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怒れる瞳(2)」(2009/03/23 (月) 21:14:06) の最新版変更点

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     □ 『くっそ、また誰か来るのかよ! どうなってやがるんだ!』 一方、ナデシコに残ったバサラの目は近づいてくる頭のない機体――ガナドゥールを捉えていた。 戦闘区域を迂回し、ゆっくりと近づいてくる。その身体は今にも倒れそうなほど傷ついている。 目視で見える距離に入った。オモイカネに通信回線を開くことを求めた。 『そこの機体! おまえはナデシコに用があるのか?』 「……ええ、そうよ。あなたはナデシコの代表かしら?」 返ってきた声にバサラは息を呑む。この声―― 『比瑪? お前、宇都宮比瑪か!?』 そう、聞こえてきた声は目前で命を落とした宇都宮比瑪、そのもの。 バサラはその眼でしかと見ていた。彼女が高熱に焼かれ消滅する瞬間を。だからそんなはずはない、わかってはいるのだが―― だからと言って芽生えた希望を幻想と切り捨てることができるほど老成してもいない。 「比瑪? いいえ、私はソシエ・ハイムよ」 もちろん、それは幻想でしかなかったのだが。 声は同じでも、違う。やはり比瑪は死んだのだ。 落胆するバサラ。が、何にしろ対話の機会には違いない。 『俺は、熱気バサラ。ナデシコの代表ってわけじゃないが、今ここにいるのは俺だけだ』 「そう……私達はナデシコと戦うつもりはないわ。状況を教えてもらえる?」 手短に説明する。 「ねえ、ナデシコは動かせないの? ここに留まってちゃ危ないわ」 『やってるんだが……出力が上がらねえんだ。一旦どこかに下ろして修理しなきゃならねえらしい』 オモイカネの示すセルフチェックの結果を見やる。戦艦の状態など門外漢のバサラだが、無理をすれば艦そのものが崩壊するだろうということはわかる。 ナデシコはここから動かせない。離脱するためにはナデシコを放棄するしかないということだ。 悩む二人。だが、事態は更なる役者を呼び込んだ。 けたたましく鳴るアラーム。レーダーにいきなり映し出された機影――2。 『またかよ!』 「ちょっと、アレ見て!」 ソシエが示す方向、空間が一瞬ぐにゃりと歪む。 発光、それが収まったときそこにいたのは雷の魔女、ストレーガ。そしてアンチボディ、ネリー・ブレン。 二度目のバイタルジャンプを敢行した彼らは、首尾よくナデシコそのものへと転移を成功させた。 「ナデシコ! 俺だ、甲児だ! 誰か応答してくれ!」 向かい合うナデシコとストレーガ。ネリー・ブレンは周囲を警戒するように剣のような武器を構えている。 「……仲間?」 『ああ、知り合いだ。――甲児、つったか。俺は熱気バサラ。さっきは世話になったな』 「お前……喋れるようになったのかよ! 良かったじゃねえか! これでまた歌を……あぁ? ああ、わかってるよ!」 バサラに応対した少年、甲児。声を聞いただけで脳天気そうなやつだとソシエは断定した。 彼は途中で誰かに話しかけられたかのような言動を見せた。 「バサラ、話は後だ。一体何がどうなってるんだ? ナデシコは大穴が空いちまってるし、向こうでは真ゲッターが戦ってる。そいつは誰だ? 何があった?」 『ああ、説明する。……っと、そうだ、この頭のないやつはソシエってやつが乗ってる。敵じゃない』 「ソシ「ソシエ!? 無事だったんだ!」 甲児の声に被さり、また新たな声。甲児と同乗しているらしい。 この声を、ソシエは知っている。 「キラ!? あ、あんた何でそんなとこにいるのよ!」 「色々事情が……」 「キラ、そういう話は後だって。今は状況に対応する方が先」 また、知らない声。今度は女の声だった。 「私はアイビス、この子はネリー・ブレン。