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2nd Ignition ◆VvWRRU0SzU


Jアークが見えた。
真紅のカーテンが舞う空の下、白亜の艦は市街地の中心へとゆっくり進んで来る。
ユーゼスはメディウス・ロクス――ゼストを止め、Jアークの正面へと位置を調整した。
既にJアークから他の機体が発進している。いつでも戦闘に移れる体勢だ。
アキトは後方で待機させている。名簿により生存は知られているだろうが、わざわざ帯同させて奇襲の機を逃すのも馬鹿らしい。
発進した機体は三機。サイバスター、青い小型機、ネゴシネイターの乗る陸戦機。
ユーゼスが知っているだけでも他にストレーガとバルキリーがいたはずだが、その機影はない。
アキトと同じように、艦内に待機させておいて状況次第で対応させるという事だろうか。
まあどちらでも構わないと、ユーゼスは鼻で笑って通信を開く。

「Jアーク、こちらはユーゼス。約束の時間だ」
「こちらはJアーク、キラ・ヤマトです。あなた一人ですか?』
「そうだ。私が誰かと徒党を組んでいると思ったかね?」
「ブラックゲッター……あれに乗っていたテンカワ・アキトと言う人は放送では呼ばれなかった。
 あなたの話ではブラックゲッターを自爆させてインベーダーを排除するという話でしたね。では、アキトと言う人が呼ばれなければおかしいでしょう」
「ふむ、道理だ。それについては謝罪させてもらおう。君達と別れた後すぐ、奴は逃げ出したのだよ。
 私は群がってきたインベーダーに対処していてまんまと逃してしまった訳だ」
「では、彼は今あなたと行動を共にしていないと?」

割り込んできたのはMr.ネゴシエイター。キラという少年とこの交渉人がJアークの折衝役という事か。
目を細め、サイバスターを観察する。
数時間前に接触した時とは明らかに違う。サイバスターから確固とした意志を、荘厳なまでの念を感じる。
ブンドル以外の相応しい乗り手を得たという事だろう。
そしてこの感覚、おそらくは……

(カミーユ・ビダン。チッ、小虫と思って見逃したのが仇になったか。奴のプラーナならサイバスターの力を十二分に引き出せる――厄介だな)

ラプラスデモンコンピュータを有するサイバスターに、感応力に優れたカミーユが乗る。
因果を操作するとまではいかなくとも、少年の鋭敏な感覚を何倍にも増幅する事は間違いない。
内心の苛立ちを噛み殺し、顔にはまったくその色を出さずにユーゼスはロジャーに返答する。

「そうだ。あの一帯は磁場や探査粒子が混沌としてどこへ行ったかすら定かではなく、追うにも追えなかった。
 が、あの損傷だ。生きていたところで何をする事もできまい。放っておけば野垂れ死ぬだろうさ」

もちろんそのブラックゲッターを修復した事など言う気はない。
アキトは今もこの会談を遠くから監視している。ユーゼスからの合図があれば全速で飛び込んで来るはずだ。

「では他に仲間はいるか? と言っても、生き残っていてここにいないのはあなたも知っているガウルンという男、紫雲統夜という少年、フェステニア・ミューズという少女だが」
「いや、私に仲間はいない。ガウルンなど、どうやって生き残ったのかは知らぬが剣を交えた相手だ。手を組むはずはないだろう?」

これまた平然と嘘を吐く。どこまで信じるかは相手次第だが、ガウルンが主催者の下へ行ったなどという発想はまず出てこないだろう。
ガウルンと手を組み、統夜とテニアをも取り込み、お前達を狙っている。言わずともすぐに知れるのだ、彼らにとっては最悪の形で。

「情報交換はフェアに行うべきだな? こちらからも聞きたい。今発進していない機体があるようだが、私を警戒しての事かね?
 だとしたら残念だ。少なくとも私は君達と手を手を取り合うためにここに来たのだが」
「いや、私達はこれで全員だ。三時間ほど前に一戦交えてな、多くの仲間がそこで命を落とした」
「なんだと?」

ガウルン達が約束を守らずに先に仕掛けたのかと思ったが、それでは先の質問の意味がない。
仲間割れでもなければ、盤上に残る駒は一つだ。

「キョウスケ・ナンブ――か?」
「そうだ。奴の奇襲によって、アムロ・レイ、兜甲児、レオナルド・メディチ・ブンドル、熱気バサラ、ソシエ・ハイムを失った」

ロジャーの声色は沈んでいる。演技かどうかはユーゼスの目を以ってしても見抜けない。食えない男だ。
しかし真実だったとして、熱気バサラ。奴を確保できなかったのは痛い。
ナノマシンサンプルはアキトを使うしかなさそうだ。
だがそれ以上に、よくあの蒼いアルトを撃破できたものだ。正面から当たればこのゼストすら危うかったかもしれないのだから。
それとなくどうやって撃破したのか聞くと、

「俺が討ったんだ。ユーゼス、お前のおかげで変わってしまった中尉をな」

と、サイバスターのカミーユ。声は今にもこちらへ躍りかかって来るのではないかと思わせるほどに鋭い。
暴走するアインストの力を、仲間の力を借りたとはいえ上回る。
サイバスターへの警戒をさらに一段上げた。

