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→[[The 4th Detonator]]
視界が――いや、世界が閃光に包まれた。 とっさにテニアを庇う。斬り合っていた白い機体の事なんて忘れて。 光が駆け抜けた後、次に来たのは衝撃波だ。 剣を大地に突き立て、楔とする。 ヴァイサーガの巨体が揺れ、軽いベルゲルミルなんて吹き飛ばされそうになるほどの風が叩きつけられた。 数秒、もしかしたら数十秒は横殴りの風に晒されていたかもしれない。 やがて風圧が止み、統夜は顔を上げた。 「なんだ……これ」 先程まで廃墟の街で戦っていた、はずだ。 なのに今、目の前にあるのは――ぽっかりと空いた何もない空間。 そこかしこに瓦礫の山が、建造物の名残りが見える。 街を、まるで消しゴムを掛けたように空白がその存在を主張している。 すり鉢状に広がっていく破壊の爪痕。その進行方向にはまさしく何もない。 ずっと向こう、地平線の果てまで続いているように見える。ヴァイサーガのカメラでもどこまでが吹き飛ばされたかわからない。 一体何が起こったのか。 急いで確認しようとして、それからはっと腕の中のテニアに気付く。 「テニア! 怪我してないか?」 「う、うん。アタシは大丈夫。でも、これ……一体何が起こったの?」 街の一切合切を吹き飛ばした何かは、ユーゼスが向かった方向から飛んできたようだ。 ユーゼスがやったのかと、空恐ろしい力に震える統夜にテニアが囁く。 「統夜、あれ!」 ベルゲルミルが指し示したのは、同じく退避していたらしい敵機だ。 おそらく向こうもこちらに気付いただろうが、事態を把握する方が先と判断したのか一瞬で変形し飛び去って行く。 統夜が隙を突く暇もない。瞬く間に鳥型の敵機は白煙に紛れ見えなくなった。 逃がしてしまった。だが時間は十分に稼いだと自分に言い聞かせ、統夜は機体を立ち上がらせる。 「とにかく、ユーゼスと合流しよう。ガウルンでもいい」 「そ、そうだね。じゃあ……」 「俺が何だって?」 通信に、割り込んできた声。 振り返る。そこに佇んでいたのは、全身に傷を負った、まさに『落ち武者』といった風情のダイゼンガーだった。 「ガウルン! あんた、その機体……やられたのか?」 「ああ、下手打っちまった。それに剣を落としちまってな。統夜、お前さんに貸してた剣を返しちゃくれねえか?」 「あ、ああ。俺もどうせ片腕が使えないし、ほら返すよ」 「ありがとよ……ちと軽いが、まあいいだろ」 投げ渡したガーディアンソードをダイゼンガーが二度三度と素振りする。 確かに斬艦刀と比べれば少々頼りなく見えるが、それでも中々使い勝手のいい武器である事に違いはない。 操縦者の動きを正確にトレースするというダイゼンガーが感触を確かめるように拳を握っては開き、宙にパンチを繰り出す。 やがて満足いったか、ダイゼンガーは一つ頷くと統夜達へと向き直る。 「で、お前ら。こりゃあ一体全体どうしたってんだ?」 「アタシらが聞きたいよ。あんた、ユーゼスと一緒に戦ってたんでしょ? これはあいつがやったの?」 「俺も途中で後退したんでな。詳しいことは分からんが……おそらくこれはユーゼスじゃない。  いや、あいつも絡んでるだろうがどちらかと言えばこれを撃たれた方だろう」 「じゃ、じゃあこんなすごい力を持った奴が敵にいるってのか?」 「だとしても、おそらくは敵さんの切り札ってとこだろう。今まで使わなかったのは使えないだけの理由があったんだろうさ。  でなきゃ、今頃これが連発されて俺達も消し炭になってるはずだからな」 「……とにかく、ユーゼスと合流しようよ。