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Alchimie , The Other Me ◆XrXin1oFz6




―――ノイ・レジセイアには、目的がある。

当然のことだ。
何か目的がなければ、ノイ・レジセイアもこんなことはしない。
彼の心は一度も揺れていない。ただ愚直なまでに目的に邁進し続けている。
だが彼の行動、彼の言葉。その全てに一貫性を感じることはできるだろうか?


――なぜか、アインストを外れた人間に近いアルフィミィを作り出し、

―――なぜか、最初から参加者に加わらずキョウスケに憑依と言う手段をとり、

――――なぜか、アルフィミィにろくな指示を伝えず、

―――――なぜか、用意されたネビーイームと融合を拒否し、

――――――なぜか、インベーダーの排撃を命じながらも空間の穴を補修しない。


どれもが同一の意思の元に動いているようには見えない。矛盾すらはらんでいるようにも見える。


以前と同じアインストに近しいアルフィミィを作り出したほうが連絡などは楽に取れる。
参加するのなら、最初から憑依した駒を用意しておけばよかった。
儀式を成功させたいならアルフィミィとは密に連絡を出すほうがいい。
強い体が欲しいならネビーイームは最高の素材だ。
インベーダーが邪魔なら空間の穴ごとシャットアウトするのがベストだ。


もっといい方法がいくらでもあったにも関わらず、
何故このような行動をノイ・レジセイアは取らなければならなかったか。


殺し合いは最終局面を迎えようとしている。
そしてノイ・レジセイアもここに至り盤上に登る時がきた。
幻覚を見せ、思念を送るだけでその本体を見せることのなかったノイ・レジセイア。
それが今、覚醒を迎えていた。


――まだ……遠い……――

遥か昔にあった銀河での戦い。
その時より失った力と肉体は、いまだノイ・レジセイアに帰還を果たしていない。
失ったまま動けずにいた膨大な時間は、彼の体に化石化を起こさせ、身体の自由をさらに奪った。
ネビーイーム内にその肉体は安置されたまま、身動きすら出来ずにいる。
それでもなお、力を失わなかった胸の中心の赤い球体に、罅が入る。
内側から砕けるがごとく広がる亀裂に、ノイ・レジセイアは苛まれ苦しむ。

――何故だ……何故――

儀式を繰り返すことなどできない。
これ一界/回で成功させねばならない状況だというのに、理想に至る方法の一本はとん挫した。
ついに明かされる、彼の望みはたった一つ。自分が完全な生命に生まれ変わり、その上でかつての力を取り戻すことだ。
かつての力を取り戻すだけでは駄目だ。それでは宇宙を新生することはできても、完全にすることはできない。
今のノイ・レジセイアでは完全なる世界を生み出せなかったのは、MUの内側を垣間見た時から理解した。
白き魔星の眼下に広がる、茶褐色から白の中間色を幾層にも重ねたような柄をしたもう一つの球体。
東京ジュピターに似た『箱庭』は、かつて彼がラーゼフォンに撃破されたMUの力のかけらを手にした結果生まれたものだ。
ラーゼフォンもその時回収したものだ。ラーゼフォンの行動が空間に大きな影響を与えたのも当然だろう。

MUとは、 平行宇宙という概念の外側にいる存在。
何万もの平行宇宙を覆い、それらの宇宙をレンズ状の隔離空間に歪める。
そうやって時間軸そのものを捻じ曲げ、各々の宇宙にループ現象を引き起こした。
ラーゼフォンのいる平行宇宙を自身の中に閉じ込める、そのためだけに。
無限に連なるはずの平行世界の一部を覆うことで平行世界を平行で無くしたのだ。
結果、生まれたのが東京ジュピターとも呼ばれる空間。
ノイ・レジセイアはこれを応用して会場を作りあげた。

