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The 4th Detonator ◆VvWRRU0SzU






「騎士凰牙! ファイナルステ――――ジッ!」

ロジャーが奥の手――ファイナルアタックを撃った。
雷を纏う蛇の頭・クラッシャーファングを振り回し、ゼストに仕掛ける。
それに合わせてキラも嵐のような砲撃を。
カミーユとシャギアが側面から同時に突っ込み、アイビスは短距離バイタルジャンプを繰り返し狙いを幻惑する。
そんな、現状取り得る戦術的にこれ以上はないという攻撃を、

「フフフ……フハハハハハハッ! 効かぬ! 通じぬ! 受け付けぬ! 生っちょろいぞ、小虫どもが!
 我は神、超越する者――全能なる調停者なり!」

新たにその頭部に浮き出た砲口から、ブラックゲッターのそれとは比較にならないほど太いゲッタービームがバイパーを迎撃する。
一瞬の拮抗の後さすがに押し勝った凰牙のファイナルアタックだったが、減衰した雷鞭は続く重力波砲で完璧に相殺された。
掲げた両腕がそれぞれサイバスターとF91の行く手を阻み、その一瞬でクローアームによる一撃が二機を襲う。
辛うじて回避したが、まだ追撃が来る。
ゼストが大きく口を空ける。そこから飛び出してきたのは無数の斧――ゲッタートマホーク。
雨あられと吐き出された手投げ斧を斬り払い、撃ち落とし、時にシールドで受けてやり過ごす。
後退――したのではなく、させられた。
これで決めなければ後がないという攻撃をあっさり破られた。
キラの内に諦めの色が微かに生まれる。
ブレンを狙う砲撃を、割り込んだサイバスターの剣が受け止めた。
その隙を突いたF91のヴェスバーを意にも介さず払い除け、ゼストは再度大きく咆哮する。

「くっ……やはり駄目か! カミーユ、後どれくらい保つ!?」
「ハッ、ハァッ……まだ、大丈夫……です! あなたこそ、動きが……鈍って、ますよ!」
「しっかりしろ! 凰牙のファイナルアタックが通じない以上、我らで何とかするしかない!」
「わかって……ます!」

互いに叱咤し合い、ゼストへと挑みかかっていくシャギアとカミーユ。
しかし二人の疲労はもはや限界近くにまで達している。
大きな力を持つ分、他の者へのフェローに回る彼らは数倍の速さで消耗するのだ。
ロジャーへ予備の電池を射出しつつ、キラは喉までせり上がって来た言葉を強引に呑み込んだ。
撤退――最大の攻撃が失敗した今、それが現状最も妥当な戦術。
しかしそれはできない。わかっていてもなお、キラはそれを言おうとした。

(勝てない……? このままじゃみんな死……)

思考を侵食するその恐怖が、加速度的に存在感を増す。
連戦の疲れ、新たな力の創造、全力の合体攻撃。
どれ一つだって楽ではなかった戦いを切り抜けた先に待っていたのがこの苦境だ。
神というものがいるなら助けて欲しい。今回ほど切実にそう思う事は今までなかった。

「あぅっ……!」

ついに、ギリギリのところで保っていた均衡が崩れる。
一瞬にして位置を変えるブレンを目障りと判断したのか、ゼストの攻撃が集中的にアイビスを狙い出す。
全方位から押し潰すように迫って来る触手を、連続のバイタルジャンプで回避するブレン。
しかし手数の差に押され、段々とその身体に傷が刻み込まれていく。
狙われるアイビスから注意を逸らそうとん仲間達が一斉に攻勢に出るも、ゼストはその攻撃を無視し執拗にブレンを追う。
そしてアイビスの集中力が途切れた一瞬。クロ―アームが奔り、回避が遅れたブレンの足を掴んだ。
ゼストの本体から稲光が伝いブレンを直撃。
動かなくなったブレンを、加速をつけて地上へと叩き付けようと振りかぶった。

「やらせんッ!」

凰牙の振り抜いた斬艦刀が触手を半ばから斬り飛ばす。
宙を舞ったブレン、再びゼストに捕らえられる前にバイバーウィップがその身体を包み引き寄せた。

「アイビス! しっかりしろ、アイビス!」

ロジャーが必死に呼びかけるが、アイビスの反応はない。
そして緊急の回避手段を失ったキラ達へとユーゼスの嗜虐に満ちた声が届く。

「ククク……これで一つ。足りん、足りんぞ! もっと足掻け、抗え、喰い下がって見せろ!
 このゼストの前では愚昧どもが何人寄り集まろうと無駄だという事を教えてやる!」
「調子に乗って……! 舐めるなぁっ!」
「待て、カミーユ! 挑発に乗るな!」