挨拶はいいから、手短に答えて。――フェステニア・ミューズはいる?」 おそらくソシエとさほど変わらない年の頃の少女が問いかける。そう、それはソシエも気になっていた。 彼女が知るままのテニアなら、この混沌とした状況を見逃すはずがない。 「そうだ、テニア! キラ・ヤマトを連れて来たんだ! さあ、いっちょ言ってやれ! この嘘つき野郎めってな!」 「僕は嘘なんかついてない!」 「もう、二人とも黙って! ――どう、テニアはいるの?」 何やら言い合いを始めたキラと甲児を置き去りに、アイビスが怒鳴る。 唯一その答えを知っているであろうバサラは―― 『――テニアってやつは、もういない。ナデシコを襲ってきた奴と一緒に、どっかに行っちまったよ』 おおよその事情を察したバサラは、努めて感情を込めず呟いた。 テニアのことを説明するということは、甲児に比瑪のことも言わなければならないと――そういうことだから。 『俺はテニアってやつが何をしたか知らない。知ってるのは、ここで起こったことだけだ』 そして、覚悟を決めて語りだす。 ――俺達はちょっと前にテニアと合流した。基地で化けもんみたいなやつに襲われたらしい。 テニアと一緒に行動してたオルバってやつは、テニアを逃がすために残ったらしい。だから助けに行こうって言われたんだが……嘘だったんだと。 シャギアには、離れていてもオルバと自由に情報をやり取りする力があったそうだ。 だから途中でネゴシエイターと会ったことも知ってたし、――テニアが、自分が逃げるためにオルバを囮にしたってことも……わかったそうだ。 正直俺にはマユツバもんな力だが、ガロードも証言した。本当のことだってな。 で、シャギアはテニアを殺そうとした……そのときテニアは、比瑪を人質にしたんだ。 比瑪はテニアの話を聞こうって言った。俺も、できれば止めたかった。 その次に、シャギアがぺガスを使って比瑪を助けた。 人質の比瑪を離して、シャギアがテニアを殺そうとして――そこで、さっきの話の、ナデシコを襲ってきたやつだ。 俺達はみんな格納庫にいて、接近に気付かなかった。先制攻撃を受けて、ナデシコは揺れたんだ。 あれは……防げなかった。シャギアの銃口の前に、比瑪が投げ出されたんだ。止められなかった―― ――宇都宮比瑪は死んだ。シャギア・フロストの手で―― バサラはそう締め括った。 『今、シャギアとクインシィってやつが襲ってきた別のやつらと戦ってる。ナデシコはここを動けない。――ざっと、こんなところだ』 「そんな……嘘だろ? 比瑪さんが、死んだ? 嘘だろ……嘘って言えよ、なぁ!」 『嘘じゃねえッ! 俺だって信じたくはねえ、でも……!』 「お前、歌で戦いを止めるって言ってたじゃねえか! なのに、どうして!  どうしてテニアを止められなかったんだよ! どうしてシャギアさんを止められなかったんだよ! ――どうして、比瑪を助けられなかったんだよ……!」 『……ッ!』 「どうして、」 ぐっと、バサラは臍を噛む。それこそ正に、自分が思っていたことだから。 歌で戦いを止めるなどと言って、結局何もできやしなかった。 尚も言い募ろうとする甲児。だが、パァン――と、その口が開かれる前に音が響く。何かを叩いたような。 「甲児、後にして。今は敵を撃退する方が先だ」 「てめえ、キラッ! お前に何がわかるってんだ!」 「君の悲しみはわからない……僕は、その比瑪っていう人を知らないから。でも、今しなくちゃいけないことはわかるよ」 「そうだよ、甲児。シャギアさんとクインシィさんを助ける。でしょ?」 「アイビスさん……」 「ええ、今はロジャー達が抑えてくれてるけど、実際不利なのはナデシコを抱える私達だわ。数で勝ってるんだから、一気に押し切りましょう!」 キラ、アイビス、そしてソシエが言う。甲児の仲間を、シャギアを助けに行こうと。 なら、シャギアの最後の仲間である甲児のやるべきことは、決まっている。 