願いをかなえるという言葉も、この力から出たものだ。
つまりは、願いが全て叶った並行世界を探し出し放り込んでやる。
それが彼の言った願いを叶えるという言葉の真実だった。
事実、ノイ・レジセイアは優勝者の願いを叶えるつもりだった。どんな願いでもかまわない。
彼からすれば完全な宇宙さえできれば人間一人の未来や世界などはあまり興味ないのだ。
人間とは、複数集まりお互いを補い合った時、より完全な生命すら超越するさらに完全な存在になりうる。
それを彼は銀河の戦いを経て、並行世界を見た結果理解した。
だから、最後に残った一人きりは観測する必要もない。

だが、ノイ・レジセイアとMUでは根本的に違いが一点あった。
欠片は小さく、並行世界をゆがめ、時間軸を束ねることはできても、ループを繰り返させるだけの力がなかった。
言い換えるなら彼の力では歪んだ世界から並行世界の住人を呼べても、それを繰り返せない。
故に、この『儀式』もこれ一回。

MUの力の一部を得てからは、探求の旅だった。
人間とは何か。人間が完全になる状態は何か。そして自分が完全になるためには何が足りないか。
彼はその力を使い数多の世界を思念だけになりながらも見続けた。
戦争も、平和も、時に人の中に混ざりながら渡り歩いた。
人間は一人一人が違いすぎる。同じ人間という種なのに個々の違いが甚だしい。
種族全体を統一する意識もなければ、共通の意識野も持たない。
だが、それがいい。それが結果として完全へ繋がっている。
かつては宇宙を乱すと人間は排除すべきと思っていたが、今の彼はそれほど人間が嫌いではない。
選定のため、必要なので殺すだけだ。



そうして旅した結論――人間とは極限に追い込まれた時こそ真実が見える。

それが良いほうに転ぶとは限らない。むしろ、悪意が噴き出すことも多かった。
だが、それも含め人間。問題はその中でどれが完全に必要か、だ。
そのために、意図的に不純物の混ざらない『箱庭』に極限状態を生み出し人間を放り込んだ。
これこそが今回の儀式、『バトルロワイアル』の全貌である。



――なぜか、アインストを外れた人間に近いアルフィミィを作り出し、


今回生まれたアルフィミィこそ、まさに彼の試行錯誤の象徴だ。
彼は、自分が世界を見た段階で、完全に至る人間が作れるのではないかと自惚れた。
そのさい制作された人間が、今回のアルフィミィ。
アインストから遠い――そして人間に近い。明確に理由があってそうなったのだ。

彼の行動に無駄はない。



―――なぜか、最初から参加者に加わらずキョウスケに憑依と言う手段をとり、


最初から手を加えるのでは以前と同じ結果だ。だから、4割を切るまで彼は手を出さず傍観した。
そしてそこで残った人間を見比べ、完全に近いものを選定した。
あの段階では、キョウスケが最適だったのだ。憑依するのに都合のいい状態になったのも忘れてはならない。
そして、キョウスケをベースに完全に足らないものを補充して完全になろうとした。
アムロの力を吸収し、ニュータイプ能力を手に入れたのもそのためだ。

彼の行動に無駄はない。


―――――なぜか、用意されたネビーイームと融合を拒否し、

ネビーイームでは単純な力を増大させるだけだ。
自分という存在の本質が変わらない以上、何の意味もない。
むしろ、余計な不純物を混入させてしまうという意味では害悪ですらある。
だから頑なにネビーイームを彼は拒否したのだ。

彼の行動に無駄はない。



――――――なぜか、インベーダーの排撃を命じながらも空間の穴を補修しない。


インベーダーは自分と同じ閉鎖空間の異物だ。
自分のように一参加者としてならまだしも、全体の影響が大きすぎる。
しかし、迂闊に次元の穴は修復できない。ただでさえ彼自身の力は限界でループを作ることすら難しいのだ。
アルフィミィが作業に当たるとは言っても使われる力は彼のもの。
これ以上擦り減らせば最後までもたない恐れがあった。だから隠ぺいだけにした。
己の眷属――クノッヘン、ゲミュート、グリードを生み出すことすら満足にできない。
できるのなら、禁止エリアに出てきた瞬間、インベーダーを超える眷属を送り影響を遮断できた。