いくらなんでもあいつがやられたって事はないでしょ」 「そう……だな。状況次第では一度撤退して、体勢を立て直した方がいいかもしれない」 ヴァイサーガが先頭に立ち、ベルゲルミルがその後に続く。 ダイゼンガーのガウルンは二機の背中をぼんやりと見つめ、 「俺にはそんな時間はねえんだよな、これが……」 ぼそりと、呟いた。 微かに耳に届いたガウルンの囁きに統夜は振り返った。 「おい、どうかしたのか? まさか動けないとか言うんじゃないだろうな」 「だったらおぶってくれるかい?」 「誰が! 行こう統夜。早くユーゼスを見つけなきゃ」 見通しが良くなりすぎて狙い撃ちにされる危険を減らすため、射線の外にあったビル街へと進路を変えて進む三機。 ベルゲルミルならともかく、図体の大きいヴァイサーガとダイゼンガーではあまり隠ぺい効果がある訳でもなかったが。 「なあ、統夜。戦場で生き残るために一番大事なものは何だと思う?」 「何だよ急に」 「ちっと気になってな。お前も中々のパイロットになってきた事だし、興味が出て来たんだよ」 「ああ、そう。生き残るために大事なもの……そりゃやっぱり、腕なんじゃないか?」 「強くなきゃ負けちゃうもんね。アタシもそう思うよ」 前方の警戒は緩めず、意識の表層で答える。 何でそんな質問をするのかは分からないが、ガウルンとはそういう男だ。理解できるはずもない。 「腕ね、確かにそれも大事だ。だがな、俺の見解は違う」 「じゃあ、あんたはどう思うんだ?」 「そうさな……嗅覚ってところか。自分を絡め取ろうとする死から逃げ、相手は逆に突き落とす。  抽象的なもんだが、わかりやすく言うなら勘ってのでもいい。要するにヤバい臭いをかぎ分けろって事だ」 「勘……ね。随分曖昧なものなんだな」 「馬鹿にしたもんでもねえさ。勘っていうのは何も適当に選んだり運任せにする事だけじゃない。  場の流れを読み、洞察力や想像力をフルに働かせて有り得るかも知れない可能性を事前に探る――そういう事も指すんだ」 ゴシャッ、と。 音が聞こえた。 ダイゼンガーが瓦礫を踏み潰したのだろうか。 音を立てるな、と言おうとしたが考えてみれば大した意味もない。 音が聞こえる頃にはとっくにレーダーの範囲内だろう。 神経を尖らせて敵の気配を探る統夜は振り向かなかった。 「ふーん。で、それがどうしたって言うんだ。今話さなきゃいけない事なのか?」 「師匠としての最後の教えだよ。俺もお前もこの先生きのこれる保証はない。  言い残したまま死んで後悔しないように、今言っとこうと思ってよ。お前も俺に何か言いたい事はねえのか?」 「別に……俺を鍛えてくれた事には感謝してるけど、できればもう会いたくもなかった。あんたには散々痛い目に遭わされたしな」 「つれないねぇ。そういやお前、テニアの嬢ちゃんから聞いただろ? ユーゼスを殺る、ってプラン。  お前も覚悟を決めたもんだと思ってたが。今あいつを探すってんなら、その気はないって事か?」 「別にそういう訳じゃない……俺は安全策を取りたいだけだ。もしユーゼスが追い込まれていたとして、俺達が助ければ恩を売れるだろ」 「あいつが恩なんて感じるタマかねぇ」 視界の端に白い戦艦、Jアークが見えた。 その周りに飛ぶ機体もいくつか。どうやらユーゼスは本当に破れたらしい。 舌打ちし、ヴァイサーガを止めて手振りで後の二人に停止のサインを伝える。 「おやおや、あいつやられちまったか。アキトもどっかに落とされたようだしな……どうするよ?」 「どうするって……俺達だけで仕掛けるしかないだろ」 「正気か? あのユーゼスの機体すら撃退する奴らだぜ。加えて全戦力が終結、俺達の方の戦力はガタガタ。  