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シャギアは、複雑な目で空の光景を見ていた。

これが、ニュータイプか。

目の当たりにしたニュータイプの能力。
あれほどの脅威を、協力があったとはいえ、一息に跳ね返すだけの力。
到底、ただの人間では及び付かない戦闘力。

オルバの仇をこの手で打つことができないばかりか、結局はニュータイプ一人の独壇場。
見せつけられた力の差。ただの無能力者とニュータイプ。たったそれだけでこれだけ差があるのか。
ニュータイプは幻想だと、あのニュータイプは言った。傲慢だ。
自分自身が異能そのものの力を振るっていながら、幻想と嘯くのか。
ニュータイプは幻想ではないと否応なしに認識させられるシャギア。

この連中とはともにはいられない。
ここはナデシコとは違う、自分の居場所などないのだ。
甲児も、よくオルバの代わりに自分を助けてくれた。
一人でフォルテギガスを動かしていては、おそらく撃墜されていただろう。
だから、甲児にまで自分のわがまま巻き込むわけにはいかない。

弟を失い、ニュータイプの力を見せつけられた。
自分は失敗を繰り返し、多くのものを失ってきた。

もういい。

シャギアの体を覆う、言いようのない疲労感が精神すら苛む。
少し、眠ろう。そう思い、重くなった瞼を閉じた。
だが、ゆるんだ心に、そっと差し込まれるように悪寒が走る。

はっと目を開く。
そして、空中で起こった出来事に、唇をわななかせた。




「ハハハ……人間……進化……欠片……成長…………!!」



膨れ上がっている。
あの蒼い孤狼が、空で大きくなる。
月が、蒼い孤狼によって覆い尽くされ、地を闇が覆う。
ニュータイプはビームソードを刺したまま動かない。

ズゥゥゥン……と大地を揺らす重低音。
腕が、肩が、消し飛ばしたはずの部分が、光に包まれ再生していく。
バチバチと金色の電光を纏い、再び大地に立ちあがる。
大きい。フォルテギガスが、見上げなければ全長すら見えない。
ユーゼスのマシン……いや、あれより一回り大きいのではないか。
上半身が立ち並ぶビルよりも高い場所にある。

成長が止まると同時、その全身を包んでいた光が消える。
それと同時に、F-91もまた静かに地に落ちた。身動き一つしない。
まるで、その命の全てを蒼い孤狼に吸い取られてしまったように。
空を見上げていた蒼い孤狼……いや魔王が、大地を睥睨する。

意思を持たぬはずの機械の目に見られただけだというのに、自分の内面奥底まで覗きこまれる感覚。
全身を覆う恐怖が、体を震わせる。止めようのないほど汗が流れる。

「う……おあああああああああ!!」

思考が、すべて吹き飛んだ。
シャギアらしくもない、咆哮。フォルテギガスが、蒼い魔王へ飛ぶ。
しかし、無敵の巨人も蒼い魔王の前ではあまりにも矮小だった。

蒼い魔王の巨体が一瞬で目の前から消失した。
ブンドルとカミーユが不意をつかれた理由がここにあった。
バイタルジャンプは、バイタルグロウブに乗れればブレンでなくとも使用できる。
ブレンをこの場に呼び寄せた張本人であり、半機半生半魔のアインストアイゼンナハトなら不可能ではない。
今まで使わなかったのも、ハンデでしかない。


僅か数秒の出来事だった。


フォルテギガスの背後に現れた魔王の、腕の一振り弾き飛ばされ、F-91の横に叩きつけられる。
同じように突撃したサイバスターも同じだった。まとめてなぎ払われ、ビルにめり込む。
恐怖で動かない凰牙が、蹴り一撃で沈黙。
距離を取ろうとしたブレンの前に再び跳躍し、まるで羽虫をはたくように地面に叩きつけた。

武器など使ってない。
ただ、手足を振り回しただけ。
ただそれだけで―――全員が沈黙していた。


目の前のそれは、こう言った。









絶望と。







「ハハハハ…… 進化……完全に至る……人間は……!」

どこまでも高らかに笑う魔王。
先ほどまでは不快に感じていたそれが、今のシャギアには恐ろしくてたまらない。
フォルテギガスは先ほどの一撃でほぼ機動停止状態だ。

「な……なんだ、これは……」

シャギアには分からない。

自分の理解を超えた場所にあったニュータイプ。
そのさらに向こう、理解などほど遠い世界にある目の前の物質は何だ。
ニュータイプだのカテゴリーFだのと比べることすら馬鹿らしい、『人』の枠を超えてしまったこれはなんだ。
恐怖と畏怖、そして絶望以外の感情を持つことすら許されない。
自分が生きて培ってきた価値観すら根こそぎ吹き飛ばすほどの恐怖。
思考力すら根こそぎ奪う悪寒。