「カミーユ、君は口を挟むな。……さてユーゼス氏。約束の件だが、このデータを見てくれ」

尚も言い募ろうとするカミーユを制し、ロジャーが切り出す。
転送されてきたデータはこのあたり一帯の空間を観測したもののようだ。
このD-3エリアの上空、天蓋に届こうかという高度に不自然な程巨大な重力場の歪みが発生している。
データを見るに、その歪みは数時間前から加速度的に広がっている。
時系列で見ると、インベーダーが発生した頃が特に顕著だ。
あの時、F-1には吸い寄せられるように様々な事象が連続して起こった。
熱気バサラとラーゼフォンによる空間構造への干渉。
小さく開いたその歪みから飛び出て来た電子の生命、データウェポン。
進化する異形、インベーダーの出現。
そして真ゲッターによる、ゲッター線の莫大な放出・消失。
ユーゼス自身空間の歪みに多少なりとも干渉したので他人事でもない。
とにかく、今や歪みは目視でも確認できるほどにその領土を広めている。
予測される限界点――空間の自己修復作用を超えるレベルの歪みの発生、即ちこの世界の崩壊までもう二時間もない。
思ったより猶予は少ないようだと歯噛みする。予定を更に前倒しで進めねばならない。

「確認した。あの空間の綻び――ヘブンズゲート、か。皮肉の利いた名だ――を突破するためには、高エネルギーの攻撃を複数ぶつけなければならないという事か」

空間の綻びが飽和を迎え世界が自壊する前に、こちらから指向性のある力を叩きつけ歪みのベクトルを短時間ながら外側へ向ける。
そのベクトルが形作る通路を通ってこの世界から脱出し主催者の元へ迫るには、ユーゼスが見てもたしかにこの方法しかない。
どこを破壊すればいいのかはわかった。次なる問題は、どうやって破壊するかだ。

「僕達が提供できる力は、サイバスター、Jアーク、騎士凰牙の三つです。確実を期するなら、同レベルの力があと二つ――いえ、三つは欲しい」
「それを私に期待する、という事かね?」
「ええ。あなたの機体が有する力は僕達のそれとは段違いだ。ナデシコのエンジンが発生させたエネルギーパターンもこちらで確認できます。
 どれだけの機体を取り込んだのかはわかりませんが、その機体なら不可能ではないはずです」
「ふむ……」

考えるに、この提案は是か非か。
と言ってみたところでどの道機体を戴くのだから、今戦うか後で戦うかの違いでしかないのだが。

もし提案を呑んだとして、ゲートは順当に突破できるはずだ。しかしその場合、ゼストも力の大半を出しつくす事になる。
彼らの機体を取り込む事も目標の一つである以上、抵抗を踏み潰せるだけの力もないほどに戦力を投げ捨てるのは得策ではない。
ネリ―ブレンと言うらしい青い小型機だけならアキトが苦もなく粉砕できるだろうが、その場合アキトですらも信用は置けない。
奴が動けなくなる30分を耐え凌げなければ意味がないのだ。
同様の理由でガウルンも危ない。ユーゼスが弱みを見せれば即座に噛み付いて来るのは想像に難くないのだ。
統夜とテニアは首輪の解除をちらつかせれば容易くこちらに転ぶだろうが、考えてみればガウルンと行動を共にしているのだ。
あの狡猾な男に何を吹き込まれてもおかしくはない。

翻って提案を蹴るとどうか。
向こうに必要な力が三つあるのなら、取り込むことができればゼスト一機でその条件は満たせると言える。
消耗した状態で戦うか、万全の状態で戦うか。もちろん選ぶとしたら後者だ。
敵方にもそれは同じ事が言えるが、こちらにはアキトとガウルンというカードがある。
ユーゼスが描くシナリオとして理想的なのは、いずれ噛みつくとわかっている手駒とJアークを潰し合わせ双方を弱らせる。
そして全てをゼストが取り込み、生き残るのはユーゼス一人――これがベスト。
統夜やテニアは万が一の保険として使ってやってもいいとは思う。あの二人に自分を出し抜く程の知恵はないだろうとユーゼスは評価していた。

主催者の下へ迫る方法を見つけてくれたのはいいが、こちらも失うものが大きすぎる。
彼らがキョウスケを排除してくれたのは僥倖だったかもしれない。あれに横槍を入れられてはいくらなんでも手に余る。
そして都合のいい事にユーゼスがあまり必要としていない機体、純戦力としてのストレーガやバルキリーを間引いてくれた。
Jアーク、サイバスター、ネリ―ブレン、そして騎士凰牙。
ネリ―ブレンと騎士凰牙の性能は把握している。
Jアークはおそらくユーゼスの知るヘルモーズ等の戦艦に比べても見劣りしない強力な艦なのだろうが、今のゼストにしてみれば図体が大きいだけの的だ。
唯一未知なる力を行使するサイバスターのみが脅威。ならばユーゼスはサイバスターに専念し、残りをアキトに処理させる――決まりだ。

「協力してもらえますか、ユーゼスさん」
「残念だがキラ・ヤマト、返答はNOだ。もし私が協力したとして、このゼストの力を使い切った後に君達に袋叩きにされてはたまらない。
 私が提供するのが三機分の戦力に加え苦労して解析した首輪のデータ、君達は戦力のみ――では、割に合わないのでな」
「ッ……ですが、あなたも主催者と戦うつもりなんでしょう!? だったら仲間は多い方が良いはずです! 僕達は裏切ったりなんかしません!」
「言っただろう、私に仲間などいないと。あれはな、仲間など『必要ない』という意味でもあるのだ」

