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争いをこえて ◆7vhi1CrLM6




両の眼を目一杯見開いたその顔は、驚きに揺れていた。
何故この遭遇を考えなかったのか。
あの大乱戦から約六時間。既にこの周辺にはいないとタカを括っていた。
六時間もこんなところで何をぐずぐずしていた、と自らを棚に上げて思う。
絶句した顔には苦笑いすら浮かびはしない。
カティアを殺し埋めた岩山の上空を抜け、G-6からE-6の平原に入り十数分が経過した時のことだ。
オルバが北から南下してくる機体を確認した。
黒を基調としたボディーに四肢に誂られた円筒形の赤いタービン。
切り裂かれた左腕は失われて久しく、耳の位置で左右に細長く伸びているはずの角もまた一方は失われている。
全てが一致している。間違いはない。
先の混戦で直に手を交えたあの相手――ロジャー=スミス。

「これやばいって……」

滲み出た声にはっとして通信機のランプを確認する。コンディションレッド、不通を確認して冷やりとした汗を拭う。
取巻く状況が難しいのだ。
三隻の戦艦がしのぎ合うあの混戦の中、最初に相対したのが不戦を訴えていたこの交渉人だ。
それに対して自身は敵対した。ソシエの怪我、無敵戦艦ダイの存在という根拠を持って葬り去ろうとした。
それ自体の筋は通っていないわけではない。
あの場においてムサシを始めとしマサキ・キラ・ソシエ、誰もがダイの脅威を疑わず、テニア自身も疑いはしなかった。
その結果、不慮の乱入者があったとはいえ戦端は拓かれたのだ。
しかし、とテニアは併走する機体に目を向ける。
しかし、ここでその理屈を振りかざし一貫した姿勢を交渉人に向けることは出来ない。
致命的な矛盾が生じる。
オルバを始めとするナデシコの面々に真実として語った出来事。
Jアークに拠る集団に非人道的な目に合わされたという、自身にとって都合のいい偽りの事実から外れてしまう。
あちらを立てればこちらが立たず。八方塞がりにも等しい状況が焦りを駆り立てる。
大体にしてこのロジャー=スミスという人間が厄介なのだ。
最初のあの場で、ここに存在する全ての人間が見ている目の前で、自らの立ち位置を明らかにして見せた存在。
ほぼ確実にこの殺し合いに乗ることがないだろうと誰もが認めるその存在は、それだけで旗印となり一定の求心力を得ている。
その影響力を大袈裟に言えば、ロジャーに組する者は善、対立する者は悪の単純な構図が擬似的に成立しかねない。
少なくともオルバの言う『僕たちが信用できると思える人物』に当てはまり、『潔白』を証明しうる人物。
しかし、その証明の内容は矛盾を曝け出しテニアの足場を崩す言葉となる。やっかいなことこの上ない。

――考えろ。考えるんだ。

交渉人に睨まれず、オルバにも疑念を抱かせずにこの場を切り抜ける奇跡のような一手を。
もう接触までいくらもない。焦りが瞳を揺らす。

――このままじゃまずい。まずいんだって、テニア。

ここを切り抜けなければ全てが無駄になる。
勝ち取ったナデシコでの信頼、ガウルンとの交渉。
ムサシやメルアやカティアを殺したこと、殺してまでして固めた決意。全て無駄になる。
引き返せない道に足を踏み入れたんだ。今更なかったことになんてできない。できっこない。
でも……でも、どうしよう見つからない。
電波を受信した通信機が一瞬ノイズ音を立てた。その音に恐怖する。

「私の名はロジャー=スミス。フェステニア=ミューズ嬢、あなた方との交渉を望んでいる」

冷静に交渉を申し出てくるその声が、死神の鎌のように感じられ首筋に刃物の冷たい感触を錯覚する。
名前を呼ばれた。知らない。人違いだ、ではもう逃げられない。割ってはいるのはオルバの声。

「こんにちは、ネゴシエイター。直に顔を会わせるのは初めてかな?」
「その機体……君もあの場にいた者のようだな」
「そのようだね。オルバ=フロスト、覚えておいて貰おうか」