無理だ。何をどうしても、勝つことなどできない。
仮にオルバがここにいて、万全の状態のフォルテギガスあっても嬲り殺されるだけだろう。
死にたくない。彼は即座に逃げることを選択した。
フォルテギガスを立ち上がらせようとスイッチを押しまくる。
けれど、完全にダウンしたシステムは何の返答も返さない。

ゆっくり、ゆっくりと巨体がシャギアたちのほうへ歩いてくる。
酷く遅く見えるが、巨体故に想像以上に早く距離は詰まっていく。
なにか、なにか手はないのか。
無様な姿ながら、どうにか生きている有視界システムで周囲を見る。

あった。

フォルテギガスのすぐ横にあったのは、こと切れて動かないF-91。
F-91も機動停止しているかもしれないのだが、そこまで今のシャギアは頭が回らなかった。
コクピットの緊急解放のレバーを引き、強引にハッチを吹き飛ばす。
冷たい風がコクピットに流れ込んできた。
外に出て、転がり落ちるように地面へ。体を打ちつけ、酷く痛むが気にしている暇はない。
今も刻一刻と魔王は迫っている。

必死に、横倒しになったF-91に登ろうとする。
しかし当然ながら足場もなしに横倒しになったMSにそうそう上がれるものではない。
焦りとぬめる汗が余計に速度を遅くする。

もう魔王は目の前だ。
間に合わない。
ここまでなのか。

絶望の瞳で全貌すら見えない魔王を見上げた。


だが、


「―――やいやい! この兜甲児さまが相手だぁぁっ!!」

その場に似つかわしくない、快活な青年の声が響いた。
フォルテギガスが、音を立てて二つに割れる。それは、分離のシークエンス。
そう――元々損傷の大きいガナドゥ―ルは直撃を受け機能を停止しても、
下半身を構成するストレーガはまだ動くことが出来たのだ。
と言っても、ストレーガもまた損傷は大きくボロボロであることには変わりない。
一撃受ければ、以前の蒼い孤狼の一撃でも容易に吹き飛ぶほどの損傷だ。

「やめろ……」

シャギアは、うわごとのように呟いた。
勝てるはずがない。即座に粉砕されるだけだ。
立ち向かうこと自体、間違っている。なのに。

「シャギアさん! 早く、そっちに乗ってくれ!」

ストレーガがF-91を指さす。
これは、F-91に乗って戦えと言っているのだろうか。
『戦う』――目の前のあれと?
そんなことは不可能だ。


魔王が、足を止めた。
空に浮かび上がり、自分の5分の1程度の黄色い機体を凝視している。
魔王は、どうやらストレーガを敵として認めたようだ。

「やめろ! 逃げろ甲児!」

シャギアはあらん限りの声で叫ぶ。
オルバは死んだ。ヒメは殺してしまった。
もうあの時間は帰ってこないと分かっていても、最後に残った甲児に死んでほしくなかった。
だが、甲児はなにも答えず魔王へ突っ込んでいく。

甲児は、その技量で器用に魔王の繰り出す腕の指先を抜けた。
そのまま背後に回ると、一時停止。魔王はゆっくりと後ろを向く。
甲児の目的は明らかだ。自分から、魔王を引きはがすつもりだ。

「シャギアさん、俺、人間の革新とか全然わからないけどさ」

呆然と空を見上げるシャギアに、オープンチャンネルで甲児の声が届く。
何を、いったい言っている。そんなスタズタの機体でどうして立ち向かっていけるんだ。
何故―――戦うことを考えられるのだ。

「けど、シャギアさんは立派な人だと思うぜ?
 だってさ、ずっと俺たちを励ましてさ、引っ張って。
 きっとシャギアさんがいなかったらここまで生き残れなかったと思うぜ」

やめろ。やめてくれ。
『ここまで生き残れなかった』だなんて言わないでくれ。
これからも甲児は生きるのだ。そんな不吉なことを言わないでくれ。

「俺さ……神にも悪魔にもなれるって言われたよ。
 けどさ、俺は馬鹿だから神になんてなれないし、悪魔なんてまっぴらごめんだ。
 俺は、人間で十分だし、人間でいいと思ってるよ」

魔王は、あいも変わらず遊んでいるだけだ。
だが、本気になればその加速を利用した体当たり一撃で面単位の攻撃で粉砕できるはずだ。
早く、逃げてくれ。私など気にすることはない。

「俺は、シャギアさんたちの世界のことがわからないから、ニュータイプなんてわからない。
 けどさ、シャギアさんはシャギアさんなんだから、胸を張っていいと思うんだ」

分かった。そうしよう。だから、逃げてくれ!
その機体では無理だ! 逃げてくれ! 逃げてくれるなら、なんでも聞こう!

