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戦いの矢 ◆ZqUTZ8BqI6




「ガロード、どっちに行くんだ。近道はこっちだぞ」
「え? アムロさん、C-8に行くなら、ここから南にまっすぐ……」
「それは違うんだ。この空間は、壁を抜けると反対側に出られるようになっているんだ」

進み始めたガロードの言葉に割り込んでストレーガの指が北をさす。
そこには、白系の色を中心に、虹色の光を放つどこまでも続く壁があった。
アムロの言葉を聞いて、F-91は、急旋回。慌ててストレーガのそばまで戻ってくる。

「悪い悪い、アムロさん。俺、そんなこと知らなくて」
「いや、それも無理はないさ。俺も、逃げる時、咄嗟に光の壁に突っ込んだから知ってるんだ」

そう言ったあと、小さくアムロは歯噛みする。
過去に捕らわれていても仕方がない、と頭では割り切れるほど年は積み重ねているが、
感情まで抑えきれるほど、アムロも老成し冷めた人間になれているわけでもなかった。
あのときの戦いで、もう少し早く、あの獅子のマシンを撃破できたなら。
いや、戦力も少ないのに、行動する仲間を分割しなければ。
……シャアは、死なずにすんでいたのかもしれない。

「何を、考えているんだ俺は……」

ストレーガの中で、アムロは一人小さくつぶやいた。
シャア・アズナブル。いけすかない部分もあったし、そりが合うはずもない男だった。
だが、不思議と自分たちは出会い、時代に翻弄されていった。
結局、自分が何をつかんだのか? ――それすらもわからないままだ。
あの男は、何かを見つけ、つかんだのだろうか。
もし、シャアが何かにたどり着いたとして……
それがあの愚行、アクシズ落としへとつながったとしたら、アムロはやはりシャアの行動を否定する。

あの男は、焦りすぎたんだ。だから、現実も見えちゃいなかったし、すぐに物事に見切りをつけた。

アムロは、シャアの行動を否定した。
だが、あの男を考えるに当たって、忘れてはいけないことがある。

「この暖かさをもった人間が、か」

シャアも、人の心の温かさを知っていたし、そのことをはっきりと認めていた。
そして、それを知った上での選択だったということ。シャアは、人のエゴと優しさを知った上で決断したのだ。
自分との決着にこだわり、過去を引きずりながらも同時に人を知り未来のために決起した男。

自分に、その勇気があるのか?
いや、勇気と言うには少し違うかもしれない。
どうしようもないくらいすべてを理解して、他人を背負っていく気概、魂が自分にあるのか。

「ガロード……すこしいいか?」

光の壁を抜けて、おもむろに問いかける。

「どうやら、そのガンダムは俺たちの技術の延長にあるようだが……いつごろ作られたかわかるか?」
「うーん、ちょっと触っただけじゃ操縦法はわかっても、そこまではわかんないみたいだ。
……そうだ、ちょっと待ってよ。色々試してみるから、さ」

いったん地上に降りるF-91を見て、アムロもゆっくり降下していく。
幸い、ここは市街地だ。高層ビル群の陰に隠れていればそうそう見つかることはない。

「そうだな、一応目的地には着いた。なにかあると聞き逃すかもしれない。放送まで聞き逃さないように移動を切り上げよう。
……ガロード、さっき言った、最初のニュータイプの話を……少し聞かせてくれないか」
「ああ、いいよ」

軽く返事を返し、手を動かしながらガロードは説明してくれた。
酷く、哀しい人間の業そのものが詰まったような物語を。
ただ、アムロはぼんやりとそれを聴き続けた。ただ、ひたすらに聞く。
何か、理解できる気がして。

「―――で、言ったんだ。
『ニュータイプは人の革新でもなければ戦争の道具でもない、ただの人間だ。それは幻想だ』って」
「そう……か……」

アムロは、それだけ言うのが限界だった。
だが、作業をするため画面に集中していたガロードは、アムロの顔色に気付かず、さらに言う。

「お、調べたら結果が出たよ。 えーっと、宇宙世紀123年、バイオ・コンピュータを利用したニュータイプ仕様……」

そこまで読み上げた後、ガロードも怒りに顔をゆがませる。
アムロは、なぜガロードが怒っているのかよく理解できた。
なんてことはない。これは、ニュータイプを戦争の道具として使うモビルスーツでしかないのだ。
……それも、あの人の光を見せた時から30年もたった、自分たちの未来の、だ。

