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戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU




『……ッ、か、はぁっ、はっ。ぐっ――次だ! オモイカネ!』

息継ぎもそこそこに、次の曲を指名する。
思い出せる限りの曲は入力している。ナデシコを統べるAIは即興にしては十分すぎるほどの音楽を奏でてくれる。
バサラにできることはただ、歌うことだけ。
歌って、歌って、歌い続ける。山を動かせると信じひたすらに歌っていた少年時代――あの頃のように。

が、オモイカネはモニターに大きくバッテンを表示する。ご丁寧にブー、ブー……とSE付きだ。
歌うことにのみ全精力を注いでいたバサラは気付かなかったが、いつの間にかナデシコに一機、肉薄する機体があった。
ぼんやりと映し出されたその機体のシルエット、頭部に生えた翅――

『ラーゼフォンじゃねえか!』

そう、バサラに支給された人造の機械神。
奪取したカテジナが放送で呼ばれたことから、破壊されたものと思っていた。

『そうか……やっぱりお前も俺と歌いたいんだな! いいぜ、セッションといこうじゃねえか!』

バサラはラーゼフォンを奪われたとき、必ず自分の下に戻ってくると信じていた。
一緒に歌った……根拠はただそれだけ。それだけで十分だった。
が、やがて明瞭になったその姿はバサラの記憶とは大きく異なっていた。
右半身はほぼ削り取られ、胴体全面は見る影もなく傷ついている。
左手には太刀。そして何より、胸部に無理やり接続されたようにしか見えない球体が異彩を放つ。
完全なるラーゼフォンを知るバサラからすれば、その姿はひどく歪で不自然なものに見えた。

「ナデシコ、応答しろ。こちらはゼスト、ユーゼス・ゴッツォ。着艦を求む」

戸惑うバサラをよそに、ラーゼフォンから通信が入る。

『――ナデシコ、熱気バサラだ。着艦するつったが、どういうつもりだ?』
「手短に言う。ここから離脱するため、ナデシコのコントロールを預けろ。この機体なら損傷した箇所のカバーができる」
『どういうこった。ラーゼフォンにそんな機能はないはずだぜ?』
「ラーゼフォン? ――ああ、この機体の名前か。君はこれを知っているのか。
 そうだな……詳しくは言えんが、私が手を加えてそういうことができるようになった。今はそれで納得してくれ」
『納得ったってな……』
「済まんが、議論している時間はない。早く向こうで戦っている彼らの援護に向かわねばならん。制御中枢の所在を教えてくれ」

男の言葉を、渋々だがバサラは了承した。
歌を止めることになるが、我を通して甲児達の足を引っ張るわけにもいかない。
オモイカネに指示し、ラーゼフォン――ゼストと直接回線で接続を行った。
数秒の後……

バサラの眼前を、一斉に表示された警告表示が埋め尽くした。

『な……なんだ!? 何がどうなってやがる!』

コンソールに走り寄る。
明滅し、いくつものウィンドウが開いた次の瞬間消えてゆく。
スピーカーからサイレンのような効果音が鳴りだした。バサラはそれを緊急の――オモイカネのSOSだと直感した。
やがて何重にも展開したウィンドウがすべて消える。残った表示は一つ。

【NERGAL ND-001 NADESICO  ナデシコ級一番艦「ナデシコ」管理AI「オモイカネ」、削除シークエンス実行中】

その文字列の下にはゲージが一つ。70、75、80、85――さして間を置かず、100に到達した。

その瞬間、艦内すべての照明が落ちた。突如として暗闇の中に取り残される。
何が起こった――そう言おうとした。だが、喉からではなくスピーカーから聞こえてくるはずの自分の声は、ない。
コンソールに僅か残る光を頼りに手の甲を確認する。

注入されたナノマシンは効果を発揮するとき、淡く輝きを放つ。それが、ない。
わけも分からず、バサラは叫ぶ――叫ぼうとした。力を込めた喉からはヒューヒューと空気が漏れる音だけ。
そして、唐突に照明が復帰した。
眩い光は混乱していたバサラの心にも落ち着きをもたらした。停電でもあるまいし、今のは何だったのだと、呟く。

呟こうと、した。

声は、戻っていない。

愕然と立ちすくむ。やはりさっきのは自然に起こった事故などではない。
何かのきっかけがあり、起こるべくして起こったもの。
何か――そんなもの、一つしかない。あの仮面の男だ。
コンソールを操作し呼びかけようとする。だが反応がない。
苛立ち、拳を液晶に叩きつけた。

