【優勝者、および生存者   紫雲 統夜】



















崩れていく灰色の肉から浮上する騎士。
その手に握られた、半ば折れた剣が振り下ろされる。
死したブレンパワードにかわす術はなく。
どうなったかを語る必要はないだろう。


それが、結末。


ハッピーエンドの条件は―――『愛』が全てを乗り越えること。



【アイビス・ダグラス 死亡確認】






うっすらと目を開けて真っ先に考えたのは、どうして自分はこの冷たい床の上で横になっているのかという事だった。
まだはっきりとしない意識のまま、青年――シン・アスカはゆっくりと体を起こした。
そのまま周囲を見回す。そして目に入ってきた光景に、シンはまだ夢の続きを見ているのかと思った。
見知ったミネルバの艦内、ではない。そこは見覚えの無い、広いドーム状の空間だった。
照明器具の類は何一つ無いにも関わらず、ドームの天蓋全体がうっすらと発光しているおかげで
場内はかろうじて人の顔を判別できる程度には明るい。
どうやらこの部屋には他にも大勢人がいるらしく、ざわめきが部屋全体に反響している。
頭にも徐々に血が巡ってきた。しかし、依然として状況が飲み込めない。
記憶を辿ろうにも、ここに来る直前だけが何故かはっきりしない。
「なんなんだ……ここは」
「シン……? ちょっと、ここどこ?」
何気なく発した独り言に返事が返ってきたことに驚いて、シンは振り返った。
そこにいたのはシンも良く知る少女――同僚の、ルナマリア・ホーク。
「知らないって……ルナまでなんでここ?」
「こっちが聞きたいわよ。さっきまで寝てたと思ったら、急にこんなところに……回りも似たような感じだし……」
ルナマリアの視線を思わず目で追う。
いつの間にか薄明かりに目が慣れて、さっきよりもはっきりと場の状態が把握できた。
不安げな表情で寄り添う小さな娘と青年の姿が見える。兄妹だろうか。
オレンジの髪の青年が地球人がどうのとイライラした調子で叫んでいるのが見える。
テンガロンハットのような帽子をかぶった男が、きょろきょろしながら気だるげに座っているのが見える。
たった一人だけ、シンの割と側にいる黒ずくめのスーツ姿の男だけは、まったく動じることなく屹然と立っているが、
確かにおおむね望んでこの場所にいる人間はいないようだった。
黒い男が、小さく口を動かした。なんと言っているのか、シンには分からなかったが、
少なくとも回りの人間と同じような現状の把握のための言葉ではない気がする。
シンの背中を冷や汗が流れ落ちる。
嫌な予感がする。何か、とてつもなく良くない事が起こるような。
――その予感は、それから程無くして最悪の形で的中することとなる。



『みんな……起きてくれ』



その声が『自分の頭の中から』聞こえてきた時、シンはこの異様な状況に自分の精神が異常をきたしたのかと思った。
しかしどうやらそうではないらしく、ルナマリアも、場内の他の人間達も一様に同じ声を聞いたようだった。
ざわめきが場の空気を介して伝播する。
状況を確認しようとシンが口を開きかけた矢先、声が再び脳内に響いた。

『俺の名前は、紫雲統夜』


混乱する頭を無理に急き立て、シンは何とか今の状況を把握しようと必死になった。
今、声は確かに自分の名を名乗った。という事は、この声の主はどこからか自分達の脳内に語りかけているというのか。
まだ家族が生きていたころに読んだ空想小説に出てきた単語が思い出された――テレパシー? いや、そんな非科学的な……
しかし次の一言で、シンの思考は今度こそ完全に停止することとなる。






統夜は自分の前に集められた人間へ、複雑な視線を送っていた。
あの殺し合いの後、吸収されきる前にノイ・レジセイアが死したことで統夜は意識を取り戻した。
カミーユと違い、粉砕されず原形を保ったまま吸収されたが故に、統夜のみが助かってしまったのだ。

統夜の当てとは、ノイ・レジセイアだけでなくカミーユとアイビスも殺し、その力を奪うことだった。
しかし――残留したノイ・レジセイアの力と、アイビスとブレンに残っていた力を全て吸い上げても、
統夜には重要な部分が足りていなかった。

それは、単純な力の量でなく、人を生き返らせるには複雑な過程が必要だということ。
肉体があれば、統夜の力だけでも蘇生は可能だったかもしれない。
けれど、テニアの命は、今自分がいるネビーイームのそばに浮かぶ新しい世界の一部となっている。

金属を加工するには溶かすための熱が必要だが、それだけではダメだ。
核兵器並みの過剰な熱があっても、それを操作し、他のものと組み合わせなくては、正しく加工できない。
何の因果か、ノイ・レジセイアの知識まで吸収した際手に入れてしまった統夜は、そのための方法を理解する。

ノイ・レジセイアの知識から発見した、世界から命を抽出する方法。
それは、同じように作り出した世界と、テニアの命を内包する世界をぶつけ合わせ、世界を解体して取り出すというものだった。
統夜は、デュミナスがノイ・レジセイアの世界に突入する際に保有していたMUの力と、
ノイ・レジセイアが世界を作り出すために行ったやり方を、裏表まで知識として手に入れた。

………ノイ・レジセイアが行った方法を完全に反復することができたのだ。


突然の出来事にかたまるしかない参加者たちに、統夜は説明していく。
おそらく、自分の言うことを理解している人間は半数もいないだろう。なぜなら、自分たちもおそらくそうだったのだから。


「……少し、よろしいか」


説明を中断する声の主に、統夜だけでなく会場全体の視線が集まった。
全身黒尽くめのスーツを身に纏った男だった。毅然とした態度で数歩前に歩み出る。
―――統夜は、気付かなかった。会場に、一人だけ招かれざる客がいたことを。統夜は、その姿を確かに知っている。

『あんたは……なんでここに!?』

統夜は、自分がノイ・レジセイアの殺し合いに集められた時を思い出した。
なんという――デジャヴ。



「私の名はロジャー・スミス。
 自身と同じ境遇の世界を生み出さないように交渉してほしいと、依頼を受けてここにいる。
 私が私である限り、私は確かにここにいる」



『俺を止めようって言うのか?』
「その通りだ」
『やれるんなら、やってみろよ』

短い会話ながら、お互いの意思を伝えるには十二分。
統夜は、ロジャー・スミス含む五十二名の参加者の前で宣言する。





『……これから集まってくれたみんなには……最後の一人になるまで、殺し合いをしてもらう!!』






ノイ・レジセイアが自分の勝手な都合で世界を求めたのと同じように、統夜もまた勝手な都合で世界を求める。
いや、ノイ・レジセイアや統夜だけではない。求めるものも世界とは限らない。
人が戦いを、戦乱を、そしてそれらの縮図であるバトルロワイアルを通して何かを求める限り。
そして殺し合いを通してシャギアや統夜、アイビスのように進化していくものがいる限り。
善悪を超えて、変わっていく物がある限り。

この広い多元の宇宙のどこかでバトルロワイアルが始まり、終わっていく。
ノイ・レジセイアが案じた通り広い宇宙で、戦いは続いていく。
だが、同時にそれを阻み、話し合いという手段を持って戦いを終わらせようとする者も確かにいる。

人の可能性と、人の希望と、人の輝きを閉じ込めたバトルロワイアルは終わらない。


【ネクスト・バトルロワイアル   開幕】

             【主催者 紫雲 統夜】
             【再参加者 ロジャー・スミス】
             【参加者 シン・アスカ含み他五十一人】

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