彼の行動に無駄はない。


だというのに――失敗した。
手を尽くし、考えられるだけの知恵をめぐらせやってきた。
自分に落ち度はない。それでも失敗するのか。

その考えをノイ・レジセイアは即座に否定する。
これは自分が完全でないがために招いた出来事だ。完全であればこのようなことは起こらない。
自分が不完全であったため、シャギア・フロストやカミーユ・ビダンの進化――つまり完全への跳躍を把握できなかった。
それが結果としてこういう結末を招いた。


――おお……おおおおお……――


失敗の結果は、己が身に跳ね返る。
完全へ至る進化のため、力の多くや意識を割り振り、同調した結果が自分の身へと跳ね返りつつある。
今の彼の体は急速に滅びに向かっている。おそらく、あと残りの命は数十分だろう。

彼の意識が、苦しみながらも一人の名を呼ぶ。
自分が生み出した眷属でありながら、アインストではない一人の少女の名を。
アルフィミィ、とひたすらに呼び続ける。
手足のように扱える眷属へ、思念の触手を世界全てに伸ばし叫ぶ。

白い魔星が振動する。
その振動に合わせ、あるものが空間を超えてノイ・レジセイアの前に現出する。
それは、ほとんどノイ・レジセイアと同じ状況だった。
化石化し動くことは叶わず、人に近い体系のため存在する長い手足を子供のように丸めた赤と白のそれ。
レジセイアは、それの名をもう一度呼ぶ。

――アルフィ……ミィ……――

かつては、己が手足としか考えず名前など識別していなかった。
しかし自分にあろうことか造反し、人間の味方をした唯一のアインスト。
人間へ探求、その最初期で生まれた命。
彼女は、銀河の決戦の最中、アインストを裏切り、『自我』と言うべきものを持ち彼に反逆した。
その当時、彼はその行動が不純であると考えながらも、その不可思議な行動からあえて殺さなかった。
その後の旅の中、彼女の行動を思い出し、それこそが完全に至る鍵だと彼は気付いた。
ある意味、彼女の反逆がなければノイ・レジセイアはここまで人間を考察しなかっただろう。



つまり、ある種の始まりとも言える少女。それが、この『古い』アルフィミィだった。


彼女がいなければ、ノイ・レジセイアは不毛な砂漠の中から砂金を取り出すような真実の旅を始めなかった。

そもそも、『新しい』アルフィミィも、アルフィミィである――
つまりアルフィミィをアルフィミィであるとたらしめる因子を持っているからこそあの姿をしているが、
その因子も突然何もないところから生まれるわけではない。
大元のエクセレン・ブロウニングの因子を使い生まれた最初の『古い』アルフィミィ。
そしてその一番目の『古い』アルフィミィを使い、作られた二番目の『新しい』アルフィミィ。
『二番目』を正確に作れる以上、『一番目』が正確な詳細記録を取れる状況にあるのは当然。
つまり、消えておらずノイ・レジセイアの側にあったのだ。

『お久しぶり……ですの……』

化石化し、くすみ、光を失ったペルゼイン・リヒカイトから思念が聞こえてくる。
『古い』アルフィミィの思念は、確かに笑っていた。ノイ・レジセイアの様子をあざけ笑うのではなく、純粋に子供らしい笑みで。
世間話でもするように、ノイ・レジセイアに『古い』アルフィミィは話かけてきた。

『その様子だと……やっぱり失敗したんですの?』
――確かに……間違いがあった……まだ……完全でない……故に……だが……何故……――
『まだ、分からないんですの?』

