王の下に駒は集まる ◆VvWRRU0SzU




ユーゼス・ゴッツォは合理的な人物である。
信じるものは数字、実績、記録といった目に見えて確かなものだけ。
愛や友情、気合や根性といった精神的な言葉がもたらすこのなど何一つないと考えている。

その男からすれば、今目前で繰り広げられている茶番はまったく持って不可解、不条理、不愉快なものだった。

(理解できん……やつらは状況が分かっているのか? 殺し合いの真っただ中で、人目も憚らず無防備に抱き合うなどと)

飛び去る二機を発見しアキトと別れて以降、彼らの追跡を続けたユーゼス。
起伏に富んだ草原の一角にラーゼフォンの巨体を隠し、彼が見ているのは一組の恋人たち。
何を思ったか機体を降りて悠長に睦言を交わしているようだった。
ユーゼスとしては現状の戦闘力が些か盤石でないこともあり、接触は慎重に慎重を重ねた上で行うつもりだった。
しかし、この様子では――

青い騎士のような機体と、20m前後の白い機体。ともに少年と少女からは均等に20m程の位置だ。

ふわり、とラーゼフォンが舞う。遮るもののない草原でこの巨体を晒せばすぐに発見されるだろう。
拡大したモニターの中で少年がこちらに気付く。だが抱き合ったその体勢から瞬時に反応できるはずもなく。
滑空の勢いのまま、ラーゼフォンを青い騎士へと激突させる。
ラーゼフォンより一回り小さいその機体は軽々と吹き飛んだ。土埃を上げて停止したその距離は実に100mは空いた。
ユーゼスはその様子に目もくれず、白い機体へとラーゼフォンを旋回させた。
自身の半分ほどのその機体を抱え上げ――介入から僅か数秒で無力化に成功した。

通信回線をオープンに。眼下で愕然としている少年少女に向ける言葉を探す。と、

「その機体、あ、あんたは……生きてたのか!? 生きてて――くれたのか!」

少年が体を震わせながら叫んできた。傍らの少女は彼の腕に縋りついている。
生きていてくれた――その言葉の対象はラーゼフォンに乗っていたあの遺体のことだろう。
アキトはこの少年が下手人だと言っていた。なら、自分が殺した相手のことを心配していた、ということになる。
少年の狼狽する様子。
どうせ確たる覚悟もないまま殺人へと及び、その罪を認めたくないから生きていてくれて嬉しい、というところか。
少年の良心を満足させるため芝居を打ってやるか――だが、あの遺体は骨格からして女性だった。
自分の野太い声ではさすがに気付かれるだろう。嘆息して、一つ息を吸う。

「少年、残念だが君の願いは叶わない。この機体に乗っていたパイロットは確かに死亡していた」

少年が、ビクリと震えた。正体不明の人物の声に加え、罪から逃げることはできないと改めて突き付けられたからだろう。
そんな少年を庇うように赤毛の少女が前に出た。

「アンタは一体誰!? アタシ達に何の用があるのよ!」
「用も何も、私達が行っているのは殺し合いだ。つまりは、そう」

ラーゼフォンの片足を持ち上げ、彼らの目と鼻の先へ踏み下ろす。轟音。一拍、足を引き上げるとそこには深い足跡が刻み込まれていた。
彼らは引きつったような顔で見上げてきた。堪らない――その顔だ。弱者を蹂躙する愉悦。

「己の立場はわかったかね? 質問するのは私の方だ。君らは黙って従えばいい」
「誰がアンタの言うことなんか……!」
「情報交換は一人いれば事は足りる。恋人を引き裂くのは忍びないが……どうするね?」
「ッ……!」
「待て、テニア。ここは俺が話す」

