もう一つの対主催 ◆YYVYMNVZTk
三度目の放送まで残り一時間弱――アキトの回復を待ち、ユーゼスは待ち合わせの場所であるA-1へと機体を進めていた。
このまま進めば放送を前に統夜、テニアと合流出来るだろう。
あの二人が無事であるならば、の話だが。
ユーゼスでさえ苦しめられた、圧倒的な物量を誇る異形の群れ。
単体でならばさほどの脅威ではない。とはいえ、あれだけの数が群れて来られてしまえばそれは絶対の脅威となりうる。
認めよう。あのタイミングでゼストが進化を遂げていなければ、取り込まれていたのはこちらだった。
そう、あの怪物たちは、まさしくインベーダーと呼ぶに相応しい能力を備えていた。
インベーダーは他の機体と融合し、そのコントロールを奪うことで自己の勢力を拡大していく。
その様は、まさに侵略そのもの。
統夜は得物をユーゼスに奪われ、テニアは少なくない損傷を抱えている。
十分な力を持たぬ機体ならば、そのまま取り込まれてしまうだろう――あんな、イレギュラーとしか言えない存在によって。
この殺し合いの主催たるもう一つの異形は、それを是とするだろうか。
いいや、それは有り得ない。あの怪物が何を考えてこの催しを開催したのかは分からない。
だが、これだけの手間をかけ、非効率甚だしい殺し合いを強制させるのならば、そこには何らかの意味が存在するはず。
簡易なルールしかないが、参加者同士が殺し合いを行うというのがこの催しの肝である。
その根本が破綻しようとしているのが、現在の状況。
ならば主催者から参加者へと向けられる唯一のアクション――放送で、主催者側が何かを仕掛けてくる可能性も出てくる。
統夜とテニアは、完全に互いに依存している。二人だけで完結している関係だ。
今はユーゼスとも仮初めの協力関係を築いているが、放送次第で向こうの気が変わるとも分からない。
出来るならば、放送のその瞬間を二人と共に迎え、出来る限りのフォローをしてやる必要がある。
そう考え、更なる速度でメディウス――いや、ゼストを駆る。
傍らのゲッターをちらりと見て、ユーゼスの思考は更に深く。
ゲッターロボ。そして、ゲッター線。
一見する限りでは――勿論、そのスペックは決して平凡なものではなく、ユーゼスの知る様々な技術と比してもなんら劣るものではないが――取り立ててユーゼスの興味を引く代物ではなかった。
ゲッター線というエネルギーを動力にする特機。ブラックゲッターではオミットされていたようだが、分離・変形機構もその特徴の一つではある。
だがユーゼスの持つ知識ならば、ゲッターの性能を再現することはさほど難しいことではない。
完全なコピーを作れずとも、同等、あるいはそれ以上の性能と能力を持った同コンセプトの機体も相応の時間と手間をかければ建造は可能だ。
しかし、先ほどの混乱の中でユーゼスは知ったのだ。
ゲッターには単なるマシンスペックで語ることのできない力があるのだと。
混乱の原因。そして収束。一連の流れの中で、ゲッター線は大きな役割を担った。
世界の歪から生じたインベーダーが求め――死者を蘇らせる力を持ち――そして、この忌々しい枷にさえ反抗する力を持つ、大きなエネルギー。
まさに神が持つに相応しい力だと、そう思う。
あの怪物とその眷属である少女に礼の一つでも言いたくなるほどに己の気分が高揚しているということを自覚する。
僥倖であったと認めよう。
未知の知識、未知の技術――たった一日と数時間で、ユーゼスの悲願であった超神の完成はすぐそこに迫っている。
湧き上がる歓喜の感情が胸を満たす。
とはいえ、いつまでも浮かれているわけにはいかない。
むしろここからが正念場である。これから先、一手でも指し損じることがあればそのミスはそのままユーゼスに返ってくることとなる。
首輪の解除、会場からの脱出、そして主催者の始末。
失敗すれば即座にユーゼスの命が奪われることとなるだろう。
それでもユーゼスは知っている。
自らの命を賭けてでも遂げなければいけないものがあるのだということを。
そして、今がその時なのだと、直感する。
何者にも行く手を阻ませるわけにはいかないのだ。
そう、全てが終わるその時まで――
◇
「さて、粗方片付け終わったか」
ユーゼスの向かうA-1。そこには戦い終えた三機のロボットがいた。
ダイゼンガー、ヴァイサーガ、ベルゲルミルの三機である。
彼らの行った戦闘――いや、虐殺の後に残ったのは凄惨な光景のみ。
三機共にインベーダーの返り血を浴びぬらりと照らされている。
