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獣の時間 ◆VvWRRU0SzU




三重連太陽系を構成する星のひとつ、赤の星の遺産――Jアーク。
本来の主なき白亜の艦の格納庫に、カタカタとキーを叩く音が反響する。

「これでよし……っと。アムロさん、ガンダムの調整、終わりました」

ガンダムF91から、歳の割に幼さの抜けない顔の少年――キラが顔を出す。
呼びかけた相手は、床に横たわる青いアンチボディ――ネリー・ブレン――の上に立つ青年。
かつて連邦の白き流星と呼ばれた伝説的なパイロット、アムロ・レイ。

「ああ、こっちも終わった。と言ってもブレンは多少の傷なら勝手に治るそうだから、俺がやったのは装甲を磨いたことだけだがな」

アムロは雑巾代わりの布切れを片手にネリー・ブレンから降りた。

「埃を落とした程度だが、喜んでる……無邪気さを感じる。このブレンはまだ子どものようだ」
「アンチボディ……生体メカっていうんでしょうか。僕の世界では考えられない概念です」

感心しきりという体のキラに俺もだ、と笑いかけ、使った道具を片付ける。
アムロがキラ、アイビスと合流した後。
Jアークは集合予定地であるE-3へと移動し、ロジャーの帰還とナデシコの来訪を待っていた。
D-3に留まるよりも、地図を縦に貫く道の方が誰かが通る可能性があると三人の意見が一致したからだ。

機体の整備は終了。酷使したF91のメンテナンスが長引きそうだったのでネリー・ブレンを洗ってやることにしたのだが、思いの他リラックスできた。
予想より時間がかかってしまったが、ともあれこれで首輪の解析に取り掛かれる。
機材に放り込んでおいた首輪を見やる。
トモロがざっとチェックしたところによると、首輪そのものの材質はただの鉄らしい。

やはり怪しいのは内部をスキャンできなかった赤い宝玉。爆発を制御する役割を持っているとすればここだろう。
分解できれば手っ取り早いのだが、最初の場所でアルフィミィと名乗る少女は「力づくで外そうとしたり強い衝撃を与えると爆発する」と言った。
果たしてその条件が死者から取り外された首輪にも適用されるのかは分からないが、一つしかないサンプルを失ってしまっては笑うに笑えない。
現状物理的に外す手段がないとなると、プログラム的な面で攻めるしかない。
禁止エリアに侵入したり24時間の制約があることからして、首輪は単なる時限式の爆弾ではない。
条件を判定するための何らかの発信機なりAIなりが搭載されているのだろう。
それを押さえることができれば、爆発指令を止めつつその間に首輪を解体できるかもしれない。

キラにF91の整備を任せたのは、本人が言うだけありプログラミングがアムロより上手だったからだ。
最終的なチェックはアムロが行うものの、アムロ本人がやるより数十分は早く終わったことは間違いない。
キラなら時間をかければ首輪の解析も可能かもしれない。ここからはその時間をどれだけ取れるかがカギになる。

キラに声をかけ、交代してF91のシートに座る。キラの調整したシステムをチェックしようとして、バイオコンピューターを立ち上げたところ――

「ん? これは……」

数時間前にガウルンと戦ったときと比べ、意識が拡大する感覚は収まっている。
今はあのときのように1エリア全域を知覚するようなことはできない。だが、その知覚範囲の外から何かが向かってくると感じることができる。
その何かの発する気配が大きすぎるのだ。アムロの感覚を遠くまで見える目だとすれば、その何かは山や塔など背の高いものというのが近い。

「キラ、F91を出す。君はブリッジに行ってくれ」

首輪の解析を始めようとしていたキラは怪訝そうに見返してきたものの、何も言わずに走っていった。
彼が格納庫から出たことを確認して、ハッチを開ける。
甲板に出てブリッジに回線を開く。

「アイビス、今から俺の言う方向へ向けて探知波を集中させてくれ。何かが来る」


          □


ナデシコが収束させた重力波を解き放つ。受けるJアークの展開したジェネレイティングアーマーは貫かれ、船体が圧壊していく様を呆然と見つめる。
ダメージリポート――大破。
崩れゆくJアーク。内部から炎が吹き上げ、一際大きな爆発が起こる寸前。

『戦闘終了。アイビス、君の13敗目だ』

無常に告げるトモロ。同時にモニターの中、Jアークの最期の瞬間を示す映像も消える。
言い返す気力も湧くこともなく、アイビスはコンソールに突っ伏した。
戦闘シミュレーション。だがそのあまりにもリアルな光景に、実戦ではなくて本当に良かったと思う。

「無理……私には無理! 戦艦の操縦なんてできないよ」
『たしかに、君には素養がないと言わざるを得ない。ここまで見事に連敗を喫するとは、私の想定外だった』

淡々とした声にさらに落ち込む。元々アイビスは機動兵器乗り、得意分野は高速域での機体制御だ。
戦場全体を大局的に見通すことや、敵の次の手を読んで戦略戦術を構築することなど不慣れもいいところ。
一通りの操縦の仕方はマスターしたものの、いざ戦闘となればやってみせる自信はまったくと言っていいほどなかった。

