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*&color(red){・――言葉には力を与える能がある ◆C0vluWr0so} まず一筋の光があった。 一瞬の間にそれは広がり、極太の光砲となる。 それはJアークに備え付けられた主砲、反中間子砲の光だ。 しかし対象の装甲を原子レベルで分解するはずの三重連太陽系の超科学は、勇気の花言葉を冠する機動戦艦の重力壁に止められる。 白と赤とに彩られた戦艦、ナデシコ。幾多の戦場を越え、人と人との争いを止めた艦。 ナデシコは、その名に恥じぬ勇猛の中に反撃の意志を示し、進む。 数十条に及ぶミサイルの雨がナデシコから放たれる。 一つ一つが並の機動兵器を破壊するのに十分。爆炎の煙をたなびかせJアークへと直進する。 対し、Jアークは動かない。 弾頭が迫る。破壊の爆発を秘めた鉄塊だ。 しかしJアークは動かない。 ミサイルの軌道は幾重にも交差し、接近する。その軌道の数は無限にも思える。 だが、決して無限ではない。それは有限だ。 そして有限であるということが意味するのは―― 「トモロ、軌道チェックは終了! 軌道予測計算の時間は――」 『一瞬だ』 その予測も可能だということだ。 Jアークのモニターに、ミサイルの軌道を表す曲線が映し出される。 キラとトモロは回避行動も反撃もせず、ミサイルの軌道把握と軌道予測に全力を注いでいたのだ。 即座に演算結果を武装に反映させていく。 「キラ、急いで! 時間がないわ!」 「分かってるソシエ! ……対空レーザー砲、発射!」 Jアークから放たれた光線は数十条。その一つ一つはミサイルに対応していた。 光が走る。破砕の光だ。 ミサイルが砕けていく。穿つ光は正確に弾頭の真心を貫いていく。 光が鉄を砕ききる。 場は静寂に帰った。 「……ソシエ、ムサシたちと通信は?」 「駄目。ムサシだけじゃない、テニアも、マサキも……」 「なら……」 再び戦場に音が響く。 『キラ、残存火力が40%を切った。長期戦になれば押し切られるぞ』 トモロの声と爆縮の音が同時に鳴っていく。 ナデシコから放たれたのは触れるものを全てを消し去る重力の波、グラビティブラスト。 だが、ビルの街を呑み込み、それでも衰えることなく迸る破壊の閃流に対抗できる武装が、Jアークには存在する。 「僕は三人が帰ってくるまで……この艦を守ってみせる!」 Jアークの艦首に存在する錨。ジュエルジェネレイターから抽出されたエネルギーがそこに注がれる。 そして姿を変えてゆく。不死の象徴――火の鳥、フェニックスへと。 JクォースはJアークに備えられた武装の中でも一際強力なもの。 破壊力、貫通力、射程。その全てに優れ、身に纏う炎はバリアにも攻撃にも利用可能である。 だが今は、変幻自在の軌道は必要としない。ただ一直線に突き進むのみだ。 火の鳥は往き、重力の波へと突撃した。 翼を呑み込む荒波を、しかし天空の風の如く捉え、Jクォースは進む。 炎は重力に掻き消される。だが同時に重力も相殺されていく。 不死鳥が波を越えるのと波がJアークを呑むのには、一瞬の乖離も無かった。 Jアーク艦内に衝撃が走る。 「きゃあああああああ!」 Jクォースにより相殺されたとはいえ、グラビティブラストの破壊力は並々でない。 たとえJアークであっても、無傷ではすまない。しかし、大破もしない。 そしてモニターには、Jクォースの攻撃を受けているナデシコの姿が映っている。 「トモロ、ジェネレイティングアーマーを全開! ここを耐えれば……いけるはずだ!」 『了解だ。一時的に艦の全エネルギーをジェネレイティングアーマーに回す』 Jアークの装甲が重力波によって削られていく。