ガウルンと統夜は剣を一閃し、刀身にこびりついた血を払う。
出来ることならば血を拭う布の一枚でも欲しかったが、ダイゼンガーのために見繕われた巨剣に合う巨大な布など見つかるはずもなく。
しかし手入れが必要なのかと疑うほどに、その剣の鋭さは変わらず、名刀の輝きを保っていた。
刀を眺め、満足そうな顔をしながらガウルンは二人に問う。
「さて、それじゃ話の続きだ。
……ユーゼスと言っていたな? 悲しいことに俺はそいつのことをまったく知らない。
だから教えてくれよ。そのユーゼスって奴の話と、そいつがお前らとどんな約束をしたかってことをな」
ガウルンの放つ言外の圧力は、主にテニアに向けられていた。
テニアとしては生き残るために策謀を張り巡らせていたという事実を、出来ることならば統夜にだけは隠し続けたい。
そう、テニアは自分が生き残るために、統夜でさえも殺害の対象としていた。
今の二人の蜜のような甘い関係を、完全にとはいかずとも悪化させるに十分な情報である。
そして、ガウルンはその事実を知っている。それどころか、テニアの目的を知った上で、彼女がナデシコに潜り込む手伝いまでもしてのけた。
先ほどの短い会話の中からでも、テニアがそれを弱みと考えているのは自明。
ならばそれを最大限に有効活用してやろうではないか。
言葉に出して統夜に気取られることはガウルンとしても望むところではない。
統夜にとってのテニアが綺麗に輝く宝であればあるほどに、それを壊したときの反応は――ああ、考えるだけでもぞわりと身が震える。
ガウルンが浮かべる笑みの意味を瞬時に理解したテニアは、ガウルンの望み通りの反応を。
「アタシたちは、ユーゼスとも協力することにしたんだ」
「おいテニア!」
不用心に情報を喋るなと、統夜が窘める。
何も知らない統夜君ならそれも仕方のないことだろうと、ガウルンは口の端を更に歪ませた。
「ユーゼスは『あれ』をどうにかして、生き残ろうとしてる。アタシたちもそれに乗っからせてもらうつもりなんだ。
ただ、アタシたちだってユーゼスがどんな人間なのかは分からない。話をしたのも少しだけだし、すぐに別れちゃったからね」
「ほう……奇遇なことに、その後ユーゼスとは一戦構えさせてもらった。ナデシコのすぐ傍でな。
生憎だが、仲良く出来そうにはなかったな。つまり……俺としては、ユーゼスとの関係は破棄してもらいたい」
「ちょっと待ってくれよ! 言ったよな? 俺たちは『二人』で生き残るって。
だったら俺たちがどうするかなんてのは……」
三人の口論が始まりかけたその時、三機のレーダーがほぼ同時に二つの光点を表示する。
光る先を見遣れば――あまりにも巨大な機体が、こちらに近づいてくるのを確認できた。
どう見ても大き過ぎる。あれだけ離れていても確認できるということは、全長100メートル級の――少なくとも、この殺し合いの中においては戦艦を除いて最大クラスの機体ということになる。
単独で運用できるというならば、複数人で動かすことを考えて設計されている戦艦よりも戦闘力は大きいかもしれない。
近づいてくる危険を前に、ガウルン、統夜、テニアは揃って対峙の形を取る。
互いの危険の排除のために協力をするという三人の提携は、今後一人と二人がどう動くかに関係なく、巨機を前に強固なものとなる。
こちらに害を為すものならば排除する。こちらの利に成らないものも排除する。そうでなければ――
巨機が通信圏内に入る。
その姿は、既に人型機の体裁さえも取ってはいなかった。
伝承に残る、半人半獣の姿――いや、そのパイロットに言わせれば――半神半獣といったところか。
腰から上は未だ人の姿をしていると言えないこともない。
それでも全体のバランスを狂わすほどに巨大な腕や肘から生える触手、各所から突き出る刺、それらを見逃せばの話だが。
腰から下は――完全に人の姿を捨てている。
百獣の王たる獅子を模した下半身。その上に前述の上半身が乗っている姿はもはや怪物の様相。
そして――その怪物から、ガウルン達に向け通信。
聞こえてきた声は、聞き覚えのある声。
「フフ……待っていてくれたとは、嬉しいものだな。統夜、テニア。
そして……こちらから名乗らせてもらおうか。ユーゼス=ゴッツォだ」
「ハハ、何時の間にそんな大仰な機体に乗り換えたんだ、ユーゼスさんよ?」
◇
その声を聞いた時、アキトは全身の血が一瞬で沸騰したかのような感覚に襲われた。
見たことのない機体だ。だが、あの声を聞き間違えるはずがない。
アレに乗っているのは――!