「あー、聞こえているかね? ユーゼスだ」

押し付けた拳の先。腕を引くと、仮面の男が映っている。

「ど……う、……っ!」

いくらかマシになったとはいえ、やはりままならぬ喉を絞る。声は出なくともこの形相を見れば要件などすぐにわかりそうなものだったが。

「説明しろと言いたいのだろう? 君の喉のことは把握している。よろしい、聞きたまえ。
 ――ナデシコはたった今、私の手に落ちた。オモイカネとかいうAIはデリートしたよ」
「……!」
「君にはしばらくそこでじっとしていてもらおう。隔壁はロックさせてもらった。もちろん通信も繋がらんよ。では、また後でな」

ブツリ、とモニターから男の顔が消える。
急いでパネルを操作するも、男の言ったとおり全ての機能が封じられている。
照明と空調だけが機能しているのは情けだろうか。何にせよ、隔離されたことに変わりはないが。

(チクショウ……ふざけやがって! こんなもんで俺の歌を止められると思うなよ!)

ギターを担ぎ、ブリッジと通路を繋ぐ扉へと駆け寄る。もちろんロックされていたが、バサラはそれでも諦めない。
手で引っ張って開かないと見るや、一歩下がってその長い足を振り回す。
二度、三度となく蹴りつける――ビクともしない。
最新鋭の戦艦の扉が、推理小説などでよく叩き壊されるドアのように吹き飛ぶはずもなく。
数分、バサラが扉を蹴りつける音のみが響く。

(……くそっ! 何か、何かないのか! ここから出て、甲児達に知らせる方法は――!)

考える。ひたすらに考える。
バサラはブリッジに閉じ込められていて、甲児達は遥か遠く。救出はもちろん期待できないので、自力で出るしかない。
だがバサラ単独の力では扉を開けられない。せめてオモイカネがいれば違ったのだろうが。
と、そこまで考えてようやくオモイカネがデリートされた、という事実が重くのしかかってきた。
ユーゼスの言葉はおそらく真実なのだろう。ナノマシンを介しても何の反応もない。
ただのAI――されど、一緒に歌った『仲間』。バサラはまた一人、友を失ったのだ。

(すまねえ……俺は自分のことばっかりで、お前のことを考えてやれなかったな。俺にできるのは、せめて――)

いったん脱出の件を頭から追い出す。どうせ何もできないのなら、何をしていても同じだ。
背負ったギターを取り出す。かき鳴らす響きは先程ともに演奏した葬送曲。
バサラなりの、友に送る手向けとして。

本人以外誰も聴くもののいないブリッジに哀切のメロディが響き渡る。
せめて声が出せればな……とバサラが自嘲した時、ガシュ、と。背後で扉が開く音が聞こえた。
驚いて振り返るバサラ。扉が開いている――先程までどうやっても開かなかったのに。
次いでコンソールに光が灯る。
見れば、格納庫までの最短距離を示した艦内地図が表示された。そこに至る全ての障害は解除されている。
背景には大鐘のようなアイコン。そして、画面の端にはただ一言が添えられている。

『Hurry to the hangar.』

直感する。これは消えゆくオモイカネが示した最後の抵抗なのだと。
声の出ないバサラには声紋照合などできない。故に、そのギターの音色をトリガーとしてプログラムの奥底に隠蔽した。
最期の時間を自分ではなくバサラのために使った――その事実に胸がカッと熱くなる。

(お前……すまねえ。今は、甘えさせてもらうぜ!)

ギターを担ぎ走り出す。この異常は当然ユーゼスも気づいているだろう。
再び隔壁を閉じられる前に、辿り着かねばならない。

走って、走って――格納庫へと滑り込む。
その背後で隔壁が閉じる音が聞こえた。間一髪だったらしい。
とにかく、これで脱出の手段は確保できた。残っている機体へと近づく。

「止まりたまえ」

手近にあったぺガスへと向かったとき、ユーゼスの声が聞こえた。咄嗟に振り向くと、そこにいたのはプロトガーランド。
最悪なことに、ユーゼスが乗っているらしい。

「まったく、あのAIも面倒なことをしてくれる。君に今出ていかれては段取りが狂うのでな。
 大人しくしていられないなら、ここで死んでもらおう」

腕部のビームガンがバサラを照準する。ピタリと突き付けられた銃口に動きを封じられた。
目線だけを巡らし、辺りを確認する。
ハッチは開いている。その向こうにはラーゼフォン。
ぺガスは――遠い。走っても5秒はかかる。撃ち抜かれる方が早そうだ。
応戦しようにもバサラは銃など持っていない。仮に持っていたとしても、使いはしないのがバサラという男だが。

(こいつがここにいるってことは、ラーゼフォンは無人……やるっきゃねえ。こいつをすり抜けて、ラーゼフォンを奪う――!)