「ニュータイプも人間なら、シャギアさんだってニュータイプになれるかもしれないぜ?」

蒼い魔王の動きが変わる。
その影が、ゆらりと動いたかと思えば、一気に巨大化したスラスターが火を噴いた。
ストレーガは、急上昇でかわそうとする。ストレーガの場所を通り過ぎた瞬間、魔王が消えた。
魔王が、再び現れたのは、ストレーガの真横だった。移動の加速のまま、その巨体が動く。




「俺たちみんな、神でも悪魔でもない人間なんだ」



もはや、勝負にもならない。
ストレーガは一瞬で粉々になった。砕けた腕が、足が、胴が、頭が、大地に振り注ぐ。
疑いようはない。甲児は、死んだのだ。

「ハハハハハハハハハハハハハッハハハハハッハハハハ!!」

死者を冒涜する、嘲笑。



―――シャギアの中で、何かが爆ぜた。


一息で、ガンダムのコクピットがある胸部までかけ上げると、外部からの解放ハッチを引く。
シャギアを包むのはどうしようもないほどの怒りだった。怒りが突き抜け、逆に頭がクリアになる。
自分が肝心のところで感情的になることは、サテライトランチャーとサテライトキャノンの打ち合いの時から分かっていた。
しかし、これほどとは自分でも思わなかった。甲児を殺した魔王が許せなかった。
だがなにより情けなかった。自分が許せなかった。自分への怒りがあった。

もし、自分がF-91で援護していれば甲児は死ななかったかもしれない。
もちろん、まとめて潰されていた可能性は高い。だが、それでも何かが変わったのではないか。
だというのに、自分は何をしていた。手も動かさず、いもしない神に祈り、呆然としていただけだ。
なんという無様な姿だ。自分が、甲児が認めるシャギア・フロストとしてあってはならない行動だった。

開いたコクピットから臭うのは、強烈な異臭だった。
黒こげに近いニュータイプが、コクピットにうずくまっていた。
シャギアは知る由もないが、魔王は電撃のエネルギーを大量にため込んでいた。
そして、それとアムロのニュータイプ能力で作られたエネルギーが反応を起こした結果、魔王は肥大化したのだ。
だが、それは100%の変換能率ではない。

そのため――漏れた電気エネルギーが、生体エネルギーの発生源のアムロに集中した結果だ。
F-91はそれほどの消耗でもないのに、アムロだけはこのようになったのはそのためだ。

「どけ!」

シャギアは一切気を使うことなくアムロをどけると、シートに座り機体を操作する。
異臭は、開きっぱなしのハッチから逃げていく。しかし、機体が起動しない。
いくらキーを叩いても、立ち上がらないのだ。機体の損傷などは、それほどでもないにもかかわらず。
エネルギーも、アムロのアクションが途中で強制終了したため5割は残っている。
パネルをシャギアは叩く。自己診断で帰ってきた答えは『問題なし』。

この機体の特性を思い出し、シャギアの顔が歪む。
そう、F-91はニュータイプであることが最大最高の性能を発揮する条件だ。
まさか、自分がニュータイプでないから起動しないのではないか。
ここまで来てニュータイプでないことが足を引くのか。どこまでも自分を縛るのだと拳を震わせる。

「動け! 何故動かない! 私がニュータイプではないからか!」

ニュータイプに何の価値がある。そうではないというだけで戦う力すら奪うものに何の意味がある。
そんなものはありもしない。誰もが神にも悪魔にもなれる。
それは個々の潜在的な力であって、ニュータイプと言うくくりで決められるものでない!

足元の、黒い塊がもぞりと、動いた。

「違う……おそらく、電流で……一部にバグが……」

伸びた手が、端末を叩く。
すると、一部の不可解な文字列だったプログラムが修正された。
ウィンドウが点灯し、F-91に制御のための秩序だった言葉が表示される。

「生きていたのか」

例を言うつもりもない。
シャギアはそちらも見ずに一言それだけ言った。

「ああ……」

向こうもそれだけ言うのが精いっぱいだったのか。
そのまま口をつぐんでいる。メインカメラに映るのは、魔王の姿。
甲児のおかげで、かなり離れた所に降りたようだ。だが、再びこちらに迫って来ている。