懐に残る錠剤は二。そしてそのうち一つはユーゼスが処方したもの。
信用しないわけではない――だが、信頼はするべきではない人物が作った薬をそのまま飲むのは、ただのバカがすること。
飲むのならば――
「止まれ、テンカワ。貴様の考えていることは分かるが――今動くのは得策ではない」
「止めるな、ユーゼス! 俺は……俺は!」
「ああ……アキトも一緒か。こりゃあなかなかに豪勢な面子が揃ったんじゃないか?
まったく、面白くなってきたねぇ」
「く……!」
「止まれ。動くのならば、私が力づくでも貴様を止める。このゼストでだ」
ユーゼスの言葉で幾分か冷めた頭で状況を確認する。
今この場にいるのは自分を含め五機。
ユーゼス、ガウルン、そして……一度交戦した機体と、ダイが落ちた乱戦の際に軽く見た程度の機体。
向こうの三機の関係は、詳しくは分からない。
だが、決して敵対しているわけではないのだろう。
周囲のインベーダーの死骸を見てみれば、既に体液が凝固し始めている。
つまりインベーダーたちとの戦闘の終了から、少なくない時間が経っている。
それでもなお行動を共にしているということは、敵対関係にあるわけではないのだろう。
少なくとも、今ここでアキトが戦闘を仕掛けるというようなことがあれば、共通の敵として潰すというくらいはやってのける。
ガウルンだけならば同士討ちに持っていくことは可能かもしれない。
だが、それでは――優勝しなければ、ユリカを生き返らせることは出来ない。
目と鼻の先に仇がいるというのに動くことが出来ないという悔しさを噛み殺し、アキトはブラックゲッターの出力を非戦闘時のものにする。
ユーゼスはこの三機に対し、交渉を試みるつもりだろうか。
何にせよ――今の自分に残された時間は一時間。たったそれだけの時間でこの会場に残る参加者の全てを殺しつくすことは不可能だということは分かっている。
事態がどう動くことになろうと、薬を握るユーゼスから離れることは出来ない。
故にここは静観を貫く。元々交渉事は得意ではない。アキトを共犯者へと引きずり込んだユーゼスならば、自分よりは上手くやってのけるだろう。
「――さて、それでは早速話を始めようか。
まず確認させてもらいたい。君たちは、この殺し合いの中でどう動いている?