「――――ああ! 今はシャギアさんを助ける! 小難しい話は後だ……!」 正義の魔神。その操者にふさわしく、熱き怒りの嵐を胸に、悪の炎を全て根絶やすまで――兜甲児は屈しない。 『お前ら……へへっ、そうだな。よぅし……!』 ブリッジの中央に立ち、相棒のギターを掻き鳴らす。 さっきは届かなかった。だが、膝を折ることはしない――今度こそ届けてみせる。この戦場に、戦う者たちに。 さあ、舞台は整った――熱気バサラ、ファイアーボンバーのボーカルにして銀河に響く歌声の持ち主がやることは唯一つ! 『戦いなんざくだらねえぜ! 俺の歌を、俺達の歌を――聴けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!』 機械の音声? 肉声じゃない?――そんなことは問題じゃない。 大事なことは。この胸に熱く燃える、ギラギラした魂を吐き出すこと。 だから、聞け。そして更に聴け。 熱気バサラ、一世一代の熱血ライブを――!! ナデシコの全スピーカーを開放。 オモイカネが、ベース、ドラムやキーボード――ミレーヌやレイ、ビヒーダ。仲間たちの代わりにサポートしてくれる。 エリア丸ごと、戦場に響く歌声。突撃ラブハート――最高にノれるナンバー。 当然、至近距離にいる甲児たちには凄まじい音量だ。 「……え、ちょっと。なんで急に歌い出したのよコイツ……!?」 「いいじゃねえか。景気付けだ……チクショウ、俺も燃えてきたぜ――ファイヤーッッ!」 「うん、いい歌。心の底から勇気が湧いてくるよ」 「そうだね……なんでもできる、そんな気になる」 ソシエだけがノリ切れていないようだ。なんか悔しい――だから叫ぶ。 「ええい、もうっ! やってやるわよ……ボンバーッッ!」 『ハハッ、お前らも中々ノリがいいじゃねえか! うっし、ドンドン行くぜ! ――っと、そうだ、キラ、だったか?』 「え、うん。キラは僕だけど」 『お前、アスランってやつを知ってるか?』 「アスラン……!? あなたはアスランに会ったんですか!?」 『ああ。そうか、お前があいつの言ってた……へへ、変なもんだな。あいつじゃなくて、俺がお前に会うなんてよ』 「はい……。バサラさん、ここを乗り切ったらアスランのことを話してくれませんか? 僕は……会えなかったから」 『おうよ! ――じゃあ、次のナンバーはこれだ!』 一曲歌い切り、バサラが次に選んだ曲――それは葬送曲。 かつて友が逝ったというアスランに送った、死者へ手向ける鎮魂歌。 だが今は意味が違う。死者を送るためのものではなく、死地に赴く者の標となることを願って。 アスランが聴いたというその歌を背中に受け、少年たちは戦場へと向かって行った。      □ 「この歌は……?」 一人取り残されたロジャー・スミス。戦いを止めることも、また加わることもできずにいる。 今の彼にはどちらも資格がない。 ガロードを守るべく奮闘するクインシィ。 ユリカを殺されたガイ――アキト。 オルバを殺されたシャギア。 そしてその両方の原因たるガウルン。 この四者には確固たる意志がある。 その意志のないロジャーには、あの戦いに参加する資格がない。だから、こうしてガロード・ランの救助にあたっている。 意識のないガロードをパイルダーから引っ張り出す。 幸い、目だった外傷はない。頭部から出血しているものの深手ではなく、気絶の原因は脳震盪だろう。 手早く処置を済ませ、意識のない彼を担いで凰牙へと戻る。ナデシコへと移送しようと機体を回した時、「それ」は聴こえてきた。 銀河に響く、生命の歌。 プロトデビルン――神話の怪物すらも退ける、熱い魂の連なり。 おそらくはこのエリアすべて、いやもしかすればそれ以上の範囲に響き渡っているだろう。 中心はナデシコだ。言うまでもなく目立つ――その弊害など考えもしていない。