『さあ、14回目だ。今の戦闘の問題点を踏まえて、最良の判断を下せ』
「あうぅぅ……わかったよ。やればいいんでしょ、やれば」

顔を上げモニターを見据える。相手として選んだナデシコは、この13戦の間一度として轟沈していない。
トモロが思考レベルを高めに設定していることもあるが、やはり畑の違うアイビスには荷が重かった。
それでもやるからには手は抜かない。持ち前の生真面目さからか、意気込んでコンソールへと手を伸ばす。
そしてトモロが戦闘開始を告げようとした瞬間。

『アイビス、今から俺の言う方向へ向けて探知波を集中させてくれ。何かが来る』

アムロから通信。返事をする前にトモロが即座にシミュレーションを終了させ、指示を実行する用意を整えた。
アムロの言う通りに探知波を東……やや南東へと集中させる。しかし、特に何かを検知することはなかった。

「トモロ、何か見つけた?」
『いいや。索敵エリアに反応はない』

アムロの勘違いだろうか。問いかけようとしたところで、キラがブリッジに入ってきた。
どういうことかと目で問いかけたが、彼もわからないと言いたげに首を振る。

『キラ、Jアークを東に向けて移動させてくれ。アイビスはネリー・ブレンで待機だ』
「え、いやちょっと。敵が来たの? こっちは何の反応もないんだけど」
『敵かどうかはわからん。ただJアークの探知波を利用してF91のセンサーで長距離まで索敵したが、何かが来るということははっきりわかった。
 よほど興奮しているのか……荒々しい気配だ。先手を取られる前にこちらから迎えに行きたい』

納得がいき、シートをキラと交代する。そのまま格納庫へ向かうべくブリッジを出ようとしたところで、

『この感じ……俺は、この気配を知っている……?』

そんな、独り言のようなアムロの声が聞こえた。


          □


E-4、一軍が通れそうなほど幅を持つ大道の上で、J[アーク、F91、そしてネリー・ブレンは接近する反応を待ち受けていた。
やがて彼方から一機の戦闘機が姿を現す。こちらから100mほど離れたところで停止し、人型へと変形した。
その変形のプロセスを見て、キラはオーブで交戦した地球軍の新型を思い出す。
知人のオーブ軍人キサカが調べてくれた情報では、GAT-X370――レイダーだったか。
アスランの機体GAT-X303イージスの後継機らしいそれは、イージスをより発展させた可変機構を有していた。
しかし眼前の戦闘機――アムロはバルキリーか、と言ったが――が見せた変形は、更にその上を行っているような流麗さだった。

『こちらはカミーユ・ビダン。戦う気はない。そちらはJアークか?』

少年の声が聞こえる。感じからして自分とさほど変わらない年頃だろう。
そしてカミーユという名前には心当たりがある。アムロが仲間だと言っていた、ニュータイプと目される少年。

『こちらはガンダムF91、アムロ・レイ。カミーユ、無事だったか』
『アムロ大尉!? 大尉もここに来ていたんですか?』
『ああ……まあ、話は後だ。とりあえずJアークに来い。キラ、誘導を頼む』
「あ、はい。こちらはJアーク、キラ・ヤマトです。誘導します、着艦して下さい」

青い機体が着艦する。続いてF91、ネリー・ブレンも。
数分後、ブリッジに四人が集まった。

自己紹介を済ませ情報を交換しようとしたところで、先にカミーユが切りだした。

「早速で悪いんだが、基地へ向かってくれないか? あそこには今主催者の側の敵がいるんだ」
「何? 奴らが介入してきて基地を押さえたというのか?」
「……はい、そうです。どこかへ移動される前に叩かなきゃならない。一人じゃ手に余るから、力を貸して下さい」
「いや、待て。まずは情報を交換してからだ。どのような経緯でそんなことになったんだ?」

カミーユという少年はアムロの知り合いだというから、アムロが会話の進行役であるのは何ら不満はない。
だが、カミーユは敢えてキラを見ないようにしている――そんな気がする。
時折り向けられる視線は鋭いものだ。まるで警戒されているような。

まずアイビスがここに来てからの顛末を語りだす。
途中でアムロと合流し、共闘するようになったくだりで。

「じゃあ、あなたはクワトロ大尉と一緒にいたんですか? それなのに、あの人を守れなかったんですか!」
「……その通りだ。俺のミスだ、済まない」
「あの人が地球圏に取ってどれだけ必要な人だったか、あなただって知っているでしょう! なのに……ッ!」

カミーユが激しくアムロを責め立てる。シャアという人は二人の共通の知り合いで、彼らの世界では重要な人物だったらしい。
アムロは言われるがまま反論しない。仲裁しようと足を踏み出すも、

「待ってよ! アムロは私達を逃がすために戦ってたんだ。悪いのは、助けてもらってばかりだった私の方だ!」

アイビスが割って入った。カミーユは彼女を睨みつけたものの責めはせず、一つ息をついて話の続きを促す。

「彼女たちと別れた後、俺はブンドルという男に会った。お前も知っているだろう?」
「ブンドル……サイバスターに乗ってた人ですね。そういえばマサキが追って行ったけど、あいつはどこにいるのかな……」