ユーゼスの声に火を点けられたカミーユが単身挑みかかる。
風が逆巻き、構えた剣を覆い真空の刃となる。
主の守る三つの羽が飛び出し、都合四つの流星となってゼストへ突進していく。

白と黄金がゼストの狙いを惑わせ、赤とサイバスター自身が開いたガードの隙間へと飛び込む。
剣が、赤いファミリアが生み出した杭がゼストへと突き立った。

「かかったな愚か者がッ!」
「なッ……!」

装甲を裂いた異物。だがそれはゼストへ与えたダメージを意味するものではなかった。
装甲の下、現れたのは黒の腕。
表皮を裂いてブラックゲッターの上半身が飛び出し、それぞれの腕に剣と杭を掴み止めている。

「テンカワを破ったこの戦法は既に把握済み。貴様ごときが私に届くと思ったか!」

剣を引き抜こうとするサイバスターだが、膂力で勝るブラックゲッターは小揺るぎもしない。
赤と金のファミリアがブラックゲッターへと砲火を集中するも、うるさいとばかりにその頭部から放たれたゲッタービームにより爆散。
自分の意識を分化させファミリアを操っていたカミーユの意識がダイレクトに打撃を受け、一瞬その思考が空白になる。
動きの止まったサイバスターを包み込むようにゼストの腕が抱き留める。

「いけない! あのままではサイバスターが吸収される!」
「ええい、世話の焼ける……!」

シャギアが飛び出す。
ゼストに呑み込まれつつあるサイバスターへ向けて、

「他に方法がない! 悪く思うなカミーユ・ビダン!」

ガンダムF91、フェイスオープン。
全力で稼働するバイオコンピューターがシャギアの迸る力を受け
その手に握ったビームの刃が膨張し、巨大な爪へと変貌した。
サイバスターのいる辺りに向けて叩き落とし、サイバスターごとその辺りを丸ごと抉り抜く。
振り抜いた爪の先、サイバスターが地面へと激突した。

「チッ……あと一歩のところで。つくづく貴様は私の癇に障るな」
「っは……ぐ、うう……」
「だが、さすがに限界のようだな。終わりにしようか」

カミーユを強引に救い出したシャギアだったが、そこで力尽きたかヴァサーゴモードが解除された。膝を付くF91。
そしてカミーユも、ファミリアを砕かれた反動に加え地面へと高速でぶつかった衝撃で意識を手放していた。
アイビスを後方へ隠してきたロジャーが戦線に復帰するも、焼け石に水。


(もう……反応弾を撃つしかないのか……?)

状況をひっくり返す手はある。しかしこちらも確実に無事では済まない諸刃の剣。

(でも今からじゃ反応弾の範囲外まで退避する余裕はない……どうすればいいんだ、くそっ!)

シャギアも、ロジャーも打つ手がないというのはわかっているのだろう。
こうなれば、Jアークを囮にしてみんなを逃がし、ユーゼスを巻き込んで自爆するしか――そう思った時。





「俺の歌を聴けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」




Jアークの遥か後方から届く、魂の歌。

とっさに振り返る――そこには、隣のエリアに置いてきたはずのラーゼフォンがいた。



「待たせたな! メインイベントの始まりだぜッ!」

操るはもちろん熱気バサラ――銀河に轟くファイアーボンバーのボーカリストだ。
彼がいるという事はもちろん、

「あんた達、よくも私を仲間外れにしたわね! 一人残らず引っ叩いてやるから覚悟なさい!」

彼女も、いる。
生きていて欲しいから騙して置いてきた、無鉄砲なお嬢様――ソシエ・ハイムが。
援軍、と言うにはとてつもなく頼りない二人の登場に、戦場が一瞬静まり返る(バサラの歌はうるさいほどに響いていたが)。
いち早く我に返ったキラが叫ぶ。