だがキラは後退しない。 なぜなら―― 仲間のために自分を懸ける、それがキラの勇気だからだ。  ◆ 月が照らす街並みは、既に残骸と化している。 地上に這い出たテニアは、目前の光景に唖然としていた。 無理もないだろう。ほんの数十分前までは多少の損傷はあれど街の姿を保っていた。 だが今現在そこに在るのは、高くそびえるビルでもなく、雑多な商店街でもなく、閑静な住宅街でもなく、瓦礫のみなのだから。 彼女は崩壊の直前、いやその最中まで戦闘をしていた赤と黒の機体を探す。 しかしどこにも姿は見えない。おそらくはこの瓦礫の底に埋まっているのだろう。 代わりに目に入ったのは、混乱のきっかけとなった黒いガンダムと、見知らぬ二つの機体の戦闘だった。 三機と自機との距離は数百メートル、といったところだろうか。おそらく三機とも、まだこちらに気づいていない。 不意を打つには絶好の機会だ。だが―― (それじゃ、ダメだ) 更に遠方、Jアークが戦闘を行っている。相手はこれまた見知らぬ、だが巨大な戦艦だった。 そして遠目に見る限り、Jアークは決して優勢ではない。 左舷が焦げ、各所にも少なからず損傷が見える。 ここから劣勢をはねのけ、自分とJアークがあの戦艦に勝ったとしても、確実に今後の戦闘には支障がでるはずだ。 (考えるんだ。勝つためには……生き残るためには何をすればいいのか) いつの間にか、ダイはその身を無惨に晒している。 あれだけの巨体が簡単に墜ちる。ここは、そんな戦場なんだ。 気を抜けば、何時死ぬか分からない。 でも、その混乱を利用すると決めたのは自分だ。 けれど、アタシは生き残るための良策を何も思いつけない。 あるのは奇策。しかもとても脆い、危険な策だ。 (それでも……やるしか、ないよね) 絶対に、生き残る――そう決めた少女は、歩を一つ進める。 ごくり、と唾を飲み込んだら、鉄の匂いに自分の口の中が切れていたのに気づいた。 血の臭いに記憶を揺さぶられ、カティアの最期が脳裏に浮かんでくる。 頭の潰れた、トマトみたいな姿のカティア。 アタシは厭。あんな姿になるなんて。 「……やる。やってやる。アタシは、生き残るんだ」 はっきりと口に出すことで、思いは強くなる。 メルアも死んだ。カティアも死んだ。フューリーも死んだ。 でもアタシは死なない。絶対に、だ。 鉄の匂いは消えない。血臭が鼻まで抜けて、気分が悪くなってくる。 「生き残るんだ……生き残るんだ……生き残るんだ……!」 言葉の力は凄いな、とテニアは思った。 思いをはっきりとした形にして、自分にも、他の誰かにも伝えることが出来る。 会えたら伝えよう。統夜に。死んでくれって。 通信機のパネルを弄る。 言葉の力は凄いな、とテニアは思う。 「……ムサシ、大丈夫!? アタシだよ、テニアだよ!」 思ってもいないことでも、伝えられるから。  ◆ 背中に響く痛みが、武蔵を微睡みから目覚めさせる。 鈍い痛みの原因は、ダイによる無差別攻撃だ。ガンダムは巨体の起こした地震に呑まれ、武蔵ごと瓦礫の下で倒れていた。 目を開けた武蔵の視界に入ったのは瓦礫だけを映すモニター。未だ醒めない頭をぶんぶんと振り、無理矢理覚醒させる。 そして自分の状況を把握するまでにきっかり十秒。 「そうだ、おいらは……!」 ガンダムのマニュピレータを稼働させ、機体を覆う瓦礫を払っていく。 サブカメラ上の岩が除けられた時、モニターに映ったのは無惨の二文字で表現される光景だった。 ガンダムが落ちたのは地下道か何かだったのだろうか。既に地盤は広域に渡って沈下しており、元々の地形を推測することさえ難しい。 基礎となる地盤を失った建築物。形を留めているものは皆無だった。全ては石とアスファルトの切片と化している。 