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機体がビルの側面に叩きつけられるのをすんでのところでアムロは回避する。
スラスターを、オーバーヒートを起こさんばかりに放出し、どうにかF-91を破壊から遠ざける。

「これが……ノイ・レジセイアの力だというのか……!?」

圧倒的なほどの強さだった。
今、アムロ達は五機がかりでレジセイアに立ち向かっている。
だというのに、『戦っている』という実感すらなかった。
獣のような読めない動きと異常なまでの俊敏性。そして異常過ぎるスラスターの出力。
直撃を当てることはおろか、小技がかすることさえまれ。
だというのに、当たっても通じない。
しかも、再生機能までついている。

「ハハハ……それが……完全の欠片か……」
「言っている意味が分からないな!」
「分かる必要もない……」

蒼い孤狼のスラスターの横の姿勢安定用ウィングが展開。
鈍重に見える外見からは想像も出来ない程のスピードで疾走を始める。
先ほどシャギアがへし折ったはずの角が再生し、赤熱化だけに留まらず電光を纏い振り上げられる。
目の前で戦っていたフォルテギガスが、その目標だった。
回避が間に合わない。さりとて、援護も間に合わない。
フォルテギガスが腰をおろし、その場で姿勢制御用のフィンを展開した。
そのまま、角を避けて体当たりを仕掛けるつもりだとアムロには分かった。

大型機同士の大質量が衝突し、衝撃波で空気を震わせる。
だが、こう着の後吹き飛んだのはフォルテギガス。
全身から脱落した装甲を周囲にふりまきながら、車か何かにひかれた人のように吹き飛び大地を転がる。
身長は、フォルテギガスは蒼い孤狼の1,5倍もあるにも関わらずだ。
だというのに、フォルテギガスが痩躯の人間、蒼い孤狼は大型トラック。
それだけの差があった。

「脆い……無限ではない……!」

蒼い孤狼の背後に、バイタル・グロウブの僅かな歪みによる光が洩れた。
アムロもそれに合わせて、ヴェスバーを牽制に発射する。
重力を感じさせない軽やかな動きで何度となくアイビスのブレンパワードが切りつける。
着弾するヴェスバーをすり抜けるように何度も何度も。
蒼い孤狼は、その中笑っていた。
蒼い孤狼の左腕が、消える――いや、こちらの認識を超える速度で振るわれる。
バイタルジャンプによる回避は間に合わない。アイビスのブレンが一直線にビルへと激突した。

「ブレンパワード……似ているが……我ほど完全ではない……」

蒼い孤狼には、寸分のダメージも感じられない。
小柄なブレンやガンダムのそよ風のような攻撃では、孤狼という大木を揺るがすことはできない。
蒼い孤狼が、吹き飛ばしたブレンをカメラ追った隙に、
ブレンとガンダムより大きなサイバスターと凰牙が格闘を仕掛ける。

「中尉! あなたはもういないんですかッ!?」

カミーユの言葉をあざ笑う蒼い孤狼。
二人に追撃する形でアムロも操縦桿を前に倒しF-91を動かした。
ギンガナムが遺したビームソードを引き抜く。
「立って、ブレン!」――ブレンも、アイビスの言葉を受けて傷ついた体を動かし、飛び込んでいく。
ニュータイプのアムロには、ブレンの痛みが分かった。
フォルテギガスも、フィガをツインブレード状に変えて切りかかった。
五機一斉の集中格闘攻撃。

「とどけぇぇぇぇ!!」

アイビスの声が、鼓膜を打つ。
回転し唸りを上げる凰牙の拳が蒼い孤狼の顔を。
フォルテギガスのストームブレードが蒼い孤狼の左肩を。
サイバスターのディスカッターが蒼い孤狼の右腕を。
ブレンのソードエクステンションが蒼い孤狼の背中を。
そして、F-91のビームソードが蒼い孤狼の脚部を。

「ハハハ……ハハハハハ……! それが……銀河を変える……力……!? 」

音無き鋼鉄の咆哮。
全身を抑えつけられているのを無視し、体を振るう。
振り回される腕。開口した肩。両腕にある無骨な5連チェーンガンとハンマー。
全身の火器がまとめて火を噴いた。
花火がさく裂したように昼間の明るさに変わる。

