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――思わず釣られて微笑んだその顔は今もまぶたに焼き付いている。

海風に吹かれて~blow the sea breaze~


 共和国には国土のほとんどを海が占める国がある。その名を紅葉国という。人を惹きつける魔力を持った宝物、黄金のリンゴを持つ女王ルウシィとあらゆる傷を治すと言われている治癒師、そして限りなく広がる海がこの国の名物であった。
 バルクはターバンみたいな布を頭に巻いてこの国にいた。何故かと言えば黒の軍勢がこの国に滞在しているからである。恋人であるミーアは遠く帝國の愛鳴之藩国より来て海岸線を二人並んで歩いていた。しかし当のバルクと言えば厳しい顔を浮かべている。

「風が強いですね」
 バルクは目を細めて海端の木々に視線を合わせた。それに応じてミーアも周りを見渡す。海鳥が風に煽られて、飛んでいくのが見えた。一言二言言葉を交わすが、弾むという感じではない。二人の他には風の音だけがそこに在った。

 ゆっくりと手を前で組んで、ミーアは身を寄せ上目遣いでバルクを見た。背の高いバルクと並ぶと少し見上げる形になるのである。ミーアは意を決するとその口を開いた。

「バルク様、私には分からないことが多すぎます。お尋ねしてもいいでしょうか?」
 手を前で組みバルクの答えを待つ。
「はい。……珍しいですね。そういうことを言うのは。」
 ゆったりとした口調でバルクは微笑んだ。少し意外だったらしい。クーリンガンのことを訊ねながらもミーアは不安を隠せない。その一言一言が当のバルクを遠くにやってしまう様な、そんな気がするからだ。

「もっとも、それが本物なら、もはや生きてはいますまい。」
 その言葉にミーアは胸がつまったような気がした。友人のことということもあるが、その姿をバルクに重ねてしまったからだ。
「バルク様、私は……」
 ミーアはそっと寄り添うように身を寄せる。為すがままにされるバルク。はい、と短く応えると優しげな瞳で見つめていた。その表情からは先ほどまでの厳しさは溶け、慈しみの表情となっている。
「自分の気持ちがよくわかりません……どうしたらいいのかもよくわかりません……」
「……誰しも、そうだと思います。」
 恋人の吐露する心情を汲んで、ぽつりとこぼした。その言葉にミーアは顔を上げる。そのまなじりには大粒の涙が浮かんでいた。ツーっと一筋の涙が頬を伝い落ちる。
「バロですら、シオネのことになるとそうです。私もあなたを思えばそうなるときもあります。そうそうわかるものではないと。」
 ぎゅっと強く身を寄せるミーア。その言葉はすっと胸の深いところに潜り込んでくる。いつもふらっといなくなったり、目を離すととんでもないところにいたりするバルクがこんなにも想ってくれているということが何よりもうれしかった。
「この先もいっしょにいたいです……ずっと」
 泣き笑いをするミーアにバルクは優しく微笑みかけた。いつものリフレインにも思えるこの言葉も気持ちが繋がってるいるから大丈夫。……だと思う。
「大好きです、バルク様、ずっと貴方だけ。」

 ――その言葉を合図に二人はキスをした。