統夜とテニアについては聞かせてもらっている。ガウルン……君は、どうするつもりかね。
もっとも、君から直接聞かずとも推測は容易だがな」
「俺はこう見えても良い子でね。皆が皆このパーティの主題を忘れちまっても一人で最後まで踊り続けるつもりさ。
しかし一人で踊り続けるのも疲れる。こいつらみたいに見込みがありそうな奴らには一緒に踊ってもらおうかと思ってるとこさ。
で、あんたはどうするつもりなんだい?」
「私はこの催しの主催者である怪物を打破する。今はそのために動いている……といったところだな」
五機ともに通信回線はオープン。
モニターに映る四人の顔を見てみれば、それぞれがそれぞれの思惑で動いているということが見て取れる。
ユーゼスはガウルンと共にいた二機とも接触をしていたようだが、こちらは殆ど初見と言っていい。
「そこの二人についても教えてもらおうか。俺はテンカワ=アキト。今はユーゼスと手を組んでいる」
「アキトか。なかなか良い面構えになったな。俺は嬉しいぜぇ」
下卑た笑いを浮かべるガウルンは無視。
こちらの様子を窺う若い男女の応答を待つ。
どちらも十七、八といった年頃だ。騎士甲冑の機体に乗る少年に関して言えば、こちらとの交戦経験もある。
初見の敵に突っ込むあたり戦闘経験そのものは少ないようだが、それでも機体のスペックと時折見せた動きは油断の出来ない強さだった。
少女のほうも、あの乱戦を生き延びたことと機体に残る損傷から、修羅場を潜ってきていることは分かる。
二人がどう動くのか――それは優勝を狙うアキトにとって、把握すべき事柄。
ガウルンは「見込みがある」と言っていた。ならばこの二人もまた、優勝を狙い、そのためにガウルンと手を組んでいるのだろうか。
「俺は紫雲統夜。こっちはフェステニア=ミューズ。
俺たちは……『二人』で生き残るために動いてる。どうすればこの殺し合いが終わるのか分かってないわけじゃない。
だけど俺たちはもう殺し合うことは出来ない。だから……二人で、生き残る。その方法のためにユーゼスとは協力する……つもりだったんだけど」
言って、少年はガウルンをちらりと見る。
ユーゼスだけでなく、ガウルンともまた協力するということだろう。
しかし語尾が濁ったところを見るに、それは統夜たち側から提案されたものではなく、おそらくはガウルンからの申請によるもの。
ダブルブッキング。
これはつまり、ユーゼスとガウルンがどのような交渉をするのか――そしてその結果、統夜たちがどちらに付くのかを決断する、そのための接触。
どうやらこれで本当に、自分の出る幕はないとアキトは判断する。
アキトにとって重要なのは、ガウルンの動向だ。それさえ確認することが出来れば、交渉の中身そのものはユーゼスに一任する。
ユーゼスもまた、アキトの判断を了解したのだろう。軽く目くばせをしてみれば、首肯と共に言葉を紡ぎだした。
「ふむ、不足は幾らでもあるが――ひとまずは、名前だけでも紹介は済んだ。本題に移らせてもらおう。
単刀直入に言おう。私は、君たちが欲しい。私と協力関係を結ぶつもりはないかね?」
そう動くか。目的を端的に話し、そこを糸口に交渉を開始する。
理を積み重ね、逃げ場を無くしてから半ば脅迫とも取れる交渉を行ったアキトの時とはまた違うやり口である。
だが向こう三人の目的が具体的には分からぬ現状、最初に切り込む必要があるのだろう。
あくまで傍観者を貫くつもりのアキトは、極めて客観的にユーゼスの交渉を眺める。
ただ問題があるとすれば、それはガウルンがユーゼスと協力することを選択した時だ。
もしそうなれば、ユーゼスはアキトがガウルンに手を出すことを許しはしないだろう。
ボロボロの身体と機体のアキトと、機体、パイロット共に(少なくともアキトが見る限りでは)良好な状態であるガウルンとなら、間違いなくアキトを切るのがユーゼスという人間だ。
ガウルンとユーゼスの交渉さえ決裂すれば、ガウルンに手を出そうとユーゼスが邪魔をすることはなくなるはずだ。
しかしそうなってしまえば、殺し合いで勝ち残りを狙うことは難しくなる。
ナデシコの周りにいた機体は、その殆どが主催者への反抗を企てる者たちだった。
あれだけの大人数が一致団結してしまえば、単独で全滅させることは非常に困難。
恐らくはガウルン達もまた、それを考慮して手を組むことを選んだのだろうと推測。