カミーユが何気なく呟いた言葉にキラは身を固くした。マサキと言ったが、彼は放送で名前を呼ばれた。聞き逃したのだろうか?
だとすれば、これはキラから告げなければならない。
アイビスとアムロが一通り説明を終えて。
マサキの名前を出した途端、逸らしていた顔を向けられる。
仲間たちと出会い、別れ。誤解からダイやナデシコと戦い。
そしてロジャー・スミスとの交渉の末彼に二つの依頼をしたこと。
ここに多くの人を集め、ナデシコと和解すること。そのために今はロジャーと別行動していること。
その後アイビス、アムロと合流し、今に至るまで。一連の顛末を語り終え、最後に二回目の放送でマサキの名前が呼ばれたことを伝えた。
カミーユは唇を噛み締め、拳を壁に叩きつけた。彼はカズイと会っていたらしいが、これで初期の仲間は全滅したのだ。気持ちは痛いほどわかった。

「……次はカミーユ、お前の番だ。基地で何があった?」

アムロに促され、カミーユが語り出す。
基地に多くの人が集まり、崩壊し、そして彼の仲間がアインストとなったこと。
キラ達がダイ、ナデシコといった戦艦を所有する集団と交戦していた間、あの基地でも壮絶な戦いがあったようだ。
たしかに放置できない事態。キョウスケ・ナンブという男は早急に駆逐せねばならない――だが。

「……悪いけど、今すぐ動くことはできない。ナデシコと和解してからじゃ駄目かな?」
「そんな悠長なことを言ってられる状況じゃない! 今この瞬間にだって、あの人は誰かを襲っているかもしれないんだ!」
「君の言ってることもわかるけど……主催者に繋がる敵なら、それこそ万全を期して当たるべきだ。ナデシコの戦力を加えてからの方がいいよ」
「万全? 話を聞いた限りじゃ、ナデシコを先に撃ったのも、ダイって戦艦を誤解して戦闘を仕掛けたのもお前からじゃないか。それでよく和解したいなんて言えるな。
 大体向こうがそんな相手と対話してくれるって本気で思ってるのかよ。罠を疑って来るかどうかも分からないのに」
「ロジャーさんなら、きっと彼らを連れてきてくれます。その後は……まだ、何とも言えません」
「……話にならない。アムロ大尉、行きましょう。俺とあなただけで十分です」

舌打ち一つ、カミーユは興味が無くなったとばかりにキラからアムロへと向き直った。

「俺にも、基地でブンドルと合流する約束はあるが……いや、やはり今は駄目だ」
「どうしてです!?」
「ブンドルなら基地でそのキョウスケという男に襲われたとしても切り抜けるだろう。その後、彼が目指すのは俺が向かうと言っておいたD-3の市街地だろう。
 サイバスターのスピードなら今頃基地へ到達していてもおかしくはない。生きていれば、やがて落ちあえるはずだ。
 ……こういう言い方はしたくないが、ブンドル一人とナデシコとなら、俺は後者と合流することを優先する。彼もそれを望むだろう」

しかしアムロは断った。ナデシコとの交渉の時、彼がいてくれれば心強い。その申し出はありがたかった。
カミーユは苛立った様子で足元を蹴りつける。

「だったら、結構です。他の人を探しますから」

言い捨て、ブリッジから出て行こうとするカミーユ。キラは慌ててその前を塞いだ。

「どこに行くんですか!? 一人で行動するのは危険ですよ!」
「俺がどうしようとお前には関係ないだろう」
「待て、カミーユ。俺が基地へ行かないもう一つの理由はお前だ。少し冷静になれ」
「俺は落ち着いてます!」
「そう見えないから言ってるんだ、ここに来るまでにだいぶ消耗しているだろう。そんな状態では誰と戦っても勝てる見込みはないぞ」

そう、傍目から見てもカミーユは憔悴している。なのに意識だけがギラギラと研ぎ澄まされているような、危険な状態だ。
それは自覚していたのか、押し黙ったカミーユ。一つ息をついて、

「補給したら適当にどこかで休憩を取ります。それでいいでしょう」
「休憩するなら、ここで」
「お断りだ。アンタ達の夢みたいな理想論につき合う気はない」

アイビスの提案をばっさりと切り捨てて、キラを手で押しやるカミーユ。
背中を壁にぶつけた痛みよりも、気になったのは。

「理想論……かな?」

呟いた言葉を聞きつけたのか、カミーユが振り返った。

「たしかに皆が手を取り合えるならそれが一番いいさ。でもこの世界では弱ければ死んでいくんだ。必要なのは、理想を叶えるための力だ。
 ただこうしたい、ああしたいっていう言葉じゃない。もしナデシコが来たとして、交渉が決裂したらお前はどうするんだ?
 相手は撃ってくるのに話し合いましょうって言い続けるのか? 違う、守るための力は必要なんだ。たとえそれが、誰かの命を奪う力でも」

一気にまくし立てられる。それはキラがここに来る前からもずっと考えていたことでもあった。
守るための力は必要――その通りだ。和解だ交渉だと言ったところで、それを言う前に倒されては何の意味もない。
だからこそ――