人は、力でメンタリティを容易に変容させる。
それこそ、急に力を手に入れた反動で、一夜にして別人同然になることもある。
逆に、己を脅かす力をもつ存在の登場によって、周囲の人々のほうが変わっていくこともある。
一人の人間が持つ力が、すべての人間の心の在り方すら捻じ曲げる。

まさに、ニュータイプがそうだった。
驚異的な力を持つと畏怖されたこともあった。逆に人間の革新ともてはやされ、尊敬されたこともあった。
お互い、人間であることに変わりはないのに。

ニュータイプは幻想である。

アムロは、そのガロードの意見を、素直に受け入れる。
だが、哀しかった。あまりにも悲しすぎた。

よく似た並行世界でも、ニュータイプは戦争の道具として扱われ、血を流す原因となった。
あの日から、30年たった自分の世界でも、何も変わっていない。

これが、『人の業』とでも言うのか。
シャアは……シャア・アズナブルはこの絶望を知っていたのだろうか。
人は、決してメビウスの輪から抜け出すことはできず、あらゆる世界、あらゆる時間で罪を重ねるのだろうか。

「……そろそろ、放送だな。そちらに集中しよう」

ガロードに言っているのか、自分に言い聞かせているのかもはっきりしない心地だった。
そう言って、ディバックから、地図とメモ、ボールペンを引っ張り出す。
時刻は、18時間が経過し、朝の6時だった戦いの開始も、今では夜更けとなっている。
最初の6時間では、10人だった。
仮に、このペースで死者が増えているとすれば、単純計算時間が倍になっている以上、死者は20人。
いや、参加者が減れば減るほど、殺し合いは減速する。それを考えれば、16,7人。
もっと少ないことを祈って、アムロは鳴り始めた音楽に耳を傾ける。

しかし、その内容はアムロの予測を上回るものだった。


「なんだって……二十……一人だと?」


あの部屋には、50人弱しかいなかった。
最初の放送で、10人が死亡。6時間経過時の残りは40人と少し。
その40と少しの人数の中で……この12時間で、21がさらに脱落した。
つまり、6時間経過時の生存者の半分が死亡したことに他ならない。

アムロは確信する。人が減っても、殺し合いは減速していない。
むしろ、減った状態でありながら時間の単純比以上の人間が落ちたことを考えると、その加速度は猛烈な勢いで増している。

呼ばれた名にはギム・ギンガナムの名もあった。
危険人物も当然返り討ちその他で減っているだろうが、
それでも、この場は殺し合いにのった人間のほうが現在優勢であることは疑いようがない。

こんな理不尽に殺し合えと言われて、それでも最後に一人になるまで殺しあってしまう人間。
この世界は、多くの世界から人が集まっている。多種多様な世界の知恵をもってしても、人は食い合うことをやめられない。

シャアの名は、覚悟していた。だから、受け止めることはできた。
しかし、放送から流れたそれ以外の情報は、どれも顔を強くゆがませるのに十分なものだった。
唯一の救いは、自分たちの合流相手、クインシィやジョナサン、そしてブンドルの名が呼ばれなかったことだ。

もう、一刻の余裕もない。
可能な限り迅速に、こちらの戦力を落とすことなく、反抗勢力を集めなければ、勝機は完全に失われる。

「ガロード……合流を急ぐぞ。うかうかしてる暇はなさそうだ」
「ああ、わかったよ。……おっさんの分まで頑張らなきゃな」

おっさん、というのは話に聞いた神隼人だろう。
だれもが、苦痛を乗り越え、消えた人々を背負って生きている……とアムロは知っている。
この世界はそれが顕著なのだ。言うならば、ここは世界を凝縮し縮めた箱庭――

「そうか……そういうことか、これがあの化け物の目的なのか……」

アムロは、直感的に気付いた。この世界の、意味を。
ストレーガのアイ・カメラで周囲の住宅街やオフィス内を急いで探索する。
……人のつかった痕跡が、いっさい見当たらない。
それが、アムロの予感に、さらに確信を与えてくれる。

