※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

歌い手

散り行く者に、一握りの哀れみを




A Song of Saving


 歌が聴こえる―――

 暁の円卓でそんな噂が流れ始めたのは、三角とびの訓練が始まってからしばらくしてのことだった。
 と言っても、ただ領内で歌が聴こえる程度なら噂になる事はない。

 そもそも暁という国を語るにおいて、歌は切っても切れないものである。暁の民はその戦いと血に彩られた日常の中で歌を唄い、生と死の狭間を行き来する。
 それ故か、歌への想いは尋常のものではなく、戦士団の中に唄士と呼ばれる歌唱部隊まで存在するほどである。

 しかしその当時、暁の巷間賑わす件の歌は、最高位の唄士・「詩姫」が限られた場でのみ許されるはずの歌――戦いと言う日常の中で死んでゆく者への哀しみを唄った、鎮魂歌だった。

 語るまでもないであろうが、戦いを生業とする暁において鎮魂歌はみだりに唄われるべきものではない。しかし、どこからともなく響くその歌声は詩姫ですらかき消す事はできず、暁で広まり始めていた。

/*/

 ここに、暁の円卓のある一族の古い家系図がある。暁の信仰の総本山とも言える、明刻社に仕える最も古い一族のものである。
 単に古いだけでなく、現代に至るまで多くの武勇に優れた神官――神将を多く輩出した言わば名門であるが、この家系を遡って行くとある不可解な問題に突き当たることは、あまり知られていない。

 暁が修羅の国となる少し以前、古暁王国時代と呼ばれる時代。その頃の家系図には神官を意味する古語・シサと並んでカテという謎の言葉が刻まれているのである。

 暁において最大の動乱期のひとつに数えられる「龍星の乱」の時代を境にカテという言葉は消え、徐々にシサが神将へ変わっていくわけであるが、歴史学の研究が確立されているとはいえないかの国ではその言葉の謎は結局解かれずじまいであった。

/*/

 人里離れた、広い広い草原。その狭間の高い岩舞台の上で、一人の少女で剣を手に、歌を唄っていた。
 薄い刃を静謐な大気に鳴らし、おそらく法術の類も併用してるのだろう――声をマイクを持っているかのように広く響かせていた。高く立った岩舞台はまるでコンサートホールのようにも見えたが、観客と呼べるのは静かに沈もうとしている太陽だけだった。

 散り行く者に、一握りの哀れみを。

 何度も繰り返されたその詩を最後に、ポーズを取って少女が歌を止める。全身から衣を濡らすほどの汗を流し、荒い呼吸を整える。
 しばらくして少女が、岩舞台から降りようと足を踏み出した瞬間。

「よい歌ですね」
 小さな喝采の音とともに、一人の少女が姿を現した。
 長く伸ばした黒い髪、そしてまだ小さいその身を包むのは紅の衣服――白石王直下の騎士であることを示す、暁の礼服であった。

 歌姫の少女が、その手に持った短剣を強く握り締め、体を強張らせる。
 しかし、すぐに構えを解いて少女は目を伏せた。
 相手が暁の騎士なら、抵抗は無駄だろう。

「……私を斬りますか」
 どこか諦念を感じさせる声でそう呟いた声への返答は、意外なものであった。

「いいえ」
 驚きで目を丸くした少女に、別の声が聞こえた。

「ユウよ、この少女は私が連れてきたのだ」
 いつの間に現れたのか、黒髪の騎士から少し離れたところに鬼の面を被った一人の青年が立っていた。
「キロク……」

 顔見知りであろうか、その存在に驚きを隠せない少女に、騎士―風杜神奈は静かに声をかけた。
「その歌を、私にも教えて頂きたくて」

/*/

 カテという言葉は、暁の古い狩猟部族の言葉で「歌い手」を意味する言葉である。

 開拓民流入の遥か以前から歌による龍信仰を確立していた彼らは、北方よりもたらされた農耕によって定住を得たことにより、それを洗練。現在明刻社と呼ばれている社(やしろ)を建立し、現在に続く暁の信仰の祖となった。