考えるその脇でオルバが名乗り、互い挨拶を交し合う。
その間にも頭の中で脳が答えを求めて奔走する。
二人の会話に混ざる余裕はない。だが、聞き逃しもしない。

「情報交換は僕としても望むところだ。テニア、いいね?」
「……うん」

振られた言葉。賛同するしかなかった。
名目上だろうとなんだろうと今は他者との接触を第一に行動しているのだ。否定できるはずがなかった。
同時に追い詰められていく身を自覚する。

「なら私から一つ提案がある。私はネゴシエイターとして話し合いの場に武器を持ち込まないことを決めている。
 そして、話し合いとは互いの立場が対等な状態で行なわれるべきだ。
 故に私は互いに機体を降りた状態での話し合いを希望する。了承が取れた場合、提案者である私がまず機体を降りよう」

考え込む振りをして口元に当てた手、その下で唇がにぃっと釣り上がり八重歯が覗く。
願ってもない申し出だ。これ以上ない申し出だ。ほとんど唯一といっていいほどの突破口。
それを与えてくれた。
今、この場を穏便に切り抜ける手段はやはり思いつかない。
だが、形振り構わないのであれば話は別だ。ロジャーとオルバ、二人が機体を降りたところを――

「大した心構えだね……いいよ。その提案を呑もう。安心しなよ、ネゴシエイター。
 君が機体を降りた途端ズドンなんて真似はしやしないから」

降りたところを……って、読まれてる? いやまさかね……ハハハ。

そうこうしている間にも徐々に詰まってきていた距離は既に1kmをきっている。
その距離が残り500m前後になってロジャー=スミスの乗る機体が静止した。釣られてこちらも立ち止まる。
胸部のハッチが開放され、黒一色に身を包んだ男が姿を現すのが見えた。その男はそのまま機体から降り立ち、迷うことなくこちらに向かって歩き出す。
馬鹿な男、そう思い、後はオルバが機体から降りるのを待つだけ、そう思った。
そうなれば後は高々500m程度の距離なんてこのベルゲルミルの手にかかれば造作も――

「テニア、まずは君から先に降りろ」

って、やっぱばれてる! いや、まぁ、そんな気はしてたからいいんだけどね。
そんな都合よく物事が運ぶなんて思ってなかったから、べっつにぃいいんだけどさぁぁあ。
いや、全っ然良くないよ、アタシ。

ちらりと横目でオルバの表情を確認する。頑なな光がそこにある。
ホンの一時間ほど前「僕は君を信用していない」と言い放った姿を思い出し、ごねても無駄だと悟る。
信用してないと言い切ったオルバに対して、自分は信用させようとしている側にいる。今はごねてもごね損にしかならない。
それに、だ。それに、運悪くベルゲルミルはディバリウムの前に立った状態で静止している。
下手をすれば後ろから撃たれかねない気もしていた。
でも、ただ唯々諾々と従うのも主導権を握られているようで、どうにも気に入らない。気に入らないったら気に入らない。

「もう一度言う。君から……」
「あ~、はいはい。二度も言ってくれなくても聞こえてるわよ。アタシから降りればいいんでしょ?
 オルバさんはアタシをまだ信用してくれてないんですものねぇー」

不満をたっぷり塗りこめて一息に言い切ると、そのまま腹立たしさをぶつけるようにして勢いよくハッチを開け放った。
一瞬照らし出された朝日の陽光に目が眩み、雲一つない青空を認めて『今日も晴天だ』と場違いな感想が頭に浮かぶ。
同時に半ば感情的、反射的に機体のハッチを開け放った身を自覚して『アタシ、馬鹿だ』という思いが込み上げてきた。
何の方策も思いついてない。どうすればいいのかも分かってない。ただ流されて追い詰められていっている。
難解なパズルのような状況の中、見つからない答えを探して赤毛の少女はただ呆然と立ち尽くしていた。

