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moving go on ◆XrXin1oFz6


緊張だけが大空を支配する。

アクシズ落としの三十年後に生まれたニュータイプ専用マシン、F-91。
アルクトス王家に代々受け継がれ残されていた黒い守護神、騎士GEAR凰牙。
無限心臓レース・アルカーナを内蔵し、限界を知らぬ力を巨躯に秘めるフォルテギガス。
ダブル・リバイバルを経て成長したオーガニック・マシン、ネリーブレン。

ここまで生き残ったことは伊達でも酔狂でもなく、一騎当千とまでいかずとも強力な武力をもつ者である証明。
その四人が共闘するという形をとっているのに、そのパイロットたちの誰からも黒い闇がぬぐわれることはない。
それもそうだろう。
今から向かう先にあるのは、この殺し合いの諸悪の根源。
ノイ・レジセイアそのものなのだから。

「シャギアさん、大丈夫なのか?」
「ああ、心配をかけたようだ。今は、問題ない」

フォルテギガスのメインパイロットシート――ガナドゥールのコクピット――で、
シャギアは、ともにフォルテギガスに乗る甲児に返事を返す。

「無理しなくたっていいんだぜ?
 俺だってこう見えても元の世界じゃ知る人がいないくらいのロボット乗りだったんだ」

大仰なガッツポーズを取る甲児。
そうやって自分を励ましてくれているのだろうか。
嬉しくも思うが、心苦しくも思う。

今シャギアが戦場に立つ理由は極めて個人的な理由だ。
同じ敵を撃破するためといった、信頼や友愛からほど遠い感情で動いている。
先に向かい敵に接触した少年も、横にならぶ男もニュータイプらしい。
ならば、ニュータイプに何ができるかを見届けてやろう。
どうせ、何もできないに決まっている。
今も仲間を見捨て、こちらに合流しようとしているらしい。

元の世界で、アベル・バウアーの戦いを傍観した時に近い、冷たい感覚。

ここに来る前はほぼ常にそうしてきたはずだが、それが随分と遠く感じるのは感傷なのか。

フォルテギガスのスペックを再度認識する。
たしかに、最大の長所である頑強さはある程度減ってしまっているが、かなりの高性能機であることに違いはない。
そうそう簡単に落ちるものではない。合体した状態のこの機は、ガドル・ヴァイクランに匹敵する。
ガドル・ヴァイクラン。その言葉でオルバを思い出し、小さく頭を振った。
もし、今フォルテギガスに乗るのが甲児ではなくオルバならば。

比べること自体、愚かしいと分かっていても、それを振り切ることができない。
もう、シャギアの精神感応(テレパス)はどこにも通じることはないのだ。
片方を失い、断線したまま二度と使われない。
もはや、カテゴリーFとしての能力もない。まさしく無能力者だ。

「あれは……カミーユ!?」

ニュータイプの男の声で、シャギアは意識をメインカメラに戻した。
そこに映るのは、鋭角的なデザインの白い機体、サイバスターだった。
以前はブンドルが乗っていたが、今はニュータイプが乗っているらしい。

自分たちの前まで来て、サイバスターは停止する。
無言のままのその様子だと、大方ブンドルは死んだのだろう。
切り捨てたことをごまかしでもしたいのか、とコクピットの中一人軽蔑の視線を投げる。

「……ブンドルは?」

腫物を触るようなロジャー・スミスの問いかけに、カミーユと呼ばれたニュータイプは答えた。

「また俺は……ベガさんと同じことを……っ!」

つっかえつっかえな台詞。
その様子に心が冷えていくのをシャギアは感じる。
相手がニュータイプというだけでここまで冷淡になれることを思い出す。

少しずつ余分なものが落ち、正しく『シャギア・フロスト』が帰ってくることを感じた。

そうだ、これが私なのだ。
自分の存在を再認識し、目的を再認識し、
流れる憤怒のマグマは少しずつ冷え、何よりも硬い石となる。

甲児やロジャーが何かカミーユをなだめるようなことを言っていたが、シャギアは聞いてもいなかった。
ニュータイプの戯言には一切興味がない。気にする必要もない。
ただ、ニュータイプという存在がちっぽけなものであるという事実だけあれば十分だ。

