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破壊帝王 -Destruction emperor- ◆ZbL7QonnV.




おそらくは規格外の力で強引に空間を抉じ開けたからなのだろう。
その座標は“軸”が捻れ、極めて不安定な状況に陥っていた。
二~三日で終わらせる予定だったデスゲームのため、急場拵えで仕立て上げた箱庭世界である。
さほど遠くない内に、崩壊の時を迎えるだろう事は予測されていた。
だが、これは……。

「ただ単純に空間が歪んだ、と言う訳ではなさそうですの」
バトルロワイアルの会場となっている、箱庭世界の外壁部分。
今は塞がれた“穴”の開いていた場所に立ち、アルフィミィは興味深そうに呟きを洩らしていた。
放送用の台本を読み終えてから間を置かず、彼女は好奇心に任せて行動を起こしていた。
バトルロワイアルが行われている会場内に直接乗り込む事は禁じられている。
レジセイアの命令が降りさえすれば事情は異なってくるのだろうが、今現在の指示は現状維持。
バトルロワイアルの進行以外に、レジセイアからの命令は下されていなかった。

アルフィミィとて、なんでもかんでも好き放題に出来る訳ではない。
ゲームマスターとしての裁量を大きく逸脱する行為までは、流石に認められていなかった。
偶発的な事態によって、バトルロワイアルの会場を飛び越えてしまったテンカワアキト。
彼に対する処遇でさえ、かなりギリギリの落とし所であったのだ。
参加者に対する直接的なコンタクト。新規機体の投入もしくは、破壊された機体の修復。
いずれもバトルロワイアルの公平性を保つ上で、好ましくない行為であった事は疑問を挟む余地も無い。
レジセイアの不興を買う事になっていたら、アルフィミィ自身が処罰を受けていた可能性も無いではなかった。
……もっとも、あの特殊な状況下では、その可能性が極めて低い事は理解していたが。

「ま、今は関係無い事ですの」
横道に逸れた考えを修正する。過ぎた事より、今は“コレ”だ。
そもそも自分の役割は、バトルロワイアルの進行である。
ゲームの進行に関与すると思われる事象に対しては、その詳細を正確に把握しておく必要があるのだ。
レジセイアは、空間に開いた穴の件に関して、自分に対して何の命令も下してはいない。
それはつまり、この事象に関わる事を“拒んでもいない”と言う事だ。
ならばゲームマスターとして、自分には異常事態を確認する義務がある。
なにも空間の管理自体に口を挟もうと言うのではない。この異常が今後の進行に対して、どのような影響を与えるのか知っておかなければならないと言うだけの事だ。
これならば、少々強引な理屈だと思わないでもなかったが、一応の言い訳程度にはなっているだろう。
実際の話、この“穴”まで近付いた自分に対して、レジセイアは何も言ってこようとはしていない。
暗黙の内に、自分の行動は許容されていると思って問題は無いだろう。

「ペロ。これは……ゲッター線!」
強引に抉じ開けられた空間には、ゲッター線の残滓が漂っていた。
どうも“それ”だけではないようだが、この異変にゲッター線の力が関与している事は間違い無いらしい。
そういえば、この空間が繋がり合っていたエリアは基地だったはず。
そして基地にはブラックゲッターが存在して、なおかつ流竜馬が接近していた。
ならば、何が起きても決して有り得ない事ではない。
だが、その流竜馬も既に死んでいる。バトルロワイアルの会場内からは、もはや彼の生命反応を感じられなくなっていた。
少なくとも、ひとまず事態は落ち着いたと見るべきだろう。
流竜馬、神隼人、巴武蔵。ゲッターチームが全滅した以上、ゲッター線の活性化は遠退いてしまったはずなのだから。
それならば、バトルロワイアルの進行役として、彼女が今最も気にしなければならないのは……。
「っ……! この……声は…………」
そこまで、彼女が考えを巡らせた時だった。
やおら強烈な意思の塊が、アルフィミィの意識に語り掛けてきたのは。
……レジセイア。
今まで沈黙を保っていた殺戮遊戯の真なる主催者が、ようやく動き出そうとしていた。

ザウッ……!