俺の勘は撤退しろって叫んでるんだがねぇ。いや、いっそ降伏して奴らに協力するのもいいんじゃねえか?」 茶化すようなガウルンの声にカッとなる。それができれば苦労はしない。 さすがにここまで明確な敵対行動を取ればどんなお人好しだって握手してはくれないだろう。 戦力では勝っていたはずなのに、終わってみれば返り討ちにされた。 なのにこのガウルンの態度。 文句を言ってやろうと思い、ヴァイサーガを振り向かせた。 「あんた、いい加減にしろよ! そもそもあんたが勝手に後退しなきゃユーゼスだって――」 場合によっては剣を抜く事も辞さない――そんな覚悟で振り返った統夜の目の前に。 ベルゲルミルの胸を貫く、 統夜がダイゼンガーに渡した、 今もダイゼンガーが握る剣が、 あった。 その位置は――考えるまでもなくわかる。 コクピットだ。テニアがいるはずの。 「あ、え……? な、何をして……どういう、事だよ……?」 「やっと振り向いてくれたか、統夜~。寂しかったぜ? 無視されてるんじゃないかと泣いちまうところだったじゃねえか?  全くお前って奴は薄情なもんだな? 愛する彼女がダンマリだてのに気にも留めねえ。  言ったろ統夜。大事なのは嗅覚だ、ってよ。もっと早く振り向いてればなぁ?」 ダイゼンガーが剣を振り上げ、引っ張り上げられるベルゲルミル。 統夜は夢でも見ているかのようにぼんやりと、人形のように身動きしないベルゲルミルを見上げ、 「――はッ、テニアぁぁ――――――ッ!」 我に返り動き出す。 腕は勝手にパネルを叩き、コードを入力する。光刃閃。ヴァイサーガの最も速く、強力な攻撃オプション。 剣を掲げるダイゼンガーの腕目掛け、一足で加速し、疾風よりも速く、その名の通り光の刃となって、 斬り裂く。 ガウルンのダイゼンガー、 「たすけ……とう、や……」 が、盾にしたベルゲルミルを。 真っ二つに。 頭頂部から胴体、股間まで一直線に。 何の抵抗もなく、バターにナイフを入れるように。 びしゃっ、と。 ヴァイサーガのカメラに液体が飛び散る。 張り付いてきたそれは赤い色をしていて、よくわからない塊が混じっている。 地面に落ちていくそれを拡大した。 手だ。人の手が落ちている。肘から先がきれいに切断されて。 向こうには多分足だ。赤い水たまりの中に落ちている。 細かいのは……肉屋で見るような、肉の塊だ。そこらじゅうに飛び散っていた。 ヴァイサーガの剣を見てみると、ベルゲルミルのオイルがどろっと血のように流れ落ちていく。 その中に微かに、赤いものが――本物の血が、流れている。 斬り割られたベルゲルミルのパーツが散乱し、やがて爆発する。 血も腕も足も肉片も全て、諸共に吹き飛ばしていった。 わなわなと手が震え、吐き気が込み上げてきた。とっさに口元を押さえたが、我慢しきれずヴァイサーガのコクピットが吐瀉物にまみれた。 胃の中身を全て吐き出し、それでも収まらずに胃液が沁み出てきた。喉いっぱいに酸味が広がり、それがまた気持ち悪さを掻き立てる。 「あらら、ひでえなぁ統夜君。愛しのテニアちゃんをバラバラにしちまうなんてよォ~」 心底楽しいと言わんばかりの、ガウルンの声が聞こえる。 吐く物を全て吐き、げっそりとした顔を上げる統夜。しかし眼だけがギラギラと、まるでドラッグをキメたかのように爛々と輝いている。 「ガウ……ルン! お、お前が……ッ、お前がテニアをッ……!」 「あん? 馬鹿言うなよ統夜。確かに俺が先に手を出したが、止めを刺したのはお前さんだぜ?  聞こえたろ、『助けて、統夜』ってな。聞こえなかったか? 最後の言葉だったってのに、もったいねえなぁ」 「違う……違う! お前がテニアを殺したんだッ!」 