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目覚めよ、と呼ぶ声あり ◆7vhi1CrLM6




ベガと未確認機の接触から約十分。ユーゼスは基地の施設の中一人、探査機器に注ぐ目をそらした。
二つの光点はその動きを止めている。
それは悪くないことだ。
まだ確定とは言えないが、新しい手駒を現在の戦力を削ることなく得ることが出来た。そう思えば上々の出来と言える。
だが――

『黙』と黙り込み、わずかな逡巡を経たユーゼスの口元が笑う。

「だがしかし、何事かが起こって欲しかったのだろうな、私は……」

そこにもっともらしい理由を探すとすればAI1の教育、更なるの進化の可能性、といったものを付ける事は出来るのだろう。
最終的には、単機でアインストと渡り合える状態までメディウス・ロクスを持っていきたい、という欲も存在する。
しかし、違う。もっと根源的で、純粋で、単純なものだ。
それは少年達がカブト虫を闘わせたがるようなものだ。
百獣の王と密林の王者が出会えば、人はそこに何かを期待する。そういった類のものだ。
まぁ、いい。と踵を返そうとしてもう一度探査機器に視線を注ぎこんだ。
場はまだ張り詰めている。グラス一杯に注いだ水が表面張力だけで持っているようなものだ。
ここに一石を投じればどうなるのか。はたして均衡を保ちえるのか。
一石は何でもいい。例えばあの青年でも……。
密やかに笑い、メディウスを見上げる。AI1に行なわせている作業は二つ。
一つはベガの動向に対する観察。これは、探査機器が軒並み不調な状態を基地のデータとリンクさせることによってカバーし、行なっている。
そして、二つ目がアインスト細胞と未知のナノマシン、そしてゲッター線の解析だ。解析率はまちまちだが概ね良好。
最も進んでいるアインスト細胞は現状で約五割の結果を弾き出している。既に半分近くは解き明かされたのだ。
だが裏を返せば、まだ半分も未解明な部分が存在するとも言える。
そして、自らの手で分解を行なった半壊した首輪。こちらは損失された部分を含めても七割から八割程度の解析は終えている。
つまり玉を壊せばアインスト細胞は消失するという前提が正しければ、解析はほぼ終了しているといっていい。
そう結論付けたユーゼス=ゴッツォはその場を後に動き出す。
手駒の一つとしてここで賭けてみるのも面白い。一石として投じるのも悪くは無い。
どちらに転ぶにしても事は、愉快に進む。

 ◆

夜明けを待つ空はまだ暗く、夜気は未だそこここに満ちている。
その静寂を裂き、流竜馬が一人歩く。
迸る生気は余りにも猛々しく、際立っている。身を晒すことにいささかの躊躇もそこにはない。
悠然と草原の中、歩を進めてきた竜馬はそのど真中に陣取ると仁王立ち、敵機を見上げた。
目測で二、三十メートル上空。開け放たれたコックピットカバーの向うで、黄金の髪が棚引く。
仮面の女が見下ろしていた。
二つの視線が交わる。五秒十秒時が止まる。

「どうした? こっちは機体から降りてきてやったんだ。そっちは降りてこねぇのか?」
「今、降ります」

そう言うと女は実に流麗且つ軽やかに飛び降りた。
――馬鹿な、正気か?
思わず自分の目を疑ったその前で、全身のバネを柔らかく使い女が着地の衝撃を吸収する。ふわりと埃が舞い上がる
だがそれだけだ。派手な落下音など何処にもない。
ちょっとした段差。ほんの一メートル程の段差から飛び降りた程度の動きも無かった。
――なんてぇ足腰してやがる。

「どうかしましたか?」
「いや、何でもねぇ」

二、三十メートルの落差から飛び降りたことを、気にも止めていない。
何食わない顔で、ごく普通のことのように思っている。
そのことが相手が普通ではないことを、突きつけていた。
――チッ、そう上手くはいかねぇってことか。
女一人を縊り殺す程度ならば、多少の疲労など問題にもならない。そう思っていた。
だが出て来たのは、それが通る相手ではなさそうだ。
チラリと赤い敵機を盗み見る。大した損傷の無い機体。欲しいのはこいつだ。
だが、聳え立つ大型機相手に素早く乗り込む手立ては、流竜馬にはない。ならば――