最初から、アムロが感じていたことがある。
違和感、とも言ってもいい。この世界には……あまりにも人の思念が感じられない。
無限に広がるような感覚を与えながら、雑念というか、ごちゃごちゃしたものがなさすぎるのだ。
だから、離れた場所でもニュータイプでも何でもないギンガナムの気配を手に取るように感じることができた。
冷静に考えると、意識もせず集中もせず遠く離れたニュータイプでもない人間の思念を、つぶさに知ることができるのはある意味異常だ。

この世界に、人はいない。いなかったという過去系ではない。過去未来現在、あらゆる時間で自然には、ここに人はいない。
いるのは、連れてこられた自分たちだけだ。

不純物の混ざらない、なにもない人間の世界のジオラマに、生贄を用意することで『世界』を再現する。
自分たちをひねりつぶすだけならたやすくやってのけるような存在が、そんなことをやる目的は何か?


言うまでもない、実験だ。


不純物を取り出し計測に無駄な幅が出ないようにするのも、
小さい事象の投影から全体を予測、理解するのも、
まさに実験そのもの。
ここは、実験用のフラスコの中なのだ。

だが、ここでもひとつだけ疑問が残る。
では、彼らはそれを計測することで、何を知ろうというのか……?

「それこそ……人の業なのかもしれない」

あの化け物が、神だとは認めない。
しかし、神のごとき力を持っていることだけは間違いない。
さっきも言ったが、力で心は容易に変わる。

ならば。
あれほどの力を持つ存在が、人間と同質の精神を持っているだろうか。人間の心を理解できるだろうか。

――絶対にNO。

理解できないからこそ、こんな世界を作り上げ、観察することで人間を理解し、判断しているのだろう。
そして、観察から何をしようとしているのか……?

「認められるものか……!」

アムロは、あの化け物を認めない。どんな結論を出したとしても、決して認めない。
シャアは、人間の中で生き、人間として悩み、人間として業を背負い、人間の業を知って立ち上がった。
だが、あの化け物は違う。人を超越した世界で生き、人の心を知らず、悩まず、神の如く力を振りかざす。

人は、弱く脆く、愚かなのかもしれない。それは、人を超越した種から見ても明らかかもしれない。

けれど、どれもまた、すべて人間が背負い、乗り越えるものだ。
人間でない存在に、指図されるほど落ちぶれちゃいない。人は、それでも乗り越えられるんだ……!

「――シャア。お前が見たものはこれだったんだな」

アムロは知った。
シャアが見たものは、人間の未来という希望だったのだ。
どうしようもなく居間に絶望していながら、人間という種そのものの未来は、だれよりも信じていた。

自分も、同じだ。
決して、人間を見放したしたりはない。もし、そんな存在がいるなら、全力で戦うまでだ。

「ガロード。すまないが、マシンを交換してくれないか」
「急に、黙りこくったと思ったら……どうしちゃったんだよ、アムロさん」
「F-91がニュータイプ用のマシンだと言うのなら、俺が乗ったほうがいい。そのほうが、戦力になる。
 ……もうシャアのような過ちは繰り返させない。俺はただの人間だ。だから、決して人間を見放したりはしない」

シャアを失った時のような、力不足からくる過ち。
シャアが起こしたような、人の業と絶望からくる争い。
そのどちらも、もう沢山だ。

ニュータイプは万能ではない。これからも、ただの人間である自分は失敗し、悩むだろう。
それでも……それでもだ。

必ず、人はいつか乗り越えると信じ続けよう。


そして、あの化け物を討ってみせる。


マシンの交換に、ガロードは、少し渋る様子を見せたが、結局変わってくれた。
彼曰く、「人を戦争の道具にするような、ニュータイプをパーツにするようなMSには乗せられない」らしいが、
アムロも、珍しく我を通した。アムロは知りたかった。自分たちの技術の果て、ガンダムはどうなったのか。
せめて兵器は、変わっていけたのか。

シートに座りこんだとたん、頭に流れ込む操縦方法。
はっきりと感じる、サイコフレームやバイオセンサーに近い感知器の存在。
自分の認識できる世界が、一回りも二回りも広がったような感覚を覚えた。
ざらつきに似た、会場を覆う思念。覆いかぶさるような参加者たちの嘆きと慟哭といった激情の数々。