「二人とも、何で来たんだ!? ここは危ないんだ、早く逃げて!」

キラは状況を簡潔に伝えたつもりだった。だが、はいそうですかと従う相手かと言えば、


「逃げる? はっ、絶対にノゥ! 俺もラーゼフォンもこれ以上出番を逃すほどノロマじゃねえ!」
「そうよ! 大体人に逃げろって言っておいてキラ、自分はやられてるじゃないの! 素直に助けてくれって言いなさいよ!」

そういう問題じゃない――むしろ足手まといなんだ、とはさすがに言えなかった。
ラーゼフォンが動いたのも驚きだが、タイミングが悪すぎた。
アイビスとカミーユが欠けた今、戦力にならないラーゼフォンまで抱えるのはどう考えても無理だというのに。

「熱気バサラ、か。テンカワを取り込んだ今、さして価値のある駒でもない……貴様の歌はひどく耳障りだ。
 二度とそのふざけた歌を歌えないよう、その喉引き裂いてくれる!」
「上等だ! だがな、俺のこの熱いハートを止めるなんざ誰にも……誰にも、できやしねえんだよッ!」

ラーゼフォンから、いやバサラの身体から不意に光が溢れ出す。
F-1エリアでの戦いの時も見た、優しい光。
かき鳴らすギターの荒々しい旋律に乗せ、キラの下へその光は舞い降りた。
思わず触れたその瞬間。
光は弾け、キラの内へと入り込む。

それはバサラ自身だ。歌う事だけを願う真っ直ぐな魂。
どうしようもなく聴く者を熱くさせる――心を震わせ、凍ったように動かない足を前へと進ませる、力強い想い。
戦う力なんてないのに、一秒後には死ぬかも知れないのに。
恐れも疑いも迷いもない。
ただひたすらに己の中にある熱だけを信じ、誰かに伝えようとするその生き様に。
歌はいいもの。人が生み出した文化の極みだ、と誰かが言う。


(歌……あの人の歌は、いつも誰かに力をくれる。傷ついて倒れても、また立ち上がる力を……)

利益を得るためではない。自分の歌を誰かに聴かせたいから、歌う。
戦場でもその想いを見失う事はない。
清々しいまでに純粋な、存在の証明――生きている証。
戦争を憎み平和の歌を歌ったラクスとは違う。でも、その根底にあるもの――誰かに何かを伝えたいという想いは等しく尊いもの。

(そうだ、守らなきゃいけない。ラクスは守れなかったけど、せめてこの人達だけは、守りたい……失くしたくない!)

怯え、諦めかけていた心に再びの炎が灯る。
ニュータイプやコーディネイターの種別など関係なく、生きとし生ける全ての命が根源的に持っている力。

「フン、くだらんな。貴様の歌が今この瞬間に何を成す!?
 貴様のやっている事は、抗えぬ運命に向き合う事を恐れ現実から逃げ出した……ただの自己満足だ!」
「違う!」

ゼストがラーゼフォンへと放ったグラビティ・ブラスト。
圧縮された重力波を、Jアークがその身を挺して受け止める。
激しく揺れる船体。キラもまた壁面へと叩きつけられ、鋭い痛みに歯を食い縛る。
でも、立ち上がる。立ち上がる事が出来る。
この歌が、バサラの歌が聞こえる限り――諦めはしない。

「確かにあなたは強い。怖いよ。できるなら今すぐ逃げ出したい。この場にいたくない。
 でも……絶対に逃げない。
 力に溺れて、暴力で人を従わせようとするあなたは、神なんかじゃない!
 僕らと同じちっぽけで、臆病で、傲慢なただの人間――三流の悪党だ!」
「ほう……吠えるじゃないか小僧。だがな、無謀と勇気は違うものだ。吠えるのなら……」

ぐわっ、とゼストが顎を開く。
そこに現れた揺らめく黒い炎。ヴァイクランから取り込んだ量子波動エンジン。
生み出されたダークマターにユーゼスの念が織り込まれ、巨大な暗黒球へと増幅される。

「この絶対的な力の差を! 少しは埋めてからにするがいいッ!」
「キラ君!」

解放されたエネルギーボールが唸りを上げてJアークへと襲いかかった。
凰牙では代わりに受け止める事などとてもできないほどに高出力の力の塊。ロジャーは反射的に最悪の結果を思い浮かべた。
全開のジェネレーティングアーマ―を押し切りそうな圧力。
しかしキラは、先程までなら屈していたその圧力に真っ向から対峙する。
この胸に燦然と輝く、この気持ち――トモロが無言のままシステムの書き換えを始める。
シャギアとロジャーに余波が及ばないよう、Jアークを前に出す。
暗号通信を二人に送る。下がっていてください、と。
反応弾以外にももう一つあった、戦況を打破する力。
キラだけに許された力――仲間を守る、大いなる剣。