言い捨て、ゼストを後退。
ナデシコより取り込んだ重力波砲。ゼスト内部で凝縮したエネルギーを砲身へ通し、チャージタイムなしに撃ち放った。
Jアークのやや前方で重力波は何かとぶつかり合い、激しく干渉し合い諸共に消え去る。
強力なバリアを持っているようだ。

「ユーゼス、貴様ッ!」

弾かれたようにサイバスターが――いや、鳥のような形に変形したサイバスターが迫る。
瞬く間に距離を詰め、交差する一瞬に切り返す。後に残るのは空を走る二条の軌跡、ミサイルだ。
ユーゼスはこれを回避も迎撃もせず、悠然とその巨体で受けた。
軽い衝撃。だが、ゼストの装甲にはいささかの損傷もない。

宙で旋回し再び人型となったサイバスターが降って来た。その手には剣と長大なライフル――たしかキョウスケが使っていたものだ――を携えている。
サイバスターから剣へと揺らめく炎のようなエネルギーが伝わり、刀身を包んだ。
ゼストの左腕を掲げエネルギーを集中。剣を受け止めた。

「その機体はお前如きには過ぎた玩具だ。私に譲ってもらおうか」
「抜かせ!」

力任せに剣を砕こうと――いや、砕けない。相転移エンジン以下11のエンジンが絞り出す圧倒的なパワーが、たった一機の機体と拮抗している。
サイバスターが全身から黄金の輝きが放った。

「おおおあああああああああああああああああッッ!」
「ぬうっ……!?」

気配が爆発したかのように膨れ上がり、可視化するほどに巨大な念がサイバスターを取り巻く。
サイバスターを中心として、風が――否、嵐が巻き起こる。

全方位からゼストを風が打ち付ける。ただの風ではない。魔力を織り込んだ――物質を削り取る、質量を持った鉄槌だ。
ゼストの巨体が揺れる。

(この力……! やはりサイバスターと完全に同調したか!)

AI1がサイバスターの予測出力を弾き出した。
ゼストの全力とまではいかないが、それでも並の機体の2~3倍は軽く超えている。

「チッ……生意気な!」
「我らを忘れないでもらいたいな!」

大地を疾駆してきた黒い機体、ネゴシエイターの駆る騎士凰牙が左腕を振り上げる。
先は隻腕だったくせに、今は両方の腕がある。
補修されたらしき左腕には蛇の頭を模したデータウェポンの鞭。右腕には鋭い棘の生えた見るからに原始的な武器――ハンマー。

凰牙は突進から急停止へ。下半身の力を全て上半身、更に腕へと集約し突き出してきた。
弾丸の如き勢いで射出された鞭とハンマー。
ハンマーを掌で受け、触手で鞭を迎撃する。
サイバスターと騎士凰牙がゼストへと張り付いている間、一瞬ネリ―ブレンから目を離した隙に小型機は消えた。
気付いた瞬間、ゼストの背部に反応。短距離転移。
振り下ろされた剣を、残る左腕の触手で切り払う。崩れた態勢をそのまま追撃。
ほぼ同サイズのクローアームとネリーブレン、しかし命中の手応えを得る前に再びブレンは掻き消えた。
かと思えば左下方、空白のポジションで剣、いや銃剣のような装備を構え、光弾を発射した。
被弾。損傷などないが、直撃弾を受けたという事実がユーゼスのプライドを痛く傷つける。

「貴様らぁっ!」
「こんなもんじゃない……この程度では済まさないぞ、ユーゼス!」

鍔競り合っていたサイバスターが一転、剣先を跳ね上げ頭部を狙う。巨体を反らし避ける。
広がった視界の向こう、艦首に位置する錨へとエネルギーを集約させるJアークが見えた。
その瞬間サイバスター、凰牙、ブレンがパッと離れる。
各部に振り分けていた力の行き所を失い、ゼストが一瞬間、停滞した。

「ジェイクォース!」

キラの声が響き、錨は不死鳥となってゼストへと突っ込んできた。
両腕を交差、不死鳥の頭を抑え留める。
だがさすがに戦闘艦の主砲だからか、ゼストを以ってしても一瞬では掻き消せない。
そこにサイバスターが再び風を放つ。
黄金の旋風を不死鳥の翼が捉まえて、一気に圧力が増す。

「ぐうう……舐めるなぁっ!」

突きだした腕はそのままに、ゼストの胸部中央から球体が飛び出る。
これぞゼスト始原の動力炉――TEエンジン。
今はそこに相転移エンジンや量子波動エンジン、核融合炉など十個のの動力炉が加わった超高出力のジェネレータ。
この莫大なエネルギーをそのまま砲弾として叩き付ける。高威力ゆえにエネルギーの消費も大きい。連発はできないが――

「身の程を思い知るがいい!」

発射。
解き放たれたそれは不死鳥を一瞬で呑み込み、その向こうのJアークへと一直線に突き進む。
回避運動を行いつつバリアを展開し受け止めようとするJアークだが、展開した瞬間に消滅した。
閃光の槍は間一髪で急速回避を終えたJアークの左舷を掠め、多大なダメージを与える。
だがまだ終わらない。Jアークを突き抜け彼方で炸裂すると思わせたそれは天へと急激に進路を変え、頂点へと達した時幾重にもその身を分かった。
光の雨となって地上に降り注ぐゼストのエネルギー。

「うわああっ!」
「くうっ……みんな、Jアークの下に隠れて!」

巨体を活かし、Jアークがバリアを上方へ展開し盾となる。
その下へと駆け込んだ凰牙とブレン――サイバスターがいない?