「違うだろ統夜。百歩譲って『俺も』殺したと認めてもいい。だが物事は正確に伝えるべきだぜ?  『俺』と、『お前』が、『二人で』フェステニア・ミューズを殺したんだ。ん、こいつぁ初の共同作業って奴じゃねえか?」 「……ぁぁ、ううううぁぁあああああああああああああああああああああッ!」 ユーゼスやJアークの事なんて頭から吹き飛んだ。 頭の中が真っ白になり、ただ一つのことしか考えられなくなる。 ――こいつが、テニアを殺した! ガウルンが、テニアを殺したんだ! ――絶対に……絶対に許さない! 「ガウルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!」 「ククッ、ハハハハハハッ! そうだ、その顔だ! 俺が見たかったのはその顔なんだよ、統夜!  さあ――これが最後だ! 俺を憎め! もっと、もっと、もっとだ!   お前の本気を見せてみろ! 俺が許せないだろ? 憎いんだろう? だったらお前が持てる力全部でかかって来い!  でなきゃテニアの嬢ちゃんも浮かばれないぜ……何たって、お前があんまり不甲斐ないから嬢ちゃんを殺そうと思ったんだからよ!」 「黙れぇぇっ!」 一直線に突っ込んできたヴァイサーガの剣を軽く受け止めるダイゼンガー。 もう片方の腕がヴァイサーガの腹を打ち据え、機体が一瞬宙に浮く。 力が緩んだ所にダイゼンガーの脚が飛び、ヴァイサーガを横薙ぎに蹴り付けた。 ビルを何棟か薙ぎ倒し、ヴァイサーガはよろよろと立ち上がる。 剣を大地に突き刺し、佇むダイゼンガーへ烈火刃をありったけ投げ放った。 ダイゼンガーは悠然と肩のゼネラルブラスターを放ち刃を迎撃、動きを止めずヴァイサーガに腕を突きつける。 ロケットパンチ――ダイナミック・ナックルがヴァイサーガの頭を掴んでビルへと叩きつけ、なお勢いは止まらず地面へ引き倒し引きずっていく。 大地との摩擦で背面の装甲が傷ついていく。拳の握れない左腕を叩きつけ、なんとか束縛から逃れる。 「おいおい、それじゃあダメだ。もっと落ち着け、クレバーになれ。怒るのはいい、しかし心は平静に。  威勢が良いのは結構だが、そんな隙だらけの動きじゃ欠伸が出ちまうぜ」 「うる……さい。今さら師匠面して、俺をからかってるのか!?」 「まさか。言ってなかったんだがな、俺の身体はボロボロなんだ。こうしてる今も闘病生活真っ最中なんだぜ?  俺に残ってる時間は少ないんだ。最後くらい悔いのない瞬間を過ごしたいのさ」 「あんたの命と、俺達と! 何の関係があったって言うんだ! 死にたいなら一人で死ねよ!」 「別に俺は死にたい訳じゃねえよ。むしろ生きたいと思ってる。が、それが叶わねえってんなら仕方ねえ。  潔く諦めて――、お前と最後に遊ぼうと思った訳さ」 「ふざけんなッ! だったら俺を狙えば良かっただろ! なんでテニアを殺したんだ!」 懲りずに打ち掛かって来るヴァイサーガをいなし、がら空きの背中を蹴り付ける。 無様に顔面から地面へと突っ込んだヴァイサーガを笑いながら、 「そりゃお前。あの嬢ちゃんがお前のお荷物だったからさ」 「お荷物……? どういう、意味だ!」 「言葉通りさ。お前、俺と組んだ頃は良い眼をしてたのにあの嬢ちゃんと合流してからはすっかり腑抜けちまった。  相棒の身を案じた俺は、こう考えた訳だ。統夜、お前は騙されている! ってな。  テニアが原因でお前が変わったのなら、その原因を取り除けばいい。簡単な話だ。  退治されるべき竜が騎士を惑わせた魔女を討つ。どっかのおとぎ話みてえじゃねえか」 「そんな……そんなお前の勝手な理屈で!」 「だが、どうだい? そのおかげでお前は身軽になっただろ?  