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「オレのしあわせ」 暁の円卓 剣 まさきち



オレは13歳です。だけどこの国では立派な大人です。背は小さいけど公の場では子供扱いされないし、オレより小さい摂政様や、王様のお妃様もいるくらいだ。
オレはそれを幸せだと思う。オレくらいの子供だと、もっと歳をとった人たちは意見を聞いてくれない世界もあるという。
だけどこの国は、そんなことはない。
力があれば平等。
それは腕力や、戦闘力に限ったことじゃない。
生きる力全てをあわせた“力”が伴うこと。

愛する力も、その力のひとつ。

――オレには椿姐ちゃんという人がいる。
時雨野椿。
オレがこの国で剣となってからずっと王として存在してくれた人だ。
オレよりずっと背が高くて、大人っぽいお姉さん。
長い黒髪がきれいで、睫毛が長い。瞬きすると音が出そう。
足が長くて、ウエストもぎゅーっと細くて、胸も……えーと……なんだ、うん。
そんでもって強い。王じゃなくて剣でもいけるくらい強い。
それなのに、優しい。王なのに剣のオレをかばってくれたり、クリスマスにプレゼントくれたり………
オレの王として、勿体ないほどの人。

オレはずっと一人だった。
だけど、この国に来てオレは、家族を得た。
椿姐ちゃんという、最高の家族を。




まさきちの一日


□5:00 起床。

家の窓を開け、紅に染まる空を仰ぐ。暁の時――この国の空はどこまでも澄み、そしてどこまでも広い。
やがて山の端を縁取る光の線の一カ所が強く輝きだす。
それがこの国の日の出だ。
高い建物も、電線も、なにも遮らない高く澄んだ青い空を、太陽が独り占めして昇っていく。
それは値千金な光景だ。
オレはこの光を浴びて、今日を始める。





□7:00 登校。

オレはまだ13才だから、学校へ通っている。白石藩王と風杜摂政が建てた「学校要塞」だ。
以前は王と剣の為の学校施設だったが今は違う。
暁の円卓という国を背負って立つ全ての子供たちのための施設となった。15才までの義務教育で、給食付きだ!
同じ歳の子供が同じ教室に集められて、学問や武術だけじゃなく“協調性”を学ぶ。
いや、最初はたぶんみんなの想像通り酷かったんだけど、最近はかなりいい感じになってきた。
一緒に学ぶ、一緒に作業する、一緒に遊ぶ。
殺るか殺られるかな環境は誰だって疲れる。それよりもみんなで協力して“一緒に”生きていく方が力強いし健全だってことを、まだ力も無く遊びたい年頃に知るのは有効なことだと思う。
……ってご大層なことを言ってるけども、よーするに、

学校生活は楽しい!のだ。

朝の青い空気を楽しみながら学校へ歩いてると、いきなり後ろからフライングボディアタック!?
うぉぉぉ!と飛んできた身体を受け止めつつ一緒に地面を転がるオレ。見ると隣と後ろの席のクラスメートだ。
「おっは!」
「おっは、じゃねー!遅刻すんぞおい!」
二人掛かりはやめて欲しい、マジデ!
奴らはおめーなら大丈夫だろとかナントカぬかしながら、げらげら笑う。つか、思い出せばオレが先週やったことだ!
二人の差し出す手で立ち上がりつつ、大笑いしてる方をすかさずヘッドロック。
「スキあり!だぜっ!」
「んだこのー!」
「バカ、マジで時間ヤバいって!!」
オレらは端から見ればキツネの兄弟のようにじゃれながら校門をくぐった。
毎朝の光景――朝礼前に腹が痛くなるほど笑って――それから先生の顔を拝む。

オレはこの学校に行きはじめてできた、王剣でも部隊でもない「ともだち」という存在がすげー嬉しい。
バカなことばっかやってるけど、それでも、嬉しいんだ。

    *   *   *

ぴーんぽーんぱーんぽーん、とチャイムが鳴る。午前の授業が始まった。
はっきり言って頭脳派じゃないオレには机の授業は眠い……ッス。
けど、暁の授業は基本実用。弓の軌道を計算したり、ある戦闘を想定した兵站を考えたりする。バトルが絡むと目が冴えてやる気が出るのは暁国民の性なのかもしれないし、先生達もそれをわかってる。
内容に実用性があると、勉強も俄然面白くなったりする。おまけに「国語」とか「数学」とかいう分類がされてないくて内容がクロスオーバー。地理の話だと思ったらいきなり川幅の測定方法とかの話になり……これが結構解りやすいし記憶にも残る。
そうなるとどんどん先生のはなしを聞くのが楽しくなってくるから不思議だ。
正直、暁の国民はオレと同じで脳みそまで筋肉系が多いんじゃないだろうか。そんな子供に勉強をやる気にさせるテキストやカリキュラムを組んだ池内志野さんってスゴイと思う。美人だし。


