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 ◇

地下道の天井をぶち抜き、折り重なる瓦礫の束を舞い散らしながら中空に躍り出たヴァイサーガ。
身を翻させつつ周囲の状況を確認して統夜は、歯噛みする。

――くそっ! 思ってた位置よりも大分遠い。

一度地上に生身で出て目測で二人の位置を確認していたとはいえ、利かないレーダーを頼りに入り組んだ地下道を移動してきたのだ。
増して、ヴァイサーガが移動できるほど大きな道はそれほどないときている。
思い通りの場所に出れなくてもそれは仕方がないと言えた。だが、それにしても遠すぎる。

――間に合うのか、この位置から。

入力するコードは風刃閃。五大剣の鞘を払い、空気を掻き乱す。
狙いは交渉人ロジャー=スミスとガウルン。この生身の二人を先制で叩き潰す。

「いや、間に合わせてみせる!!」

乱された空気が流れを変える。一方向に纏まり、円を描き、急速にその勢力を増していく。
そして、指向性を持った竜巻がその場に現出した。
吹き荒び渦を為す風の障壁が、瓦礫の折り重なる窪地に激突して全てを舞い上げるその刹那――

「こんのぉぉぉぉおおっっ!!!!」

――聞こえたのは女の声。逆回転の渦をぶつけられた風の渦が、相殺されて消え去る。
邪魔をしたのは、誰も乗っているはずのない隻腕の機体――騎士凰牙。
その残された右腕に誂られたタービンが高速回転を起こし、空気を掻き乱し、風刃閃と同レベルの竜巻を生み出した。
それは、GEAR特有のタービンを利用した波動龍神拳と呼称される技。
だが、そんなことは今更どうでもいい。防がれたのは残念だとは思うが、今更どうにもならないことだ。
それよりもあの機体に乗っていたのは誰だ? ガウルンの話だとあれは交渉人の機体のはずだ。
女の声。駄目だ、考えるな。今は忘れろ。忘れるんだ、紫雲統夜。頭を切り替えろ。
そう……聞こえたのは女の声。テニアと同年代か、それよりも若いくらいの。
視界の先でガウルンのマスターガンダムが動き始めている。だがそれよりも隻腕の機体に気を引かれていた。
乗り込んでいく交渉人の姿が見える。それを見て統夜は一つの結論に思い至った。

「ああ、なんだ。ハハ……そうか。そういうことか……俺だけじゃないんだ」

暗い呟きが空気を濁す。それは、憐れみの篭められた奇妙に湿度の高い声だった。

「ロジャー=スミス、あんたもその女に担がれてるんだな」

 ◇

天空の高みからは何者かが巻き起こした竜巻の激流が差し迫り、大地は隆起し瓦礫の中から何かが姿を現す。
その光景の最中、崩れる瓦礫の山に足を取られてロジャー=スミスは転がっていた。
転がりながら耳にしたのはガウルンの悦に入った笑い声。目にしたのは瓦礫を掻き分けて現れた機体。
逆回転の渦がぶつかり、地表寸前で迫る竜巻が消える。
だが、今のロジャーにそれは見えていなかった。
彼の目に映っていたのは唯一つ漆黒の体を持つ小型機――マスターガンダム。
その機体は目にしたことがあった。
そう、それはJアークとの交渉の邪魔をし、辺りを混戦へと引き摺り込んだ機体。

「ざまあねえなぁ、ネゴシエイター。易々と人を信じるからそういうことになるんだよ」
「貴様ッ!!」

乗り込むガウルンが見えて思わず気色ばんだ瞬間、少女の声が鼓膜を揺らした。

「何やってるのよ、ロジャー! 早く乗りなさい!!」

その声に現実に引き戻される。
凰牙が、腕を伸ばし、地面を転がる球をグローブで掬い上げるようにしてロジャーを足場ごと掬い上げた。
だが、その上方から矢のように大型機が迫っている。思わず「上だ!!」と叫んだその瞬間――