「! 来る……!」

とたん、目を向いて虚空へ視線を投げやるアムロ。その急な動きを見て、ガロードが慌てた様子を見せた。

「な、何が一体来るって言うんだよ!?」
「かなり、大きな悪意が1つ……弱いが、明らかな敵意がもう一つ」

時計を確認すれば、もう24時30分だ。

「不味い、早く合流しよう」

そこまで言った時だった。


天空に駆け上がるように、光の線が流星のように空を切り裂いたのは。


―    ―    ―     ―


「おお? ハハッ、こりゃおもしれぇ」

C-1エリアの端で、黒いガンダムが、光の壁に体を突っ込んだり出したりして遊んでいる。

「しっかし面白い仕掛けだな。いまさら驚かねぇが、こんな便利なもん最初に教えとけよ」

放送なりなんなりで教える機会もあったのに、教えないとはあの譲ちゃんも人が悪い。
もっとも人じゃあないのかも知れねぇが……それはさておいて。
知っていればいろいろ楽しめたかもしれなかったってのに。
結果的にはいい感じなわけだが、やっぱりペナルティは必要だろう。
いや、やっぱり人じゃないからこそ、人間様の礼儀ってもんを教えてやる必要があるか?
まあ、どっちの道……

よし、殺そう。

あまりにもナチュラルに危険思想を振りまく、この男の名はガウルン。
本名かどうかも不明で、9つの偽名を持つことからそう呼ばれる傭兵だ。
息をするように人を殺せるガウルンという男は、上機嫌で獲物を探す。
さっき戦った相手でも、盛り上がることは盛り上がったが、すっきりさっぱりとは程遠い結末だった。
だから、この微妙で半端な高揚感を抑える相手を求めて放浪する。

もっとも、彼に本当に満足が訪れるとは思えないが。
もし仮にあったとしても、どれだけ殺せば腹が膨れるやら、わからない。

「半端はいけねぇよなあ、半端は……」
さっきは、なかなかダンスにはいいお相手だったが、積極性が足りないってもんだ。

体を汚すのを嫌がる娘みたいに、傷つくのを恐れすぎていた。
最後に、腕一本持ってかせる度胸があったとしてもまだまだ欲求不満だ。

「やっぱり、なかなかおいしいモノにはありつけない……ってとこか?」

彼からすれば、禁止エリアの発表以外に放送に意味はない。
せいぜい、時報のかわりくらいだ。時報……と考えて、ふと時間が気になった。
時間を、ちらりと見ると、時計は24時26分を指している。

ガウルンは、闇雲に動き回っているわけではない。
最初にこの会場に転送された時はともかくとして、それ以外は、ガウルンは人の集まりそうな場所を中心にめぐっているのだ。
最初の森を抜けて、まずガウルンは考えた。
そして、ガウルンの出した「どこに人が集まるか」というクエスチョンの答えは、ずばり「街」だった。
ビル街などは、当然食料などの物資も補充しやすく、姿を隠す場所も多い。
自分の常識などを考えれば、籠城する相手はそういった場所を選ぶ傾向が強い。

ぼんやり平地や森にいる連中は移動中に自然と見つけられる可能性もあるし、自分から出向いて探す必要もない。
だが、わざわざ探さないと獲物が見つからない点は、まわる必要がある。
それも、逃がさないように底さらいに、だ。

だから、森からわざわざ南下して地図下端の街にまず出向き、次に中央の廃墟に足を運んだのだ。
結果はもう知っての通り、そこに隠れていた連中を見つけては、ガウルンは楽しんでいる。
下の街から中央の街の廃墟、とくれば次の進む先はもう言わずもがな。当然上の街だ。

下から上に、潜んでいそうな場所を、プレゼントボックスでもあけるつもりですべて回る。
最後は、メインディッシュに南東の工場と考えていたところだったが……
もっとも、上から下へワープできることが判明した以上、これはあまり得策ではなかったようだ。