「勝てるから……力があるから戦うんじゃない! 許せないと思うから、あなたが間違っていると思うから戦うんだ!
 僕らは今、生きている――なら! 誰だって、これから先を生きていくために戦っていいんだ!
 自分の未来は自分で選びたい。誰かに支配されたり、押しつけられた運命じゃない――僕だけの意志で、自由を掴むんだ!
 あなたがそれを阻もうと言うのならッ!」
「阻むと……言うなら、どうするね?」
「倒しますッ! あなたを、僕が! 僕達が! 託された想いを未来へと繋げるために、大切な人達を、守り抜くためにッ!」
「フ……ハハハハッ! 言うではないか! だがどうやって私を倒すというのだ?
 頼みの綱のサイバスターは倒れ、シャギア・フロストやネゴシエイターはもはや役立たず!
 まさかラーゼフォンに期待している訳ではあるまい? 強力といえども戦艦でしかないそのJアークで私に並べると思っているのか?」
「わかってないな……本当に、あなたは何もわかってない!」

Jアークのブリッジで、キラはモニターに映るユーゼスにビシッ、と指を突き付ける。

「このJアークはただの戦艦なんかじゃない。今はもう滅びた星の、そこにいた人達の希望を背負って生まれた船……。
 そして、この世界でも僕達を繋げてくれた! 力だけじゃない、想いが満ちているんだ!」

何も言わずとも通じ合える。
キラとトモロ、そしてJアークが本当の意味で一つになっていく。
バサラの歌が後押ししてくれる。
ロジャーやソシエの心配そうな声。守るんだ、この人達を――

Jアークが加速する。
円錐状に展開したフィールドを突き刺すように、ゼストへとぶつかっていく。
ゼストが腕を上げその先端を受け止めた。干渉し合うエネルギーが激しいスパークを撒き散らし、衝撃の余波が飛び交う。

「何をするかと思えば、策もないただの特攻か! テンカワのように取り込んでくれるわ!」
「特攻? 違うね、間違っている! 見せてやる……これが、この輝きが!
 僕と、トモロと、Jアークと! みんなで掴んだ、『勇気』の……力だぁぁッ!!」
『ジェイバード、プラグアウト!』

ゼストに掴まれたままのJアークの船体に赤い煌めきが奔り、キラの身体がブリッジのJジュエルに吸い込まれる。
Jアークの艦橋を形成する部分、ジェイバードが船体から離脱し、遥か大空へと舞い上がった。
ユーゼスが、仲間達が見ている前でジェイバードがその姿を変える。
頭が持ち上がり、胸のJジュエルが輝く。
瞬く間に四肢が展開され、その姿は人型――ジェイダーへ。

「プラズマウィィイイイングッ!」

その背から左右に十条の光翼が伸びる。まるでかつての愛機・フリーダムの翼のように。
そして、

「メガフュ――――――――――――ジョンッ!」

鍵となる言葉を、宣誓する。
プラズマウイングがジェイダーを包み込む。
下方、ゼストと渡り合っていたJアークがフィールドを自ら弾き宙へ。
艦首を正面に、船体が半ばから折れ曲がり大地と垂直に。半ばから割れて無骨な脚部が露呈した。
天空から舞い降りたジェイダーがその頂点へと接続され、変形し文字通りの頭部になる。
艦首が分離し、左右へ回りドッキング。巨大な腕へと変化する。
ジェイダーが変化した頭部、燦然と輝くJジュエルの光。
マスクが割れ――F91のフェイスオープンのように――Jジュエルジェネレータの脈動を垣間見せた。



「『キングッ! ジェイダァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』」


キラとトモロの声が唱和する。
現れた、白き巨人。虹色の翼を背負い、傲然と屹立する。

「変形した……だと!?」

ユーゼスの、驚愕の声。戦艦がロボットに変形する様は中々に非現実的だっただろう。
見上げるゼストの巨体に負けないほどの体躯。轟音と共に着地、間を置かず右腕を振り上げゼストへと叩き付けた。
受け止める、ゼストの左腕。
その一撃はガードした腕を易々と砕き、ゼストの頭部へと一直線に吸い込まれた。
100mを超えるゼストが衝撃で浮き上がり、後退『させられた』。四つ足で大地を掴み、なんとか制動を掛ける。

