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貫け、奴よりも速く」(2009/05/21 (木) 22:57:19) の最新版変更点

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辺りに動体反応がないことを確認し、キョウスケはステークの薬莢を排出した。 撃発し役目を終えた弾丸が地に落ち、新たに生成されたそれが装填される。 熱を持った弾丸が散乱するインベーダーの体液を焦がす。 見渡せば、死屍累々と言った風情で不定形の異形がそこかしこに積み重なっている。 他愛もない。 キョウスケにとってインベーダーの脅威とはその程度の印象だった。 数は多いが、一体一体の力はそれほどでもない。否、この機体の力をもってすれば脆弱とすら言える。 基地で相当数のインベーダーを屠ったが、あの程度では進化を行うには全く足りない。 インベーダーは単体ではさほどの力を持たず、機械と融合してこその真価を見せる。 もっと強く、激しい力。そんな力とぶつかり合わなければ今以上の力を得ることはできない。 かくして、キョウスケ・ナンブ――アインストの端末となった孤狼は敵を求めて静かなる行軍を続けていた。 思い出すのは基地での戦闘が終結した後、会場中心辺りから放たれた光。 波のように駆け抜けた波動は力を持たないインベーダーを消滅せしめ、キョウスケに一つの方針を与えた。 余波にしか過ぎないそれが会場中に影響を及ぼしたという事実。 離れた所にいた自分にさえ届いたあの力。 今戦えば敗北するかもしれない――もしその爆心地にいれば、あの光を直接叩き付けられれば。 力が必要だ。更なる力、何物をも撃ち貫く力が。 中央に向かうのは今ではない。経験を積み、進化を遂げなければ確実な勝利は得られない。 しかし時間の経過による進化を待つ余裕はない。創られた空間の崩壊、その時間は刻一刻と近づいている。 だからこそ、動いた。基地を出て、目に映るインベーダーを片端から砕きながら進む。 だが足りない……ステークの一撃で、踏み出す足の一撃で、容易く砕ける程度のインベーダーをいくら相手にしたところで糧にはなり得ない。 光の影響で、単体で存在を維持できないインベーダーはほぼ消滅した。 敵が減ったことにより道行きの幅は減った。 期待するべきは運よく打ち捨てられた機体に取り付くことができた個体。 何もない平原よりも、施設あるいは市街地の方が可能性は高い。 基地が潰えた今、向かうは南部に位置する市街地。 転進し、常人では身体が先に悲鳴を上げるほどの速度で突き進む。 視界に建造物の影が見えたところで停止した。 ――いる。 廃墟の街の中に、とても大きな力が存在しているのを感じる。 取り立てて感知能力に優れているわけではないこの器にすら感じ取れるほどのプレッシャー。 キョウスケは口の端を吊り上げて街に踏み入った。      □ 無数の戦闘機が、編隊を組んで突っ込んできた。 ゲシュペンストMkⅢが左腕のマシンキャノンを乱射する。 閃く火線がいくつもの火球を生み出し、しかしその光の中から次から次へと後続の機体が飛び出てくる。 実弾では埒が開かない。一機ずつ砕くのではなく、編隊ごと消滅させなければ数を減らすことはできない。 ディバイデッドライフルをチャージ。 戦闘機が放つ光線はビームコートと厚い装甲に阻まれ意味を成さない。 目前まで迫った戦闘機の機首にライフルを叩きつけ、発射。 凝縮された熱が解放され、溢れるエネルギーを存分に供給したライフルを横薙ぎに振るう。 射線軸上に合ったビルが撫で切りにされ倒壊していく。 濛々と上がった土煙りの中、蒼い巨人だけが屹立する。 目についた戦闘機はあらかた排除できたが、キョウスケが感知した脅威はこんなものではない。 街の中心へと足を向ける。これらの戦闘機は市街地に入ったキョウスケを迎撃しただけだ。 本命はこの先。機体のコンディションを確認し、問題ないと全速で突き進む。 やがて視界に大きな影が見えた。 恐竜の頭を持ち、力強く大地を踏みしめる四足。 中心に要塞の身体を持つ、巨大なメカザウルス――無敵戦艦ダイ。 良く見ればその片方の頭や足は黒く硬化したインベーダーが補っている。 命尽きたダイとアムロの放った光によりダメージを負ったインベーダー。 利害は一致し、生き返る/生き延びるために融合した両者。 メカザウルスとインベーダー。共にゲッター線を天敵とするモノ同士の、本来あり得ない合一。 言わばメタルビースト・ダイは、とあるガンダム以上親和性を見せ、ここに誕生した。 400mはあろうかという巨体を前に、キョウスケは歓喜に打ち震えていた。 これほどの敵がまだ残っていたという幸運。それと戦い、撃ち破れるという自信。 恐竜がその口から何十機もの戦闘機を吐き出す。一機残らずインベーダーと融合した恐竜ジェット機。 数の不利は構わない。むしろ力を発散できる対象が増えて望むところだ。 ダイの主砲がゲシュペンストMkⅢを照準した。一門一門がこのゲシュペンストMkⅢ並の大きさ。 それが撃たれる前にスラスターを展開し、メカザウルスの頭部目掛けて突っ込んでいく。 如何に自機の装甲が厚いとはいえ、あのサイズの砲弾をまともに食らえばそこで終りだ。 轟音とともに放たれる砲弾を掻い潜る。 その過程でいくつかの戦闘機をも撃ち落とされていく。同胞という概念はないようだ。 味方に落とされても同様の気配を見せず群がる戦闘機を撃ち落とし、殴り付け、握り潰す。突進の勢いは些かの衰えもない。 大きく開いたダイの口腔にクレイモアを叩き込む……その刹那。 横合いから凄まじい衝撃を受けてゲシュペンストMkⅢは吹き飛んだ。 廃ビルに叩き付けられ、深く埋め込まれたゲシュペンストMkⅢ。 衝撃は物理的な威力となって操縦席のキョウスケにも牙を剥く。DG細胞、そしてアインストの力がなければ即死していたほどの圧力をなんとか堪える。 衝撃の来た方向に視界を巡らせれば、そこにいたのは白いモビルスーツ。 RX-78ガンダム――連邦の白い流星アムロ・レイが駆り、この戦場では巴武蔵の乗機だった機体。 