いつでもどこでも縦横無尽に逃げるというのなら、しらみつぶしにする必要はない。

よし、ここを回ったら工場へ向かおうと一人心に誓うガウルンだった。

少し話はそれたが、だからガウルンはA-1、B-1の街を目指した。
もっとも、厳密にはその東にある廃墟のほうが近いのだが、ガウルンに射撃の的になる趣味はない。
空を飛べないマスターガンダムが推進力を利用しながら水上を進むのは、
廃墟に潜んでいる人間から「どうぞ、殺してください」というのとまったく同義。

というわけで、ほぼ全速力で北上していたガウルンは、光の壁に出会った。
ちなみになぜ全速力かというとこれもさっきとまるきり同じ回答で、ガウルンに射撃の的になる趣味はないからだ。
大した遮蔽物もない平原で、遠距離攻撃を苦手とするマスターガンダムがゆっくり進んでいては、ただの的だ。
時速250kmは出るモビルファイターでも、優秀な射撃補正ソフトの前ではドン亀だ。

余談だが、ガウルンが極力遮蔽物の多い街や森などで戦おうとしているのは、
何かに隠れて近づかねば、相手が逃げてしまって楽しめないのに加えて、マスターガンダムが近接特化なのも大いにある。
とにかく、距離を詰めて自身も機体も得意とする近接戦闘に持ち込めば、負けないと思っているからだ。

ただ、単純に自堕落で享楽的に見えるが、その認識は間違っている。
ガウルンは自身の経験と、だれよりも狡猾で深い戦闘および戦術の判断で冷静に戦う、歴戦の戦士……いや修羅なのだ。

さて、光の壁をくぐって1番ラインの街に戻ろうと思った時だった。


天空に駆け上がるように、光の線が流星のように空を切り裂いたのは。


「次の祭りはあそこか」



―    ―    ―     ―

「―――っ!」

統夜は、地面を異常な速度で疾走する影を見つけ、ビルの陰に隠れる。

銀色のマシンだ。かなり大きい。ヴァイサーガと同じくらい……60mはある。
だが、その巨体の割に、線があまりにも細い。
スレンダーな騎士タイプのヴァイサーガを、さらに細く絞ったようなマシンで、腕にはドリルが付いている。

「やっと……また見つけた」

そう言ってコクピットで統夜では息を吐く。
見つけられたことを安堵しているのか、それとも見つからなかったことを安堵しているのか。
どちらともつかない微妙な溜息。

時刻は約一時間ほど前だったろうか。
統夜は、当初の目的通り、C-7にまで来ていた。……順調とは程遠かったが。
街中に入った途端、別方向――北のほう――から、前述のマシンが現れたのだ。

自分から不意打ちを仕掛け、相手に致命傷を与えてから戦おう、とは決めていても、
咄嗟にそれが実行できるほど統夜の心も技量も追い付いていない。
突然全力疾走でこちらに向かってくるマシンを見て、統夜は姿を隠したのだ。
正面から戦うことを避けるのもあったし、純粋に統夜が見せた一般人的な反応でもあった。

とにかく、細かい理屈はいい。
統夜は、とにかく向こうが全力疾走していたのやらビル街で視界が悪いのやらこの一帯のミノフスキー粒子が濃かったやら、
もろもろの条件で統夜は接触を避けることができた。

それでも、一歩間違えれば正面から戦うはめになっただろう。
統夜も胸をなでおろしながらも、ここにきてからを思い返して背筋が冷たくなった。

そう言えば、自分が切り伏せたあの天使のようなマシンも、まともに考えれば交戦域だったのに気付かなかった。
青い重装なマシンに関しても、ある程度を通り越してかなりそばでやっと気付いたものだった。
そして、今自分も向こうの接近を彩も駆使できる辺りまで気付かなかった。

……どうも、ここはレーダーがあまり役に立たないらしい。
ある程度高性能なレーダー――戦艦や電子戦用――はともかく、普通の戦闘用のマシンのそういった機能は低下しているとしか思えない。

つまり、予想外からの一撃、その一瞬で終わる可能性だってある。……もちろん、命が。

「逆に考えるんだ、こっちだって奇襲しやすい。こっちに有利だと思うんだ」

これは人と出会って行こうと考えている人間ほど、不利に働く。
出会うチャンスを見失うことも多いのだから。
では、逆に一番この恩恵を受けるのはどんな人間だ?