覚悟を決めた。重心を爪先に、踵を浮かせいつでも飛び出せるように構える。

「気に入らん眼だ。足掻き、諦めず、絶望しない……実に、不愉快だ」

ガーランドの腕が動く。発砲されてからでは遅い。
撃つ、その一瞬前。もう狙いの修正は効かない、その一瞬――

(今だ!)

バサラの鋭敏な聴覚が捕らえた、ガーランドのスピーカーから漏れるユーゼスの呼吸。
吸って、吸って、止める――最も集中した瞬間。
バサラは横っ跳びに跳ねた。
スローになる視界の真ん中を光が横切っていく。避けられた……!
足を着き、その勢いのまま走り出す。
戸惑ったように動きを止めたガーランド。膝を蹴ってその頭部に駆け上がり、一瞬で脱いだ上着を巻きつけた。
小細工だが、これで時間は稼げるはず。
跳び離れ、今度こそラーゼフォンに向かおうとして――

「な……っ!」

プロトガーランドの背後……バサラの位置からは見えなかったところに、ガロード・ランが倒れていた。
思わず足が止まる。
止まらずに行けば、ラーゼフォンは奪えたはずだ。だがガロードを置いていくことになる。その一瞬の逡巡が、隙となる。
背後からプロトガーランドの腕が伸びる。
振り返ろうとしたときには首を掴まれ、抱え上げられていた。

「チッ……手間をかけさせてくれる。だがここまでだ」

息ができないほどではないが抜け出せもしない――そんな絶妙の力加減で絞め上げられる。
プロトガーランドのキャノピーが開き、ユーゼスが顔を出す。

「大人しく従っていれば、その喉を治すことも考えてやったものを。まったく度し難いな」

ユーゼスはその手に錠剤のようなものを弄びつつ言った。

「だがまあ、制御できん駒に用はない。お前はここで死ね」

もう片方の腕のビームガンがバサラに突き付けられた。
腹立たしいことに、ユーゼスはキャノピーを閉じない――最期の瞬間を観賞するつもりだというように。
全身に力を入れてもがく。だが、そこは小型とはいえ機動兵器。生身の力で敵うはずもない。
ビームガンに火が灯る。その様を凝視しつつ、ついにここまでかとバサラは思った。

「死ね」

ユーゼスの宣言、そして――

「ぺガアアアァァァァァァァァァスッッッ!!」

――絶叫。バサラのものでも、ユーゼスのものでもない。

そして、その声に応えるものがいた。

「ラーサ」

格納庫の片隅で眠っていたもう一つのロボットが、その言葉を鍵に目覚めた。
ブースターに点火――猛然とガーランドに体当たりする。

「ぐ、おおっ……!?」

サイズはほぼ拮抗している。だが、加速した分ぺガスに利があった。バサラを掴んでいた手も離し、吹き飛ぶプロトガーランド。
投げ出されたバサラ。

「が……っ! ってぇ……」
「バ、サラ……!逃げ――るぞ!」

ぺガスの名を読んだ張本人であるガロードが、息も絶え絶えに叫ぶのが聞こえた。
見れば彼はなんとか身を起こし、ぺガスを傍らにハッチへと向かっている。
遅れじと立ち上がる。ふと、さきほどユーゼスが弄んでいた錠剤が目に入った。
喉を治す――本当かどうかわからない。ブラフかもしれない。
判断はつかなかったが、とりあえずそれを拾い上げて走り出す。