 その両輪となったのがシサ、そしてカテの二つの神職である。祭祀を取り仕切り、民衆へ言葉を持ってそれを伝えるシサ。そして歌を持って龍に祈りをささげ、同時に人々の心に信仰を伝えるカテ。

 しかし、古暁王国の成立と同時にカテはその姿を消すことになる。政治と言うものが暁に生まれ、それに自らの力を利用されることを嫌ったのである。

 一方、明刻社という場所を守ることこそがすなわち信仰であるとの立場に立ち、政治の世界へと踏み出すことを決めた者たちがシサであった。


 シサが神将となったのは前述の通りであるが、歴史の闇へと消えていったカテ達はどうなったか。
 当然のことながら、公式の史書においてはその存在を語るものはない。とはいえ、彼らの歌声が暁の地から消えたというわけでもなかったようである。

 現代でも鎮魂歌が子を失った母親の間で歌われていることが非公式ながら確認されているが、これはカテの歌とよく似ている。また、民衆の口伝においても「岩舞台にて唄う歌姫」の伝説は多く散見される。

 これらから類推するに、カテは暁の各地を、大きな戦乱を避け転々と旅していったようである。岩舞台もその旅の過程で建造された、いわば彼らのための舞台であり、岩舞台の伝説はその歌声に惹かれた民が存在したという証左であろう。

 とはいえ幾度も暁全土を巻き込むような動乱が起こっているのも歴史的事実であり、また宗教的に異端ともいえる存在であったカテたちがただ旅をするだけで安全だったとは考えにくい。祭司としての力に加え、高い戦闘力も兼ね備えていたシサ――後の神将に比べてカテの戦士としての力は圧倒的に小さいのである。
 彼らが持つ短剣――オトハは現代でいう宝重(マジックアイテム)に近いもので、その声を広く響かせるためのものであり物を斬る事は出来ない。その刃は空気を鳴らすことで、カテの歌声を届かせるためのものなのである。

 にもかかわらずカテが現在まで生き延びてきた背景には、暁で現在「鬼」と呼ばれる存在の関与が確認されている。
 暁の少数民族である「鬼」は、カテの歌に魅せられそれを守ることを誓った――岩舞台にまつわるいくつかの伝説は、そう語っている。

/*/

 白石王の代に至り、暁の動乱はいったんの終息を見た。

 しかし、度重なる戦によって修羅の国と化した暁はそう変わるものではなかった。
 道端で決闘が起こり、戦士となれない子は成人することすらできない。

 それまで隠遁する生き方をしていたカテが、その歌声を岩舞台より遥か遠くまで響かせたのはその余りにも哀しい世に一矢報いるためであったのであろう。

 しかし――暁の有り様に哀しみを抱いていたのは、白石王も同じであった。
 彼が欲したのはあくまで守るための力であり、ただ戦うための力ではなかったのである。

 そして、鬼という存在によってその二つの想いが今繋がった。

 それが暁の未来に何をもたらすか、今はまだ誰も知らない。

データ


L:歌い手 = {
 t:名称 = 歌い手(職業4)
 t:要点 = 歌う,ポーズ,マイク
 t:周辺環境 = コンサートホール
 t:評価 = 体格1,筋力1,耐久力2,外見7,敏捷2,器用4,感覚4,知識1,幸運4
 t:特殊 = {
  *歌い手の職業カテゴリ = 派生職業4アイドレスとして扱う。
  *歌い手のアイドレスを着用するには根源力が20万以上必要になる。
  *歌い手は歌唱行為が出来、この時、防御、移動判定は評価+4される。燃料は必ず-1万tされる。
  *歌い手は白兵戦闘行為ができ、この時、攻撃判定は評価+4される。
  *歌い手は歌唱行為の評価を他の行為の代わりとして使えるときがある。1d6して3以下の時、これを行うことが出来る。
 }
 t:→次のアイドレス = 偉大なる歌い手(職業),剣の舞(イベント),アイドル(職業),沈静の歌(絶技)


スタッフ

イラスト:まさきち
設定文:時雨野椿
  
添付ファイル