コクピットに空いた大穴をインベーダーの黒で埋め、トリコロールカラーではなくなったガンダムの腕の先には巨大なハンマーがあった。 どうやらあれを喰らったらしいと、思考する間にもガンダムはハンマーを振り回す。 増設されたブースターが火を吐き、豪速の鉄球が再びゲシュペンストMkⅢへと放たれる。 キョウスケはディバイデッドライフルで迎撃する。 だが速度の乗った巨大な質量体を止めることはできず、伸ばした左腕にハンマーがめり込む。 破砕音と共に左の肘までが持っていかれた。 停止したハンマーの鎖を掴み、引き戻される反動を利用してビルから一気に飛び出す。 加速し、ガンダムをクレイモアの射程に捉える。 だがトリガーを引き絞る寸前、背後から迫る熱源を感知した。 鎖を離し、横手へと直角に回避する。 直後、背後からキョウスケが一瞬前までいた空間へと龍の顎のような何かが喰らい付く。 虚空を引き裂いたそれは素早く引き戻される。その先、左半身をこれまたインベーダーで補った緑のガンダム。 そのインベーダー製の腕に握られた三又の槍から灼熱の粒子が迸る。 咄嗟にヒートホーンを起動。アルトロンガンダムの振り下ろすツインビームトライデントを受け止めた。 ステークをセット。同時に敵機も右腕のドラゴンハングを構える姿を視認。 示し合わせたように互いに一歩後退し、その一歩を改めて踏みこむことで加速する。 射出された龍の頭めがけてステークを叩きつける。 ゲシュペンストMkⅢの右腕を挟み込んだ顎が閉じられる前にステークを発射。龍が内部から杭を撃たれ、爆砕する。 そのままドラゴンハングの連結部分を掴む。 繋がった本体のアルトロンガンダムを手繰り寄せ、ゲシュペンストMkⅢは腰を落とす。 ヒートホーンを引っかけ、頭上へと打ち上げる。 クレイモアで破壊することもできたが、キョウスケはそれを選ばず機体を反転させて今まさにハンマーを投げんとしていたガンダムへと放り投げた。 何やら轟音が耳に飛び込み、縺れ合う二機から目を外してダイへと向き直る。 ダイはその巨体を疾走させつつ、主砲をゲシュペンストMkⅢへと向けていた。 戦闘機はともかく、あの機動性に劣る戦艦を守護する二機の機動兵器を失うのはまずいのであろう。 ゲシュペンストMkⅢが二機と離れた瞬間に砲弾が雨となって降り注ぐ。 テスラ・ドライブをフルパワーで稼働させ、鉄の嵐の中を振り切るように駆け抜ける。 誤射を恐れてかガンダム達の手出しはない。だがキョウスケにも、護衛を攻撃する余裕はなく回避に専念しなければならなかった。 視界に戦闘機が飛び込んでくる。自らも砲弾で傷つきながら、しかし怯むことなくゲシュペンストMkⅢ目掛け突き進んできた。 唯一の武装たる光線が効かないことは証明されている。 怪訝に思った瞬間、疑問は氷解した。 足を止めるスプリットミサイルやクレイモアは使えず、マシンキャノンがマウントされた左腕はそれ自体が既にない。 手の届く範囲外から急接近した戦闘機が減速する様子もなくゲシュペンストMkⅢへと体当たり――特攻する。 先のハンマーに比肩し得るほどの衝撃がキョウスケを襲った。 機体自身にさほど損傷はなかったが、移動方向と正反対のベクトルを受けて機体の足が止まる。 空白の一瞬、狙い澄まして残存する戦闘機が殺到する。 全方位から砲弾となって向かってくる戦闘機に押され、一歩も動けない。 連続する衝撃に鞠のように翻弄され、今立っているのか倒れているのかすらもわからなかった。 突破口を開こうと展開した左のクレイモアの射出口に、ピンポイントで飛び込んだ戦闘機が内蔵されたベアリング弾と誘爆する。 弾け飛ぶ左肩。至近距離での誘爆の衝撃はゲシュペンストMkⅢをあっけなく大地に叩きつけた。 歯を食い縛りつつ機体を立て直すキョウスケ。絶え間なく揺さ振られる身体は弛緩する余裕もなく固く張り詰めたままだ。 インベーダー風情に良い様に追い詰められていると、キョウスケではなくアインストとしての憤怒が胸を満たす。 怒りをどうにか噛み殺したとき、気付けば戦闘機の特攻が止んでいた。 ついに数が尽きたかと思ったが、それなら二機のガンダムが仕掛けてこないはずがない。 廃墟に照り返す光で辺りは紅く染まっている。 その朱色の中、ゲシュペンストMkⅢのいる地点のみが黒く染まっている。 ガンダムが遠巻きにこちらを眺めている。では、あの戦艦は――。 ズシン、と。 ダイの存在にようやく思い当ったとき、ゲシュペンストMkⅢに凄まじい圧力が圧し掛かった。 視界が瞬く間に暗くなる。機体が上から押さえつけられている――否、踏まれている。 全長約400m、重量約80000tの巨体。 無敵戦艦ダイの足が、動きの止まったゲシュペンストMkⅢを踏み付けているのだ。 砲撃を受けている時移動していたのは知っていたが、戦闘機の特攻で接近を感知できなかった。 知能を持たないインベーダーにしてやられた。またマグマの如き怒りが湧き上がってくる。 膝を着いた姿勢でスラスターを全開し、足を撥ね退けようとダイに抗う。 機体の各部からアインストのエネルギーが漏れ出し、紫電となって弾ける。 だが一パーソナルトルーパーとしては破格の高出力も、こうまで重量が違えばどうしようもない。 ゲシュペンストMkⅢの原型たるアルトアイゼンの重量は85.4t。 巨大化したとはいえ現在の重さは重く見積もっても100tあるかどうか。ダイとの重量比は800倍近い。 機体が地面へとめり込んでいく。 圧力が段々と増してきた。恐らくは一息に踏み潰せるはずだが、こちらが足掻く様子を楽しんでいるのか。 歯噛みし、手立てを探す。ステークを備える右腕は頭上へと掲げ落ちてくる天井を支えている。 左腕はなく、クレイモアは射角の問題で使えない。 残るヒートホーンでダイの足裏を焼き切っていくのだが、切り裂いた片端からインベーダーが補充していく。 埒が開かないと限界を超えてヒートホーンへと力を注ぐ。赤熱した角がダイを焼き切るのではなく蒸発させていく。 機体の各部から集中させたエネルギーはあと数分も持たない。 エネルギーが尽きるより先に脱出できるかと見通しが立った瞬間、静観していたガンダムが動く。 