「……イマイチ話が見えないねぇ。あんた達は……いや、あんたはあの怪物をぶっ倒すつもりでいる。それは分かる。
だがそこのアキトは優勝するつもりがあるんだろう? 優勝して願いを一つ叶えてもらうつもりなんだろう? 俺だってそうさ。
あんたが上回るだけの見返りを用意してくれるんなら話は別だがね、あんたにそれが出来るのかい?」
「成程。君の疑念も当然のものだ。私とて君の立場ならば疑ってかかるだろうな。残念ながら、私に今現在それを証明する手立てはない。
私が所属する組織は宇宙の支配を目指す強国の軍事を担っており、その技術レベルは宇宙でも随一のものである。
そして私はその組織の力を自由に扱える極めて重要なポジションにいる……こう言っても、信じてはもらえないだろう」
「それに、あんたについていってあの化け物が倒せるかというと、それもまたはっきりしないよな。底が知れない、本当の怪物さ」
「確かにそれも、私が明らかな根拠を示すことは出来ない。私個人の感覚と経験から言えば、あの怪物を手持ちの駒で倒すことは十分に可能ではあるがね」
手を組むということに難色を示すガウルン。
対して、ガウルンの反応に気を落とすこともなく話を続けるユーゼス。
アキトは沈黙を保ったまま話の成り行きを見守る。
と、ここでユーゼスは話の矛先をガウルンから統夜とテニアへと切り替えた。
「そこの二人にとっては、私の提案は決して悪くないものだろう? 二人で生き残るというのならば、正規の生還手段――優勝は狙えない。
ならば私の提案は、二人にとって救いの手であると、はっきりと言い切れる。実際に、一度は了承もしてもらえた。
ガウルン、君に後から奪い取られてしまったが、本来ならばこの二人は私と共に行動をするつもりだった――このA-1に留まってくれていることがその証明でもある」
「確かに俺は……俺たちは、今更優勝を狙うつもりはない。あんたが俺達を生きて帰らせてくれるっていうんなら、それに付いていくつもりだ」
「おいおいおいおいィ? それは少し冷たいんじゃないかい、統夜ァ? 元々統夜は俺が目を付けて鍛えてたんだ。
早い者勝ちだって言うなら、俺に優先権があるんだぜ?
いくら本人の意思を尊重すべきだとは言っても、このままあんたに持っていかれるのは癪だな」
あくまで統夜とテニアは二人で生き残ることを選択するか。
それならば付くべきはガウルンではなくユーゼスである。至極当たり前の思考だ。
このまま順当に話が進めば統夜とテニアがユーゼスの側に付き、ガウルンは単独行動を余儀なくされる――となるだろう。
もしそうなってくれれば万々歳。ユーゼスがアキトを止める理由もなくなり、統夜とテニアが新しい駒となってくれるのならば貴重な薬を使う場面も少なくなってくれる。
しかし話の雲行きはそう単純に進みそうになかった。ガウルンの目――それがまだ、ぎらりと怪しく輝いているからだ。
「ユーゼス――あんたは俺が欲しいかい?」
「欲しくないと言えば嘘になるな。ナデシコでの交戦で、身をもって君の力を知ることとなった。
そして今、周囲に散らばるインベーダーの死骸――その力が手に入るのならば、それ以上に心強いことはないだろう」
「やっぱり俺の思ったとおり、欲張りな奴だな。……ククッ、それでこそ面白い。
あんたが俺の力を借りなきゃいけないのは、それだけが理由じゃないだろう?
あんたは少しばかり暴れ過ぎたようだ。あそこにいた連中とは――今更仲良く出来ない。
だからこそ俺たちみたいな危険要素の力を借りなければならない。違わないよな?」
「――物分かりが良すぎるのも考えものだな。少なくとも今この場において私とこのゼストは、絶対の力を有していると自負している。
貴様はこの私の掌の上にで踊る俗物に過ぎないということを自覚しろ。それでもなお聞き分けのないようならば……!」
「おっと、おっかないことはなしだぜ。あんたが強いってことは分かるさ。その力なら、ひょっとするとあの化け物も倒せるかもしれない。
……ここらでもう少し、踏み込んだ話でもしないか? お互い触れずにいるが……気付いているだろう?」
ユーゼスは一旦戦闘時のそれまで上げた出力を再度落とし、対峙する機体を眺めた。
ユーゼスもアキトも、知らない機体だ。何時の間に乗り換えたのか――いやそれ以上の疑問もある。
あの時、ガウルンもまたナデシコの傍で戦っていた。どうしてそれが、自分たちよりこうも早く統夜たちと合流した?