「ベガです。よければ情報の交換などしたいのだけれど、いいかしら?」
「流竜馬だ。あぁ、いいぜ」

差し出される右腕。
それを握り返すと女は微笑んだ。柔らかい、人を包み込むような優しい笑顔だ。
竜馬も笑い返す。獰猛な、身震いするような笑みだ。
竜馬が腕に力を込めてベガを引き寄せた。ベガの体勢が崩れる。竜馬の両腕が首筋を通り過ぎ、うなじの位置で巻きつく。
さらにベガが引き寄せられ、竜馬の胸板が眼前に迫る。

「えっ?」

虚を衝かれたベガはただ困惑するばかりで、事態を未だ正確に把握していない。
その隙をついて腹部に強烈な膝蹴りがめり込んだ。一瞬息が止まり、絶息したベガが咳き込む。
首相撲から見事な膝蹴り。ムエタイで言うところのティーカウである。

「悪いな。手前の機体、貰っていくぜ」

さらに二、三発。そして、最後に勢いをつけた膝蹴りが顔面にめり込む。
仮面が砕け散る。呻きを挙げたベガが倒れこむ。手ごたえは十分。骨を折った感触は膝に残っている。
これで暫くはまともな動きは取れないはずだ。身のこなしさえ封じてしまえば、警戒するものはなにもない。
後は確実に止めを刺し、物言わぬ肉塊に変えればいい。
右腕を伸ばす。無造作に、無遠慮に、荒々しく髪を掴み引き起こそうとした、そのときだった。
倒れまともに動くことは出来ないはずの人影が大きく跳ねた。
よける暇も無い。腹部を強烈な衝撃が襲い、蹴り飛ばされた。意識が歪む。
しかし、さすがにそのまま倒れこむような失態は犯さない。瞬時に体勢を立て直した。
距離が開く。
むくりと起き上がる人影。それが揺れて消える。
一瞬、動けなかった。馬鹿な、と思う。
いくら暗がりの中とはいえ、人間などそうそう見失うものではない。
が、驚愕に立ちすくんだのもほんの一瞬。頭よりも体が先に反応を起こす。反射的に右腕が頭を庇った。
ガードした右腕ごと頭蓋を持っていかれそうな重い衝撃。その蹴りの鋭さは尋常ではない。骨が軋み、肉が悲鳴をあげる。
そのままの体勢。空中でもう一撃喰らわそうと女の逆足が動く。
その一瞬、女の顔が苦痛に歪み動きが鈍った。蹴り足を掴み取る。振りかぶり大地に叩きつける。
そして、間髪入れずに頭蓋目掛けて踏み下ろした。
が、同時に足を駆られて転倒。飛び起きたのは同時だった。
上段回し蹴り。それを女は仰け反るようにかわし、そのまま後へくるくると回転して距離を取る。
鉄錆びのような味が口内に広がり、唾と同時に吐き捨てる。視線は相手から片時もそらさない。
遠目に見ても呼吸がおかしい。やはり骨は折れているのだろう。
だが、およそ人間からは懸け離れた身のこなし。それはまだ残っている。

「聞きたい事があります」
「……なんだ?」
「金色の機体の名前は百式というのではないですか? パイロットはどうしました?」
「さぁな。しらねぇなぁ、そんなことは……だがあれを真っ二つにしたのは、この俺だ」