背負う物も守る者もなく、本能が命じるままただひたすらに剣を振るう。それこそがお前の本来あるべき姿、生き方なんだよ」 「違う! 勝手に俺を枠に嵌めるな!」 「違わねえ。お前は俺と同類なんだよ。戦いの中でしか生きられねえ、最低最悪の人種――自覚しろよ、その方が楽に生きられるぜ?」 「違う、違う……! 黙れって言ってるだろぉっ!」 駄々っ子のように剣を振り回すヴァイサーガ、ダイゼンガーはその場を動かず軽く剣を打ち合わせてあしらっている。 「この、この……っ! 死ね、死ね、死ね、死ね! 死んじまえよッ!」 「あのなあ、誰がそんな無様な戦い方をしろっつったよ。あんまりがっかりさせないでくれ」 ガウルンは嘆息し、痛む身体の悲鳴を無視してダイゼンガーを前進。 ヴァイサーガの剣をガーディアンソードで抑え、力が拮抗した一瞬に肩を押し身体を支える足を払う。 バランスを崩し、倒れ込むヴァイサーガの腹へ翻った足が乗る。 地面に激突する瞬間、タイミングを合わせ足裏を押し込んだ。 「っが、は……!」 受け身も取れず衝撃の逃げ場をなくし、ヴァイサーガの胴体に亀裂が走る。 その余波は統夜へとダイレクトに伝わり、少年もまた激しく咳き込む。 一方ダイゼンガーはヴァイサーガを踏み付けたまま、視線をJアークのいた方へ。 ユーゼスの機体――身体の半分が消し飛んでいる――と、対峙するJアークの機体達。 そして、ユーゼスの後方から今にも墜落しそうなスピードで飛ぶアキトの機体。 どうやら、向こうでももう一波乱ありそうだ。身体さえ万全なら乱入したいところではあるが。 「ま、いい。どうせ奴らもしばらくはこっちに来ねえだろ。俺は俺で楽しませてもらうとするか」 どちらが面白いかと言えば、ガウルンは足元でもがく少年で遊ぶ方を選ぶ。 どれだけ動けるか分からないが、願わくば統夜がガウルンを殺すほどに燃え上がってくれることを祈りつつ―― 「さあ、付き合ってくれよ統夜。朝まで踊り明かそうじゃねえか」 この時間が楽しくてたまらないと。 死を目前にしてなお、かつてない程に生きている実感を――充実した時間を味わうのだった。      □ 「みんな、無事か!?」 サイバードが甲板に降り立った。 周りにはF91、凰牙、ブレンと全機が健在である。 「なんとか……カミーユは?」 「俺も大丈夫だ。それより、ユーゼスは? 倒したのか? さっきの光は何なんだ?」 「落ち付け、まだ我らの勝利が確定した訳ではない。警戒を怠るな」 「その通りだ。みんな、機体のコンディションを確認するんだ。油断して隙を突かれるのも間抜けだろう」 ロジャーの一言で各々が自機の状態を確認していく。 ブレン、凰牙はさしたる消耗もない。あえて言うなら、凰牙がハンマーの代わりに斬艦刀を装備しているだけだ。 Jアークはバリアを展開しっぱなしだったり、エネルギーを絞り出したせいか消耗が最も激しい。 ポイントで補給できないJアークが力を取り戻すには時間が必要だ。 そしてサイバスター、F91。共に機体よりもパイロットの疲労が大きい。 新たにファミリアを創造しぶっつけ本番で戦闘に入ったカミーユ、サイコフレームの共振を全開にして戦ったシャギア。 キョウスケと戦った時よりは余裕があるものの、できるなら休息を取った方がいいと誰かが言う。 だが当人達は、 「いや、まだだ。奴らの撃破を確認するまで機体を降りる訳にはいかん」 「ええ、俺も同意見です。まだこの戦場からは、粘つくような悪意が消えていない……!」 サイバスターが振り向き、その視線を彼方へと投げる。 その先にいたのは、最前まで対峙していたゼストだ。 だが、100mを超えていた巨体は見る影もなかった。 