「うおおっ……!? なんというパワーだ!」
「まだだッ!」

巨体が駆け、跳ぶ。
実に32000tを超える重量のキングジェイダーが、助走をつけて跳び蹴りを放った。
受け切れないと見たゼストがグラビティ・ブラストで迎撃を図る。

「調子に乗るなぁっ!」

圧縮された重力波が迫って来るキングジェイダーの足先を押し返せ――ない。

プラズマの翼がはためき後押しする。
黒の大河を、正面から強引に突っ切って行く白亜の巨人。
しかし勢いは弱まった。その一瞬にゼストは身を屈め、大きく飛んだ。
直後落着したキングジェイダーの蹴りが地面に突き刺さる。
加速した超重量の一撃は、堅牢なはずの地盤を貫き市街地を中心から崩落させた。
舞い上がる瓦礫と粉塵の中、緋色の瞳が二つ光る。
噴煙を切り裂いて、キングジェイダーが両腕を突き出す。
解いた拳、伸ばした指先は五つの砲門・五連メーザー砲。
手甲部にマウントされた反中間子砲と合わせ、十六の光芒が放たれ、今だ空にあるゼストへと殺到していく。
ユーゼスはとっさにバリアを展開したが、収束した極太の極光に軽々と突き破られ、ゼストを灼く痛みに苦悶に呻く。

「がああ……!」
「何という力だ……これならあるいは」
「しかし、キラ君は大丈夫なのか? あの機体、副作用が甚大なものだったはず……」

とっさに飛行し難を逃れたシャギアとロジャーが戦況を見て取る。
ゼストに与えたダメージは大きい。が、ロジャーの危惧通りキラもまた大きすぎる力にその身を削られていた。
本来Jジュエルで身体を強化されたサイボーグであるソルダートJが駆るキングジェイダーだ。生身の人間による運用など想定されているはずもない。
体内を駆け巡るJジュエルの波動。強力な力である半面、その使い手をも傷つける危険な果実だ。
時間にすれば二分も動いていないのに、キラはまるで何十時間も連続して戦っているような疲労を感じていた。

(キングジェイダー。強力だけど、このままじゃ僕の身体が保たない……! 早く決めないと……!)

一気に決める。
今以上に強力な攻撃手段――Jジュエルの力を直接相手に叩き込むジェイクォースだ。
しかしジェイクォースは起点となる錨をダイゼンガーに破壊され、使えない。

(だったら……機体ごとぶつけるまでだ!)

キングジェイダーそのものをジェイクォースの代わりにぶつけるキングジェイダー最強最後の攻撃・ジェイフェニックス。
トモロが教えてくれたこの攻撃なら確実に、ゼストの再生能力を上回り一撃で破壊できる。

「行くよ、トモロ!」
『待て、キラ。緊急事態だ』

いざ勝負を決さん、とするキラを制止するトモロの声。どうして止めるのだと聞き返そうとした時、

「うわっ!?」

キングジェイダーを揺るがすほどの地震。
さっきの攻撃でキングジェイダーが起こした地盤の破壊、だけではない。
不意に暴風が巻き起こる。
見上げた先、空にある空間の綻びが巨大化し、雷を吐き出していた。

『キラ、まずい事になった。先程のシャギアの攻撃で炸裂した力、現在のゼストとキングジェイダーの戦い。
 この不安定なエリアで大きすぎる力が何度も激突したため、辺り一帯の次元境界線がひどく乱れている。
 このままでは直に綻びが一気に拡大し、この世界を呑み込みかねん』
「こんな時に! 何とか収められないのか?」
『ラーゼフォンから放たれる力場がなんとか押し留めている……だが、ここまで歪みが拡大してしまっては焼け石に水だ。
 この上は、こちらのタイミングで今すぐゲートを破壊するしかない。
 でなければ、ゲートが開いたとて我々はその瞬間亜空間に放り出され一瞬で消滅する事になりかねん』
「今すぐ、と言ってもな……そうさせてくれる相手とも思えん」