ベガが揺れている。本当に揺れているのは自分なのかもしれない。あるいは両方か。
頭部を狙ってきた鋭い蹴りは受けたものの、確実に脳を揺らしていた。
この相手を素手で倒そうと思えば骨の一本や二本ではすまない。そう思わざる得ない。
最悪、殴り合いの末に相打ちもありえる。そう覚悟させるほどの相手だった。
そして、それはよくない。だからといって今更殺り合わずに済むという状況でもない。
ちらりと背後の大雷凰を盗み見る。機体はまだ替えが利く。しかし、体は痛んだから取り替えるというわけにはいかない。
半歩機体ににじり寄る。
やりあうなら生身よりも機体でだ。そして乗り込むなら大雷凰だった。
聳え立つ赤い大型機にあの女よりも素早く乗り込む手立ては、自分にはないのだ。
次の瞬間、竜馬が全速力で駆け出した。
同時にベガも動き始める。どちらが相手よりもどれだけ早く機体に乗り込むか、それが勝敗を左右していた。

 ◆

闇に靴音が響く。それでハッとした。
時間が分からない。
後ろ手に縛られたまま流れた時間。与えられた思考の時間。
それが短いようで長かったのか。それとも長いようで実は短かったのか。
孤独な夜は時間間隔を奪い去っていた。

「ではバーナード=ワイズマン……いや、親しみを込めてこう呼んだほうがいいかな?
 バーニィ、時間は十分に与えた。君の返答を聞かせてもらおうか」

親しみを込めて? 腹の底で唾棄する。
抑揚のない、感情の一切が篭らない声。人間扱いされていないことは嫌でも感じ取れる。
『あんたが興味あるのは自分のこと。ただそれだけだ』そう、罵ってやりたかった。
だが、それが出来る状況でないことは分かっている。
今は立場が弱い、何も言うことが出来ない。強い者には従うだけ、そんな自分が惨めに思えてきて、情けなくなる。
だが、今はどうすることも出来ない。
それでも素直に従うことには抵抗があった。だから口を開く。

「答える前に根拠が欲しい」
「根拠……何のかね?」
「あんたに協力すれば生きて帰れる。そう思えるだけの根拠だ」

不機嫌を買うことを怖れながらも、どうとでもなれという気持ちがあった。だから言葉を重ねる。

「あんたの言っていることが丸っきりの嘘だとは思っていない。
 だけど、あんたに従っていれば簡単に生きて帰れる、そう言われて簡単に納得できるほど俺は子供じゃない。
 だから根拠が欲しい。このままだと俺は、あんたの言葉にYESと口だけで答えて、あんたを裏切るぞ」
「この状況で私を脅すか……見かけに似合わず勇敢な男だ。
 だがそんなことを言ってもいいのか? 君の命は私の手に握られているのだぞ」

その通りだった。現時点で命を握られているのは疑いようのない事実なのだ。
それを引き合いに出されれば、従わざる得ない。所詮、自分はその程度の小さな人間だ。
突きつけたのは、ユーゼスの側からすれば無視をしても一向に構わない条件なのである。
だが、このまま唯々諾々と言われるがままに従うのは受け入れ難かった。
思考を止めればきっと恐ろしいことが待っている。そういう気がしていた。
だからこれは賭けであり、抵抗だ。小心者の自分に今出来る精一杯の抵抗だ。
それこのまま終わらせたくはなかった。
無言を答えにして返す。視線を逸らすなと自分に言い聞かせる。体が震えだそうとするのを必死に堪えていた。
そのまま五分十分と睨み合いが続く。ふっと仮面の奥底に潜む目が笑った気がした。
その気配の禍々しさに思わず背筋がゾッとする。取り返しのつかない提案をしたんじゃないのか、そんな気さえした。

「まぁ、いいだろう。ここに二つ、君とって有益な情報の入った封筒がある。
 見せてやろう。ただし一つだけだ。好きなほうを選ぶがいい」

そう言って掲げられた二つの封筒には表題が振ってあった。
一つには『首輪』と。もう一つには『脱出』と。
選択肢の存在に驚き、どちらを取るか迷い、そして手の平で踊らされていることに気づいた。
どちらを選んでもいいという事は、両方に本物の情報が記されていること。
それを一つは見せ、もう一つは見せないことによって手綱を掴む。
見た情報が有益ならば従わざる得なくなるのは、自明の理だ。何も知らないままよりも身動きは取り辛くなる。
ユーゼスが「どうした? 必要ないのであれば……」そう言って、封筒を持つ手に力が込もる。
音を立てて破り割かれようとしたその瞬間――