ただ望むまま、思うがままにその存在を叫んでいる。 ロジャーには既にない若さ。それがひどく羨ましい。 ナデシコの方角から三機の機動兵器が飛来していくのが見える。 その内の一機はガナドゥール、つまりソシエだ。行く先……シャギア達が戦っているところ。 援護に行くつもりなのだろう。無茶な、と声が漏れる。 見たところ、一番大きな機体でもガナドゥールと黄色の機体がせいぜい24、5m。青い小型機にいたっては13mほどしかない。 ヴァイクラン、真ゲッター、ブラックゲッター。三機のパワーとは比較することすら無駄だろう。 唯一同サイズといえるマスターガンダムは、乗り手が恐ろしく腕が立つ。ソシエ以外は誰が乗っているか知らないが、それでもあの男以上とは思えない。 ガロードを乗せ、パイルダーを抱えて立ち上がる。彼をナデシコに送り届けた後、自らも向かわねばならない。 騎士凰牙が走る。ややあって、ナデシコの目前というところまで来てレーダーが東に新たな機影を告げる。 対岸を仰ぎ見る。ガウルンとともにいた少年が頭をよぎる。彼だろうか? 「……なっ!?」 そして、現れたのは巨大な隻腕の天使。凰牙の2倍近いサイズ――真ゲッター並。 その名はラーゼフォン。機械仕掛けの神――にして、進化するプログラム、その苗床。 いかん、と頭の中でレッドランプが鳴る。ガロードというケガ人を抱えて相手のできる大きさではない。 天使は長大な剣を携えている。見覚えがある――青い騎士の剣。 ということはあの少年、ひいてはガウルンの仲間。いよいよ持って最悪の状況に追い込まれたらしい。 せめてもの抵抗として身構える。すると、天使は50mほどの距離で停止した。 「警戒するな。こちらに戦闘の意志はない」 通信。 安堵――いや、まだ早い。見極めてからだ。 「私はロジャー・スミス。そちらの名と、目的を確認したい」 「これはこれは、Mr.ネゴシエイターか。会えて光栄だ――私はユーゼス。ユーゼス・ゴッツォ。目的はナデシコの援護だ」 映像は仮面の男を映し出している。怪しいことこの上ない……が、先に仕掛けてこなかった以上ここで行うべきは交渉だ。 「状況は理解している。ガウルンなる男を排除するのだろう? 協力しよう」 「……感謝する。しかし、敵はあの男だけではない。ガイ――いや、テンカワ・アキトという男にも仕掛けられている。こちらの無力化もご協力願う」 「テンカワ――なるほど、了解した。しかし、それならナデシコをここから離脱させるべきではないか? あのような目立つことをしていてはガウルンの目を引くぞ」 天使は歌い続けるナデシコを指し示す。が、すぐにその右舷に空いた大穴に気付いたようだ。 「なるほど、あの損傷で動けないという訳か。……それなら、私が向かって何とかしよう。君はガウルンを頼む」 「できるのか?」 「造作もない。援護はできんが、構わんな?」 「ああ。そうだ、ついでに彼を頼む」 コクピットを空け、ガロードを引っ張り出す。天使は意を察したか掌を伸ばしてきた。託す。 「頭を打っている。慎重に扱ってくれ」 「了解した」 これで身軽になった。 見据えた彼方では更に戦闘が激しさを増している――いや、何かおかしい。 望遠。真ゲッターが、増援の三機の内の一機を攻撃している! 「馬鹿な……何をしているのだ!?」 「行け、ネゴシエイター! ナデシコは私に任せろ!」 ユーゼスの後押し。今は逡巡している暇はない。 「すまん、頼んだ……!」 だからロジャーは彼の言うとおり戦場へ向けて駆けだした。 背中で、ニタリと嗤う仮面の悪意に気付かずに。      □ 「クインシィ、後ろだ!」 「わかっている! 弾幕を絶やすな!」 真ゲッターの振り下ろす大鎌を、ブラックゲッターの戦斧が受け止める。 その背後から飛びかかるマスターガンダムは、ヴァイクランの放つ光弾が弾き飛ばす。 ゲッターロボ同士の鍔迫り合いは、黒い戦鬼に軍配が上がる。