「……じゃあ、カミーユ。僕にその力が、理想を叶えるだけの力があるって証明できれば、協力してくれる?」
「何?」
「君と戦って、殺さずに止められるかどうか。僕が勝ったら、一緒に来てほしい」

考えるより先に口が動いた。
戦いたい訳ではないが、今の彼とわかり合うためにはそれが必要な気がしたから。

「アムロさん、F91を貸して下さい。Jアークはさすがに使えないから」
「ちょ、キラ!?」
「……いいのか? 何なら俺がやってもいいが」
「いえ、僕がやらなきゃいけないことですから。……どうかな、カミーユ?」
「いいさ、やってやる。俺が勝ったらこのまま基地へ向かってもらうぞ」
「うん、わかってる。君一人を説得できないようじゃ、ナデシコと和解するなんて無理だろうしね」

こうして、急遽キラとカミーユの模擬戦――使うのは実弾だが――を、行うことになった。


          □


場所は変わってD-3市街地。キラがラクスの眠る場所を戦場にするのは嫌だという訳で移動したのだ。
補給ポイントにてVF-22Sの補給が完了。これで準備は整った。
振り返れば白い小型のガンダム。カミーユの愛機Zガンダムより二回りは小さいが、変形せずに飛行するところをみるとよほど高性能のようだ。
アムロはJアークにて周辺の索敵を担当している。横槍を入れてくるものがいないかどうか警戒するためだ。
アイビスという少女は自分の機体で待機している。念のためと言っていたが、キラの援護をするためだろうか。

「いつでもいいよ」

当のキラから通信が入る。
これから戦うというのにその顔には特に気負った様子もなく、少なくとも自分と同じかそれ以上の戦闘経験があるのだと感じさせる。
操縦桿を握る腕に力がこもる。
先に交戦したワイズマンやテニア、模擬戦とはいえある意味彼らと戦ったとき以上に負けられない戦いではある。

「すぐに終わらせてやる」

呟いて、機体を加速。
あの機体は本来アムロの乗機らしい。この先基地に向かうことを考えると、不用意に傷つけるわけにはいかない。
バトロイド形態のまま市街地を駆け抜ける。

F91がビームライフルを掲げるのが見えた。咄嗟に廃ビルの陰に機体を潜り込ませる。
閃光は虚空を貫き、後方のビルに直撃。大穴を開け、粉塵をまき散らした。
どうやらあのライフルはカミーユの体感してきたものとは次元が違う。Zのビームランチャー並とまでは言わないものの、一発でもまともに受ければそこで終りだ。
ビル陰から躍り出る。
すかさずビームが飛んできた。ピンポイントバリアを左腕部に集中させ、簡易シールドとして用いる。
力場にビームが衝突。だが、圧縮された力場はなんとかビームを弾いてくれた。
右腕にガンポッドを構え射程内に入るまで前進しようとしたとき、F91の両腰に新たに砲身がせり出しているのが見えた。
その間も変わらずライフルの砲撃は続いている。バリアを強め、構わず突っ込む。
F91の砲身が輝きを灯す。
ぞくり、と背筋を駆け上がった悪寒に突き動かされ、バリアを機体側面に展開しそのまま左手のビルに突っ込んだ。

舞い散るガラス、崩れたビルの残骸の中で衝撃に呻くカミーユの視界いっぱいに、純白の光が満ちる。
傍らを駆け抜けたビームはさっき破損したビルにまたも直撃し、だが今度はその後方のビルいくつかまでも諸共に消し飛ばすのが見えた。
凄まじく高出力のビームだ。あれはいかにバリアを集中させても防げない。
が、一度見たからにはそう易々とは当たるわけにはいかない。
発射されたと認識してから回避できたところからするに、弾速そのものは速くはない。
そして腰部から回転するようにせり出した砲身は、その構造上腰から上は狙い撃てない。
ならばとビルから飛び出しざまファイター形態に変形、瞬く間に空へと駆け上がる。

十分な距離を取ったところでバトロイドへ。太陽を背にオクスタン・ライフルを構え、地上のF91を狙い定める。
モードB、実体弾をセレクト。
F91はヴェスバーを納め、ビームライフルを片手にジャンプ。高架の上に陣取り、迎撃の態勢を見せた。
実体弾とビームが交錯する。
陽光に目が眩んだか、先程より狙いが甘い。バリアを使わずとも回避できた。
対するキラも、巧みに機体を操り弾丸を避けていく。地上での加速性能はバトロイド形態のVF-22Sより上かもしれない。
この距離ならビームライフルの回避は容易いとわかった。ライフルをモードEに変更、余裕を持ってチャージを開始するカミーユ。
と、F91が大きく後退する。そして高架の端に来たところで、猛然とダッシュをかけた。
そのままくるりとターン――地面と水平に。背面跳びの姿勢のまま、高架の上をなぞるように滑空していく。
何を、と思った瞬間に気付く。ヴェスバーがこちらを狙っている!
だがカミーユは、あの低速のビームならかわせると判断しチャージを優先。
動きの止まったVF-22S目掛け、F91のヴェスバーが解き放たれる――細い針のような、高速のビームの嵐。