「おいおいおいおいおいおい。何をぐずぐずしてやがる。さっさと乗りこみな、交渉人。
 機体にも乗ってないあんたを殺しても何の楽しみにもなりゃしねぇ」

――大型機の一撃をガウルンが受け止めた。
その隙を突いて距離を開ける凰牙。そのコックピットへロジャーは滑り込み、ソシエと目が合った。

「まったくその足で無茶をするものだ。だが、ここからは私に任せてもらおう」
「偉そうなことばかり言ってないで、お礼を言いなさい! お礼を!!」
「……そうだな。すまない。助かった。礼を言わせていただこう。そして――」

操縦が入れ替わり、凰牙の動きが変わる。上空の二機を見据えて力強く大地に仁王つ。
そして、その中でロジャーは喉を震わせ、あらん限りの声を振り絞りいつもの台詞をいつもの調子で叫んだ。

「チンピラが……私の忍耐にも限度というものがある。覚悟していただこう。
 騎士凰牙、アアァァァァァァクションッッッッッッ!!!!!!!!!」
「五月蝿い!! 耳元で怒鳴るなぁ!!!!」

 ◇

風を切る刃が縦横無尽に駆け巡り、唸りを上げ、一拍後には重音が奏でられる。
高く、低く、重く、軽やかに一音一音違うその音が一つ、二つ、三つ続けざまに鳴り響き、そして唐突に消えた。
一瞬の静寂。
それを突き破り、猛然とした勢いでヴァイサーガの五大剣が振り下ろされる。
受けた烈火刃との間で、これまで以上に重く、大きな金属音が響いた。

「何でだ? 何であんたが邪魔をする?」
「邪魔? おいおい、邪魔をしてるのはどっちだい。何の歯ごたえもない状態の奴を倒しても、クク……つまらないだけだからな」
「駄目なんだよ。ああいう女は殺さないと駄目なんだ。生かしておいたらいけないんだ。
 それを俺に気づかせてくれたのはあんただろ? そのあんたが邪魔をするっていうなら、まずあんたからっ!!」
「倒すってか? やってみな。応援するぜ。ハハハハハハハハハッッ!!!!!!」

鍔迫り合いの状態から二者が同時に刃を上方へ跳ね上げる。そして、左右にパッと飛び退いた。
一拍遅れて、空いた空間を竜巻の渦が駆け抜ける。

――くそッ!! 動き出したのか。

ガウルンの邪魔立てのせいで間に合わなかった。
そう思う間に、マスターガンダムはもう動いている。天から地へ、猛然とした勢いで凰牙に差し迫る姿が見えた。
軸を重ね、ネゴシエイターとガウルン両方を狙える位置へ。上空から狙い済まし、烈火刃の束を投擲。
反応示す眼下の二機。左に飛んで交わす交渉人。それに追随するようにガウルンも避け、追いすがる。
烈火刃の起こす爆発を後方へ置き去りにして格闘戦へと移行した二機が、縺れ合い、絡まり合った。
そこ目掛けて、上空から雷の如く突撃を開始する。しかし飛び込んだときには既に、二つに分かれてそこにはいない。
風を切る音に刃を翳す。強烈な蹴りが統夜を襲い、受けた刀身に火花が散る。マスターガンダムの黒い体躯が視界を掠めた。
踏み込み一太刀返したときには、既にガウルンの姿はそこにはない。
蹴りを入れたそのままの勢いで脇をすり抜けて、もう交渉人に襲い掛かっている。振り向き様に烈火刃を投擲した。
背中に目でも付いているのか、それを跳ねてかわし、上方から交渉人の懐へと襲い掛かるガウルン。
意図せずして前方の烈火刃、上方のガウルンと二方向からの攻撃に晒されることとなった凰牙が身構える。
半身になって刃を避け、右腕のタービンでガウルンの蹴りを弾く。どれ程の高速で回転しているのか、激しい火花が散った。
その瞬間に、ヴァイサーガは地を蹴っていた。弾かれたガウルンが空中で体勢を整えるのが見える。
身を翻し軽やかに地上へと着地。その着地際を狙って刃を振るう。しかし――

「悪くはないが、まだ甘いな」
「チッ!!」

――金属が金属を弾く重音。五大剣の刃が烈火刃に止められた。
つくづくこの男に渡すんではなかったと思った瞬間、荒々しい風を肌に感じる。唸りを上げるモーター音と共に、渦を巻き吹き荒ぶ風が真横から。
マスターガンダムも、ヴァイサーガも、弾かれたように飛び下がった瞬間、その場の地面が竜巻に抉られ瓦礫が宙に舞う。