少し落ち着いたらしい少年が少女を背中へと隠す。
睨みつけてくるその顔は中々に精悍で、まさしく姫を守る騎士といったところ。

「で、何が聞きたいんだ。俺達が知ってることはそう多くないぞ」
「ふむ……ではまず、君達の名前と関係から聞こうか。まあ、後者については聞くまでもないかもしれんが」
「……俺は紫雲統夜、彼女はフェステニア・ミューズ。俺は、俺達は……二人で生き残るんだ」
「二人で、ね。この戦いのルールを聞いていたかね?」
「知ってる。でも、生き残るためにテニアを殺すことなんて……俺には、もうできない」
「あ、アタシもだよ!」
「具体的にどうするつもりだ? 主催者は勝ち残った一人を求めているのだぞ」
「それは……だから、主催者を倒すとか、ここから逃げるとか。とにかく、優勝って道はもう選ばない」
「ではもし、君らが襲撃されたらどうする? この場合は私だが、たとえばその少女を殺したら、君はどうするのだ?」
「――決まってる。どんな手を使ってもアンタを殺してやる」

絶対的不利な状況でもそう告げた少年の目には怯えはない。
少女は僅かに涙ぐんだ――この分では彼女も少年と同じだろう。
互いが互いを必要とし、それだけで完結する関係。
ユーゼスは思案する。
今己に必要なもの――ナデシコの設備、未知の技術、AI1を進化させる膨大なエネルギー、そして王を守る駒。
アキトは強力かつ貴重なカードだが、扱い辛い。もっと手軽に、いつでも切り捨てられる手札が欲しい。
その点、彼らは。
生還を目的とし、強固な絆で結ばれた二人。
必ずしも戦う訳ではないが、一番に優先するのはお互いの命。かかる火の粉を払うことに躊躇いはない。
条件は十分だ。

「統夜――と、呼ばせてもらうよ。君たちの決意はわかった。礼を失したようだが、私は君たちの力になれると思う」
「何だって……?」
「私は主催者に抗う仲間を求めている。君達がともに戦ってくれるのなら、無事に生還できることを約束する」

ラーゼフォンの手を掲げ、コクピットからそこへ乗り移る――信用させるためのポーズ。
少年達を見下ろす。自らの首輪を指でトントンと叩き、続いて引き千切るようなジェスチャーを加える。

「私は『これ』ができる方法を所持している。協力を得られるなら君達にも提供しよう」

目に見えて少年が動揺する。
二人で生き残る。その理想の着地点がどうあれ、首輪はネックにしかならない。
恐らく誘いに乗るかどうか、その脳裏で激しく議論が交わされているのだろう少年を尻目に少女が声を上げる。

「アンタを信用できるっていう根拠は? 裏切らないって保証はあるの?」
「ない。そもそも君達はお互いしか信用する気がないのだろう? そしてこれが肝要なのだが、私としては必ずしも君達である必要はないのだ。
 この先誰かと出会えばその誰かにも同じ取引を持ちかける。恐らくこれができるのは生存者の中でも私だけだろう。
 モノを考えられる相手ならば断られる確率は低い。つまり、君達が断るならば私はここを去るだけだ」
「見逃してくれる……気はあるの?」
「まさか。不確定要素はできるだけ排除しておきたい。君達がいつ優勝を狙いに回るかもわからんしな」
「じゃあ選択肢なんてないじゃない!」
「そんなことはない。生きる道を選ぶか、ここで死ぬか。その二つは選べるだろう」

押し黙る少女。
やれやれ、と嘆息する。アキトと合流するためにもあまり時間をかけたくはない。
二人の排除を真剣に検討し始めたところ、思案に耽っていた少年が顔を上げた。

「わかった。アンタの話に乗る」
「統夜!?」
「テニア、どのみち俺達は敵を作りすぎた。仲間は必要なんだ。
 ガウルンとはいずれ戦うことになるだろうし、Jアークってやつらも多分そうだ。
 最悪なのがナデシコだな。ガウルンが少しでも削っていてくれればいいんだけど……」
「ナデシコ? 待て、君達はナデシコと接触したのか?」
「接触したも何も、さっきまで戦ってたよ。今は仲間が……いや、『元』仲間が残って戦ってる」