「ちくしょう……お天道様が今日も目に眩しいぜ」

……立ち尽くしていた(※絶賛現実逃避中

 ◆

起伏の乏しいなだらかな丘に丈の短い草木が覆い茂り、彼方まで見渡せる緑の牧草地帯。
牧歌的な風景が彼方まで広がるその草原を進みつつ、それとなくロジャー=スミスは周囲に気を配っていた。
見晴らしのいいこの場所は、都合がいい。
頭にあるのは夜の暗闇の中、同じように一人生身で交渉に赴いたときのこと。
あの交渉における最大の失敗は目の前に気を取られすぎていたことだ。気負って力が入りすぎていたのはまだいい。
だがしかし、そこに入れ込むあまり周囲に対する警戒を解いていた。そこまで気が回らなかったと言えばそれまでだが、その結果があの乱戦だ。
あの黒い機体やキラやソシエ、もう一隻の戦艦を責めるまでもなく自身にも責はある。
だからこそ、二度と同じ轍を踏んではならない。
ざっと見渡したところビルのような遮蔽物は何処にもなく、また機動兵器が隠れられるほどの起伏もない。
それに、だ。それに万が一に備えてソシエを凰牙に残している。最悪の場合の役には立つことだろう。
もっとも気持ちよく就寝中の彼女を起こすのは、忍びなかっただけのことなのだが。
一先ずは問題ないと見て立ち止まり、視線を自らの交渉相手へと向けた。
機体の数は二つ。
一機は、まるで雷神の天鼓のようにその背に勾玉を巡らせた以外は、至ってシンプルな白銀の機体。
もう一機は人型ですらなく、その赤黒い色身と形状からラフレシアを想起させる異形の機体。
それぞれからそれぞれのパイロットが姿を現し、機体を降りてこちらへと歩みを進めていた。
そして、互いの表情が十分見て取れるほどの距離になって彼らもまた足を止める。
一人は、ミッドナイトブルーの短い髪をオールバックにした細身で中背の青年。
服装は落ち着いてはいるものの薄紫のタートルネックに原色の青と白のジャンパーという組み合わせは、どうにも趣味が悪い。
薄く笑いを浮かべるその表情が、上品下品の違いはあれどどことなくベックに似た印象を抱かせて僅かに眉を顰めさせた。
それに対してもう一人は、綺麗な赤毛をざっくばらんに伸ばした肉付きの良い少女。
奇想天外ではあれど動きやすさを重視したような服装が活発な印象を与え、そのお転婆そうな雰囲気はソシエに近いのかもしれない。
だが、どこか影がある。それがムサシを撃ったことに関係しているのかは、まだ分からない。
黒いサングラスの下で目線を鋭く走らせてざっと二人を見回し見比べた後、落ち着き払った態度でロジャーは口を開いた。

「御労足頂き、感謝する。改めて名乗らせて頂こう。私の名前はロジャー=スミス。ネゴシエイターを生業としている者だ」
「知っているよ。君は最初のあの場所でひどく目立っていたからね」
「私としては当然の質問を投げかけたに過ぎなかったのだがね。
 まぁいい。今、私はある二つの交渉の依頼を別々の人物から受けている。それについて君たちと話がしたい」
「交渉? どんな?」
「正確には交渉の場を整えるのが私の仕事だな。ある戦艦とある戦艦引き合わせる、それが私の受けた依頼の内容だ。
 君は白亜の戦艦に身を寄せているのだろう? キラ=ヤマトと言う少年が君たちに会いたがっている。伝えてはくれないだろうか?」
「へぇ……」

言葉に乗せて監視の目を走らせる。黒いサングラスで目元を隠しているのだ。視線を気取られる心配はない。
キラの名前を出したその瞬間の一時だけ、テニアの体が一度ぶるりと震えるのを見逃さなかった。
それが、怖れによるものか、慄きによるものか、はたまた不安によるものか、その判別は難しい。
だが、動揺を表したということは、何かしらの気に咎める部分があるのだろう、とロジャーは推察する。

「返答は?」

対して、現在のところ全ての受け答えを行なっているオルバ=フロストの様子は変わらない。
常に薄い笑みを絶やさないが、そのライトグレーの瞳は最初から一時も笑ってはいない。
むしろ冷淡とも取れる光を放ち続けるその目を見て、ロジャー=スミスは前言を撤回した。
この男にベックを見たがそれは違った。
むしろ、常に余裕を崩さないその姿勢は、アレックス=ローズウォーター――パラダイムシティの実権を握るあの男に近い気がする。
とは言え『似た印象を受けた』ただそれだけの理由でオルバとアレックスを混同して考えるほど、ロジャーも愚かではない。
だからこそ表情を崩さずに一本筋の通った姿勢で返答を待ち続けることが出来る。