シャギアの言うとおり、今はこの問題に比肩し得るほどの脅威とが目の前にいるのだ。
対峙するユーゼスにも事情は分かっているはず。
一旦休戦を呼びかけようとしたキラだが、ユーゼスは何を思ったか周囲に向けて手当たり次第に重力波を撃ち込み始めた。

「き、貴様ッ! そんな事をすればどうなるかわかっているのか!?」
「ククク……わかっているとも。これは面白い事になった。やはり私の運命はここで終わる事を許してはくれないようだ」
「何がおかしいんですか!? あなただって危険なんですよ!」
「確かにこの世界が砕ければ、我々も巻き込まれるだろう。だがそれがいい……私にはそこから生き残る目がある!
 ゼストの取り込んだ真空空間では無限の力を供給する相転移エンジンや、量子波動エンジンを始めとする動力炉。
 そこに私の知るクロスゲートの知識、テンカワから吸いだしたボソンジャンプの原理を応用し、AI1に演算させた結果……ごく限定的だが、ゼストは転移能力を得ているのだ!」
「転移能力……自分だけ逃れる道を用意していたという事か!」
「いかにも! と言っても、テンカワを取り込んでから思いついた手だがな。
 貴様達はどうだ? キングジェイダー、私のにここまで辛酸を嘗めさせた事は褒めてやる。
 だが貴様にそんな力はあるか? 消滅する世界そのものから仲間達を救う方法が!」
「くっ……!」
「おっと動くな! 相転移砲の時とは違う。私も危なかったが故にチャージしたエネルギーを霧散させ、貴様らに余波が来なかった。
 今、このゼストを破壊すればどうなるかわかるか?」
「いかん、キラ君! ゼストを破壊すれば、奴はその瞬間貯め込んだエネルギーをばら撒く気だ!」
「そうだ! これでお前達は私に手出しできまい!」
「貴様、どこまで見下げ果てた奴なのだ!」
「どうしてもと言うなら助けてやらんでもないぞ! このゼストの一部になる事を了承するのなら、だがな!
 フ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! どうしたところで、最後に笑うのは私なのだ!」

ユーゼスの高笑いだけが響く。
キングジェイダーが迂闊に動けば、空間の破壊を早める事になる。
ゼストは今も綻びを広げようと無秩序に破壊を振りまき、それを見ているだけの自分。
この世界でゼストを倒す訳にはいかない。

(どうする……どうする!? 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろキラ・ヤマト!
 『ゼストを排除しつつこの空間に害を与えない』……いや、その二つは両立しない。
 空間の歪みはもう致命的なところまで来ている。見方を変えるんだ。放っておいても決壊するなら、止めるんじゃなくてその前に)

OSを書き換えた時よりあるいは速く、キラの思考が回転する。
キングジェイダーのスペック、世界が崩壊するまでの時間、そもそもの要因、全てをシミュレートして。

(どの道ここまで消耗した僕らに、事前に考えていた方法でゲートを破壊する事はできない。これはチャンスなんだ。
 今この場には凄まじい力を持った機体が二体……キングジェイダーと、ゼストがいる。
 僕達が全力でぶつかり合えば綻びは加速する。だったら、その全力をゲートの破壊に向ければ!)

声を出すのも惜しく、トモロに命じていくつもの計算を並行して開始。
ゲート突破に必要な火力とその数を乗法した数値。
キングジェイダーとゼストのフルパワーをゲートへとぶつけた時に予想される数値。

(ダメか……足りない! あと一つ、強大な力がいる!
 カミーユのサイバスター……無理だ。まだ気絶している上に、あの力は精神状態に左右される。
 シャギアさんのF91でも足りない。もう一度Jカイザーが使えたら……!)

凰牙のファイナルアタックでは少し足りない。電池を全部使い切れば話は別だが、それでは凰牙が動かなくなってしまう。
ネリーブレン、は論外だ。
ラーゼフォンにもう攻撃能力はない。これも不可能。

(他に何か、何かないのか? 強力な力をも持っていて、代償なしに放てるものは……)

その時、パッと閃くものがあった。

――済まないが、これを預かっておいてくれ――

そう言って、ある男がJアークに置いていったもの。
カミーユの資質を確かめるため、あえて道化を演じた気高き孤高の『悪』。
レオナルド・メディチ・ブンドルが残した力。

(反応弾……!)

