしいじゃねえか。見た目はともかくユーゼスさんはすげえ頭がいいぜ。光子力の理論をちょっと話したらスイスイ理解してた。  ゲッターロボのエネルギー……ゲッター線とかってのも、ここに来てからの調査だけでだいぶ深く理解してたみたいだしよ。  アキトさんはなんか殺し屋みたいで……ま、まあ頼りになりそうだよな。ブラックゲッターっつーあの機体だって、俺が見たゲッターは強かったぜ。  一人乗りってことは変形とかはできないんだろうけど、どう見ても戦闘用だったしな。あの化け物を倒すのに大きな力になるぜ、きっと!」 甲児は微塵も彼らを疑っていない。その純粋さが彼の美点でもあるのだが、ブンドルはそう甘く考えることはできなかった。 基地の情報や首輪を解除しようとしていること、何より自分たちをあっさり見逃したことから、たしかに戦いに乗ってはいないのだろう。 だがどうにも―――信用しきれない。 これはドクーガ情報局局長として裏の世界を嫌というほど見てきたからこその勘なのだ、甲児に理解できるはずもないが。 表面的には友好的なユーゼス。寡黙だが内にガウルンへの激烈な殺意を抱えたアキト。 アキトはまだいい。大事な誰かを殺されて、復讐に走る。理解できないことではない。 ギンガナムのように、暴力に訴えるタイプなら制御するのは容易い。だからこそガウルンの情報を与え、矛先が万一にもこちらへ向かないように仕向けた。 だがユーゼスは違う。 言葉は穏やかながらも、仮面の奥にある瞳は冷徹にこちらを観察していた気がする。 人を見る目ではなく、フラスコの中の液体を、檻の中を走り回るネズミを、それらが起こす変化を機械的に観察している……そんな印象を受けた。 何より、サイバスターだ。 彼がサイバスターを自身に預けないか、と言ったとき。この機体―――機体に宿る精霊―――は、拒絶の意をブンドルに送ってきた。 こいつにサイバスターを委ねてはいけない。漠然と思っていただけのブンドルを、その意志は強く後押しした。 ユーゼス・ゴッツォは、今はまだ信頼すべきではない。ブンドルはそう決めた。 だからこそ同行の申し出を断り、ナデシコの行方もぼかしたままにしようと思ったのだが。 そこで甲児が介入してきたのは計算外だった。共に過ごした時間は長くないものの、多少なりとも理解できた彼の性格を考えれば予測できたことではあったが――― (私は、手を指し損ねたのかもしれん) その思いを抑えられなかった。もし彼らが戦いに乗っていて、自分達から情報を引き出すために友好的に接したのだとしたら……ナデシコが危うい。 急ぐ必要がある。この位置からなら彼らがナデシコと合流するより、自分達がアムロと―――願わくばアイビスとも―――合流する方が早いはずだ。 こちらが大きな集団となり、彼らより先にナデシコと接触する。 勘という曖昧な理由しか示せない自分よりも、人の意志を感じ取るニュータイプたるアムロならユーゼスの真意を看破できるかもしれない。 (どのみち、もう一度彼らと接触する必要があるか。こんなものを見せられては、な) モニターに表示されるデータを見て嘆息する。 首輪を解析した結果だ。ユーゼスがあの基地で解析したものらしい。 脱出の際のどさくさで一部が破損したらしく、そのデータは不完全なものらしい。復旧に全力を挙げているとのことだったが、信用できたものではない。 なんとなれば自分に都合のいいように改竄したものかもしれないのだから。 しかし首輪の解除が脱出の絶対条件なのだ、不完全とはいえこのデータを導き出したユーゼスは不可欠な人材ということになる。 これを見せることで、ある程度ブンドルの行動を誘導する。上手いな、と思った。 アムロならこのデータからでも首輪解除の糸口を掴むだろうか? パイロットとしてではなく技術者としての彼に期待することにしたブンドル。 「甲児君、少し急ごう。我々も予定を早めなければならん」 「え? ああ、まあいいけど。……あ、だったらストレーガをサイバスターにのっけてくれよ。その方が速く移動できるはずだぜ」 「却下だ。もし敵に奇襲を受けたとき共倒れになっては目も当てられん。何よりこのサイバスターの上に乗るなど美しくない」 「ちぇっ。ストレーガじゃサイバスターについてくのだって一苦労なのによ……」 愚痴る甲児に微笑を返し、ブンドルも気を引き締める。 既に30人以上の命が失われ、基地でもまた幾人かがその命を散らしたという。他にもこの広大な世界で理不尽な死を迎えた者がいるだろう。 ガウルン、基地を壊滅させたという殺戮者。いずれ討伐に赴かねばならない。 ここから先は一手の打ち損じも命取りになる。ギンガナムの時のように、目前でむざむざと仲間を失うことはもう二度と許さない。 「サイバスター、我々を導いてくれ……この世界を壊し、あの醜悪な主催者を断罪するために」 サイバスターの応えはない、だが構わない。仮初とはいえ、今だけはブンドルがこの美しき白鳥の操者なのだから。 蒼穹を風と雷が駆け抜ける。その行く先に待つのは、果たして――― 【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)  パイロット状態:良好(主催者に対する怒りは沈静、精神面の疲労も持ち直している)  機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊 ビームナイフ所持  現在位置:E-6  第一行動方針:他の参加者との接触  第二行動方針:中央の市街地へ向かいアムロと合流、その後E-1へ。可能ならナデシコと合流  第三行動方針:サイバスターが認め、かつ主催者に抗う者にサイバスターを譲り渡す  第四行動方針:閉鎖空間の綻びを破壊  最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ  備考1:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能  備考2:空間の綻びを認識  備考3:ガウルンを危険人物として認識  備考4:操者候補の一人としてカミーユに興味  備考5:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】 【兜甲児 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)  パイロット状態:良好  機体状態:右肩に刺し傷、各部にダメージ(戦闘に支障無し)  現在位置:E-6  第一行動方針:ブンドルに同行  第二行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める  最終行動方針:アインストたちを倒す 】 【二日目 11:00】 ---- |BACK||NEXT| |[[最後まで掴みたいもの]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[揺れる心の錬金術師]]| |[[交錯線>交錯線(1)]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[遺されたもの]]| |BACK||NEXT| |[[最後まで掴みたいもの]]|ユーゼス|[[天使再臨]]| |[[最後まで掴みたいもの]]|アキト|[[天使再臨]]| |[[風と雷]]|ブンドル|[[破滅の足音]]| |[[風と雷]]|甲児|[[破滅の足音]]| ----

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