その腕にあるのはハンマーではなく、ディバイデッドライフル。 ハンマーを迎撃し損ねた後に取り落としたのだろう。ガンダムのサイズなら十分に規格が合う装備だ。 先端に光が灯る。このゲシュペンストMkⅢほどの出力はないにせよ、ビームコートを展開できない今あれをもらうのはまずい。 だが当然、ダイの足に押さえつけられている今対抗手段はない――その先にあるのは、死だ。 初めて感じる焦燥と恐怖、それをもたらしたのがインベーダーであるという屈辱に、キョウスケの中のアインストが震える。 やがてキョウスケの視界を閃光が満たす。 熱波に飲み込まれる瞬間――。      □ *&color(red){      ――貫け、奴よりも速く―― ◆VvWRRU0SzU}      □ 右腕が可動範囲を超えて回転し、ゲシュペンストMkⅢのクレイモアが地面を向く。 鉄鋼球が放たれ、舗装された大地へと突き刺さる。間を置かず炸裂、いくつかは跳弾しゲシュペンストMkⅢ自身を傷つけた。 ダメ押しにステークを撃ち付け、一瞬にして全弾を撃ち尽くす。 このD-7にて行われた戦艦同士の激戦、ダイのジャンプによる衝撃。 既にかなりダメージを受けていた地殻の表層部に、大した抵抗もなく大穴が穿たれる。 もちろんそれだけが原因ではなく、この市街地に元々地下道が存在していたという事実もあった。 ゲシュペンストMkⅢのいた地点が崩落する。当然、中心地にいたゲシュペンストMkⅢも落下する。 突如体重をかけていた足場が消失し、ダイがたたらを踏む。 ガンダムの放ったビームがダイの足を焦がす。巨獣が怒りに吠え、ガンダム――に取りついたインベーダーの個体が後ずさる。 だがダイがガンダムへと行動を起こす前に、メカザウルスの部分が痛みの叫びを上げた。 地下道から蒼い流星が飛び出し、ダイの横腹に突き刺さったのだ。 要塞部分に空いた大穴から噴煙が湧き出す。 二機のガンダムが押っ取り刀で追撃した。まさかあの蒼カブトが動けるとは予想していなかったため行動が遅れた。 接近したものの、ダイの内部と言う場所が場所だけに砲撃で炙り出すわけにもいかない訳にもいかない。 接近戦を得手とするアルトロンガンダムが先行し、煙を分け入って要塞内部へと侵入していく。 ガンダムはディバイデッドライフルを構え、出てきたところを狙い撃つ役割を取った。 一分が立ち、二分が過ぎた。 いつまで経っても敵機が、そしてアルトロンガンダムが出てこない。これは自らも突入する必要があると、ガンダムを支配するインベーダーが思考した時。 穴から何かが飛び出してきた。迎撃の構えを取ったガンダムだが、すぐにその必要はないとライフルを下ろす。 何故ならそれは機械との融合を解除したインベーダーだったからだ。 敵機を破壊した際、依代もまた破壊されたのだろうか。 そう思って自身に同胞を迎え入れようとしたとき、闇を裂いて走った銃弾がガンダムの目前で同胞を存分に引き裂いた。 警戒を強めるガンダムの視界に、再び蒼カブト――ゲシュペンストMkⅢが現れた。 だがその姿は最前のものとは違う。 肥大した四肢。重厚さを増したボディ。 各所に設置された推進機は大型になり、クレイモアも一回りそのサイズを増している。 背部のスラスターには新たにスタビライザーらしきものが取り付けられ、両肩にも同じもの、つまりはテスラ・ドライブを模して生成されたバランサーが新たに備えられている。 そして何より、その右腕――この機体の代名詞ともいえる鋼鉄の杭打ち機、リボルビング・バンカー。 ステークよりも威力を求めた結果辿り着いた答え。 機体のコンセプトでもあるそれはすなわり、巨大化だ。より大きければそれだけ威力が、強さが増す。 機体バランスなど考慮の外。 各所のバランサー・推進機とて、言ってみればこの大型の武装を扱うための補助に過ぎない。 巨大化に必要な二つの要素、戦闘経験と甚大なエネルギー。 戦闘経験は申し分なく揃っている。 ならばもう一方、エネルギーはと言えば、メタルビーストとなりインベーダーというエンジンを得たことでことで半ば意味をなさなくなったダイの炉心を取り込んだ。 武装が変わっただけでなく、そのサイズ自体も一回り大きくなっている。 その姿の本来の呼び名は、巨人の名を冠する古き鉄。 だがこの場ではその呼び名は相応しくない。そう、呼ぶのなら―― 「ゲシュペンストMkⅢ・タイプRiese――ク、ククッ……クハハハハハハハハッ! 手に入れた、この力こそが……!」 狂笑を上げる男。 感情を持たないであろうインベーダーの身に、戦慄が走る。 『コレ』は、ゲッター線に匹敵するほどの脅威――自分達の天敵と。 ガンダムが、戦闘機がダイを傷つけることも厭わず攻撃を開始する。 ハンマーが、熱波が、怪光線が、その身を砲弾とした特攻が。 ありとあらゆる攻撃手段を持って蒼カブトへと攻撃を仕掛けるインベーダー達。 迎え撃つキョウスケは寸毫の恐れもなく迎撃を開始した。      □ 再生した左腕、マシンキャノンは5連装の機関砲へと変化していた。 迫る戦闘機の群れに向けて撃ち放つ。間断なく吐き出される実体弾は瞬く間に敵機を鉄クズへと変えた。 ダイの横腹から飛び出し、王を守る騎士たるガンダムへと突貫する。 ディバイデッドライフルが放たれる。 灼熱の奔流、だがしかしキョウスケはあえてそこに突っ込んでいく。 ゲシュペンストが右腕を突き出す。 ステークより二回りほど巨大なバンカーが、唸りを上げてビームの大河を掻き分ける。 距離が縮まるにつれ、圧力も比例して強まる――だが止まらない。アインストのエネルギーを加味されたバンカーはその程度では砕けない。 やがて、ビームが途切れた一瞬に距離は0になる。 咄嗟に盾に掲げられたディバイデッドライフルがバンカーに貫かれた。いや、ライフルだけでなくその向こうのガンダムの胸部も。 そのまま頭上へと持ち上げる。 ダイの砲撃をガンダムという盾で防ぎつつ、上昇。ダイを超えてもっと高く、空に届こうかと言うくらいまで。 恐らく地上からはゲシュペンストは点のような大きさだろう。 ダイの真上に位置するので、射角の問題から砲撃はない。 代わりに残存する戦闘機が我先にと上昇する。まるで天に向かう梯子のように――列を形成して。 