「脱出だッ!!」

叫んでいた。ピタリと手が止まり、男が満足気に目を細めた気がした。

「ならば受け取るがいい」

そう言って差し出された封筒には『首輪』と書かれている。

「は?」
「何を驚いている? 誰がわざわざ欲しがるほうなどくれてなどやるものか」
「…………」

ひでぇ……なんて嫌な奴なんだ。心底そう思う。
目の前に首輪の封筒が投げ出され、それに手を伸ばそうとして……伸ばそうとして……。

「解析率は七割から八割。その図面を記しておいた。ただし、それが役に立つのはまだ……どうした?」
「な、縄は」
「それを私が許すと思うのか?」

視界に映るのは、見下ろすユーゼスの顔。その向うにある天井に折り重なる鉄骨。
それのそのまた向うに、巨大な何かが高速で突っ込んでくるのが見えた。
耳を劈くような轟音、そして激震。咄嗟に丸めた身に、剥がれ落ちたモルタルや金色の金属片が降り注ぐ。
数秒かけて轟音は小さな反響音に変わり、揺れはおさまった。天井を見上げる。
ぐにゃりと拉げた鉄骨、ひび割れ欠けて崩れたコンクリート、その奥に一目で異物と分かる塊があった。
目測で直径四メートル程のそれは、鉄骨に引掛かり、辛うじて落下を免れている。
何か小さな光を見事な金色が反射させている。断線したケーブルでも爆ぜているのだろうか、そう思った。
そして、頭の中で歯車が一つ噛合う。
――ここは何処だ?
視線を目の前で駆動音を立てている機械に走らせる。
――そう。ここは発電施設だ。

「ベガめ。しくじったか……いや、それにしては……」

目の前でユーゼスが何か呟いていたが、そんなものは耳に入らなかった。
基地のエネルギーを一手に引き受ける発電施設。当然、その為の供給ラインはここからスタートする。
発電機かエネルギー供給ラインのメイン。そのどちらかに火の粉が飛べば――
背筋がゾッとして、天井を凝視する。
大きく、小さく瞬く光。それが一際大きく爆ぜるのが見えた。

「伏せろッ!!!」

短く、鋭く叫んだ声は、爆音に掻き消される。
降り注いでくる大量の瓦礫。それが視界一杯に広がっていた。

 ◇

天井の底が抜け、瓦礫と化した様々なものが降り注ぐ。黒煙を上げて基地の一角が崩壊を続けていた。
しかし、元来が機動兵器での戦闘を前提とした基地。その最重要施設の一つである発電施設である。
そう簡単に全てが崩れ去るような設計は施されていない。
崩れるべきものが崩れ去ると、建物の崩壊は意外と短時間で終わりを告げた。
うずたかく積み重なる瓦礫の山。その前に立ち、ユーゼスは染み出してくる赤い血液を確認する。

