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*出会い  私がトラナと出会ったのは桜の季節は過ぎ、青葉が萌える初夏のことだった。その頃の私はまだ暁の円卓の設立のために駆け回っていて。 霊峰暁山の山麓に広がる森の奥にはちいさな湖がある。そこで裕王が保護したのがトラナだった。  連れて帰ってきたトラナを見て、あまり喋らない子だな、と思ったのをよく覚えている。もっとも今でもそんなに喋る方ではないけれども。  これは裕王から聞いた話。    出会い  深緑の森が広がっている。山岳地帯の多い暁の円卓の森は秋になれば燃えるような紅に染まる。 道無き道を分け入って、しらいし裕―裕王は新たに開発する土地の視察のため、森の奥にいた。  この国ではこのように陣頭指揮をとることも珍しくはない。この広大な領土のわりに働ける人があまり多くないと言う国柄もあり、働けるものは王ですら例外無く使われる。  ぴちゃっ、と水音がする。警戒する傍遣えのものを手で制すると、裕王は耳を澄ました。    どこからか歌声らしきものが聞こえる。それはまるで天使の歌声だった。意味はわからないが、誰かを慰めるようなそれでいて悲しみを帯びた音色。 魔物である可能性も脳裏に描いたが、意を決して湖を覗く。 そこには地上に舞い降りた天使がいた。    その場にいたもの達は一様に雷に打たれたようにその姿を眺めるだけであった。  だが、裕王は違った。天使のような少女の憂いを帯びた表情が目に入ったのだ。どこか、悲しみを帯びた瞳、不安の影。それらは裕王の望む世界において、子供に持っていて欲しくないものであった。 「子供が元気じゃなきゃ国が滅ぶんだ。元気でやってくれないと、困る」  裕王は躊躇いを振り払い少女に声を掛ける。  蒼を湛える湖に踊る金色と紫の少女はその声に舞を止め、静かに問い返した。 「誰?」  その姿は王であるはずの裕王よりも堂々としており、高貴な出であることが居るだけで見て取れた。警戒の色を滲ませながらも、少女は待つ。 「この藩国の藩王をやってる、しらいしって奴だ。まぁ何もないがゆっくりしていってくれ」  初対面で藩王を名乗られても納得するのは難しいが、未熟ではあれど、裕王は王であった。 「……」  王であろう事は間違いない、と少女は直感した。 「それとまぁさっきのは俺のばーちゃんが教えてくれた言葉でね、元気でいてくれると俺は嬉しい」  嘆息を一つ。そして苦笑する少女。 「……変な王ね」 「よく言われるよ。でもまぁ俺の持論でもある。元気が出るように俺でよければ手伝うが?」  裕王はさわやかに笑って言う。その様子を見て少女は少し警戒心を解いた。この王は変わっているが、悪い人間ではない。 この時少女は、攫われてパパに助け出してもらった時のことを思い出していた。 「……パパを探して」   ふと、少女の口をついて出た言葉。  それを聞いた裕王は、少女が悲しい顔をしていた原因の一端に触れた気がした。 「パパか……とりあえずうちまでくるかい?そこで詳しい話を聞こう。たいしたもてなしは出来ないがね」  少女はこくりと頷くと裕王の隣に並び歩き出した。ついてくるそぶりを見せる少女に安心して帰りの途に着こうとする裕王。ただしこの絵面だけ見ると少々犯罪的にも見える。そして肝心なことを裕王は忘れていた。  「―あぁスマン。君の名前を聞いてなかった。君の名前。よければ教えてくれるかい?」 「トラナ」 
 私がトラナと出会ったのは桜の季節は過ぎ、青葉が萌える初夏のことだった。その頃の私はまだ暁の円卓の設立のために駆け回っていて。 霊峰暁山の山麓に広がる森の奥にはちいさな湖がある。そこで裕王が保護したのがトラナだった。  連れて帰ってきたトラナを見て、あまり喋らない子だな、と思ったのをよく覚えている。もっとも今でもそんなに喋る方ではないけれども。  これは裕王から聞いた話。   *出会い  深緑の森が広がっている。山岳地帯の多い暁の円卓の森は秋になれば燃えるような紅に染まる。 道無き道を分け入って、しらいし裕―裕王は新たに開発する土地の視察のため、森の奥にいた。  この国ではこのように陣頭指揮をとることも珍しくはない。この広大な領土のわりに働ける人があまり多くないと言う国柄もあり、働けるものは王ですら例外無く使われる。  ぴちゃっ、と水音がする。警戒する傍遣えのものを手で制すると、裕王は耳を澄ました。    どこからか歌声らしきものが聞こえる。それはまるで天使の歌声だった。意味はわからないが、誰かを慰めるようなそれでいて悲しみを帯びた音色。 魔物である可能性も脳裏に描いたが、意を決して湖を覗く。 そこには地上に舞い降りた天使がいた。    その場にいたもの達は一様に雷に打たれたようにその姿を眺めるだけであった。  だが、裕王は違った。天使のような少女の憂いを帯びた表情が目に入ったのだ。どこか、悲しみを帯びた瞳、不安の影。それらは裕王の望む世界において、子供に持っていて欲しくないものであった。 「子供が元気じゃなきゃ国が滅ぶんだ。元気でやってくれないと、困る」  裕王は躊躇いを振り払い少女に声を掛ける。  蒼を湛える湖に踊る金色と紫の少女はその声に舞を止め、静かに問い返した。 「誰?」  その姿は王であるはずの裕王よりも堂々としており、高貴な出であることが居るだけで見て取れた。警戒の色を滲ませながらも、少女は待つ。 「この藩国の藩王をやってる、しらいしって奴だ。まぁ何もないがゆっくりしていってくれ」  初対面で藩王を名乗られても納得するのは難しいが、未熟ではあれど、裕王は王であった。 「……」  王であろう事は間違いない、と少女は直感した。 「それとまぁさっきのは俺のばーちゃんが教えてくれた言葉でね、元気でいてくれると俺は嬉しい」  嘆息を一つ。そして苦笑する少女。 「……変な王ね」 「よく言われるよ。でもまぁ俺の持論でもある。元気が出るように俺でよければ手伝うが?」  裕王はさわやかに笑って言う。その様子を見て少女は少し警戒心を解いた。この王は変わっているが、悪い人間ではない。 この時少女は、攫われてパパに助け出してもらった時のことを思い出していた。 「……パパを探して」   ふと、少女の口をついて出た言葉。  それを聞いた裕王は、少女が悲しい顔をしていた原因の一端に触れた気がした。 「パパか……とりあえずうちまでくるかい?そこで詳しい話を聞こう。たいしたもてなしは出来ないがね」  少女はこくりと頷くと裕王の隣に並び歩き出した。ついてくるそぶりを見せる少女に安心して帰りの途に着こうとする裕王。ただしこの絵面だけ見ると少々犯罪的にも見える。そして肝心なことを裕王は忘れていた。  「―あぁスマン。君の名前を聞いてなかった。君の名前。よければ教えてくれるかい?」 「トラナ」 

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