バンカーを戻し、スクラップとなったガンダムを放り出す。 思い出すのは、かつて滅ぼした人間達の姿。 ノイ・レジセイア、自身の本体に痛烈な痛みをもたらした一人の男。 ――この攻撃は叫ぶのがお約束でな!―― 各部のエネルギーを一点に集中――右足、そのただ一点に。 テスラ・ドライブ、フルブースト。重力の力をも利用し、隕石の如くダイに向けて落下する。 「……究極ゥゥッ……!」 非力なはずの機体、だが使い方一つであらゆる攻撃を防ぐ歪曲フィールドを突き抜けた、あの技。 そしてこの機体は元を正せば奴の機体と同じフレーム、同じ系譜――できないはずがない。 「……ゲシュペンストォッ……!」 別に叫ぶ必要はないのだが……何故か、そうしなければ当たらないという気がしたのだ それに、そう。ここで叫ぶのは……やぶさかじゃない。 だから―― 「……キィィィィィィィィィィィィィィィックッ!!」 かつて人は天に至ろうとして煉瓦とアスファルトを用い塔を建てた。 バベルの塔と名付けられたそれは、しかし神の怒りに触れ、下された審判の雷により倒壊したという。 さながらその神の雷のように天から舞い降りたゲシュペンストの蹴りは、その進路上にあった全ての戦闘機を砕きダイへと突き刺さった。 ただの蹴り――されど究極の名を冠し、アインストの力で放たれた蹴り。 蒼い輝きを放つ、さながら流星のような一瞬。 その爆心地とも言える着弾地点から、衝撃が物理的な破壊力となってダイを蹂躙する。 莫大な量の運動エネルギーを一点に叩き込まれたメタルビースト・ダイは、苦しみを持続させることなくほぼ一瞬でバラバラになった。 やがて静寂を取り戻した廃墟の中に一機の巨人だけが佇立していた。 この場にはもうキョウスケしかいない。ゲシュペンストしかいない。 望んだ戦いを勝ち抜き、新たな力を得た。 孤狼はその結果に満足し、やがて意識を手放した。      □ 声が聞こえて、キョウスケは目を覚ました。 計器を確認し、放送の時刻だと理解する。 この催しの進行役に任命した少女型のアインストの声が聞こえる。 死者の名前が列挙される。 今のキョウスケにとってはどうでもいいことだ。どうせ全ての生存者を砕くのだから。 しかし、 ……ベガ ……バーナード=ワイズマン この二つの名前だけが何故か頭に引っ掛かった。 記憶を掘り起こし――このキョウスケ・ナンブという器と特に関わりが深い者たちだったということがわかった。 完全に存在を呑み込んだはずだが、未だに消去しきれていないということか。 思い返せば先の一瞬。 ダイによって破壊させられる刹那、この右腕は勝手に動いたのだ。 クレイモアを地面に向かって撃ち起死回生の一手となったあの行動は、完全にノイ・レジセイアの意志を離れたものだった。 今はそんな名残を見せることもなく、身体の支配権は完全にアインストにある。 戦闘で追い込まれ、支配に割く力を削ぐことで奴は活性化する――そういうことだろうか。 脆弱な人間とは思えない意志力だが、もしそうだとすれば無視することもできない。 身体を奪い返されるということはないだろうが、一瞬の停滞は致命的な隙となるだろう。 ましてこれから戦う相手はインベーダーなどではなく、綺羅星の如き参加者の中で今まで生き残った強者ばかりだ。 内面と外面の敵。 これからはその二つに同時に対処しなければならない。 思考を纏め終えたとき、ちょうど放送も終わったようだ。 どう行動するかと思っていると、膝の上に一枚の紙が転送されてきた。 これが部下の言う名簿だろう。 キョウスケはそれを一瞥し、特に感慨もなく引き裂いた。 そう、どうせ全て倒すのだ。個人個人の名前などに意味はない。 名簿に対する興味を失くし、キョウスケはまずは休息と補給を、と補給ポイントを探す。 途中で撃破した敵機の武装、ハンマーを拾う。破壊したライフルの代わりにはならないが、ないよりはマシだ。 静寂の世界、その実現を目指し動き始めるキョウスケ。 破り捨てられた名簿、その一点――ある少年の名前のところで視点が一瞬、一瞬だけ留まったことなど、気付く由もなかった。 【二日目18:00】 【キョウスケ・ナンブ  搭乗機体:ゲシュペンストMkⅢ(スーパーロボット大戦 OG2)  パイロット状況:ノイ・レジセイアの欠片が憑依、アインスト化 。DG細胞感染 疲労(大)  機体状況:アインスト化。ハイパーハンマー所持。機体が初期の約1,5倍(=35m前後) EN10%  現在位置:D-7  第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く  第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。  最終行動方針:???  備考1:機体・パイロットともにアインスト化。  備考2:ゲシュペンストMkⅢの基本武装はアルトアイゼン・リーゼとほぼ同一。      ただしアインスト化および巨大化したため全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。      ビルトファルケンがベースのため飛行可能(TBSの使用は不可)。      実弾装備はアインストの生体部品で生成可能(ENを消費)。  備考3:戦闘などが行なわれた場合、さらに巨大化する可能性があります(どこまで巨大化するか不明)。      直接機体とつながってない武器(ハイパーハンマーなど手持ち武器)は巨大化しません。      胸部中央に赤い宝玉が出現】 ---- |BACK||NEXT| |[[第三回放送]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[伏せた切り札 全ては己が目的のために]]| |[[第三回放送]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[伏せた切り札 全ては己が目的のために]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |[[排撃者――裏]]|キョウスケ|moving go on(1)| ----