やれやれとため息をつく様子がノイ・レジセイアに伝わってくる。

――何故……失敗する……それが……何故……分かる……――
『簡単ですの。借り物で全部済ませるなんてせこいことしてるからですの』
――借り……物……?――

彼は人間ではない。故に、人間の力を手にすることはできない。
それに、人間は完全のかけらと言えど、不完全な部分も多い。必要なのは完全な部分だけだ。
人間より総合的には完全に近い彼に、人間の垣間見せる完全を張り合わせ、不完全を埋める。
ピースの欠けたパズルに、必要な分のビースをさがし残った部分にあてはめるようなもの。
全体としての『ノイ・レジセイア』という絵は変わらない。
この方法に間違いはないはず。なのに、何故目の前のこれは自分を否定する。

『本当に分かってないのですの? 鈍いにもほどがありますの』

今の『古い』アルフィミィはアインストから外れた存在。ノイ・レジセイアに対しての敬意などまるでない。
まるで友人に話しかけるような気軽さで、ノイ・レジセイアに声をかける。

『もうちょっと、みんなで一緒になってみるですの。
 みんなが頑張るところを、独りで見ててどうするですの?
 それを知らないで、どうにかできるはずがないですの』

彼は人間ではない。故に、人間の輪に入ることなどできるはずもない。
故に、その輪を外部から観察し、内情などを客観的には理解できても、主観としては分からない。
それは、仕方がないことだ。それが、失敗だというのか。

――何故……何故だ……――
『なんでもすぐいるいらないで考えて、いらない部分は見ないあなたじゃ一生わかりませんの。
 そんなあなたより、よっぽどあのわたしのほうがきっと分かってるんじゃないですの?』
――あの……アルフィミィは……失敗……――

確かに肉体的には人間に近しい。が、完全のかけらである精神面の発露はこの初代に遥かに劣る。
あまりにも機械的で、思念波の影響は薄くても盲目的に自分に従い動いている。
より人間に近い肉体に、人間に近い心が宿る――それは間違いだった。
だからこそ、人間でないにもかかわらずに人間に近い心を持つ存在を儀式に招いた。
それが、ノイ・レジセイアのはじき出した結論。

『そうは思わず、試しに見てみるですの。女子一日あわざれば克目してみよ、ですの』
――…………――

ノイ・レジセイアはその言葉を疑いながらも『新しい』アルフィミィへ思念を潜り込ませる。



―――「どうしましたの?」

返ってきた思念、状態、表情をノイ・レジセイアは見る。
今、あの『新しい』アルフィミィが浮かべている表情は、不安。そして焦り。
その表情に、ノイ・レジセイアは驚きを感じた。もしも彼が人間ならば、大きく静かにうなずいていたかもしれない。
手を尽くしたが所詮人間でない。精神的にはアインストの遠い亜種に過ぎないはずの、『新しい』アルフィミィが感情をあらわにしている。
こういった感情は昨日まで『新しい』アルフィミィではほとんど見られなかった。
これは、『新しい』アルフィミィがグラキエースなどと同じく肉体だけでなく精神的にも人間に近付いていることを示している。
アインストも、人間に――完全の欠片に近付けるという証明に他ならない。
昨日までは、このような感情や表情を表すことはなかった。初代より無機質な印象だった。
だというのに……超濃密とはいえ一日、人間の行いから発生する感情を受け止めるだけでここまで変わるのか。
レジセイアも、『新しい』アルフィミィが受信した情報で、『完全に至る』に必要と思われる部分だけは取り寄せていた。
だが、その全てを受け止めるだけでこれほど感情豊かに人形が、人間に近づくのか。

アインストでしかないヒトモドキが人間へ。不完全な自分が完全に至るのも、よく似ている。
彼の行い、研究の一種が正しかったという一種の発露だ。
自分の活動が間違っていなかったという証明物は、彼にはまぶしかった。