「ニュータイプは……ありもしない……」

突然の、言葉。

「その通りだ」

時間が惜しい。それだけ答えてシャギアは立ち上げを急ぐ。
足もとから、小さく笑ったような息使いが聞こえてきた。この状況で何がおかしいのか。
相手をする暇も惜しい。

「やっと……振り切ったようだな……
 それでいいんだ……ニュータイプに振り回されるのは……終わりだ……」

振り切った、という言葉にさらにシャギアは顔をしかめた。
言われて気付いた。今の自分が、それほどニュータイプに執着が……ない。
キーをタッチする腕を、突然掴まれた。

「ただ、ニュータイプと呼ばれたものがあったことを忘れるな。
 ニュータイプと呼ばれて消えていった俺たちのことを、忘れないだけでいい」

半死人とは思えないほど、力のこもった言葉。
言葉にしようのない迫力が、ニュータイプ――いや、アムロ・レイにはあった。
シャギアは、初めて正面からアムロを、ニュータイプという存在を見た。
その言葉には嘘偽りない、幻想ではない切実さがあった。

「死者は、消えることはない。お前が閉じていると思うから見えないだけだ。
 思い込むな。引きずられず、繋がっていることを意識しろ。人の心を、その力を」

アムロの手が、通信機のスイッチを入れた。周辺の機体全てにチャンネルを開いている。





「俺やシャアのようにはなるな。歴史を―――繰り返させるな!」



アムロの手が離れ、その体が後ろに倒れていく。
反射的にシャギアは手を伸ばしていた。アムロの手とシャギアの手ががっしりと組まれる。
だが、次の瞬間アムロの腕は炭化していたのか崩れ去った。
そのまま、やっと立ち上がったF-91の機体の外へ落ちていく。

シャギアの手の中には、黒い炭とその熱だけが残っていた。
その手にアムロが残したものをシャギアは握る。

F-91のウィンドウに無機質な言葉が並ぶ。


SYSTEM_ALL GREEN

BIO COMPUTER_LIMIT CUT

PSYCO-FRAME_ON


警告メッセージ_ 許容限界を超える空間認識能力を確認。MEPEが起こっています。






シャギアの中で爆ぜたもの、それは―――


◆ ■ ◆


―――「俺やシャアのようにはなるな。歴史を―――繰り返させるな!」

激しい衝撃で頭を打ち、まどろむ意識にアムロの言葉が飛び込む。

アムロさんも、クワトロ大尉も、ブンドルも、誰も彼も勝手だ。勝手に都合を押し付け、期待し、消えていく。
自分たちは何もしてないのに。自分たちだってまだやることがあるのに。それを全て投げて、逝く。
受ける側は、いい迷惑だ。追いつくため答える余裕もないこっちを少し見て、笑い、納得し、それですべて分かった気になる。
そのくせ、いつも出てくる最期に出てくる言葉は自分が失敗だった、そしてそれも悪くなかったと言うばかり。
本当に、そうなのか?  頭の中の冷たい部分が、そう聞いた。そうに決まってる。だって、そうでなければ―――

「俺やシャアのようにはなるな。歴史を―――繰り返させるな!」
「全て、私が『納得』しての行動であり、『妥協』ではないということだ」
「これが、若さか」

何だ。一体何なんだ。みんな揃って俺たちに、俺に何をさせたいんだ。
一度でも、俺の希望なんて聞いてくれたこともない。なのに、することばかり目の前に積み立てる。
そのくせ、自分だけ『妥協』して『納得』して。それが他人にも伝わるとどうして信じられる。
自分勝手で、臆病者で。大人の責任ばかりを押し付けるくせして、一人前の大人として扱おうともしないのに。
人に夢みたいな綺麗事ばかりを説きながら、自分は前に進もうともしない。どうしてだ。
三人ともまだやるべきことがあったはずだ。その責任を全うせず、どこへ行くんだ。卑怯じゃないか。
物分りがいい大人を演じて、人の話を聞いているふりをして。あなたたちは何をした。
本当に、そうなのか?  頭の中の冷たい部分が、また聞いてきた。何度聞いたって同じだ。


暗く重苦しい意識の中、緑に似た水泡が浮かんでは消えた。


なんだ? 温かい。これは、見覚えがある。
けど、思い出せない。思い出せるはずなのに。思い出さないといけないのに。
どうして、忘れてしまったんだ。


カミーユは、意識の中のそれを触れる。
壊さないように、なくしてしまわないように沿えるように、そっと。


―――ああ。

「カミーユ、聞いてほしいの」

―――ああ、この声は。

「確かに、私は汚い大人のやり方に見えると思うわ」

―――何で、あの時俺は耳を傾けなかった。

「カミーユ、私はあなたに間違った大人になってほしくないの。
 ううん、私だけじゃない。あなたを大切に想っている人、全員が、よ」

―――その後も気が動転して。自分の身勝手さをあのジオン兵に向けてごまかして。

「私たちは何度も失敗して、何度も後悔した。それを、あなたに繰り返してほしくないの。
 どうでもいい人なら、こんなことも言わない。けど、伝えようと思ったら伝え切れない。だから――――」