辺りに動体反応がないことを確認し、キョウスケはステークの薬莢を排出した。 撃発し役目を終えた弾丸が地に落ち、新たに生成されたそれが装填される。 熱を持った弾丸が散乱するインベーダーの体液を焦がす。 見渡せば、死屍累々と言った風情で不定形の異形がそこかしこに積み重なっている。 他愛もない。 キョウスケにとってインベーダーの脅威とはその程度の印象だった。 数は多いが、一体一体の力はそれほどでもない。否、この機体の力をもってすれば脆弱とすら言える。 基地で相当数のインベーダーを屠ったが、あの程度では進化を行うには全く足りない。 インベーダーは単体ではさほどの力を持たず、機械と融合してこその真価を見せる。 もっと強く、激しい力。そんな力とぶつかり合わなければ今以上の力を得ることはできない。 かくして、キョウスケ・ナンブ――アインストの端末となった孤狼は敵を求めて静かなる行軍を続けていた。 思い出すのは基地での戦闘が終結した後、会場中心辺りから放たれた光。 波のように駆け抜けた波動は力を持たないインベーダーを消滅せしめ、キョウスケに一つの方針を与えた。 余波にしか過ぎないそれが会場中に影響を及ぼしたという事実。 離れた所にいた自分にさえ届いたあの力。 今戦えば敗北するかもしれない――もしその爆心地にいれば、あの光を直接叩き付けられれば。 力が必要だ。更なる力、何物をも撃ち貫く力が。 中央に向かうのは今ではない。経験を積み、進化を遂げなければ確実な勝利は得られない。 しかし時間の経過による進化を待つ余裕はない。創られた空間の崩壊、その時間は刻一刻と近づいている。 だからこそ、動いた。基地を出て、目に映るインベーダーを片端から砕きながら進む。 だが足りない……ステークの一撃で、踏み出す足の一撃で、容易く砕ける程度のインベーダーをいくら相手にしたところで糧にはなり得ない。 光の影響で、単体で存在を維持できないインベーダーはほぼ消滅した。 敵が減ったことにより道行きの幅は減った。 期待するべきは運よく打ち捨てられた機体に取り付くことができた個体。 何もない平原よりも、施設あるいは市街地の方が可能性は高い。 基地が潰えた今、向かうは南部に位置する市街地。 転進し、常人では身体が先に悲鳴を上げるほどの速度で突き進む。 視界に建造物の影が見えたところで停止した。 ――いる。 廃墟の街の中に、とても大きな力が存在しているのを感じる。 取り立てて感知能力に優れているわけではないこの器にすら感じ取れるほどのプレッシャー。 キョウスケは口の端を吊り上げて街に踏み入った。      □ 無数の戦闘機が、編隊を組んで突っ込んできた。 ゲシュペンストMkⅢが左腕のマシンキャノンを乱射する。 閃く火線がいくつもの火球を生み出し、しかしその光の中から次から次へと後続の機体が飛び出てくる。 実弾では埒が開かない。一機ずつ砕くのではなく、編隊ごと消滅させなければ数を減らすことはできない。 ディバイデッドライフルをチャージ。 戦闘機が放つ光線はビームコートと厚い装甲に阻まれ意味を成さない。 目前まで迫った戦闘機の機首にライフルを叩きつけ、発射。 凝縮された熱が解放され、溢れるエネルギーを存分に供給したライフルを横薙ぎに振るう。 射線軸上に合ったビルが撫で切りにされ倒壊していく。 濛々と上がった土煙りの中、蒼い巨人だけが屹立する。 目についた戦闘機はあらかた排除できたが、キョウスケが感知した脅威はこんなものではない。 街の中心へと足を向ける。これらの戦闘機は市街地に入ったキョウスケを迎撃しただけだ。 本命はこの先。機体のコンディションを確認し、問題ないと全速で突き進む。 やがて視界に大きな影が見えた。 恐竜の頭を持ち、力強く大地を踏みしめる四足。 中心に要塞の身体を持つ、巨大なメカザウルス――無敵戦艦ダイ。 良く見ればその片方の頭や足は黒く硬化したインベーダーが補っている。 命尽きたダイとアムロの放った光によりダメージを負ったインベーダー。 利害は一致し、生き返る/生き延びるために融合した両者。 メカザウルスとインベーダー。共にゲッター線を天敵とするモノ同士の、本来あり得ない合一。 言わばメタルビースト・ダイは、とあるガンダム以上親和性を見せ、ここに誕生した。 400mはあろうかという巨体を前に、キョウスケは歓喜に打ち震えていた。 これほどの敵がまだ残っていたという幸運。それと戦い、撃ち破れるという自信。 恐竜がその口から何十機もの戦闘機を吐き出す。一機残らずインベーダーと融合した恐竜ジェット機。 数の不利は構わない。むしろ力を発散できる対象が増えて望むところだ。 ダイの主砲がゲシュペンストMkⅢを照準した。一門一門がこのゲシュペンストMkⅢ並の大きさ。 それが撃たれる前にスラスターを展開し、メカザウルスの頭部目掛けて突っ込んでいく。 如何に自機の装甲が厚いとはいえ、あのサイズの砲弾をまともに食らえばそこで終りだ。 轟音とともに放たれる砲弾を掻い潜る。 その過程でいくつかの戦闘機をも撃ち落とされていく。同胞という概念はないようだ。 味方に落とされても同様の気配を見せず群がる戦闘機を撃ち落とし、殴り付け、握り潰す。突進の勢いは些かの衰えもない。 大きく開いたダイの口腔にクレイモアを叩き込む……その刹那。 横合いから凄まじい衝撃を受けてゲシュペンストMkⅢは吹き飛んだ。 廃ビルに叩き付けられ、深く埋め込まれたゲシュペンストMkⅢ。 衝撃は物理的な威力となって操縦席のキョウスケにも牙を剥く。DG細胞、そしてアインストの力がなければ即死していたほどの圧力をなんとか堪える。 衝撃の来た方向に視界を巡らせれば、そこにいたのは白いモビルスーツ。 RX-78ガンダム――連邦の白い流星アムロ・レイが駆り、この戦場では巴武蔵の乗機だった機体。 コクピットに空いた大穴をインベーダーの黒で埋め、トリコロールカラーではなくなったガンダムの腕の先には巨大なハンマーがあった。 どうやらあれを喰らったらしいと、思考する間にもガンダムはハンマーを振り回す。 