「ぐああ……っ!」

千差万別、古今東西の別種の機体が、一様に吹き飛ばされる。
まずい。最初は疲れがなくかわせていたが、全員少しずつ動きが鈍り被弾が増えてきている。
もし誰かが撃墜されれば、即座に詰みだ。
五 対 一 だからこそできている拮抗状態は、あっさりと崩れ去るだろう。

「―――あれさえ決められれば……」

口から自然と漏れる呟き。
ギンガナムを倒したあれを決められれば、おそらく勝ち目も見える筈だ。
今は攻撃を気ままに受けてくれている。
だが、先ほどのシャギアのライアットバスターから分かるように、
おそらく危険な攻撃となれば回避しようとするだろう。
そうなれば、あの異常なスラスターなら緊急回避もたやすいはずだ。

フォルテギガスとサイバスターが何度も果敢に突っ込んでいく。

「弟を殺したことを……後悔するがいい!」
「やっちまえ、シャギアさん!」
「中尉……もう、あなたがいないというなら俺は躊躇しない!」

勝ち目が見えぬまま、突っ込んでいく三人。
アムロは、自分が一歩引いてしまっていることを自覚した。
あれほど我武者羅に突撃できない。冷静な戦略が、などと言いながら下がってしまう。
今、一番エネルギー消費や機体の新しい消耗が少ないのはアムロだろう。エネルギーは8割近く残っている。
ゴッドフィンガーは一撃限りの必殺技だ。気力、エネルギーともにほぼ限界まで消耗してしまう。
つまり、事実上戦線離脱は確実。

だからこそ、アムロは決め切れない。
もしも自分が外せばどうする? それこそ、敗北の決定的な一歩を作ってしまう。
敗北できない戦いなのだ。うかつなことはできようもない。

「飛んで、もっと、もっと――!」

何度もはじかれる二機への追撃を許すまいと、アイビスのブレンが距離を詰める。
その動きは、さながら戦闘機の妖精だ。高速機動と瞬間移動を組み合わせ、一定の距離を保ち蒼い孤狼を翻弄している。
シャアとともに初めて会った時の弱気さと、自信のなさが嘘のようだ。
アイビスも必死に、ひたむきに、ブレンと力を合わせ眼前にある最悪の現実と戦っている。
下手にもらえばそこで終わるというのに、そのことを恐れずに。

―――俺は、どうだ?

アイビスと似たり寄ったりの状況だというのに日和ってはいないか。
戦いに雑念を混じらせれば死ぬだけ。なのに、これはどういうことなのか。

「……届かない……足りない……」

ついに、アイビスが被弾する。
『く』の字に体を降り、吹き飛んで行くブレン。
しかし、それが大地に激突するより早く、凰牙が拾い上げた。

「ごめんなさい……!」
「気にすることはない。君はよくやっている」

凰牙が全体を見据え、腕から放つ竜巻でけん制しては動き回って別の機体のフォローをする。
黒ずくめの伊達男、ロジャー・スミス。交渉術で培った冷静さで、必死に戦っている。

「ロジャー、そちらはどうだ!?」
「まだ、ファイナルアタックを使用するだけのエネルギーは残しているつもりだ。だが……」

ロジャーも、アムロのゴッドフィンガーに似た攻撃としてファイナルアタックを持っている。
だからこそこういう立ち回りをしているのだろう。
だが、という言葉の後はアムロにも分かる。おそらく、同じ苦悩をロジャーも感じているのだろう。
その時、気付いた。ロジャーの腕が震えている。
そのことに、声を失ったアムロを見て、ロジャーは食いしばりながら答えた。

「恐怖は、この謂われのない不条理な感情は、生理反応でしかない。……理性で克服できるはずだ」

ロジャーもまた、蒼い孤狼が口を広げる領域に飛び込んでいく。
蒼い孤狼と凰牙が撃ち合うたびに、火花が散る。その中、何度倒れても起き上がりフォルテギガスが突撃していく。
サイバスターも、不死鳥へ姿を変えて突進する。


誰もが、戦っているのだ。
恐怖そのものと。恐怖を塗りつぶすほどの怒りの中。
恐怖を乗り越えた情熱で。


―――俺は、どうだ?


ただ、気配に呑まれていただけじゃないか?

ギンガナムと戦い黒歴史を知り、
ガロードを失ったことを突き付けられ、
シャギアに憎しみをぶつけられ、
目の前の大きな恐怖に呑まれていただけではないのか?
キラを戦いに遠ざけた時から何かずれていなかったか?