バーニアを噴かし、ガンダムは地上へと飛ぶ。 地上に見える光景も地下から見たそれと大差なく、街の被害は甚大だ。 「……! ダイはどこだ!?」 こんなことが出来るのは、無敵戦艦ダイの巨体しかない。 そう見当をつけた武蔵は無敵戦艦ダイの姿を目で追った。 だが、武蔵の目に入ったのは、廃墟と化した街と同様に無惨な姿を晒しているダイの残骸だった。 頭も足も腹も、欠損が酷い。あれではまともに動かないだろうと武蔵は思い、ダイを討つことができた、という事実に安堵の息を吐く。 だが、その安堵は長く続かない。キラたちと通信を取ろうと振り返った武蔵の目に映ったのは、攻撃を仕掛けてきた黒いガンダムと見知らぬ二機の戦闘。 遠くにはJアークと交戦している戦艦の姿も確認できる。 ――戦いは、未だ終わっていない。 そのことに気づいた武蔵は、通信機に手を伸ばす。 「キラ! こちら武蔵だ! そっちの状況はどうなってるんだ?」 『……武蔵さんですか!? 無事だったんですね!』 通信機を通して聞こえてくるキラの声に余裕は無い。 そこからJアークの戦況を推し量った武蔵は、 「ダイはもう倒した! おいら達もやられる前に逃げるぞ!  テニアとマサキはおいらが捜す。キラたちはそいつをなんとかしてくれ!」 『了解です。武蔵さんが二人と合流次第、僕たちもそちらへ向かいます!』 『キラ、敵の攻撃の第二波が来たわ!』 『武蔵さん。――必ず、生きて帰りましょう』 通信の最後、ソシエの叫びにも似た声が聞こえた。 やはりキラたちの戦況は思わしくないようだ。 両の手のひらで頬を打ち、気合いを入れ直す。 ――急げ、時間がないんだ! すぐにでも二人と合流しなければいけない。 まずはマサキとの通信を試みる。だが―― 「繋がらねぇ……! 出てくれよマサキ……!」 何度も何度もコールを続ける。しかしマサキの乗るアルトアイゼンからの応答はない。 マサキもまた、この地震に巻き込まれ、瓦礫の下敷きとなっているのだろうか? アルトアイゼンの状態はお世辞にも万全とは言い難い状態だった。脱出も困難な状況にあるのかもしれない。 そう思った武蔵に、別の機体から通信が入る。 『……ムサシ、大丈夫!? アタシだよ、テニアだよ!』 それはもう一人の仲間、テニアからの通信だった。 その声が聞けたことに、単純に安心を覚える。 「テニア、無事なのか?」 『アタシは大丈夫。それより、ダイは……』 「大丈夫だ。ダイはもう動きはしないさ。……それよりマサキはどうなってるか分からないか?」 『ゴメン、アタシにも分かんない。でも、きっとこの近くにいるはずだよ!  あの三機をどうにかしてでも助けないと……!』 「……ああ、そうだな。みんなで……生きて帰るんだ!  テニア、まずはおいらがあいつらの戦闘に乱入する。テニアは後から援護に入ってくれ。  上手くいけばそれで逃げてくれるだろうし、悪くても三つ巴……分は悪いかもしれねぇけど、やるぞ!」 テニアからの了解の声を聞き、最後にもう一度だけマサキに通信を入れる。 やはり、応答は無かった。レーダーにも反応は無いままだ。 操縦桿を握る手に力が入る。正直に言って……怖い。 ここから見える戦闘でも分かる。あの三機の戦闘は、かなり高レベルな攻防だ。 パイロットの技量だけの問題ではなく、単純な機体スペックでもかなり劣っているだろう。 それに加え、ガンダムはさっきの地盤崩壊の際に少なからずダメージを受けている。 このままではあの三機とまともに渡り合うのは難しい。 「だけど、それでもキラは言った。みんなで生きて帰ろうってな……」 ――なら、ここでおいらが踏ん張らなくてどうするんだ! 自身に活を入れ、深く息を吐く。 一瞬後、ガンダムは一気にバーニアをフル稼働。駆けていく。 