「余所見をするな、ユーゼス!」
「むっ!?」

光の雨の中を、それ以上のスピードでサイバスターが駆け抜けて来る。
剣を再び爪で受け、返す刀で斬りつける。だが機動性ではサイバスターが遥かに勝っていて、影を追う事すらできず空振りに終わった。
パワーと装甲に秀で広範囲の敵を殲滅する事に優れたゼストだが、この巨体が仇となって接近戦ではサイバスターのスピードについていくのが難しい。

「ユーゼス、覚悟!」

位置すら定かでないサイバスターからカミーユの声が聞こえる。決めに来る――

「――何ッ!?」

凄まじい衝突音がした。
しかしゼストに衝撃はなく、直撃を受けた訳ではない。
その原因はすぐにわかった。

「良いタイミングだ、テンカワ」

黒の鬼神。ブラックゲッターがそこにいた。

「もう少し見物していたかったのだがな。まさかこの数相手に押されているとは思わなかった」
「油断していたのは認めよう。だがサイバスターには気をつけろ。お前の機体にも引けを取らんぞ」

後詰めとして待機させておいたアキトが間に合った。
声の調子からするにユーゼスが追い詰められているとわかっていて、あえて手を出さなかったらしい。
腹立たしくはあるが、これで二対四。
Jアークの面々も体勢を立て直したようだ。並び立つゼストとブラックゲッターを攻めあぐねるように動かない。

「真ゲッター……ううん、違う! あの黒いゲッターだ!」
「アキト! 君なのか!?」

アイビスと言う少女に続いてロジャー。黒い真ゲッターのインパクトはそれほどでもなかったようだ。
まあ考えてみればこの面々は真ゲッターとの関わりは薄いから仕方ないのだが。
アキトは応えず、トマホークを一振りして機を窺っていたサイバスターへと斬りかかる。

「テンカワ……! やっぱり生きていたのか!」
「会うのは二度目だな。今度は逃がさない」

白と黒が交錯し、目にも止まらぬスピードで何度もぶつかり合っては離れていく。
ユーゼスの見る限りスピードではサイバスターが上だが、ブラックゲッターはパワーで勝っている。
その証拠にブラックゲッターの振るう斧をサイバスターは決して受けようとせず、高速を活かした一撃離脱戦法を行っていた。
とにかくこれでゼストを翻弄できる者はいなくなった。
30分。この数ならアキトの薬の持続時間以内に仕留められるだろう。改めてJアークへと向き直る。
未知のエネルギーで駆動するJアークを沈める訳にはいかない。あまり高出力の砲撃は行えないだろう。
騎士凰牙はデータウェポンを武器としている。破壊すれば元の動物の像を結ぶのかどうか。

「面倒な事だ。だが、それをやり遂げてこその私と言うものだ……!」

四肢に力を漲らせ、Jアークへ向かってゼストが飛ぶ。
迎え撃つはJアークと騎士凰牙、ネリーブレン。
ガウルン達が来る前に仕留めると、ユーゼスは操縦桿を握る手に力を込めた。

   □

「ああ、もう! 動け、動きなさいよこのデカブツ!」

操縦席――らしき物、の残骸を引っ叩いた蹴っ飛ばす。
しかし巨体はうんともすんとも言わず、むしろ叩いた側であるソシエの手が痛くなった。
このラーゼフォン、何が切り札だ。
要は邪魔だから捨てて行ったって事じゃないかと、頭の中でカラス野郎と男だか女だかわからない名前の少年、そして今一押しの弱い少年を鈍器で激しく殴打した。
ひとしきりいじってみて、やはり動かせそうにないとわかるとソシエはその辺で見つけた棒きれを杖にコクピットを降りる。
ロジャー達がソシエを置いて行った理由はわかる。
いくら使える機械人形――アルトアイゼン・リーゼ――があるとは言え、この足ではまともに動かせるはずがない。
あれはどうやらマサキの機体が変化した物らしいが、彼の扱いにくそうな様子からもそれは薄々わかっていた事だ。
もしかしたら、キラ辺りが仲間の棺となった機体にソシエを乗らせることを嫌がったのかもしれない。
そう、理由は、理屈はわかる。しかしだ、

「納得できる訳ないでしょう! みんな戦ってるのに私だけ指を咥えて見てるなんて!」

それで納得できないのがソシエのソシエたる由縁だ。
かつて使用人であるロランがホワイトドールでムーンレィスと戦った時も、お嬢様らしく守られることを良しとせず発掘された機械人形で前線に赴いた程の負けん気。
無謀だ何だと人に言われても、これだけは変えられないと自分でも悟っている。
さてそんなソシエがやろうとしたのはもちろん戦場に舞い戻る事。
移動したのは1エリアだけとは言え、人の足では何時間かかるのか。ましてこの足だ、徒歩で向かうのは有り得ないと言っていい。
ソシエが目をつけたラーゼフォンも、叩いても引っ掻いても動かない始末。
いよいよ手がなくなったと落胆するソシエの耳に、遠くから飛翔音が聞こえてきた。
ロジャー達が戻ってきた――と大声を上げようとしたソシエ、しかし背後から伸びた手が口元をがっしり塞いで物陰に引き寄せる。