増設されたブースターが火を吐き、豪速の鉄球が再びゲシュペンストMkⅢへと放たれる。 キョウスケはディバイデッドライフルで迎撃する。 だが速度の乗った巨大な質量体を止めることはできず、伸ばした左腕にハンマーがめり込む。 破砕音と共に左の肘までが持っていかれた。 停止したハンマーの鎖を掴み、引き戻される反動を利用してビルから一気に飛び出す。 加速し、ガンダムをクレイモアの射程に捉える。 だがトリガーを引き絞る寸前、背後から迫る熱源を感知した。 鎖を離し、横手へと直角に回避する。 直後、背後からキョウスケが一瞬前までいた空間へと龍の顎のような何かが喰らい付く。 虚空を引き裂いたそれは素早く引き戻される。その先、左半身をこれまたインベーダーで補った緑のガンダム。 そのインベーダー製の腕に握られた三又の槍から灼熱の粒子が迸る。 咄嗟にヒートホーンを起動。アルトロンガンダムの振り下ろすツインビームトライデントを受け止めた。 ステークをセット。同時に敵機も右腕のドラゴンハングを構える姿を視認。 示し合わせたように互いに一歩後退し、その一歩を改めて踏みこむことで加速する。 射出された龍の頭めがけてステークを叩きつける。 ゲシュペンストMkⅢの右腕を挟み込んだ顎が閉じられる前にステークを発射。龍が内部から杭を撃たれ、爆砕する。 そのままドラゴンハングの連結部分を掴む。 繋がった本体のアルトロンガンダムを手繰り寄せ、ゲシュペンストMkⅢは腰を落とす。 ヒートホーンを引っかけ、頭上へと打ち上げる。 クレイモアで破壊することもできたが、キョウスケはそれを選ばず機体を反転させて今まさにハンマーを投げんとしていたガンダムへと放り投げた。 何やら轟音が耳に飛び込み、縺れ合う二機から目を外してダイへと向き直る。 ダイはその巨体を疾走させつつ、主砲をゲシュペンストMkⅢへと向けていた。 戦闘機はともかく、あの機動性に劣る戦艦を守護する二機の機動兵器を失うのはまずいのであろう。 ゲシュペンストMkⅢが二機と離れた瞬間に砲弾が雨となって降り注ぐ。 テスラ・ドライブをフルパワーで稼働させ、鉄の嵐の中を振り切るように駆け抜ける。 誤射を恐れてかガンダム達の手出しはない。だがキョウスケにも、護衛を攻撃する余裕はなく回避に専念しなければならなかった。 視界に戦闘機が飛び込んでくる。自らも砲弾で傷つきながら、しかし怯むことなくゲシュペンストMkⅢ目掛け突き進んできた。 唯一の武装たる光線が効かないことは証明されている。 怪訝に思った瞬間、疑問は氷解した。 足を止めるスプリットミサイルやクレイモアは使えず、マシンキャノンがマウントされた左腕はそれ自体が既にない。 手の届く範囲外から急接近した戦闘機が減速する様子もなくゲシュペンストMkⅢへと体当たり――特攻する。 先のハンマーに比肩し得るほどの衝撃がキョウスケを襲った。 機体自身にさほど損傷はなかったが、移動方向と正反対のベクトルを受けて機体の足が止まる。 空白の一瞬、狙い澄まして残存する戦闘機が殺到する。 全方位から砲弾となって向かってくる戦闘機に押され、一歩も動けない。 連続する衝撃に鞠のように翻弄され、今立っているのか倒れているのかすらもわからなかった。 突破口を開こうと展開した左のクレイモアの射出口に、ピンポイントで飛び込んだ戦闘機が内蔵されたベアリング弾と誘爆する。 弾け飛ぶ左肩。至近距離での誘爆の衝撃はゲシュペンストMkⅢをあっけなく大地に叩きつけた。 歯を食い縛りつつ機体を立て直すキョウスケ。絶え間なく揺さ振られる身体は弛緩する余裕もなく固く張り詰めたままだ。 インベーダー風情に良い様に追い詰められていると、キョウスケではなくアインストとしての憤怒が胸を満たす。 怒りをどうにか噛み殺したとき、気付けば戦闘機の特攻が止んでいた。 ついに数が尽きたかと思ったが、それなら二機のガンダムが仕掛けてこないはずがない。 廃墟に照り返す光で辺りは紅く染まっている。 その朱色の中、ゲシュペンストMkⅢのいる地点のみが黒く染まっている。 ガンダムが遠巻きにこちらを眺めている。では、あの戦艦は――。 ズシン、と。 ダイの存在にようやく思い当ったとき、ゲシュペンストMkⅢに凄まじい圧力が圧し掛かった。 視界が瞬く間に暗くなる。機体が上から押さえつけられている――否、踏まれている。 全長約400m、重量約80000tの巨体。 無敵戦艦ダイの足が、動きの止まったゲシュペンストMkⅢを踏み付けているのだ。 砲撃を受けている時移動していたのは知っていたが、戦闘機の特攻で接近を感知できなかった。 知能を持たないインベーダーにしてやられた。またマグマの如き怒りが湧き上がってくる。 膝を着いた姿勢でスラスターを全開し、足を撥ね退けようとダイに抗う。 機体の各部からアインストのエネルギーが漏れ出し、紫電となって弾ける。 だが一パーソナルトルーパーとしては破格の高出力も、こうまで重量が違えばどうしようもない。 ゲシュペンストMkⅢの原型たるアルトアイゼンの重量は85.4t。 巨大化したとはいえ現在の重さは重く見積もっても100tあるかどうか。ダイとの重量比は800倍近い。 機体が地面へとめり込んでいく。 圧力が段々と増してきた。恐らくは一息に踏み潰せるはずだが、こちらが足掻く様子を楽しんでいるのか。 歯噛みし、手立てを探す。ステークを備える右腕は頭上へと掲げ落ちてくる天井を支えている。 左腕はなく、クレイモアは射角の問題で使えない。 残るヒートホーンでダイの足裏を焼き切っていくのだが、切り裂いた片端からインベーダーが補充していく。 埒が開かないと限界を超えてヒートホーンへと力を注ぐ。赤熱した角がダイを焼き切るのではなく蒸発させていく。 機体の各部から集中させたエネルギーはあと数分も持たない。 エネルギーが尽きるより先に脱出できるかと見通しが立った瞬間、静観していたガンダムが動く。 その腕にあるのはハンマーではなく、ディバイデッドライフル。 ハンマーを迎撃し損ねた後に取り落としたのだろう。ガンダムのサイズなら十分に規格が合う装備だ。 先端に光が灯る。このゲシュペンストMkⅢほどの出力はないにせよ、ビームコートを展開できない今あれをもらうのはまずい。 