mariage~結婚式~



その日1000名を越える名だたるACEや業界関係者に祝福され、一組の夫婦が誕生した。
新郎は高原鋼一郎。
キノウツン旅行社の社長にして、初めての微笑青空勲章を受賞した人物である。
新婦はアララ・クラン。
戦場で小太刀戦車隊に救われた少女は今ここに立っている。

これは、その二人の結婚式の記録である。

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画像はぐるぐるしている新郎の姿から映し出される。
シックな礼服を着せられ、髪型を整えられた。まさに控え室は戦場であった。入れ代わり立ち代り高原をメイクアップしていく。
この晴れの日を、突き詰めて言えばすべては花嫁を引き立たせる為にすべては用意されたとも思えた。それは自分ですら同じであろう。
そんな高原のもとに現れたのは一人の男であった。
彼の話によれば予定されていた付き人は病気になったと告げ、急遽変更になったとのことだ。名を大和丘一人、と名乗る。

「大和丘さんですか。よろしくお願いします」
高原は偽名らしきその名をいぶかしみながらもおくびにもださず、握手を求めた。
大和丘は遠い年月を重ねたかのような目をしていたが微笑みながらその握手に両手で応えた。
「ありがとう」
確かにそう聞こえた。
そしてしっかりと見据えて言葉を継いだ
「そして、お幸せに」
大和丘から視線を外すとその存在をなぜか忘れてしまう。だが、その言葉の暖かさは忘れないであろう。

しばらくして左のポケットに違和感があるのに気づいた。
何も入れたつもりもないが、何か入っているらしい。
「?」
取り出してみると入れたつもりもない小さなコインが入っていた。

バルタザールコイン。

それは聖者の名を冠した歴代のエースですら数名しか所持者の居ないコインだ。
世界の崩壊を止める加護を得られる、そういった代物であった。
誰かの祝いの品のつもりかもしれない。
高原は感謝しつつ、再度ポケットに収める。

「どうしたんですか? それよりも、アララさんのウエディングドレス、自信作ですから見に行って下さいよ!」

キノウツン藩国から付き添いで来ているドレスデザインを手がけた沢邑勝海が声をかけてくる。ここのところ、礼服とドレスのデザインであまり寝ていない。縫製もメイドの国の威信をかけて最高峰を目指していたため、少々ハイになっているらしい。
「さて行きましょうか。お待たせしてすいません」
高原はその誘いに乗り、控え室前まで来た。
その前にいるのは式場スタッフの女性。
にこやかに入室を拒否される。
結局のところ、二人は花嫁花嫁の姿を見るのは本番で、とかるくたしなめられたのである。

逸る気持ちを抑えつつその時を待つ。

もうすぐ、定刻だ。

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「そろそろお時間ですよ」
大和丘から声がかかった。

「はーい」
高原は席を立ち隣に居た沢邑に一言かける。
「それじゃ行ってまいります。また後で」
そして付き人をつれて、長い長い道を歩き出した。
「頑張ってきて下さいね! 今日の主人公は高原さんとアララさんなんですから!」
沢邑の声援を受け廊下で苦笑する。
「主人公って柄じゃないですよ俺は」
その苦笑を見て大和丘はこう言った。
「それでいいじゃないですか」
その目は高原を射抜くように見据えている。
「あの子が選んだのは、そう言う貴方だ」
そのことばはスッと胸に入ってきた。
「励ましていただいてありがとうございます」
返礼に大和丘はやさしく微笑む。この瞬間、この笑顔だけは忘れないだろう。


会場に入った瞬間。まず驚いたのはその人の数だ。
その数は1000を越える。
名だたるACE、エース、そして業界関係者の面々がそろっている。

久保雄一郎がいる、エースの海法も是空もいる、永野英太郎もそれぞれが口々に祝いの言葉を述べ席へ着いていく。佐々木社長は本日はカメラマンをやっているようであった。
まさに無名世界観の総覧ともいえるようなある意味異常な事態である。

舞はドレス姿で腕を組みながら高原のほうを見ている。
そして一言呟いた。
「中々のものだ」
「と、いいますと……?」
移動する新郎がその言葉に相槌を入れるとその視線の先を追った。
舞が言ったのは、規模や新郎のことではなかった。
その視線の先には花嫁の入場の入り口。
ハッと息を呑む。