「……その前に互いの情報を交換しておきたい。情報は必要だろ?
 それは君の提案を呑む呑まないに関わらず、互いに不利益になるものじゃない。
 だったら互いの立場が決まる前に交換しておく方が、信頼が持てる。そうだろ、ネゴシエイター?」
「その通りだが、それは我々が敵対することになった場合の話だ。協力関係になった場合、情報の信頼性は揺るがない」

『断った後に受け取った情報など信用できない。平等な交渉を続ける為にも先に情報をよこせ』と暗に仄めかしたオルバ。
『協力関係を築いた後の情報であるほうが、信頼が置ける。情報の交換は後でもいい。それとも事を構える気か?』と切り替えしたロジャー。
空気がピンと張り詰める。
それでも別に構わないよ、とでも言うような強気の姿勢を崩さないオルバを前に確認して、仕方がない、とロジャーは自らが折れることを決めた。
この相手は自分と相手の置かれた立場をよく理解している。ここでこちらが折れざる得ないことも計算の上なのだろう。
それだけの読みを持っているからこその強気だ。
今はあまり喜ぶべきことではないのかもしれないことだが、言葉の駆け引きをして面白い相手ではあるようだった。
もっとも、若いだけに我を押し通しすぎるきらいはあるが……。

「まぁ、いい。ここは私のほうが折れるとしよう。何から聞きたいのかね?」

ロジャーは二人の目の前で、お手上げとでも言うように肩を竦めて答えてみせた。

 ◆

ロジャー=スミスが意外な物分りの良さを発揮し、情報交換が開始されてから十分弱。
主に両者の間を飛び交った情報は互いが確認している生存者のことだった。

シャギア=フロスト、オルバ=フロスト、兜甲児、宇都宮比瑪、フェステニア=ミューズ
ロジャー=スミス、ソシエ=ハイム、キラ=ヤマト、ガイ、ジョナサン=グレーン、伊佐未依衣子

結果、両者はこれだけの人間に加えてナデシコで眠る男性一名の情報を共有し、生存を確認した。
ナデシコ側で未把握の人間がガイのみであった以上、ロジャー側に益が多い結果となったと言える。
だが、それは結果論でしかないと自身を納得させた上で、オルバ=フロストの気を引いた情報が一つあった。

――キラ=ヤマトがプログラミングに長けている。

首輪の解除はここからの脱出を図る上で避けては通れない壁。それを成せるかもしれない力。
兄、シャギア=フロストも今首輪の解除に手を出そうとはしている。
彼は特別機械に詳しいわけでもなければ、電子工学・情報工学に長けているわけでもない。
ただ適材が見つからないがために手を出さざる得ないだけなのだ。
だが、解析の力を持つ彼らは首輪を所持してはいないという。キラ=ヤマトの技能と兄の持つ首輪にナデシコの設備。
手を組むだけの価値と理由は互いにあるとオルバは判断する。
その場合、最大の障害は――視線を脇に立つ少女へと向ける――この少女、フェステニア=ミューズ。
何を考えているのか先ほどから一言も言葉を発することなく、不安げに彼女は立ち竦んでいる。
無理もない。
ロジャーの話したキラ=ヤマト・ソシエ=ハイムの人物像と彼女の話は完璧に食い違う。
その上、今この場の同行者にすら信用していない、と既に断言された後。男性二人が相手では生身で暴れても勝ち目はなく八方手詰まりの状況。
崖っぷちまで追い詰められているのだ。ともすれば気が狂い出しそうな状態に違いない。
そして、今少し押してやれば崖から転落するのは目に見えている。
だが、少々の厄介事もあった。兜甲児と宇都宮比瑪の二人がテニアを信用しているのだ。
ナデシコの求心力として誂た彼らが、だ。
その彼らの知らないところでテニアを始末していくことも出来るが、それよりもいいのは彼らの目の前で自滅して貰う事。
その算段は、ロジャー=スミスと接触を得たことで立った。彼の提案通り先方と接触すれさえすればいいのだ。
そうすれば接触する前、あるいは接触した瞬間、必ずテニアは馬脚を現す。
それがもっとも自分ら兄弟が疑われることなく、ナデシコと技術者と首輪の全てを手に入れられる方法。
そして何よりも、どうにもならない状況に追い詰められていく彼女を見るのは、中々楽しそうに思えて密かに笑う。
そうしてそこまで考えを纏め上げたとき、じっとこちらを観察している視線に気づいた。
背筋に冷たいものを感じて気を引き締める。ロジャー=スミス、この男の前で油断は禁物だ。
甲児や比瑪ほどお人好しでもなければ、テニアほど世慣れしていないわけでもない。それだけに扱いづらい。