つまり、アキトが向かった方にナデシコはいた。そこでは今戦っている。
出遅れた、と半々の確率を選んだ自分を悔やむ。ここからでは間に合うかどうか。

「統夜、その残っているやつの情報を教えろ。危険なやつか? 行動目的は?」
「え……ああ、危険って意味では多分集められたやつの中でもトップクラスだ。
 ガウルンって名前で、傭兵って言ってたけど戦うことを楽しむようなやつだし。優勝狙いっていうか、戦いそのものが目的だと思う」
「ガウルン――チッ、まったく面倒な!」

その名は聞き覚えがある。薬の後遺症に苦しむアキトが何度もうわ言で呟いていた名だ――怨嗟とともに。
アキトの仇というのはそのガウルンのことなのだろう。そいつがナデシコを襲っている。
彼が間に合えばいいが、ある意味それは煮え滾る鍋にさらに爆薬を投げ込むようなものかもしれない。
ナデシコの重要性は認識しているだろうが、あの様子では殺意を制御する気などなさそうだ。
急行し、ナデシコから引き離さなければならない。

「統夜、済まないが話はまた後だ。ナデシコが墜ちれば先程の話も水泡に帰することになる」
「ナデシコを助けに行くのか? その……協力するとは言ったが、俺達は行けないぞ。
 アンタを信用するのも、あそこにいるやつに会うのも、今はまだ早い」
「フン……まあ、いいだろう。では、そうだな――次の放送までにA-1の市街地で合流しよう」
「A-1だな、わかった。俺達は今から向かって待機しておく」

ラーゼフォンを飛行させ、だがふと気づく。丸腰で向かったところで大したことはできない。
青い騎士を見やる。ちょうど良いことに、中々の大剣を佩いている。

「統夜、剣を借りておく。次に会った時に返す」

言い捨て、倒れ伏す青い騎士の剣を強引に剥ぎ取った。
統夜が何か喚いている――だが今は聞いていられない。
五大剣をその左腕にしっかりと握り締め、ラーゼフォンは猛スピードで飛び去って行った。

騎士の象徴たる剣をを奪われ、憤慨する少年の罵声を聞き流しながら。



【ユーゼス・ゴッツォ   搭乗機体:メディウス・ロクス(+ラーゼフォン)
 パイロット状態:若干の疲れ
 機体状態:全身の装甲に損傷(小)、両腕・両脚部欠落、EN残量80%、自己再生中
 機体状態2:右腰から首の付け根にかけて欠落 断面にメディウス・ロクスのコクピットが接続
        胴体ほぼ全面の装甲損傷 EN残量40% ヴァイサーガの五大剣を所持
 現在位置:G-1
 第一行動方針:ナデシコ、アキトと合流。危険人物(ガウルン)の排除
 第二行動方針:ナデシコの捜索、アキトと合流、AI1のデータ解析を基に首輪を解除
 第三行動方針:他参加者の機体からエネルギーを回収する
 第四行動方針:サイバスターとの接触
 第五行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
 第六行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい?
 第七行動方針:次の放送までにA-1に向かい統夜、テニアと合流
 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る
 備考1:アインストに関する情報を手に入れました
 備考2:首輪の残骸を所持(六割程度)
 備考3:DG細胞のサンプルを所持
 備考4:謎の薬(希釈されたDG細胞)を一錠所持
 備考5:AI1を通してラーゼフォンを操縦しているため、光の剣・弓・盾・音障壁などあらゆる武装が使用不可能
 備考6:ユーゼスに奏者の資格はないため真理の目は開かず、ボイスの使用は不可
 備考7:ラーゼフォンのパーツ部分は自己修復不可】


【紫雲統夜    登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:精神的に疲労 怒り
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数 EN80% 五大剣紛失
 現在位置:H-1
 第一行動方針:A-1に向かい待機。戦闘は避ける
 第二行動方針:ユーゼスに協力。でも信用はしない 
 最終行動方針:テニアと生き残る】


【フェステニア・ミューズ   搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:幸福
 機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) 、シックス・スレイヴ損失(修復中、2,3個は直ってるかも)
        EN60%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている
 現在位置:H-1
 第一行動方針:統夜についていく
 第二行動方針:ユーゼスに協力。不審な点があれば容赦しない
 最終行動方針:統夜と生き残る
 備考1:首輪を所持しています】


【二日目14:45】




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