手に持つのは鉄球。ビームやレーザーなどの科学の結晶とはかけ離れた、酷く原始的な鉄の塊だ。 だが、 ――性に合ってるんだ、こういうのの方がな! 目指すのは黒と赤のガンダム。鎖を振り上げ、振り下ろす。 突然の右方向からの打撃に、咄嗟に相手は右足で地を蹴り、攻撃の逆――左方向へと飛ぶ。 攻撃と移動の力のベクトルは同じだ。衝撃は受け流される。 だが攻撃が外れたことに気を落としている暇はない。 ガンダムの姿勢を立て直し、後方の二機の攻撃に備える。 敵の敵は、必ずしも味方ではない。今確実に味方だと言えるのはJアーク、ベルゲルミル、アルトアイゼンの三機だけ。 それ以外の相手に対しては、一瞬の油断も許されないのだ。 汗と震えが身体を襲う。それに打ち勝つために、武蔵は雄叫びを上げる。 戦いは、まだ始まったばかりだ。  ◆ 黒が跳ぶ。しかし真黒ではない黒だ。血にも似た赤が、黒に彩りを添えている。 跳んだ先には白い機動兵器、ヴァイクランがある。 だが猪突はしない。まずは牽制のダークネスショットを放ち、相手の体勢を崩す。 二発の光球が、同時にヴァイクランに向かった。更にタイミングをずらし一発。 もし相手が先に撃った二発を回避しようと、後発のダークネスショットが息つく暇を与えない。そのはずだった。 しかし、ヴァイクランは悠然と宙に浮かび、回避の素振りも見せない。 その余裕の理由は、ダークネスショットが炸裂する寸前に分かった。 「バリアだと? ラムダ・ドライバ……とは少し違うようだけどな」 白の機体を包むように現れた壁。それがダークネスショットを掻き消した。 ガウルンの知る、物理法則を超えた力――ラムダ・ドライバ。 精神の力をエネルギーに、というコンセプトはこのマスターガンダムに通じるところがあるかもしれない。 だが、マスターガンダムに備えられたシステムがあくまで機体のポテンシャルを高める、いわば補助にすぎないのに対し、ラムダ・ドライバのそれは、システムそのものが力を生む。 産み出された力を弾丸に纏わせれば、その破壊力は倍増し、防御のイメージを盾として展開すれば、理論上は核さえ防げるという代物だ。 相手の機体が展開した力は、ラムダ・ドライバのバリアに相似している。 展開の形・規模など、細部に異なる部分はあるが、基本の部分はそう変わらない可能性も高い。 つまり、あのバリアも核クラスの攻撃――ともすればそれ以上の破壊さえも耐えるかもしれない、ということだ。 「ククク……面白くなってきやがったぜ!」 ガウルンは、愉快に、まるでお気に入りの玩具で遊ぶ子供のように笑っている。 ……しみったれた攻撃が届かねぇってんなら――直接ぶん殴ってやるさ! 未だ跳躍の途中だったマスターガンダムは、強引に軌道を変え、地上に降りる。 着地の衝撃で道路の舗装が砕け、宙に舞う。 踊る破片の一つを掴み、投擲。 投げられた石片は何の変哲もないただの石だ。 だが、だからこそ意味がある。力が無いということが意味を生む。 この程度の攻撃、無駄なエネルギーを消費するまでもない、とヴァイクランは石を造作もなく避ける。 しかし、その回避という行動がタイムロスという名の致命を導く。 機体を動かし、目を離したのは一瞬。 もしヴァイクランが念動フィールドを展開し、マスターガンダムと相対したままなら生まれなかっただろう一瞬の隙。 その一瞬の間に、マスターガンダムはヴァイクランのメインカメラの視界から消えた。 相手の知覚の外から放たれたダークネスショットは、今度こそヴァイクランの装甲に炸裂する。 敵機がよろめいたことを確認。ガウルンは追撃する。 両足に力を込め、同時に地を踏み抜く。二つの脚から発生する二つの力は、両足を同時に踏み抜くことで一つの大きな力になる。 