「来たようだ」

シャギアは、レーダーに映った影を全員に報告する。
一斉に全員の体がこわばったのが、シャギアにはわずかだが見えた。


超・超高度から何かが来る。
夜空を照らすスラスターの光を背に、蒼い孤狼が夜を切り裂き、大地へ落下する。
熟れ過ぎた果実が大地に落ち、炸裂するのと同じように、熟成された悪意が大地へ降臨する。
ニュータイプ能力などないシャギアでも、生物の本能として全身が泡立つような恐怖を感じた。

遠雷の如き音と共に、足もとにあるビルを砕き抜きそれは現れた。
音速をはるかに超過する落下速度により生まれた衝撃波が周囲のビルすら積み木の城のように吹き飛んで行く。
コロッセオのように丸く、そして蟻地獄のように大きくすり鉢型に陥没した中心に、それはいた。

「フ………フハハハハハッッハハハハハハハハッ、ハハハハハハハハハハハッッッ!!」

世界の全てをあざけ笑う、圧倒的な声量の嘲笑が、離れたビルの壁面を打ち反響する。

40m近い、半大型機並みのサイズ。
常軌を逸しているとしか思えないほど肥大化しバランスを欠いた右腕。
銃口という花を無理に纏めて乗せたような左腕。
両肩にあるのは破壊力だけを追求しそれ以外の全てを投げ捨てた破壊の鉄球詰め合わせ。
天も突かんと伸びた額の角。
そして、胸の中心で輝く深紅の宝球。


それは、人に在らざる者の駆る異形の魔獣。狂獣。悪竜。それら全て。




――――アインストアイゼン・ナハト・リーゼ !!



相手の気配に、呑まれそうになるのを、必死にシャギアは押さえる。
今必要なのは怒りだけだ。細部は違う。だが、オルバが最期に命と引き換えに送った念は忘れない。
その姿に映っていたのは、間違いなく目の前の存在。
シャギアは、覚えている。あのオルバがこと切れる寸前に送った言葉を。

―――助けて、兄さん

そう、助けてとオルバは最期に思ったのだ。
自分が、テニアを潰しておくため二分すると言ったせいで。
助けることも死に目を見ることもできず、オルバは死んだのだ。
自分の、せいで。

ならば、兄としてできることは奴を殺すことだけだ。
それをせめてもの手向けとしよう。

「選別する……正解に最も近い………欠片……人間……」

先ほどまでの狂った笑いと打って変わって、
何か抽象的な言葉を呟くキョウスケ――の姿をしたノイ・レジセイア。

「これもまた……近い……しかし……違う……」

その手に握られているモノを前に突き出す。
それが何か拡大し、認識した瞬間、シャギアも流石に息をのむ。
蒼い孤狼がその手に握っていたものは、一見すると何か鉄屑のようにも見える。
しかし、違う。格納庫で一度見ただけなので細部まで分からないが、あの可変機だ。
見る影もない姿に変わり果てた姿。
下半身を失い、両腕をなくしたそれの頭を、壊れた人形の頭でも掴むように無造作に握っていた。

蒼い孤狼が手を放す。重力に従い地に伏す可変機。
もう、ぴくりともしない壊れ切ったそれを、蒼い孤狼は―――

「故に……破壊」


踏み躙った。


砕け散る可変機。しかしそれでもなお執拗に踏み付け、細かく砕く。
そして、また思い出したように狂った調子で笑い続ける男。

「ハハハハハ……脆い……あの紛い物の人間と同じで……脆い。紛い物……処分」

シャギアは、全神経を目の前の蒼い孤狼に集中していたからこそ、気付けた。
『紛い物、処分』と言った時、確かに僅かだが自分を見たことを。
なら、『あの』紛い物の人間とは誰か。誰の事を指しているのか。

理解した瞬間、怒りが沸騰した。

そうか、お前も我々を認めないのか。
なら、我らの世界にお前は必要ない。
元より、逃がすつもりもない。

「中ぅぅぅぅぅ尉ィィィィィィ!!」

ニュータイプが、叫ぶまま蒼い孤狼に突撃する。
その様子では、周りなどまるで見えていないのだろう。

「まずい! 全員カミーユを援護しろ!」

もう一人のニュータイプの指示が飛ぶ。
日頃なら誰が従うものかと思ったかもしれないが、今一時は優先するべきことがある。
目の前の怪物を倒すためなら、力を合わせるしかない。

弟、オルバのため……今だけは屈辱を飲む!