この戦闘中に何度も使用を考えたはずなのにすっかり忘れていた。
あれなら、誰に消耗を強いる事もなく強力な破壊を導き出せる。
攻撃範囲の問題も心配する事はない。
発射するのではなく、直接手に持って起爆させるのだから。遥か上空、ゲートに最接近した場所で。
至近距離から撃てばゼストとてただでは済まない。全力でバリアを展開するだろう。
挟み込むようにキングジェイダーもジェネレーティングアーマ―を展開し、爆発を抑え込む。
反応弾、ゼスト、キングジェイダー。
三位一体の『自爆』――必ずや、ゲートを破壊できるはずだ。

「トモロ……やれるかい?」
『可能だ。しかし、我々が生き残る確率はほぼ皆無だぞ』
「うん、わかってる。でも……他に方法がないから、やるしかないよ。君には悪いけど、付き合ってくれる?」
『構わない。勇気ある者と共に戦う事こそが、私がここにいる理由だ。君が勇気を持って進むというのなら、私はどこまでも君と共に往こう』
「ありがとう、トモロ」

抑揚のないその声に、何故だかキラの胸におかしさがこみ上げる。
違う世界の機械はこんなにもユニークなものなのか。
だったら、自分達の世界の――そう、アスランが作ったトリィやハロなんかも、いつかこうして人と対等の存在になるのかも知れない。
頼もしい『相棒』、トモロ。
今も共に戦っている、カミーユやロジャー、アイビス、ソシエ。バサラとシャギア。
志半ばで散ったアムロ、ブンドル、甲児。
他にも、ジョナサンやマサキ、武蔵。ガロード、クインシィ、キョウスケ。時に手を取り合い、また銃を向け合った人達。
そして、アスラン、ラクス、カズイ。キラの元々の友、大切な人達。

全てが一瞬に脳裏を通り過ぎ、ここに立っていられるのは決して自分一人の力ではないと改めて認識する。
アークエンジェルにいた時はわからなかった。
自分が全てを守らなければいけないと思い、誰かの事を考える余裕がなく衝突した事もあった。
思い上がりも甚だしい。
世界は自分だけのものじゃない。そんな当たり前の事を、目の前の男に伝えなければならない。

(だから)

振り返らずに進む。
立ちはだかる壁、ユーゼスを倒すのが自分の役目。
後の事は仲間達がなんとかしてくれると信じて、その礎になる。

「……行くよ、トモロッ!」
『いつでも』

小気味よい返答に笑い、キングジェイダーをゼストへと突っ込ませる。
その強大なパワーでゼストをがっしりと捕まえて、急上昇。
二つの巨獣が重なり合って天へと昇って行く。

「何のつもりだ、キラ・ヤマト!」
「あなたをこのまま逃がす事はできない! このまま僕と一緒に……!」
「貴様、自爆するつもりか!?」

急速に離れていく大地、逆に迫って来る空。
波動渦巻く空間の綻びへ向けて一直線に突き進む。

「待ちなさい、キラ!」
「何を考えている!?」

ソシエとロジャーの声に、反応は返さない。もう説明している時間もないのだ。

歪みの真下へと到達。
ここに、膨大な量の力をぶつければ主催者のところへ続く道が開けるはず。
ゼストが狙いを察したか、凄まじい抵抗を見せる。
ほぼ密着した体勢から撃つグラビティブラストやゲッタービームが、バリアを貫いてキングジェイダーの清冽な装甲を汚す。
激しい震動に揺られるが、キングジェイダーは掴んだ腕を離さない。

「ええい、放せ! 貴様ごときが私を道連れにしようなどと……!」
「放すもんか……わかるんだ、あなたを自由にさせちゃいけないって!
 あなたはあのノイ・レジセイアと同じだ! 自分の欲のために誰かの自由や幸せを奪おうとする!
 そんな世界は絶対に認めない! 許しちゃいけないって、僕の中で何かが叫んでいるんだ!」
「力を持つ者はそれを活かす義務がある! 弱い事が罪なのだ! 奪われたくないのなら、力を持つしかあるまい!」
「それはあなたの理屈だ! 他の人を巻き込むな!」
「貴様は違うと言うのか? それだけの力、元の世界で振るわずにいたと言えるのか? そうではあるまい!
 貴様も所詮は私と同じだ。優れた力を、結局自分のためにしか使っていない!」
「……っ、たしかに僕は人とは違うかも知れない。それで辛い目にあった事だってある! でも……ッ!」