白……そして赤。

それは紅き髪を純白のドレスに咲かせるそれは見事な薔薇。

澄ました顔で高原の方に歩み来るアララはその仕草を見て一瞬にして頬を紅に染め、盛大に横を向く。その姿を認め、急に実感を伴ってきた、そんな風にも取れる。
朱の入った顔をなるべく見せないように軽く伏せながらアララは高原の傍に歩み寄る。
「あの、その、えと」
高原はうまく言葉が出ない自分がもどかしかった。
最前列に招待された客や、デザインを任せた沢邑からも無言の応援が飛んでいた。目が、そう訴えかけている。そうしてまごまごしているとアララから何とか搾り出したような、照れの大いに入った声が聞こえてきた。
「に、似合わないのは、自分でも分かっているから、……だから、目を逸らしていて」
「いやいやいやいや」
高原は即座に否定した。もう何がなんだかわからないが、だめだ。このままでは。

「見ますよ、晴れ舞台なんだし」

アララは視線で高原を二重の意味で殺しそうににらんだ。
そして、すでに赤い顔をさらに紅くして下を向く。

「似合わないわけ、ないじゃないですか」
その言葉を聞いて、小刻みに体を震わせながらアララはつぶやいている。
「嘘ばっかり」
「アララ、嘘つく余裕があったらこんな緊張しません」
 高鳴る胸と体を包む緊張に対しできる限り冷静を努め、高原は下を向きつつ語り掛ける。

「よろしいかな」

本日の挙式を司るは知恵者。
白き衣を身に纏い、こうして壇上にいる限りは光の神々の一柱かのように見えた。

二人は互いに視線を外して下を向いた。

盛大な拍手が巻き起こる。
この場は祝福の場。

アララは高原を見ている。その視線が訴える意味は……

『嘘だったら、許さない』

燃えるようなその想いをすべて受け止め、高原は

『この場で嘘つけるほど、大物ではないですよ』

と思いつつアララを見る。想いは伝わるものだ。今の二人に言葉は要らないのかもしれない。アララは小さく頷いた。
そのとき後ろにいた付き人はその光景を目の当たりにしてこっそり微笑んで、背を向けてどこかに歩き始めた。 一瞬、アララが視線をその背に向けるが、すぐに忘れたかのように前を向き直る。なにか高原もその仕草に引っかかるものがあったが同じく前を向く。

清子さんが、礼砲を撃った。
その音はアララの3人の父親からの祝福の調べである。

「では私に誓うがよかろう」
厳かに、それが当然であるかのように知恵者は告げる。
「私に誓ったから何があるわけでもないが、私は貴方がたのことを、ずっとずっと覚えていられる。
 貴方が死んで、宇宙がいくつも崩壊しても」
「はい。ええと共に歩み続ける限り、生涯新婦を愛する事を誓います」
 高原は多少しまらないところがあるが、力強く宣言した。生涯でもそう何度もない機会だ。
 その言葉を聞いてアララは又顔を朱に染め、横を向きながら言葉をつむいだ。
「同上」
知恵者はその言葉を聞き再度誓いの言葉を促した。
「もう少ししっかり言うがよかろう」
「同上っ!!」
アララは肩を震わせながらむきになって再度繰り返す。
知恵者は顔をしかめた。
「えーと、一緒にもう一度言いましょうか…?」
心配になった高原が声をかけるとアララはいじわるっという顔で、知恵者を見た。
半ば涙目だ。
その姿に知恵者は微笑む。
「天が落ちるまで、地が裂け海が割れるまで」
赤くなったままだが今度こそ正面を向いて宣言する。
「私は誓います。アララは名を棄て愛の名をとると」
「よかろう。ロール・クランの娘アララ。良い航海を。絶技を使いなさい」
その知恵者の言葉にアララは頷いた。
そして絶技『キスの誓い』をかけ、高原を見る。
「目を、つぶって。恥ずかしいから」
視線が多少下を向いている。
「はい。あと、……愛してますから」
高原はまっすぐアララに視線を向け、その姿を焼き付けると軽く目を瞑った。
最後の言葉は小さくて聞き取れているかは自信がない。そう、言っておきたかっただけだ。
「それぐらい知ってるわよっ」
小声で返答がくる。

そしてその直後、唇に暖かい感触。
何かが心の中に宿った、そんな気がした。

そして大歓声と一斉に礼服組が帽子を投げた。帽子が乱舞している。

同刻、同じ礼服を着てはいるが、遠く式場の端で3人の父親、つまり小太刀達はペリスコープでその光景を見ると、戦場に移動を開始した。その後姿はひどく満足そうに見えた。
『これが自分たちが守ったひとつの未来』であると。

3人と1機が去った会場は未だ一種の熱気を帯び続けている。式は最高潮にあった。
いつまでも、そう、いつまでもこの幸せが続けばいい。

二人の前途を祝福あれ!