「うわあっ!?」

全身を包むよう展開していたピンポイントバリアを貫かれ、張り出した肩の装甲が吹き飛んだ。
衝撃に機体が傾ぎ、チャージ中だったオクスタン・ライフルが手からこぼれ落ちていく。
カミーユは自分の認識の甘さを思い知った。
あの武装は低速・高出力のビームだけでなく、高速で一点に集中された貫通力の高いビームも撃てるということか。
そして、キラ・ヤマト。あの不安定な姿勢から、上空の点のようなVF-22Sを正確に狙い撃ってきた。
こいつは――強い。遅まきながらもそう思い、気を引き締め直す。
しかし、そんな思いは霧のように掻き消える。F91が落下するオクスタン・ライフルを拾い上げ、構えるのが見えたからだ。
チャージ中だったライフルの出力は既に臨界目前にまで達していた。
数秒間を空けた後、赤い閃光がカミーユ目掛け放たれた。ビームの濁流が迫る、だがそんなことよりも――

「――お前が、それを使うなッ!」

意識が赤い靄のようなもので塗り潰された。
キョウスケから託されたものを、撃ち貫く槍を――俺に向けるのか、と。
脚部のスラスターを全開にし、弾かれるようにビームを回避する。
無理な姿勢での強引な機動に一瞬気が遠くなる。
だが沸き上がる怒りがそれを封殺し、腕は考えるより早く操縦桿を倒す。ファイターへと変形、F91に向けて逆落としに突撃していく。

威力がありすぎるのを嫌ったか、F91はモードBにて迎撃を図る。
相対的に凄まじい速度になった弾丸を、だがカミーユは、

「当たるものかッ!」

機体を僅かにロールさせ、弾丸の通り道を開けてやるようにかわしていく。
弾丸と弾丸の隙間を縫うように――ただの一発も被弾しない。
一気にガンポッドの射程に入る。だが、カミーユはそれを使わない。
激しく揺れるレティクル、その中央のF91目掛け。
寸前でガウォーク形態に変形、体当たりを仕掛けた。

「それを……返せぇッ!」

激突の瞬間、F91が一瞬早く機体を引いた。
F91の頭部のバルカン砲が展開するも、撃たれない。
この距離で撃てば確実にカミーユのいるコックピットへ直撃する。機体の接触を通し、キラの躊躇いの声が聞こえた。
その隙を見逃さず、VF-22Sは左手でライフルを掴み、残る右手で思い切りF91を殴りつけた。
胴部を強打され、F91が吹き飛んで行く。

カミーユは追わず、バトロイドに戻した腕でライフルを構える。チャージした分のエネルギーは3割ほどしか消費されていない。
離れていくF91に向けて叩き込む。もはや手加減や機体を傷つけずに、などという考えは失せていた。
F91が着弾の寸前、右腕を突き出した。手甲の部分が輝き、ビームで形成されたシールドが展開する。
VF-22Sのピンポイントバリアと似たようなものかと推測。だが関係ない――破壊するだけだ。

ライフルを落とし、両腕にガンポッドを構えた。噴煙の中うっすらと光るF91のシールドへ向けて、乱射する。
風が煙幕を吹き払う。F91は地面に膝をつき、なんとかシールドの範囲内に機体全てを納めていた。
完全に捕らえた、これでF91は一瞬でもシールドを解除すればズタズタに引き裂かれる。
模擬戦ならば勝ったとみていい状況で、しかしカミーユの引き金を引く指は固まったかのように動かない。
時折りビームライフルを握る腕を突き出し、牽制の砲撃を返してくるからだ。
F91はまだそこにある。キラはまだ生きている。

なら、破壊するだけだ。カミーユの目の前から、意識から、記憶から。ただの一つの欠片もなく、完全に消え去るまで。
一枚の絵画のように静謐に、ただひたすらに撃ち続ける。


          □


「ねえ、止めた方がいいよ! これ模擬戦なんかじゃない! 二人とも本気で戦ってる!」

Jアークのブリッジに、アイビスの焦りに彩られた声が響く。
アムロの見つめるモニターの中では白と青の機体が激しく砲火を交わしている。
その一射一射にひやりとする――直撃すればただでは済まない威力。
アムロとしても、これ以上続けさせるべきではないか、とは思う。だがもしここで止めれば、カミーユは即座に行方を眩ますだろう。
今の彼を一人にはしておけない。さりとて、シャアを死なせた自分の言葉は、カミーユには届かない。
キラに任せるのは大人として心苦しいが、この中でカミーユの気持ちが一番理解してやれるのもキラなのではないかと思うのだ。
歳の近さ、戦いに身を投じるようになった環境、経緯。そしてここに来て大事な人を失った悲しみ。
アムロならある程度心の奥に沈めておけるそれも、未だ若い二人には酷なことだろう。
鬱憤を吐きだす意味でも、秘めた思いを全力でぶつけあうことは有効だ。
ただし、命を奪わない範囲では、だが。
カミーユはともかく、キラも引きずられて熱くなっているように見える。やはりここは止めるべきか――