「そろそろ、返答を頂くとしようか」
「今、ここで、確たる返事を出すことは出来ない。僕らにも仲間がいるからね。だけど兄に伝えることは約束するよ。
 そして、僕自身はこの話に前向きであると思ってくれていい。それで接触の手筈は整っているんだろうね?」
「それで構わない。仲間の合意が取れたら次の放送前にE-3地区にあるクレーターを目指してくれ。
 そこにキラは来る。中央に人を埋めた跡――墓があるので、場所は行けば分かるだろう。
 それともう一つ。君たちだけでなく出来るだけ多くの人間をここに集めたい。出会った人間に広めていっては貰えないかな?」
「了解した。人集めに協力することを約束するよ」

その返事に肩の荷が一つ下りたとでも言うふうにロジャーが息をつく。
同時にテニアの纏う空気が更に重くなったように感じた。

「では、私はこれで行くとしよう」
「どう動くつもりだい、ネゴシエイター?
 僕らは他の生存者を探して今G-6基地に向かっている。良ければ同行しないか?」
「ありがたい申し出だが、私は私ですることがある。ガイに会ったら伝えてくれ、ロジャー=スミスが探していたと。
 それでは、失礼させてもらおう」

言うが早いか踵を返し、機体に向かって歩き始める。その黒い背中を見送ろうとしたその瞬間――

「何でよッ!!」

――テニアの叫びが空気を震わせた。
耐え切れずに溢れ出した。半ば自棄になった。そんな感じの声でテニアは言う。

「何で……何で何も言わないのよ! 会ったんでしょ? キラに、ソシエにッ!!」

ロジャー=スミスの背が立ち止まる。
確かにその通りだと思った。何故、ロジャー=スミスがテニアのことに触れないのか。
この男が気づいてないはずはない。意図的に話題を避けていたとしか思えない。でも何故?
それが不可解だった。
だが、今ここでテニアに崩れてもらっては都合が悪い。それはまだ先、今以上に神経を磨り減らした後、あの二人の目の前でないと困る。
だから、オルバは助け舟を出した。

「ロジャー=スミス、あの戦艦と接触した君が彼女に疑いを持つのは分かる。だが、それはあちらだけの言い分だ。
 それを鵜呑みにすることは出来ない。それに僕はナデシコ側の人間だ。一戦を交えた相手よりも彼女を信用している」

きょとんと丸くなった目がこちらを見ているのを感じる。本当にこの娘は騙し合いに向いていない。
背中を向けたままの男が『やれやれ』とでも言うように、溜息をつくのが分かった。

「一つ誤解があるようだが……私の立場はあくまで交渉人。君たちの側でもなければ、彼らの側でもない中立だ。
 君にどのような正当な理由があろうと、それを今ここで中立者である私に突きつけられても困る。
 どのような矛盾のない話しでも、それは当人にとって都合のいい事実でしかない。君だけでなく彼らの話も含めてだ。
 その真偽のほどは私には分からず依頼にも含まれていない。ならば、後は当事者同士で顔をつき合わせて答えを見つけて頂こう」

静かに言い切り再び歩き出そうとして「ただ――」と男が再び口を開いた。

「ただ、あの少年はこう言っていたよ。君にも何か仕方のない事情があったのかもしれない、とね。
 君が誤解を解きたいのであれば、彼のことを信じてみてもいいのではないかな。それでは約束の時刻に約束の場所でお待ちしている」