今日は道徳―暁の正義についての授業。
“正義”の概念は個人で千差万別だ。だから強制はないが、暁の民としての指針を学ぶ授業となる。
教師は自身の体験を挙げながら話す。
強さは何のため、か。それは何かを守るためだと。
己の身を守る、自尊心を守ることよりも、弱きもの、隣人、愛するものを守る為に強くなる、強くなれること。その強さはあきらめない心を生み、更なる強さを目指す動機となる。

「若い君たちが守りたいものを持つのは難しいかもしれない。まだ守られる存在でもあるからね」教師は言う。
「だけどこの世界には戦争が多い。強い暁の民が戦争に呼ばれるのは帝國では日常のことだ。君たちも十分強い、だから近い将来、戦いに赴くことになる。その時何か一つでも守りたいものを持っておきなさい。それはお母さんでもいい、隣の女の子でもいい。そして戦いが終わったとき、またその人に笑顔で会えるように戦いなさい。勝って、大事なものを守りなさい」

オレは先生の話を聞きながら、椿姐ちゃんの顔を思い出す。
オレがまだ剣になりたての頃、ある異世界の戦いで死にかけた、いや多分死んだ。
その時、薄れていく意識の中で、庇うようにオレに負い被さる椿姐ちゃんの顔を見た。その頬は、涙で濡れていた。
オレに力がなかったから、負けた。戦術が上手くいかなかったから、部隊は全滅した。
オレは王を守れなかった。
剣の自覚が足りなかった。守ることを知らず、オレはがむしゃらに突っ込んだだけだったんだ。
いつもオレの背中に椿姐ちゃんがいることを、オレはその涙と重なる身体の重みで知った。
あの瞳にもう涙を浮かばせないことを、誓う。
椿姐ちゃんにはいつも勝ち気に笑っていて欲しいから。

  *   *   *

チャイムが鳴る。次は暁の真骨頂、武術の時間だ。
オレたち白兵科はやはりこの科目のウェイトが一番大きい。
皆が道着に着替え、稽古場に展開する。その目は真剣だ。
オレは既に剣だから、学校で学ぶ剣術のレベルはマスターしていた。しかし、それをさらに生かす為に空手や功夫等、他の体術の訓練に積極的に参加している。足技を鍛えることで下半身の安定、さらには剣戟の隙を突いた攻撃への応用として生かせるし、組討は剣が使えない狭所での戦闘に生かすことが出来る実用術だ。足腰の強化は三角飛びの高度にも影響した。
地稽古や乱取はレベルに合わせたハンデを付けるものの真剣勝負となる。お互いの闘志や技術をぶつけ合う。もちろん怪我上等!だが付けられるハンデの的確さ故か、死人がでることはない。この真剣バトルはある種(白兵を好む)の暁の人間としては一番燃える瞬間であり、己の欲求を解放する為に必要な行為なのかもしれない。故にここでガス抜きすることで、生徒たちは健全な学生生活を送ることが出来るんじゃないかと思ったりする。
実際、町中にもこういう武道場が各所に設けられ、囲碁クラブや雀荘よろしくフリーバトルが行われている。設備はいいし、ギャラリーが付くので人気があり、以前頻発していたストリートファイトはあんまり見かけなくなったそうだ。
オレの今日の乱取りは2回関節技を決められ、3回蹴り倒した。剣だから寝技には弱いちゅーの!
お互いの顔に絆創膏を貼りながら、次は見てろよ!などと笑い合う。
クールダウンのストレッチをしているところで、チャイムが鳴る。オレの後ろを女の子たちが慌ただしくシャワールームに駆け込んでいった。