『ミサイルランチャー、反中間子砲ともに補給は完了している。いつでも介入は可能だ』

トモロの声。彼もやはり静止すべきと考えているのか。

「……アイビス、待機だ。横槍を入れるなよ」
「ッ、アムロ!」
「キラを信じろ。彼なら負けはしない……最悪の結末は来ないと信じるんだ。トモロ、砲撃準備は解除だ。二人の気を散らすな」

逡巡を呑み込み、指示を出す。了解、とトモロ。続くアイビスの声は納得などしていないようで、何故だと必死に問いかけてくる。

「俺達はキラの理想を信じてここにいる。これはキラの力と想いを試す試金石でもある。
 正義のない力がただの暴力であるのと同じように、力のない正義はただの理想論だ。どちらが欠けてもいけない……」

もしここでキラがカミーユに破れる、あるいはカミーユを殺してしまうようならこの先で生存者をまとめていくことなどできるはずもない。
カミーユほどその力を見知っているわけではないが、それでもアムロは信じられると思っていた。
キラはまだ16歳という若さで戦うことの重さを知っている。かつて自分も通った道、その辛さは誰よりも知っているつもりだ。
だからこそ、彼と戦うことでカミーユにも新たな道が開けることを望む。
見守ることしかできない自分に歯痒さを感じつつも、アムロは拳を握り締めモニターを見つめ続けた。


          □


F91は動けない。
シールドがそろそろ限界だ。かといって、今解除すればあっという間にハチの巣にされる。
ヴェスバーを使える体勢ではない。どうにかビームライフルで牽制するのが精一杯だ。
考える。F91の武装でできることを。
考える。地形の情報、自機の位置、敵機の位置。
警告音。ビームシールド使用限界まであと5秒――

「迷ってる暇なんてないじゃないか……!」

右手のビームライフルを戻し、代わりにビームサーベルを構える。同時にバルカン砲、メガマシンキャノンをスタンバイ――ここで一秒。
地面に押し当て、出力を上げて発振させた。やはり同時にバルカン、キャノンを地面に向けて叩きこむ――さらに一秒。
膝をつくF91の周囲、円を描くように腕を回す。砕かれ、ドーナツ状に焼き切られた高架は、ミシミシと音を立てる――二秒かかった。間に合え……!
シールドが限界を迎えた。無防備になったF91を睥睨するVF-22S。
ガンポッドから弾倉が吐き出され、新たなそれが挿入される。
構えられたそれが火を噴く、その一瞬前に。

「このぉおおおおおッ!」

座り込んだまま下方向へ向けて加速するF91。足元に凄まじい負荷がかかる。
ビシッ、という音の後。
地面に地割れのようにヒビが広がり、F91ごと砕け、落下していく。

高架を挟みVF-22Sの姿が見えなくなる。この一瞬が考える好機だ。
先程、落下してきたライフルを掴んだ時からカミーユは別人のように鋭い動きを見せてきた。
その後の攻防でこちらを撃破することよりもライフルの奪回を優先したことから、何らかの思い入れがあるものにキラは触れてしまったのだろう。
スイッチを入れてしまった、というの正しいのだろうか。
ともあれ、何とか互角に戦えていたはずがこのままでは一気に押し込まれそうだ。
全力を出し切らねば勝てない――どころか、命も危うい。
F91はいい機体だ。カミーユの機体に、決して負けてはいないだろう。
ではキラがその性能を十二分に発揮できているか――否。
今この機体はアムロが乗ることを想定したセッティングのまま戦っている。
変更する時間もなく、またその必要もないと思っていたからだが……もうそんなことは言っていられない。
VF-22Sに追い詰められる前に、OSを書き換えねばならない。

そして、もう一つ。バイオコンピューターだ。
このガンダムF91に搭載されたバイオコンピューターは、人と機械の仲介を果たす役目を持っている。
操縦者の意志を機体が感じ取り、また機体のセンサーが感知した情報を文字や映像という過程を経ず操縦者に直接フィードバックする。
肌で敵の存在を感じる、というのだろうか。機体と一体になるという点で画期的なシステムと言えるだろう。
だがそれに対応できるのは、一握りの人間だけ。
普通の相手ならそれでもカバーできる。だがカミーユ相手では、僅かな情報の取りこぼしがすなわち敗北につながることになる。
常人ではバイオコンピューターのもたらす情報を処理しきれないのだ――拡がっていく感覚を自然に受け入れることのできる、ニュータイプと呼ばれるものでもなければ。
そしてその素養はキラにはない。いかに反射神経や思考速度に優れていようと、コーディネイターに人知を超える超常的な力はないのだから。
だが、構わないとキラは思う。足りないのなら、別の方法で補えばいい。
バイオコンピューターが全方位から情報を伝えてくるから、捌ききれない。