「シャギアさん!」
「わかっている!」

フォルテギガスのフェイスオープンシステムが起動。
全身の排熱システムから蒸気が噴き出した。
並みの機動兵器のモノとは比べ物にならないほどの超大出力のビーム砲が腹部から打ち出される。
F-91は脇下からせり出したヴェスバーを、ブレンパワードはソードエクステンションを。
凰牙は、サイバスターの後を追って蒼い孤狼に迫る。

「選別……選定……破壊……!」

蒼い孤狼が、一気に飛び上がる。
降り注ぐ弾幕から逃げるのではなく、その中に飛び込む無謀にしか思えない行動。
しかし、蒼い孤狼にぶつかった瞬間ビームは爆ぜ、拡散していく。
対ビーム用のコーティングをしていることを気付き、シャギアは唸る。

飛び上がる勢いのまま、サイバスターと蒼い孤狼が激突する。
無敵巨人であるフォルテギガスを上回るほど肥大化した右腕の杭打ち機が、サイバスターに繰り出された。
サイバスターも、ディスカッターで迎撃する。

剣戟の閃光が、夜空に散った。
虚空で停止する両者。杭打ち機は、身を逸らしたサイバスターの動きのため空を切っている。
対して、サイバスターの剣は正確に巨大な肩と首の間に切り込まれていた。
が、その剣はまったく食い込んでいない。
信じられないほど強固な装甲が、比較的もろい部分だというのに攻撃をはじき返している。

続いて、凰牙の回転するタービンアームが、蒼い孤狼の顔に叩きつけられた。
しかし、蒼い孤狼から漏れる笑いは止まらない。獲物を前にした獣の口のように、両肩が開く。
サイバスターと凰牙が身をかげした次の瞬間、大量のベアリング弾が空間にまき散らされた。

「甲児!」
「わかってらあ!」

距離をつめて打撃攻撃を繰り出さねばあの強固な対ビーム防壁を突破できない。
甲児も同じ気持ちだったのだろう。フォルテギガスを突貫させると同時、フィガを射出してくれた。
掴んだフィガを、ビームハンマーへ。
棘のついた巨大な輝く球体が、ビームワイヤーで誘導させられ蒼い孤狼へ向けられる。
蒼い孤狼が、自分の背面にあるウェポンラックにおさめられた武器を引き抜く。

「な……!?」

そこにあるのは、ビームハンマーと同じ形をしたに鈍色をした鉄球だった。
違いは、明確な実体を持つことくらいで、外見はほぼ同一。
大ぶりな動きから繰り出されるガンダムハンマーが、こちらが放ったビームハンマーに叩き落とされる。
エネルギーが質量とぶつかり合ったことにより、ジュウと音を立てるハンマー。
お互いが攻撃を引き寄せるのまで同時。

一旦フォルテギガスが引くのに合わせて、横から巨大な焔を纏った大鳥が突撃していく。
業火の中に僅かに見えるのはサイバスター。自分の全長の三倍以上の炎を纏い、蒼い孤狼に進む。
対して、蒼い孤狼の行動はシンプルなものだった。蟻地獄の中心で、腰を落とし正面から腕を広げる。
よもや、とシャギアもこれから考えることを予想し、ありないと首を振る。

そのありえないことを蒼い孤狼は現実に変える。

激突するアカシックバスター。それを――正面から受け止めた。
後方へ一気に吹き飛ばされるかに見えたが、全開に解放されたスラスターがみるみる内に不死鳥の勢いをそぐ。
完全に停止したサイバードをそのまま鯖降りにするべく、締め付ける蒼い孤狼。

そこへF-91がヴェスバーを速射するが、蒼い孤狼は気にも介さない。
騎士凰牙のハイキックが、蒼い孤狼の右肩へ。
同時に、サイズを利用し懐に入ったブレンも指先にソードエクステンションを叩きつける。
その僅かな緩みの隙に変形して強引に離脱するサイバスター。

三機が一斉に離れると同時、大上段からシャギアは巨大な剣に変えたフィガで蒼い孤狼を両断しようと試みる。
生半可な攻撃では、まったく意味がない。ならば、最強最大の攻撃ならば――!
ライアットバスターが、すり鉢を左右に割る。砂煙をあげながらも、落ちていく剣が蒼い孤狼とぶつかった。
蒼い孤狼の角が輝き、一瞬受け止めた。
だが、それは本当に一瞬。