一人が駆る一人乗りと、一人しかいない三人乗りの差。 ゲッターサイトが弾かれる。だがその瞬間にチャージが完了。 「ゲッタァァァビィィィィィイイムッッ!!」 クインシィの咆哮とともに、幾条ものゲッター線を凝縮した光線が放たれる。 ブラックゲッターはトマホークを縦横無尽に振るい、ビームを迎撃する。 やはり同じゲッターを扱う者同士、手の内はわかるようだ。 後退する。背にヴァイクランを置き、右手にはブラックゲッター。左手にはマスターガンダム。 強い――。それがクインシィの実感。 敵手のみならず、後ろの男もかなりの使い手。 実際単騎で戦えば、真価を発揮しきれない真ゲッターでは荷が重い相手ばかりだ。 ブラックゲッターはビームこそ撃ってこないものの、単純な格闘能力は真ゲッター並。 マスターガンダムは凄まじい機動性を武器に、虚々実々の動きを見せる。 唯一味方であるところのヴァイクランは強固なフィールド、そして甚大な威力の砲撃を放つ。 そして例外なく一流、いや超一流の乗り手ばかり。 クインシィは自らの技量が彼らに劣るとは思ってはいないが、ゲッターロボの本領たる変形戦法を封じられて攻め手に欠けることを、認めずにはいられない。 そして驚くべきことに、ブラックゲッターとマスターガンダムは特に共闘していないのだ。どころか隙あらば互いに刃を、拳を送り込んでいる。 それでいて、組んだこちらと対等。 並々ならぬ技量。改めて心中に刻みつける。 「いやぁ……楽しいねぇ。俺ぁ楽しすぎて狂っちまいそうだよ。お前もそうだろ、アキトちゃぁ~ん?」 「黙れ」 「おうおう、つれないねぇ。じゃあアンタはどうだい、姉ちゃん。飛び入りだが中々いい腕してるなぁ」 「貴様の賛辞などいらん」 「なんだぁ……振られちまったか。まったくノリが悪い――ん?」 無駄口を叩くガウルンに構わず、何十回目かの攻撃をかけようとしたときにその歌は響いた。 がなり立てるスピーカーを黙殺しモニターを横目で睨みつける。発信源はナデシコだ。 あのトンガリ眼鏡――準備とはこのことだったか。 「お、BGMとは中々気が利くねぇ。よし、あいつを殺すのは最後にしてやろう」 などと楽しげにほざくガウルン。その声は喜色に溢れている。 戦いを遊び場にしているような男に負けるわけにはいかない――より一層精度を増した砲撃から、後ろの男も同じ考えだと確信する。 シャギアに手振りで指示を送る。即席のコンビだが、この男は見事に対応してくる。まるでペアでの戦闘が専門分野だというかの如く。 頷いたシャギア、こちらも頷き返し、突撃「やいやいやいやい! おめえらの乱痴気騒ぎもここまでだ!」を開始――何? 見れば、シャギアも困惑顔。カメラを回せば新たに現れた三機の影。 黄色い機体――ガロードが乗っていた機体だ。青い、頭部のない機体――見覚えがあるようなないような。 そして、最後の一機。 息が止まる。 クインシィは知っている。そう、あの機体は…… 「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!悪を倒せとこの兜甲「――ユウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウゥゥゥゥゥゥゥゥウゥウゥゥゥッッッツッッッッッ!!!!」 目前の敵手のことも、背中を守る男のことも、あるいはガロードのことさえも。全てが彼方に吹き飛んで行く。 あのブレン。あの青いブレン――伊佐美勇、弟の駆るブレン! 身体が軋むほどの速度で宙に飛び出す。向かう先はネリー・ブレン。 「うあああああああああああああああァァァッッ!」 巨体にモノを言わせ、機体ごと叩きつける力任せのパンチ。だがスピードが尋常ではない――ブレンなど、掠っただけで木端微塵。 「アイビスッ!」 クインシィの知らない声。ブレンに到達する直前、視界をプラズマが駆け抜ける。 腰のあたりに着弾。