「貴様らぁっ!」

背後でプロトガーランドが立ち上がる音がした。
ラーゼフォンへは遠い――ぺガスの下へと走り、その影に身を隠す。

「掴まってろ、バサラ――飛ぶぞ!」

ガロードが言う。ぺガスがその身を人型から飛行機のような形状へと変える。

「ラ……フォ……!」
「ダメだ! あれは俺達には操縦できない!」

ガロードは断言した。
それはロジャーからユーゼスに自身が引き渡された時、身体は動かないながらもぼんやりとそのコクピットを見ていたが故の確信。
手が計器に触れても、首輪は操縦方法を伝えてはこなかった。
これはガロードの知らぬことだが、ユーゼスはAI1を媒介としてラーゼフォンを動かしている。
それは彼が類い稀なる頭脳と技量を兼ね備えていたからできることだ。
技量で言えばガロードとて負けてはいないが、AI1からもたらされる情報を同時に処理するには荷が重い――
長く一人で荒廃した世界を生き抜いてきたガロードには、直感としてそれがわかった。
だからあの機体を奪うことより、ぺガスを呼ぶことに賭けたのだ。
比瑪亡き後、ぺガスのマスターは空位だった。
その後初めて呼びかけた者が新たなマスターとなるという推測――ガロードは賭けに勝った。

ハッチから、弾丸のようにぺガスが飛び出す。
テッカマンブレード専用として調整されたその上部には、もちろん生身の人間が乗ることなど想定されていない。
故に全身の力を用い、バサラとガロードは振り落とされないようにしがみついていた。

「逃がすかぁっ!」

ハッチの淵に立ち、プロトガーランドがビームガンを乱射する。
二人がしがみついているため満足な回避運動ができないぺガスに、その光芒は容赦なく突き刺さった。

「ダメだ、墜ちる……ッ!」

ガロードの声が遠く聞こえる。
黒煙を吹き出し、地上へと加速度を増しぺガスが落ちていく。
その間バサラが見ていたのは、変わり果てた姿になったラーゼフォン。そして、今はもうユーゼスの支配下に落ちたナデシコ。

(済まねえ、比瑪、オモイカネ……)

やがて、彼らは地上へと激突した。


     □


マスターガンダムが片手だけで身の丈ほどもある大鎌を回転させる。
風を切る音が耳にうるさい。身を捻り、全身のバネを最大限に使い振り下ろしてきた。
念動フィールド展開。大鎌は、力場を少しづつ食い破りながらヴァイクランへと迫る。
だが欲しかったのはこの一瞬。

「――オウルアッシャー、マキシマムシュートッ!」

フィールドを解除。同時に充填していたエネルギーを解放する。
大鎌は右手を犠牲に防いだ。肘から先がすっぱりと切り落とされる。
そして至近距離からのオウルアッシャーが、マスターガンダムの頭部へと直進する。
瞬間、やつは身を傾けた――光弾は右目を中心に頭部を半分ほど削り取っていっただけだ。
機動性もさることながら、凄まじい追従性、反応速度だ。ヴァイクランでは真似のできない芸当。
シャギアは荒い息を吐く。

個別に戦闘を開始して10分は経っただろうか。
何度もヒヤリとする場面があった。
何度も好機と思う場面があった。
だが、勝負はつかない――つけられない。
カルケリア・パルス・ティルゲムが告げる仲間達の戦闘もほぼ同様と言えた。
遅れてきたロジャーは本当にアキトを倒す気があるのかは疑問だが、隻腕でアレを抑えていると考えれば一応の信頼は置ける。
クインシィはどうしようもない。何度か呼びかけたが、一度として反応はなかった。
彼女はアイビスという少女を優先的に狙っているらしい。
甲児と頭部のない機体はうまく彼女に向かう攻撃を妨害しているが、基本的に殺すつもりはないようでやはり攻撃は甘い。
特に甲児だ。彼はクインシィと面識がある。ガロードの仲間ということで、敵だとは割り切れないのだろう。
そこが彼の美徳でもあるのだが――今は、それすらも腹立たしい。
戦況は停滞していると言えた。

(何か……何か、戦場を動かすきっかけでもあれば……!)

こちら側の機体が一機でも落ちれば、そこから一気に突き崩される。
クインシィが勝ったとしてこちらにまで仕掛けてくることはないだろうが、今さら組めるとも思わない。
アキト、ガウルンは論外。嬉々として横槍を入れてくるだろう。

「気を散らしてんじゃあねぇっ!」
「むう……ッ!」

一瞬、反応が遅れた。
マスターガンダムの左腕に、例の暗い光が瞬く。ブラックゲッターの刃を叩き折った力だ。
念動フィールドを、まるでバターを熱したナイフが溶かすかの如く切り裂いてくる。

「いかん!」
「終わりだぜッ!」

ダークネスフィンガーがヴァイクランの胸に齧りつく。
凄まじい熱量――装甲が一気に浸食される。
モニターに亀裂が走る。

「ぐおおおっ……!」
「楽しかったぜ、兄ちゃん。あばよ」

ガウルンはもはやこちらに興味を半ば失いつつあるようだった。
更に強く掌を押し込んでくる――

(ここまでか――だが、貴様も連れて行く!)