□12:00 給食~昼休み

待ってましたー!!武術の後だからもう死にそう腹ぺこ。
今日のメニューは……すげー!カレーライスだ!洋食だ!しかもご飯おかわり自由ときたもんだ!(ルーと青野菜は限定だけどな!)
ハードな武術訓練の後だから、餓えた野郎どもが皿にてんこもりのご飯をよそって、凄い勢いでかき込む。あ、バカ、ちゃんと配分考えないと最後は白飯のみになっちまうぜー!とか言い合いながらガツガツとかき込む。
最後は牛乳一気飲み。冷たくて美味い!
皆が食い終わったところで誰の号令もなく一斉に校庭に出る。給食の後は昼休みだ。早く食べ終わればその分休み時間も長いってわけだ!
最近の流行はクラスの全員で馬乗り!初めは教室の脇で男子数人(オレも含む)でやってたんだが、オレもアタシも!なノリになり、とうとう教室じゃ手狭になったので校庭を使いはじめた。出席番号の奇数偶数に別れて紅白戦だ。
昨日はオレの白組は負けた。今日は絶対勝つ!
クラス全員だから、馬もソコ長い。壁側に華奢な女子を集めて衝撃のかかる端側にでかい男子を固める。ああ、昨日の敗北で悟ったぜ。一番端にでかいやつを置くと“飛ばさせる”ルールがあるため少し中腰にならなきゃいけない。早く決着がつくならいいが、長引くと負担が増え、脆くなるのだ。だから今日は小柄なオレがいっちゃん端になる!
「いくわよーーーーっ!」
先行の赤組の一番手が飛ぶ。元気娘のケリ子だ。長い助走の後、軽やかに地面を蹴る。オレの背中にほんの少しの衝撃があって、少し遅れて、きゅう、と馬の男の声がした。サクタロの声だ。あいつそんなに遠くまで飛んだのかよ!
「ケリ子に続けー!」「おー」
二番手が飛ぶ。サクタロの後ろのコジローが今度はぐふっ!と腹から絞るような声を出した。敵は基本の固め乗りで来るようだ。重さで潰す作戦だが、その分落馬のリスクも大きい。赤組はどんどん飛びを重ねて、7人目になったとき。
オレの背中にズリっとした衝撃が走る。そのとたん、どすんと大きな音がして、7番目のやつが地面に落ちた。
「いってーっ!」
「やった!」「耐えたー!!」
叫びと同時にオレらの山もどっと崩れ、人間のダンゴ状態ができる。その様を拍手や笑い声が取り囲んだ。
「まさきちの背中、ちっちぇーんだよ!手、つきにくくてしょうがねぇ!」
「ちっちゃくって悪いな!へっ、それが作戦ってもんよ!」
「ちょっとサクタロ!さっさと足どけてよー!起きれないじゃないっ」
敵味方もつれたところに手が差し出されて、オレたちは立ち上がる。さーて、次はオレたちの攻めだからな!容赦はしないぜ!
オレたち白組は序盤から重量級を固めた。
飛び馬が安定してるうちに短距離を高く飛び、手前の馬に落下の衝撃をも与える作戦だ。
いっけー!メガトン級曲射砲!
「ぎゃーす!」
赤の馬から悲鳴が上がる。畳み掛けるように次弾がドスンと………!
「むぎゅーーー!」声を合図に馬は雪崩れるように崩れ始める。たった2人で勝利!やった!
「白、きたねーっ!」
「作戦勝ちと言って欲しいなぁ」
「ちっ、次、みてろよなー!」

校庭を歓声が包む。他の組の連中も応援に駆けつけ、あたりはプチ運動会状態。
次第に勝ち負けなんかどーでもよくなって、飛び入り参加の先生も現れて大騒ぎになっていた。
予鈴のチャイムが鳴る頃にはオレたちはみんな泥だらけだった。

  *  *  *

午後は歌の稽古だ。
これは最近始まった授業。午後の眠くなるタイムにナイスな時間割。
専門で「音楽歌唱科」はあるが、オレたちのような白兵科にも設けられている授業だ。暁にとって歌は戦意を鼓舞させる大事なエッセンスだ。戦場で唄士の歌に合わせ、オレら白兵部隊も歌う。歌うことにより士気は向上し、力となる。
先生の伴奏に合わせて声を出す。あーあーあーあーあーっ。
最初はかったるい授業だなぁと思ったけども、受けているうちにいろいろ気づくことがいっぱいあった。
まずは声の出し方から。
武術でも声を出すが、歌の呼吸法は違う。腹からの息を声帯を震わせながら長く強弱を付けながら出してゆく。声が楽器になるのは面白い。それが沢山重なって美しい調べになると感動すらする。
歌は、すばらしい。肉体が持つ管楽器なんだろう。
オレはまだまだヘタクソだけど、もっと歌、上手くなりたいなぁ。