おそらく、ここまで自分から遠く離れた存在である『新しい』アルフィミィなら、自分が消滅しても連鎖的に滅びることはない。
自分の思念波を受けにくく、種として離れればそういう現象はおそらく起こらない。
ノイ・レジセイアは心底惜しいと思った。
できるなら、この『儀式』の観測と、並列して『新しい』アルフィミィの今までの変化とこれからの変化も見たかった。

しかし、それはできない。
彼には、時間がない。

『新しい』アルフィミィが、自分に死ぬなとかそういう趣旨のことを告げていた。
他者を気遣うことができる。そしてその感情が自分に向いている。


本当に、惜しい。


レジセイアの顔が、砕けていく。
化石化した手足はボロボロと欠片となり硬質な金属の床に落ち、煙となって消える。
自重に耐えかねたように落下していく体。

一つだけ、説明していない要素があった。

――――なぜか、アルフィミィにろくな指示を伝えず、

これの、答え。
『新しい』アルフィミィは、別にいてもいなくてもよかった。
放送など適当に自分がやれば十分だった。首輪の管理などは自分がやればより盤石だろう。
だが、わざわざこの作ったアルフィミィをこの『儀式』に使ったか。
『箱庭』では、多くの人間が死んでいった。
だが、その中でも細部に分かるまでその感情の機微をアルフィミィが認識でき、彼女の変化を流した者がいた。
その者の名は、グラキエース。元ではあるが破滅の王ペルフェクティオに仕えていた女性だ。

――破滅の王ペルフェクティオ、彼が姿を現す前触れというのならまだ分かる。
――用意された小さな空間に呼び寄せ、崩壊していく空間ごと彼の者を取り込むことによってツンクーフトへの階段を登る。

思い出してほしい。これは、かつて『新しい』アルフィミィがデータウェポンの流出したさい、考えたことだ。
だが、よく考えてもらおう、
宇宙の創造を司る存在であるノイ・レジセイアと、宇宙の無差別な破壊者であるペルフェクティオが相容れるか。
答えは絶対にノー。水と油よりも差がある両者は、決して入り混じることはない。
両者の力を混ぜるには、緩衝材がいる。そのために、いやその目的のためにも『新しい』アルフィミィは必要だった。

アルフィミィは、人間を目指して作られたが、
同時にアインストから切り離し人間に近付けるかを実験するにあたり、
さまざまな因子を埋め込まれていた。

例えば、それはメリオルエッセ。あるいはゲッター線被爆者。
研究して学んだ人間と言うものに加えてそういった要素を既存のアインストに混ぜたからこそ、
今の『新しい』アルフィミィは逆に人間に近い。

もうはっきり言ってしまおう。『新しい』アルフィミィはスペアだ。
別に、いてもいなくてもいい存在。むしろ、もしものことを考えれば下手に戦場などに出てほしくない。
だから、あえて行動しないように極力放置していた。

もしもペルフェクティオの力が流入すれば、アルフィミィにその力を注入し、
もしもゲッター線で進化が起これば、アルフィミィにそれをあびせ、
もしもノイ・レジセイアが死に瀕すれば、その力をアルフィミィの体に移し、
ノイ・レジセイアはアルフィミィの体を乗っ取ることでそれを手にする。
もしもの時の、自分のもう一つの肉体。ある意味使い捨て。知らなかったのは当のアルフィミィだけだ。



だが、この『新しい』アルフィミィを今スペアに使っていいのか。
せっかく動き出したこれを捨てるのは、あまりにも惜しい。

芸術家が、自分の生み出した傑作を壊すのをよしとしないように。
親が、子が死ぬのを許容しないように。
ノイ・レジセイアは気付かなくても、彼の心にはそれに近い感情が生まれていた。

――このまま……朽ちようと……思念だけとなろうと……まだ……再び……――

MUの欠片に残った最後の力を振り絞ってでも、
並行世界群の中の、アインストの支配を受けない上位アインストに宿り、再びやり直してみせる。
ここまでは、成功した。次は、必ず完全に至る。そのためなら、今回の儀式も十分に価値があった。
MUのかけらを再び回収し、この『最初の』アルフィミィさえ確保し続けることができれば、
ここで肉体が滅び、ほぼすべてを失っても―――