「君は悪戯に戦場を掻き乱して何をしている? 一体どちらの味方だ!!」

着地と同時に通信が一つ。見るとそこには交渉人の顔。
冷めた目でそれを一瞥し、動き回る二者の動向に視線を戻す。響く声に口だけで返した。

「あんたもおめでたいな。まだその女に踊らされてるって気がつかないのか?」

 ◇

奇しくも隻腕の機体三機が奏でる喧騒の中、眉間に皺がよるのをロジャー=スミスは感じた。
言葉を発した少年の口元が、不気味に笑う。

「何? それは一体どういう――」
「どおぉいう意味よ!!!」

問いただそうとしたその瞬間、責め立てるソシエの怒声がコックピットを劈いた。
しかし、それを鼻で笑った少年が一方的に通信を打ち切って、砂嵐の向こうへと消えていく。
当然、それで収まりが付くはずもなく、余計に腹を立てたソシエが――

「こら! 逃げるなぁ!! きちんと説明して行きなさいよ!!!」

――とモニターに掴みかからんばかりの勢いで喚き散らした。
耳元で怒鳴るなと言ったのは一体誰だったか、等と思いながらキンと高く響く耳鳴りに耐える。

「君の知り合いか?」
「知らないわよ、あんな奴!!」

即答で返される。

「しかし、向こうは君を知っている風だったぞ。よく思い出したまえ。
 それに彼の言葉を真に受けるなら、彼は君にかどわされたということに――」

瞬間、少女の小鼻が僅かに広がり、脳天を突き抜ける衝撃がそれに続いた。

「殴るわよ!」
「……もう殴っているではないか」

と、呟いた瞬間、警告を示すアラートが鳴り響き、激震がコックピット揺らした。
烈火刃の爆発を受けてぐらついた凰牙の上半身を立て直しながら「ちょっと、しっかりしなさいよ」と怒鳴る声を聞く。
誰のせいだ、と思いつつ追撃を防ぎながら損傷箇所をチェック。被害は軽微。問題はない。
だがこのままでは分が悪い。
三つ巴はともかくとして、ソシエが乗っている。凰牙は一人乗りだ。彼女の体を固定するスペースは何処にもない。
そして、彼女はアンドロイドのドロシーとは違い生身の人間。
下手に戦闘にでも突入すれば、反動でコックピットの内壁に頭をぶつけた結果首の骨を折るなどということにもなりかねない。

「チンピラが……いずれこのツケは払っていただく」
「逃げるの? 逃げずに戦いなさい。敵は目の前でしょ」

無視を決め込んでギア・コマンダーのダイヤルを回す。
多量のエネルギーを消費する技は、通常補給が不可能な凰牙には致命的。だが、この際仕方がない。
選んだコマンドの名は、閃光雷刃撃。
コマンド入力を受けて凰牙のタービンが高速で回転を始め、唸りを上げていく。
やがてそこに生じた雷の閃光は瞬く間に大きくなり、雷鳴を轟かせて広範囲に炸裂した。

 ◇

空気が膨張し、雷が爆ぜたかのような轟音が轟く。稲妻と稲光が窪地の底を広域に渡って駆け抜ける。
一拍遅れて衝撃の波が瓦礫の山を巻き上げながら伝播し、立ち込める粉塵が窪地を覆い隠した。
そんな中、その粉塵の濃淡をガウルンは注意深く観察する。
揺らめく陽炎のように何かが一瞬動いたと思った瞬間には、もう烈火刃を投げている。僅かな爆音が鼓膜に届く。
命中。それを確信し、その場へ。
しかし、既に標的は姿をくらませその場にはいなかった。