加速する。 二機の距離は縮まっていく。 ヴァイクランが、再動し、ガウルンを捉え、反撃か回避か防御かの選択という三つの工程を必要とするのに対し。 「……遅いねぇ。このまま突っ込ませてもらうぜ」 マスターガンダムは、接近し、攻撃する、という二つの工程でその意図を果たす。 覆せない一工程の差は、絶対的だ。 ――あくまで、この二機に限定すれば、の話だが。 月影に照らされ走る黒のガンダム。闇の中、保護色になっているその黒を月は煌々と照らしている。 敵機までの距離は残すところ100メートル強。その程度、秒の単位でこと足りる。 そこまで進んだとき、マスターガンダムの姿が闇に紛れた。 ガウルンが何かをしたわけではない。 ガウルンの上空に、それは現れたのだ。そして、ガウルンを照らす月の光を遮ったのだ。 直後、市街地に熱が走る。攻撃の意味を持った熱だ。 しかし、灼かれるのはマスターガンダムだけ。同様に攻撃範囲に入っているヴァイクランには何の影響も無い。 マスターガンダムの上空に浮かぶ赤の異形はディバリウム。 対象を識別し、かつ広範囲の攻撃が可能なディバリウムにとっては必要な工程は一つ。 ただ攻撃を放つ、それだけだ。 同士討ちの危険性が無い攻撃。そしてそれが持つ充分な攻撃範囲は、多少のずれを無視しマスターガンダムを灼いてくれる。 ディバリウムの攻撃は、マスターガンダムとヴァイクランの間に存在した絶対的な一工程の差を埋める。 マスターガンダムが減速した。即座に再加速を試みる。が、生まれたタイムロスは一瞬だが確実。 ガウルンがヴァイクランに到達する前に、ガン・スレイブがマスターガンダムを狙っていた。 ガン・スレイブの数は四。 同時に攻撃してきた最初の二基は問題ない。左右の高速フェイントがガン・スレイブを惑わし、最高速度までの加速が惑う二基を一気に抜き去る。 次の一つは装甲を掠めた。左肩が持っていかれる。しかし腕は健在。これも十分許容範囲だ。 三基目を抜いたとき、ようやくヴァイクランが手に届く距離に来る。 狙うのは胸。ビームナイフの一突きで、相手の機能を停止させるのが目的だ。 ヴァイクランが念動フィールドを展開するが、この距離なら問題はない。 バリアを突き破り、内側へ。右腕を後ろに引き、右手に握られたビームナイフを起動させる。 光の刃が展開するのと同時に、まっすぐ相手の胸へ向かって突きの一閃。 刃の切っ先が装甲に触る。更に奥まで押し込もうとするが、 「チッ! 素人相手じゃあるまいし、まっすぐ胸ってのが甘かったか」 マスターガンダムの右腕をヴァイクランの左腕が掴み、それ以上の刃の進行を止めている。 次にガウルンが感じたのは殺気。 ……上かッ! ガン・スレイブ最後の一つが直上からガウルンを狙っている。 直撃。頭部が大きく歪む。 ヴァイクランはマスターガンダムを投げつけ、地面へと叩きつけた。 「……ッ!」 たまらねぇ、とガウルンは思う。 相手は強い。単純なタイマンなら、そうそう引けを取るつもりはない。 マスターガンダムと自分との相性は悪くなく、接近戦に持ち込めばたいていの相手には負けない自信もある。 だが、相手は二機だ。それも、かなりのコンビネーションを見せてくれる。 だから、 「……たまらねぇ。このまま――美味しく頂きたいねぇ」 ゆらり、とマスターガンダムは立ち上がった。 血がだんだんと熱を帯びてくるのが分かる。そのくせ、頭の中はやけにクリアーだ。 ……ああ、アイツは――アキトはどうしたかな? アイツの矛盾原因を踏み潰して……それからどうなったのかよく分からない。 何か叫んでいるようだった。それから、消えた。 一瞬で消えちまったんだ。ククク……面白いじゃねぇか。 全くもって楽しすぎる。