「下敷きになったか……不運な男だ」

それ以上の感慨は湧いて来なかった。
確かに玉を砕く実験台に使いたいという気持ちはあった。便利な駒にも為りえたのかもしれない。
しかし、玉を砕くのは生きているときでなくとも構わず、駒は所詮駒でしかない。
だから、彼にとっては持ち駒が一枚減った、ただそれだけの出来事に過ぎないのである。
『脱出』の封筒を投げ捨てる。
中は空だ。何も入ってはいない。どちらを答えようとも『首輪』を渡すつもりだったのだ。
脱出の方策も考えている、そう思わせておいたほうが扱い易い。だが、それももう必要なくなった。
視線を上げ、天井を見上げる。
大きな穴が一つ、そしてまだ暗い空が見える。上階も被害を受けたのだろう。
視界の隅で目聡く機動兵器の欠片を見つける。
仮面の下の口元が人知れず笑った。
目の前の瓦礫を一瞥し、踵を返す。既に埋もれた人間などに興味はなく、その対象は乱入者へと映っている。
ユーゼスはベガに「極力施設には近づけさせないでもらいたい」と言った。にも関わらずこのような鉄塊が飛んでくる。
倒されたのか、逃げられたのか。だがどうやらこの鉄塊を打ち込んだ相手は、ベガの手に余る程の者らしい。
中々だ。中々の戦力だ。
力は強ければ強いほど、従えるのにも取り込むのにも都合がいい。
ならば自身が出向くことに何の迷いもない。
石を投げずともグラスの水は自然と零れ落ちた。後はどう動こうと自由である。
足が止まる。目の前には巨大な機動兵器。それをユーゼスは愛しげに見上げ乗り込む。
計器に埋め尽くされたコックピットに、ほの暗い明かりが灯る。
ラズムナニウムあるいはTEエンジンの制御の困難さから、本来ならば二人三脚での運用が行なわれるツェントル・プロジェクトの機体。
その立ち上げ作業をユーゼス・ゴッツォはただ一人でこなしていた。

「AI1、現状報告と状況分析を」

手を休めることなく呟く。同時に文字式の羅列が暗緑色のモニター一杯に表示された。
それを僅か一瞥しただけで頭の中に納める。
取り込んだゲッター線が異常なほどの活性化を見せていた。そしてそれが各所に影響を及ぼしている。
出力は上昇し、ラズムナニウムも活性化。解析状況ですら予想外の速度を見せている。
その解析データを万が一に備えて基地のメインコンピューターにバックアップ。そしてリンクを切り離すと、手を止めたユーゼスが笑った。
必要な作業は終了した。そして、解析からAI1が興味深い推測を出して来ている。後は――

「さぁ行こうか、AI1よ。更なる進化の為に」

 ◆

大雷凰に乗り込む竜馬。ローズセラヴィーに飛び乗るベガ。
二人が紡ぎ出す喧騒の狭間、一瞬の静寂が場を満たし駆動音が即座に打ち消した。
動き出す。ローズセラヴィーの稼動が一呼吸早い。
構え打ち出される閃光。
地に膝をついていた大雷凰が、横っ飛びに跳ねた。爆音が響き、その場が抉り飛ぶ。
一転、二転、三転。転がり続ける竜馬を全身から撃ち出される火線が追う。
一向にやむ気配のない銃声、集中豪雨のように降り注ぐ光の雨。圧倒的な火力は体勢を立て直す暇すら与えない。

「おい!」

そんな中、竜馬の声が叫ぶ。

「パイロットはまだ生きてるぜッ!!!」
「ッ!!」

真っ二つに切り裂かれた金色の機体。それが火線を潰すような形で、突然投げ出された。
咄嗟に射線が逸らされる。閃光が上方に飛び、一筋の閃光が夜空に立ち上った。
一息つく間もなくベガを戦慄が襲う。眼前に迫った黄金の機体、視界を塗り潰すそれに亀裂が奔る。
巨大なトマホーク。さらに二つに切り裂かれる黄金の機体。

「うをおおおぉぉぉぉぉおおおおおおりゃッ!!!!」

咄嗟に身を捻ったローズセラヴィーの右腕が、肩口から跳ね上がった。

「くっ!!」

間髪入れずに至近距離から撃ち出す火線。トマホークを盾に跳び退く大雷凰。
火花が散る。弾幕が竜馬を捉えた。
金属音が響き渡り、欠ける。ゲッタートマホークの刃が欠けていく。