――他でもない、自分のように極力見つからないように身を隠し、不意討ちを仕掛けようとするような人間だ。

とことん、この会場は人を殺す側に有利にできてるんだな、と乾いた笑みを浮かべるのが限界だった。


その成果、とでも言うべきか。
さっきの放送では、21人もの名前が呼ばれていた。
ゴールが縮まった実感はまるでない。それどころか、まるで今やっとスタートラインに立ったような気がする。

統夜は、コクピットの壁に小さく頭を打ち付けた。

「こんな時に、なに迷ってるんだよ……」

今更ながら……放送に、自分とテニアの名前が呼ばれなかったことにほっとした自分に嫌悪感を覚える。
自分は死んでないのだから、呼ばれるはずがないと頭では分かっていても、
挙された名前に自分と自分の知り合いが含まれていないことを感じて心底自分は安堵していたのだ。

あれほどさっき心に決めたはずなのに、放送一つでまた悩んでしまう自分の弱さが疎ましかった。

「どうせ、みんな死ぬんだ。いまさら悩んだって仕方ない」

そう自分を鼓舞する統夜。
ゆらりと、真っ赤な目を輝かせ幽鬼ごとくヴァイサーガが立ち上がる。
こっそりと、通信を合わせてタイミングを取ろうとして……やめた。
相手の会話を聞いたって、なんになるだろうか。
まして、相手は「一人」なのだ。仲間の機影も見えないのに、一機でぶつぶつ何かを言うことはないだろう。

とにかく、相手が一瞬でも隙が見せたら、そこに光刃閃を叩き込む。

それ以外、ない。

ビルの暗がりで、暗い決意を胸に少年が立ち上がる。
銀の背中を追いかけて。


―    ―    ―     ―


「遅い! ……ガロードはいったいこのエリアのどこで待っている!?」

今にも癇癪玉を破裂させそうなクインシィに、肩をすくめるジョナサン。
その動きがまた更に癇に障ったのか、クインシィは声を張り上げた。

「なにか文句があるか、ジョナサン=グレーン! 放送は聞いたろう、ガロードもガロードの仲間も生きている。
 なら、必ずこの周辺にいるはずだ!」
「オーケイ、クインシィ。今回ばかりはあんたと同意だ。ガロードと合流することは、すべてに優先される」

やれやれと思う気持ちをぐっと押し隠して、ジョナサンは真・ゲッター2を走らせる。

確かに、放送を聞く限り、ガロードも、その仲間の「アムロ・レイ」も死んでいない。
だが、これは死んでいないだけでここに来られない可能性も、十分にあるはずだが……
ともかく生きている以上、ガロードはここに来ると信じているというわけか。

放送前には二人はC-8エリアに侵入していたわけだが、ガロード達はまだ来ていないのだろうと待っていた。
放送を聞いて20分。生きていることが分かり、さすがに遅いという話になったため、こうやって真・ゲッター2で探索しているのだ。
さすがに、人間に例えれば100mを4秒台で走りける真・ゲッター2。
それでも、1エリアが50km四方となれば、60m級の機械でも1,5km四方には相当するだろう。
こうやって駆け回って探し出して5分。地を走るゲッター2では効率が悪い。

「ジョナサン、私に変われ」

――空から探すのか? 逆に、襲撃者がいれば格好の的だろうな。

そんな言葉が喉までせりあがったが、さらに飲み込む。
今断れば、分離してでも探しに行きかけない気配がクインシィからは発散されている。
まったく、病気が過ぎる。だが、どちらも危険となればまだ自分が同伴しているほうが安全は高まる。

「……そちらも分かった。 チェェェエエンジッ!」
「真・ゲッター1!」

音声入力とは言え、毎回こうやって叫ぶのかと喉を首輪の上から小さく触る。
瞬間、3機の戦闘機に分離して、ゲットマシンが空に舞い上がる。

それでも、一応不審なモノはいないかと地上のビル群をカメラで睥睨したとき―――

ジョナサンの視界の端、闇に隠れて見にくいが、確かに濃紺の影がよぎる。
しかも、確実に、こっちに向かってきている――!