それだけではない。お互いに、とガウルンは言った。
ユーゼスもまた、乗る機体を変えている。しかし呼称は――ゼストのまま。
これが意味するのは何か? 二人は互いに手札を隠したままだ。それをはっきりさせるのならば、それ次第で仲間に入ることも考えよう――ガウルンはそう言っているのだ。
「ならばまずはこちらから手札を切らせてもらおうか。ゼストについての説明で――よろしいかね?」
「ああ、それを教えてくれるんなら、こちらとしても不満はない」
「君と戦った時と比べ、このゼストの姿が変わっているのは――それがゼストの性質だからと説明するしかないな。
得たデータを基に、どこまでも成長するシステムを、この機体は備えている。あの場所で吹き荒れたエネルギーの奔流、そしてインベーダーという構成物質の出現。
それらのイレギュラーが幸いし――ゼストは、次なる新しい姿へと進化を遂げた。これがあの怪物に打ち勝つ根拠の一つだが、どうかね?」
「納得……出来たわけでもないが、まぁ信じるさ。実際、あんたの機体が強いってことはよく分かる。
それでもまだ、あんたを信頼して一緒に戦おうって気にはならないがな。何より――この首輪をどうにかしないことには、戦いのしようもないだろう。
それに、どうやってあの化け物のところまで行くつもりだ? 俺を仲間に入れるつもりなら、もっと思い切り良く勝負札を切ってくれないと話にならないぜ?」
「それだけの口を叩くのなら、そちらの札も相当なものなのだろうな? ハッタリやブラフでいつまでも生き残れる局面ではあるまい」
「それに関しちゃ心配御無用。首輪と脱出、その両方について手ごたえのある答えが返ってくるんなら、俺が仲間になることと合わせて十分に釣りが来る内容だ」
「ならば先にこちらから札を明かさせてもらうか――言ったところで私以外がモノに出来る情報とも思えん。
首輪に関しては既に目処が立っている。後は実例を――テストさえ行えれば、実用に耐えうる理論となる。
会場からの脱出については、私のほうでは特に進めていない」
「と、いうのは?」
「ナデシコ――それと、Jアークと言ったか。あの連中に任せてある」
「へえ! あんた、面白いことをしたな。で、連中はそれをやれそうなのかい?」
「今のところは判断は出来ないが、着眼点そのものは私のそれと同じだった。よほど的外れなことでもしない限り、私のプラスとなってくれるだろう」
意外――だった。アキトが副作用で苦しんでいたその間に、その交渉は行われたらしい。
どのような形で交渉が行われたのかまでは分からないが、少なくとも主催者打倒という点において、あの集団とユーゼスは意識を同じくしている。
感情では自分と組んでいたユーゼスを信用することは出来ないが、ユーゼスの持つ技術は欲しいと、そう考えての分担なのだろう。
「見込みは、全く無いわけじゃない……そういうことか。だが気になるのは、何で俺達を必要とするのかってことだな。
あの連中と、今のところは仲良くやれているわけだろ? 俺達を入れてしまえばあんたらの関係も崩れちまう」
そう、それだ。アキトとガウルンは、あの集団と真っ向から衝突した。
二人を加えた状態であの集団と合流・協力することは感情の面から難しい。
統夜とテニアはユーゼスに付くことを選び、ガウルンは反対した。この状況こそが、ユーゼスにとっての最善手だと考えていた。
だが、どうやらユーゼスの思惑はそれだけではないようだ。ガウルンへの執拗な勧誘がその証拠。
「そうだな……理由は簡単だ。何故なら私は、あの集団を喰ってしまうつもりだからな」
◇
話は殆どガウルンとユーゼスの二人が進めていて、俺たちには出番なんてなかった。
だけど、ユーゼスのその言葉には驚いてしまって、だから反射的に言葉が出たんだと思う。
「集団を喰うって、どういう意味なんだ? あいつらを潰すつもりなのか!?」
ユーゼスが何を考えているのかよく分からなかった。
集団を、喰う?