空間を切り裂いて、邪悪なる者が闇の淵より現れ出でる。
ペルゼイン・リヒカイト。
アルフィミィの半身である、赤鬼の異名を持つ機体……では、なかった。
その機体の名は、ジャークサタン。
五次元よりの侵略者である、ジャーク帝国の三次元侵略前線司令官・ベルゼブに、ライジンオー打倒のために与えられた機体である。
クリスタルボディを特徴に持った黒き機体の中で、アルフィミィは薄い笑みを浮かべていた。
「聞いた通りですの。ゲッター線の臭いに惹き付けられて、おなかをすかせたワンちゃんみたいに、ぞろぞろ集まってきちゃってますの」
バトルロワイアルの会場として創造された、箱庭世界の外部空間。
レジセイアからの命令によって、そこに転移したアルフィミィを待ち受けていたのは、奇怪な姿の生命体――インベーダーの群れであった。
ほんの僅かに箱庭から洩れ出た、ゲッター線の気配を嗅ぎ付けて来たのだろう。
次元の挟間に存在する箱庭世界――ゲッター線の発生源を見付け出すべく、異形の怪物どもは蠢き合っていた。
それほど、数は多くない。ゲッターの臭いに感付いたのは、ごく少数の者達だったのだろう。
不幸中の幸いだ。ここで奴らを全滅させれば、インベーダー介入の芽を潰せる。
バトルロワイアルのゲームマスターとして、為さねばならない事は決まりきっていた。
それに……。

「ジャークサタンの性能を試すには……ちょうど良い機会ですの」
『ッ…………!?』
ゲッター線の気配を探る事に没頭していたのと、ジャークサタンの転移位置が死角であった事。
その二つが災いして、インベーダーどもの反応が一瞬送れた。
そして一瞬の隙さえあれば、それだけでアルフィミィには充分過ぎる時間だった。
『ギャウゥゥウウウウウウウッッッッ!!!』
剣状の腕を大上段に構えながら、ジャークサタンはインベーダーの群れに突撃する。
それを迎え撃とうとするのは、無数の触手。グロテスクな肉の鞭どもが、うねりを上げて迫り来た。
だが……。
「無駄ですの」
ジャークサーベルの一薙ぎが、肉の鞭どもを斬り裂いた。
まるでパスタかなにかのように、触手は容易く千切られていく。
ばしゃばしゃと触手の断面から降り掛かる体液を気に掛けもせず、ジャークサタンは速度を上げていった。
――強い。
アルフィミィにとっては慣れない機体のはずだったが、その実力は彼女本来の乗機でと比べても引けを取りはしないだろう。
スピード、パワー、そして武装。その全てが高い水準で組み合わされて、アルフィミィの操縦技能を存分に引き出している。
そして、なによりも――

「ひゅっ――」
鋭く呼気を吐き出すと同時に、アルフィミィはジャークサーベルを一閃させる。
だが、それはインベーダーどもを切り裂く為に放たれた攻撃ではなかった。
ジャークサーベルによる一撃は、空間自体を斬り裂いていた。
そして、あろう事か――ジャークサタンは迷う事無く、その身を空間の裂け目に投じた。

『ギャウッ!?』
攻撃対象を見失った事により、インベーダーの群れに動揺が走る。
だが、それも一瞬の事だった。
何故なら次の瞬間には、空間の裂け目に消えたはずのジャークサタンが、彼等の背後に出現していたからだ。
「ふふ……なかなか、面白い機体ですの……」
ジャークサタン。五次元の技術で作り出されたその機体には、三次元の空間を自在に移動する能力を備え付けている。
だからこそバトルロワイアルのゲームマスターとして、この機体こそが彼女には相応しいと判断されたのだろう。
バトルロワイアルの進行状況によっては、箱庭世界の外部に乗り出さなければならない事態が発生する事も考えられる。
だからこそ、箱庭世界の中と外を行き来する事さえ不可能ではない機体こそを、レジセイアは彼女に与えたのであった。