―――いや。




その時、ノイ・レジセイアに別の考えが頭によぎった。
『新しい』アルフィミィは、今や『古い』アルフィミィに匹敵する成長を見せている。
しかも、自分に対して非常に従順な状態で。
記録をほぼすべて回収した『古い』アルフィミィは基礎。しかし、今それの上位種が――

『どうせ、また繰り返すつもりですの? それじゃ何度やっても同じですの』
――……我は……消えず――

崩れていく体の奥、最後まで化石化しなかった僅かな部分が触腕となって伸びる。
ゆっくりと、深くペルゼイン・リヒカイトに接続されたそれが、一度だけ震えた。

『ノイ・レジセイア。わたしと一つになりたい?ですの』
――そう……だ……仮に……アインストに外れ……人に寄るとも……今は……―――
『こうしなければ、わたしは消える。あなたは同じ失敗を繰り返す。何の意味もありませんの』

アルフィミィから流れ込んでくるのは、拒否の思念ではなかった。
ノイ・レジセイアはアルフィミィの感情が理解できない。アルフィミィは、独立した自我を持っている。
生命はよほどの孤独がない限り、精神の完全な同調はできないし、拒否する傾向にある。
まして、強い意識と自我を持っているアルフィミィならなおさらだ。

――都合が……いい……だが……何故……理解不能……お前が消えることに……変わりは――
『昔のあなたなら、即座にスペアのあのわたしを使ったはずですの。けど、それをしなかった。
 あなたも、きっと分かり始めてるですの。全部、見えないけれど変わってますの』
――何を……言っている……? 理解不能……何故……?――
『部の悪い賭けは嫌いじゃない、ですの。今なら、そこまで分が悪いとも……ま、人間になればわかりますの』

ノイ・レジセイアは少し考えた後、吸収を実行する。
今のアルフィミィの進化と、会場の観測のやり残し。もしも別世界に転生した際のデメリット。
これらを考えれば、受ける以外の選択肢はない。

悪影響を『古い』アルフィミィが『新しい』アルフィミィに与えぬように、
『古い』アルフィミィに関して、『新しい』アルフィミィには一切の情報を与えてない。
一人目がいるということをおぼろげに知っているだけだ。
今のこちらの状況を察し、『新しい』アルフィミィはこちらに向かっている。
『新しい』アルフィミィが『古い』アルフィミィに気付く前に、済ませてしまわなければならない。


そこで温かい笑みをアルフィミィは浮かべた。
子供でありながら、その笑顔は幼い子供の手を引く母親の温かさがあった。
何故とノイ・レジセイアが問い返す暇もなかった。消えていくアルフィミィの意識。
それとともに、ノイ・レジセイアに流れ込むのはアルフィミィの記憶、思念。
遥か彼方過去の戦いの記憶が、次々ノイ・レジセイアにも浮かび、消えていく。
しかし、いくら探しても何故アルフィミィがこんな決断をしたのかは見えてこなかった。

ノイ・レジセイアの赤い核が光となる。
それに伴い、胎動する赤い光が触手からアルフィミィに流れ込んでいく。
それが、『アルフィミィ』の最期の言葉になった。
周囲に、赤い光が漏れる。そして―――――――――――