姿勢制御が崩れ、拳がブレンパワードを捉えられず。 黄色い機体が腕を掲げている。邪魔をした――敵だ。 「ちょっと、待ってよ! アンタ一体何のつもり!? あたしはアイビス、勇なんて名前じゃ」 「うるさいッ! ユウを……ユウを出せッ! 私の、ユウを……返せぇぇぇぇッッ!」 真ゲッターは止まらない。クインシィの激情そのままに、ネリー・ブレンへと打ちかかっていく。 再びのパンチ。 「甲児!」 「わかってる!」 が、黄色い機体が割り込んで来る。 そいつはサイズは真ゲッターの半分ほどのくせに、ガッチリと真ゲッターのパンチを受け止めた。 「甲児君! 無事か!?」 シャギアの声が飛ぶ。先程の名乗りは間違いなく兜甲児だった。 これ以上失う訳にはいかない駒――仲間。 「……え、うん。わかった、甲児は操縦に専念して――こちらはキラ・ヤマト。シャギアさん、聞こえますか」 だが、甲児の機体から返ってきた声は甲児のものではなく。 「キラ――ヤマト!? なぜそこにいる!」 「詳しい話は後です。僕は戦いに来たわけじゃない――それだけは確かです!  それより、クインシィさんは一体どうしたんですか!? 勇って誰のことです!?」 「……知らん! ガロードの話では彼女の弟らしいが、ここに来ているかどうかすら不明だ!」 「だったら、彼女を止めてください! このままじゃ……!」 「そうしたいのは山々だがな……ッ!」 「よそ見してんじゃねぇよッ!」 ヒートアックスが投擲された。シャギアは慌ててフィールドを展開する。 そう。ガウルンが、ヴァイクランの離脱できる時間を与えないのだ。 「大変だなぁ。お仲間が助けに来たかと思えば、さっきまで組んでた相棒がイカれちまって。  肝心の自分はまた一人ぼっち――んん~、カワイソウなシャギア君! お兄さんが慰めてやるよぉッ!」 「この――狂人め!」 「褒め言葉だぜ、兄ちゃん――っと! アキトぉ~、お前さんもしつこいねぇ。俺としちゃあ嬉しいんだがよぉ」 「……」 背後からのトマホークブーメラン。だがマスターガンダムは、一つを蹴り落とし一つをその腕で掴み取った。 もはやガウルンの軽口に付き合う気はないのか、無言で距離を詰めに来たアキト。 マスターガンダムの腕が閃き、手斧が唸りを上げてヴァイクランを襲う。 最後のガンスレイヴで撃ち落とす。その間にガウルンは離脱――その手には放り出されていた大鎌。 ブラックゲッターの一撃をゲッターサイトで受け止めるマスターガンダム。 隙がない。やはり、この機体ではアキト、ガウルンは同時に捌ける相手ではない。 舌打ちする、シャギア。 背後で物音。咄嗟に機体を回すも、そこにいたのは騎士凰牙、ネゴシエイターの機体。 騎士凰牙はシャギアの横をすり抜け、アキトの駆るブラックゲッターの前に立ちはだかった。 「シャギア、こちらは任せろ。君はガウルンを頼む」 「ネゴシエイター……戦う気になったのか?」 「私とて、子ども達を戦わせておいて涼しい顔でいられるほど腐ってはいない……それだけだ」 ヴァイクランと騎士凰牙、背中合わせに立つ。 ともあれ、これで一対一対一から一対一が二組へ。少しは余裕のある戦いができる。 「ガイ――いや、テンカワ・アキト。君は私が止めるよ。ユリカ嬢のためにも」 「言ったはずだぞ。貴様がユリカの名を口にするな、と」 「チッ、ネゴシエイターめ。いいところで水差しやがる……まあいい。アンタにもそろそろ飽きてきたんでな、死んでもらうぜ」 「やれるものならやってみるがいい。返り討ちにしてくれる!」 クインシィ対アイビス、甲児、キラ、ソシエ。 アキト対ロジャー。 ガウルン対シャギア。 役者は集い、相手を替えて戦いは続く。バサラの歌だけが変わることなく流れていく―― →[[戦場に響く歌声(1)]] ----

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