「隙だらけ、ですの……」
ジャークサタンの胸部が激しく禍々しい輝きを放つ。
ジャーククリスタルビーム。インベーダーの群れを一斉に巻き込む形で放たれた高出力の破壊光線は、その威力を余す所無く発揮した。
……十数体は存在していたインベーダーの、およそ半数近くが一瞬で消し飛ぶ。
『……………………ッ!』
「悪くない武器ですの」
ペルゼインとは使い勝手こそ大きく異なるが、自分との相性は悪くない。それが、アルフィミィの感想だった。
「次は、この武器……試してみますの」
生き残ったインベーダーに狙いを付けて、アルフィミィは呟きを洩らした。
ジャークミサイル。肩の部分に格納されていたクリスタルミサイルが、勢いも激しく降り注ぐ。
先の破壊光線で態勢を崩していたインベーダーにとって、この一撃は致命的な追い討ちとなった。
傷付いた身体を庇う間も無く、インベーダーの数多くは次々と撃墜させられていく。
『ギャウウウウウウウウウッッッ!』
絶叫を上げながら、死骸と化していくインベーダーども。
圧倒的な戦力の違いによって命を狩り取られていく哀れな姿は、さながら生贄の羊を思い起こさせた。
……だが、大人しく狩られる事を良しとする者ばかりではない。
致命的な一撃を喰う事だけは免れた個体が、態勢を立て直して反撃に転じた。
『ギュアアアアアアアアアッッッッ!!!』
「受けて立ちますの」
剣と化した方とは反対側の腕を掲げて、アルフィミィは微笑みながら呟いた。
鬼気と共に迫り来るインベーダー。
だが、それに相対するジャークサタンは、剣を構えようとはしない。インベーダーに片手を構えたまま、その動きを静止させていた。
……まさかとは思うが、まともに攻撃を受けるつもりなのか?

「丸焼きですの」
いや、違った。
インベーダーに向けて構えた片腕が、灼熱の炎に包まれる。
ジャークフレアー。ジャークサタンの腕より放たれる、超高熱の火炎放射。
それがカウンターの形で解き放たれて、インベーダーを焼き尽くしに掛かっていた。
『ッ…………!?』
全力で突撃を仕掛けようとしていたインベーダーに、それを避ける術は無い。
ほんの一瞬。絶叫を上げる暇さえ与えられず、インベーダーは次の瞬間消し炭と化していた……。



「……さて。お掃除、完了ですの」
戦闘とも呼べない一方的な虐殺の後、アルフィミィは満足そうな笑みを見せた。
箱庭世界の外部に洩れ出たゲッター線が、ごく僅かな量であったからだろう。インベーダーは両質共に、さほど大した脅威ではなかった。
アルフィミィにとっては、良い肩慣らしと言えたであろう。今回の戦闘によって、機体の特性は概ね理解出来た。
データによれば、この基本形態から更なる強化を行う事も出来ると言うではないか。
邪悪獣の素体となるアークダーマが存在しないため、邪悪獣との融合による“スーパー邪悪獣”化する事は不可能に近い。
だが、絶大な力を取り込む事によって“グレートジャークサタン”に進化する可能性は残されているはずだ。
そしてレジセイアの力をもってすれば、進化に必要となるエネルギーを得る事も不可能ではない。
バトルロワイアル参加者の中には造反を目論んでいる者も少なくはないようだが、そう易々と反逆を許す事にはならないだろう。
もし首輪の解除に成功して、さらには空間の歪すら飛び越える事が出来たとしても――
このジャークサタンが、最後の障壁となって立ち塞がるのだから。

「……もう、こんな時間ですの。そろそろ、帰った方が良さそうですの」
ふと気が付けば、放送を終えてから一時間近くが経っていた。
そろそろ箱庭世界に戻って現状の把握に務めなければ、ゲームマスターとしての業務に滞りが生じる可能性もあるだろう。
「テンカワアキト……それに、キョウスケ・ナンブ……。貴方たちは、今……どうしてますの……?」
ふと思い出す、二人の男。
この凄惨な殺し合いに巻き込まれて、最愛の女性を共に失った者同士。
一人は血塗られた救済のため、修羅の道を歩むと決めた。
一人は託された想いのため、戦士としての道を歩むと決めた。
全く同じ絶望を抱えながら、正反対の道を歩む事となった二人。
ゲームマスターとして特定の個人に思い入れを抱く事は良くないとわかってはいたが……。
「できれば……私の見ていないところでは、死んでいてほしくはないですの……」
その幼い容貌とは不釣合いに艶然とした微笑を浮かべながら、蒼の少女は呟きを洩らしていた。



【アルフィミィ
 搭乗機体:ジャークサタン(絶対無敵ライジンオー)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:???
 第一行動方針:箱庭世界に帰還する
 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂
 備考:ジャークサタンは箱庭世界の内外を自在に行き来出来ます】

【二日目 6:50】



本編144話 悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち


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