胸から上が全て吹き飛び、中心にある球体――AI1が剥き出しとなっている。 六芒星、相転移エンジンと核パルスエンジンもその上半分がきれいさっぱり無くなっていた。 残るのは三角形となった一つの相転移エンジン、二つの核パルスエンジン。 頭を庇ったか右腕は根元から消し飛んでおり、左腕だけが力無くぶら下がっている。 コクピットがあったであろう場所もぼろぼろで、あの中で人が生きていられるはずはないと思わせた。 「ユーゼス……死んだのか?」 「待てカミーユ、迂闊に近づくな。万一君が取り込まれでもしたら取り返しがつかん」 「でも、せめてあいつが生きてるかは確認しなきゃ」 「その必要はない。動かないなら、このまま破壊してしまえばいいのだ」 シャギアがJカイザーへと向かう。もう一度撃てないかと試してみるもののさっぱり反応がない。 Jジュエルのエネルギーをサイコフレームで強引に流し込み撃ったのが決定打となったか、今度こそ巨砲はただの鉄塊だ。 シャギアは早々に諦め、F91に蹴り落とさせる。地上に叩きつけられたJカイザーは粉々になった。 「しかし、ではどうするかな。凰牙やサイバスターの全力攻撃を使うというのも過剰だと思うが」 「Jアークの砲撃……と言いたいがこれ以上回復を遅らせるのもまずい。時間はかかるが、我らで地道に削るしかあるまい」 「そう、ですね。俺達の武装なら補給もできますし。俺とアイビス、シャギアさんで破壊しましょう」 時間経過で回復するJアーク、電池でなければ補給できない凰牙を置いて三機が甲板から飛び立った。 動きのないゼストへ接近する三人。射程距離に入ったが、それでも迎撃が来ない。 「やっぱり……その、死んでるのかな?」 「これではっきりするさ。行くぞ!」 サイバスターがオクスタンライフルを構える。 念入りにチャージを行い、中破したゼストを貫けるだけの力がライフルの先端に灯る。 だがそこで、崩壊した街を眺めていたシャギアがいち早く異変に気付いた。 「っ……いかん、下がれ!」 サイバスターの前に躍り出て、ディフェンサーを前面に展開。 間を置かず何処からか緑色の光――ビームが飛来し、電磁フィールドに激しい揺さぶりをかけた。 傷ついたF91がその圧力に押され突破される前にブレンが割って入り、チャクラシールドを広げた。 「まだ敵がいるの!?」 「いや、これは……あいつだ! テンカワ・アキト!」 カミーユが見覚えのあるビームからその正体を看破すると同時、ゼストの向こうから黒い機体、ブラックゲッターがやって来た。 サイバスターのファミリアに叩き込まれた損傷は胴体に大穴を空けており、こちらへ飛んで来る今も光の粒子――ゲッター線を撒き散らしている。 その上頭部はひしゃげ、元の面影はどこにもない。 「あの状態でまだ動けるのか!」 「機体は無事でもパイロットが生きてるはずが……! コクピットに直撃したのに!」 だが、ブラックゲッターは今のビームを撃った事で逆に自らを追い詰めたようだった。 腹のビーム砲口がただれ、融解していく。供給するゲッター線を制御できていないのだ。 軌道も危なっかしく左右に揺れ、攻撃されたら一溜まりもないだろう。 そんな状態で何故現れたのか、シャギア達にはわからなかった。敗北は目に見えているというのに。 身構える三人の前で、ブラックゲッターは止まった。ちょうどゼストの真上だ。 ビームが来るかといつでも散開できるように集中する。だが、ブラックゲッターの次の動きは誰にも予測できないものだった。 頭上でトマホークを振り回し、十分な加速をつけて――ゼストへと叩き付けたからだ。 「何だとッ!?」 トマホークの一撃は、半壊しつつあったゼストのコクピットを完膚なきまでに叩き潰した。 