「む……むーっ!?」
「静かにしろ。あの音はお前のお仲間じゃねえ」

なんとか目線を向ければそこにいたのは先程まで気持ち良さそうに夢の中にいた熱気バサラと言う男だった。
その顔が緊張に強張っているのを見て、ソシエも自然息を止める。
果たして数秒の後、上空を駆け抜けていったのは見た事もない大きな――大きな剣を担いだ、大きな機体だった。
そしてその後を追従するように、今度は見覚えのある機体が二つ。
ソシエも見知っているフェステニア・ミューズの機体、そしてテニアと共に逃げたという話の騎士のような機体だ。
どう見ても追って追われてという関係ではない。
何があったか知らないが、テニア達とあの大きな剣を持っている機体は手を組んだようだ。
そして向かっている先はD-3、今まさにロジャー達が戦っているであろう方向。
バサラの手を振り払い、再度ラーゼフォンへ向かうソシエ。
力無い足取りでコクピットをよじ登り、再度操縦席へアタックを開始する。

「動け、動け、動きなさいよっ! あいつら、絶対私達を殺しに来たんだわ! ただでさえこっちは数が減ったって言うのに、あいつらまで来たら……!

もし奴らがユーゼスと合流したら――その先は考えなくてもわかる。
Jアークは沈み、ロジャーやキラ、カミーユやアイビスは――。
ソシエの知らないところで、ブンドルとアムロ、甲児は散った。
今また、自分の知らない遠くで仲間達が失われる事になったら? いいや、そんな事はもう二度と許さない。
足が折れてるのが何だ、機体がない、それがどうした。
仲間達と共に戦えない、その事の方がずっと辛い。

「そうよ、這ってでも行ってやるんだから……!」

動かないラーゼフォンに見切りをつけ、言葉通り這ってでも行く覚悟でソシエは駆け出した。
そのソシエの手を黙っていたバサラが掴む。

「ちょっと、離しなさいよ!」
「なあ、お前さっきから何やってるんだ?」
「はあ? 見て分からないの? ロジャー達を助けに行くのよ!」
「そうじゃなくて。なら何でこいつで行かないのかって」

と、バサラは指でこいつ――ラーゼフォンを示す。
苛立ち紛れにソシエは叫んだ。

「動かないのよこのポンコツ! これが使えるならとっくに行ってるわよ!」
「動かない? おかしいな、俺が乗った時はまだ……」

そう言って、バサラは操縦席に腰掛け――本当に腰を下ろしただけだ。ベンチに座るみたいに――背中のギターを引っ張り出した。
ソシエが何を言う暇もなく、ギターの旋律が響く。すると、

ゴウッ、

と。今までピクリとも反応しなかったラーゼフォンの腕が持ち上がった。
呆然とするソシエを尻目に、ラーゼフォンはその体内に二人の人間を乗せたまま立ち上がる。

「動くぞ?」
「う、動かなかったのよ! 何なのよそれ、ギターで動くとか普通有り得ないわよ!」
「別にギターで動かしてる訳じゃねえよ。銀河に響く俺の熱いハートがだな」
「どうでもいいわよ! 動くならさっさとあいつらを追うわよ!」
「ああ、それなんだが……」

顔をしかめ、ギターを激しくかき鳴らすバサラ。しかしラーゼフォンはその頭の翅を使わず、二本の足でのろのろと歩き出した。

「ちょっと、何で飛ばないのよ?」
「飛べないんだよ。くそっ、どうやらコイツもそろそろ限界らしい。反応がやたら鈍い、歩いていくしかなさそうだ」

ゆっくりと流れていく景色――それでももちろん徒歩より断然速いが――に苛々とし、ソシエは唇を噛む。
これでは間に合わない。どころか、着いた頃にはこちらの仲間は全滅して敵だけの真っただ中に飛び込む事にすらなりそうだ。

「ああ、もう! どうしろってのよ!?」
「どうもこうもねぇ、俺達は俺達がやれる事をやるしかねえだろう。あまり喋んな、舌噛むぞ」

ラーゼフォンは幅の広い道に出るとやおら走り出した。しかし右上半身が丸々欠けているためバランスが取りづらいのかひどく揺れる。
平然とギターを鳴らすバサラの横で操縦席の残骸にしがみつくソシエ。

「この際乗り心地には文句言わないわ! 急いでちょうだい!」
「わかってる……いや、待て。また何か来るぞ」

どうやらバサラはソシエより数倍耳が良いようだ。ソシエには何も聞こえないのに、何かが来ると言う。
また敵か、と身構えた二人の前に現れたのは、

「……あ、あなたは!」
「何をしている……と聞くのも時間の無駄だな。急げ、もう始まっているぞ」

知っている機体、知っている男。でもこの組み合わせは初めてだった。
ガンダムF91、シャギア・フロスト。
会場にある、最後のガンダム。ここで生まれた、最新のニュータイプだった。

   □

「おうおう、派手にやってるじゃねえか。俺達も仲間に入れてくれねえか?」

その声を聞いた瞬間、操縦桿を握る手に軋み、アキトは痛いほどに歯を食い縛った。
ついにあの男も来た。いよいよ以って、戦局は混沌としてきた。
新たに戦場に現れた三機の機体に、敵は戸惑っているようだ。数でも逆転されて、攻め方を迷っているのだろう。