べリア・レディファーを撃つ時間はない。だが、溜めこんだエネルギーを一気に解放することはできる――自爆。
意を決し、マスターガンダムを見据える。

「――――!?」

見据える、そこには何もいなかった。
いや――左手のビルにマスターガンダムが叩きつけられている。

「無事かね?」

見上げればそこにはまた新たな機体。
これまた隻腕の、50mはあろうかという天使のような。

「だ……誰だ?」
「私はユーゼスという者だ。ロジャー・スミスに請われガロード・ランをナデシコに移送した。
 援護する、我々はやつを討つぞ」

モニターに映る仮面の男。
天使――ラーゼフォンは剣を抜き放った。その剣には見覚えがあるような気がしたが、詳しく思い出せない。

「ってえ、な……おいおい、タオルを入れるにしちゃあ随分手荒じゃねえか」
「乱入が禁止とは聞いていなかったのでな」

マスターガンダム、ガウルンはまだ動けるようだ。
サイズ差にして実に三倍の両者が向かい合った。天使が剣を振り下ろす――当たれば即両断は間違いない威力。
シャギアは突然現れたこの仮面男を信用するべきかどうか迷う。だが、現実としてガウルンと敵対している。
どうあれここが押し込むチャンスには違いないと自分を納得させる。

「私の機体は砲戦型だ。後方から援護する!」
「了解した」

ラーゼフォンが前に出て、ヴァイクランが援護する。
それまで攻勢に出ていたマスターガンダムが逆に逃げの一手を打つことになった。
ゲッターサイトが五大剣を受け止め――いや、いなす。オウルアッシャーを足元に向けて撃った。
マスターガンダムは飛び上がって回避。そこにラーゼフォンの太い足が唸りを上げて喰らいつく。
吹き飛んで行くマスターガンダム。これはいける、と確かな手ごたえを感じた。

幾分余裕ができたので、周囲の戦況を確認。ロジャーはいよいよ持って苦戦している。
ガウルンを倒した後、まずは彼を援護すべきか。
次いで真ゲッターと相対している面々へ目を向ける。
甲児の機体、ストレーガには損傷が増えているものの、致命打はなさそうだ。
本来ならここで声をかけるのは注意をそぐことになるが――今、ストレーガにはキラ・ヤマトも同乗している。
何故一度敵対した彼がここにいるかはわからない。交渉が望みだったとして、その身一つで乗り込んでくるとは見上げた度胸だと思ったが。
とまれ、彼に聞くのが一番情勢を把握できるだろう。

「キラ・ヤマト、応答しろ。こちらはシャギア・フロストだ」
「――はい、キラです。どうしました?」
「そちらの戦況はどうだ? 援護が必要か?」
「正直、厳しいです。クインシィさんを止めるにしてももう一機欲しい。そちらはどうです?」
「こちらは心配しなくていい。今、ユーゼスという男が援護してくれている。直にガウルンを撃破できるはずだ」
「ユーゼス……!?」

ブツ、と通信が途絶。ストレーガが激しい機動に入ったのだろうか。
警告音。
横手からブラックゲッターが突っ込んできた。ロジャーは突破されたようだ。
警戒する――が、ブラックゲッターはヴァイクランには目もくれずラーゼフォンと交戦中のマスターガンダムに向かっていく。

「ユーゼス、後ろだ!」

声を飛ばす。ラーゼフォンはだが悠然と、むしろゆっくりとした動作で道を空けた。
ブラックゲッターがそこに飛び込み、マスターガンダムを連れて離れていく。
今のは、まるで自分が攻撃されないと確信していたかのような動きだった。

「……さん! 応答してください! シャギアさん!」

するとオープン回線でキラの声が聞こえた。先程までの指向性の通信とは違い、この戦域にいる全ての者に届く声だ。
ひどく焦っている。何か大事なことを伝えようとしている、そんな声だ。
通信機をいじるも、ミノフスキー粒子が濃いのか回線が繋がらない。仕方なしに、シャギアもオープン回線で応える。