―――ベガさん………。

だから、なんですか。伝え切れないから、受け取るか受け取らないかは二の次で渡してくるんですか。
それが大切に想っているってことになるんですか。みんな、俺なんかを買被りすぎなんだ。
俺は、何回同じ失敗を繰り返した? そんな俺が、四人を受け継ぐなんてできるはずがない。

「受け継ぐなんて、硬く考えることはないわ」
「ただ、覚えていてくれればいい」
「失敗は失敗だ。消すことはできない。しかし、塗り替え乗り越えることはできる」
「それが美しくあれ、ということだ」

これは、夢だ。みんな死んでしまった。死人は、話しかけたりなんかしない。
俺が都合よく生み出した幻想が、みんなを踏みにじって好き勝手言わせてるだけだ。
けど、どうしようもなく温かい。
俺は……俺は守ってもらうばかりで、何もできなかったじゃないか。
俺の不手際で、みんな消えてしまった。俺のやったことのしわ寄せは、何も俺には来なかった。
こんな言葉をかけてもらう資格なんて、あるはずがない。

「打ち貫け!」

―――中尉まで……どうして、

「それいいのか、お前は。いつまでうずくまっているつもりだ」

どうして、そんな言葉をかけられるんだ。俺のせいなのに。

「お前に責がないとは言わない。だが、覚えておけ」

そうだ、俺のせいなんだ。責めるべきなんだ。

「俺たちはこの結果を後悔してなどいないし、託したことも間違っているとは思っていない」


カミーユの目に、空間を縦に裂く光が飛び込んでくる。
光から現れたのは、一本の槍。それは、直視できないほどの輝きにあふれていた。
手を伸ばすことすらはばかられるそれ。しかし、カミーユはそれを掴まんと手を伸ばす。
カミーユの腕だけではなかった。見覚えのある誰かの腕が、カミーユの腕が前に進むたびに増えていく。

ベガさん、クワトロ大尉、中尉、ブンドル、大尉。




俺は――――


◆ ■ ◆




度重なるMEPE現象の結果、その全身に付着した塗料がはがれていく。
金属箔の上に張られた塗装が、めくりあがり、消えていく。
放出しきらない熱が、機体の表面を焼く。
コクピットのある青い胸部や関節などの耐熱性が高い部分は黒に。
白かったはずのボディはくすんだ銀色になったのち、熱で赤へ。
フェイスオープンの排熱のため、額の金色のセンサーのみが塗料を残していた。
かつての騎士を思わせたF-91の姿はない。
淀んだ赤と黒を身につけ、歪む深紅の蜃気楼を纏う姿は悪魔〈ヴァサーゴ〉。


サイバスターの全身が聖なる光輝に包まれる。
染みわたるように周囲に広がる緑色が、周囲ごと聖別する。
これは、儀式。真実と共に戦う戦士を受け入れるための必要事項。
サイバスターの周囲を風が纏う。全身についた砂埃がはがれ、純白を取り戻す。
精霊光、バタイルウェイブ、人の心――その全て、本質は同じ。
大空を悠然と舞う四つの属性〈エレメンタル〉の一つを統べるもの。
右手に剣を携え、左に魔王を討ち貫くための槍を構え。
自ら光を放ち、闇の中導くは、真・魔装機神、サイバスター。



深紅と緑の光が空に浮かび上がる。
目の前には、蒼い魔王。恐れも怯えも気負いも捨てて、今、再び『戦い』が始まる。


◆ ■ ◆


個では――不完全。


群にて――完全。


我もまた、個であるかぎり不完全。


人間は、完全の欠片。


――『機』の肉体――白き魔星――不要

――『人』の肉体――完全の一部――必要。

観測し、確保し、理解した完全の欠片。

最も完全に近い欠片に我は宿る。

それに数多の欠片の力を加え、完全に至る。

個でありながらも完全に至る道。


我は、得た。


完全に近い覚醒者の力を。


さらなる完全への跳躍。




―――理解不能。

―――理解不能。



―――何故だ?

これらは、完全に遠い欠片。


何故我は――完全から遠いはずの欠片に敗れようとしている?





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