「遅いぞ、ガウルン。どこで道草を食っていた?」
「まあまあ、そう怒るなよ。メインディッシュには間に合っただろ」

ふざけているような声。戦いを楽しんでいるような。
あの時もそうだった。Jアークとダイ、ナデシコの三つ巴の戦いに横槍を入れて来た時も――。
胸を塗り潰す程に沸き上がった殺意に抗い、アキトは当面の敵手、サイバスターを睨み付ける。
ガウルンは後だ。まずこいつ、そしてユーゼス。ガウルンはその後、ユーゼスの機体を奪ってからだ。

「チンピラが……やはりまだ生きていたか!」
「おうネゴシエイター。このザマを見るに、またお前のネゴシエイションは失敗に終わったのかい?」
「ふん、私は礼を尽くした対応をしたつもりだ。し貴様らには度が過ぎた試みだったと後悔しているよ」
「言ってくれるねぇ。まあいい、ユーゼスさんよ。俺達はどいつをやればいいんだい?」
「君は私と共にJアーク、統夜は黒い機体、テニアは青い小型機を頼む。君をアキトと共に戦わせると、嫌な結果しか思い浮かばないのでな」
「ははっ、違えねえや。聞いたな、お前ら。散開だ、一気に喰い尽すぞ」

ガウルンの号令で三機は分散した。
統夜の乗る青い騎士、ヴァイサーガがロジャー・スミスの騎士凰牙へ。
テニアのベルゲルミルはネリーブレンに。
そしてガウルンとユーゼスがJアークへと向かっていく。

凰牙とブレンはともかく、Jアークは明らかに不利だ。
戦艦の火力は強力とは言え、相対するのがそれ以上の火力を誇るゼスト、そして艦すら斬ると言う名の刀を持つダイゼンガー。
傍目にもわかる戦況の不利に、サイバスターが反転し援護に向かおうとする。
そのがら空きの背を、

「……ゲッタービーム」

ぼそりと呟き、撃つ。
解き放たれたゲッター線の破壊エネルギー。サイバスターの背に直撃――しない。
基地の時にも見た驚くべき反応の速さでカミーユは対応した、振り向きざまにオーラを纏った剣で斬り払う。

「テンカワ……!」
「言ったはずだ、逃がさないと。気を散らす余裕があるのか?」

トマホークを振りかぶり、と見せかけて肩口からトマホークブーメランを射出。
これまた斬り払われるが、その隙にブラックゲッター自身がサイバスターへと肉薄する。
加速のたっぷりついたトマホーク。
轟、と唸りを上げて奔るその一撃を、サイバスターは今度は受け止めることなく機体ごと横にスライドして避ける。
それで確信した。

(あの機体はたしかに強力だが、ばらつきがある。あの光――あれを纏っていない時なら十分に破壊できる。そして)

そのまま距離を離すことなく追撃を仕掛ける。アキトの思ったとおりサイバスターは反撃よりも回避、間合いを空けることを優先する動きを見せた。

(あの力は無限に続くものじゃない。かなりの消耗を強いる、制限付きの力――俺の薬のように。ならば)

戦い始めて時間はそろそろ10分は経つ。あと動けるのは20分――とユーゼスは計算しているはず。
このままこの敵手を倒すのは得策ではない。倒せはするがアキトもかなりの消耗を強いられるからだ。
ユーゼスの機体を奪う事を考えれば、

(適当に損傷を受け、撃破したと思わせる――か。しかし、それが容易い相手でもないが)

あの光を纏った一撃を受ければ、いかにゲッターとはいえ真っ二つになってもおかしくはない。
適度な損傷というが、どうするか。このゲッターなら半身を吹き飛ばされでもしない限り大丈夫のはずだが。

「くそっ……、時間がないって言うのに!」

苛立たしげなカミーユの声を聞き、それはお互い様だと小さく漏らす。このままじりじりと長期戦になればアキトとて窮地に陥る。
いっそ他の機体に手を出すか、と考えた時、サイバスターが動いた。
剣を空に掲げ、その身体を凄まじいまでの風が取り巻く。

「だったら――俺も、ジョーカーを切らせてもらうぞ!」

ある男の口癖。そうとは知らずカミーユがその言葉を口にする。
天を衝く剣先に光が集う。小さな形に圧縮され、サイバスターへと降り立ち――

弾けた。

そう、光が弾けたとしか言いようがなかった。
なんだ、と確認する間もなく。
ブラックゲッターの状態を示すサブモニターに、一瞬前まではなかった損傷の文字が踊る。

サイバスターはまだあの位置にいる。こちらにライフルを向けている訳でもない。
一体何が、と思った瞬間、

「……ぐっ!?」

再びの衝撃が機体を揺らす。
サイバスターを正面にしていたため、今度は見えた。
何かがいる。サイバスターとブラックゲッター以外の何かが表れ、攻撃を仕掛けているのだ。
全周囲に知覚の指を伸ばす。
戦士としての勘が、次に来る攻撃を予測、対応させる。
機体を回したアキトの目に映った物、それは。

「わかるか!? これが俺の身体を通して出る力……!」

一瞬目に映ったそれは輝きを放ちサイバスターの下へ。その数、二つ。
白い流星と、黄金の彗星。
剣をブラックゲッターへ突き付ける。
それはまるで、猟師が獲物へ猟犬を差し向けるような仕草で――。