「チッ!!」

舌打ち一つ。自身の不利さを悟った竜馬が、トマホークを盾に強引に突撃を試みた。
距離が詰まる。500……300…200…100、突然トマホークが投げ飛ばされる。
半身に避けるローズセラヴィー。その顔面に蹴りがめり込む。
舞い散る破片。上体が仰け反りぐらりと揺れるローズセラヴィー。しかし、頭部は完全には破壊されない。蹴り砕くには少しばかり固すぎたのだ。
勢いが止まる。大雷凰の体重が蹴り足に乗る。刹那の一瞬に生じる硬直。
その瞬間、意識が明滅する中でベガは大雷凰の蹴り足を掴んだ。
そしてただ無造作に、ただ力任せに、渾身の力を込めて大地に叩きつける。轟音。舞い上がる大地の破片が柱を為す。
一呼吸。跳びかけた意識を呼び戻す。その間隙を衝いて新たな衝撃がベガを襲った。
金色の破片が宙に舞う。
たたらを踏むローズセラヴィー。
いつの間に拾ったのか、それを考える余裕は無い。
逃れた大雷凰が飛び退く。
着地。
同時に何かを豪快に投げ飛ばす。
視界の中で何かが煌めいた。
指先にビームを集約。
刃を形成。
同時にベガの優れた動体視力は、飛んでくる物体を捉えた。
コックピットブロック。
切り払うのは容易い。
しかし、そこにはまだ生きた人間が乗っている可能性がある。
どうすればいい? コンマ数秒以下の思考がそこに囚われた。
避けるしかない!
結論が下る。
回避行動。
跳び迫る破片。
その向うから、跳ぶ様に間合いを詰めて来る。
掻い潜るようにして避ける。
同時に刃を下から上へ。
二つの機体が交錯。
馳せ違う。
互いに紙一重。
刃と蹴りが間際を駆け抜けた。
視界の隅に捉えた敵機を追って、ローズセラヴィーが振り返る。
視界の中、着地した大雷凰がもう一直線に駆け出している。肝が冷えるのを感じた。
流竜馬は駆けている。こちらにではない。こちらに背を向けたまま突っ走っているのだ。
それは明らかに基地付近に突き刺さったトマホークを目指している。
慌てて追う。追いながら唇を噛み締めた。
基地が黒煙を上げている。
コックピットだ。かわすしかなかったコックピットが直線上にあった基地を襲った。黒煙の正体はそれとしか考えられない。
しかし、速い。追いつけない。距離が徐々に開いていく。焦りが体を支配していく。
Jカイザー。一瞬、それが頭に浮かび振り払った。
相手は基地へ向かっているのだ。背後から撃てば、護るべき基地をも巻き込んでしまうことになる。
それはJカイザーに限らず、射撃全般言える事でもある。
基地から立ち上る黒煙が、何よりもそれを象徴的に教えていた。
今はただ愚直に追い続ける。それしか出来ない。目の前で開き続けていく距離、それがまた焦燥感を募らせていっていた。
不意に一つの通信が入り、仮面の男が映し出される。

「私だ。その男の相手は私がする。君には被害が基地に及ばぬようにしてもらいたい」
「しかし、ゼストは……」
「そうも言ってられる状況ではないだろう。それにその傷だ」
「何故……」
「この私が分からないと思ったのか? 声がおかしい。骨を何本か痛めているのだろう、違うか?」

押し隠していたはずの怪我を言い当てられて、言葉に詰まる。
事実だった。入れられた膝蹴りであばら骨が何本か折れているのだ。
激しく動き回れば臓器を痛める結果にもなりかねない。それは分かっていた。

「君にはまだ仕事が残っている。ここで倒れられては私も困るのだよ」

しかし、本当に死んで困る存在は自分ではなくユーゼスのほうではないか。そう思った。
思ったが、ユーゼスに取り合う気はなさそうだった。

「確認します。ユーゼス、あなたはあの機体に勝てるのですね?」
「無論だ。この私が勝算の無い戦いをするとでも?」
「……了解。基地の守りに入ります。ですが、あなたの生存が最優先です」
「いいだろう。重点的に護るべき箇所は送っておく」

そこで通信は途切れた。
ユーゼスの旗色が悪くなれば基地を見捨ててでも割り込む、このときはそのつもりだった。






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