それはつまりあの連中に何かをするってことなんだろうけど……それにしては喰うという単語が何を意味するのか。
単純に、殺す、潰すとはまた違う意味合いを持っているように思える。
「表現が些か抽象的だったか。では、こう言い直そう。私はあの集団の持つ機体の技術が欲しい。
だが、パイロットは不要でね。そこで、丁度良くあの集団と敵対している君たちの力を借りたいと、そういうわけだ」
「あいつらを殺して、機体だけ奪おうっていうのか?」
「基本的にはその考えで構わない。――私の目的は、既に君たちとは一線を画している。
私が欲しいのは未知の技術。君たちも知っているだろう――この場所には、自分たちの常識を超えた技術が幾つも集められているということを。
私はそれが欲しいのだよ。喉から手が出るほどにね。特にあの集団、真っ向から主催者に立ち向かうだけあって、その戦力はこの殺し合いの中でも最大級のようだ。
そんな力こそ、私が――ゼストが求めている力。――何、戦力が不足するなどということは考えなくとも良い。
倒した機体の力を得て、ゼストは更に進化を遂げる――怪物退治に何の不足もない」
俺たちが生き残るために必死になっていたのが馬鹿らしくなるほどだった。
ユーゼスの奴は、この殺し合いでさえも――逆に、自分の利になるように仕向けようとしている。
きっと俺たちを仲間にしようとしているのも、全ては自分が力を得るためってことなんだろ?
だけどそれでも――それだけの絶対の自信を見せてくれるなら、ユーゼスなら、何とかしてくれるんじゃないかと、そう思ってしまう。
二人で生き残るだなんて言って、俺は具体的なことを何も考えてはいなかった。
テニアと二人で生き延びていれば、いつか何か糸口が見えるんじゃないかと漠然と考えていただけだった。
「ユーゼス、あんたの考えは良く分かった。……改めて頼む。俺たちも、それに付いて行かせてくれ」
「アタシは、統夜がそうするって決めたなら、統夜に付いていく」
「……ふぅ、全く二人とも俺には手厳しいねぇ。仕方ない、俺もあんたと手を組むことにするか」
ガウルンまでもがあっさりとユーゼスの提案に乗ったことに軽い驚き。
だが当然のように、条件を付け加えていく。
「ただし、だ。そこのアキト――そいつは俺の命を狙ってる。仲間になったと油断させて、後ろからズドン! なんてのは御免だ。
更に言えば、俺はまだあんたを完全に信用出来たわけじゃない。これはまだ、仮契約の段階だと思ってくれ。
そうだな……あんたが首輪を解除して、ここから逃げ出す目処を立てたなら、その時にまた交渉しようじゃないか。
現段階で俺が出来るのは、互いの不可侵が限界だ。あんたと手を組んだといっても、優勝を狙うという方針まで変えるつもりはないさ。
ただ、数減らしの時にあんたの言う未知の技術らしきものがあれば大事に取っておいてやるよ。何かしらの見返りはあるんだろう?」
「私が満足できるものを見つけてこれたなら、主催者のいうご褒美に相当する願いを叶えてやるつもりだ。それで満足か?」
「了解だ。で、俺としてはアキトとは離れたい。しかし一人になるのは嫌だ。よって統夜とテニアはこのまま俺が預かっておきたいんだがそれでもいいかい?」
「君が私との契約を順守するつもりならば、それでも構わない。どちらにせよ、君たちの力が本格的に必要になるのは六時間後からだからな。
六時間後、私はあの集団と再び接触するつもりだ。そのときあの集団がここからの脱出に十分なデータを提供してくれたならば――その後は、食事の時間となるだろう」
ククク、と仮面の下で嗤うユーゼス。
ぞくりと背筋が凍る。邪悪さを隠そうともせずに周囲に撒き散らす仮面の男は、それでも俺たちにとっては唯一と言っていい救いの手。
「よし、俺もそろそろ手札を切る必要があるかね。……今からデータを送る。それを見て、どう動くかはあんたらに任せる。
俺はこのインベーダーって奴らと、ソイツを殺せと――あんたがぶっ殺そうとしている怪物の手下のお嬢ちゃんから直々に頼まれた。
この機体も、その時にもらったものだ。あんたらが作り出した、空間の穴――そこから偶然お嬢ちゃんの所に行けたもんでね」
ガウルンの言葉に、今度はユーゼスが驚く番だった。
主催者との接触――打倒のためには避けては通れない難所を、ガウルンが既に通過していたからだろう。
そしてその驚愕はガウルンから送られてきた映像を見て、更に強くなる。
「これは……」
「あんたのその機体もかなりの化物だが、そいつも負けず劣らずといったところだな。
あのお嬢ちゃんも怖がるってことは……まぁ、それだけの化物だってことだよ。俺に駆除を頼むくらいだからな。逆に言えば……」
主催者さえも恐れる何かを、あの機体は持っている――そう言いたいのだろう。
これでお互いに手札は切り終わった。残るのは伝えきれなかった情報の交換。
ユーゼスが言うには、あの集団に任せたのは空間の歪みの観測。
俺には理屈が良く分からなかったが、弱くなっている空間に意図的にエネルギーをぶつけることで、ガウルンが通ったような穴を作り出すつもりらしい。
それだけは襲うなとユーゼスから念を押されることになった。
そしてもう一人、ユーゼスの口から出た名前があった。
熱気バサラ。
首輪の解除、そして会場からの脱出。両方の面で、鍵となり得る人物……らしい。
ラーゼフォン――俺が一度破壊した機体――と合わせて、出来る限り無傷で手に入れろとのお達しだ。
ガウルン側からは、一人の名前が出ただけだった。
シャギア=フロスト。
ユーゼスが与えるご褒美とやらをちらつかせれば、もしかするとこちらに転ぶかもしれない人物――とのこと。
その他、交戦した機体の特徴、特性など、覚えている範囲で情報を伝え合う。
気付いた時には、時刻は18時になろうとしていた。
◇
アタシは話にも殆ど口を挟まないで聞いていただけだったけど――凄く、嫌な予感しかしない。
女の勘ってヤツなのかな?