「情けない奴……!」

かつてシャアに言った言葉がそのまま自分に跳ね返る。
賢いフリ、賢明なフリをして下がって傍観する。若い時、自分が憤った大人の姿そのものではないか。
若者――未来が戦うならば、俺たちはそれを守るのが役目だろう。
だというのに、戦うことそのものを奪ってしまって何の意味がある。
これが年を取るということかと納得まではしたくはない。
だが、それでも。

何度でも立ち上がり勝利を目指す者たちの道を切り開く。


――それが、俺たちの役目だろう、シャア。


F-91が光輝に包まれる。
展開される三枚のフィン。金色の輝きが、全身を包み込んでいた。
ギンガナムを一方的に屠り去ったバイオコンピューターの最終形態――F-91・スーパーモード。
それが今、蒼い孤狼を前にして再び現出する。

このまま消耗を続けていては、勝ち目はないなんてことは分かっていた。
仮に勝っても、残り二つの壁を越えることなどできようか。
なら、どこかで勝負の流れを引き寄せる一手が必要になるのは当然なのだ。
それを躊躇していた自分をアムロは恥じる。

金色の矢となってアムロは突き進む。蒼い孤狼も危険を察知したのだろう。
目の前に相対していたフォルテギガスを無視し、F-91に向き合った。
その拳を、蒼い孤狼が受け止める。

「これか…… これが……」

蒼い装甲が砕け、中から爆ぜる。それとともに、大地に落ちて音を立てる銃口の花束。
ついに、孤狼にダメージらしいダメージが通った。F-91がビームソードを引き抜き、叩きつけようとする。
だが、それより前に、蒼い孤狼の肩から無数のベアリング弾が飛び出した。
装甲解放、射出のタイムラグは先ほどまでと変わって、まったくない。
F-91のバリアフィールドとクレイモアがぶつかり合う。

「ぐっ……!」

その規格外の巨大なクレイモア。
最初バリアで逸らせたが、徐々に貫通しかねない勢いになっていく。
ベアリングの嵐で動くこともできない。このままでは、やられる。
だがそれも一人だけならば、だ。
F-91のバリアの陰に隠れるようにブレンが現れる。
次の瞬間、バイタルジャンプが再び行われクレイモアの中からF-91を救いだした。

ベアリングをばらまきながら方向転換をする蒼い孤狼。無差別に破壊が周囲にまき散らされる。
しかし、再び破壊がF-91を捕らえるよりも速く、蒼い孤狼の肩が爆ぜる。
離れた場所で倒れながらもオクスタンライフル・Wモードを構えるサイバスター。
その一発が、正確に肩の爆薬を打ち抜き、誘爆させた。

蒼い孤狼は爆発にのけぞる勢いを利用し、武器のハンマーを振り回す。
ハンマーの鎖が、別所から飛んできたハンマーのビームワイヤーにからめとられた。
バランスを崩しつつあった状況のため、踏ん張りがきかずガンダムハンマーはその手から引き抜かれる。
大地にがっしりと足を降ろし、ハンマーのワイヤーを引くフォルテギガス。

行ける、押し切れる!

ブレンから離れ、F-91は再び蒼い孤狼の支配する距離へ飛び込んでいく。

「完全に近い……生命の……欠片!」
「うおおおおおおおおおおおッッ!」

ビームソードにその力を収束させる。伸びるゴッドフィンガーソードが、空を割る。
蒼い孤狼もいまだ戦意は失せていない。大地で待つ気もなく、スラスターの加速で空へ走る。
裂帛の勢いで放たれる右手の杭打ち機。凰牙のタービンから放たれる竜巻が、蒼い孤狼をあおる。
大地に足を下ろしてのインファイトなら、この程度ではびくともしないだろう。
しかし、今蒼い孤狼がいるのは空。僅かではあるが風で蒼い孤狼の姿勢が崩れた。
杭打ち機は、バリアを容易に引き裂きはしたが、F-91の本体には届かない。

アムロの目の前にあるのは、がら空きになった蒼い孤狼の胸。

(すまない……今は、そちらごと!)

心の中で、ノイ・レジセイアに乗っ取られた哀れな男に謝罪する。
そして、アムロは赤い球の下にある、コクピットブロックに深くゴットフィンガーソードを差し込んだ。
蒼い孤狼の、全身の間接から光が漏れる。

ゴッドフィンガーソードに、バチリと雷光が起こる。

「これは……!?」



次の瞬間、超高電流がアムロの体を打った。



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