「クインシィ、敵だ! 的になる前に避けろ!」

とっさの判断。今ここで、重要なのは見えた影が敵か味方かにあらず。
自分が、無防備な姿をさらしていることこそなによりも気にすべきことだ。
だから、ひとまず敵と決め付けて、危機感をあおる。

「どちらからだ!? このままわたしに操縦をよこせ!」
「そのまえによけるんだよ! ぐううああっ!?」

真・イーグル号を強引に追い抜いたため、強烈なGが体を締め付ける。
それでも、真・ベアー号に誘導信号を送り、急に絵の前現れた真・ジャガー号のため、
ふらついたイーグル号にドッキングさせる。
間一髪、真・ゲッター2は光の刃が届くよりも早く変形を完了させる。

「何をする、ジョナサン。私に変われ!」
「その返事はNO以外ない!」

そのまま、敵も確認せず安定もとらず真・マッハスペシャルを使用。
本来は、完全に分かれて3つになるはずの分身は、時間不足により半端に重なり合った形で現れる。

だが、相手は減速の様子を見せず、全速で突っ込んでくる。
そのまま光の速度で駆けあがる一刀は、空高く打ち上げられ……
次の瞬間、3重の真・ゲッター2のうち、右端の一機の頭から股下まで切り飛ばした。
しかし、それはフェイク。本物は、中央の真・ゲッター2だ。
青騎士の撃ち出した一撃は、真・ゲッター2の右胸を大きく切り裂いただけで、撃墜には至らない。


24時30分。人工の光もなく完全に漆黒に彩られていた世界、光の矢が大地から空を貫くように飛んだ。
無と負に彩られた黒い大地で、一人の少年の放った輝きが、人を呼び寄せることになるとは……少年は気付かなかった。


刀を振り切ったまま切り抜け、急慣性で動きを変えることもできず、さらに空へ舞い上がる青騎士。
一方、それを尻目に大地へと落下していく真・ゲッター2。
この隙に、ジョナサンは地面に着地すると一目散に、青騎士から離れるように駆けだした。

「なぜだ!? なぜ逃げるジョナサン!」

クインシィの声。操縦に意識を割いていたため、無意識に声を大きくしながらジョナサンは答える。
必死に、集中のすきまでひたすら自分に冷静になることを意識させる。

「今は、ガロードと合流することが優先だ」
「目の前に現れたモノを投げ出してか!? あれは私たちを傷つける!」

「……俺は、ガロード・ランを信じていない」
「何をこんな時に言っている!?」

息を大きく吸って、一息に言い放つ。

「俺を信じ、従えと言うつもりはない。
『クインシィ・イッサーが信じているガロード・ラン』を信じろと言っている。
あんたの信じた男は、約束を破っていると決めつけて裏切れるほどの男か?」

「うっ―――」

言葉に詰まるクインシィに、さらにジョナサンは追い打ち同然の言葉をかける。

「もう一度言う。俺は、ガロード・ランを信じていない。だが、クィーンであるあんたの判断は信用する。
 だから、俺は『ガロード・ランを信じているクインシィ・イッサー』の、ガロード・ランを信用する」

――恨みもするが、今回は感謝もするぜ、ガロード・ラン。

真・ゲッター2がビルをドリルで掘り進みながら、ヴァイサーガから距離を取ろうとする。
しかし、ヴァイサーガもスラスターを全開にした高速移動で空を駆け、追走してくる。

「やるんだ……、今ならできる」

通信から漏れる相手パイロットの焦った声。
いいぞ、と内心笑みを噛み殺した後に、すぐに表情を引き締める。

相手は、こちらが合流しようとしていることを知らない。
いや、気づいていたのかもしれないが、相手を逃がすかもしれないという焦りでそれを忘れている。
ならば、このまま危険を覚悟で振り切るために建造物を破壊しながら走れば、ガロードたちは物音に気付く。
そうなれば、2対1……いやガロードと合流した相手もいれば、3対1、4対1の状況を作れる。
クインシィに危険が及ばないように真・ゲッターをひかせ気味に戦っても、盾になる駒がいれば問題ない。

(問題は、本当にガロードが来るかどうかだが……)

あれほどクインシィに大きく啖呵は切ったものの、本当はガロードのことをジョナサンは信じていない。
むしろ、キラのように来ない割合のほうが高いとも思っている。

時間を、ちらりと見る。

時刻 12:33分

――30分だ。
同じエリア内にいるのであれば、どれだけビルのような障害物があっても、駆け付けられるはず。
30分たって合流できない場合、来なかったと思っていいだろう。