□14:00 放課後~農作業の手伝い

下校。
部活はあるけども、オレはどこにも入部していないいわゆる“帰宅部”だ。
そのかわり、やることはある。
オレの足は帰路から少し外れて少し郊外へと向かう。視界に広がる緑の田んぼや畑。
そう、オレはここの農作業を手伝ってるのだ。
「ばっちゃー来たぜー!」
「遅いッ!走ってこんかっ!」
散田のばーちゃんは齢70を越えた元気婆ぁの見本みたいな人だ。
ばーちゃんは古いけど(失礼)この田畑は新しく、実は最近開墾されたものだ。斉藤ガリレオンとゆー偉い人が暁の土壌を農作物に適したものに云々……だとか。学校でならった受け売りだけど。まぁこれで他所の国から買わなきゃいけなかった米なんかの食料をこの人の研究のおかげで自国でも生産できるようになった。
みなぎる体力を農作業に向けるのも悪くないってことで、農業従事者の数は増えてきている。
実際、実りの季節になると、積み重ねた作業の集大成が黄金の絨毯になって帰ってくるんだから、達成感もひとしお。
田植えを追えたばかりの稲は、か細いひもを束ねたくらいの草でしかない。これがどんどん成長して茶碗の中の白いご飯を生み出すなんて、オレは田んぼを見るまで知らなかった。
足を取られないように畔を歩きながら、オレは雑草を抜いたり鍬で壊れそうな畔の補修をしてまわる。これから迎える夏は除草と水管理がキモとなるらしい。重労働ではないが、根気のいる作業だ。
あたりをうっすら薄暮の気配が包み始める頃、ばーちゃんが「そろそろあがるぞー」と声を掛けてくれた。
「お疲れっす」タオルで汗を拭きながらばーちゃんに挨拶すると、ばーちゃんはにこりともせずに言う。
「あっちの大八車に俵積んどるの見えるか?あれもってけ」
「は?」
「もってけ。去年の米だ、ウチの残りもんじゃ」
「多すぎるだろ!つか、米俵っすか!」
「運ぶのも作業のウチじゃ。手伝う言うたろうが」
や、米を貰えるのは嬉しいがっ!俵ごとかよ。オレのそんな表情を見切ったのか、ばーちゃんが叱咤の声を上げる。
「剣が泣き言言うな!なさけなかッ!」
「……へい」
オレは60kgの、オレの身体では抱えるのに一苦労しそうな形状の米俵を背負って家に帰ることになった。
よろよろと歩くオレ後ろでばーちゃんのカラカラと笑う声がする。
「明日もたのむでな」
「………おう」
ばーちゃんが楽しそうなので、まぁいいか、と思う。
家への三叉路にさしかかった頃、オレはばーちゃんにお礼をいい損ねたことに気づいた。
うん、明日言おう。



□19:00 帰宅~晩ご飯。

家の窓にはもうあかりが灯っていた。
ドアを開けると、椿姐ちゃんが友達を数人つれて来ている。
「おかえり」って微笑む椿姐ちゃん。いつものことだ。ありがとう。
「さっき散田のばーちゃんからたんまりお米貰ってきたんだぜ。チャーハン、食う?」
「ええ、いただくわ、まさきちちゃん」
姐ちゃんの友達もにっこり笑いながら頷く。よーし、オレはりきっちゃうよ!
チャーハンを作る。沢山作る。もりもり作る。
鉄鍋は鍛えた腕で軽々と振れる。宙をぱらりと飯が舞う。
ランプの灯りにきらきらと輝く黄金の米粒が、頃合いでお玉の丸い形に整えられ、皿に乗る。
「おまたせっ!まさきち特製チャーハンだぜ!」
「わーい、噂のまさきちくんのチャーハン、食べたかったのよぅ」
「いい匂いねー」
姐ちゃんの友達が顔をほころばせながら皿を受け取る。
「美味しいのよ?」
椿姐ちゃんが、ちょっと自慢気な顔をして友達に言った。
「これっきゃ作れねぇけどよー、がはは」
つられて笑う姐ちゃんの友達が、そういえば…と包みを開いてテーブルに置いた。
「みんなで食べようと思って餃子つくってきたのよぅ」
「あら、こっちも美味しそー」
オレは戸棚からポン酢しょうゆとラー油、それから小皿を取り出し、みんなの前に並べる。
餃子は冷めているが、まだ皮はもちもちしてて美味かった。