だが当然、ダイの足に押さえつけられている今対抗手段はない――その先にあるのは、死だ。 初めて感じる焦燥と恐怖、それをもたらしたのがインベーダーであるという屈辱に、キョウスケの中のアインストが震える。 やがてキョウスケの視界を閃光が満たす。 熱波に飲み込まれる瞬間――。      □ *&color(red){      ――貫け、奴よりも速く―― ◆VvWRRU0SzU}      □ 右腕が可動範囲を超えて回転し、ゲシュペンストMkⅢのクレイモアが地面を向く。 鉄鋼球が放たれ、舗装された大地へと突き刺さる。間を置かず炸裂、いくつかは跳弾しゲシュペンストMkⅢ自身を傷つけた。 ダメ押しにステークを撃ち付け、一瞬にして全弾を撃ち尽くす。 このD-7にて行われた戦艦同士の激戦、ダイのジャンプによる衝撃。 既にかなりダメージを受けていた地殻の表層部に、大した抵抗もなく大穴が穿たれる。 もちろんそれだけが原因ではなく、この市街地に元々地下道が存在していたという事実もあった。 ゲシュペンストMkⅢのいた地点が崩落する。当然、中心地にいたゲシュペンストMkⅢも落下する。 突如体重をかけていた足場が消失し、ダイがたたらを踏む。 ガンダムの放ったビームがダイの足を焦がす。巨獣が怒りに吠え、ガンダム――に取りついたインベーダーの個体が後ずさる。 だがダイがガンダムへと行動を起こす前に、メカザウルスの部分が痛みの叫びを上げた。 地下道から蒼い流星が飛び出し、ダイの横腹に突き刺さったのだ。 要塞部分に空いた大穴から噴煙が湧き出す。 二機のガンダムが押っ取り刀で追撃した。まさかあの蒼カブトが動けるとは予想していなかったため行動が遅れた。 接近したものの、ダイの内部と言う場所が場所だけに砲撃で炙り出すわけにもいかない訳にもいかない。 接近戦を得手とするアルトロンガンダムが先行し、煙を分け入って要塞内部へと侵入していく。 ガンダムはディバイデッドライフルを構え、出てきたところを狙い撃つ役割を取った。 一分が立ち、二分が過ぎた。 いつまで経っても敵機が、そしてアルトロンガンダムが出てこない。これは自らも突入する必要があると、ガンダムを支配するインベーダーが思考した時。 穴から何かが飛び出してきた。迎撃の構えを取ったガンダムだが、すぐにその必要はないとライフルを下ろす。 何故ならそれは機械との融合を解除したインベーダーだったからだ。 敵機を破壊した際、依代もまた破壊されたのだろうか。 そう思って自身に同胞を迎え入れようとしたとき、闇を裂いて走った銃弾がガンダムの目前で同胞を存分に引き裂いた。 警戒を強めるガンダムの視界に、再び蒼カブト――ゲシュペンストMkⅢが現れた。 だがその姿は最前のものとは違う。 肥大した四肢。重厚さを増したボディ。 各所に設置された推進機は大型になり、クレイモアも一回りそのサイズを増している。 背部のスラスターには新たにスタビライザーらしきものが取り付けられ、両肩にも同じもの、つまりはテスラ・ドライブを模して生成されたバランサーが新たに備えられている。 そして何より、その右腕――この機体の代名詞ともいえる鋼鉄の杭打ち機、リボルビング・バンカー。 ステークよりも威力を求めた結果辿り着いた答え。 機体のコンセプトでもあるそれはすなわり、巨大化だ。より大きければそれだけ威力が、強さが増す。 機体バランスなど考慮の外。 各所のバランサー・推進機とて、言ってみればこの大型の武装を扱うための補助に過ぎない。 巨大化に必要な二つの要素、戦闘経験と甚大なエネルギー。 戦闘経験は申し分なく揃っている。 ならばもう一方、エネルギーはと言えば、メタルビーストとなりインベーダーというエンジンを得たことでことで半ば意味をなさなくなったダイの炉心を取り込んだ。 武装が変わっただけでなく、そのサイズ自体も一回り大きくなっている。 その姿の本来の呼び名は、巨人の名を冠する古き鉄。 だがこの場ではその呼び名は相応しくない。そう、呼ぶのなら―― 「ゲシュペンストMkⅢ・タイプRiese――ク、ククッ……クハハハハハハハハッ! 手に入れた、この力こそが……!」 狂笑を上げる男。 感情を持たないであろうインベーダーの身に、戦慄が走る。 『コレ』は、ゲッター線に匹敵するほどの脅威――自分達の天敵と。 ガンダムが、戦闘機がダイを傷つけることも厭わず攻撃を開始する。 ハンマーが、熱波が、怪光線が、その身を砲弾とした特攻が。 ありとあらゆる攻撃手段を持って蒼カブトへと攻撃を仕掛けるインベーダー達。 迎え撃つキョウスケは寸毫の恐れもなく迎撃を開始した。      □ 再生した左腕、マシンキャノンは5連装の機関砲へと変化していた。 迫る戦闘機の群れに向けて撃ち放つ。間断なく吐き出される実体弾は瞬く間に敵機を鉄クズへと変えた。 ダイの横腹から飛び出し、王を守る騎士たるガンダムへと突貫する。 ディバイデッドライフルが放たれる。 灼熱の奔流、だがしかしキョウスケはあえてそこに突っ込んでいく。 ゲシュペンストが右腕を突き出す。 ステークより二回りほど巨大なバンカーが、唸りを上げてビームの大河を掻き分ける。 距離が縮まるにつれ、圧力も比例して強まる――だが止まらない。アインストのエネルギーを加味されたバンカーはその程度では砕けない。 やがて、ビームが途切れた一瞬に距離は0になる。 咄嗟に盾に掲げられたディバイデッドライフルがバンカーに貫かれた。いや、ライフルだけでなくその向こうのガンダムの胸部も。 そのまま頭上へと持ち上げる。 ダイの砲撃をガンダムという盾で防ぎつつ、上昇。ダイを超えてもっと高く、空に届こうかと言うくらいまで。 恐らく地上からはゲシュペンストは点のような大きさだろう。 ダイの真上に位置するので、射角の問題から砲撃はない。 代わりに残存する戦闘機が我先にと上昇する。まるで天に向かう梯子のように――列を形成して。 バンカーを戻し、スクラップとなったガンダムを放り出す。 思い出すのは、かつて滅ぼした人間達の姿。 ノイ・レジセイア、自身の本体に痛烈な痛みをもたらした一人の男。 ――この攻撃は叫ぶのがお約束でな!