「行け、ハイ・ファミリアッ!」

カミーユの号令と共に小型機が飛び出て来た。

「遠隔攻撃デバイスか!」

その正体を瞬間に看破し、トマホークを振り回す。
所詮自動操縦、迎撃は容易い――はずだった。だが、

「何ッ!?」

白のファミリアがまるでトマホークの軌道を予測していたかのような有機的な軌道を見せ、滑らかに回避。懐に潜り込まれ、駆け抜けざまに光弾を乱射。
衝撃に息が詰まった一瞬、黄金のファミリアが迫る。ならばと拡散ゲッタービームで回避する空間自体を埋め尽くす。
ビームが放たれ、広範囲へと広がっていく――瞬間。
黄金のファミリアはそれまでの速度がまるで遊びだったと言うように急加速、瞬間移動でもしたのかというスピードでブラックゲッターの横を擦り抜けていった。
もちろん、光弾の置き土産つき。ご丁寧にゲッタービームの砲口へピンポイントに。
チャージされていたゲッター線が暴発し、ブラックゲッターの巨体が揺らぐ。
『先読みする白』、『三倍のスピードで動く黄金』。

これが奴の切り札かと、余裕もなしにサイバスターを睨むアキト。
このままでは本当に撃破されるかもしれない。それでは意味がないと、全力で挑みかかる決意をする。

「名付けてA.R、そしてC.A。これが俺が受け継いだもの、俺達を繋ぐ人の心の力だ!」
「この程度で……いい気になるな!」
「わかってるさ。あんたには、俺よりももっと借りを返したがっている人がいる」

しかしサイバスターは剣を収めた。もう勝負はついたと言わんばかりに。
舐めるな、という叫びが喉を出る前に、

「――ッ、なん……だと……ッ?」

ブラックゲッターの腹から、何かが生えてきた。
杭――そうだ、杭だ。まるであの、『アルトアイゼンのステーク』の、ような。鋭い杭が、ブラックゲッターを背後から串刺しにしている。
それが頭の中で像を結んだ瞬間、半ば予想通りに次の衝撃が来た。
その数、六回。あのリボルバーに内蔵されていた火薬と、同じ回数。
内部からの衝撃がゲッターの装甲を突き破り外部へと逃げる。腹に大穴が空いた。

「キョウスケ・ナンブッ……!」
「背中から斬ってくれた礼だ。あの人の代わりに、俺が返す」

サイバスターがライフルを構える。
見覚えがあると思ったら、あのライフルはキョウスケ・ナンブが乗っていた機体のものだ。
キョウスケの乗っていた機体。古い鉄と、鋼鉄の隼。

(最後の最後で、お前が俺を止めるのか――皮肉なものだ)

ライフルが火を噴いた。
弾丸は寸分違わずブラックゲッターの頭部――すなわちアキトのいるところへ、正確に叩き込まれた。
衝撃が駆け抜け、コクピットの至るところが砕け割れる。
もちろんアキトにもその余波は回って来た。身体のあらゆる部分が盛大に痛みを訴えてきた。
操縦桿を握っていられず、ブラックゲッターの姿勢が崩れた。
見渡す限りに血の赤が広がっている。これがあの男の見た景色――。

「これで、貸していた物は全て返してもらった。お前はここで朽ちて逝け」

言い捨てるカミーユの声が遠い。

(いや、落ちて……いるのは……俺、か)

地上へと真っ逆さまにブラックゲッターが墜落していく。
それを見届ける事なく、サイバスターは仲間の救援に向かうべくその身を鳥へと移し替えた。
暗闇に満ちていくアキトの視界に、神鳥の軌跡が色鮮やかに残り――。

     □

戦況は極めて劣勢だ。
ただでさえユーゼス一人の機体に圧倒されていたのに、アキトの黒い真ゲッターに最大の打撃力たるカミーユを抑えられた。
加えて後方から新たに三機、テニアと統夜なる少年、そしてガウルンという最重要危険人物が迫って来た。
ロジャーは統夜に、アイビスはテニアに封じられ、キラは一人でユーゼス・ガウルンと相対せねばならない。

「トモロ! ESミサイルを指定するポイントに! あの特機を近づけさせないで!」
『警告、ユーゼス機から高エネルギー反応。砲撃が来るぞ』
「……ッ、攻撃中止! ジェネレーティングアーマーを前面に最大展開しつつ後退!」

ゼストの発射した重力波の黒い大河が、Jアークの展開したバリアと干渉し激しく放電した。
先の超圧縮された砲撃ではなかったが、それでもこの圧力は脅威だ。一撃でJアークの足が止まる。
そして、その動きの止まったJアークの艦橋目掛け天から巨大な剣が降ってくる。

「ESミサイルを発射、敵機との中間地点で自爆させる!」

キラの命令通り、上方へ向けてESミサイル、空間に穴を空けるミサイルを発射する。
目前で何故か自爆したミサイルに危機感を感じたか大剣を振るう特機は急停止、離脱していく。
本来この空間が不安定なD-3エリアでは使うべきではない武装である。綻びを加速させるため、事前の作戦会議でも使わない方向で話が決まっていた。
その取り決めを破りESミサイルを使わざるを得ない事態と言う事だ。
予想以上にまずい状況に、キラの心に弱気の影が伸びる。

(カミーユも、ロジャーさんもアイビスも必死に戦ってる……! なのに僕だけが諦める事なんて、出来る訳ないじゃないか!)