「だったらッ!」

コントロールパネルを引き出す。膝の上で固定、どんなに揺れても動かないように。
同時にヴェスバーを高速連射モードに。フットペダルを蹴り付け、スラスター出力を上げる。
右手でグリップを握る。ライフルとヴェスバーの同時制御。
そして左手をパネルの上へ。
指先がキーボードの上を跳ね回り、速射砲のごとき勢いでタイプする。
高架を回り込み、青い影が迫る。槍のごときライフルを、突き刺さんばかりの勢いで振り上げ、構える――その前に。
二門のヴェスバーが閃光を放つ。重く収束されたビームではなく、軽く拡散する光のシャワー。
機を逸したバルキリーが後退する。時間を稼いだ。何秒、と考える暇もない。
洪水のように溢れる情報の取捨選択。並行して、OSのブラッシュアップ。
動作プログラムをチェック。遅い、これなら自分で動かす方が早い。必要ないと思われるプログラムを凍結、少しでも手間を減らす。
新たなウィンドウが現れ、目を通すと同時に処理。表示されてから消えるまで2秒間。
眼球が絶えず動き回る。もどかしい、両手が使えたらもっと速いのに。

ちらと見えたモニターで、その原因が銃を向けている。あの長物はビームと実体弾を使い分けることができるらしい。
ろくに狙いも定めず撃ち放たれるヴェスバーを易々とかわし、そのライフルが火を吹いた。
機体を囲むように弾が散らばり、逃げる空間が潰された。動きが止まり、そこへ満を持してF91へ向けて放たれる弾丸。
ビームライフルが貫かれた。咄嗟に放り捨て、シールドを展開。爆風から身を守る。
衝撃に歯を食いしばり、敵機を見据える。そのライフルの先には、赤い光が灯っている――高密度のビーム。
シールドでは受け止めきれないだろう。かわすしかない、が銃口は糸でつながったようにこちらを追尾する。
動きを読まれている。もっと速く動かなければ。
牽制のヴェスバーをばらまく。敵機は縫うように避けていく。
警告、砲身の加熱。冷却のためヴェスバーが沈黙した。同時に敵機も回避の必要がなくなり、完全なる狙撃の体勢を取る。

撃たれる。負ける。死ぬ――

刹那にも満たない時間。キラの脳裏をよぎる、親友の顔。ただひたすらにお互いの命を奪い合おうとした、アスランの。
今のカミーユは、あのときの自分たちと同じだ。戦うことで、目の前の敵を排除することで何かが変えられると信じている。
そして、いつか行き着く先に何もないことを知る。それを思い知ったはずなのに、また同じことを繰り返そうとしている、自分。
死とは解放である。その身に背負った業も、後悔も。すべて消える――楽になれる。
アスランとラクスもそこにいる。なら、いっそ。
光が膨張し、一直線に伸びてくる。その向かう先はF91、キラのいるコックピット。
全てがスローをかけたように感じられ、キラは笑った。これで終わる、そんなことを考え。

「認めない……そんなことはッ!」

甘い夢のような弱い考えを、意志の力でねじ伏せる。


そして、頭の中で何かが弾けた。


思考が冴え渡り、圧倒的な全能感が体を包む。迫る荷電粒子、撒き散らされるその一つ一つを知覚できるような気さえする――


F91の右腰にあるウェポンラック。予備のビームシールドを掴み、放り投げる。
濁流のようなビームに、シールドは展開と同時に貫かれた。一瞬、だがそれで充分。
そしてF91の左手にはビームサーベル。リミッター解除、最大出力。焼き付いたって構わない。
過剰なエネルギーを供給され、剣と言うより槌と呼ぶにふさわしいビーム力場。
叩きつける――シールドを突破し、減衰したビームへ。
凄まじい負荷。表示される情報、現状のままならサーベルの溶解まで残り6秒。
待ち望んでいた膠着の瞬間。右手を固定したグリップから離す。左手も追随、存分に動かす。
4秒が過ぎ、5秒が過ぎ。唐突に負荷が消え、そのまま振り切ったサーベルには刀身がなく柄頭が溶けていた。
灼熱の奔流を切り裂いた代償だ。が、代わりに得た物は大きい。
今の一撃にカミーユも勝負を賭けていたようだ。呆然としたように動きが止まっている。好都合。
先程から組み上げていた情報を連結。新しいプログラムの構築――完了。

全方位からではなく、一か所から。
歩く歩幅を小さくしても、足を踏み出す速さを上げれば最終的な速度は変わらない。
センサーのもたらす情報を全て言語化しモニターへ表示する。機体管制と同時に無茶な処理を押し付けられたOSが悲鳴を上げた。
このOSはそのような使い方は想定されていない。警告表示が画面を埋め尽くす、その前に。

「これで……応えてくれ、ガンダムッ!」

プログラムのインストール――終了。
モニターを占拠する警告表示が一斉に消えた。代わって一つ、生み出されたウィンドウ。

『プログラム稼働率95%。未定義情報の処理を開始』

表示される文字の羅列。だがそれは一瞬で別の文字に切り替わる。その文字が残るのもまた、一瞬。
しかし、キラの鋭敏な視覚はそれを捉える。
バイオコンピューターの感知する感覚的情報、その全てをこうして具現化する。常人が確認すらできないそれをキラは次々と把握し、理解する。
頭の中がひどくクリアになっている。現れては消える情報も、全て読み取れる――