食事の後はまだまだ楽しい語らいが続いていた。オレは姐ちゃんの友達にさんざんオモチャにされる。
「ちっこくって、かわいいよねー。ウチにもほしいよぅ」
「チャーハン以外の料理作れたら攫っていっちゃおうかなー?」
……この人たち、オレを何だと思ってるんだッ!
とことん子供扱い………??くそー。オレ、虎は倒してないけど、なり○こないとかガンガン倒してるんだぜ?
「まさきちちゃんは椿さんじゃなきゃ嫌なのよねぇ?」
「椿ちゃん、美人だもんねーいいないいなー、こいつぅ!」
オレは真っ赤になって、頭をなでなでしようとするお姉さんがたの攻撃をじたばたとかわす。
あーでも悪い気は全然しないんだぜ?
なんでだろうな。
「ち、ちげーよッ!オレはさぁ!」
暴れながら椿姐ちゃんの大きな口を開けて笑う顔にちらりと目をやり、そして視線を外す。

どうしよう、オレ、こんなんでも凄く楽しいんだぜ…………

  *   *   *

友達が帰った後、オレと椿姐ちゃんは一緒に後片付け。
「あ」
お皿を集めてると、椿姐ちゃんが小さな声を出した。
「洗濯物、出しといてね?部屋に溜め込んでるでしょう」
「あーえっと……いいよ、休みの日にまとめてやるから!」
「一緒に洗った方が水も節約になるでしょ?」
椿姐ちゃんはさすがに女の人だから毎日洗濯しないと気が済まないらしい。オレは学校行きはじめてから週イチ?
「オレのは泥だらけなんだぜ…一緒に洗ったら汚れ移っちゃうかもよ?」
「そんなの、知ってるわよ」
椿姐ちゃんはうふふ、と笑う。
「泥だらけなのは、がんばって稽古したり畑仕事手伝った証でしょ?それに…」
それだけじゃないんだよなーと、オレは通学途中や休み時間のことを思い浮かべ、苦笑。
「私の服だって泥だらけだから大丈夫」
オレの頭に、ぽん、と撫でるような叩くような強さで椿姐ちゃんの手が触れる。優しくて強い手。
そしてにっこりと何とも言えない笑顔を見せる。
「…それに、心配しなくても、ちゃんと下着は別に洗うわよ?」
「あーー……」
オレが赤面するのを見越してか、椿姐ちゃんはまとめた食器を流しの方へと運んでいった。
その後ろ姿を見送りながら、オレは剣としてわが王に頭を下げる。
そう、剣はきっと王に敵わないのだ……!
洗濯物を王にさせちまうってのもアレだけども、今はとりあえず王の配慮に感謝しよう!
……いや、違うな。
オレはテーブルを拭きながら楽しそうに食器を洗う長い黒髪を見上げる。
そして
王としての時雨野椿ではなく、オレの姉さんとしての椿姐ちゃんに、もう一度頭を下げた。

※剣と王は一緒に生活しています。(われは剣王っ!!参照)



□10:00 就寝

暁の極上の太陽の下で干したふっかふかの布団にくるまって、オレは深い眠りにつく。
一日中身体を動かした心地よい疲れが、一瞬にしてオレを夢の世界に落とし込む。
目覚ましなんかいらない。
疲れが取れたと思ったら、身体は勝手に目を覚ますから。
(たまに椿姐ちゃんに起こしてもらうけどな……)




オレの国には何もない。TVもゲーセンも、ネカフェも。
巷では暁は鬼の国とか言われてるらしい……けど、鬼も生きている、生活してる。
そう、戦うときには鬼だ。だけどそれだけじゃ生きていけないことを、ここで生きてるオレたちは知っている。

明日も、いい一日でありますように。



追記
冒頭の子供扱いされない、というのは間違いじゃないの?と思った人!
………正解です。
って、今日がたまたまそういう日だったの!
………そう言うことにしておいてください。