自分を認識することから、全ては始まる。
陶磁器のような白く透き通った腕。一切無駄な肉のついてない肉体。
猫のようにぱっちりと開いており、少しツリ目だが大きなアイスブルーの瞳。
人間とは思えないほど整っており、それでいてどこか幼い顔立ち。
ほとんど凹凸のない素晴らしい体型だが、臀部や胸部は性別を示す小さく柔らかいふくらみがあった。
足もとに映っている自分の顔を隠す、床まで届く蒼いストレートヘアを足でどける。
あまりに邪魔な量の髪に、すこし考えた後、手に光の輪を作り、髪を後ろに束ねた。
馬の尾のように垂れる形に髪がまとまり、邪魔にならなくなる。
光沢ある金属の床に映る自分の新しい顔を、『彼女』は凝視し、小さく驚きを顔に浮かべた。
グラキエースをそのまま小さくし、エクセレン・ブロウニングの髪型を合わせたような、その姿。
『彼女』の名はノイ・レジセイア。
もっとも、アインストに生別と言う概念はない以上、憑依した対象の生別に依存して決定しているだけだが。

「これが……表情か……」

キョウスケの体のときは、鏡など見ることがなかった。
故に、自分に表情があったことなど認識することがなかった。

彼女は、あちらのアルフィミィにも観測後、色々な因子を埋め込み、『あの』アルフィミィを作るテストをしていた。
今の彼女の姿は、その中でもグラキエースの因子が表層化した結果だろう。

ネビーイームが再度振動する。
ノイ・レジセイアが安置されていた場所の側の地面を割り、中から巨体がせり上がる。
それは、二つの顔を持つ暴走したガンダム。デビルガンダムだった。
その胸部の装甲が開き、中から小柄な少女が現れた。

「アルフィミィ……」

個体を識別し、既存のアインストとは違うことを認識。
故に名前が必要。故に名前を呼ぶ。当然の出来事。
しかし、

「はいですの……! ……え? 今、私の名前を……」

今のアルフィミィの行動からふと思い出す。
このアルフィミィの名前を、自分が呼んだことがなかったことに。
アルフィミィは姿形が変わっても、自分がノイ・レジセイアであることは理解しているようだ。
当然と言えば当然だろう。質は多少変化しても、力は何も変わっていないのだから。
個体を識別され、そのことに喜びを見出す。アインストには分からない概念だった。

「アルフィミィ……新しい……機の……器を……」

力が足りない。
『過去の』アルフィミィに力を降魔した結果、思念などはともかく肉体による戦闘能力は大幅に低下している。
必要なのは、鋼鉄の孤狼にも匹敵する機体だ。ちょうど、集めた中に見せしめのため渡していない機体があるはず。

名は――ダイゼンガーと言ったか。

思念に変え、そのむねをアルフィミィに送る。
しかし、アルフィミィは答えを返さず、コクピットの外でおろおろするばかりだった。
視線をせわしなく動かしている。完全な群体アインストとして生きてきたノイ・レジセイアには理解できない行動だ。

「ええと……その……」
「ダイゼンガーは………?」
「ちょっと……いろいろあって……その……ちょっと今はないですの」

指先を合わせていじりながらうつむき加減でアルフィミィは答えた。
ノイ・レジセイアは首を横にかしげた。
一つ補足すると本人は横にかしげたつもりもない。というか感情が自分の表情や行動にでることすら理解してない。

アルフィミィが、ぽつぽつと話しはじめる。
次元の狭間に飛び込んだガウルンに、首輪を爆破するのも問題なので、
機体を与えあのインベーダーを駆逐する約束を結んだことを。
そのせいで、ダイゼンガーがないことを。

「そういうわけで……ないんですの」

アルフィミィの表情を観察する。
これが、罪の意識とその緩和の方法か。
失敗したことを他者へ恥ずかしいと思うのも、人間の特徴だろう。

「……仕方ない……問題……なし……」

この行動が、アルフィミィの精神面で新しい影響を与えたというのなら、けして悪いものではないだろう。
運よく、今の自分には機体の代わりになるものが用意されている。

ノイ・レジセイアが意識を集中させる。
送り先は、自分のそばにある、赤いかつてアインストだったモノ。

ドクン―― ノイ・レジセイアが意識を送ると、それは再び力を手に入れ、脈動し始めた。
ドクン―― 二つの仮面が体から剥がれ、宙に浮く。
ドクン―― 仮面と骨を組み合わせた四肢が澄んだ光を放つ。
ドクン―― その場に残った抜けがら――ペルゼイン・リヒカイトが立ち上がる。