そのまま全砲門を後退していく特機へ向ける。その先にはゼストがいた。
射線が重なり、特機が回避すれば射線は当然ゼストへと通る。
特機の行動は他にもおかしいと思う事があった。
攻撃がどうにも『甘い』のだ。本来戦艦を操る事など得手ではないキラが対処できるほどに。

「なんだ……? あいつの戦い方、遊んでるのか?」
『たしかに不自然な行動を取っている。だがキラ、油断している余裕はないぞ』

トモロの声を裏付けるかのように、ユーゼスの機体が突進して来た。
立派な武装を持ちながらも中々それを活かさない突起に変わり、接近戦を挑んできたのだろう。
カミーユでなければ、接近戦であれを止める事は出来ない。
キングジェイダー――ここで切り札を切るべきか?

(いや、まだ早い……! せめてゲートを突破して、主催者の前に立ってからでなきゃ)

あの力は一度きり。しかし、ここを乗り切れなければそもそも力を温存する意味がない。
ロジャー、アイビス、カミーユ。誰もが手一杯というところで、援護に来れそうにはない。

「ジェイクォース、最大出力で発射! 足を止める!」

ここは自分達だけで乗り切るしかない。迫る巨体に震える心を押し隠す。
解き放たれた不死鳥はゼストへと迫り――

「小賢しいわッ!」

不死鳥の顎、そこへ突き入れられた獣の両腕。
炎の鳥が内側から左右へと引き裂かれ、姿を現した錨を横合いから機を窺っていた特機が飛び込んで、

「獲物はもらったぜッ!」

自身のサイズを超えるほどに伸びた巨剣が、真っ二つに切り裂いた。
艦首で爆発が起こり激しい震動に揺れるJアーク、キラは地面に叩き付けられた。

『ジェイクォース使用不可。Jジュエルジェネレータ、出力65%にダウン。優勢予測指数、50から20へ。無事か、キラ』
「う……ん、大、丈夫。トモロ、まだ……戦えるかい……?」
『戦闘続行は可能。だが、勝率は限りなく低いと言える。撤退を推奨する』
「出来ないよ……わかるだろ、トモロ? ここで引けば、全部終わってしまう。負けられないんだ……」

朦朧とする意識で応える。しかしその覚悟とは裏腹にキラの視界は霞み、何かに掴まらなければ立っていられなかった。

『敵機、接近。キラ、指示を』
「……、っえ?」

一瞬、完全に意識が飛んだ。焦点が定まった途端、モニターいっぱいに映し出されたゼストの威容。

「ここまでだ、キラ・ヤマト。その力、私が有効に使ってやろう」

ユーゼスの声。巨獣が右腕の鋭い爪を伸ばし、限界まで引き絞った。

バリアを、そう叫ぼうとした。しかし身体は言う事を聞かない。
インベーダー相手ならともかく、人間相手ではトモロは指示がなければ動く事が出来ない。

(そんな……ここで終わるのか、僕は――ッ!?)

あの時――アークエンジェルを守るため、初めて『あの感覚』が芽生えた時のように、全てがスローモーションのようにゆっくりと動く。

迫るゼストの腕、操るは仮面の男、
その向こうで大剣を担ぎ見物している特機、その中で嗤う戦争の権化、
離れたところで戦っている仲間達一人一人の顔、
置いてきたはずのおてんばな少女、歌に命を掛ける青年、
自分達を裏切った少女、その少女を守る騎士、黒い鬼を駆る復讐者、

全てが一瞬に脳裏に浮かんでは消え、最後に残ったのは。


「――――――ここで諦めるのか、キラ・ヤマト?」


響いた、声。
知っている、この声を。戦場で聞いた、銃を向け合った、そして共に戦ったこの声を。


「私の知っているガンダム乗りはいついかなる瞬間も諦める事無く、前だけを見て進む炎のような男だった。お前はどうなのだ?」


キラの、Jアークの目前。20mを軽く超えようかというゼストの拳を、たった一機のモビルスーツ――ガンダムが、受け止めていた。
ガンダム――そう、ガンダムF91。
キラが授かり、ジョナサンの手に渡り、ガロードへと譲られ、アムロを得てその力を最大限に発揮し、そして今誕生したばかりのニュータイプをその身に宿す。
かつて純白の白だったそれが、今は血のように深い真紅。



「戦う覚悟なき者は去れ。その意志があるのなら吠えるがいい。お前がこの世界に貫く、お前だけの意志を。それが――」


ゼストの拳を、F91の背から広がった力――オーラで形成された六本の翼が横から弾く。
そしてその手にあるのは極光を灯したヴェスバー。


「それが真に心から願う物なら必ず、この無明の世界を破壊する事ができる。勇気こそが……唯一絶対の力なのだからッ!」


力強い叫びと共に、ヴェスバーが解放される。
先のユーゼスの砲撃に勝るとも劣らない規模の光熱波が、ゼストのみならず傍観者を気取っていた特機までも押し流す。
危機が排除され、ようやっとキラは叫んだ。

「――シャギアさん!」

この場に現れた、かつて敵であり今は共に戦う仲間である、一人の男の名を。


「さあお遊びはここまでだ、狼藉者ども。私の愛馬の力、存分に見せつけてやろう!」


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