その言葉を最後に男は振り返ることなくその場を立ち去って行き、その背中を呆然とテニアは見送っていた。



【オルバ・フロスト搭乗機体:ディバリウム(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好、テニアを警戒
 機体状態:EN60%、各部に損傷
 現在位置:E-6
 第一行動方針:十分に痛めつけた上でのテニアの殺害
 第二行動方針:A級ジャンパーを見つける
 第三行動方針:比瑪と甲児を利用し、使える人材を集める
 第四行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 第五行動方針:首輪の解析
 最終行動指針:シャギアと共に生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)
 備考:ガドルヴァイクランに合体可能(かなり恥ずかしい)、自分たちの交信能力は隠している。】

【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:本来の精神状態とはかけ離れているものの、感情的には安定
 機体状況:左腕喪失、マニピュレーターに血が微かについている、ガンポッドを装備
 現在位置:E-6
 第一行動方針:ナデシコの面々に取り入る
 第二行動方針:統夜との接触、利用の後殺害
 第三行動方針:参加者の殺害(自分に害をなす危険人物を優先)
 最終行動方針:優勝
 備考1:甲児・比瑪・シャギア・オルバ、いずれ殺す気です
 備考2:首輪を所持しています】



「お疲れ様」

コックピットのハッチを潜った途端に声を掛けられてロジャー=スミスは顔を上げた。
メインモニターに一人の少女の顔が映し出されている。

「いつからだ? いつから君は起きていた?」
「最初からよ。あなたがテニア達に通信を繋げたときからず~っと起きてました」
「それで?」
「それでって?」

凰牙の起動シーケンスを踏みながら大きな溜息をつく。全身の力が抜けていくような気がした。

「何か私に言いたいことがあるのではないかね?」
「そうね。何で私を置いて行ったのか、とか。交渉の結果はどうだったの、とか。テニアの様子はどうだった、とか。一杯あるわね」
「だったら、何故私を一人で行かせて付いて来なかった?」

この先のやり取りを考えるとこめかみ付近が軽く痛くなってくるが、それも致し方なしと覚悟する。
そんな様子のロジャーに予想外の答えが返ってきた。

「何故かですって? あなたが一人で行こうとしたからよ」

胸を張って少女は言う。

「私より前からテニアと居たキラが、あなたに任せたのよ。と言ってもちょっとの差ですけどね。
 でもだから私もロジャー、あなたに任せてみることにしたのよ。
 そのあなたが私を置いていくと判断したのですから、大人しく待つことにしたんですからね」

ソシエは簡単に言い放ったが、そう簡単なことではないとロジャーは思う。
人に判断を丸投げするのも、それに従うのも確かに簡単だ。だが、任せたからには判断に口を挟まない、というのは簡単なようでいて中々に難しい。
自分の身にも関係していることである。普通はあれこれと口を出したくなるものだ。
ましてこの少女の性格を考えれば、きっと口出ししたくてウズウズしていたに違いない。
やや見直すつもりで少女を眺めた途端――

「でも、結果はしっかりと話してもらいますからね。それで不甲斐ないようであれば次からは私がやります。
 それと凰牙はもう少し揺らさないように。これじゃロランの運転のほうがマシだわ」

『さあ、話せ』と言わんばかりのこの気勢だ。苦笑いしか浮かんでこないロジャーであった。



【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
       側面モニターにヒビ、EN70%
 現在位置:E-6
 第一行動方針:一先ずE-7市街地に赴きガイとナデシコの足取りを調べる(出来ればリリーナの首輪も回収する)
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考2:念のためハイパーデンドー電池四本(補給二回分)携帯】

【ソシエ・ハイム 搭乗機体:無し
 パイロット状況:右足を骨折
 機体状況:無し
 現在位置:E-6
 第一行動方針:ロジャーに同行する
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:新しい機体が欲しい
 最終行動方針:主催者を倒す
 備考1:右足は応急手当済み
 備考2:ギアコマンダー(白)とワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】

【二日目8:40】




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適材適所 時系列順 揺れる心の錬金術師

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計算と感情の間で オルバ 生き残る罪
計算と感情の間で テニア 生き残る罪
二つの依頼 ロジャー 交錯線
二つの依頼 ソシエ 交錯線


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