カミーユが動き出した。ライフルを構え、突進してくる。エネルギーが尽きたか、実体弾の乱射。
だが、今度はかわせた。先程とは違い、銃口の向きで射線が読み取れる。
しかもあれだけの長物だ、両手で保持するその姿は実に読みやすい。
ライフルの動きを注視し、発砲の一呼吸前に回避運動。一瞬前のF91の位置を弾丸が通過していく。
読まれやすいライフルで仕留めることは無理だと悟ったか、バルキリーがライフルを放り捨てた。そのまま戦闘機へと変形し、急速に距離を詰めてくる。
アムロが最初に乗っていたバルキリーにはガンポッドとミサイルが装備されていたという。なら、あの機体にも同じかそれ以上の武装があるはずだ。
射線が読まれるのなら物量で押す、正しい判断だ。
F91の武装は今やサーベル一本にヴェスバーのみ。そして取り回しの悪いヴェスバーでは対応できない。

「これで終わりだッ!」
「まだだ……まだ終わりじゃない!」

咆哮とともに、F91が光を放つ。フェイスオープン、放熱フィン展開。
バイオコンピューターは最大稼働率を示している。
輝きとともに機体表面の装甲が剥離、MEPE現象が発動した。
バイオコンピューターはサイコミュ的装置ではなく、必ずしもニュータイプを必要としない。
その機能を完全に引き出せるのはニュータイプくらいだということだ。
なら、ニュータイプでなくともニュータイプ並みの力を持つ者なら、その能力を使いこなすことは、可能。
波間に消える泡のような情報を余すところなく読み取っていくキラの情報処理速度は、F91の全力稼働に耐え得ると――ニュータイプに比肩しうると、バイオコンピューターは認定した。
故に、F91はその力の全てをキラに委ねる。金色の輝き、人の可能性の体現を。
幾重にも重なるF91の虚像がVF-22Sを取り囲む。

「なんだ……分身!?」
「カミーユッ!」
「やらせるかッ! いくら見える数が増えたって、本物は一つだけだ!」

だが、驚いたことにカミーユは十数のF91の中から正確にこちらを狙い撃ってきた。
シールドで弾丸を受け止める。分身に惑わされてはいない。
効果がないわけではないだろうが、この様子では少ないと考えた方がいい。
今のF91の機動力は愛機フリーダムと互角かそれ以上のはずだ。なのに決定的な差とならない――やはりカミーユは強い。
己に一層の注意を喚起するキラ。サーベルを構えバルキリーへと躍りかかる。
もうエネルギーは残り少ない。勝負をかけるなら今だ。
カミーユも同じ考えなのか、人型へと変形。正面から向かってくる。

VF-22Sのピンポイントバリアパンチ。ぎりぎり拳が届かない位置へと、半歩機体を引かせる。
連続する分身。そこには変わらぬF91の姿――いかに分身に惑わされずとも、視覚的な情報を全て遮断することはできない。
F91に届く寸前、VF-22Sの腕が伸び切った。その腕を斬り飛ばすべくサーベルを振り下ろそうとした瞬間。
分身を突き抜けてくる何かを感知。高速の熱源、ミサイルだと推測。
とっさにバルカンで迎撃するも、その間にVF-22Sは後退していた。
追撃のヴェスバーを放つ。VF-22Sは再びファイター形態へと変形、機体を傾けることでヴェスバーの間をすり抜けた。
交差するように放たれた二条のレーザーをサーベルで弾く。
上方から回り込むように向かってくるVF-22S、射角を下にとるヴェスバーでは狙い撃てない。
メガマシンキャノン、バルカンを一斉掃射。閃く火線に捕らえられる寸前、VF-22Sが足を投げ出す――ガウォーク形態。
本来は地上戦用の形態ではあるが、重力制御を駆使した機動は空中にあったとて何らマイナスになり得ない。
変則的な機動で振り切るようにかわされ、返礼としてガンポッドが凄まじい量の弾丸を吐き出す。
さすがにこれは斬り払えず、シールドを展開する。一瞬の後、キラは動きを止められたことに気付く。
一気に接近戦の距離へと潜り込まれた。VF-22Sの上半身が持ち上がりバトロイド形態へ。

「墜ちろォッ!」

拳が迫る。キラは機体を半身に傾け、拳の内側――敵機正面へとぶつからんばかりの勢いでF91を前進させた。
ピンポイントバリアパンチがここで炸裂すれば危ないと直感したか、カミーユは咄嗟にバリアを解除した。
空の拳が肩口を叩く。損傷――問題ない、このまま行ける。サーベルを放棄し、F91は舐めるような動きでバルキリーの側面へ。
カミーユを殺さず、また自分も殺されないで戦闘を終わらせるためには。

「ここだ……勝負だ、カミーユ!」

F91がVF-22Sに組みついた。そのままスラスターを全開、地面へ向かって降下する。

「何をする気だ、お前!」
「君を止める、それだけだ!」

VF-22Sも黙ってはいない。ブースターを吹かし、上昇しようとする。
推進力は異なる二つのベクトルを示し、絡み合う二機は無秩序に空中を動き回る。
制御できない運動に、その中心にいる二人の少年は苦悶の声を上げる。

「うわあああああッ!」
「ぐ、くうっ……ッ!」

まるで何百年も前に流行ったというUFOのような軌道を描き、ガンダムF91とVF-22Sは地上へと落ちていった。




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