そこにいたであろうユーゼスの事など考えるまでもない。 「どう言うつもりだ? お前達は組んでいたのではなかったのか」 「……っ、はあ、はっ……これで……がはっ! ……手に、入れた……ぞ!」 ブラックゲッターから聞こえてくる、切れ切れの声。 怪我をしている、どころではないだろう。咳き込んだ時に吐血したようだ。 しかしその声に込められた戦意は些かも衰えてはない。 まだ何か、戦況をひっくり返す一手がある。シャギア達にそう思わせるには十分だった。 「ここまで……やられていたのは、計算外……だった。だが……お前達も、かなりの、力を……失ったはず、だ」 「弱ったとはいえ、貴様ほどではない。その身体で私達に勝てると思っているのか?」 「……まさか。だが、このゼストならば……わからない」 そう言ってブラックゲッターは両手を腹の大穴に突っ込み、バキバキと装甲を割りながらも何かを取り出した。 右手には赤い輝き、左手には緑の輝き。 マジンガーZに積まれていた光子力エンジン、そして元来ブラックゲッターに搭載されていたゲッター炉心である。 ブラックゲッターは膝をつき、右手を下に、そして左手は天に掲げる。 ゼストの内部が露出していた部分に光子力エンジンを埋め込み、ゲッター炉心からは緑光が漏れ出し、辺りを染め上げる。 「ゲッター線は、進化を促すエネルギー……。このゼストの装甲は、自己再生機能とやらを有する……生きた装甲、だそうだ。  だからこうして……ゲッター炉心を暴走させ、身体を再生……させる、触媒となるエネルギーを、与えてやれば……」 「っ、いかん! 奴を止めろ!」 「もう……遅い……!」 ゲッター炉心の放つ輝きを吸い込み、ゼストの装甲が泡立つ。 光子力エンジンは完全にその身に沈み、ゼストの失われた動力炉を補う糧となる。 F91がヴェスバーを、サイバスターがライフルを放つが溢れ出るゲッター線が壁となりブラックゲッターには届かない。 三人の見ている前で、ゼストの割れた装甲がみるみる内に修復され、繋ぎ合わされていく。 四本の脚が伸び、しっかりと大地を踏み締める。 そして、失われた上半身に位置するブラックゲッターを触手が取り巻き、同化。 「ゼストが……再生する!?」 「そうだ、これが……これが俺の……!」 アキトの声に力が戻り、ゼストに敵を蹂躙せよと命令を下そうと息を吸い込んだ。 その瞬間、 ゼストの千切れかけた左腕がブラックゲッターを貫いた。 「……ッ!? 何だ、と……?」 「ゼストの腕が!」 何故せっかく支配した機体を自ら傷つけたのか。 事態を把握できず固まるシャギア達の耳に、更なる悪意が飛び込んで来た。 「フフフ……フハハハハハハハハハハハハッ! よくやったぞ、テンカワ……! よくぞゼストを甦らせてくれた!」 歓喜に堪えないと言わんばかりの笑声。 聞こえてきたのは撃破したはずのユーゼスの声だった。 「貴様、生きて……!? 一体何処に……!」 「ここだ、諸君!」 問うアキトの声に応えたのは、ブラックゲッターを貫いた腕の肘から伸びる、クロ―アーム。いわゆる触手だ。 その鋭い爪の根元に、しがみ付いている人影――仮面の男。 「本当に助かったよテンカワ! ゼストは一度死んだのだ、先程の砲撃と力の暴走のおかげでな!  私はあの瞬間、とっさにコクピットからこのアームへと飛び移ったのだ。  ラズムナニウムというのは便利な物だ、命令さえ下せば人が隠れるだけの穴すら瞬時に作り出す!  いや、本当にどうしようかと思ったのだよ! 機体が動かねば私に打つ手はない。  破壊されるのを待つだけかと思いきや――君が自ら飛び込んで来て、ゼストの餌になってくれるとはな!」 