統夜と二人で生き残るって考えも、閉塞感ばかりで焦り始めてはいたけど――ユーゼスの提案に乗ってしまえば、先は開けてもずぶずぶと堕ちていくような気がしてならなかった。
気のせいであればいい。アタシは統夜に付いていくしかないんだから、アタシだけユーゼスにもガウルンにも付かないなんてことは出来ない。
でも、嫌な予感は、今もどんどん加速していっている。
そして――三回目の放送が始まった。
【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス(バンプレストオリジナル)
パイロット状態:疲労(中) ハイ
機体状態:EN残量100% ヴァイサーガの五大剣を所持 データウェポンを4体吸収したため四肢が再生しました。
第三段階へ移行しました。
デザインの細部、能力(相転移砲などが使用可)が一部違いますが、基本MXのそれと変わりありません。
現在位置:A-1
第一行動方針:放送を聞き、ガウルン達との契約について細部を詰める
第二行動方針:AI1のデータ解析を基に首輪を解除
第三行動方針:サイバスターのラプラス・コンピューターの回収
第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
第五行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい?
第六行動方針:24時にE-3へ
最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る
備考1:アインストに関する情報を手に入れました
備考2:首輪の残骸を所持(六割程度)
備考3:DG細胞のサンプルを所持 】
【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター
パイロット状態:五感が不明瞭(回復傾向) 疲労状態 怒り
機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可)ゲッタートマホークを所持
現在位置:A-1
第一行動方針:ユーゼスと共に行動し、優勝を狙う
第二行動方針:ガウルンの首を取る
第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す
最終行動方針:ユリカを生き返らせる
備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。
備考2:謎の薬を2錠所持 (内1錠はユーゼス処方)
備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可】
【ガウルン 搭乗機体:ダイゼンガー(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:疲労(大)、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
機体状況:万全
現在位置:A-1
第一行動方針:存分に楽しむ。
第二行動方針:テニアはとりあえず適当なところで殺す。
第三行動方針:アキト、ブンドルを殺す
第四行動方針:禁止エリアのインベーダー、基地のキョウスケの撃破
最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
備考1:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました
備考2:ダイゼンガーは内蔵された装備を全て使用できる状態です
備考3:謎の薬を一錠所持。飲めば禁止エリアに入っても首輪が爆発しなくなる(飲んだ時のペナルティは未定)】
【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
パイロット状態:精神的に疲労 怒り
機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数 EN70% 五大剣紛失 ガーディアンソード所持
現在位置:A-1
第一行動方針:インベーダー、キョウスケに対処
第二行動方針:ガウルン、ユーゼスと協力。でも信用はしない
最終行動方針:テニアと生き残る】
【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:焦り
機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) EN50%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている
現在位置:A-1
第一行動方針:インベーダー、キョウスケに対処
第二行動方針:ガウルン、ユーゼスと協力。隙があれば潰す。
最終行動方針:統夜と生き残る
備考1:首輪を所持しています】
【二日目 18:00】
最終更新:2009年04月19日 22:52