そのまま角をへし折ると、その大剣は、蒼い孤狼に直撃する。

「無限の心臓……! 異界の熱量……これも……!」

今までの嘲笑と平坦な声とは違う。僅かに興奮の混じった声だった。
蒼い孤狼の張るビームコーティングが発生した瞬間、剣と蒼い孤狼に少しだが空間ができた。
即座に剣でまた埋められるはずの僅かな空間と、それによって生まれる時間。
しかし、その時間を持って蒼い孤狼は血道をこじ開ける。

蒼い孤狼の肩が開く。
その中に見えるのは、無数のベアリング弾。
まずい、と引かせようとするが判断が遅れた。このままでは直撃する。
そう思い、せめて防御しようと腕を出そうとしたときだ。
出力全開でフォルテギガスが真上にすっ飛んだ。

「甲児か!?」
「おう! もしもの時は任せて、シャギアさんは攻め続けてくれ!」

攻め続けることしか考えてなかった自分と違い、甲児は失敗することを考えて自分のフォローに回ってくれていたようだ。
お調子者だと思っていたが、これはこれでもしかしたら気が利く性格かもしれない。

出力にものを言わせ、さらにベアリング弾を射出した勢いのまま蒼い孤狼が後ろに跳び退るのが見えた。
コンクリートを砕き、砂煙をあげながら獣のように四肢を大地につけ減速する。

再び集合し、ビルの上に立つ五機を、蒼い孤狼の赤い瞳が見つめていた。

「あれが、主催者……!?」

ロジャーの言葉に、ニュータイプの男が答えた。

「間違いない、ざらつきはあるがノイ・レジセイアそのものだ……!」
「中尉は……かつてアインストと戦って、勝ったと言っていました。
 一番接点があり、ノイ・レジセイアにとって『確実』な体だったんでしょう……」

だから、こんなこと許されてたまるものかよ、とニュータイプ――カミーユの震えた声。
そうだ、許されてはならない。許せるはずもない。
操られていようがなんであろうが、あの男が弟を殺したことは紛いもない事実。
ならば、弟と同じ運命を奴にも突きつけなければならない。

「だけどよ、アムロさん! 倒すったってどうするんだよ!?」

甲児の言葉ももっともだ。
並大抵の攻撃では、とてもではないがあれには通用しない。
それこそ、通用するのは――

「空間突破のための、切り札。それの直撃、か」

つまり、
F-91のゴッドフィンガー。
凰牙のファイナルアタック。
サイバスターのコスモノヴァ。
フォルテギガスのライアットバスター。

この四つのうち、一つを完全完璧な形で直撃させなければ到底勝ち目はない。

「だが、どうやって直撃させる!?」
「それは……」

それ以上の言葉は許されない。
蒼い孤狼に、こちらを休ませるつもりはないのだろう。
その左手につけられた5連チェーンガンがマシンガン並みの勢いで吐き出された。
飛びのいたビルが、あっという間に穴だらけになり崩れていく。

シャギアだけでない。
誰もが行き詰まりを感じつつあった。
最強の必殺技を直撃させる。
言うのは簡単だし、コミックや、アニメ……それこそゲキガンガーではよく見る展開だ。
しかし、あの凶暴すぎる孤狼の首を縛り付ける鎖はなく、足を止める罠もない。
その状況で、目標を達成するのがいかに困難なことか。

数の利があり、疲労が先ほどまでの休憩で抜けているためしばらく持つが、いったいどこまで持つか。
戦闘とは、極度の緊張を強いるもので、そう長くはない。
決めなければ、じりじりと押し切られる。

だが、状況を打開する方法は見えてこない。


◆ ■ ◆



完全を砕けば、破片は無数の不完全となる。

無限を果てしなく切り分ければ、それは有限となる。

完全、無限からは不完全、有限は生まれえる。

これは真実。



無限を複製し重ねれば無限となる。

永遠はどこまで続こうと永遠は変わらない。

完全、無限から完全、無限は生まれえる。

これも真実。


混沌の中から完全なる生命は生まれる。

混沌たる我から完全なる生命は生まれる。

それは真実か?



―――否



数多の宇宙――その中における我。

その結果は全て失敗。

成功は無。



―――何故、完全な生命になれなかった……

―――何故、完全な生命を生み出せなかった……


完全な生命を生み出すには、我自身が完全に至らねばならない。


我が完全な生命になるのに必要なものは何か。


数多くの世界で我を凌駕する力を振るう、人間。

我を超える――我より完全に近い?


『この世界』において我は人間を凌駕した。

その違いは――――




生命は―――


完全は―――





人間は―――






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