「どうした、キラ・ヤマト。何を焦って――」
「その人は危険です! テンカワ・アキトと組んでいます!」

キラは一息に言い切った。一瞬、こいつは何を言っているんだ――と思考に空白が生まれた。
気がついた時には、目の前にラーゼフォン。剣を振りかぶっている――

「な」

震動、轟音、痛み――ヴァイクランを縦に真っ直ぐ斬り下ろす剣。
シャギアの意識は闇に落ちた。


     □


「……ラ! おい、しっかりしろ! おい!」

揺り動かされる感覚。耳に滑り込んでくる声――
目を覚ますと同時、身体のあちこちがバサラに激痛を訴えてきた。
廃墟の一角、ナデシコからほど近い場所。
身体を起こす。隣にいたガロードが息をついた。
どうなった。そう言おうとして、声が出ないことを思い出す。手振りでなんとか言いたいことを示した。
腕を押さえているガロードは頷き、

「ああ、俺達は少し気絶してたらしい。俺も今ぺガスに起こしてもらった」

と、ぺガスを指で示す。釣られて見やると、ぺガスはひどいものだった。
あちこちに損傷が見られ、腕は片方が丸々欠落している。
バサラとガロードが地面に激突する瞬間、その身を犠牲にして二人を庇ったためだ。

「あのユーゼスってやつ、俺達が死んだものと思ったんだろうな。止めを刺さずに行っちまった」

見上げた遥か遠くで、そのユーゼスの駆るラーゼフォンがヴァイクランとともに戦っていた。

「多分、シャギアには俺達のことは何も言ってないんだろう。あのガンダムを倒すことを優先してるらしいけど……」

と、ガロードが立ち上がりぺガスの下へと歩いていく。
腕だけでなく、足も片方引きずっている。とても万全とは言い難い状態だ。
慌てて追い付き、肩を掴む。どこに行く気だ、と視線で問いかけた。

「ああ……お姉さんを、止めなきゃさ。ストレーガには甲児が乗ってるはずだから、多分お姉さんは勘違いしてるんだ。俺が止めてやらなきゃ……」

その怪我では無茶だ、と言いたかった。だが、ガロードの決意の眼を見てその言葉は喉元で止まる。
代わりに、ぺガスへと乗り込むガロードを手伝い、自身もよじ登った。

「おいおい、アンタも来るのか?」

当然、と親指を立てた。たとえ歌えなくてもできることはあるはずだ。
やや時間をかけてぺガスが浮上する。大体ビルの3回ほどの高さまで上昇した時――

「……ッ!?」

ドン、と横から押された。
急速に迫る地面。慌てて姿勢を整え、猫のように四肢をすべて使い着地した。
ぺガスを、いやガロードを睨みつける。何のつもりだ、と。

「悪いな、コイツは一人乗りなんだ――それに喋れないアンタがいても、役に立たない。わかるだろ?」

ガロードが釈明する間にもぺガスはどんどん高度を上げていく。

「アンタはここで隠れてるんだ。全部終わって、無事だったら迎えに来る。
 戻ってこなかったら……そうだな、ほとぼりが冷めるまで待ってこの街を脱出するんだ。
 マジンガーZのパイルダーが放置されてたから、あれを使えばいいよ。
 そんで、D-3の市街地に行くんだ――アムロさんがいるはずだから、俺の名前を出せば信用してもらえると思う」

聞きたいのはそんなことじゃない――バサラは今ほどこの喉を恨めしいと思ったことはない。

「じゃあ、な……死ぬなよ。アンタの歌、俺、好きなんだからさ」

そして、ぺガスは行ってしまった。一人取り残されたバサラ。
どうするべきか。
隠れる? ふざけるな、絶対にNOだ。どうにかしてあの戦闘に介入する。
が、まさか生身で行くわけにもいかない。

『マジンガーZのパイルダーが放置されてたから』

ガロードの言った言葉だ。マジンガーZがやられたところはここからさほど遠くはない。
意を決し、走り出す。
瓦礫を越え、道路をひた走る。
ふと、ポケットの中の錠剤の存在を思い出した。
これを飲めば声が出る――ユーゼスはそんなことを言っていた。
迷う。だが、今はその時ではないと走ることに意識を集中した。







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