ガロードとこのまま30分合流できない。
かつ、30分こいつを振り切ることができないのであれば……

「自分がバロンとしてやるしかないということか」

ジョナサンも、奇しくもアムロやブンドル……そして同時にテニアとほぼ同じ思考をたどっていた。
この場は、殺し合いに乗った連中のほうが、圧倒的に強い。そうでなければ、ここまで急激に減ることはないはずだ。
つまり、多少強いマシンでも、1機というのは危険すぎる。

だから、戦闘でき、かついざ自分が後ろから漏らさず撃ち殺すこともできるような……
自分とクインシィを含み4,5名のグループを作る必要がある。

そのためには、結成の要因となるガロードの存在は必須だ。
彼女の病気が悪化する恐れもあるとしても、これは絶対。
クインシィが自分の制止を振り切り、単独で動き回る危険があるのは今さらな話だろう。
止めるのも難しい。

その行動に付きまとう危険は想像以上に高い。
はっきり言って、むき身の体でグランチャーやブレンパワードに戦うにも等しい。
それが、あの放送で知りえた情報だ。

クィーンたる女は、周囲の働き蜂のそばから離れてはいけない。仮に女王がそれを望んだとしても、だ。
だが、女王はだれの意にも従わず、自分の意思を通すだろう。
それが、女王なのだから。

(だからこそ、ガロードがいる。やつは勇と俺の身代わりになってもらう)

ジョナサンは、考える。
ガロードはクインシィの抑制剤になりえる。
依存し始めた今ではその効果は中々といったところだが、これからさらに行動を共にすれば効果はぐんと上がるだろう。
女王を、自然と安全な方向に誘導する。
依存が加速することと、生死の危険を抑えること。
さっきまでは、前者の天秤のほうに傾いていると思ったが、実情逆だった以上迷いはない。
意地でも、ガロードにはクインシィを抑え、守ってもらう必要がある。
それが、ガロードに与える勇の身代わりとしての役目。


ジョナサンは、考える。
ガロードといれば、クインシィの暴走はひとまず抑えられる。
戦う力もある以上、クィーンのためのルークにもなりえる存在。
ならば、自分が何をすべきか。ジョナサンの目的は、女王をオルファンに帰還させること。
そのためには、クインシィを最後の一人にする必要がある。

反抗者を集って脱出する? あの化け物と戦う? 

その発想は、あまりにも甘ちゃんの発想だったと今のジョナサンは理解している。
放送を聞けば、一目瞭然。自然と、化け物と戦えるだけの力を持つ人間も倒れていくだろう。

ジョナサンの出した結論。
次の第3回放送ののち、グループを離れて参加者を狩る。
そして、最後に自分たちのいたグループ――ガロード含む――を殺す。
これから12時間で、クインシィの依存は完成するはずだ。
そうなれば、自分が目を切ることに問題はなくなる。
ジョナサンがいない間、クインシィを守る……それが、ガロードに与えるジョナサン=グレーンの身代わりとしての役目。


「女王のルークをやらせてやれる程には信用しよう、ガロード・ラン……!」


ジョナサンが、真・ゲッター2で駆ける。
ただ、ひたすら夜の街で他者信じて。


【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:微妙に焦り、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、若干のEN消費、烈火刃一発消費
 現在位置:C-8端(C-7の市街地視認可)
 第一行動方針:合流前に真・ゲッターを落とす。
 最終行動方針:優勝と生還】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日)
 パイロット状態:疲労小
 機体状態: ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)※再生中
 現在位置:C-8
 第一行動方針:ガロードとの合流
 第二行動方針:勇の捜索と撃破
 第三行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています)
 第四行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ~世界最後の日)
 パイロット状態:良好
 機体状態:ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)※再生中
 現在位置:C-8
 第一行動方針:ガロードとの合流
 第二行動方針:強集団を形成し、クインシィと自分の身の安全の確保
 第三行動方針:第3回放送後は、参加者を狩る。
 最終行動方針:どのような手を使ってでもクインシィを守り、オルファンに帰還させる(死亡した場合は自身の生還を最優先)
 備考:バサラが生きていることに気付いていません。





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