上機嫌極まりないという声でユーゼスが語り出す。 内容はともかくその姿勢で喋っても全然締まらないとアイビスなどは思ったのだが、それでもその男の声は止まらない。 どうにかしてユーゼス本人を狙おうとするカミーユとシャギアだが、ゲッター線はいよいよ強まって弾丸やビームの干渉を許さない。 「君のブラックゲッターはラズムナニウムの塊――傷付いたゼストの装甲うを埋めるにはこれ以上ない程に適格だ!  そして嬉しいことに君は破損した動力炉の代わりまで持ってきてくれた! ゲッター炉心、光子力エンジン――どちらもかなりの高出力!  これなら十二分にゼストは回復する事が出来る。確信したよ! 天意はまさに私の頭上にある!」 ブラックゲッターへと繋がったクローアームが、ブラックゲッターに僅かに残ったエネルギーすらも絞り出す。 アキトがいくら操作しても、ブラックゲッターは反応しない。 次第にコクピットにまで触手の先端が侵入し、アキトはままならない身体に鞭打って脱出しようとした。 だが、その努力も虚しく爪の先端がアキトを貫き、シートへと磔にする。 アキトの胴を貫通した爪がゆっくりと開く。 そしてアキトは見た。分かれた爪から出てきた細い管のような器官が、アキトの身体へと同化していく瞬間を。 「がっ……は!」 「嬉しい……本当に嬉しいよテンカワ。機体だけでなく、君というナノマシンのキャリアまで手にする事ができた。  これで首輪の解除も目途が立つ。光栄に思うといい、君は私の輝かしい前途を飾る最初の人柱だ!」 光の壁の向こうで、ブラックゲッターの形が崩れる。 50mを超えるサイズの機体がその質量分の液体へと変わり、色と形を変えていく。 ゼストの機体色と同じ色。 ゼストの上半身と同じ形。 瞬きするほどの間に、ゼストは完全にその外観を取り戻した。 ユーゼスの乗る触手が上昇し、開いたコクピットへ。 そこにアキトの姿は――もう、ない。ユーゼスが悠然とコクピットへ乗り込んだ。 完全に再生したゼストが浮き上がり、シャギア達を睥睨する。 「さて、お前達にも礼をせねばならんな。再生したとはいえゼストはかなりの力を失った。  こうなれば是が非でもお前達の機体を取り込まねば収まらん。覚悟してもらおうか……!」 「くっ……やれるか、カミーユ!?」 「言われ……なくても!」 サイバスターが三度その全力を引き出す。傍らに飛ぶ三つのファミリア。 F91も遅れまいとバイオコンピューターを稼働させ、残った全ての力をかき集める。 後方からJアークが接近。異変を感じ取って来たのだろう。 F91、サイバスター、Jアーク、ブレン、凰牙。 戦力としては誰も欠けてはいないが、万全などと言える状態ではない。 ゼストの放つプレッシャーが、対峙する全ての者の心を蝕む。 「さあ、ここからが本番だ! 出来得る限りの力で抗ってみせろ、矮小なる者どもよ!  震えよ! 畏れと共に跪け! ゼストの圧倒的な力に、今こそその全身全霊を以って……!」 赤い空の下に巨獣が舞う。 絶大なる力をその身に宿し、愚かにも挑んで来た小鳥たちを喰い尽さんと天に吠える。 両腕を広げ、胸からせり上がる動力部の塊。エンジンを三つ失ったため多少力は落ちるが、それでも十分な威力。 見上げる全ての者に終わりを告げるべく、 「絶望せよォォォォ――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!」 光の雨を、降り注がせた。 →[[The 4th Detonator]]

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