「やれやれ、ふられちまったか……全くお寒いねぇ」

さてと、これからどうするかな。このままネゴシエイターを追いかける。
それも悪くはないが、手にした情報は多い。間抜けな交渉人お陰で選択肢の幅は広がっている。
さし当って有力な選択肢は二、三というところか。
ネゴシエイターの後を付け、奴の交渉相手を次々と潰して行く。交渉現場に介入するのも面白い。
まぁそれは成り行き次第、一番美味しくいただけるタイミングで喰えればそれでいい。
このまま予定通りG-6基地に行くのも有りだ。フェステニアの嬢ちゃんがそこへ向かったことが、判明している。
それはそれで面白い。
そして、最後の選択肢は、奴らの会談場所――E-3地区にあるクレーターへの直行だ。
こちらが探すことなく獲物が集まってくる場所。会談までの時間はまだあるが、先回りしてパーティー会場を整えておくのも悪くない。
ラクスとか言う嬢ちゃんの墓があると言っていたか? そこを奴らの目の前で壊すのは、中々に楽しそうだ。
だがまぁ辛いのはそれが同時に成り立たないことだ。どれか一つを選び、残りは切り捨てなければならない。
さてどうしたものか、とそんなことを考えている内に、立ち込めていた煙が晴れる。
煙幕から出てくる者を狙い撃ちにしようとでも思ったのだろう。上空にはヴァイサーガの姿が確認できた。
ネゴシエイターに逃げられたのは同じらしく、眼下を見下ろし佇んでいる。これ以上戦闘を続ける気もないようだ。
それを見て何となくガウルンは決めた。こいつに決めさせてやろう、と。
フェステニアの嬢ちゃんの情報を伏せれば、どれを統夜が選択するかは分からないが、どれを選んでも十分に楽しめる。
他の提案をしてくるかもしれないが、それが魅力的であればそれはそれで構わない。
ならば、選択を他人に任せてみるのも一興ではないか、と舌なめずりしながらガウルンは思い、統夜に声をかけた。

 ◆

市街地の地下に張り巡らされた通路に、不機嫌そうなソシエの声が木霊する。

「で、これからどうする気よ?」
「ガイの足取りが掴めなかった以上、とりあえずはナデシコの足取りを追う。
 あの時のナデシコの離脱方向は南西だったと思うが、Jアーク側ではどう確認している」
「えっと、Jアークの進路が北で左後方に遠ざかって行ったから……多分当ってると思う」
「では決まりだな。このまま南西に直進。壁を越えて北西市街地まで探索をつづけるとしよう」

そう言ったロジャーの様子は、どこかがおかしい。
常に背筋をピンと伸ばして、姿勢よくキビキビと動くこの男の足元が、覚束ない。

「ロジャー? どうしたの?」
「すまないが、凰牙の操縦を代わってくれ。少し休ませて貰おう。それと出来るだけ手早く地下は抜けていただきたいものだ」

言うが早いか操縦席からずり落ち、男は壁に背を預けて座り込む。
入れ替わりに操縦席に身を落ち着けさせたソシエは、ちらりとロジャーを盗み見る。
思えば、この男は丸一日近い時間ずっと凰牙を動かし、寝ずに活動を続けてきたのだ。
疲労は無理もないと言える。相羽シンヤとの戦いで手傷も負っていた。
だが、実は地下という空間が最もロジャーの精神を圧迫しているなどということは、ソシエには知る由もないことだった。
溜息一つ残して自分が頑張らなければ、と気合を入れなおす。
そんなソシエの目の前を動物型の機械人形――電子の聖獣が一頭、呑気に通り過ぎていった。

「あっ! ブタだ」



【ロジャー・スミス 搭乗機体:なし
 パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:なし
 現在位置:D-7南西部(地下通路)
 第一行動方針:休憩
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機所持
 備考2:ギアコマンダー(黒)と(青)を所持】

【ソシエ・ハイム 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状況:右足を骨折
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
       側面モニターにヒビ、EN10%
 現在位置:D-7南西部(地下通路)
 第一行動方針:ブタ?
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:新しい機体が欲しい
 最終行動方針:主催者を倒す
 備考1:右足は応急手当済み
 備考2:ギアコマンダー(白)を所持
 備考3:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考4:ハイパーデンドー電池四本(補給二回分)携帯】】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労中、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部破損、左腕消失、マント消失
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ヒートアックスを装備
      右拳部損傷中、全身の装甲にダメージ EN90%
 現在位置:D-7 市街地
 第一行動方針:統夜に興味。育てばいずれは……?
 第二行動方針:アキト、ブンドルを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:疲労中、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数
      EN80%
 現在位置:D-7市街地
 第一行動方針:基地へ移動
 第二行動方針:テニアの殺害
 最終行動方針:優勝と生還】

【二日目10:30】




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