―― 各部のエネルギーを一点に集中――右足、そのただ一点に。 テスラ・ドライブ、フルブースト。重力の力をも利用し、隕石の如くダイに向けて落下する。 「……究極ゥゥッ……!」 非力なはずの機体、だが使い方一つであらゆる攻撃を防ぐ歪曲フィールドを突き抜けた、あの技。 そしてこの機体は元を正せば奴の機体と同じフレーム、同じ系譜――できないはずがない。 「……ゲシュペンストォッ……!」 別に叫ぶ必要はないのだが……何故か、そうしなければ当たらないという気がしたのだ それに、そう。ここで叫ぶのは……やぶさかじゃない。 だから―― 「……キィィィィィィィィィィィィィィィックッ!!」 かつて人は天に至ろうとして煉瓦とアスファルトを用い塔を建てた。 バベルの塔と名付けられたそれは、しかし神の怒りに触れ、下された審判の雷により倒壊したという。 さながらその神の雷のように天から舞い降りたゲシュペンストの蹴りは、その進路上にあった全ての戦闘機を砕きダイへと突き刺さった。 ただの蹴り――されど究極の名を冠し、アインストの力で放たれた蹴り。 蒼い輝きを放つ、さながら流星のような一瞬。 その爆心地とも言える着弾地点から、衝撃が物理的な破壊力となってダイを蹂躙する。 莫大な量の運動エネルギーを一点に叩き込まれたメタルビースト・ダイは、苦しみを持続させることなくほぼ一瞬でバラバラになった。 やがて静寂を取り戻した廃墟の中に一機の巨人だけが佇立していた。 この場にはもうキョウスケしかいない。ゲシュペンストしかいない。 望んだ戦いを勝ち抜き、新たな力を得た。 孤狼はその結果に満足し、やがて意識を手放した。      □ 声が聞こえて、キョウスケは目を覚ました。 計器を確認し、放送の時刻だと理解する。 この催しの進行役に任命した少女型のアインストの声が聞こえる。 死者の名前が列挙される。 今のキョウスケにとってはどうでもいいことだ。どうせ全ての生存者を砕くのだから。 しかし、 ……ベガ ……バーナード=ワイズマン この二つの名前だけが何故か頭に引っ掛かった。 記憶を掘り起こし――このキョウスケ・ナンブという器と特に関わりが深い者たちだったということがわかった。 完全に存在を呑み込んだはずだが、未だに消去しきれていないということか。 思い返せば先の一瞬。 ダイによって破壊させられる刹那、この右腕は勝手に動いたのだ。 クレイモアを地面に向かって撃ち起死回生の一手となったあの行動は、完全にノイ・レジセイアの意志を離れたものだった。 今はそんな名残を見せることもなく、身体の支配権は完全にアインストにある。 戦闘で追い込まれ、支配に割く力を削ぐことで奴は活性化する――そういうことだろうか。 脆弱な人間とは思えない意志力だが、もしそうだとすれば無視することもできない。 身体を奪い返されるということはないだろうが、一瞬の停滞は致命的な隙となるだろう。 ましてこれから戦う相手はインベーダーなどではなく、綺羅星の如き参加者の中で今まで生き残った強者ばかりだ。 内面と外面の敵。 これからはその二つに同時に対処しなければならない。 思考を纏め終えたとき、ちょうど放送も終わったようだ。 どう行動するかと思っていると、膝の上に一枚の紙が転送されてきた。 これが部下の言う名簿だろう。 キョウスケはそれを一瞥し、特に感慨もなく引き裂いた。 そう、どうせ全て倒すのだ。個人個人の名前などに意味はない。 名簿に対する興味を失くし、キョウスケはまずは休息と補給を、と補給ポイントを探す。 途中で撃破した敵機の武装、ハンマーを拾う。破壊したライフルの代わりにはならないが、ないよりはマシだ。 静寂の世界、その実現を目指し動き始めるキョウスケ。 破り捨てられた名簿、その一点――ある少年の名前のところで視点が一瞬、一瞬だけ留まったことなど、気付く由もなかった。 【二日目18:00】 【キョウスケ・ナンブ  搭乗機体:ゲシュペンストMkⅢ(スーパーロボット大戦 OG2)  パイロット状況:ノイ・レジセイアの欠片が憑依、アインスト化 。DG細胞感染 疲労(大)  機体状況:アインスト化。ハイパーハンマー所持。機体が初期の約1,5倍(=35m前後) EN10%  現在位置:D-7  第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く  第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。  最終行動方針:???  備考1:機体・パイロットともにアインスト化。  備考2:ゲシュペンストMkⅢの基本武装はアルトアイゼン・リーゼとほぼ同一。      ただしアインスト化および巨大化したため全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。      ビルトファルケンがベースのため飛行可能(TBSの使用は不可)。      実弾装備はアインストの生体部品で生成可能(ENを消費)。  備考3:戦闘などが行なわれた場合、さらに巨大化する可能性があります(どこまで巨大化するか不明)。      直接機体とつながってない武器(ハイパーハンマーなど手持ち武器)は巨大化しません。      胸部中央に赤い宝玉が出現】 ---- |BACK||NEXT| |[[第三回放送]]|[[投下順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/11.html]]|[[伏せた切り札 全ては己が目的のために]]| |[[第三回放送]]|[[時系列順>http://www30.atwiki.jp/srwbr2nd/pages/12.html]]|[[伏せた切り札 全ては己が目的のために]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |[[排撃者――裏]]|キョウスケ|[[life goes on(1)]]| ----

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