ここにいる奴らはよ! なーに、アキトだって死んじゃいないさ。ここで死ぬような奴じゃない。ここで死ぬような面構えもしちゃいねぇ。 ――だから今は、この時間を精一杯楽しもうぜ、ガウルンよぉ! その時、ガウルンは視界の端で何かが動くのを見た。 意識をそこに向けたとき、飛んできたのは鉄球。 完全な回避は間に合わないと判断する。出来るのは逆方向に跳び、衝撃を受け流すことだ。 右足に力を込め、左方向へ跳躍。鉄球は胴に当たるが、ダメージは殆ど無い。 攻撃してきたのは誰だ? 視線を向ける。そこにいたのは白い機体。 思わぬゲストの乱入に、ガウルンは舌なめずりを我慢できない。 ……あのアンテナ、カメラアイ……アイツも、『ガンダム』なのかい? 楽しいねぇ、実に楽しい。 そんなガウルンに更に通信が入る。 『ねぇ、アンタ……勝ち残りを狙ってるの?』 モニターに映っているのは赤毛の少女だった。 まだ幼さが残る顔立ちの中に、ガウルンは自分に少し似た、何かを感じる。 ぶしつけに言葉をぶつけてくる少女に純粋な好奇心を持ちながら、返事。 「お前、誰だ? ……まぁ、結果的にはそうなっちまうかもな。俺はただ、楽しめればそれでいいんだがよ、帰って会いたい相手がいるもんでなぁ」 邪悪な笑みを隠そうともせずに、ガウルンは少女の質問に答える。 今の答えに嘘はない。楽しめればそれで良いと、ガウルンの中の戦闘狂は考える。 それと同時に、ガウルンはカシムに会いたいと思っている。 そしてそれらは矛盾しない。『殺し』を楽しみ、生き残り、帰り、『カシム』に会う。 全くもって無駄がない。殊にこの世は上手く出来ている――そう考えている。 だから少女が次に言った言葉にガウルンは興味を持った。 『なら、アタシがもっと楽しくしてあげる、……って言ったらどうする?』  ◆ 目の前の黒い機体はあの戦艦に与する者の攻撃を受けた。 その事実についてシャギア・フロストは思考する。 ……つまり状況は、単純ではないということか。 今までは恐竜型戦艦を中心としたグループが、ジョナサンとか言った男の戦艦及びその一味に襲われたという認識だった。 つまり一集団と一集団の総力戦、ということだ。 だが、眼前の黒いガンダムタイプ――これは異質の存在だ。どの集団にも属さずに、乱戦の中を駆けている。 ダイを中心としたグループは、既に壊滅状態だ。戦いの軸は、あの戦艦とナデシコのそれに変わっている。 この状況を作り出したのが黒いガンダムなのだとすれば―― 「オルバ、油断するなよ。この戦場――私たちが思っていた以上に複雑だぞ」 『分かってるよ、兄さん。……それで、あの白いガンダムはどうするんだい?』 オルバの言葉に、シャギアは奇襲を仕掛けてきたガンダムに目を向ける。 昼に戦ったときとは違うガンダムだ。だが、あの戦艦と行動を共にしていることと、戦闘行為を仕掛けてくる好戦的な点は変わらない。 ならば対応は一つ。 「あれもまた私たちの敵だ。黒いガンダム共々落とすぞ」 『分かったよ、兄さん』 シャギアがヴァイクランでフォワード、オルバがディバリウムの広範囲識別兵器でバックアップ。 この基本フォーメーションを崩さずに二機を同時に相手にする。 上手くいけば、ガンダム同士で潰し合ってくれる――そこまで確認したとき、ヴァイクランとディバリウム、二機の通信用モニターが同時に作動した。 「通信だと? 一体どこの誰が――」 モニターに映っているのは赤毛の少女だった。 目を赤く腫らし、潤ませている少女は、開口一番こう叫んだ。 『――助けて!』 と。 →[[・――言葉には力を与える能がある(2)]] ----

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