「強化を」
「え、あ、はいですの!」

アルフィミィが手を振ると、アルトアイゼンをかつて呑み込んだように、
ペルゼイン・リヒカイトが底無し沼のような“闇”に呑み込まれていく。
この出来事から分かるように、ネビーイームはほぼ全域デビルガンダム細胞にむしばまれており、その管理下にある。
あの時アルトを飲み込みDG細胞を施したのは、これなのだ。
数秒後、DG細胞で強化されたペルゼイン・リヒカイトが吐き出された。
その蒼白な色をしたペルゼイン・リヒカイトを確認し、ノイ・レジセイアは頷いた。
これなら、そうそう負けることはない。
レジセイアが蒼い球体になったと思うと、ペルゼイン・リヒカイトの胸にある球体と融合する。
これで、乗換は完了だ。

乗り心地や性能にひとまず満足をノイ・レジセイアは覚える。
そして、ペルゼイン・リヒカイトの腕を振る。バチバチと火花がはじけ、空間に広がっていく。

「干渉……不能……?」

あの世界に、自分が倒れた結果溢れた力をこちらに移そうとする。
しかし、原因不明の何かが、あの空間に作用し、自分の思念を跳ね返している。
彼女の脳裏に投影されるのは、いまだあの世界で戦う12人の人間の姿だった。
誰もが、思い思いに願い、戦い、もがいている。
そうやって消えて行った人間たちの思念が、ノイ・レジセイアの干渉をいまや封じているのか。

だが、なら別の方向を考えよう。
空間に力が満ちていることを、別の何かに使えばいい。
この力を利用して環境をインベーダーだけが朽ちるように設定すればインベーダーを駆逐できるかもしれない。
どうしようかと考えた後、彼女はそれを実行した。インベーダーが実験の妨げになるのもある。
自分の意思を跳ね返すまで様々な人々の想いが、あそこに充満している。
ここまでくれば決着は参加者だけで付けさせるべきだと思うところがあった。
インベーダーの駆除は、そのささやかな手伝いだ。


――そうでなければ、報われない。



それは、彼女自身も認識できない意識の外にあるものだった。
だが、なんとなくノイ・レジセイアはそう思ったのだ。
ノイ・レジセイアは、アルフィミィに今後会場への干渉は一切しないことを告げる。
アルフィミィも、相変わらず妙にカチコチな敬礼とともに返事を返した。

そう言えば、最期まで説明できなかった彼女の行動が一つだけあるが、これはそのせいだろうか。
「究極ゥゥッ……!ゲシュペンストォッ! キィィィィィィィィィィィックッ!!」とお約束を叫んだ理由だ。
人間の行動を真似る理由はどこにもないし、お約束に従う意味も薄い。それでも彼女は何となくやってみた。
もしかしたら歪んではいれど、彼女は彼女自身が思うよりも人間が好きだし、興味があるのかもしれない。



【ノイ・レジセイア  搭乗機体:ペルゼイン・リヒカイト(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 DG細胞感染中
 現在位置:ネビーイーム
 第一行動方針:バトルロワイアルの進行。そのためなら殺しも辞さないが、意味もなく殺すつもりもない。
 第二行動方針:アルフィミィの観察。
 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂。優勝者の願いはどんなものでもいくらでも叶える】

【アルフィミィ  搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:ネビーイーム
 第一行動方針:バトルロワイアルの進行
 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】

【二日目20:30】






あなたの渇きを癒せない。
真実を欲するあなたがそれを認めないから。

あなたの渇きを癒せない。
あなたの期待する真実が存在しないから。

それでもあなたの渇きを癒したい。
あなたを砂漠に放り出したのは私なのだから。


             ――■ルフ■ミィ




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第三回放送 アルフィミィ 竜が如く


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