キングジェイダーの眼前に、ぽつ、と小さな光が生まれる。
艦内からES空間を通じ出現させた反応弾。
ユーゼスの息を呑む音が聞こえる。その威力を知っているなら、この距離で起爆すればどうなるかもわかるはずだ。
まずまず勢いを増して抵抗するゼスト。キングジェイダーもまた、その身が傷つくことを厭わず強く縛り付ける。

「それでも僕は、あなたのように誰かを利用したり、見下したりはしない!
 同じ世界に生きる人間として、手を取り合って生きていきたいんだ!」
「ふん、戯言を言う。お前がそのつもりでも、相手が受け入れてくれると思うのか?
 人間は弱い生き物だ。自分より優れた者を妬み、排斥しようとする。古今そんな歴史はどこの星でも掃いて捨てるほどある!
 貴様とてその力を妬む者がいないと言えまい、『コーディネイター』! 
 なにせ貴様は親しい友人にすら怖れられている! 幾度も危機を救われているというのに!」
「っ、どうして……!?」
「カズイ・バスカーク。このメディウスの最初の『親』だ。
 AI1は彼の屈折した思いを実によく覚えているぞ! 『友達』ではあるが『化け物』でもある、コーディネイターのキラ・ヤマト!
 あの少年こそが世界の縮図だ! お前の人間性なのではなく、守ってくれる力のみを欲する。醜いものではないか!
 ここでも奴はお前を友ではなく化け物として、殺すためにゼストを育てたのだぞ!」

水を得たかのように嬉々とし叫ぶユーゼスの言葉がキラの胸を抉る。
カズイがどのように自分を見ていたか、薄々はわかっていた。
いざ言われるとショックではある。でも、

「だから、何だッ! 僕がコーディネイターなのはどうしたって変わりはしない。
 コーディネイターだから疎まれると言うなら、それ以外のところでわかり合っていけばいいだけだ!」
「できると思うのか、そんな事が!」
「できるさ! 現に僕らはそうして仲間になれた!
 コーディネイターだとかニュータイプだとか、そんな事は些細な事なんだ! 本当に誰かを知りたいと思うなら、何度だって話せばいい!
 たとえ銃を撃ち合ったって、その過ちを認めて謝って、また手を取り合う事は出来るんだ!
 できないと思うのは……あなたが臆病だからだ!」
「なんだと……?」
「誰かを知る事が、誰かに知られる事が怖いからそうやって見下して、自分を高い所に置く!
 だからあなたは一人なんだ! 自分と対等の相手がいなければ、自分の事なんて何もわかりはしない!」
「黙れ! 貴様に私の何がわかる!」
「わからないから、わかりたいと思って手を差し出すんだ! あなただってそうしようと思えばいつだって誰かと手を取り合えた!
 でもそれを拒んだのはあなただ!」

キングジェイダーからの命令により、反応弾が自爆のシークエンスに入る。
熱量が急激に上昇していき、目に見えて危険なレベルに突入した。

「い、いかん! よせ、それが爆発すればお前も助からんぞ!」
「わかってる……でも、あなたを止める事は出来る。そして、仲間達の未来を守る事も。
 僕は一人じゃないから。たとえ僕が死んでも、僕を覚えていてくれる人がいる……僕の想いを、代わりに先へ進めてくれる人がいる。
 だから、後悔なんてない。きっと、みんながノイ・レジセイアを――」
「う、うおおおおッ! この私が、こんなところで――」

ゼストが最大限にエネルギーを放出し、身を守ろうとする。
呼応するようにキングジェイダーもまたその出力を上昇させていく。
反応弾に耐えようとするゼストへキングジェイダーの全パワーをぶつけ、荒ぶる三つの力でゲートを破壊する。


「キラァァァァああああああああっ!」

ロジャーとソシエ、そして気がついたのかアイビスの声も聞こえる。
危険を感じ取ったかバサラの歌が一際高くなり、ラーゼフォンから広がる光が傘となり、地上の仲間達を覆う。
一つ、そこから何かが外れて、

そして、

臨界を越えた反応弾が、

ゼストと、キングジェイダーと共に、



――――――起爆する。



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